説明

光学活性ピペリジン誘導体の製造方法

【課題】脂肪族イミンを反応基質とし、光学活性ニオブ触媒を用いた不斉アザディールス−アルダー反応による高エナンチオ選択的な光学活性ピペリジン誘導体の製造法の提供。
【解決手段】光学活性ニオブ触媒と、イミダゾール誘導体と、モレキュラーシーブスとの存在下、反応基質として相当するダニシエフスキージエンと、反応基質として次式(II)


(R5は置換基を有していてもよい飽和炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基;R6〜R9は水素原子、炭化水素基、又はアルコキシ基)で表わされるイミンとを反応させ、光学活性ピペリジン誘導体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば光学活性医薬品等の中間体として好適に使用できる光学活性ピペリジン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学活性なピペリジン類やテトラヒドロキノリン類などの複素環化合物の合成方法として、不斉アザ ディールス−アルダー反応が有用な手法であると考えられている。なかでも、一般に高価な不斉源の必要量が少なく、かつ適用範囲の広い、触媒量の不斉源を用いたエナンチオ選択的な不斉アザ ディールス−アルダー反応の実用的な手法の開発が急がれている。
このようなことから、本発明者らは、触媒量の不斉源で光学活性ピペリジン類をエナンチオ選択的に得られる技術を提案した(特許文献1参照)。この技術は、ジルコニウム、ハフニウムまたはチタンを中心金属とする光学活性なルイス酸触媒の存在下、出発原料であるアルジミン化合物とダニシエフスキージエンとを反応させるものである。
一方、本発明者らは、イミンやヒドラゾンにケイ素エノラートを不斉求核付加反応させる際の触媒として、5価のニオブ化合物と光学活性なビナフトール誘導体を含むトリオールとを混合したものを提案した(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3691235号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/84803号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した不斉アザ ディールス−アルダー反応を用い、イミンを反応基質として得られる光学活性ピペリジン誘導体は、医薬、農薬、香料、又はそれらの合成中間体等の多種の生成物を得られるため重要である。
しかしながら、特許文献1記載の技術を用いても、脂肪族イミンを反応基質とした場合には、光学活性ピペリジン誘導体の収率やエナンチオ選択性が低いという問題がある。
従って本発明は、脂肪族イミンを反応基質とし、光学活性ニオブ触媒を用いた不斉アザ ディールス−アルダー反応により、光学活性ピペリジン誘導体を高エナンチオ選択的に得ることができる光学活性ピペリジン誘導体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の光学活性ピペリジン誘導体の製造方法は、5価のニオブ化合物と(R)−体又は(S)−体からなり光学活性なビナフトール誘導体を含むトリオールとを混合してなる光学活性ニオブ触媒と、イミダゾール誘導体と、モレキュラーシーブスとの存在下、反応基質として次式(I)
【化1】

(R1,R3はそれぞれ炭化水素基であり、R3は互いに同一でも異なっていてもよく;R2,R4はそれぞれ水素原子または炭化水素基)で表わされるダニシエフスキージエンと、反応基質として次式(II)
【化2】

(R5は置換基を有していてもよい飽和炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基;R6〜R9は水素原子、炭化水素基、又はアルコキシ基)で表わされるイミンとを反応させ、次式(III)
【化3】

で表わされる光学活性ピペリジン誘導体を得る。
【0006】
前記ニオブ化合物が式NbX(式中、Xはアルコキシドまたはハロゲン原子を表す)で表されることが好ましい。
【0007】
前記トリオールは式IV
【化4】

