説明

光学活性ペニシラミンの製造方法

【課題】各種工業薬品、医薬および農薬の製造中間体として重要な、光学活性L−ペニシラミンおよびD−ペニシラミンの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】DL混合物であるペニシラミンアミドに、L−ペニシラミンアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させ、生成したL−ペニシラミンと残されたD−ペニシラミンアミドを、アルデヒド若しくはケトン、またはアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、両者を分離した後、水和開環することによって、高品質の光学活性L−ペニシラミンとD−ペニシラミンを高収率かつ安価に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性ペニシラミンの製造方法に関する。詳しくは、式(1)で示されるL−ペニシラミンアミドと式(2)で示されるD−ペニシラミンアミドの混合物に、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、式(3)で示されるL−ペニシラミンを生成させ、生成したL−ペニシラミンと式(2)で示される残されたD−ペニシラミンアミドを式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれを式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸と式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、両者を分離した後に水和開環反応を行い、式(7)で示されるL−ペニシラミンと式(8)で示されるD−ペニシラミンの何れか一種以上を取得することを特徴とする、光学活性ペニシラミンの製造方法に関する。
式(7)で示されるL−ペニシラミンと式(8)で示されるD−ペニシラミンは、各種工業薬品、農薬および医薬品の製造中間体として重要な物質である。
【背景技術】
【0002】
従来、D−ペニシラミンの製造方法としては、ラセミ体のペニシラミン誘導体を光学分割剤により光学分割した後、D−ペニシラミンに誘導する方法(例えば、特許文献1〜3参照)、天然に存在するD型のペニシリン類(ペニシロン酸、ペニロ酸およびそれらの誘導体を含む)を出発原料としてD−ペニシラミンに誘導する方法(例えば、特許文献4〜10参照)等が広く知られている。しかしながら、光学分割剤を用いて光学分割する方法は、使用する分割剤が高価なため、経済的な方法とはいえない。一方、天然に存在するD型のペニシリン類を出発原料とする方法も、原料が高価であり、経済的な方法とはいえない。また、天然に存在するD型ペニシリン類を出発原料とするため、その生産量に限りがあり、工業的に大量生産する方法としては十分満足行くものではなかった。
この他、5−置換ヒダントインをD−α−アミノ酸に変換する能力を有する微生物を、5−置換ヒダントインに作用させてD−ペニシラミンを製造する方法(例えば、特許文献11、12参照)が提案されている。しかしながら、この方法も生産性が低く、実用的とはいえない。
【0003】
一方、L−ペニシラミンの製造方法としては、ラセミ体のペニシラミン誘導体をジアステレオマー塩法により光学分割した後、L−ペニシラミンに誘導する方法が種々知られている。例えば、ラセミ体のペニシラミンをN−アセチルペニシラミンに誘導した後、ブルシン等を使用して分割する方法(例えば、非特許文献1参照)が、また、ラセミ体のペニシラミンを3−ホルミル−2,2,5,5−テトラメチル−4−チアゾリジンカルボン酸に誘導した後に光学分割する方法(例えば、非特許文献2、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらのジアステレオマー法による光学分割の場合も、使用する分割剤が高価なため、経済的な方法とはいえない。
【0004】
その他、DL−ペニシラミンアミドに、D−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させてD−ペニシラミンを製造する方法、およびDL−ペニシラミンアミドに、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、L−ペニシラミンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献13〜17参照)。
前者の方法によれば、反応後にD−ペニシラミンと未反応のL−ペニシラミンアミドが存在し、この反応液からD−ペニシラミンを単離することによってD−ペニシラミンを、また残されたL−ペニシラミンアミドを単離して、さらに加水分解反応を行なうことによってL−ペニシラミンを製造することが可能である。
また、後者の方法によれば、反応後にL−ペニシラミンと未反応のD−ペニシラミンアミドが存在し、この反応液からL−ペニシラミンを単離することによってL−ペニシラミンを、残されたD−ペニシラミンアミドを単離して、さらに加水分解反応を行なうことによってD−ペニシラミンを製造することが可能である。
【0005】
しかしながら、このような方法により光学活性ペニシラミン(DまたはL−ペニシラミン)を製造しようとすると、DL−ペニシラミンアミドの生化学的加水分解反応で生成した光学活性ペニシラミンと未反応の光学活性ペニシラミンアミドとの間で、水または各種有機溶媒に対する溶解度や分配係数等の物理化学的性状にそれほど差がないため、両者を効率よく分離することが難しいという問題があった。
