説明

光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステルの製法

【課題】光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステルの製法の提供。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


(2つのアルコキシカルボニル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。Rは炭素数1〜4の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。また、Rはハロゲン原子、窒素原子、酸素原子を有してよい飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
で表される環状α−アミノ酸ジエステルのエステル部位の一方のみを、緩衝液中、カルボキシエステラーゼ(E.C. 3.1.1.1)の存在下、選択的に加水分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や生理活性物質の合成中間体として重要である光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステルの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステルは各種医薬品製造において重要な合成中間体としての利用が見込まれている。従って、環状α−アミノ酸ハーフエステルを高い化学純度かつ高い光学純度で製造する方法の確立が重要な課題である。
これまでに開発がなされている環状α−アミノ酸ハーフエステルの製法としては、例えば豚肝臓由来エステラーゼを用いたcis−N−ベンジル−2,5−ビス(メトキシカルボニル)ピロリジンの触媒的加水分解反応による非対称化がある。これは、選択性向上のためにジメチルスルホキシド(非特許文献1)やアセトン(非特許文献2)を添加したり、あるいはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液を用いる方法(非特許文献3)がとられている。
【0003】
【非特許文献1】KURIHARA M.等著、テトラへドロン レターズ(Tetrahedron Lett.)、26巻、47号、5831−5834頁(1985年)
【非特許文献2】BJOeRKLING F.等著、ジャーナル オブ ザ ケミカル ソサイエティー,ケミカル コミュニケーションズ(J.Chem. Soc., Chem. Commun.)、1041−1042頁(1987年)
【非特許文献3】MATTSON A.等著、バイオオーガニック アンド メディシナル ケミストリー(Bioorg. Med. Chem.)、2巻、6号、501−508頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように有機溶媒を用いる方法は収率および光学純度共に満足いく結果が得られておらず、一方、Tris緩衝液を用いる方法については、核磁気共鳴装置(NMR)実験に留まっており、工業的に生産するには数多くの課題が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、環状α−アミノ酸ジエステルの窒素原子をカルバメートとして保護したものを原料として用い、エステラーゼを触媒として用いた選択的加水分解による非対称化を行うことによって容易に目的の環状α−アミノ酸ハーフエステルの光学活性体を高純度・高収率で得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(2つのアルコキシカルボニル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。Rは炭素数1〜4の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。また、Rはハロゲン原子、窒素原子、酸素原子を有してよい飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
で表される環状α−アミノ酸ジエステルのエステル部位の一方のみを、カルボキシエステラーゼ(E.C. 3.1.1.1)の存在下、緩衝液中で選択的に加水分解することを特徴とする、下記式(2)
【化2】

(式中、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。また、R、R、およびnは前記と同じである。)
で表される光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)の製法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)を高純度でかつ高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に関わる化合物の定義として、原料である環状α−アミノ酸ジエステル(1)の2つのカルボアルコキシル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。
は炭素数1〜4の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、アリル基、およびベンジル基が挙げられる。好ましくは飽和アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基およびエチル基である。
【0009】
は飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表し、ハロゲン原子、酸素原子、または窒素原子を有してよい。具体例としては、メチル基、エチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、アリル基、ベンジル基、p−ニトロベンジル基、9−フルオレンメチル基、2−(4−ニトロフェニル)エチル基、および3−(3’−ピリジル)プロプ−2−エニル基が挙げられる。好ましくはtert−ブチル基およびベンジル基である。
【0010】
nは1〜3の整数を表し、n=2(含窒素環がピロリジン環)が好ましい。
【0011】
原料である環状α−アミノ酸ジエステル(1)は、Giorgio CIGNARELLA等の方法(J. Org. Chem.、26巻、1500−1504頁、1961年)により得ることができる。例えばn=2(ピロリジン環)の場合、2,5−ジブロモアジピン酸ジエステルと過剰量のベンジルアミンを縮合させた後、水素化により脱ベンジル化し、次いで窒素原子をカルバモイル化することによって目的物のcis−N−保護−2,5−ビス(アルコキシカルボニル)ピロリジンを得ることができる。
【0012】
使用するカルボキシエステラーゼ(E.C. 3.1.1.1)は、特に制限無く使用できるが、例えば、動物、植物、微生物由来のものが好ましく挙げられる。更に好ましくは豚肝臓由来エステラーゼである。エステラーゼの形態としては、未精製または精製したもの、凍結乾燥品、適当な緩衝液に懸濁させたもの、セライトに吸着させたもの、シリカやアクリル樹脂等に固定化させたものなどが挙げられるがこれらに限らない。使用量(タンパク質重量)は原料の環状α−アミノ酸ジエステル(1)に対して0.01〜2倍(w/w)が好ましい。