で表される(式中、Yは2価の炭化水素基を表す)ことが好ましい。
【0008】
前記トリオールは式V
【化5】

(式中、R10は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す)で表されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、脂肪族イミンを反応基質とし、光学活性ニオブ触媒を用いた不斉アザ ディールス−アルダー反応により光学活性ピペリジン誘導体を高エナンチオ選択的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<光学活性ニオブ触媒>
本発明に用いる光学活性ニオブ触媒は、5価のニオブ化合物と、(R)−体又は(S)−体からなり光学活性なビナフトール誘導体を含むトリオールとを混合してなる。
5価のニオブ化合物としては、特に制限されないが、例えばNbX(式中、Xはアルコキシドまたはハロゲン原子を表す)で表されるものが挙げられる。このうち、取扱いの容易なことから、Nbアルコキシド(特にNbメトキシド又はNbエトキシド)が好ましい。
ビナフトール誘導体を含むトリオールは、上記ニオブ化合物と混合されることにより、活性中心金属であるニオブに配位結合して配位子(リガンド)となり、全体として触媒作用を持つ。このトリオールにおいて、ビナフトール誘導体部分が(R)−体又は(S)−体からなり、光学活性を示す。このため、トリオールが不斉配位子となり、不斉触媒として機能する。
【0011】
前記トリオールとしては、例えば式IV
【化4】

で表される(式中、Yは2価の炭化水素基を表す)化合物や、式V
【化5】

(式中、R10は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表し;nは0〜2の整数を表す)で表される化合物を好適に用いることができる。
【0012】
上記化合物Vとしては、具体的には、R10がH、Et、i−Pr(イソプロピル)、t−Bu(tert-ブチル)、シクロヘキシルの群から選ばれる1種、n=0または1のものが例示できる。
【0013】
<触媒の調製>
上記ニオブ化合物とトリオールとの混合割合は、(ニオブ化合物)/(トリオール)の値で1/1〜1/2が好ましく、1/1〜1/1.3がより好ましい。
上記ニオブ化合物とトリオールとの混合方法は特に限定されないが、通常、有機溶媒中で上記各成分を混合し、適宜攪拌すればよい。有機溶媒としては、炭化水素やハロゲン化炭化水素などを好適に用いることができ、特に、塩化メチレン、トルエン、又はそれらの混合溶媒が好適である。混合温度に特に制約はないが、室温付近で混合するのが簡便であり、その後、室温から溶媒の沸点の間の温度(好ましくは60℃付近)で熟成するのが好適である。触媒の熟成時間は、通常30分から24時間、好ましくは1〜3時間の範囲である。
【0014】
<その他の成分>
上記光学活性ニオブ触媒に対し、さらにイミダゾール誘導体を含有させると、触媒特性が良好となる。イミダゾール誘導体として、特にN−メチルイミダゾールが好適である。イミダゾール誘導体の含有量は、上記ニオブ化合物と等モル程度とするのが好ましい。イミダゾール誘導体は、上記トリオールとニオブ化合物とを混合した後、又は、後述する反応基質に求核剤を加える前に添加するとよい。
さらに、この系にモレキュラーシーブを含有させると、触媒特性が良好となる。モレキュラーシーブ(Molecular Sieves)は、アルミノケイ酸塩質の結晶性合成ゼオライトであり、特異な吸着特性を持つ。気孔の内径を示す規格(3A〜5A、10A等)があり、通常、3Aが好適である。モレキュラーシーブの含有量は、上記ニオブ化合物とトリオールの混合攪拌に支障ない範囲であればよいが、通常、有機溶媒1mlあたり5〜200mg、好ましくは5〜50mgである。
【0015】
<反応基質>
本発明における反応基質は、次式(I)
【化1】

(R1,R3はそれぞれ炭化水素基であり、R3は互いに同一でも異なっていてもよく;R2,R4はそれぞれ水素原子または炭化水素基)で表わされるダニシエフスキージエンと、
次式(II)
【化2】