さらにこの方法では、光学活性ペニシラミンと残された光学活性ペニシラミンアミドを分離する操作中に、酸素が存在すると、それぞれの酸化2量体および光学活性ペニシラミンと光学活性ペニシラミンアミドとの間のクロスカップリングによる酸化2量体が生成し、品質および回収率を大幅に低下させるという著しい欠点があった。これらの酸化2量体は、一旦生成すると、還元してペニシラミン等の1量体に戻すことが困難であること、また、これらの酸化2量体を例えば電解還元や塩酸と金属亜鉛のような条件で還元して1量体に戻しても、特にクロスカップリングした酸化2量体が含まれる場合、再度光学活性ペニシラミンと光学活性ペニシラミンアミドとの分離が必要になるという問題点があった。しかも、これらの酸化2量体の結晶は細かくて濾過性が悪く、濾過操作中に濾材を詰まらせ易い等、操作上の問題もあり、光学活性ペニシラミンを工業的に生産する方法として満足できるものではなかった。なお、酸化対策の一方法として、窒素シール等を施して酸素を遮断することも理論上は可能であるが、特に工業的規模で生産する場合、分離操作の全ての段階で完全に酸素を遮断するためには大がかりな装置と煩雑な運転操作を要することになり、経済的に大変不利となる。
【0006】
ペニシラミンとケトンとの反応に関しては、特許文献1〜3に記載されている他、D−ペニシラミンの精製法として、粗製D−ペニシラミンをアセトンと反応させてD−イソプロピリデンペニシラミンとし、これを加水分解してD−ペニシラミンとするD−ペニシラミンの精製法が知られている(例えば、特許文献18参照)。
また、チアゾリジン−4−カルボン酸アミドからペニシラミンアミドを得る方法も従来から知られている(例えば、特許文献19、非特許文献3参照)。特許文献19には、ラセミ体のチアゾリジン−4−カルボン酸アミドから、ラセミ体のペニシラミンアミドを経由してラセミ体のペニシラミンを得る方法が記載されている。また、非特許文献3には、ラセミ体のチアゾリジン−4−カルボン酸アミドからラセミ体のペニシラミンアミドを得る方法が記載されている。しかしながら、これらの文献にはチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドの物性の違い、またこれらを利用した両者の分離精製方法およびその条件等に関する記載は、一切認められない。また、何れの文献もラセミ体に関する記載があるだけであり、光学活性体を製造する方法については、一切記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特公昭54−4937号公報
【特許文献2】特公昭55−30711号公報
【特許文献3】米国特許第3966752号明細書
【特許文献4】特公昭55−16134号公報
【特許文献5】特開昭50−76022号公報
【特許文献6】特開昭51−6922号公報
【特許文献7】特公昭55−30511号公報
【特許文献8】特公昭57−15755号公報
【特許文献9】特公昭56−5389号公報
【特許文献10】特開昭55−151587号公報
【特許文献11】特公昭56−15878号公報
【特許文献12】特公昭56−1911号公報
【特許文献13】特開昭60−184392号公報
【特許文献14】特開昭61−274690号公報
【特許文献15】特開昭63−87998号公報
【特許文献16】特開平01−262798号公報
【特許文献17】特開2004−254647号公報
【特許文献18】特開昭54−106488号公報
【特許文献19】特公昭54−4936号公報
【非特許文献1】The Chemistry of penicillin、Princeton Univ. Press. p466, 1949
【非特許文献2】Biochem. Prepar.,3, p116, 1953
【非特許文献3】Justus Liebigs Ann. Chem.(1966),697,140−157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来技術における上記のような課題を解決し、各種工業薬品、農薬および医薬品の製造中間体として重要な物質である光学活性ペニシラミンを高品質かつ安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高品質かつ安価に光学活性ペニシラミンを製造する方法、特に酵素反応後のペニシラミンとペニシラミンアミドを分離する方法に関して鋭意検討を行なった結果、酵素反応後のペニシラミンとペニシラミンアミドを式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、各々を一旦チアゾリジン−4−カルボン酸およびチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導することにより、反応混合物の中から両者を非常に効率的に単離できること、また、この方法により、分離操作中の酸化2量体の生成を回避できるため、高品質の光学活性ペニシラミンを高い収率で製造できることを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、式(1)で示されるL−ペニシラミンアミドと式(2)で示されるD−ペニシラミンアミドの混合物に、L−ペニシラミンアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、式(3)で示されるL−ペニシラミンを生成させ、生成したL−ペニシラミンと式(2)で示される残されたD−ペニシラミンアミドを式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸および式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、両者の有機溶媒に対する溶解度の差を利用することによって式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸と式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分離した後、水和開環反応を行うことによって、式(7)で示されるL−ペニシラミン、式(8)で示されるD−ペニシラミンの何れか一種以上を製造する、以下の1)から7)に示す方法に関する。
