説明

光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法、並びに、ジアステレオマー塩及びその製造方法

【課題】光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の実用的な製造方法を提供すること。
【解決手段】2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程、及び、精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程を含むことを特徴とする光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬、電子材料分野における原料又は中間体として有用な、光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸、及び、これらの中間体となる光学活性ジアステレオマー塩に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性アダマンタン誘導体は近年、医薬品、及び、電子材料分野(特に半導体デバイス製造分野)において、幅広い利用が期待されている。
例えば、光学活性アダマンチルオキシカルボン酸の製造方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。
また、光学活性アダマンチルエチルアミンの製造方法としては、アダマンチル基を有するアミンと光学活性酸性分割剤とを10:1〜1:10のモル比で反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ分離し精製ジアステレオマー塩を得る工程、及び、精製ジアステレオマー塩よりアダマンチル基を有する光学活性アミン又はその塩を得る工程を含むことを特徴とするアダマンチル基を有する光学活性アミン又はその塩の製造方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許第1028237号公報
【特許文献2】特開2008−24666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の実用的な製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、新規なジアステレオマー塩を提供することである。
また、本発明の他の目的は、光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸と光学活性酸性分割剤とからなるジアステレオマー塩の実用的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の実用的製造方法について研究を重ねた結果、各種光学活性酸性分割剤とジアステレオマー塩を生成させることにより、光学分割が可能であることを見出し、本発明を完成させることができた。
前記課題は、以下の手段<1>、<3>及び<5>により解決された。好ましい実施態様である<2>、<4>及び<6>と共に以下に記載する。
<1>2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程、及び、精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程を含むことを特徴とする光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法。
【0006】
【化1】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<2>前記アミンが、下記(A−1)である上記<1>に記載の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法。
【0007】
【化2】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<3>2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、及び、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程を含むことを特徴とするジアステレオマー塩の製造方法。
【0008】
【化3】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<4>前記アミンが、下記(A−1)である上記<3>に記載のジアステレオマー塩の製造方法。
【0009】
【化4】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<5>2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとからなるジアステレオマー塩。
【0010】
【化5】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
<6>前記アミンが、下記(A−1)である上記<5>に記載のジアステレオマー塩。
【0011】
【化6】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の実用的な製造方法を提供することができた。
また、本発明によれば、新規なジアステレオマー塩を提供することができた。
さらにまた、本発明によれば、光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸と光学活性な塩基性分割剤とからなるジアステレオマー塩の実用的な製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程(以下、「形成工程」ともいう。)、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程(以下、「析出工程」ともいう。)、及び、精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程(以下、「単離工程」ともいう。)を含むことを特徴とする。
【0014】
【化7】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0015】
なお、本発明において、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、カルボキシル基(−COOH)において、塩を形成したものも含むものとする。また、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、塩を形成していない2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と、1種又は2種以上の2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸との混合物であってもよい。
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸の塩における対カチオンは、特に制限はなく、無機カチオンであっても、有機カチオンであってもよく、また、一価カチオンであっても、多価カチオンであってもよい。