(R5は置換基を有していてもよい飽和炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基;R6〜R9は水素原子、炭化水素基、又はアルコキシ基)で表わされるイミンとを用いる。
【0016】
R1としては、メチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
R2としては、水素原子、メチル基等が挙げられる。
R3としては、メチル基等が挙げられる。
R4としては、水素原子、メチル基等が挙げられる。
R5としては、イソプロピル、シクロプロピル、イソブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、n-ヘキシル、フェニル、p-トリル、o-トリル、p-メトキシフェニル、o-トリフルオロメチルフェニル、o-クロロフェニル、2-ナフチル、2-ピリジル、3-ピリジル、2-チオフェニル等が挙げられる。
R6〜R9としては、水素原子、メチル基、メトキシ基等が挙げられる。
【0017】
上記式(I)のダニシエフスキージエンの具体例としては、
【化15】

で表される化合物が挙げられる。
上記式(II)のイミンの具体例としては、
【化16】

で表される化合物が挙げられる。
なお、脂肪族イミンは一般に不安定で単離が困難であるが、本発明においては、脂肪族アルデヒドと種々のアミノフェノール類を原料として用いることで、対応する脂肪族イミンが同じ反応容器内で生成し、そのまま単離することなく不斉アザ ディールス−アルダー反応を行うことができる。
【0018】
<反応基質の添加>
上記触媒に上記反応基質を添加する方法は特に制限はないが、一般的には、溶媒に溶かした反応基質を上記触媒を含む溶液に滴下すればよい。反応温度は反応基質の種類によって適宜選択できるが、通常は−78℃〜室温、好ましくは−40℃〜0℃とすることができる。反応時間は通常1〜72時間で終了する。上記した触媒や溶媒を含む反応系における反応基質の濃度は好ましくは0.05〜1.0mol/l、より好ましくは0.1〜0.5mol/l程度である。
【0019】
上記反応基質に上記触媒を用い、不斉アザ ディールス−アルダー反応を進行させると、次式(III)
【化3】

