説明

光学活性アミノアルコール誘導体、それを含む触媒および不斉反応

【課題】光学活性アミノアルコール誘導体、前記誘導体を配位子とする金属錯体触媒及び前記触媒を用いる不斉反応方法。
【解決手段】新規な光学活性アミノアルコール誘導体(A)、前記誘導体を配位子とする第4族〜第10族金属の錯体触媒及び前記錯体触媒を用いる不斉アルキル化反応等の不斉反応方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミノアルコールから誘導される光学活性アミノアルコール誘導体、それを配位子とする不斉触媒およびその触媒を用いる不斉反応に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性アミノアルコール類は、例えば麻黄アルカロイドの成分として薬理活性を有することに加えて、医薬、農薬の中間体、または不斉反応における不斉源として有用な化合物である。
また、光学活性アミノアルコールは、2−ケトオキシムの不斉ボラン錯体による還元反応(特開平10-45688号公報)等によっても得ることができる(下式)。
【0003】
【化1】

【0004】
一方、Trostらは、光学活性なピリジン型配位子の存在下、モリブデンカルボニル錯体Mo(CO)3(C3H8)触媒を用いることにより、高いee(エナンショマー過剰率)でアリル位不斉アルキル化反応が生ずることを報告している(Trost, B.M.; Hachiya, I., J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, pages 1104-1105.):
【0005】
【化2】

【0006】
また、Curranらは、不斉配位子としてのBINOLをチタン化合物と組合わせた触媒を用いて、カルボニル化合物への有機亜鉛試薬を用いた不斉アルキル化反応が生ずることを報告している(Nakamura, Y., Takeuchi, S., Curran, D.P., Tetrahedron Lett., 2000, 41, 57-60.):
【0007】
【化3】

【0008】
これらの不斉アルキル化反応は、医薬・農薬等またはそれらの中間体の合成に有用な反応であるが、Trostらの用いた光学活性ジピリジン型配位子、またはCurranらの用いたBINOLは必ずしも工業的に安価ではなく、且つ入手の容易な化合物ではないという問題点を含んでいる。
また、入手の容易なノルエフェドリン等の光学活性アミノアルコールのみを不斉配位子として用いて不斉アルキル化反応を行っても、十分な光学活性が得られないという問題点を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-45688号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Trost, B.M.; Hachiya, I., J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, pages 1104-1105.
【非特許文献2】Nakamura, Y., Takeuchi, S., Curran, D.P., Tetrahedron Lett., 2000, 41, 57-60.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、不斉源として入手の比較的容易なノルエフェドリン等の光学活性アミノアルコールとピリジン等のヘテロ芳香環等とがアミド結合及び/またはエステル結合によって結合している、光学活性アミノアルコール誘導体に関するものである。
また、本発明は、上記の光学活性アミノアルコール誘導体を配位子とする金属錯体触媒に関するするものであり、及び前記金属錯体触媒を用いる不斉アルキル化反応等の不斉反応に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体:
【0013】
【化4】

[式中、R1及びR2はそれぞれアルキル基又はハロゲン原子、アルキル基もしくはアルコキシ基で置換されてよいフェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ水素原子(但し、同時には水素原子でない)又は一般式(B):
【0014】
【化5】

[式中、Ar(X)は、ヘテロ原子含有官能基を有するフェニル基または置換基を有してよい複素環を表す]を表し、*印は不斉炭素を表す。]、に関するものである。
【0015】
本発明は特に、一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体が、一般式(1)で表される光学活性アミドアルコール及び一般式(2)で表される光学活性アミドエステルから選ばれる少なくとも1種の光学活性アミノアルコール誘導体に関するものである:
【0016】
【化6】

