説明

光学活性フルオロ化合物の製造方法

本発明は、特定のフルオロアミンと光学活性ジオール類とを反応させることによる一般式(3)で表される光学活性フルオロ化合物を製造する方法及び、該光学活性フルオロ化合物を加水分解することによる光学活性フルオロアルコールを製造する方法を提供する。本発明の方法により、該光学活性フルオロ化合物及び光学活性フルオロアルコールを、光学的に高純度で、且つ高収率で簡便に製造することができる。光学活性フルオロアルコールは、医薬、農薬の他、機能化学品の原料として有用な化合物である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性フルオロ化合物の製造方法に関し、詳しくは、光学活性ジオール類への保護基の導入による選択的モノフルオロ化合物の製造方法、及び該モノフルオロ化合物から得られる光学活性フルオロアルコールの製造方法に関する。光学活性フルオロ化合物、例えば、光学活性フルオロアルコール(即ち、フルオロヒドリン)は、医薬、農薬の他、機能化学品の原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルコールは、エポキシ化合物にHF、HF/ピリジン、KHF2等を作用させることにより容易に合成できることが知られている(非特許文献1,2)。しかし、フッ素原子が不斉炭素原子に結合している光学活性フルオアロアルコールを得ようとした場合、上記方法では特定の光学異性体を選択的に合成することは難しく、異性体混合物となる。その中から目的とする光学異性体を分離するには、光学分割等の繁雑な精製操作を必要とし、最終的に光学純度の高い製品を高収率で得ることは難しい。
【0003】
有機化合物の特定部位にフッ素原子を導入する方法として、フッ素化剤を利用する方法が知られている。フッ素化剤としては、形式上フッ素カチオンを発生する求電子的フッ素化剤とフッ素アニオンを発生する求核的フッ素化剤の二つに大別される。これらの内、求核的フッ素化剤としてはHFをはじめとして様々な化合物が知られているが、中でもジエチルアミノ三フッ化硫黄(DAST)、2,2−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジン(DFI)等はアルコールと反応させた場合、緩和な条件で酸素原子をフッ素原子で求核置換できることが知られている(非特許文献3、4、5)。
【0004】
そこで、光学活性ジオール類を原料として、これらのフッ素化剤を作用させることにより光学活性フルオロアルコールを合成する方法が考えられるが、ジオールの水酸基を一つだけ選択的にフッ素化するのは難しく、水酸基が全てフッ素化されたジフルオロ化物等の目的物以外のものが生成しやすいため適当な方法とは言えない(非特許文献6、特許文献1)。
【0005】
従って、光学活性フルオロアルコールを得るために、ジオール類を選択的にフッ素化する場合は一方の水酸基の反応のみを促進する必要がある。しかし、選択的な保護基の導入も困難な場合が多いのが現状である。この様に従来はジオール類の水酸基に対し、保護基の導入と一方の水酸基のみを選択的にフッ素化する技術は知られておらず、光学活性フルオロアルコールを光学的に高純度、且つ高収率で得ることは極めて困難であった。
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters,vol.31,No.49,1990, pp7209−7212
【非特許文献2】Journal of Fluorine Chemistry, vol.16, 1980, pp540−541
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry, vol.40, No.5, 1975, pp574−578
【非特許文献4】ファインケミカル,vol.31, No.10(2002)pp5−12
【非特許文献5】化学と工業,第55巻,第3号(2002)pp259−262
【非特許文献6】Journal of the Chemical Society Perkin Transactions 2, 4, 1995, pp861−866.
