説明

光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタンーボラン誘導体及びその製造方法

【課題】触媒的不斉合成反応の不斉触媒として用いた場合に、高い選択性や触媒活性を示す配位子を提供する。
【解決手段】下式の光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体。(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボランをブロモ化し、アルキニルリチウムを作用させ、更に脱プロトン化及び酸化的カップリングを行い得られる。脱ボラン化により脱保護することで、光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタンーボラン誘導体及びその製造方法に関する。このビス(アルキニルホスフィノ)エタンーボラン誘導体から得られるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体は、不斉合成反応に用いられる金属錯体の不斉触媒の配位子として有用である。
【背景技術】
【0002】
農薬や医薬品を始めとする光学活性な化合物の製造方法として、触媒的不斉合成が知られている。光学活性な触媒(以後、不斉触媒という)を用いて行う触媒的不斉合成反応は、ごく少量の不斉触媒を用いて大量の光学活性化合物を合成することができるため、工業的な利用価値が高い。有用な不斉触媒及びこれを構成する不斉配位子の一つとして、下記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタン及びこのロジウム錯体が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【化5】

【0004】
また、特許文献1に記載の化合物と骨格が一部異なるが、類似の構造を有する下記一般式(6)で表される化合物及びそれを脱ボラン化した化合物も知られている(特許文献2及び非特許文献1参照)。
【0005】
【化6】

【0006】
上述の化合物を含め、不斉触媒としての性能を一層高めるために、これまでに膨大な数の光学活性ジホスフィン配位子が開発されてきた。しかし対象とする基質によっては選択性や触媒活性等の面で更に改良の余地がある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−136193号公報
【特許文献2】特開平11−80179号公報
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., Vol.128, No.29, 2006, p.9336-9337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来の光学活性ジホスフィン配位子よりも各種の性能が更に向上した化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体を提供するものである。
【0010】
【化7】

【0011】
また本発明は、前記のビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(2)で表されるt−ブチルメチルホスフィン−ボランをブロモ化して下記一般式(3)で表されるt−ブチルメチルブロモホスフィン−ボランを得;
これにアルキニルリチウムを作用させて、立体配置が反転した下記一般式(4)で表される化合物を得;
一般式(4)で表される化合物を脱プロトン化した後に酸化的カップリングを行う;工程を有する光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0012】
【化8】

【0013】
【化9】

【0014】
【化10】

【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物から得られる光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体は、これを触媒的不斉合成反応の不斉触媒の配位子として用いた場合に、該不斉触媒が高い選択性や触媒活性を示すものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般式(1)で表される本発明の化合物は、常法によりこれを脱ボラン化によって脱保護することで、下記一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体となる。
【0017】
【化11】