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法により、光学純度の高い2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を、簡便な操作で効率よく製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<形成工程>
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と前記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミン(以下、「光学分割剤」ともいう。)とを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程(形成工程)を含む。
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸とジアステレオマー塩を形成するために、本発明に用いることができるアミンは、前記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンであれば特に制限はない。また、本発明に用いることができる(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンは、ラセミ体であっても、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよく、鏡像体過剰率(光学純度、enantiomeric excess、ee)が0%以上100%以下であるアミンを用いることができる。
前記前記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンは、光学分割能及び収率の点から、光学純度の高いものであることが好ましく、鏡像体過剰率が90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
中でも、本発明に用いることができるアミンは、光学分割能の点から、前記(A−1)であることが好ましい。
【0017】
前記形成工程において、原料として使用する2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、ラセミ体であっても、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよく、鏡像体過剰率が0%以上100%未満であるものを用いることができる。中でも、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸の鏡像体過剰率が、10%以上100%未満であることがより好ましく、50%以上100%未満であることがより好ましく、70%以上100%未満であることが更に好ましい。本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、鏡像体過剰率が上記範囲であると、より光学分割能に優れる。
【0018】
前記形成工程において得られる本発明のジアステレオマー塩は、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と前記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとからなるジアステレオマー塩である。
また、前記ジアステレオマー塩における2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と前記アミンとの結合比は、特に制限はないが、1:1であることが好ましい。
中でも、前記ジアステレオマー塩の主成分としては、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1R,2S)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノールとからなるジアステレオマー塩、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1S,2R)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノールとからなるジアステレオマー塩、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(R)−1−アダマンチルエチルアミンとからなるジアステレオマー塩、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(S)−1−アダマンチルエチルアミンとからなるジアステレオマー塩、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(R)−1−(1−アミノエチル)ナフタレンとからなるジアステレオマー塩、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(S)−1−(1−アミノエチル)ナフタレンとからなるジアステレオマー塩、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1S,2R)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとからなるジアステレオマー塩、又は、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとからなるジアステレオマー塩を好ましく例示でき、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1R,2S)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノールとからなるジアステレオマー塩、又は、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と(1S,2R)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノールとからなるジアステレオマー塩をより好ましく例示できる。
【0019】
前記形成工程における2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と光学分割剤とのモル混合比は、(2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸のモル量):(光学分割剤のモル量)=1:0.5〜1:10.0であることが好ましく、1:0.8〜1:1.2であることがより好ましい。
【0020】
前記形成工程におけるジアステレオマー塩の調製は、無溶媒の条件でも可能ではあるが、溶媒を用いて行うことが好ましい。
前記形成工程において用いることができる溶媒は、特に制限はないが、光学分割剤及び2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を溶解させることができ、かつ生成するジアステレオマー塩のうち一方の光学活性体が析出する性質を持つものが操作上好ましい。