【0011】
1)式(1)で示されるL−ペニシラミンアミドと式(2)で示されるD−ペニシラミンアミドの混合物に、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、式(3)で示されるL−ペニシラミンを生成させ、生成したL−ペニシラミンと式(2)で示される残されたD−ペニシラミンアミドを式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれを式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸と式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、両者を分離した後に水和開環反応を行い、式(7)で示されるL−ペニシラミンと式(8)で示されるD−ペニシラミンの何れか一種以上を取得することを特徴とする、光学活性ペニシラミンの製造方法。
【化1】


(式(4)、(5)および(6)中のR1とR2は、各々独立した水素原子若しくは炭素数1〜4の低級アルキル基、または互いに結合することによって一つの環を形成した炭素数3〜8の脂環を示す。ただし、R1とR2がともに水素原子の場合は除く。)
2)RおよびR2が共にメチル基である、1)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
3)L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物が、シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、クレブシエラ属、またはキサントバクター属に属する微生物である、1)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
4)シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、クレブシエラ属、またはキサントバクター属に属する微生物が、シュードモナス アゼライカ(Pseudomonas azelaica)2−1株(FERM P−19218)、ブレビバクテリウム sp.(Brevibacterium sp.)2−2株(FERM P−19219)、クラブシエラ ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)2−3株(自己寄託菌)、またはキサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071株である、3)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
5)L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物が、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え体である、1)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
6)L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物が、キサントバクター フラバスのL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を保有する遺伝子組換え大腸菌である、1)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
7)キサントバクター フラバスのL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を保有する遺伝子組換え大腸菌が、pMCA1/JM109(FERM AP-20056)である、6)に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
DL体のペニシラミンアミドの混合物から、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物による生化学的加水分解反応で生成したL−ペニシラミンと未反応のD−ペニシラミンアミドとは、水および各種有機溶媒に対する溶解度および分配係数等の物理化学的性状に大きな差がなく、両者を効率よく分離することが困難であったが、両者の混合物を式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸および式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導することにより、反応混合物の中から両者を非常に効率的に分離することが可能となり、各種工業薬品、農薬および医薬品の製造中間体として重要な物質である光学活性ペニシラミンを高品質かつ安価に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の詳細について説明する。
本発明で使用する式(1)で示されるL−ペニシラミンアミドと式(2)で示されるD−ペニシラミンアミドの混合物、例えばラセミ体であるDL−ペニシラミンアミドは、その製法および品質等に特に制限はなく、例えば該当するチアゾリジン−4−カルボン酸アミド誘導体を加水分解する方法などによって得ることができる(例えば、特許文献19、非特許文献3参照)。また、用いるDL−ペニシラミンアミドは、遊離物の他、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の塩として用いることも可能である。
【0014】