【0018】
式中、R1及びR2で表されるアルキル基は、置換されているか、又は置換されていないものである。またR1及びR2で表されるアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のものである。R1及びR2で表されるアルキル基の炭素数は1〜18、特に1〜8であることが好ましい。R1及びR2で表されるアルキル基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、s−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、s−ヘキシル基、n−ヘプチル基、s−ヘプチル基、n−オクチル基、s−オクチル基、t−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、シクロへキシル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基、及びそれらをトリメチルシリル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲノ基等の官能基で置換した基が挙げられる。
【0019】
1及びR2で表されるフェニル基は、置換されているか、又は置換されていないものである。フェニル基の水素を置換する基としては、上述した各種の官能基が挙げられる。
【0020】
1及びR2で表されるアルキルシリル基はRabcSi−で表される。この式中、Ra、Rb、Rcは同一の又は異なるアルキル基であり、特にRa、Rb、Rcはすべて同一のものであることが好ましい。このアルキル基は置換されているか、又は置換されていないものである。またRa、Rb、Rcで表されるアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のものである。Ra、Rb、Rcで表されるアルキル基の炭素数は、1〜8、特に1〜3であることが好ましい。
【0021】
1とR2は同一でもよく、或いは異なっていてもよいが、同一であることが、合成が容易である点から好ましい。
【0022】
3としては嵩高な基が用いられ、具体的には分岐鎖アルキル基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基が用いられる。分岐鎖アルキル基としては、炭素数3〜20、特に3〜8のものが挙げられる。分岐鎖アルキル基の具体例としては、イソプロピル基、t−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜20のものが挙げられる。その具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基などが挙げられる。
【0023】
一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体におけるアルキニル基は、上述の特許文献2に記載の化合物におけるメチル基に比較すると、全体では嵩高いものであるが、炭素のsp混成軌道による結合の直線性に由来して、炭素−炭素間の三重結合の部位が細く、当該部位に関してはメチル基よりも嵩が小さいと考えられる。また、アルキニル基は電子吸引性の基であることから、一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体においては、リン原子の電子密度が低下している。この電子密度の低下に起因して、一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体は、上述の特許文献2に記載の化合物とは異なる特徴的な触媒活性を有する。しかも、一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体におけるアルキニル基は、触媒的不斉合成反応において、中心金属元素や基質分子に対してアルキンとして振る舞い、相互作用を起こすと考えられる。このような特徴的な作用は、特許文献2に記載の化合物では起こり得ない。
【0024】
本発明においては、前記の式中、R1及びR2が同一で、それらがフェニル基、t−ブチル基、メチル基、トリイソプロピルシリル基、水素原子であることが特に好ましい。R3に関しては、t−ブチル基、アダマンチル基であることが特に好ましい。そして、これらのR1及びR2とR3とを適宜組み合わせてなる化合物が特に好ましい。
【0025】
次に、一般式(1)で表される化合物の好ましい製造方法について説明する。出発物質としては、前記の一般式(2)で表される(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボランを用いる。この化合物は公知の方法を用いて製造することができる。そのような製造方法は、例えば特開2003−300988号公報、J. Org. Chem., Vol.65, No.13, p4185〜4188(2000)、J. Org. Chem., Vol.65, No.6, p1877〜1880(2000)に記載されている。
【0026】
一般式(2)で表される化合物をブロモ化することで、前記の一般式(3)で表されるt−ブチルメチルブロモホスフィン−ボランが得られる。ブロモ化の手順は次のとおりである。先ず、一般式(2)で表される化合物をリチオ化する。リチオ化には例えばn−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが用いられる。リチオ化は好ましくは−80〜−70℃の低温下に行われる。リチオ化の次にブロモ化を行う。ブロモ化には例えばジブロモエタン等のアルキル臭化物が用いられる。このときに用いられる溶媒としては、例えばジエチルエーテルが挙げられる。
【0027】
このようにして得られたt−ブチルメチルブロモホスフィン−ボランに対してin situでアルキニルリチウムを作用させる。これによって臭素とアルキニル基とを置換する。これによって前記の一般式(4)で表される化合物が得られる。このときに使用するアルキニルリチウムとしては以下の一般式(8)で表されるものが用いられる。一般式(8)において、Rは前記のR1又はR2を表す。アルキニルリチウムの添加は、一般式(2)で表される化合物から一般式(3)で表される化合物を得る場合と同様に、好ましくは−80〜−70℃の低温下に行われる。次いで反応系を、室温程度まで昇温させる。驚くべきことに、本工程における置換反応は、ほとんど完全な立体配置の反転を伴って生じる。具体的には光学純度(ee)が95%以上という高いものである。光学純度がこのように高いアルケンの置換反応は、本発明者らの知る限り本発明が初めてである。
【0028】
【化12】