[式中、R1、R2、Ar(X)及び*は上記と同義である。]
【0017】
また、本発明は、一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体配位子と、周期表第4族〜第10族から選ばれる少なくとも1つの金属元素とから成る錯体触媒に関するものである。
ここで云う金属錯体触媒とは、0価〜低原子価の金属元素に光学活性アミノアルコール誘導体が配位していると一般に信じられ得る触媒を指し(例えば、「ヘゲダス遷移金属による有機合成」Hegedus, L. S. 著、村井真二訳(東京化学同人、2001年))、反応系中に光学活性アミノアルコールと金属元素とが共存している状態の触媒を含み、必ずしも錯体として単離・同定されていることは要しない。反応系中に共存しているとは、均一に溶解している状態並びにコロイド状態又は乳化状態のような微分散している状態も含む。
【0018】
更に本発明は、前記錯体触媒を用いて、不斉反応を行う方法に関するものであり、特に、前記不斉反応が、不斉アルキル化反応である反応方法に関するものである。
不斉アルキル化反応の例としては、アルキル亜鉛を用いた不斉エチル化反応、及び、1-フェニルフェニルアセテートのフェニル位のマロン酸ジメチルによる不斉アルキル化反応等が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学活性アミノアルコール誘導体は、不斉反応触媒の配位子及び医薬または農薬等の生理活性物質合成の中間体として有用である。本発明の触媒は不斉アルキル化等の不斉反応に用いられる。また、本発明の不斉アルキル化反応によって、医薬または農薬等の生理活性物質又はそれらの中間体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体において、R1〜R2としては、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル等のアルキル基、フェニル、o-,m-,p-クロロフェニル、o-,m-,p-ブロモフェニル、o-,m-,p-メチルフェニル、o-,m-,p-エチルフェニル、o-,m-,p-プロピルフェニル、2,3-, 2,4-, 2,5-, 2,6-ジメチルフェニル、2,3-, 2,4-, 2,5-, 2,6-ジエチルフェニル、2,3-, 2,4-, 2,5-, 2,6-ジプロピルルフェニル、o-,m-,p-メトキシフェニル、o-,m-,p-エトキシフェニル、2,3-, 2,4-, 2,5-, 2,6-ジメトキシフェニル、2,3-, 2,4-, 2,5-, 2,6-ジエトキシフェニル等のハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されてよいフェニル基等が挙げられる。
R3及びR4はそれぞれ水素原子(但し、同時には水素原子でない)又は一般式(B):-C(=O)Ar(X)で表されるアリールカルボニル基であり、Ar(X)は、ヘテロ原子含有官能基を有するフェニル基または置換基を有してよい複素環を表す。Ar(X)は、例示すれば、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子含有官能基、好ましくはアミノ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、又はメチルチオ基を有するフェニル基であって、フェニル環上のいずれかの位置でエステルカルボニル基及び/又はアミドカルボニル基に結合しているフェニル基が挙げられ、例えば、o-アミノフェニル基、o-ヒドロキシフェニル基、o-メトキシフェニル基又はo-メチルチオ基等のヘテロ原子含有官能基をo-位に有するフェニル基が挙げられる。
また、Ar(X)は、置換基を有してよい複素環である。例示すれば、炭素数1〜6の低級アルキル基、低級アルコキシ基、またはハロゲンを有してよい複素環であって、複素環上のいずれかの位置でエステルカルボニル基及び/又はアミドカルボニル基に結合している複素環が挙げられ、例えば、2-ピリジル基、2−キノリニル基、1-イソキノリニル基、2-ピラジニル基、2-ピリミジニル基、2-ピリダジニル基、2-ピロリル基、2-イミダゾリル基、3-ピラゾリル基、2-フラニル基、2-チエニル基等が挙げられる。
一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体としては、光学活性アミドアルコール、光学活性アミドエステル及び光学活性エステルアミンの3種の誘導体がある。これらの内、光学活性アミドアルコール、光学活性アミドエステルが好ましい。
【0021】
本発明の一般式(1)で表される光学活性アミドアルコール及び一般式(2)で表される光学活性アミドエステルにおいて、R1、R2及びAr(X)としては上記と同種の置換基が例示される。
【0022】
本発明の、一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体としては、特に天然麻黄アルカロイドの1種として得られるノルエフェドリンからの誘導体が代表的である。ノルエフェドリンとしては、下記に示す4種の光学異性体が存在し得る。即ち、(1R,2S)-ノルエフェドリン(I)、(1S,2R)-ノルエフェドリン(II)、(1S,2S)-ノルエフェドリン(III)、(1R,2R)-ノルエフェドリン(IV)である。
【0023】
【化7】