DL−ペニシラミンアミドの生化学的不斉加水分解に使用される微生物は、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物であればよく、このような微生物として例えば、シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、クレブシエラ属、またはキサントバクター属に属する微生物、具体的にはシュードモナス アゼライカ(Pseudomonas azelaica)2−1株(FERM P−19218)、ブレビバクテリウム sp.(Brevibacterium sp.)2−2株(FERM P−19219)、クラブシエラ ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)2−3株(自己寄託菌)、またはキサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071株等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの微生物から人工的変異手段によって誘導される変異株、または細胞融合若しくは遺伝子組換え法等の遺伝学的手法により誘導される組換え株等の何れの株であっても上記能力を有するものであれば、本発明に使用できる。また本発明においては、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素をコードする遺伝子を組み込んだ、立体選択的加水分解活性が著しく向上した遺伝子組換え体を使用することが好ましい。立体選択的加水分解活性が著しく向上した遺伝子組換え株の具体的な例としては、例えば、キサントバクター フラバス NR303株のL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え大腸菌pMCA1/JM109(FERM AP-20056)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
なお、本発明の方法と同様に、D−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、生化学的加水分解反応で生成したD−ペニシラミンと残されたL−ペニシラミンアミドを、それぞれ一旦チアゾリジン−4−カルボン酸およびチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、D−ペニシラミンから誘導されたチアゾリジン−4−カルボン酸を単離精製した後、開環反応によってD−ペニシラミンを製造する方法、およびL−ペニシラミンアミドから誘導されたチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを単離精製した後、開環反応と加水分解反応によってL−ペニシラミンを製造する方法も考えられる。しかしながら、発明者らが検討した結果では、D−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する微生物の菌体または菌体処理物の活性は、L−ペニシラミンアミドの場合に比較して著しく低く、生産性の点で好ましい方法とはいえないものであった。
【0016】
次ぎに、微生物の培養法について示す。微生物としては上記したようにL−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物であればよく、通常、資化し得る炭素源、窒素源、各微生物に必須の無機塩、栄養等を含有させた培地を用いて行なわれる。培養時のpHは4〜10の範囲であり、温度は20〜50℃である。培養は1日〜1週間程度、好気的に行なわれる。このようにして培養した微生物は、生菌体または該生菌体処理物、例えば培養液、分離菌体、菌体破砕物、アセトンパウダー化した粗酵素、さらには精製した酵素として反応に使用される。また、常法に従って菌体または酵素を固定化して使用することもできる。
【0017】
DL−ペニシラミンアミドの生化学的不斉加水分解反応の条件は以下の通りである。基質であるDL−ペニシラミンアミドの濃度は、0.1〜40wt%の範囲が好ましく、0.5〜20wt%の範囲がより好ましい。基質濃度が0.1wt%を下回る場合は反応液の容量が単に増えるだけで、生産性の面から不利となる。一方、基質濃度が40wt%を超える場合は、基質阻害が生じ、菌体または菌体処理物当たりの生産性の面から不利となる。
【0018】
基質であるDL−ペニシラミンアミドに対する微生物の菌体または菌体処理物の使用量は、用いる微生物菌体の重量が乾燥菌体重量に直して重量比で0.0001〜3の範囲になるように添加することが好ましく、0.001〜1の範囲になるように添加することがより好ましい。重量比が0.0001を下回る場合には反応速度が遅いため処理に長時間を要することになり、3を超える場合には反応時間は短くなるものの、微生物菌体の利用の面から効率的とは言えず、しかも反応後の菌体または菌体処理物の分離に労力を要することとなり工業的に不利となる。なお、原料であるペニシラミンアミドの反応液中における濃度が高い場合には、前記の菌体または菌体処理物の使用比が、好ましい範囲の上限である3以下であって、反応が好適に実施できる比率を適宜選択すればよい。
【0019】
反応温度は10〜70℃の範囲が好ましく、20℃〜50℃の範囲がより好ましい。反応温度が10℃を下回る場合は反応速度が遅いため処理時間が長くなり不利となる。一方、反応温度が70℃を越える場合は、菌体または菌体処理物の酵素触媒活性が失活により低下するとともにペニシラミンアミドの非酵素的分解も伴うようになり、反応収率および選択性の面で不利である。反応溶液はpH4〜13の範囲の水溶液が好ましく、pH5〜10の範囲がより好ましい。pH4を下回る場合は、菌体または菌体処理物の酵素触媒活性が低下し、pH13を上回る場合も同様に酵素触媒活性が低下する。そのうえさらに、反応液に含まれるペニシラミンアミド、生成物であるペニシラミン同士が、ジスルフィド結合を形成し2量化するため好ましくない。また、ペニシラミンアミドの非酵素的な加水分解反応も起こりやすくなり、これも好ましくない。反応液のpHを調整するに当たっては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機塩基類、およびアンモニア等を用いればよい。また、その他の物質を溶解してなる緩衝液を用いてもよい。