【0013】
本発明においては緩衝液を使用することが必須である。緩衝作用を有する限りいかなる水溶液をも使用することができるが、特にリン酸ナトリウムまたはリン酸カルシウム緩衝液が好ましい。その酸性度(pH)は5〜10であってよい。使用量は、攪拌が十分に行うことができる量であれば特に限定はなく、原料である環状α−アミノ酸ジエステル(1)に対して5〜1000倍(w/w)が適量である。
【0014】
本発明の反応操作としては、反応容器中に緩衝液(例えば、リン酸緩ナトリウムまたはリン酸カリウム緩衝液)、原料である環状α−アミノ酸ジエステル(2)、カルボキシエステラーゼをそれぞれ所定量加え、好ましくは常圧下、好ましくは反応温度0〜50℃で攪拌するだけでよい。
【0015】
本発明では、目的物としてカルボン酸である環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)が生成するため、反応の進行と共に混合液のpHが次第に低下し、その結果、反応が著しく遅くなる場合がある。その場合は適当な中和剤を随時添加することによって酸性度を一定に保つとよい。使用する中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩などが挙げられるが、これらに限らない。
【0016】
環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)は、反応終了後に得られた混合液に抽出溶媒を加え水洗するという非常に簡便な操作により、純度良く、しかも高収率で得ることができる。必要であればカラムクロマトグラフィーや再結晶等によって精製するとよい。抽出時において有機層−水層の分離が困難である場合、遠心分離を行うか、あるいはドデシル硫酸ナトリウムを加えて生じた沈殿を除去するなどの方法等により、懸濁状のカルボキシエステラーゼを除去することによって容易に分離することができる。抽出溶媒としては、環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)が溶解する非水溶性有機溶媒であれば特に限定されず、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類や、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、またはジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の実施に供するための原料化合物の合成法についても[製造例]として併せて示してある。
【0018】
[製造例1]
cis−N−ベンジル−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの合成
反応槽にmeso−2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.80g(5.0 mmol)およびトルエン6 mLを入れ、60℃でしばらく攪拌した。次いで60℃に保ったまま、ベンジルアミン1.77 g(16.5 mmol)をゆっくり滴下した後、そのまま20時間攪拌した。室温下で冷却した後、発生した臭化水素塩をろ過により取り除き、さらにトルエンで塩を洗浄した。ろ液を合わせたものを減圧下で溶媒留去し、カラムクロマトグラフィー(SiO2,
酢酸エチル−ヘキサン)により精製することにより、目的物1.01 g(収率66%)を淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.19 (t, J = 7.2 Hz, 3H + 3H), 2.04−2.08 (m, 2H + 2H), 3.40−3.50 (m, , 1H
+ 1H), 3.93 (s, 2H), 3.98−4.06 (m, 2H + 2H), 7.15−7.35 (m, 5H)
【0019】
[製造例2]
cis−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの合成
反応槽に上記で得たcis−N−ベンジル−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン8.67 g(28.5 mmol)、ASCA−II(エヌ・イーケムキャット製、54%含水品)780 mg、および酢酸エチル70 mLを入れ、60 ℃、常圧下で水素化反応を行った。3時間後、得られた混合溶液のセライトを介したろ過を行い、ろ液を減圧下にて溶媒留去することにより、目的物6.14 gを定量的に淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.28 (t, J = 7.0 Hz, 3H + 3H), 1.87−2.20 (m, 2H + 2H), 3.78−3.82 (m, , 1H
+ 1H), 4.19 (q, J = 7.1 Hz, 2H + 2H)
【0020】
[製造例3]
cis−N−(tert−ブトキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの合成
反応槽にcis−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン6.13 g(28.5 mmol)および酢酸エチル30 mLを入れ、氷冷下にて冷却した。ニ炭酸ジ−tert−ブチル5.91 g(27.1 mmol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、室温下でさらに2時間攪拌した。得られた混合液を減圧下で溶媒留去し、さらに蒸留することにより目的物8.17 g(収率91%)を淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.20−1.30(m, 3H + 3H), 1.43 (s, 9H), 2.10−2.25 (m, 2H + 2H), 4.16−4.40 (m, 2H +
2H + 1H + 1H)
13C NMR (CDCl3, 68 NHz) d 14.2, 14.3, 28.2, 28.7, 29.6, 59.8, 60.1, 60.9, 61.0, 80.6, 153.3, 171.4,
171.7
【0021】
[実施例1]
cis−N−(tert−ブトキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの選択的加水分解反応(その1)
反応槽に上記で得たcis−N−Boc−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン315 mg(1.0 mmol)、0.1M−リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8)10 mLを入れ、これに豚肝臓エステラーゼ(SIGMA製、クルード、凍結乾燥品、19 U/mg)50 mgを加えて30 ℃で攪拌した。反応の進行と共に酸性になるため、NaOH水溶液を随時滴下することによりpHを調製した。24時間後、ドデシル硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを少量加えた。しばらく攪拌してから1,2−ジクロロエタンにより2回抽出し、有機層を水洗した。減圧下で溶媒を留去することによって目的の(2S,5R)−N−(tert−ブトキシカルボニル)−2−カルボキシ−5−エトキシカルボニルピロリジン