で表わされる光学活性ピペリジン誘導体を高エナンチオ選択的に得ることができる。例えば、多くの場合、化学収率90%以上、光学収率90%以上で光学活性ピペリジン誘導体を得ることができる。
【0020】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
<ビナフトール誘導体を含むトリオールの調製>
図1に示す反応式に従って、トリオールを調製した。
まず、水素化ナトリウム(275mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(120ml)に懸濁させ、そこにTHF(30ml)に溶解した2−イソプロピルフェノール(111mmol、図1の記号A1)を0℃で滴下した。30分後、この溶液にクロロメチルメチルエーテル(221mmol)を加え、室温まで加温した後、メタノールと水を続けて加え反応を停止した。水相をエーテルで抽出し、有機層を併せて水、飽和食塩水の順に続けて洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥物について、溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより1−イソプロピル−2−メトキシメトキシベンゼン(17.5g、収率87%、図1の記号A2)を得た。
【0022】
上記化合物A2を15.0g(83mmol)と、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)100g(53mmol)とを含むTHF(200ml)溶液に、−78℃でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(100mmol/64ml)を滴下した。30分後、混合溶液を0℃に昇温して1時間攪拌後、再び−78℃に冷却し、ジメエチルホルムアミド(DMF)(15.9ml)をゆっくりと滴下した。反応溶液をゆっくりと室温まで昇温した後、塩化アンモニウムの飽和水溶液に注いだ。水層をエーテルで抽出し、有機層を併せて水、飽和食塩水の順に続けて洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥物について、溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、3−イソプロピル−2−メトキシメトキシベンズアルデヒド(12.9g、収率74%、図1の記号A3)を得た。生成物A3のH−NMR(CDCl3)の化学シフト(δ)は以下である。
δ(ppm) :1.25 (d, 6H, J = 7.1 Hz), 3.40 (sept, 1H, J = 7.1 Hz), 3.60 (s, 3H), 5.06 (s, 1H), 7.25 (dd, 1H, J = 7.6, 7.6 Hz), 7.55 (dd, J = 1.7, 7.6 Hz), 7.70 (dd, 2H, J = 1.7, 7.6 Hz), 10.3 (s, 1H)
【0023】
次に、(R)−2,2'−ビス(メトキシメトキシ)−[1,1']ビナフタレン(37.9mmol、図1の記号A4)とTMEDA(45.1mmol)とを含むエーテル(450ml)溶液に、室温下でn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(45.4mmol/28.9ml)を滴下した後、1.5時間攪拌した。混合溶液を−78℃に冷却後、上記生成物A3(22.9mmol)のエーテル(50ml)溶液を滴下した。反応溶液をゆっくりと室温まで昇温した後、塩化アンモニウムの飽和水溶液に注いだ。水層をエーテルで抽出し、有機層を併せて水、飽和食塩水の順に続けて洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥物について、溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、ほぼ1:1のジアステレオマー比で、(R)−(2,2'−ジメトキシメトキシ−[1,1']ビナフチル−3−イル)−(3−イソプロピル−2−メトキシメトキシフェニル)メタノール(12.2g、収率92%、図1の記号A5)を得た。
【0024】
上記生成物A5(21mmol)のジクロロメタン(35ml)溶液に、氷冷下にて塩化水素飽和メタノール(35ml)を加え、2時間攪拌した。この混合溶液に炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を加えて中和し、有機層を分離した。水層を塩化メチレンで抽出し、上記有機層を併せて、水、飽和食塩水の順に続けて洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥剤を濾別し、残った乾燥物について溶媒を減圧留去した。得られた粗アルコール(図1のA6)の塩化メチレン(100ml)溶液に、トリエチルシラン(67.2mmol)を0℃で加え、続いて、三フッ化ホウ素−エーテル錯体(65.1mmol)を滴下した。反応溶液を一晩攪拌した後、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を加えて中和し、有機層を分離した。残った水層を塩化メチレンで抽出し、上記有機層を併せて、水、飽和食塩水の順に続けて洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥剤を濾別後、残った乾燥物について溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、最終生成物である[(R)−3−(2−ヒドロキシ−3−イソプロピルベンジル)−[1,1']ビナフタレン2,2'−ジオール](6.2g、収率68%、2段階、図1の記号A7、ここでRはi−Pr基)を得た。なお、図1中、MOMはメトキシメトキシ基を示す。
【0025】
生成物A7のH−NMR(CDCl3)の化学シフト(δ)は以下である。
δ(ppm) :1.20 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 1.21 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 3.25 (sept, 1H, J = 6.8 Hz), 4.17 (d, 1H, J = 14.9 Hz), 4.23 (d, 1H, J = 14.9 Hz), 4.99 (s, 1H), 5.63 (s, 1H), 6.51 (s, 1H), 6.90 (ddd, 1H, J = 1.5, 7.5, 7.5 Hz), 7.08-7.11 (m, 3H), 7.22-7.39 (m, 6H), 7.82 (d, 1H, J = 7.9 Hz), 7.88 (d, 1H, J = 8.1 Hz), 7.93 (s, 1H), 7.97 (d, 1H, J = 9.0 Hz)
又、 13C NMR (CDCl3) の化学シフトは以下である。: 22.5, 22.8, 27.1, 31.5, 108.9, 110.6, 111.5, 117.8, 120.6, 124.1, 124.2, 124.5, 124.9, 125.9, 127.1, 127.6, 128.0, 128.1, 128.5, 128.8, 129.5, 129.9, 131.2, 131.7, 132.2, 133.2, 135.8, 149.8, 151.1, 152.8.
(なお、図1中のA7のR1はA5,A6と同様、イソプロピル基(i−Pr)である)
【0026】
又、生成物A7の比旋光度([α]D30)、融点(Mp)、及び赤外吸収(IR)スペクトルは以下のとおりである。
[α]D30 :+63.6 (c 1.03, THF)
Mp :205-206 °C.
IR (KBr) :3505, 3425, 1592, 1463, 820, 751 cm-1
なお、上記NMRスペクトル(H−NMR、13C−NMR)は、JEOL-LA300またはJEOL-LA500(日本電子社製のNMR(核磁気共鳴)装置)で測定した。旋光度は、JASCO P-1010(日本分光社製の旋光度計)で測定した。IRスペクトルは、JASCO FT/IR-610(日本分光社製のフーリエ変換IR装置)で測定した。
【0027】
<不斉ディールス−アルダー反応>
【化6】