前記形成工程において用いることができる溶媒として具体的には、メタノール等のアルコール類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン等のケトン類、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル類、及び、水が例示できる。また、これらの溶媒は、1種単独で使用しても、任意の溶媒を混合して使用してもよい。これらの中でも溶媒としては、t−ブチルメチルエーテルを使用することが好ましい。
また、前記形成工程における溶媒の使用量は、固形分の全重量に対して、1〜20倍量が好ましく、3〜7倍量が特に好ましい。
【0021】
前記形成工程における反応温度は、特に制限はないが、使用した溶媒への基質の溶解度を増加させ、溶媒の使用量を少なくするため、加熱を行うことが好ましい。加熱温度は、特に制限はないが、35〜80℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。
【0022】
<析出工程>
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程(析出工程)を含む。
前記析出工程における析出手段としては、前記形成工程により得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させる手段であれば、特に制限はない。
析出手段としては、例えば、前記形成工程で得られたジアステレオマー塩を含む混合物を静置し、ジアステレオマー塩を析出させることが挙げられるが、中でも、前記形成工程において、溶媒を使用し、かつ加熱を行っている場合、室温(15〜30℃)に冷却し、静置することが好ましい。
また、析出手段としては、例えば、前記形成工程において、ジアステレオマー塩の良溶媒を使用している場合、ジアステレオマー塩の貧溶媒を添加することにより、析出させてもよい。
これらの中でも、前記形成工程において、溶媒としてt−ブチルメチルエーテルを使用し、加熱を行い、析出工程において、室温(15〜30℃)に冷却し、ジアステレオマー塩を析出させることが好ましい。
【0023】
前記析出工程において用いることができる溶媒としては、前記形成工程において例示したものを好適に用いることができる。また、溶媒は1種単独で用いても、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0024】
前記形成工程と前記析出工程とは同時に行っても、逐次行ってもよい。また、形成工程後、一旦ジアステレオマー塩混合物として単離し、析出工程に用いてもよい。
また、操作の簡便性から、前記形成工程及び前記析出工程において同一の溶媒を用いることが好ましく、同一の溶媒として、t−ブチルメチルエーテルを使用することが特に好ましい。
【0025】
前記析出工程において、析出した精製ジアステレオマー塩を溶媒や反応残渣等から分離する方法としては、特に制限はなく、ろ過、乾燥等の公知の方法により行うことができる。
【0026】
前記析出工程では、析出した固体として精製ジアステレオマー塩を得てもよく、析出した固体を除いた溶液から析出した固体とは異なる異性体である精製ジアステレオマー塩を得てもよく、また、析出した固体及び該固体を除いた溶液からそれぞれ精製ジアステレオマー塩を得てもよい。
また、所望の光学純度に応じ、前記析出工程で得られた精製ジアステレオマー塩に対し、さらに析出工程を1回以上繰り返したり、再結晶や再沈殿等の手段を1回以上行い、精製ジアステレオマー塩をさらに精製してもよい。
【0027】
<単離工程>
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程(単離工程)を含む。
前記単離工程における単離手段としては、精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得ることができる手段であれば、特に制限はなく、公知の手段を応用して用いることができるが、精製ジアステレオマー塩に有機溶媒及びアルカリ水溶液を添加した後、分液し、光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る手段が好ましく例示できる。
また、上記手段において有機溶媒及びアルカリ水溶液の添加は、同時であっても、逐次であってもよく、また、有機溶媒、アルカリ水溶液のどちらを先に添加してもよい。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を任意の割合で混合し用いてもよい。
【0028】
前記単離工程に用いることができる有機溶媒は、水と界面を形成し、かつ2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸及び光学分割剤に対して不活性ならば、どのような溶媒でも使用可能である。
前記単離工程に用いることができる有機溶媒として、具体的には、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル類が好ましく例示できる。
【0029】
前記単離工程に用いることができるアルカリ水溶液は、精製ジアステレオマー塩を2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と光学分割剤とに解離することができる塩基性水溶液であれば、特に制限はなく、アルカリ金属水酸化物の水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることがより好ましい。
精製ジアステレオマー塩の分解に使用される塩基(アルカリ化合物)の使用量は、精製ジアステレオマー塩の量に対し、1.0〜3.0等モル量であることが好ましい。
前記単離工程における有機溶媒及びアルカリ水溶液の使用量は、固形分の全重量に対して、1〜10倍量であることが好ましく、4〜6倍量であることがより好ましい。
【0030】
得られた光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、塩として単離しても、塩を形成していないカルボン酸として単離してもよい。
前述のような精製ジアステレオマー塩に有機溶媒及びアルカリ水溶液を添加した後、分液する手段では、水層側に光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸が塩として含まれている。このまま塩として単離してもよいが、塩を形成していないカルボン酸として単離する場合は、分離した水層に、有機溶媒及び酸を添加した後、分液し、有機層から光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得ることができる。
酸としては、特に制限はなく、無機酸であっても、有機酸であってもよい。中でも、鉱酸を用いることが好ましく、塩酸を用いることがより好ましい。また、酸は、そのまま添加しても、水溶液として添加してもよい。
【0031】