278
mg(収率 96%、化学純度 95%、光学純度 98% ee)を淡黄色油状物として得た。
比旋光度 [a]D25 +16°(c1.0, MeOH)
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.34 (t, J = 7.3 Hz, 3H), 1.45 (s, 9H), 2.00−2.50 (m, 2H +
2H), 4.32 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 4.39−4.60 (m, 1H + 1H)
13C NMR (CDCl3, 68 NHz) d 14.0, 28.1, 28.2, 29.1, 29.2, 29.7, 59.6, 60.0, 60.8, 61.3, 62.6, 63.3,
82.4, 152.8, 172.5, 176.9
なお、光学純度(% ee)は高速液体クロマトグラフィー法を用い、そのエリア比より算出した。条件を以下に示す。
カラム:ダイセル化学工業(株)製 CHIRALPAC
AS-RH (0.46 cmf × 15 cmL)
移動相:アセトニトリル/10 mM−リン酸ナトリウム緩衝液 (20 / 80 (v / v))
流速:0.75 mL /
min.
検出器:UV 203 nm
保持時間:(2R,5S)体=約13.5分、(2S,5R)体=16.8分
【0022】
[実施例2]
cis−N−(tert−ブトキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの選択的加水分解反応(その2)
反応槽にcis−N−Boc−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン315 mg(1.0 mmol)、炭酸カルシウム150 mg(1.5 mmol)、および0.1M−リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8)10 mLを入れ、これに豚肝臓エステラーゼ(SIGMA製、クルード、凍結乾燥品、19 U/mg)25 mgを加えて30 ℃で攪拌した。48時間後、次いドデシル硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを少量加えた。しばらく攪拌してから1,2−ジクロロエタンにより2回抽出し、有機層を水洗した。減圧下で溶媒を留去することによって目的の(2S,5R) −N−(tert−ブトキシカルボニル)−2−カルボキシ−5−エトキシカルボニルピロリジン251 mg(収率88%、化学純度95%、光学純度98% ee)を得た。
【0023】
[製造例4]
cis−N−(ベンジロキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの合成
反応槽にcis−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン366 mg(1.7 mmol)、トリエチルアミン0.48 mL (3.4 mmol)、および1,2−ジクロロエタン10 mLを入れ、氷冷下にて冷却した。クロロぎ酸ベンジル377 mg(2.2 mmol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、室温下でさらに2時間攪拌した。得られた混合液を氷冷下にて冷却し、HCl水溶液、NaHCO3水溶液、水の順で洗浄を行った。有機層を取り出し、減圧下にて溶媒留去した後、カラムクロマトグラフィー(SiO2,
酢酸エチル−ヘキサン)により精製することによって目的物433 mg(収率74%)を淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.14−1.30 (m, 3H + 3H), 2.12−2.22 (m, 2H + 2H), 4.09−4.26
(m, 2H + 2H), 4.39−4.48 (m, 1H + 1H), 5.08−5.19 (m, 2H), 7.28−7.37 (m, 5H)
13C NMR (CDCl3, 68 NHz) d 14.0, 14.2, 28.7, 29.6, 59.9, 60.3, 61.0, 61.1, 67.3, 127.6, 127.8,
128.2, 136.1, 154.1, 171.0, 171.3
【0024】
[実施例3]
cis−N−(ベンジロキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの選択的加水分解反応
反応槽に上記[で得たcis−N−(ベンジロキシカルボニル)−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン105 mg(0.3 mmol)、0.1M−リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8)3 mLを入れ、これに豚肝臓エステラーゼ(SIGMA製、クルード、凍結乾燥品、19 U/mg)50 mgを加えて30 ℃で攪拌した。NaOH水溶液を随時滴下することによりpHを調製した。119時間後、ドデシル硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを少量加えた。しばらく攪拌してから1,2−ジクロロエタンにより2回抽出し、有機層を水洗した。減圧下で溶媒を留去することによって目的のcis−N−(ベンジロキシカルボニル)−2−カルボキシ−5−エトキシカルボニルピロリジン 81 mg(収率 84%、化学純度 94%、光学純度 70% ee)を淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.18−1.37 (m, 3H), 2.03−2.48 (m, 2H + 2H), 4.18−4.34
(m, 2H), 4.48−4.66 (m, 1H + 1H), 5.10−5.24 (m, 2H), 7.33−7.38 (m, 5H)
13C NMR (CDCl3, 68 NHz) d 14.0, 28.4, 29.0, 29.6, 29.7, 59.9, 60.2, 61.0, 62.8, 63.3, 68.2, 127.7,
128.0, 128.4, 135.3, 153.7, 172.3, 176.3
なお、光学純度(% ee)は高速液体クロマトグラフィー法を用い、そのエリア比より算出した。条件を以下に示す。
カラム:ダイセル化学工業(株)製 CHIRALPAC
AS-RH (0.46 cmf × 15 cmL)
移動相:アセトニトリル/10 mM−リン酸ナトリウム緩衝液 (20 / 80 (v / v))
流速:1.0 mL / min.