上記生成物A6(7.8 mg, 0.016 mmol)のトルエン溶液(1.0 mL)に対し、N-メチルイミダゾール (1.5 μl, 0.016 mmol)を加えた。5分間攪拌した後、Nb(OMe)5 (3.7 mg, 0.015 mmol)を固体のまま加えた。壁に残ったNb(OMe)5をトルエン(0.5 mL)で洗い込み、その触媒混合液を60℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、モレキュラーシーブス3A (25 mg)を加えた。この溶液を「触媒系」と称する。
その触媒溶液を反応温度まで冷却し、イミン(式(VI)中の符号6C;0.3 mmol)の塩化メチレン溶液(1.5 mL)を加え、次にダニシエフスキージエン (式(VI)中の符号6B;0.4 mmol, 100 μL)を加えた。48時間攪拌した後、反応液に飽和重曹水3 mLを加えて反応を停止した。この混合物より酢酸エチル(5 mL x 4)を用いて抽出した。
有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体を濾過にて除いた後、溶液を減圧濃縮し、得られた粗生成物を0 ℃に冷却した後、0.1 M塩酸のTHF溶液(10 mL)を加えて15分攪拌した。これを飽和重曹水を用いて塩基性とし、酢酸エチル(5 mL x 4)で抽出した。有機層を併せて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮した。得られた生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製し、目的物である光学活性ピペリジン誘導体6Dを得た。
【0028】
式(VI)中のイミン6Cの置換基R,R’を種々に変えたときに得られた目的物(光学活性ピペリジン誘導体)6Cの構造式及び各種物性を以下にそれぞれ示す。
【0029】
(i) (R)-1-(2-Hydroxyphenyl)-1-(naphthalen-2-yl)-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one:
【化7】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率89%、エナンチオ選択性92% eeの白色固体として得られた。
mp 201 °C; [α]22D :-11.3 (c 0.285, MeOH, 92% ee); IR (KBr) 1599s, 1558vs, 1510s, 1458m, 1290m, 1092s, 775m, 754m cm-1; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 10.1 (bs, 1 H), 8.06 (d, J = 8.4 Hz, 1 H), 7.89 (d, J = 8.4 Hz, 1 H), 7.78 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 7.75-7.70 (m, 2 H), 7.57-7.47 (m, 2 H), 7.40 (t, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.15 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 6.95-6.87 (m, 1 H), 6.85-6.80 (m, 1 H), 6.62 (t, J = 8.0 Hz, 1 H), 6.27-6.23 (m, 1 H), 4.95 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 3.20 (dd, J = 16.4 Hz, 6.8 Hz, 1 H), 2.72 (d, J = 16.0 Hz); 13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ= 188.7, 154.3, 151.1, 133.8, 133.6, 131.9, 129.5, 129.0, 128.0, 127.2, 126.5, 125.7, 125.5, 125.2, 124.1, 122.7, 119.3, 116.8, 97.9, 58.0, 42.7. HRMS (ESI) calculated for C21H18NO2+: 316.1332, found: 316.1342. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tmajor = 14.28 min, tminor = 17.28 min.
【0030】
(ii) (R)-1-(2-Hydroxyphenyl)-2-p-tolyl-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one :
【化8】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率90%、エナンチオ選択性94% eeの白色固体として得られた。
mp 165 °C; [α]22D : -160.9 (c 0.29, DCM, 94% ee); IR (KBr) 1558vs, 1512s, 1461s, 1290s, 1230s, 816s, 754s cm-1; 1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 7.35 (d, J = 6.6 Hz, 1 H), 7.10-7.05 (m, 2 H), 6.95-6.90 (m, 3 H), 6.90-6.85 (m, 1 H), 6.81-6.77 (m, 1 H), 6.63-5.57 (m, 1 H), 5.23-5.15 (m, 2 H), 3.16 (dd, J = 16.5 Hz, 6.8 Hz, 1 H), 2.77 (dd, J = 16.5 Hz, 6.2 Hz, 1 H), 2.16 (s, 3 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ= 192.4, 155.8, 151.9, 137.8, 135.6, 131.7, 129.4, 128.5, 127.0, 126.4, 119.8, 117.3, 98.7, 62.2, 42.9, 21.2. HRMS (ESI) calculated for C18H18NO2+ 280.1332, found: 280.1335. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 13.78 min, tmajor = 16.47 min.