【0020】
原料となるペニシラミンアミドおよび生成するペニシラミンは、ともに酸化を受けやすく、酸素存在下で放置すると2量化したジスルフィドとなる。これを防止するため、生化学的不斉加水分解反応は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましいが、系内に2−メルカプトエタノール等の還元性物質を共存させる方法も可能である。また、反応に用いる全ての溶媒は、反応実施前に脱気を施すことにより、酸化2量体の生成が低減でき、反応が好適に進行する。
【0021】
酵素反応を行なう際、さらにMg、Cu、Zn、Fe、Mn、Ni、Co等の金属イオンを酵素触媒の活性化剤として添加してもよい。添加する量は使用する培養菌体の菌株の種類、添加する金属イオンの種類によって異なり一概には言えないが、好ましくは反応液中に0.1〜500ppm、より好ましくは1〜50ppmとなる濃度の金属イオンを添加することにより、不斉加水分解速度を向上させることができる。例えば、2価のMnイオンを5〜20ppm加えた場合、反応速度は、無添加の場合に比べて2〜5倍と大幅に向上する。なお、生化学的不斉加水分解反応に使用した菌体または菌体処理物は、酵素反応に使用した後も、遠心分離もしくは濾過操作などにより回収し、生化学的不斉加水分解反応に再利用することができる。
【0022】
酵素反応後、反応終了液から、例えば遠心分離あるいは濾過膜等の通常の固液分離手段により微生物菌体を除き、さらに限外濾過や活性炭等の吸着剤を用いて残された微生物由来の有機物の大部分を除去すると以降の反応を進める上でより好適である。次いで、この反応液を濃縮して水を留去し、濃縮物を次のチアゾリジン環化反応の原料として供する。
【0023】
DL−ペニシラミンアミドの生化学的不斉加水分解反応で生成したL−ペニシラミンと未反応のD−ペニシラミンアミドは、式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸および式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導される。
ここで使用するアルデヒドまたはケトンを表す式(4)のR1およびR2は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基(ただし、たがいに水素原子の場合を除く)、または、R1とR2が一つの環を形成する炭素数3から8の脂環であればよく、特に制限はないが、アルキル基としては例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、secブチル、またはtブチルなどの直鎖若しくは分枝した低級アルキル基が好適である。このような化合物として、具体的にはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、特にR1およびR2がともにメチル基であるアセトンが好適である。
【0024】
チアゾリジン環化反応に用いる有機溶媒は、それ自体が反応の基質でもある式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)が液体であり、かつ生化学的不斉加水分解反応濃縮物を溶解させ得る場合、それを用いるのが反応系の分子種を増やさずにすむ点で最も好ましい。添加量はチアゾリジン環化するペニシラミンとペニシラミンアミドの合計量に対して同等モル以上あればよく、特に上限はないが、経済性の観点から均一溶液となる濃度を上限として用いるのが好ましい。また、それだけでは反応基質や生成物の溶解度が不足し、反応系が均一化できない場合には、少ない添加量で均一性が保たれ、反応に対する妨害作用を有さない溶媒を適宜選択して用いればよい。そのような溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類が好適に用いられる。また、反応の進行に伴い生成する水を除去しながら行なうと、より好適に反応を進行させることができる。脱水法としては特に限定されず、ディーンシュターク分液装置やモレキュラーシーブのような脱水剤を用いてもよく、脱水剤を用いる場合には生成水量の1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上の脱水能力を持つように用いるのが望ましい。反応温度は特に限定されず、室温でも反応は進行するが、より高い温度で実施した方が反応が早く進行することから、通常は還流温度条件で行なうのが好ましい。還流温度は使用する溶媒によって異なり、例えばメタノールの場合約64℃、エタノールの場合約78℃となる。また、この環化反応は無触媒でも進行するが、少量の塩基を添加したほうがより速やかに進行する。用いる塩基としては特に限定はされないが、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニア、トリメチルアミン等の塩基性物質の他、炭酸ナトリウム等の塩基性を示す塩類が使用可能である。その量が過剰であった場合、後処理の中和に必要な酸の量が増えるため好ましくなく、適当な量は、原料のDL−ペニシラミンアミドの5当量以下、好ましくは1〜3当量である。
【0025】
反応終了後の反応液から溶媒と揮発成分を除去した後、得られた濃縮液からチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分離取得する。例えば、アルコール類などの適当な有機溶媒を用いて可溶物のチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを抽出し、不溶物として残ったチアゾリジン−4−カルボン酸を濾別する方法、アルコール類などの適当な有機溶媒を用いてチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドをともに加熱溶解した後、冷却してチアゾリジン−4−カルボン酸を結晶として析出させ、濾別する方法等がある。この際に用いられるアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、またはイソブチルアルコール等が挙げられ、溶解度等の観点でイソブチルアルコールが特に好適に用いられる。