【特許文献1】特開平11-181022号公報
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、光学活性ジオール類から選択的に光学活性フルオロアルコールを製造できる光学活性フルオロ化合物を、光学的に高純度かつ高収率で、しかも簡便に製造する方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、光学活性ジオール類を原料とし、特定のフルオロアミンを用いて、熱的に、若しくはマイクロ波及び/又はマイクロ波近傍の電磁波の照射下で反応させることにより、目的とする光学活性フルオロ化合物が高選択的に生成し、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明の方法によれば、フルオロアミンと光学活性ジオール類がSN2機構で反応することにより、原料の光学活性ジオール類の一方の水酸基のみが選択的にフッ素置換され、かつ立体配置が反転した構造の光学活性フルオロ化合物を得ることができる。光学活性ジオール類のもう一方の水酸基はフルオロアミンとの反応によりエステル結合を形成するので、保護基を導入する目的に適っている。さらに必要に応じて得られた光学活性フルオロ化合物に対し、加水分解やエステル交換等の公知の方法を施すことにより、容易に光学活性フルオロアルコールを得ることが出来る。
【0010】
即ち、本発明は以下の光学活性フルオロ化合物及び光学活性フルオロアルコールの製造方法を提供する。
1.一般式(1)で表されるフルオロアミンと一般式(2)で表される光学活性ジオールを反応させることを特徴とする、一般式(3)で表される光学活性フルオロ化合物の製造方法。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
(式中、一般式(1)におけるR0、R1及びR2は、水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。また、R0、R1、R2の二つ以上が結合して環を形成していてもよい。一般式(2)及び(3)におけるR3、R4、R5、及びR6は水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、R3とR4及びR5とR6は互いに異なり、R3とR4が結合している炭素原子及び、R3とR4とが結合している炭素原子は何れも不斉炭素となっている。nは0〜3の整数である。)
【0015】
2.一般式(1)で表されるフルオロアミンのR0が3−メチルフェニル基又は2−メトキシフェニル基であり、R1及びR2がエチル基である、上記1に記載の光学活性フルオロ化合物の製造方法。
3.反応を、熱的に、若しくはマイクロ波及び/又はマイクロ波近傍の電磁波の照射下で行う、上記1又は2に記載の光学活性フルオロ化合物の製造方法。
4.上記1〜3の何れかに記載した方法によって製造された光学活性フルオロ化合物を加水分解することを特徴とする、一般式(4)で表される光学活性フルオロアルコールの製造方法。
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、一般式(4)におけるR0、R3、R4、R5及びR6は水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、R3とR4及びR5とR6は互いに異なり、R3とR4が結合している炭素原子及び、R3とR4とが結合している炭素原子は何れも不斉炭素となっている。nは0〜3の整数である。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、一般式(3)で表される光学活性フルオロ化合物は、一般式(1)で示されるフルオロアミンと一般式(2)で表される光学活性ジオール類を反応させることによって得られ、一般式(4)の光学活性フルオロアルコールは、得られた光学活性フルオロ化合物を加水分解することにより得られる。
本発明の一般式(1)〜(4)におけるR0、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基である。このアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。アリール基の置換基としては、アルキル基やアルコキシ基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基などが挙げられる。
本発明の光学活性フルオロ化合物の原料として用いられる光学活性ジオール類は、一般式(2)で示される。
【0019】
【化5】

【0020】
一般式(2)において、R3とR4及びR5とR6は互いに異なり、R3とR4が結合する炭素及び、R5とR6が結合する炭素は不斉炭素となっている。
一般式(2)で表される光学活性ジオール類の具体例としては、(2R,3R)−ブタン−2,3−ジオール、(2S,3S)−ブタン−2,3−ジオール、(2R,4R)−ペンタン−2,4−ジオール、(2S,4S)−ペンタン−2,4−ジオール、(1R,2R)−ジフェニルエタン−1,2−ジオール、(1S,2S)−ジフェニルエタン−1,2−ジオールが挙げられる。また、糖類の水酸基に保護基を付けてジオール構造にした化合物、例えば1,2;5,6−O−ジシクロヘキシリデン−D−マンニトールなども用いることができる。
【0021】
一般式(1)で示されるフルオロアミンとしては、N,N−ジメチル−α,α−ジフルオロメチルアミン、N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロメチルアミン、N,N−ジ(n-プロピル)−α,α−ジフルオロメチルアミン、N,N−ジ(イソプロピル)−α,α−ジフルオロメチルアミン、N,N−ジ(n−ブチル)−α,α−ジフルオロメチルアミン、N,N−ジメチル−α,α−ジフルオロエチルアミン、N,N−ジメチル−α,α−ジフルオロプロピルアミン、N,N−ジメチルペンタフルオロエチルアミン、N,N−ジメチルシアノ−α,α−ジフルオロエチルアミン、N,N−ジメチル−α,α−ジフルオロ−α−シクロプロピルアミン、N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ(3−メチル)ベンジルアミン、及びN,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ(2−メトキシ)ベンジルアミン等を挙げることができる。これらの化合物は、例えば特開2003−64034号公報に記載の方法で合成することができる。
