説明

光学活性なブチルアミン

【課題】 医薬として有用なカルバモイル誘導体(特公平8−22849号公報)の製造用中間体などに有用な(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 (R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン又はその塩、及び(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンの製造方法であって、下記の工程:(1)(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を酸クロリドに変換した後にアンモニアと反応させて(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを製造する工程、及び(2)上記工程により得られた(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを還元する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性なブチルアミン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンは各種の有機化合物の製造用の中間体として、とりわけ医薬の有効成分として有用なカルバモイル誘導体(特公平8−22849号公報)の製造用中間体として有用であることが期待される。すなわち、この化合物をカルバモイル基に変換することにより、このカルバモイル誘導体のなかでも特に好ましい(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルカルバモイル基を有する化合物を製造できることが期待される(同公報[0005]段落、及び[0014]段落など)。もっとも、この光学活性な物質については、国際公開WO2005/005648にその存在が示されているものの(同国際公開第5頁の式(V)の化合物)、その化合物の製造方法及び物理化学的な性状はこの刊行物には記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、カルバモイル誘導体(特公平8−22849号公報)の製造用中間体などに有用な(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を原料として用い、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを経由することにより、極めて高い光学純度を有する(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンを簡便かつ高収率で製造できることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明により、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくはそれらの溶媒和物が提供される。本発明の好ましい態様により、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン又は(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン塩酸塩が提供される。
【0006】
別の観点からは、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンの製造方法であって、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を酸クロリドに変換した後にアンモニアと反応させて(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを製造する工程、及び上記工程により得られた(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを還元する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物は各種の有機化合物の製造用の中間体として、例えば医薬の有効成分として有用なカルバモイル誘導体(特公平8−22849号公報)の製造用中間体として有用である。特に、上記カルバモイル誘導体のなかでも特に好ましい(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルカルバモイル基を有する化合物の製造に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンの塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などの有機酸塩などを挙げることができるが、塩酸塩が好ましい。本発明の(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、水和物又は溶媒和物も本発明の範囲に包含される。溶媒和物を形成可能な溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどを挙げることができる。
【0009】
本発明の(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンは、例えば、国際公開WO2005/5648に記載された(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を原料として用い、この化合物を酸クロリドに変換した後にアンモニアと反応させて(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドに変換し、さらに上記のアミド化合物を還元することにより容易に製造することができる。