また、前述のような精製ジアステレオマー塩に有機溶媒及びアルカリ水溶液を添加した後、分液する手段では、有機層側に光学分割剤が分離される。有機層の有機溶媒を公知の方法により留去し、光学分割剤を回収することができる。また、回収した光学分割剤を再利用することも可能である。回収した光学分割剤の純度が十分でない場合は、カラムクロマトグラフィーや、再結晶又は蒸留などの公知の方法により精製することができる。
【0032】
また、所望の光学純度の2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得るため、本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法における形成工程、析出工程及び単離工程を任意の回数繰り返して行ってもよい。
また、本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法により得られた2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、所望の光学純度に応じ、再結晶や再沈殿等の公知の手段を行い、さらに精製してもよい。
【0033】
本発明における化合物の光学純度の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸については、中でも、以下の方法により測定することが好ましい。
まず、前処理として、測定する2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(500mg)、4−ニトロベンジルアルコール(170mg)、ジシクロへキシルカルボジイミド(920mg)、4−ジメチルアミノピリジン(2mg)、ジクロロメタン(20cm3)を混合して、室温で一夜撹拌する。不溶分をろ別後、溶媒を減圧留去して残さを測定サンプルとする。
上記測定サンプルを、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを行うことにより、光学純度の測定することができる。なお、下記の条件では、(R)体の保持時間は15分であり、(S)体の保持時間は17分である。
〔測定条件〕
カラム:ダイセル化学工業(株)製キラルセル OD−H 4.6mmφ×250mm
キャリア:ヘキサン:2−プロパノール=9:1のジエチルアミン0.1%含有混合溶媒
検出器:波長254nmの紫外線(UV)吸収検出器
流速:0.5cm3/min
【0034】
<エーテル化工程、及び、加水分解工程>
本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法は、1位に脱離基を有するアダマンタンと乳酸エステル化合物とを塩基性化合物の存在下で反応させ2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸エステル化合物を得る工程(「エーテル化工程」ともいう。)、及び、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸エステル化合物を加水分解し2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程(「加水分解工程」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0035】
前記エーテル化工程で使用する1位に脱離基を有するアダマンタンの脱離基としては、反応が進行するものであれば特に制限はないが、ハロゲノ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基などが例示できる。
これらの中でも、1位に脱離基を有するアダマンタンとしては、1−クロロアダマンタン、1−ブロモアダマンタン、及び、1−ヨードアダマンタンが好ましく例示でき、1−ブロモアダマンタンが特に好ましく例示できる。
前記エーテル化工程で使用する乳酸エステル化合物としては、特に制限はないが、乳酸アルキルエステル化合物であることが好ましく、コストや入手容易性の点から、乳酸エチルであることがより好ましい。
また、前記エーテル化工程では乳酸エステル化合物の使用量は、1位に脱離基を有するアダマンタンの1モルに対し1モル以上であれば特に制限はないが、溶媒量使用することが好ましい。
前記エーテル化工程で使用する塩基性化合物としては、反応が進行するものであれば特に制限はないが、アミン化合物であることが好ましく、立体障害の大きなアミン化合物であることがより好ましく、2,4,6−トリメチルピリジンであることが更に好ましい。
前記エーテル化工程における塩基性化合物の使用量は、特に制限はないが、1位に脱離基を有するアダマンタンの1モルに対し、0.9〜1.5モルであることが好ましく、1.0〜1.2モルであることがより好ましく、1.0〜1.1モルであることが更に好ましい。
前記エーテル化工程における反応温度は、特に制限はなく反応の進行状況により判断すればよいが、80〜160℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましく、130〜140℃であることが更に好ましい。
前記エーテル化工程における反応時間についても、特に制限はないが、1〜48時間が好ましく、12〜24時間がより好ましい。
また、前記エーテル化工程においては、公知の方法により、得られた2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸エステル化合物を精製してもよい。
【0036】
前記加水分解工程で使用する塩基性化合物としては、反応が進行するものであれば特に制限はないが、アルカリ金属水酸化物であることが好ましく、水酸化ナトリウムであることがより好ましい。
前記加水分解工程における塩基性化合物の使用量は、特に制限はないが、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸エステル化合物の1モルに対し、2〜5モルであることが好ましい。
前記加水分解工程における反応温度は、光学純度の点から、室温(25℃)以下であることが好ましく、0〜10℃であることがより好ましい。
前記加水分解工程における反応時間は、特に制限はなく反応の進行状況により判断すればよいが、0.5〜48時間が好ましく、6〜24時間がより好ましい。
また、前記加水分解工程においては、公知の方法により、得られた2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を精製してもよい。
前記加水分解工程により得られた2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸は、ラセミ体であっても、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよい。
本発明者等が検討を行ったところ、前記エーテル化工程及び前記加水分解工程を経て、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を作製する場合、前記加水分解工程における反応温度をできるだけ低温にて反応を行っても、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸の光学純度は、90%ee以下であった。