【0029】
このようにして得られた一般式(4)で表される化合物は、脱プロトン化及び酸化的カップリングを経て、目的とする化合物である一般式(1)で表される化合物となる。脱プロトン化には、例えばs−ブチルリチウムやt−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが用いられる。脱プロトン化は、窒素雰囲気等の不活性雰囲気下に−80〜−70℃の低温下に行われることが好ましい。脱プロトン化に用いられるアルキルリチウムは、例えばヘキサン等の有機溶媒に溶解した状態で添加される。また、脱プロトン化は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類の共存下に行ってもよい。
【0030】
脱プロトン化に引き続き、in situで酸化的カップリングを行う。酸化的カップリングは常法に従い、例えば塩化銅(II)を用いることで行うことができる。このようにして、一般式(1)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体が得られる。カップリングにおいて、一般式(4)においてRが互いに異なる2種の化合物を用いることで、一般式(1)においてR1とR2とが異なる化合物が得られる。一般式(4)で表される化合物を1種のみ用いてカップリングを行うと、一般式(1)においてR1とR2とが同一の化合物が得られる。なお、一般式(1)においてR1又はR2がHである化合物を得る場合には、先ず、一般式(1)においてR1又はR2がアルキルシリル基である化合物を合成し、次いでこの化合物を脱シリル化することが好ましい。また一般式(1)においてR1又はR2がメチル基である化合物を得る場合には、先ず、一般式(1)においてR1又はR2がアルキルシリル基である化合物を合成し、次いでこの化合物を脱シリル化し、更にメチル化を行うことが好ましい。
【0031】
一般式(1)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体を、不斉触媒の配位子として用いる場合には、該誘導体を脱ボラン化により脱保護すればよい。脱ボラン化は、例えばジエチルアミンやモルフォリンのような第二級アミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)やトリエチルアミンなどの塩基を用いて行うことができる(J. Am. Chem. Soc., 112, p.5244(1990);J. Am. Chem. Soc., 121, p.1090(1999))。また、第三級アミンを過剰に用いて行うこともできる(J. Am. Chem. Soc., 121, p.1090(1999))。更に、テトラフルオロホウ酸やトリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの強酸を用いる方法(Tetrahedron Lett., 35, 9319(1994);J. Organomet. Chem., 621, 120(2001);J. Am. Chem. Soc., 120, p.1635(1998)も知られている。これらの方法に加え、特開2005−97131号公報に記載されている、モレキュラーシーブの存在下、アルコール溶媒中でホスフィンボランからホスフィンを遊離させる方法を用いることもできる。
【0032】
脱ボラン化によって、前記の一般式(7)で表されるビス(アルキニルホスフィノ)エタン誘導体が得られる。この化合物を、ロジウムや銅等の金属に配位させることで不斉触媒が得られる。一般式(7)で表される化合物から不斉触媒を得るには、例えば実験化学講座 第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行)第18巻、第327〜353頁に記載されている方法を採用することができる。例えばロジウム錯体を得るには、一般式(7)で表される化合物を[RhX(diene)2]と反応させればよい。ここで、Xはハロゲン、BF4-、PF6-、ClO4-などを表し、dieneは1,5−シクロオクタジエンやビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2,5−ジエンなどの二座配位化合物である。このロジウム錯体における一般式(7)で表される化合物とロジウムのモル比は好ましくは1〜2:1である。
【0033】
このようにして得られた不斉触媒は、例えば不飽和カルボン酸の不斉水素化による光学活性な飽和カルボン酸又はそのエステルの製造や、プロキラルなケトンの不斉ヒドロシリル化による光学活性な第二級アルコールの製造を始めとして、種々の不斉合成に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。特に断らない限り「部」は「重量部」を意味する。
【0035】
すべての使用溶媒は標準的な手順により乾燥し精製した。NMRスペクトルはJEOL JMN−GXS−500(500MHz)又はJEOR JMN−LA−400(400MHz)測定器を用い、重クロロホルム溶媒で測定した。化学シフトはδppmで記述した。旋光度はJASCO DIP−370旋光計で測定した。光学純度(ee)はChiralcel AD、OJ−H、OD−H、OB、IAカラムを使用したHPLCで測定した。移動相としては2−プロパノール/ヘキサン系の混合溶媒を使用した。X線結晶構造データはBruker SMART APEX II X線回折機を使いMo−Kα線にて測定した。カラムクロマトグラフィーの際にはシリカゲル(Kanto Chemical、Silica Gel 60N for flash chromatography)を使用した。
【0036】
〔実施例1〕
〔1−1〕(S)−t−ブチルメチル(フェニルエチニル)ホスフィン−ボラン(4a)の合成
【化13】