【0031】
(iii) (R)-1-(2-Hydroxyphenyl)-2-(2-(trifluoromethyl)phenyl)-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one :
【化9】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率94%、エナンチオ選択性99% eeの黄色固体として得られた。
mp 93 °C; [α]22D:-227.6 (c 0.25, DCM, 99% ee); IR (KBr) 1565vs, 1456s, 1311vs, 1159s, 1114s, 1037s 755s cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 8.84 bs (1 H), 7.91 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 7.53 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.50-7.47 (m, 2 H), 7.33-7.22 (m, 1 H), 7.00-6.80 (m, 3 H), 6.70-6.60 (m, 1 H), 5.79 (t, J = 8.0 Hz, 1 H), 5.30 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 3.19 (dd, J = 17.2 Hz, 7.6 Hz, 1 H), 2.60 (dd, J = 16.4 Hz, 8.4 Hz, 1 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ= 191.3, 156.8, 151.5, 138.5, 132.3, 131.1, 128.4, 128.0, 127.3, 127.0, 126.1 (q, J = 3.9 Hz, 1 H), 126.07, 125.9, 119.9, 117.1, 98.8, 58.1, 43.5. HRMS (ESI) calculated for C18H15F3NO2+: 334.1049, found: 334.1041. HPLC: 2xAD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 62.01 min, tmajor = 65.78 min.
【0032】
(iv) (R)-2-(2-Chlorophenyl)-1-(2-hydroxyphenyl)-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one :
【化10】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率89%、エナンチオ選択性91% eeの黄色油状物質として得られた。
[α]22D :-93.2 (c 0.37, DCM, 91% ee); IR (KBr) 1562vs, 1291m, 1199m, 1092s, 669m cm-1; 1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ= 9.75 (s, 1 H), 7.42 =(d, J = 7.4 Hz, 1 H), 7.20 (s, 1 H), 7.10-7.05 (m, 3 H), 6.96-6.91 (m, 1 H), 6.85-6.81 (m, 2 H), 6.67-6.61 (m, 1 H), 5.25-5.20 (m, 1 H), 5.17 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 3.20 (dd, J = 16.4 Hz, 6.8 Hz, 1 H), 2.72 (dd, J = 17.2 Hz, 6.2 Hz, 1 H); 13C-NMR (150 MHz, CDCl3) δ= 191.6, 155.7, 151.6, 140.5, 134.3, 131.1, 129.9, 128.6, 128.1, 127.0, 126.1, 125.1, 119.9, 117.2, 98.7, 61.6, 42.4. HRMS (ESI) calculated for C17H15ClNO2+: 300.0786, found: 300.0790. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 10.62 min, tmajor = 12.08 min.
【0033】
(v) (R)-1-(2-Hydroxyphenyl)-2-(pyridin-3-yl)-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one :
【化11】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率74%、エナンチオ選択性92% eeの黄色固体として得られた。
mp 99 °C; [α]22D : -204.2 (c 0.28, DCM, 90% ee); IR (KBr) 1629s, 1565vs, 1512m, 1461m, 1290s, 1227s, 1195s, 1097s, 756m cm-1; 1H-NMR (600 MHz, CDCl3) δ = 11.1 (bs, 1 H), 8.53 (s, 1 H), 8.40-8.30 (m, 1 H), 7.75-7.65 (m, 1 H), 7.37 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.25-7.15 (m, 1 H, H-Ar), 6.95-6.83 (m, 2 H), 6.80-6.70 (m, 1 H), 6.70-6.60 (m, 1 H), 5.45-5.35 (m, 1 H), 5.20-5.10 (m, 1 H), 3.10-3.00 (m, 1 H), 2.85-2.75 (m, 1 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ= 190.7, 154.6, 152.1, 148.1, 147.9, 135.8, 135.1, 131.1, 128.6, 126.6, 123.9, 119.7, 117.0, 99.5, 60.1, 42.9. HRMS (ESI) calculated for C16H15N2O2+ 267.1128, found: 267.1120. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 55.07 min, tmajor = 67.51 min.