【0024】
この内、特に (1R,2S)-ノルエフェドリン(I)から得られる以下の誘導体:(1R,2S)-ピリジン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(ピリジン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル:(2-2)、(1R,2S)-ピリジン-2-カルボン酸(2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-3)、(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 2-[(イソキノリン-1-カルボニル)-アミノ]-1-フェニルプロピルエステル:(2-4)、(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-5)、(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(キノリン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル:(2-6)、(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-7)等が好ましくは挙げられる。
【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
本発明の光学活性アミノアルコール誘導体は、下式に示すように、光学活性アミノアルコール(4)とY-C(=O)Ar(X)(5)で示されるカルボン酸誘導体との常法によるアミド化及び/又はエステル化によって製造することができる。
【0029】
【化11】

【0030】
[式中、R1、R2及びAr(X)前記と同義である。Yはヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基又はハロゲンであってよく、それぞれに対応して、カルボン酸誘導体(5)はカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸無水物、およびカルボン酸ハロゲン化物である。]
【0031】
アミド化及びエステル化は段階的に又は同時に行ってよい。
アミド化及びエステル化は通常の酸触媒によるアミド化及びエステル化(又はエステル交換)、酸塩化物法、混合酸無水物法、並びに脱水縮合剤としてN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いるDCC法、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いるEDC法、及びカルボニルジイミダゾール(CDI)を用いるCDI法等で行なうことができる。
【0032】
本発明の光学活性アミノアルコール誘導体は、再結晶又は光学活性カラムによる分離・精製後に、比旋光度分析、1H-NMR、13C-NMR等により光学純度を決定することができる。
【0033】
本発明の、光学活性アミノアルコール誘導体を配位子とする第4族〜第10族金属元素の化合物から成る錯体触媒に関して詳細に説明する。
本発明で用いる第4族〜第10族元素としては、Ti, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Cr, Mo, W, Mn, Re, Fe, Ru, Os, Co, Rh, Ir, Ni, Pd及びPt等の、第4周期〜第6周期の元素を含む。これらの元素の内、Ti, Zr, Hf, Mo, W, Fe, Ru, Rh, Ni, Pd及びPtが好ましく、Ti, Mo及びWが特に好ましい。
これら金属元素の化合物としては、0価〜低原子価の金属元素化合物が好ましく、例えば、金属カルボニル化合物、金属π‐フェニル型化合物、金属シクロペンタジエニル(C5H6)化合物、金属シクロヘプタトリエニル(C7H8)化合物、金属アルキル化合物、金属アルコキシド化合物等が挙げられる。具体的に例示すれば、Ti(O-i-Pr)4, Mo(CO)6, W(CO)4, Fe(CO)3(C5H6), Mo(CO)3(C7H8)等が挙げられる。
これらの金属元素化合物は光学活性アミノアルコール誘導体と溶液中で接触することによって、光学活性アミノアルコールを配位子として錯体触媒を形成する。得られる錯体触媒は、反応液を濃縮等して固体として単離・精製して不斉反応に用いることもできるが、溶液中に溶解又は分散した状態で不斉反応に用いることもできる。
【0034】
本発明の、前記錯体触媒を用いる不斉反応方法に関して詳細に説明する。
本発明の不斉反応として好ましいのは、特にアルキル亜鉛を用いた不斉エチル化反応、及び、1-フェニルフェニルアセテートのフェニル位のマロン酸ジメチルによる不斉アルキル化反応等が挙げられる。
【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
不斉反応に用いる触媒は、本発明の光学活性アミノアルコール誘導体と金属化合物を溶液中で接触することによって得られる錯体触媒を、単離精製せずにそのまま溶液中に溶解又は分散している状態で反応に用いることができる。または、得られる錯体触媒を含む溶液を濃縮、再結晶等することにより、単離精製して不斉反応に用いることもできる。
不斉反応において、反応基質及び錯体触媒の添加順序に制限はないが、反応溶媒中に予め光学活性アミノアルコール及び金属元素化合物を添加・混合して錯体触媒の形成を促しておき、その後に反応基質中に添加、例えば滴下して反応させることが好ましい。
反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びエチレンジクロリド(EDC)等のハロゲン化炭化水素が用いられる。
反応温度は‐80℃〜200℃、好ましくは、-78℃〜150℃、より好ましくは20℃〜120℃の範囲である。反応生成物のエナンチオ選択性(光学収率)を高めるためには低温での反応が好ましいが、反応速度との兼ね合いで最適反応温度を選択し得る。
反応時間は特に制限はないが、通常、1時間〜60時間、好ましくは2時間〜24時間、より好ましくは4時間〜12時間の範囲である。
反応は、反応容器を窒素等の不活性ガスで置換し、反応溶媒、光学活性アミノアルコール、金属元素化合物、及び反応基質を添加し、攪拌下、所定温度にて所定時間反応を行う。反応の進行を、例えば薄層クロマトグラフィ(TLC)、ガスクロマトグラフィ(GC)又はカラムクロマトグラフィ等の分析手段で確認し、所望の転化率が得られた時点で反応を停止する。反応停止は、反応液に大量の水または塩酸等の鉱酸を加えて触媒を失活させた後、苛性ソーダ等で中和し、酢酸エチル又はEDC等の抽出溶媒で抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ソーダ等で乾燥した後、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段で生成物を単離・精製する。
得られた生成物は、1H-NMR、13C-NMR、IR、質量分析(MS)、融点(m.p.)測定等によって分析して、化学組成および化学構造を決定することができる。
生成物の光学純度は、旋光計、1H-NMR、13C-NMR、光学活性カラムを用いたHPLC(高圧液相クロマトグラフィ)等によって決定することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1R,2S)-ピリジン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(ピリジン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル:(2-2)の合成:
【0039】
【化14】