【0037】
(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボラン(>99%ee、1.8g、15.4mmol)をジエチルエーテル60mLに溶かし、−78℃で窒素雰囲気下、n−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(1.60M、11.6mL、18.5mmol)を加え、反応混合物を15分撹拌熟成した。続いて1,2−ジブロモエタン(2.0mL、23.1mmol)を滴下して加え、反応混合物を同温度で撹拌熟成した。その結果、(R)−ブロモ−t−ブチルメチルホスフィン−ボランを得た。この化合物は単離せず、反応液のまま次の工程へ進んだ。
【0038】
2時間後、−78℃にて反応液にリチウムフェニルアセチリド(30.8mmol)−ジエチルエーテル30mL溶液を加え、室温まで加温し、1時間30分撹拌熟成した。反応後、1M塩酸でクエンチした。反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、有機層合わせ、飽和重曹水、次いで飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)にて精製し、表題化合物4aを白色固体として得た(97%ee、収量2.8g、12.8mmol、収率83%)。
【0039】
1H NMR(500 MHz, CDCl3) δ 0.42-0.98 (m, 4H), 1.29 (d, J = 15.6 Hz, 9H), 1.51 (d, J = 10.0 Hz, 3H), 7.33-7.37 (m, 2H), 7.41 (tt, J = 15.3, 1.7 Hz, 1H), 7.50-7.52 (m, 2H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 8.37 (d, J = 40 Hz), 24.96 (d, J = 4 Hz), 29.03 (d, J = 37 Hz), 79.42 (d, J = 90 Hz), 106.00 (d, J = 12 Hz), 120.77, 128.42, 130.01, 132.20.
31P NMR(162 MHz, CDCl3) δ 17.95 (q, J = 62Hz).
[α]22D 0.97 (c 1.00, CHCl3).
HPLC: Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH=199/1, Flow rate=0.5 ml/min, UV=254 nm, tR=11.9 min (R), tR=13.1 min (S).
【0040】
〔1−2〕(S,S)−1,2−ビス(ボラナト(t−ブチル)フェニルエチニルホスフィノ)エタン(1a)の合成
【化14】

【0041】
4a(94%ee、0.95g、4.4mmol)及びN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(0.8mL、5.2mmol)を乾燥ジエチルエーテル13mLに溶かし、−78℃で窒素雰囲気下、s−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(1.0M、5.2mL、5.2mmol)を加えた。反応混合物を同温度で1時間、次いで−50℃で10分撹拌熟成した。塩化銅(II)(1.5g、11.0mmol)を強烈な撹拌のもとに加え、反応混合物を室温までゆっくり加温した。2時間後、反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした。反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、有機層合わせ、飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、表題化合物1aを白色固体として得た(>99%ee、収量0.69g、1.6mmol、収率73%)。
【0042】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.57-0.80 (m, 6H), 1.33 (d, J = 15.6 Hz, 18H), 2.13-2.28 (m, 4H), 7.29-7.32 (m, 4H), 7.41 (tt, J = 15.0 Hz, 2.5 Hz, 2H), 7.46-7.47 (m, 4H). 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 17.01 (d, J = 34 Hz), 25.30 (t, J = 3 Hz), 30.11 (d, J = 36 Hz), 77.88 (d, J = 88 Hz), 107.38 (t, J = 12 Hz), 120.39 (t, J = 3 Hz), 128.48, 130.22, 132.24.
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 29.62 (d, J = 15 Hz).
[α]22D 111.1 (c 1.00, CHCl3).
【0043】
〔1−3〕(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)フェニルエチニルホスフィノ)エタン(7a)の合成
【化15】

【0044】
1a(36mg、0.084mmol)及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(56mg、0.51mmol)をTHF(0.5mL)に溶かした溶液を窒素雰囲気下60℃で1時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、窒素下においてフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジエチルエーテル)にて精製して表題化合物7aを得た(>99%ee、収量32mg、0.079mmol、収率94%)。
【0045】
〔実施例2〕
〔2−1〕(S)−t−ブチル(t−ブチルエチニル)メチルホスフィン−ボラン(4b)の合成
【化16】