【0026】
前者のアルコール類などの適当な有機溶媒を用いてチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを選択的に溶出する方法では、不溶物として濾別されるチアゾリジン−4−カルボン酸に酸化2量体やその他の塩類が不純物として含まれるため、アルコール類などの適当な有機溶媒に加熱溶解し、不溶の酸化2量体やその他の塩類を熱時濾過して取り除き、得られた濾液を冷却することによってチアゾリジン−4−カルボン酸が再結晶し、高純度のチアゾリジン−4−カルボン酸を得ることができる。一方、抽出液として得られたチアゾリジン−4−カルボン酸アミドは、エバポレーターなどにより濃縮乾固した後、適当な有機溶媒で洗浄することにより、固体として単離することができる。この際、洗浄に用いられる有機溶媒は特に限定されないが、目的とするチアゾリジン−4−カルボン酸アミドが溶解しにくい溶媒を適宜選択すればよく、例えばアセトンやシクロヘキサノン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類が好適に使用される。このようにして単離されたチアゾリジン−4−カルボン酸アミドは、このままあるいは再結晶等による精製を経て、次の開環反応および加水分解反応に用いられる。
【0027】
一方、後者のアルコール類などの適当な有機溶媒を用いてチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドをともに加熱溶解した後、両者を分離取得する方法では、アルコール類などの適当な有機溶媒を用いてチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドをともに加熱溶解した後、熱時濾過を行なうことで不溶の酸化2量体やその他の塩類を除き、さらに得られた濾液を冷却することでチアゾリジン−4−カルボン酸が再結晶し、高純度のチアゾリジン−4−カルボン酸を得ることができる。また、再結晶濾液中のチアゾリジン−4−カルボン酸アミドは、エバポレーターなどにより濃縮乾固した後、適当な有機溶媒で洗浄することにより、固体として単離することができる。このようにして単離されたチアゾリジン−4−カルボン酸アミドは、再結晶等による精製を経て、次の開環反応および加水分解反応に用いられる。
【0028】
以上のようにして得られたチアゾリジン−4−カルボン酸を水に懸濁させて加熱還流すると、開環反応が進行し、L−ペニシラミンが生成する。この際、生成するアルデヒドまたはケトンを系外に除去しながら反応を行なうと、反応が速やかに進行する。また、反応の触媒として塩酸や硫酸等の酸を用いると、反応がより速やかに進行するが、この場合にはL−ペニシラミンの酸塩が得られることとなる。反応後の反応液は、ジエチルエーテルや塩化メチレン等の非水溶性極性有機溶媒を加えて、分液、洗浄して、残留するアルデヒドまたはケトンを除去する。その後、この水層を濃縮するとL−ペニシラミンが得られる。
【0029】
一方、チアゾリジン−4−カルボン酸アミドを水に懸濁させて加熱還流すると、開環反応を伴いながらアミド部位の加水分解反応が進行し、D−ペニシラミンが生成する。この際、生成するアルデヒドまたはケトンを系外に除去しながら反応を行なうと、反応が速やかに進行する。また、加水分解反応の触媒として塩酸や硫酸等の酸を用いると、反応がより速やかに進行するが、この場合にはD−ペニシラミンの酸塩が得られることとなる。反応後の反応液は、ジエチルエーテルや塩化メチレン等の非水溶性極性有機溶媒を加えて、分液、洗浄して、残留するアルデヒドまたはケトンを除去する。その後、この水層を濃縮するとD−ペニシラミンが得られる。なお、加水分解触媒として塩酸や硫酸等の酸を加えた場合には、加水分解したアミドがアンモニウム塩となり結晶に混入するが、これは得られたD−ペニシラミンを再結晶するか、イオン交換樹脂等で脱塩することにより除去することができる。
本発明の方法によって、高品質な光学活性ペニシラミンを安価に製造することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例および比較例をもってより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0031】
実施例1
a.酵素反応用菌体の培養
下記の組成を有する培地を調製し、この培地200mLを1L三角フラスコに入れて滅菌した。これに、別途濾過滅菌したアンピシリン溶液(終濃度100μg/mL)を加え、キサントバクター フラバス (Xanthobacter flavus)NR303株のL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え大腸菌pMCA1/JM109(FERM AP-20056)を接種し、30℃で24時間振とう培養を行なった。次いで、培養液を遠心分離して上清を除き、生菌体のペーストを得た。
培地組成 (pH7.0)
バクトトリプトン 10g
酵母エキス 5g
NaCl 5g
水 1L
b.酵素反応
ラセミ体のペニシラミンアミド塩酸塩10.0g(54mmol)を水300mLに溶かした後、500mLのフラスコに入れ、2価のMnイオン濃度が10ppmとなるように塩化マンガン水溶液を加え、さらに乾燥菌体0.1gに相当する生菌体を加えて、窒素気流下、40℃で24時間攪拌して加水分解反応を行なった。
c.環化反応