【実施例2】
【0034】
<三成分不斉アザ ディールス−アルダー反応>
実施例1と同様にして、ニオブ触媒に用いるトリオール(上記生成物A6)を調製した。ジクロロメタンまたはトルエン(1.0 mL)中で、硫酸マグネシウムを脱水剤として用い、2-アミノ-m-クレゾール(0.30 mmol)と脂肪族アルデヒド(0.03 mmol)から脂肪族イミンを調製した。これらを混ぜて2時間室温で攪拌した後、先端に脱脂綿を詰めたシリンジ針を用いて硫酸マグネシウムを濾過で除き、得られたイミン溶液を、実施例1と同一の触媒系に加えた。さらに0.5 mLの溶媒を用いて硫酸マグネシウムに付着したイミンを洗い、上記触媒系に加えた。
以後、ダニシエフスキージエン (式(VI)中の符号6B)を加え、目的物である光学活性ピペリジン誘導体を得るまでの反応操作、並びに上記触媒系に対する脂肪族イミン及びダニシエフスキージエンの添加量は実施例1と同一とした。
なお、この反応では、イミンを直接用いる代わりに、イミンの原料のアルデヒドとアミンを用いてイミンを調製し、そのイミンが同じフラスコ内でダニシェフスキージエンと反応する。
【0035】
式(II)中の脂肪族イミンの置換基R5を種々に変えたときに得られた目的物(光学活性ピペリジン誘導体)の構造式及び各種物性を以下にそれぞれ示す。
【0036】
(vi) (R)-2-Cyclohexyl-1-(2-hydroxy-5-methylphenyl)-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one :
【化12】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率67%、エナンチオ選択性90% eeの黄色固体として得られた。
mp 180°C; [α]22D :-120.4 (c 0.20, DCM, 90% ee); IR (KBr) 2928s, 1561vs, 1380m, 1081vs cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ= 9.62 (bs, 1 H), 7.30-7.26 (m, 1 H), 7.00-6.80 (m, 3 H), 5.03 (d, J = 7.6 Hz), 4.17-4.00 (m, 1 H), 3.18 (dd, J = 8.0 Hz, 8.0 Hz, 1 H), 2.60 (dd, J = 17.2 Hz, 3.2 Hz, 1 H), 2.26 (s, 3 H), 2.00-1.40 (m, 6 H), 1.20-0.90 (m, 5 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ = 192.8, 155.9, 149.5, 131.6, 129.2, 128.9, 126.9, 117.2, 97.0, 62.9, 40.1, 36.0, 29.5, 28.3, 26.13, 26.07, 26.03, 20.4. HRMS (ESI) calculated for C18H24NO2+, 286.1802 found: 286.1796. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 9.18 min, tmajor = 11.07 min.
【0037】
(vii) (R)-1-(2-Hydroxy-5-methylphenyl)-2-isopropyl-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one:
【化13】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率63%、エナンチオ選択性92% eeの褐色固体として得られた。
mp 73 °C; [α]22D :-133.3 (c 0.20, DCM, 92% ee); IR (KBr) 1620s, 1561vs, 1512s, 1246s, 1251s, 1092s cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 7.26 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.00-6.75 (m, 3 H), 5.04 (d, J = 7.2 Hz, 1 H), 4.17-4.07 (m, 1 H), 3.00-2.89 (m, 1 H), 2.65-2.55 (m, 1 H), 2.25 (s, 3 H), 2.15-2.00 (m, 1 H), 0.90 (d, J = 7.2 Hz, 3 H), 0.81 (d, J = 7.2 Hz, 3 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ= 193.2, 156.2, 149.9, 131.4, 129.3, 129.1, 127.3, 117.3, 97.2, 63.2, 35.4, 29.8, 20.5, 19.6, 17.6. HRMS (ESI) calculated for C15H19NNaO2+ 268.1308, found: 268.1294. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 1mL/min, tminor = 7.08 min, tmajor = 8.12 min.
【0038】
(viii) (S)-1-(2-Hydroxy-5-methylphenyl)-2-isobutyl-2,3-dihydropyridin-4(1H)-one:
【化14】