【0040】
攪拌子を入れて乾燥した30 ml 容三ツ口フラスコを窒素ガスで置換した。N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)(1.7 g, 10.48 mmol)を無水THF(7.5 ml)に溶かし、ピコリン酸 (1.36 g, 11 mmol)を20℃で加えた。18-20℃で1時間攪拌した後、無水THF(2.5 ml)に溶かした(1R,2S)-ノルエフェドリン(I)(0.66 g, 4.38 mmol)を50 ℃以下に保ちながらゆっくり加え、20℃で15時間攪拌した。TLCにより反応の終了を確認した後、水を加え1時間攪拌した。溶媒を減圧留去すると、黄色粘性の液体を得た。シリカゲルカラム(溶出溶媒は、ヘキサン:AcOEt=1:10)により精製して真空下乾燥すると、白色結晶としてピリジン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(ピリジン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル 0.62 g(1.73 mmol, 収率40%)を得た。
【0041】
生成物の分析値を以下に示す。
なお、Rf:薄相クロマトグラフィにおける、溶媒先端の移動距離と生成物先端の移動距離の比率であり、m.p.は融点であり、1H-NMR はプロトンNMRのケミカルシフト値δであり、13C-NMR は炭素13 NMRのケミカルシフト値δであり、IRは赤外分析の級数波数(cm-1)であり、[α]D15は比旋光度である。
【0042】
Rf=0.08 (hexane:AcOEt=1:1);
m.p. 151-152 ℃;
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.35 (d, 3H, Jd=7.1 Hz, CH3), 4.77-4.88 (m, 1H, N-CH), 6.30 (d, 1H, Jd=3.9 Hz, O-CH), 7.25-7.43 (m, 5H, Ph), 7.49 (dd, 2H, Jd=7.3, 7.1 Hz, pyr H4 and H10), 7.84 (dd, 2H, Jd=4.6, 7.3 Hz, pyr H5 and H11), 8.16 (d, 1H, Jd=6.8 Hz, pyr H9 ), 8.18 (d, 1H, Jd=7.1 Hz, pyr H3 ), 8.21 (br, 1H, NH), 8.49 (d, 1H, Jd=4.6 Hz, pyr H6 ), 8.79 (d, 1H, Jd=4.6 Hz, pyr H12 );
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 15.5, 48.9, 78.8, 122.2, 125.3, 126.1, 126.6, 126.9, 128.1, 128.4, 136.9, 137.3, 148.0, 148.0, 149.6, 150.1, 163.7, 164.1;
IR (KBr-solid): 3347, 3058, 1738, 1658, 1519, 1459, 1281, 1239, 1137, 1085, 969 cm-1;
[α]D15=26.5 (c 0.5, CHCl3)。
【0043】
実施例2
(1R,2S)-ピリジン-2-カルボン酸(2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-3)の合成:
【0044】
【化15】