【0010】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を酸クロリドに変換する方法は特に限定されず、通常用いられる方法により行なうことができるが、例えば、塩化チオニルなどを溶媒の存在下又は非存在下で反応させることにより、一般的にはほぼ定量的に酸クロリドを得ることができる。溶媒を用いる場合、溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが好ましい。反応をN,N−ジメチルホルムアミドの存在下に行なってもよい。反応温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば、室温から溶媒の還流温度で反応を行なうことができ、反応時間は1時間から24時間程度である。好ましくは、反応を溶媒及びN,N−ジメチルホルムアミドの存在下で溶媒の還流下に行なうことができる。得られた酸クロリドは溶液のまま精製することなく次の反応に用いることができるが、必要に応じて、溶媒を一部濃縮したり、溶媒を乾固して精製を行なったり、あるいは精製後の酸クロリドを他の溶媒に溶解するなどの操作を行なってもよい。
【0011】
得られた酸クロリドにアンモニアを作用させることによって(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを得ることができる。この反応は、例えば、上記のようにして得られた酸クロリドを含む溶液をアンモニアを含む溶液に添加することにより行なうことができる。アンモニアを含む溶液としては、例えば、25%アンモニア水溶液とテトラヒドロフランとの混合物などを挙げることができる。反応は、例えば−20℃〜室温の範囲で行なうことができ、好ましくは0℃で行なうことができる。反応時間は、例えば10分〜4時間程度である。
【0012】
上記工程により得られた(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを還元することにより、本発明の(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンを製造することができる。還元方法は特に限定されず、(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドの不斉炭素の立体反転を生じさせないものであれば、いかなる方法を採用してもよい。例えば、ボラン・THF錯体を用いる方法や水素化ホウ素ナトリウムと硫酸とを用いる方法などを例示することができるが、これらに限定されることはない。得られた化合物の光学純度は通常の方法、例えばGC法やHPLC法などにより容易に確認することが可能である。また、塩の製造にあたっては、得られた(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンを適宜の溶媒、例えばトルエンやメタノールなどに溶解しておき、適宜の酸を添加することにより容易に酸付加塩を製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
1H-NMRは日本電子JNMAL-400で測定した。1H-NMRのケミカルシフトは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、相対的なデルタ(δ)値をパーツパーミリオン(ppm)で表した。カップリング定数は自明な多重度をヘルツ(Hz)で示し、s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、m(マルチプレット)、dd(ダブレット オブ タブレッツ)、br s(ブロードシングレット)等と表した。ガスクロマトグラフィー(GC)分析は島津製作所製GC-14A及びGC-14Bを使用した。
【0014】
例1
(1) (R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロ酪酸
WO2005/5648号公報の実施例(1)〜(3)記載の方法に準じて得られた粗生成物72.8 gを用いて減圧蒸留を行い、110〜115℃で留出(減圧度:約15-20 mmHg)したフラクションを採取することにより無色液体として表題化合物66gを得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 2.84 (dt, J = 14.0, 7.2 Hz, 1H), 2.76-2.62 (m, 1H), 2.25-2.11(m, 1H), 1.34 (d, J = 7.2 Hz, 3H).
GCの条件は以下の通りである。
カラム:SUPELCO社製 β-DEX 225 [0.25 mm(内径)×30 m(長さ)、0.25 μm(膜厚)]
カラム温度:110℃
キャリアーガス:He(1.5 mL/min)、split:50/1
注入温度:250℃、検出器温度(FID): 250℃
この結果、得られた表題化合物の光学純度は99.8%ee以上であった。
【0015】
(2) (R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロブチルアミド
窒素雰囲気下、室温にて(R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロ酪酸(5.01 g, 32.09 mmol)の塩化メチレン溶液(33 mL)にN,N−ジメチルホルムアミド (18 μL)及び塩化チオニル (4.00 g, 33.70 mmol)を加えた後、還流下5時間攪拌した。その後、約1/2の溶媒を常圧で留去することにより、相当する酸クロリドを塩化メチレン溶液として得た。粗製の酸クロリドは精製することなく次反応に供した。
【0016】
窒素雰囲気下、25%アンモニア水溶液 (33 mL) 及びテトラヒドロフラン (33 mL) からなる混合物を食塩−氷浴にて内温が−10 ℃ になるまで冷却した。これに上記で得られた酸クロリド溶液を内温が0℃を超えないように滴下した後(約30分を要した)、0℃で更に1時間攪拌させた。得られた反応混合物の溶媒を減圧留去し、残渣を塩化メチレン抽出(3×50 mL)、乾燥(MgSO4)後、溶媒を減圧留去することにより粗生成物を得た。精製は再結晶(テトラヒドロフラン:n-ヘプタン=1:5)により行い、乾燥(室温/1-2 mmHg)後、白色結晶として表題化合物(2.87g)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.63 (br s, 2H), 2.77-2.58 (m, 2H), 2.19-2.06 (m, 1H), 1.30 (d, J = 6.8 Hz, 3H).