【0022】
一般式(1)で示されるフルオロアミンと一般式(2)で示される光学活性ジオール類との反応は、回分式、半回分式、或いは連続方式での実施が可能であり、通常の熱反応、若しくはマイクロ波及び/又はマイクロ波近傍の電磁波の照射下に反応を行うことが出来る。反応温度は、通常200℃以下で実施することが好ましく、室温から150℃の温度範囲が特に好ましい。また振動数が0.3から300GHzの範囲のマイクロ波、或いは1GHz以下又は30から300GHzのマイクロ波近傍の電磁波を照射して反応を行うことができる。該電磁波は、連続的、或いは断続的に温度を制御しながら行うなどして照射することができる。
【0023】
フルオロアミンの使用量は、対象となる基質(光学活性ジオール類)の水酸基1モルに対して1モル以上を用いることが好ましいが、過剰、或いは化学量論的に不足のまま反応させても良い。
反応時間は、熱反応では10分から360分の範囲が好ましい。マイクロ波及び/又はマイクロ波近傍の電磁波の照射下に反応を行う場合は、0.1分から180分の範囲が好ましいが、更に長時間照射することも出来る。
該フッ素化反応を進行させる上で溶媒を用いる必要は無いが、撹拌を充分行うためや温度上昇を防ぐために溶媒を用いても良い。好ましい溶媒は、基質、フルオロアミンや生成物に対して不活性な脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、芳香族ハロゲン化炭化水素、ニトリル類、エーテル類等であり、適宜これらから選択し、必要に応じてこれらを組み合わせて用いることも出来る。
【0024】
上記の方法によって得られる光学活性フルオロ化合物には、一般式(3)に示すようなエステル結合を含んでいる。従って、該光学活性フルオロ化合物を加水分解反応によって容易に前述の一般式(4)で示される光学活性フルオロアルコールを得ることができる。一般式(3)に示される光学活性フルオロ化合物を加水分解反応する方法としては、公知の方法、例えばエステル交換反応や酸、アルカリ又は生体触媒等を用いて反応を行うことができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。尚、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
なお、実施例に先立って行った、一般式(1)で表されるフルオロアミンの製造例を参考例として示す。
【0026】
参考例1(N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ−(3−メチル)ベンジルアミンの合成)
a)N,N−ジエチル−α−クロロメタトルイルアミジウムクロリドの合成
三つ口フラスコ(300mL)に、窒素雰囲気下、オキサリルクロリド25g(0.197mol)を含む四塩化炭素溶液125gを仕込んだ。フラスコを氷冷し、撹拌しながらN,N−ジメチルメタトルアミド45g(0.236mol)を20分かけて滴下した。滴下終了後、同温度で10分保持し、内容物温度を50℃とした後、一時間反応を行った。反応時にガス発生が観察され、その後白色の固体が析出した。得られた析出物を濾別し四塩化炭素、n−ヘキサンで洗浄後乾燥し、N,N−ジエチル−α−クロロメチトルイルアミジウムクロリド47.5gを得た(収率98%)。
【0027】
b)N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ−(3−メチル)ベンジルアミンの合成
三つ口フラスコ(500mL)に、先に合成したN,N−ジエチル−α−クロロメタトルイルアミジウムクロリド25g(0.1mol)とスプレードライしたフッ化カリウム23.5g(0.4mol:森田化学品)、アセトニトリル250gを仕込み、窒素雰囲気下にアセトニトリルの還流温度で18時間反応を行った。反応終了後、室温まで冷却して濾過を行った。この濾液をエバポレーターで濃縮後蒸留によりN,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ−(3−メチル)ベンジルアミン(「フッ素化剤A」と称す)13gを得た(収率60%)。
【0028】
参考例2(N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ−(2−メトキシ)ベンジルアミンの合成)
a)2−メトキシ−N,N−ジエチルベンズアミドの合成
200mLの4つ口フラスコにジエチルアミン25.8g(0.352mol)のトルエン溶液(トルエン30.8g)を入れ、氷冷下で急激な発熱が起きないように2−メトキシ安息香酸クロリド20g(0.117mol)のトルエン溶液(トルエン10.0g)をゆっくり滴下した。全液加えた後、水でアミンの塩酸塩を抽出、除去した。得られたトルエン層をMgSO4で乾燥し、溶媒留去により2−メトキシ−N,N−ジエチルベンズアミド22.8gを得た(収率94%)。
【0029】
b)N,N−ジエチル−α−クロロ−(2−メトキシ)フェニルアミジウムクロリドの合成
200mLの4つ口フラスコを窒素で置換し、オキサリルクロリドの45%四塩化炭素溶液(オキサリルクロリド:24.5g,0.193mol)を加え、室温、窒素雰囲気下、先に合成した2−メトキシ−N,N−ジエチルベンズアミド20.1g(0.0965mol)を滴下した(内温が5℃上昇)。滴下終了後53℃で5時間加熱撹拌すると、反応液は2層分離した。反応停止後溶媒を留去し、粘性液体を得た。グローブボックス中放置すると茶色固体が析出した(収量26.6g)。ヘキサンおよび四塩化炭素で洗浄後乾燥し、N,N−ジエチル−α−クロロ−(2−メトキシ)フェニルアミジウムクロリド21.4gを得た(収率80%)。
