説明

光学活性フェニルビスイミダゾリン−遷移金属錯体触媒

【課題】触媒分子中の詳細な環境の調製、触媒反応性の増大、立体選択性の向上が行なえる新規触媒の創成を目的とする。
【解決手段】下記化学式1で示される光学活性フェニルビスイミダゾリン-遷移金属錯体触媒とする。
【化1】


ただし、
M = Pd, Ni, Rh, Ru, Ir, Pt
R = R1CO, R2SO2, alkyl, aryl R1,R2はalkyl基またはaryl基
X = Cl, Br, I, OTf, CF3CO2, CH3CO2, H2O, SbF5, BF4, ClO4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性フェニルビスイミダゾリン-遷移金属錯体触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の工業的な合成プロセスは、環境に配慮した方法で行なうことが重要である。特に、医農薬品を含むファインケミカル類の合成においては、分子内に不斉炭素を有する場合が多く、これらの立体制御を行ないながら合成反応を行なおうとすると、環境に配慮した合成法からかけ離れてしまう場合も多い。このような観点から、近年の合成化学においては効率的な不斉合成触媒の開発が重要視されている。特に普遍的な合成反応に適用可能な触媒化合物として、ビスオキサゾリン−遷移金属錯体触媒が広く研究に用いられている(非特許文献1)。しかしながら、この触媒の配位子部分であるビスオキサゾリンを構成するオキサゾリン環は窒素と酸素を含む環状化合物であるため、その電子的・立体的な詳細な調整は限定される。このための解決法の一つとして、イミダゾリン環を含む不斉触媒が検討されてきた(非特許文献2、特許文献1)ものの、その電子的・立体的チューニング、立体選択性の発現、触媒量低減等の問題のすべての解決には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hisao Nishiyama Chem. Soc. Rev. 2007, 36, 1133-1141.
【非特許文献2】Takayshi Arai, Tomoe Mizukami, Naota Yokoyama, Daisuke Nakazato, Akira Yanagisawa Synlett 2005, 2670-2672.
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−099730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記点に鑑みたもので、触媒分子中の詳細な環境の調製、触媒反応性の増大、立体選択性の向上が行なえる新規触媒の創成を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,簡便に入手可能な光学活性ジアミン類からビスイミダゾリン誘導体を合成した。反応性、立体選択性の詳細チューニングを行なうために窒素上にいくつかの置換基を導入し、その遷移金属触媒を合成した。このことから本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記化学式1で示される光学活性フェニルビスイミダゾリン-遷移金属錯体触媒を特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
ただし、M はPd, Ni, Rh, Ru, Ir, Ptのいずれかであり、R はR1CO, R2SO2, alkyl, arylのいずれかであり、R1,R2はalkyl基またはaryl基であり、XはCl, Br, I, OTf, CF3CO2, CH3CO2, H2O, SbF5, BF4, ClO4のいずれかである。なお、後述する実施例では、上記のM,R,Xに関し上記で列挙した中の一部について適用した例を示すが、他のものについても同様に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0011】
なお、以下に説明する参考例1〜3は、実施例1〜4に記載の触媒を得るためのものである。
【参考例1】
【0012】

下記化学式2で示される[Phebim]Brの合成
【0013】
【化2】

【0014】
50 mLナスフラスコに2-ブロモベンゼン-1,3-ジアルデヒド(130 mg, 0.640 mmol)、及び(1S,2S)-1,2-ジフェニル-1,2-エタンジアミン(272 mg, 1.28 mmol)を加え、0℃まで冷却しジクロロメタン(7 mL)加えた。その後、室温にて3時間攪拌し、再び溶液を0℃まで冷却し、ジクロロメタン(15 mL)に溶解させたN-ブロモスクシンイミド(228 mg, 1.28 mmol)を滴下し、12時間攪拌した。次に反応溶液を飽和NaHCO3水溶液にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ジクロロメタンを減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール9:1)にて精製し、白色固体(361 mg, 94.4%)を得た。
【0015】
[Phebim]Brのスペクトル等
分子式 : C36H29BrN4 M.W. : 597.55
Rf = 0.32 (ジクロロメタン/メタノール9:1)
1H NMR (200 MHz, CDCl3): 7.68 (d, J = 7.8 Hz, 2H, Ar), 7.43-7.18 (m, 21H, Ar), 5.94 (br, 2H, NH), 4.80 (s, 4H, CH).
IR (KBr): 3391, 3060, 3028, 2908, 1707, 1619, 1577, 1493, 1452, 1279, 1191, 1030, 1006, 761, 698 cm-1
【参考例2】
【0016】
下記化学式3で示される[TolSO2-Phebim]Brの合成
【0017】
【化3】