なお、本発明者等が英国特許第1028237号公報と同一の方法により2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を作製したところ、得られた2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸の光学純度は、40%eeであった。
【0037】
本発明のジアステレオマー塩は、前述したように、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとからなるジアステレオマー塩であり、前記アミンが下記(A−1)であることが好ましい。
【0038】
【化8】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0039】
なお、本発明におけるジアステレオマー塩は、イオン対として形成される塩であっても、プロトン移動のない分子錯体より形成される塩であってもよく、具体的には例えば、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸のカルボキシルアニオンと光学分割剤のアミノ基がアンモニウムとなったものとの塩であっても、プロトンの移動のない2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と光学分割剤との錯体であってもよく、これらに2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸及び/又は光学分割剤がさらに錯形成していてもよい。また、本発明におけるジアステレオマー塩は、その結晶中に溶媒を含むものであってもよい。
【0040】
また、本発明のジアステレオマー塩の製造方法は、2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と前記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程(形成工程)、及び、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程(析出工程)を含むことを特徴とする。
本発明のジアステレオマー塩の製造方法における形成工程及び析出工程はそれぞれ、前述した本発明の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法における形成工程及び析出工程と同義であり、また、好ましい態様も同様である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<光学純度測定法>
[分析のための誘導体化]
・前処理
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(500mg)、4−ニトロベンジルアルコール(170mg)、ジシクロへキシルカルボジイミド(920mg)、4−ジメチルアミノピリジン(2mg)、ジクロロメタン(20cm3)を混合して、室温で一夜撹拌した。不溶分をろ別後、溶媒を減圧留去して残渣を測定サンプルとした。
【0043】
・分析条件
上記測定サンプルを、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを行うことにより、光学純度を測定した。なお、下記の条件では、(R)体の保持時間は15分であり、(S)体の保持時間は17分であった。
カラム:ダイセル化学工業(株)製キラルセル OD−H 4.6mmΦ×250mm
キャリア:ヘキサン:2−プロパノール=9:1のジエチルアミン0.1%含有混合溶媒
検出器:波長254nmの紫外線(UV)吸収検出器
流速:0.5cm3/min
【0044】
(実施例1)
1−ブロモアダマンタン(25.0g,0.116mol)、2,4,6−トリメチルピリジン(29.4g,0.121mol)、(S)−乳酸エチル(125cm3)を混合して、130〜140℃で15時間撹拌した。反応終了後、溶媒(乳酸エチル)を減圧留去した。残さにトルエン(500cm3)を投入して、水(500cm3×3)、5%塩酸(500cm3)、水(500cm3)で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して粗エステルを得た(収量27.5g,収率93.0%)。
粗エステル(27.5g,0.109mol)にエタノール(300cm3)を混合して、これを0〜10℃まで冷却し、液温を保ちながら水酸化ナトリウム水溶液(NaOH,16.1g:0.402mol,H2O,32cm3)を滴下し、0〜10℃を保ちながら12時間撹拌した。
反応溶液からエタノールを減圧留去して、これに水(250cm3),35%塩酸(84g,0.804mol)を添加して、生じた結晶を分離、乾燥して粗(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得た(収量20.0g,収率75.5%(1−ブロモアダマンタンより),光学純度90%ee)。
【0045】
上記の操作で得られた粗(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(19.0g,0.0854mol)を(1R,2S)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノール(18.7g,0.0854mol)、t−ブチルメチルエーテル(190cm3)と混合、還流して、内容物を溶解させ、20〜30℃まで一夜冷却した。生じた結晶を分離、乾燥して精製ジアステレオマー塩((S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸/(1R,2S)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノール,収量34.1g,粗体からの収率90.5%,光学純度99%ee)を得た。
なお、非水滴定法により、上記で得られた精製ジアステレオマー塩におけるアミンとカルボン酸の結合比は、1:1であることが判明した。
非水滴定は、サンプル0.5gを酢酸(和光純薬工業(株)製)50cm3に溶解させ、指示薬としてナフトールベンゼイン溶液を使用し、0.1mol/l過塩素酸酢酸溶液にて滴定を行った。
【0046】
上記で得られた精製ジアステレオマー体(30.0g,0.0679mol)、5%水酸化ナトリウム水溶液(65.2g,0.0814mol)、ジクロロメタン(100cm3)を混合、溶解、静置、分液した。なお、ジクロロメタン層からは、(1R,2S)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノールが定量的に回収された。
水層に35%塩酸(12.7g,0.122mol),ジクロロメタン(100cm3)を添加して、混合、静置、分液した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して、精製(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得た(収量12.4g,ジアステレオマー塩からの収率82.0%,光学純度99%ee)。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、(S)−乳酸エチルを(R)−乳酸メチルに変更した以外は同様の操作を行い、粗エステルを得た(収量26.0g,収率95.0%)。