【0030】
c)N,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ−(2−メトキシ)ベンジルアミンの合成
グローブボックス中、100mLの三つ口フラスコに先に合成したN,N−ジエチル−α−クロロ−(2−メトキシ)フェニルアミジウムクロリド5.0g(0.018mol)、アセトニトリル50g、スプレードライしたフッ化カリウム4.4g(0.076mol:森田化学品)を仕込み、窒素雰囲気下、80℃で20時間反応させた。反応停止後、室温に戻し、グローブボックス中で濾過、洗浄した。得られた溶液をエバポレーターで濃縮後、蒸留によりN,N−ジエチル−α,α−ジフルオロ(2−メトキシ)ベンジルアミン(「フッ素化剤B」と称す)3.51gを得た(収率67%)。
【0031】
以上、参考例で得られたフルオロアミンの熱安定性を、示差走査熱量計(DSC)及び暴走反応測定試験(ARC)により評価した。
フッ素化剤A及びフッ素化剤Bの測定結果とジエチルアミノ三フッ化硫黄(DAST)及び2,2,−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジン(DFI)の文献値(非特許文献4,5)を併せて第1表に記載した。
【0032】
【表1】

【0033】
第1表より、参考例で得られたフルオロアミン(フッ素化剤A,B)は従来のフッ素化剤と比較してDSC測定での発熱量が低く、ARC測定での発熱開始温度が高い等、熱的に格段に安定であることが分かる。
【0034】
実施例1〔(2S,4S)−ペンタン−2,4−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(2S,4S)−ペンタン−2,4−ジオール(1mmol)、ジオキサン(1mL)、フッ素化剤A(1mmol)を入れ、良くかき混ぜた後、マイクロ波照射器(シャープ製、2.45GHz、500W)に入れ10分間マイクロ波を照射した。冷却後、更にフッ素化剤A(1mmol)を加え、再度マイクロ波を10分間照射した。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(2S,4R)−2−(3−メチルベンゾイルオキシ)−4−フルオロペンタンが収率78%、光学純度100%で得られた。
【0035】
比較例1〔(2S,4S)−ペンタン−2,4−ジオールのフッ素化〕
実施例1においてフッ素化剤Aの代わりに2,2−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジン(DFI;1mmol)を加えてマイクロ波照射器(シャープ製、2.45GHz、500W)に入れマイクロ波の照射を始めたところ、暴走反応が起り、反応液が容器外に飛散したため反応を完結することは出来なかった。
【0036】
実施例2〔(2R,4R)−ペンタン−2,4−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(2R,4R)−ペンタン−2,4−ジオール(1mmol)、ジグライム(1mL)、フッ素化剤A(2mmol)を入れ、100℃、1時間反応させた。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(2R,4S)−2−(3−メチルベンゾイルオキシ)−4−フルオロペンタンが収率65%、光学純度100%で得られた。
【0037】
比較例2〔(2R,4R)−ペンタン−2,4−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(2R,4R)−ペンタン−2,4−ジオール(1mmol)、ジクロロメタン(1mL)を入れたものを氷冷し、窒素雰囲気下に撹拌しながら、フッ素化剤であるN,N−ジエチルアミノ三フッ化硫黄(DAST;1mmol)を滴下した。滴下終了後15分間反応を行った。反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的とする光学活性フルオロヒドリンは生成しておらず、2,4−ジフルオロペンタンのラセミ化合物が収率34%で得られた。
【0038】
実施例3〔(1R,2R)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(1R,2R)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオール(1mmol)、フッ素化剤A(2mmol)を入れ、140℃、1時間反応させた。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(1R,2S)−1,2−ジフェニル−1−(3−メチルベンゾイルオキシ)−2−フルオロエタンが収率83%、光学純度100%で得られた。
【0039】
実施例4〔(1S,2S)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(1S,2S)−1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオール(1mmol)、フッ素化剤B(2mmol)を入れ、140℃、1時間反応させた。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(1S,2R)−1,2−ジフェニル−1−(2−メトキシベンゾイルオキシ)−2−フルオロエタンが収率87%、光学純度100%で得られた。
【0040】
実施例5〔(2R,3R)−ブタン−2,3−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(2R,3R)−ブタン−2,3−ジオール(1mmol)、ジグライム(1mL)、フッ素化剤A(2mmol)を入れ、100℃、3時間反応させた。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(2R,3S)−2−(3−メチルベンゾイルオキシ)−3−フルオロブタンが収率83%、光学純度100%で得られた。