【0018】
参考例1に記載した[Phebim]Br (300 mg, 0.502 mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(153 mg, 1.51 mmol)を30 mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(5 mL)に溶解させ、0℃に冷却した。次にジクロロメタン(7 mL)に溶解させた4-メチルベンゼンスルホニルクロライド(239 mg, 1.26 mmol)を滴下し、室温で4時間攪拌した。攪拌終了後、反応溶液を飽和NH4Cl水溶液にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ジクロロメタンを減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル6:4)にて精製し白色固体(419 mg, 92.0%)を得た。
【0019】
[TolSO2-Phebim]Brのスペクトル等
分子式 : C50H41BrN4O4S2 M.W. : 905.92 Rf = 0.47 (ヘキサン/酢酸エチル6:4)
1H NMR(200 MHz, CDCl3) δ 7.80-6.95 (br, 31H, Ar), 5.16 (br, 4H, CH), 2.40 (s, 6H, CH3).
IR (KBr): 3062, 3030, 2923, 1640, 1597, 1495, 1455, 1365, 1169, 1135, 1092, 803, 760, 698, 666 cm-1
【実施例1】
【0020】
下記化学式4で示される[TolSO2-Phebim]PdBrの合成
【0021】
【化4】

【0022】
参考例2に記載の[TolSO2-Phebim]Br (145 mg, 1.60×10-4 mol)、及びトリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(0) (84.5 mg, 8.16×10-5 mol)を30 mLナスフラスコに入れ、ベンゼン(6 mL)に溶解させた。その後溶液を10分間還流させ、ベンゼンを減圧下で留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン1:1)にて精製し黄色の固体(155 mg, 96.0%)を得た。
【0023】
[TolSO2-Phebim]PdBrのスペクトル等
分子式 : C50H41BrN4O4PdS2 M.W. : 1012.34 Rf = 0.34 (ジクロロメタン)
1H NMR (200 MHz, CDCl3) 8.68 (d, J = 8.2 Hz, 2H, Ar), 7.50-7.00 (m, 25H, Ar), 6.79 (d, J = 6.6 Hz, 4H, Ar) 5.31 (d, J = 3.0 Hz, 2H, CH), 5.19 (d, J = 3.0 Hz, 2H, CH), 2.40 (s, 6H, CH3).
IR (KBr): 3062, 3031, 1594, 1569, 1523, 1494, 1455, 1370, 1172, 1092, 1024, 997, 812, 754, 698, 681, 665 cm-1
【実施例2】
【0024】
下記化学式5で示される[TolSO2-Phebim]NiBrの合成
【0025】
【化5】

【0026】
参考例2に記載の[TolSO2-Phebim]Br (150 mg, 0.166 mmol)、及びビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0) (50 mg, 0.182 mmol)を30 mLナスフラスコに入れ、ベンゼン(7 mL)に溶解させた。その後溶液を2時間還流させ、ベンゼンを減圧下で留去した。次にジクロロメタンを加え不溶物を濾別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた固体をベンゼンで洗浄、クロロホルム/ヘキサンにて再結晶を行い、目的物(66.9 mg, 41.8%)を得た。
【0027】
[TolSO2-Phebim]NiBrのスペクトル等
分子式 : C50H41BrN4NiO4S2 M.W. : 964.61 Rf = 0.13 (酢酸エチル/ヘキサン 1:1)
1H NMR (200 MHz, CDCl3) 8.57 (d, J = 7.8 Hz, 2H, Ar), 7.51-7.00 (m, 25H, Ar), 6.79 (d, J = 6.6 Hz, 4H, Ar), 5.19 (d, J = 2.4 Hz, 2H, CH), 5.03 (d, J = 2.4 Hz, 2H, CH), 2.40 (s, 6H, CH3).
IR (KBr): 2925, 2852, 1457, 1376, 1173, 1092, 1025, 812, 756, 698, 665 cm-1
【参考例3】
【0028】
下記化学式6で示される[PhCO-Phebim]Brの合成
【0029】
【化6】