【0046】
実施例1で用いたリチウムフェニルアセチリドに代えて リチウムt−ブチルアセチリドを使用した他は実施例1と同様に行い、表題化合物4bを得た(97%ee、収量0.57g、2.9mmol、収率82%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.23-0.89 (m, 3H), 1.21 (d, J = 15.1 Hz, 9H), 1.27 (s, 9H), 1.38 (d, J = 10.0 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 0, 8.54 (d, J = 40 Hz), 24.77 (d, J = 3 Hz), 28.62 (d, J = 35 Hz), 30.20 (d, J = 2 Hz), 68.70 (d, J = 95), 116.79 (d, J = 10 Hz).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 15.71 (q, J = 65 Hz).
HPLC: Daicel Chiralpak IA, Hexane/i-PrOH=1000/1, Flow rate=0.5 ml/min, UV=230 nm, tR=13.7 min (R), tR=15.3 min (S).
【0047】
〔2−2〕(S,S)−1,2−ビス(ボラナト(t−ブチル)(t−ブチルエチニル)ホスフィノ)エタン(1b)の合成
【化17】

【0048】
得られた4bを実施例1と同様に反応させ、表題化合物1bを得た(>99%ee、収量61mg、0.15 mmol、収率73%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.22-0.87 (m, 6H), 1.21-1.25 (d, J = 15.1 Hz, 18H), 1.27 (s, 18H), 1.98 (m, 4H).
【0049】
〔2−3〕(S,S)−1,2−ビス(t−ブチル(t−ブチルエチニル)ホスフィノ)エタン(7b)の合成
【化18】

【0050】
得られた1bを実施例1と同様に反応させ、表題化合物7bを得た(>99%ee、収量28mg、0.075 mmol、収率94%)。
【0051】
〔実施例3〕
〔3−1〕(S)−t−ブチルメチル(トリイソプロピルシリルエチニル)ホスフィン−ボラン(4c)の合成
【化19】

【0052】
実施例1で用いたリチウムフェニルアセチリドに代えて、リチウムトリイソプロピルシリルアセチリドを使用した他は実施例1と同様に行い、表題化合物4cを得た(98%ee、収量1.4g、4.8mmol、収率86%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.27-0.73 (m, 3H), 1.09-1.10 (m, 21H), 1.24 (d, J = 15.4 Hz, 9H), 1.43 (d, J = 10.2 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 8.45 (d, J = 40 Hz), 10.90, 18.43, 24.82 (d, J = 3 Hz), 28.62 (d, J = 38 Hz), 98.26 (d, J = 77 Hz), 113.26 (d, J = 3 Hz).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 17.48 (q, J = 63 Hz).
HPLC: Daicel Chiralpak IA, Hexane/i-PrOH=1000/1, Flow rate=0.5 ml/min, UV=230 nm, tR=11.0 min (R), tR=13.6 min (S).
【0053】
〔3−2〕(S,S)−1,2−ビス(ボラナト(t−ブチル)トリイソプロピルシリルエチニルホスフィノ)エタン(1c)の合成
【化20】

【0054】
得られた4cを実施例1と同様に反応させ、表題化合物1cを得た(>99%ee、収量1.1g、1.9 mmol、収率78%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.50-0.70 (m, 6H), 1.06-1.14 (m, 42H), 1.27 (d, J = 15.3 Hz, 18H), 1.99-2.11(m, 4H).
【0055】
〔3−3〕(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)トリイソプロピルシリルエチニルホスフィノ)エタン(7c)の合成
【化21】

【0056】
得られた1cを実施例1と同様に反応させた結果、表題化合物7cを得た(>99%ee、収量44mg、0.079mmol、収率96%)。
【0057】
〔実施例4〕
〔4−1〕(S,S)−1,2−ビス(ボラナト(t−ブチル)エチニルホスフィノ)エタン(1d)の合成
【化22】