この光学活性ピペリジン誘導体は、収率47%、エナンチオ選択性90% eeの黄色固体として得られた。
mp 53 °C; [α]22D : -85.3 (c 0.25, DCM, 78% ee); IR (KBr) 1620s, 1561vs, 1511s, 1218s, 1090s, 817m cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ= 7.25-7.20 (m, 1 H), 6.97-6.90 (m, 2 H), 6.85 (s, 1 H), 5.11 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 4.25-4.15 (m, 1 H), 3.47 (dd, J = 16.8 Hz, 6.4 Hz, 1 H), 2.60 (dd, J = 16.8 Hz, 3.2 Hz, 1 H), 2.26 (s, 3 H), 1.85-1.75 (m, 1 H), 1.60-1.45 (m, 1 H), 1.40-1.30 (m, 1 H), 0.78 (d, J = 6.4 Hz, 3 H), 0.72 (d, J = 6.4 Hz, 3 H); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ= 192.3, 154.5, 149.6, 131.2, 129.5, 129.2, 127.2, 117.2, 97.7, 56.9, 39.1, 37.6, 24.3, 23.5, 21.4, 20.5. HRMS (ESI) calculated for C16H22NO2+: 260.1645, found: 260.1649. HPLC: AD-H, Hex/EtOH (9/1), 0.35mL/min, tmajor = 19.31 min, tminor = 20.58 min.
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ビナフトール誘導体を含むトリオールを調製するための反応を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
A7 最終生成物(ビナフトール誘導体を含むトリオール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5価のニオブ化合物と(R)−体又は(S)−体からなり光学活性なビナフトール誘導体を含むトリオールとを混合してなる光学活性ニオブ触媒と、イミダゾール誘導体と、モレキュラーシーブスとの存在下、
反応基質として次式(I)
【化1】

(R1,R3はそれぞれ炭化水素基であり、R3は互いに同一でも異なっていてもよく;R2,R4はそれぞれ水素原子または炭化水素基)で表わされるダニシエフスキージエンと、
反応基質として次式(II)
【化2】

(R5は置換基を有していてもよい飽和炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環基;R6〜R9は水素原子、炭化水素基、又はアルコキシ基)で表わされるイミンとを反応させ、
次式(III)
【化3】

で表わされる光学活性ピペリジン誘導体を得る光学活性ピペリジン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記ニオブ化合物が式
NbX
(式中、Xはアルコキシドまたはハロゲン原子を表す)で表される請求項1記載の光学活性ピペリジン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記トリオールは式IV
【化4】

で表される(式中、Yは2価の炭化水素基を表す)請求項1又は2記載の光学活性ピペリジン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記トリオールは式V
【化5】

(式中、R10は水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基を表し、nは0〜2の整数を表す)で表される請求項1又は2記載の光学活性ピペリジン誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191026(P2009−191026A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34250(P2008−34250)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】