【0045】
攪拌子を入れて乾燥した30 ml 容三ツ口フラスコを窒素ガスで置換した。N,N’-カルボニルジイミダゾール(0.7 g, 4.38 mmol)を無水THF(7.5 ml)に溶かし、ピコリン酸(0.54 g, 4.38 mmol)を室温で加えた。18-20℃で1時間攪拌した後、無水THF(2.5 ml)に溶かした(1R,2S)-ノルエフェドリン(I)(0.66 g, 4.38 mmol)を50℃以下に保ちながらゆっくり加え、20℃で15時間攪拌した。TLCにより反応の終了を確認した後、水を加え1時間攪拌した。溶媒を減圧留去すると、黄色粘性の液体を得た。シリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=2:1)により精製して真空下乾燥すると、無色液体としてピリジン-2-カルボン酸(2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド (0.77 g、3.01 mmol, 収率69 %)を得た。
【0046】
生成物の分析値を以下に示す:
Rf=0.41 (hexane:AcOEt=1:1);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.15 (d, 3H, Jd=6.8 Hz, CH3), 3.64 (d, 1H, OH), 4.50 (dq, 1H, Jd=4.1, 11.2, N-CH), 5.00 (dd, 1H, Jd=3.3, 3.3 Hz, O-CH), 7.25-7.45 (m, 6H, Ph and pyr H6), 7.85 (ddt, 1H, Jd=0.5, 1.7, 7.8 Hz, pyr H5 ), 8.20 (d, 2H, Jd=7.8 Hz, NH and pyr H3), 8.51 (dt, 1H, Jd=0.7, 4.9 Hz, pyr H4);
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 14.3, 51.2, 76.6, 122.3, 126.2, 126.4, 127.5, 128.2, 137.4, 140.8, 148.1, 149.6, 164.7;
IR (NaCl-liquid): 3374, 3060, 2981, 1664, 1521, 1457, 1170, 999, 820, 750, 702 cm-1;
[α]D15=-57.5 (c 0.5, CHCl3).
【0047】
実施例3及び4
(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 2-[(イソキノリン-1-カルボニル)-アミノ]-1-フェニルプロピルエステル:(2-4)、及び(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-5)の合成:
【0048】
【化16】