【0058】
テトラブチルアンモニウムフルオリド−THF溶液(1.0M、0.4mL、0.4mmol)を1c(60mg、0.1mmol)に加え、反応混合物を室温で6時間撹拌熟成した。反応後、水でクエンチした。反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、有機層合わせ、飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製し、表題化合物1dを白色固体として得た(>99%ee、収量15mg、0.052mmol、収率52%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.24-0.90 (m, 6H), 1.29 (d, J = 15.7 Hz, 18H), 2.00-2.12 (m, 4H), 3.06 (d, J = 7.4 Hz, 2H).
【0059】
〔4−2〕(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)エチニルホスフィノ)エタン(7d)の合成
【化23】

【0060】
得られた1dを実施例1と同様に反応させ、表題化合物7dを得た(>99%ee、収量19mg、0.076mmol、収率94%)。
【0061】
〔実施例5〕
〔5−1〕(S)−t−ブチルメチル(トリメチルシリルエチニル)ホスフィン−ボラン(X−1)の合成
【化24】

【0062】
実施例1で用いたリチウムフェニルアセチリドに代えて、リチウムトリメチルシリルアセチリドを使用した他は実施例1と同様に行い、表題化合物X−1を得た(99%ee、収量0.92g、4.3mmol、収率81%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.22 (s, 3H), 1.23 (d, J = 15.4 Hz, 9H), 1.42 (d, J = 10.2 Hz, 3H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 0, 8.92 (d, J = 40 Hz), 25.45 (d, J = 4 Hz), 29.28 (d, J = 38 Hz), 96.79 (d, J = 77 Hz), 116.66 (d, J = 3 Hz).
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 17.12 (q, J = 60 Hz).
[α]22D -1.59 (c 1.00, CHCl3).
HPLC: Daicel Chiralcel OJ-H, Hexane/i-PrOH=99/1, Flow rate=0.5 ml/min, UV=230 nm, tR=8.8 min (R), tR=9.7 min (S).
【0063】
〔5−2〕(S)−t−ブチル(エチニル)メチルホスフィン−ボラン(X−2)の合成
【化25】

【0064】
実施例4で用いた1cに代えて、X−1を使用した他は実施例4と同様に行い、表題化合物X−2を得た(99%ee、収量1.2g、8.6mmol、収率94%)。
【0065】
〔5−3〕(S)−t−ブチル(1−プロピニル)メチルホスフィン−ボラン(X−3)の合成
【化26】

【0066】
得られたX−2(99%ee、71mg、0.5mmol)を乾燥THF1.0mLに溶かした。次いでn−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(1.6M、0.38mL、0.6mmol)を−78℃、窒素雰囲気下にて添加し、同温度で5分撹拌した。更によう化メチル(0.16 ml、2.5mmol)を滴下して加え、反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応後、水でクエンチした。反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、有機層合わせ、飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、表題化合物X−3を白色固体として得た(99%ee、収量76mg、0.49mmol、収率97%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.25-0.89 (m, 3H), 1.22 (d, J = 15.4 Hz, 9H), 1.40 (d, J = 9.9 Hz, 3H), 2.02 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
【0067】
〔5−4〕(S,S)−1,2−ビス(ボラナト(t−ブチル)(1−プロピニル)ホスフィノ)エタン(1e)の合成
【化27】

【0068】
得られた化合物X−3(65mg、0.42 mmol)を乾燥ジエチルエーテル1.3mLに溶かした溶液に、s−ブチルリチウム−ヘキサン溶液(1.0M、0.46mL、0.46 mmol)を−78℃、窒素雰囲気下で加え、同温度で1時間撹拌熟成した。塩化銅(II)(140mg、1.0mmol)を強烈な撹拌のもとに加え、反応混合物を室温までゆっくり加温した。2時間後、反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした。反応混合物を酢酸エチルで3回抽出し、有機層合わせ、飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、表題化合物1eを白色固体として得た(>99%ee、収量20.0mg、0.063mmol、収率30%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.25-0.88 (m, 3H), 1.23 (d, J = 15.4 Hz, 18H), 1.42 (d, J = 9.8 Hz, 6H), 2.63 (s, 6H).
【0069】
〔5−5〕(S,S)−1,2−ビス(t−ブチル(1−プロピニル)ホスフィノ)エタン(7e)の合成
【化28】