【0030】
参考例1に記載した[Phebim]Br (200 mg, 0.335 mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(123 mg, 1.00 mmol)を30 mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(5 mL)に溶解させ、0℃に冷却しジクロロメタン(4 mL)に溶解させたベンゾイルクロライド(118 mg, 0.837 mmol)を加えた後、室温で3時間攪拌した。攪拌終了後、反応溶液を飽和NH4Cl水溶液にて洗浄を行い、無水硫酸ナトリウムにて乾燥、ジクロロメタンを減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル1:1)にて精製し白色固体(263 mg, 97.6%)を得た。
【0031】
[PhCO-Phebim]Brのスペクトル等
分子式 : C50H37BrN4O2 M.W. : 805.76 Rf = 0.23 (ヘキサン/酢酸エチル1:1)
1H NMR(200 MHz, CDCl3) 7.48-6.94 (m, 33H, Ar), 5.30 (d, J = 7.8 Hz, 2H, CH), 5.23 (d, J = 7.8 Hz, 2H, CH).
IR (KBr): 3061, 3030, 2924, 1672, 1633, 1581, 1494, 1449, 1337, 1180, 1146, 757, 697 cm-1
【実施例3】
【0032】

下記化学式7で示される[PhCO-Phebim]PdBrの合成
【0033】
【化7】

【0034】
参考例3に記載の[PhCO-Phebim]Br (64.0 mg, 7.96×10-5mol)、及びトリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(0) (42.0 mg, 4.06×10-5 mol)を30 mLナスフラスコに入れ、ベンゼン(4 mL)に溶解させた。その後溶液を10分間還流させ、ベンゼンを減圧下で留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン1:1)にて精製し黄色の固体(70.4 mg, 96.9%)を得た。
【0035】
[PhCO-Phebim]PdBrのスペクトル等
分子式 : C50H37BrN4O2Pd M.W. : 912.18 Rf = 0.30 (酢酸エチル/ヘキサン 6:4)
1H NMR (200 MHz, CDCl3) 7.69 (d, J = 7.8 Hz, 2H, Ar), 7.50-7.02 (m, 31H, Ar), 5.22 (d, J = 2.4 Hz, 2H, CH), 5.13 (d, J = 2.4 Hz, 2H, CH).
IR (KBr): 3062, 3031, 1685, 1570, 1455, 1374, 1319, 1161, 1022, 758, 731, 696 cm-1
【実施例4】
【0036】
下記化学式8で示される[PhCO-Phebim]NiBrの合成
【0037】
【化8】

【0038】
参考例3に記載の[PhCO-Phebim]Br (60.0 mg, 7.64×10-5 mol)、及びビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0) (22.6 mg, 8.21×10-5 mol)を30 mLナスフラスコに入れ、ベンゼン(5 mL)に溶解させた。溶液を2時間還流させベンゼンを減圧下で留去した。次にジクロロメタンを加え不要物を濾別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた固体をメタノールで洗浄し、目的物(22.4 mg, 34.8%)を得た。
【0039】
[PhCO-Phebim]NiBrのスペクトル等
分子式 : C50H37BrN4NiO2 M.W. : 862.15 Rf = 0.47 (酢酸エチル/ヘキサン 1:1)
1H NMR(200 MHz, CDCl3) 7.60 (d, J = 8.0 Hz, 2H, Ar), 7.51-6.98 (m, 31H, Ar), 5.19 (d, J = 2.5 Hz, 2H, CH), 5.03 (d, J = 2.5 Hz, 2H, CH).
[効果等]
上記した触媒の開発により、従来の有機触媒では解決できなかった諸問題の解決、また、これまで合成が難しかった医薬品類の合成開発へと展開できる可能性が高い。また、今回開発した触媒は,これまでに効果的な不斉合成法が無いベンジルニトリルとイミン類の反応において高エナンチオ選択的に生成物を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示される光学活性フェニルビスイミダゾリン-遷移金属錯体触媒。
【化1】


ただし、
M = Pd, Ni, Rh, Ru, Ir, Pt
R = R1CO, R2SO2, alkyl, aryl R1,R2はalkyl基またはaryl基
X = Cl, Br, I, OTf, CF3CO2, CH3CO2, H2O, SbF5, BF4, ClO4である。

【公開番号】特開2010−188267(P2010−188267A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34366(P2009−34366)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】