【0049】
攪拌子を入れて乾燥した30 ml 容三ツ口フラスコを窒素ガスで置換した。N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)(1.17 g, 7.2 mmol)を無水THF(7.5 ml)に溶かし、1-イソキノリンカルボン酸 (1.30 g, 7.5 mmol)を20℃で加えた。18-20℃で1時間攪拌した後、無水THF(2.5 ml)に溶かした(1R,2S)-ノルエフェドリン(I)(0.45 g, 3 mmol)を50℃以下に保ちながらゆっくり加え、20℃で15時間攪拌した。TLCにより反応の終了を確認した後、水を加え1時間攪拌した。溶媒を減圧留去すると、黄色粘性の液体を得た。イソキノリン-1-カルボン酸 2-[(イソキノリン-1-カルボニル)-アミノ]-1-フェニルプロピルエステルは、シリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=1:2)により精製して真空下乾燥すると、無色液体として(157 mg、0.34 mmol, 収率11%)を得た。イソキノリン-1-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミドは、シリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=3:1)により精製して真空下乾燥すると、白色結晶として(791 mg、2.58 mmol, 収率86%)を得た。
【0050】
以下に、生成物の分析値を示す:
(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 2-[(イソキノリン-1-カルボニル)-アミノ]-1-フェニルプロピルエステル:(2-4):
Rf=0.37 (hexane:AcOEt=1:1);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.38 (d, 3H, Jd=6.8 Hz, CH3), 4.86-4.98 (m, 1H, N-CH), 6.53 (d, 1H, Jd=3.7 Hz, O-CH), 7.30-7.56 (m, 5H, Ph), 7.58-7.74 (m, 4H, isoquinoline H5, H9, H18 and H19), 7.76 (d, 1H, Jd=5.4 Hz, isoquinoline H15), 7.78-7.90 (m, 3H, isoquinoline H8, H10 and H20), 8.38 (d, 1H, Jd=5.6 Hz, isoquinoline H6), 8.48 (brd, 1H, Jd=9.6 Hz, NH), 8.55 (d, 1H, Jd=8.2 Hz, isoquinoline H16), 8.64 (d, 1H, Jd=5.6 Hz, isoquinoline H17), 9.52 (d, 1H, Jd=8.4 Hz, isoquinoline H7);
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 15.0, 49.1, 78.8, 123.7, 124.2, 126.3, 126.5, 126.7, 127.0, 127.0, 127.8, 128.0, 128.4, 128.5, 128.5, 130.4, 130.4, 136.7, 137.2, 137.3, 140.2, 140.2, 141.8, 148.1, 149.6, 165.5;
IR (NaCl-liquid): 3376, 3056, 2981, 1730, 1668, 1507, 1281, 1246, 1145, 1012, 836, 751, 702 cm-1;
[α]D15=-0.4 (c 0.25, CHCl3)。
【0051】
(1R,2S)-イソキノリン-1-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-5):
Rf=0.58 (hexane:AcOEt=1:1);
m.p. 61-62 ℃;
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.19 (d, 3H, Jd=6.8 Hz, CH3), 3.83 (br, 1H, OH), 4.57 (dq, 1H, Jd=2.9, 6.8 Hz, N-CH), 5.08 (s, 1H, O-CH), 7.25-7.40 (m, 3H, Ph), 7.45 (d, 2H, Jd=7.3 Hz, Ph), 7.64-7.76 (m, 3H, isoquinoline H5, H8 and H9), 7.82 (d, 1H, Jd=7.6 Hz, isoquinoline H10), 8.31 (br d, 1H, Jd=8.0 Hz, NH), 8.37 (d, 1H, Jd=5.6 Hz, isoquinoline H6), 9.54 (d, 1H, Jd=8.3 Hz, isoquinoline H7);
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 14.3, 51.3, 76.6, 124.4, 126.4, 126.8, 127.0, 127.5, 127.7, 128.2, 128.6, 130.5, 137.3, 140.2, 140.9, 148.1, 166.5;
IR (KBr-solid): 3374, 3057, 1654, 1516, 1451, 1381, 1331, 1158, 996, 833, 745, 702 cm-1;
[α]D15=-95.2 (c 1, CHCl3)。
【0052】
実施例5及び6
(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(キノリン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル:(2-6)、及び(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-7)の合成:
【0053】
【化17】