【0070】
得られた1eを実施例1と同様に反応させ、表題化合物7eを得た(>99%ee、収量24mg、0.083 mmol、収率98%)。
【0071】
〔実施例6〕ロジウム触媒を使用した有機ボロン酸のエノンへの1,4−不斉付加
[Rh(nbd)2]BF4(1.9mg、5.0μmol)及び(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)フェニルエチニルホスフィノ)エタン7a(7.5μmol)をジオキサン(1mL)に溶かした溶液を、窒素雰囲気下、40℃で15分撹拌した。反応混合物に1.5MのKOH水溶液(0.1mL、0.15mmol)を添加し、反応液を15分撹拌した。アリルボロン酸(1.0mmol)及びα,β−不飽和カルボニル化合物(0.50mmol)を反応液に添加し、40℃で2時間撹拌熟成した。反応混合物を飽和重曹水溶液でクエンチした。反応混合物をジエチルエーテルで5回抽出し、有機層合わせ、飽和食塩水で分液洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を減圧濃縮し、濃縮残留物をシリカゲル分取TLC(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)にて精製した。また、配位子として7aに代えて、7b、7c及び7eを用いて同様の反応を行った。これらの結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
〔実施例7〕ロジウム触媒を使用した不斉水素付加
50mLの水素化用容器[オートクレーブ]に0.5mmolの基質を装填した。容器はステンレス管を経由して水素ボンベにつないだ。容器内は真空とした後に、1atmの水素ガスで満たした(日本酸素、99.9999%)。[Rh(nbd)2]BF4(1.9mg、5.0μmol)及び(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)フェニルエチニルホスフィノ)エタン7a(7.5μmol)を脱気したMeOH(1mL)に溶かした溶液を、シリンジを経由して容器に添加し、次いで水素圧を3atmまで上昇させた。反応混合物を濃縮し、残留物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーにて溶離液として酢酸エチルを用いて精製した。また、配位子として7aに代えて、7b、7c、7d及び7eを用いて同様の反応を行った。これらの結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
〔実施例8〕 オキサベンゾノルボルナジエン誘導体のアルキル化を伴う開環
PdCl2(cod)(1.1mg、4.0μmol)及び(S,S)−1,2−ビス((t−ブチル)エチニルホスフィノ)エタン7d(6μmol)をCH2Cl2(1mL)に溶かした溶液を、窒素雰囲気下、40℃で15分撹拌した。この溶液に、オキサベンゾノルボルナジエン(58mg、0.4 mmol)をCH2Cl2(3mL)に溶かした溶液を添加した。続いてジメチル亜鉛1.0Mヘキサン溶液(0.6ml、0.6mmol)を添加した。反応が完結するまで室温で溶液を撹拌熟成した。反応後、数滴の水の添加によりクエンチし、反応混合物をセライトの短いカラムに通した後に濃縮した。残留物を分取TLC(ヘキサン/酢酸エチル)にて精製した。また、配位子として7dに代えて、7a、7b、7c及び7eを用いて同様の反応を行った。これらの結果を表3に示す。
【0076】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体。
【化1】

【請求項2】
一般式(1)においてR1とR2とが同一であり、それらがメチル基、t−ブチル基、フェニル基、トリイソプロピルシリル基又は水素原子である請求項1記載の誘導体。
【請求項3】
一般式(1)においてR3がt−ブチル基である請求項1又は2記載の誘導体。
【請求項4】
請求項1記載の光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(2)で表されるt−ブチルメチルホスフィン−ボランをブロモ化して下記一般式(3)で表されるt−ブチルメチルブロモホスフィン−ボランを得;
これにアルキニルリチウムを作用させて、立体配置が反転した下記一般式(4)で表される化合物を得;
一般式(4)で表される化合物を脱プロトン化した後に酸化的カップリングを行う;工程を有する光学活性なビス(アルキニルホスフィノ)エタン−ボラン誘導体の製造方法。
【化2】

【化3】

【化4】


【公開番号】特開2008−222602(P2008−222602A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60784(P2007−60784)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】