【0041】
実施例6〔(2S,3S)−ブタン−2,3−ジオールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に(2S,3S)−ブタン−2,3−ジオール(1mmol)、ジグライム(1mL)、フッ素化剤B(2mmol)を入れ、100℃、3時間反応させた。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(2S,3R)−2−(2−メトキシベンゾイルオキシ)−3−フルオロブタンが収率78%、光学純度100%で得られた。
【0042】
実施例7〔1,2;5,6−O−ジシクロヘキシリデン−D−マンニトールのフッ素化〕
テフロン(登録商標)PFA容器に1,2;5,6−O−ジシクロヘキシリデン−D−マンニトール(1mmol)、ノナン(1mL)、フッ素化剤A(2mmol)を入れ、良くかき混ぜた後、マイクロ波照射器(シャープ製、2.45GHz、500W)に入れ10分間マイクロ波を照射した。室温まで冷却した後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にあけ、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である1,2;5,6−ジシクロヘキシリデン−3−デオキシ−3−フルオロ−4−(3−メチルベンゾイルオキシ)マンニトールが収率53%、光学純度100%で得られた。
【0043】
実施例8〔(2S,4R)−2−(3−メチルベンゾイルオキシ)−4−フルオロペンタンの加水分解〕
実施例1の方法で得られた(2S,4R)−2−(3−メチルベンゾイルオキシ)−4−フルオロペンタン(1mmol)を35%塩酸(1mL)と混合し一晩撹拌した。反応生成液に水を加えた後、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である(2S,4R)−4−フルオロペンタン−2−オールが収率95%で得られた。
【0044】
実施例9〔1,2;5,6−ジシクロヘキシリデン−3−デオキシ−3−フルオロ−4−(3−メチルベンゾイルオキシ)マンニトールの加水分解〕
実施例7の方法で得られた1,2;5,6−ジシクロヘキシリデン−3−デオキシ−3−フルオロ−4−(3−メチルベンゾイルオキシ)マンニトール(1mmol)を35%塩酸(1mL)と混合し一晩撹拌した。反応生成液に水を加えた後、エーテルで抽出した(40mL、3回)。硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮、シリカゲルカラムクロマトで分離精製した。目的物である3−デオキシ−3−フルオロマンニトール[(2R,3R,4S,5R)−4−フルオロヘキサン−1,2,3,5,6−ペンタノール]が収率92%で得られた。
【産業上の利用の可能性】
【0045】
本発明による、光学活性ジオール類と特定のフルオロアミンとを反応させる方法により、該ジオール類に保護基を選択的に導入した光学活性フルオロ化合物を、光学的に高純度で、かつ高収率でしかも簡便に製造することができる。
また、本発明によれば、該光学活性フルオロ化合物を加水分解することにより、医薬、農薬の他、機能化学品の原料として有用な光学活性フルオロアルコールを、光学的に高純度で、かつ高収率でしかも簡便に製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるフルオロアミンと一般式(2)で表される光学活性ジオールを反応させることを特徴とする、一般式(3)で表される光学活性フルオロ化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、一般式(1)におけるR0、R1及びR2は、水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。また、R0、R1、R2の二つ以上が結合して環を形成していてもよい。一般式(2)及び(3)におけるR3、R4、R5、及びR6は水素原子、若しくは置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、R3とR4及びR5とR6は互いに異なり、R3とR4が結合している炭素原子及び、R3とR4とが結合している炭素原子は何れも不斉炭素となっている。nは0〜3の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるフルオロアミンのR0が3−メチルフェニル基又は2−メトキシフェニル基であり、R1及びR2がエチル基である、請求項1に記載の光学活性フルオロ化合物の製造方法。
【請求項3】
反応を、熱的に、若しくはマイクロ波及び/又はマイクロ波近傍の電磁波の照射下で行う、請求項1又は2に記載の光学活性フルオロ化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載した方法によって製造された光学活性フルオロ化合物を加水分解することを特徴とする、一般式(4)で表される光学活性フルオロアルコールの製造方法。
【化4】

(式中、一般式(4)におけるR0、R3、R4、R5及びR6は水素原子、又は置換基を有することのあるアルキル基又はアリール基であり、R3とR4及びR5とR6は互いに異なり、R3とR4が結合している炭素原子及び、R3とR4とが結合している炭素原子は何れも不斉炭素となっている。nは0〜3の整数である。)



【国際公開番号】WO2005/085171
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510684(P2006−510684)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003480
【国際出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】