【0054】
攪拌子を入れて乾燥した30 ml容三ツ口フラスコを窒素ガスで置換した。N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)(1.17 g, 7.2 mmol)を無水THF(7.5 ml)に溶かし、2-キノリンカルボン酸 (1.30 g, 7.5 mmol)を20℃で加えた。18-20℃で1時間攪拌した後、無水THF(2.5 ml)に溶かした(1R,2S)-ノルエフェドリン(I)(0.45 g, 3 mmol)を50℃以下に保ちながらゆっくり加え、20℃で15時間攪拌した。TLCにより反応の終了を確認した後、水を加え1時間攪拌した。溶媒を減圧留去すると、黄色粘性の液体を得た。キノリン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(キノリン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステルは、シリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=1:2)により精製して真空下乾燥すると、白色結晶(157 mg、0.34 mmol, 収率11%)として得た。キノリン-2-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミドは、シリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=3:1)により精製して真空下乾燥すると、白色結晶(791 mg、2.58 mmol, 収率86%)として得た。
【0055】
生成物の分析値を以下に示す:
(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 1-フェニル2-[(キノリン-2-カルボニル)-アミノ]-プロピルエステル:(2-6)
Rf=0.58 (hexane:AcOEt=1:1);
m.p. 91-92 ℃;
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.44 (d, 3H, Jd=7.1 Hz, CH3), 4.95 (dq, 1H, Jd=2.9, 6.8 Hz, N-CH), 6.39 (d, 1H, Jd=3.9 Hz, O-CH), 6.39 (d, 1H, Jd=7.1 Hz, O-CH), 7.34 (dd, 1H, Jd=7.1, 7.8 Hz, quinoline H8), 7.41 (dd, 2H, Jd=7.1, 7.8 Hz, quinoline H9 and H18), 7.56-7.73 (m, 5H, Ph), 7.78 (dd, 1H, Jd=1.2, 7.1 Hz, quinoline H19), 7.86 (d, 1H, Jd=7.8 Hz, quinoline H7), 7.88 (d, 1H, Jd=7.8 Hz, quinoline H17), 7.96 (d, 1H, Jd=8.3 Hz, quinoline H13), 8.20 (d, 1H, Jd=8.5 Hz, quinoline H10), 8.29 (d, 3H, Jd=7.1 Hz, quinoline H3, H14 and H20), 8.31 (br d, 1H, Jd=8.0 Hz, NH), 8.48 (d, 1H, Jd=9.3 Hz, quinoline H4);
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 15.9, 48.8, 79.0, 118.8, 121.0, 126.9, 127.4, 127.7, 127.8, 128.3, 128.5, 128.6, 129.3, 129.7, 129.9, 130.1, 131.0, 136.7, 137.2, 137.4, 146.4, 163.9, 164.2;
IR (KBr-solid): 3381, 3060, 1724, 1676, 1523, 1499, 1315, 1139, 1105, 846, 775, 702 cm-1;
[α]D15=87.7 (c 0.25, CHCl3)。
【0056】
(1R,2S)-キノリン-2-カルボン酸 (2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル)-アミド:(1-7)
Rf=0.59 (hexane:AcOEt=1:1);
m.p. 110-111 ℃;
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.20 (d, 3H, Jd=7.1 Hz, CH3), 3.64 (d, 1H, Jd=3.7 Hz, OH), 4.56 (dt, 1H, Jd=2.9, 7.1 Hz, N-CH), 5.07 (t 1H, Jd=3.2 Hz, O-CH), 7.25-7.40 (m, 3H, Ph), 7.44 (d, 2H, Jd=7.3 Hz, Ph), 7.61 (dd, 1H, Jd=1.0, 7.1 Hz, quinoline H8), 7.75 (ddd, 1H, Jd=1.4, 5.4, 5.9 Hz, quinoline H8), 7.85 (d, 1H, Jd=8.0 Hz, quinoline H7), 8.07 (d, 1H, Jd=8.0 Hz, quinoline H10), 8.29 (d, 2H, Jd=8.0 Hz, NH and quinoline H3), 8.43 (d, 1H, Jd=8.0 Hz, quinoline H4);
13C-NMR (136 MHz, CDCl3)δ: 14.4, 51.3, 76.5, 118.8, 126.4, 127.5, 127.7, 127.9, 128.2, 129.3, 129.7, 130.0, 137.5, 140.7, 146.4, 164.9;
IR (KBr-solid): 3360, 2985, 1649, 1526, 1499, 1425, 1164, 1002, 775, 745, 700, 624 cm-1;
[α]D15=5.6 (c 0.25, CHCl3)。
【0057】
実施例7
次に、実施例1〜6で得られた生成物の光学活性アミノアルコール誘導体を、Mo(CO)3(C7H8)の配位子として用いて、錯体触媒を製造し、その触媒を用いてフェニル位不斉アルキル化反応を実施した。(*印:不斉炭素)
【0058】
【化18】