反応後、反応液から遠心分離によって菌体を除去して上清を得た。この上清をロータリーエバポレーターで濃縮した後、メタノール150mLに溶解させた。続いてアセトン200mL、炭酸ナトリウム2.9g(27mmol)を加えて24時間、攪拌下、室温で反応させた。反応液を濃縮した後、50mLのイソブチルアルコールを加えて4時間加熱還流して可溶物(主に2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド)を抽出し、放冷後、不溶物として残った固体(主に2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸)を濾別した。
d.L−ペニシラミンの取得
得られた固体(主に2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸)を200mLのイソブチルアルコール中で加熱溶解し、不溶物(主に酸化2量体とその他の塩類)を熱時濾過した後、濾液を冷却した。冷却後、析出した固体を濾取し、乾燥して、2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸を白色固体として得た。得られた2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸を100mLの純水に懸濁させ、3時間、加熱還流を行なった。反応液を、50mLのジエチルエーテルで2回洗浄した後、水層を濃縮乾固、減圧乾燥することにより、3.4g(23mmol)のL−ペニシラミンを得た。反応に仕込んだラセミ混合物中のL−ペニシラミンアミドからの単離収率は85mol%、ラセミ混合物からの単離収率は43mol%であった。この固体を光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は98%e.e.以上であった。また、得られたL−ペニシラミンの化学純度は、99%以上であり、製品中に存在する酸化2量体は1%未満であった。
e.D−ペニシラミンの取得
一方、環化反応の反応液を濃縮した後、50mLのイソブチルアルコールを加えて4時間加熱還流して可溶物(主に2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド)を抽出し、放冷後、不溶物として残った固体(主に2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸)を濾別して得られた濾液を、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、この濃縮物を50mLのヘキサンで洗浄した後、乾燥して、2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを白色固体として得た。得られた2,2,5,5−テトラメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを100mLの純水に懸濁させ、24時間、加熱還流を行なった。反応液を、50mLのジエチルエーテルで2回洗浄した後、水層を濃縮乾固、減圧乾燥することにより、3.4g(23mmol)のD−ペニシラミンを得た。反応に仕込んだラセミ混合物中のD−ペニシラミンアミドからの単離収率は85mol%、ラセミ混合物からの単離収率は43mol%であった。この固体を、光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は98%e.e.以上であった。また、得られたD−ペニシラミンの化学純度は、99%以上であり、製品中に存在する酸化2量体は1%未満であった。
【0032】
実施例2
実施例1と同様にして各種微生物を培養し、生菌体を得た。DL−ペニシラミンアミド塩酸塩10.0g(54mmol)を基質とし、各種微生物の生菌体を用いて、実施例1と同様に操作を行なった。微生物の種類と、量および実施例1と同様に操作したときの結果を、表−1に示す。いずれの場合も得られたL−ペニシラミンおよびD−ペニシラミンの光学純度は98%e.e.以上であった。また、いずれも場合もL−ペニシラミンおよびD−ペニシラミンの化学純度は99%以上であり、製品中に存在する酸化2量体は1%未満であった。
【0033】
【表1】

【0034】
比較例1
実施例1と同様に培養および酵素反応を行い、得られた反応液から遠心分離によって菌体を除去して上清を得た。この上清液からエバポレーターで水を留去し、得られた白色のペースト状固体にイソプロピルアルコール20mLを加えて加熱攪拌し、5℃で一夜静置した後、析出した結晶を濾取し、L−ペニシラミンを含む固体2.6g(17.4mmol)を得た。反応に仕込んだラセミ混合物中のL−ペニシラミンアミドからの単離収率は64mol%、ラセミ混合物からの単離収率は32mol%であった。この固体を、光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は98%e.e.以上であった。また、得られたL−ペニシラミンの化学純度は90%であり、製品中に存在する酸化2量体は8%であった。
一方、L−ペニシラミンの結晶を濾過した後の濾液をエバポレーターで濃縮し、得られた白色のペースト状固体に100mLの純水を加えて24時間加熱還流した。反応液をエバポレーターで濃縮乾固した後、真空乾燥を行い、D−ペニシラミンを含む固体4.9g(33mmol)を得た。反応に仕込んだラセミ混合物からの単離収率は61mol%であったが、この固体を、光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は52%e.e.であった。また、得られたD−ペニシラミンの化学純度は、70%であり、製品中に存在する酸化2量体は25%であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の方法により、分離操作中の酸化2量体の生成を回避することができる。チアゾリジン−4−カルボン酸アミドはチアゾリジン−4−カルボン酸や酸化2量体およびその他の塩類に比べて有機溶媒に対する溶解度が高く、この溶解度の差によりチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを容易に単離することができる。