得られた粗エステル(26.0g,0.110mol)を使用して実施例1と同様な操作を行い、粗(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(収量20.4g,収率79.1%(1−ブロモアダマンタンより),光学純度90%ee)を得た。
上記の操作で得られた粗(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(19.0g,0.0854mol)を(1S,2R)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノール(18.7g,0.0854mol)、t−ブチルメチルエーテル(190cm3)と混合、還流して、内容物を溶解させ、20−30℃まで一夜冷却した。生じた結晶を分離、乾燥して精製ジアステレオマー塩((R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸/(1S,2R)−2−ベンジルアミノシクロヘキサンメタノール,収量35.3g,粗体からの収率94.1%,光学純度99%ee)を得た。
なお、非水滴定法により、上記で得られた精製ジアステレオマー塩におけるアミンとカルボン酸の結合比は、1:1であることが判明した。
上記で得られた精製ジアステレオマー塩(30.0g,0.0679mol)に対し、以下実施例1と同様な操作を実施して、精製(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得た(収量12.6g,ジアステレオマー塩からの収率83.3%,光学純度99%ee)。
【0048】
(実施例3〜8)
表1に記載の粗2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(2.0g,9.0mmol,90%ee)と、塩基性分割剤(9.0mmol)と、t−ブチルメチルエーテル(固形分に対し5倍体積量)とを混合した以外は、実施例1と同様に、精製光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸をそれぞれ作製した。
【0049】
【表1】

【0050】
なお、(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸、(R)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸、及び、実施例1〜8で使用した光学分割剤は、以下に示す構造である。
【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
(比較例1)
粗(S)−2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(19.0g,0.0854mol,90%ee)と、(S)−1−ベンジルアミノ−3−フェノキシ−2−プロパノール(22.0g,0.0854mol)と、t−ブチルメチルエーテル(190cm3)と混合した以外は、実施例1と同様な操作を行ったが、20〜30℃まで一夜冷却しても晶析せず、ジアステレオマー塩は結晶で得られなかった。
【0054】
(比較例2及び3)
表2に記載の粗光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸(2.0g,9.0mmol,90%ee)と、塩基性分割剤(9.0mmol)と、t−ブチルメチルエーテル(固形分×5倍量)を混合した以外は、実施例1と同様に、精製光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸をそれぞれ作製した。
【0055】
【表2】

【0056】
なお、比較例1〜3で使用した光学分割剤は、以下に示す構造である。
【0057】
【化11】

【産業上の利用可能性】
【0058】
アダマンタン誘導体は近年、医薬品中間体及び電子材料原料として注目されている化合物である。従来はラセミ体又はアキラルな誘導体のみの利用にとどまってきた。
本発明の製造方法により光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の効率的製造が確立できたことで、より高機能材料への利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、
得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程、及び、
精製ジアステレオマー塩より光学活性2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸を得る工程を含むことを特徴とする
光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法。
【化1】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項2】
前記アミンが、下記(A−1)である請求項1に記載の光学活性アダマンチルオキシプロピオン酸の製造方法。
【化2】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項3】
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとを反応させてジアステレオマー塩を形成する工程、及び、
得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ精製ジアステレオマー塩を得る工程を含むことを特徴とする
ジアステレオマー塩の製造方法。
【化3】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項4】
前記アミンが、下記(A−1)である請求項3に記載のジアステレオマー塩の製造方法。
【化4】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項5】
2−(1−アダマンチルオキシ)プロピオン酸と
下記(A−1)〜(A−4)よりなる群から選ばれたアミンとからなる
ジアステレオマー塩。
【化5】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項6】
前記アミンが、下記(A−1)である請求項5に記載のジアステレオマー塩。
【化6】

(式中、*は不斉炭素原子であることを表す。)

【公開番号】特開2011−57612(P2011−57612A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208781(P2009−208781)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(591169386)大東化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】