【0059】
撹拌子を入れて乾燥した10 ml容ナス型フラスコ×2を、窒素ガスで置換した。まず、配位子(15 mol%)およびMo(CO)3(C7H8) (10 mol%)を脱気した無水トルエン(3 ml)に溶解し、脱気しながら20℃で15分攪拌した後、オイルバス80℃で1時間攪拌して、モリブデン錯体触媒を合成した。
もう1つの10 ml容ナス型フラスコにマロン酸ジメチル(IX)(2.1mmol)および60% NaH (2mmol)を、脱気した無水トルエン(8 ml)に溶解し、脱気しながら20℃で30分攪拌し、そこに1-フェニルフェニル酢酸エステル(VII)(1 mmol)を加え、20℃で15分攪拌した後、オイルバス80℃で5分攪拌した。この調製した溶液に、最初に調製したモリブデン錯体触媒の溶液を加え、オイルバス80℃で24時間攪拌した。TLCにより生成物を確認した後、酢酸エチルを加えた。酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムを加えて2時間放置して乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別して溶媒を減圧留去して得られた液体をシリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=13:1)により精製して真空下乾燥すると、無色液体としてジメチル 1-フェニル2-プロペニルマロネート (XI)を得た。得られた結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明による光学活性アミノアルコール誘導体は、医薬、農薬または機能性材料物質等を製造する際の中間体として用いられ得る。前記誘導体と金属化合物から成る金属錯体触媒は、医薬、農薬または機能性材料物質等の製造に有用な不斉アルキル化反応等の不斉反応に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A)で表される光学活性アミノアルコール誘導体:
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれアルキル基又はハロゲン原子、アルキル基もしくはアルコキシ基で置換されてよいフェニル基を表し、R3及びR4はそれぞれ水素原子(但し、同時には水素原子でない)又は一般式(B):
【化2】

[式中、Ar(X)は、ヘテロ原子含有官能基を有するフェニル基または置換基を有してよい複素環を表す]を表し、*印は不斉炭素を表す。]
【請求項2】
光学活性アミノアルコール誘導体が、一般式(1)で表される光学活性アミドアルコール及び一般式(2)で表される光学活性アミドエステルから選ばれる少なくとも1種の光学活性アミノアルコール誘導体:
【化3】

[式中、R1、R2及び*は上記と同義である。]である、請求項1に記載の光学活性アミノアルコール誘導体。
【請求項3】
請求項1の光学活性アミノアルコール誘導体及び第4族〜第10族金属元素化合物から成る錯体触媒。
【請求項4】
請求項3に記載の錯体触媒を用いて、不斉反応を行う方法。
【請求項5】
不斉反応が、不斉アルキル化反応である、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2010−248077(P2010−248077A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96083(P2009−96083)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】