検出器:UV 205 nm
保持時間:約26.3分、29.9分
【0025】
[比較例1]
cis−N−ベンジル−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの選択的加水分解反応
反応槽にcis−N−ベンジル−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン92 mg(0.3 mmol)、0.1M−リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8)3 mLを入れ、これに豚肝臓エステラーゼ(SIGMA製、クルード、凍結乾燥品、19U/mg)15 mgを加えて30 ℃で攪拌した。NaOH水溶液を随時滴下することによりpHを調製した。31時間後、ドデシル硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを少量加えた。しばらく攪拌してから1,2−ジクロロエタンにより2回抽出し、有機層を水洗した。減圧下で溶媒を留去することによって目的物のN−ベンジル−2−カルボキシ−5−エトキシカルボニルピロリジン58 mg(収率70%、化学純度90%)を淡黄色油状物として得た。光学純度は25% eeであった。
1H NMR (CDCl3, 270 NHz) d 1.20 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.84−2.31 (m, 2H + 2H), 3.67−3.77 (m, 1H +
1H), 3.92 (s, 2H), 4.09 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 7.27−7.38 (m, 5H)
なお、光学純度(% ee)は高速液体クロマトグラフィー法を用い、そのエリア比より算出した。条件を以下に示す。
カラム:ダイセル化学工業(株)製 CHIRALPAC
AS-H (0.46 cmf × 25 cmL)
移動相:ヘキサン/イソプロパノール
(80
/ 20 (v / v))
流速:0.5 mL / min.
検出器:UV 230 nm
保持時間:約22.5分、33.9分
【0026】
[比較例2]
cis−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジンの選択的加水分解反応
反応槽にcis−2,5−ビス(エトキシカルボニル)ピロリジン65 mg(0.3 mmol)、0.1M−リン酸ナトリウム緩衝液(pH 8)3 mLを入れ、これに豚肝臓エステラーゼ(SIGMA製、クルード、凍結乾燥品、19U/mg)15 mgを加えて30 ℃で攪拌した。NaOH水溶液を随時滴下することによりpHを調製した。31時間後、原料が無くなったことを確認してからドデシル硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを少量加えた。しばらく攪拌してから1,2−ジクロロエタンにより2回抽出し、有機層を水洗した。減圧下で溶媒を留去することによって褐色高粘性体を得た。分析の結果、数種類の混合物であり、目的のハーフエステル体生成は確認できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(2つのアルコキシカルボニル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。Rは炭素数1〜4の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。また、Rはハロゲン原子、窒素原子、酸素原子を有してよい飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を表す。nは1〜3の整数を表す。)
で表される環状α−アミノ酸ジエステルのエステル部位の一方のみを、カルボキシエステラーゼ(E.C. 3.1.1.1)の存在下、緩衝液中で選択的に加水分解することを特徴とする、下記式(2)
【化2】

(式中、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基は含窒素環に対して互いにシスの位置にある。また、R、R、およびnは前記と同じである。)
で表される光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステルの製法。
【請求項2】
カルボキシエステラーゼが豚肝臓由来である請求項1記載の光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)の製法。
【請求項3】
n=2である請求項1または2記載の光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)の製法。
【請求項4】
がメチル基またはエチル基である請求項1〜3のいずれかに記載の光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)の製法。
【請求項5】
がtert−ブチル基またはベンジル基である請求項1〜4のいずれかに記載の光学活性な環状α−アミノ酸ハーフエステル(2)の製法。


【公開番号】特開2006−129760(P2006−129760A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321378(P2004−321378)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】