GCの条件は以下の通りである。
カラム:SUPELCO社製 β-DEX 225 [0.25 mm(内径)×30 m(長さ)、0.25 μm(膜厚)]
カラム温度:70℃→200℃(昇温速度10℃/分)
キャリアーガス:He(160 kPa)、split:50/1
注入温度:250℃、検出器温度(FID): 250℃
この結果、得られた表題化合物のGC area%は98.7%であり、光学純度は99.5%ee以上であった。
【0017】
(3) (R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロブチルアミン・塩酸塩
方法1(ボラン・THF錯体による還元)
窒素雰囲気下、氷浴にて冷却したボランTHF錯体 (1M THF溶液, 16 mL, 16 mmol)中に、(R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロブチルアミド (500 mg, 3.22 mmol)を少しずつ添加した。 添加終了後、反応混合物を75℃に加熱し、原料が消失するまで攪拌させた(約7時間を要した)。反応混合物は氷冷下、50% THF水溶液(2mL)を滴下し過剰のボランTHF錯体を分解した後、6M水酸化ナトリウム水溶液(9.2 mL)を加えた。得られた混合物は、還流下1時間攪拌させた後、室温に冷却し炭酸カリウム(約3 g)を加え、有機層を分取後、水層を塩化メチレンで抽出(2 × 10 mL)を行った。得られた有機層を混合し、乾燥(K2CO3)後 、無機物を濾去した。得られた濾液に15% HCl−エタノール溶液 (5 mL)を加え、溶媒を減圧留去することにより、白色固体として表題化合物(0.53 g)を得た。
【0018】
方法2(NaBH4/H2SO4による還元)
窒素雰囲気下、水素化ホウ素ナトリウム(366 mg, 9.67 mmol)及び1,2-ジメトキシエタン(10 mL)からなる懸濁液に (R)-2-メチル-4,4,4-トリフルオロブチルアミド (500 mg, 3.22 mmol)を加えた。得られた混合物を60℃に加熱し、これに濃硫酸1,2-ジメトキシエタン溶液(濃硫酸474 mg及び1,2-ジメトキシエタン6 mLから調製)を10分かけて滴下した。添加終了後、70℃に加熱し原料が消失するまで攪拌させた(約7時間を要した)。反応混合物は氷浴にて冷却後、2N-HCl(3 mL)を滴下し過剰のボランTHF錯体を分解し、溶媒を減圧留去した。残渣は水を加えトルエン洗浄(1×5 mL)を行った。得られた水層は、氷冷下6N-NaOH(5 mL)を加えアルカリ性とした後、トルエン抽出(3×5 mL)を行った。有機層を混合し、乾燥(K2CO3) 後、無機物を濾去した。得られた濾液に15%HCl−エタノール溶液 (5 mL)を加え、溶媒を減圧留去することにより、白色固体として表題化合物(0.53 g)を得た。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.23 (br s, 2H), 2.83 (dd, J = 12.8, 6.0 Hz, 1H), 2.70 (dd, J = 12.8, 7.2 Hz, 1H), 2.61-2.48 (m, 1H), 2.29-2.11 (m, 2H), 1.04 (d, J = 6.8 Hz, 3H).
【0019】
表題化合物は無水酢酸を用いる一般的な誘導体化法により前処理を行った後、GC分析を行った。条件は以下の通りである。
条件1(化学純度)
カラム:J&W Scientific社製DB-5 [0.25 mm(内径)×30 m(長さ)、0.25 μm(膜厚)]
カラム温度:70℃→280℃(昇温速度10℃/分), 280℃に到達後同温にて15 min。
キャリアーガス:He (20psi)、split:50/1
注入温度:280℃、検出器温度(FID): 280℃
条件2(光学純度)
カラム:SUPELCO社製 β-DEX 325 [0.25 mm(内径)×30 m(長さ)、0.25 μm(膜厚)]
カラム温度:100℃; 5 min, →150℃(昇温速度2℃/分)。
キャリアーガス:He (1.0 mL/min)、split:30/1
注入温度:150℃、検出器温度(FID): 170℃
この結果、表題化合物のGC area%は99%以上であり、光学純度は99.5%ee以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくはそれらの溶媒和物。
【請求項2】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン。
【請求項3】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミン塩酸塩。
【請求項4】
(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミンの製造方法であって、下記の工程:
(1)(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロ酪酸を酸クロリドに変換した後にアンモニアと反応させて(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを製造する工程、及び
(2)上記工程により得られた(R)−2−メチル−4,4,4−トリフルオロブチルアミドを還元する工程
を含む方法。
【請求項5】
還元をボラン・テトラヒドロフラン錯体により行なう請求項4に記載の方法。
【請求項6】
還元を水素化ホウ素ナトリウム及び硫酸により行なう請求項4に記載の方法。


【公開番号】特開2006−347930(P2006−347930A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174646(P2005−174646)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】