また、チアゾリジン−4−カルボン酸アミドは、有機溶媒から容易に再結晶精製することも可能である。一方、チアゾリジン−4−カルボン酸は、チアゾリジン−4−カルボン酸アミドに比べると有機溶媒に対する溶解度は高くないが、酸化2量体およびその他の塩類に比べると、有機溶媒に対し高い溶解度を有する。この溶解度の差によりチアゾリジン−4−カルボン酸を容易に単離することができる。また、チアゾリジン−4−カルボン酸も有機溶媒から再結晶精製することが可能である。このように、一旦、式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸と式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを単離精製した後、開環反応または開環反応後の加水分解反応により、式(7)で示されるL−ペニシラミンまたは式(8)で示されるD−ペニシラミンとすることにより、酸化2量体等の不純物含量が著しく少なく、光学純度の高い、非常に高品質な光学活性ペニシラミンを高収率で製造することが可能となった。このようにして得られる式(7)で示されるL−ペニシラミンと式(8)で示されるD−ペニシラミンは、各種工業薬品、農薬および医薬品の製造中間体として大変に役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるL−ペニシラミンアミドと式(2)で示されるD−ペニシラミンアミドの混合物に、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物の菌体または菌体処理物を作用させて、式(3)で示されるL−ペニシラミンを生成させ、生成したL−ペニシラミンと式(2)で示される残されたD−ペニシラミンアミドを式(4)で示されるアルデヒド若しくはケトン、またはそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれを式(5)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸と式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、両者を分離した後に水和開環反応を行い、式(7)で示されるL−ペニシラミンと式(8)で示されるD−ペニシラミンの何れか一種以上を取得することを特徴とする、光学活性ペニシラミンの製造方法。
【化1】


(式(4)、(5)および(6)中のR1とR2は、各々独立した水素原子若しくは炭素数1〜4の低級アルキル基、または互いに結合することによって一つの環を形成した炭素数3〜8の脂環を示す。ただし、R1とR2がともに水素原子の場合は除く。)
【請求項2】
RおよびR2が共にメチル基である、請求項1に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【請求項3】
L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物が、シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、クレブシエラ属、またはキサントバクター属に属する微生物である、請求項1に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【請求項4】
シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、クレブシエラ属、またはキサントバクター属に属する微生物が、シュードモナス アゼライカ(Pseudomonas azelaica)2−1株(FERM P−19218)、ブレビバクテリウム sp.(Brevibacterium sp.)2−2株(FERM P−19219)、クラブシエラ ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)2−3株(自己寄託菌)、またはキサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071株である、請求項3に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【請求項5】
L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素活性を有する微生物が、L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する酵素をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え体である、請求項1に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【請求項6】
L−ペニシラミンアミドを立体選択的に加水分解する活性を有する微生物が、キサントバクター フラバスのL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を保有する遺伝子組換え大腸菌である、請求項1に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。
【請求項7】
キサントバクター フラバスのL体アミノ酸アミド不斉加水分解酵素遺伝子を保有する遺伝子組換え大腸菌が、pMCA1/JM109(FERM AP-20056)である、請求項6に記載の光学活性ペニシラミンの製造方法。

【公開番号】特開2007−74942(P2007−74942A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264713(P2005−264713)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】