説明

光学活性化合物の製造方法、及びその触媒

【課題】穏和な条件下で、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、選択的に分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法、及び、対応するラセミ体を選択的に分解して対応する光学活性体を製造する方法の提供。
【解決手段】光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する、また、対応する光学活性ビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体の製造方法、及びそのための光学分割の触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法、より詳細には、光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ラセミ体のビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応する光学活性ビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法に関する。また、本発明は、そのための触媒、又はラセミ体を光学分割するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルエステル類やビニルエーテル類の加水分解反応や開裂反応は、酸又は塩基触媒存在下で行われるのが一般的であるが、同一分子内に酸性又は塩基性の条件下で反応する官能基や保護基が存在する場合は、これらの官能基や保護基も加水分解されるために、この方法ではビニルエステル類やビニルエーテル類を選択的に加水分解することはできない。
ビニルエステル類やビニルエーテル類を選択的に加水分解するために、より温和な条件下での加水分解反応や、酵素や微生物を触媒として用いる方法が良く知られている(例えば、非特許文献1、2、3及び4参照)。
しかしながら、酵素反応や、微生物を用いた加水分解反応では、基質濃度は通常は重量濃度で0.1%〜1%程度であり、条件が最適化された場合であっても数%程度の場合が多く、かなり希釈された反応条件であるため反応効率及び生産効率が悪い。さらに、酵素反応や、微生物を用いた反応では相当量の緩衝液を用いて厳格なpHの調整を行う必要があるし、さらに、栄養源などの夾雑物が多量に存在していることから、分離精製が難しいという問題がある。
【0003】
また、遷移金属化合物などを用いてビニルエステルやビニルエーテルを分解させる方法としては、パラジウム触媒を用いて酢酸ビニルからアセトアルデヒドと無水酢酸を生成させる方法(非特許文献5参照)や、パラジウム化合物と銅化合物を用い、温和な条件下でプロペニルエーテルを開裂させ、アルコール類を得る方法が知られているが、この方法ではラセミ体しか得られない(先行技術文献6等参照)。
【0004】
本発明者らは、これまでに、周期表で2〜13族に属する金属化合物の存在下で、水を作用させてビニルエーテルやビニルエステル類を加水分解する方法を見出しきた(特許文献1参照)が、この方法では光学活性体をえることができなかった。また、光学活性ホスフィン又は光学活性イミン−コバルト触媒系を用いて、ビニルエーテル類を加水分解する方法を見出してきた(特許文献2参照)。この方法では、一方のエナンチオマーを選択的に加水分解させること(速度論的光学分割)にも有効であったが、光学収率が十分ではなかった。
さらに、本発明者らは、アリールクロスカップリング反応などに有効な新規なキラル触媒を開発する目的で、デンドリマー様の特殊な化学構造である2’、3’、4’、5’−テトラフェニルフェニル基を有するアミン又はホスフィン配位子を開発してきた(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−155676
【特許文献2】WO2004/076391
【特許文献3】特願2004−253005
【非特許文献1】Sakimae,A. et al.,Biosci.Biotech.Biochem.1992,56,1252-1256
【非特許文献2】Luzzio,F.A. et al., Tetrahedron:Asymmetry.2002,13,1173-1180
【非特許文献3】Kashima,Y. et al., Tetrahedron:Asymmetry.2002,13,953-956
【非特許文献4】大野雅二編集 「酵素機能と精密有機合成」、1984年発行(シーエムシー)
【非特許文献5】Robert G.CHULTZ, et al., JOURNAL OF CATALYSIS 16,133-147(1970)
【非特許文献6】Tetrahedron,Vol.53,17501-17512,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、穏和な条件下で、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、選択的に分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法、より詳細には、酸性又は塩基性の条件下で反応する官能基や保護基を有するビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、選択的に分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法を提供することを目的としている。
また、本発明は、ラセミ体のビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、選択的に分解して、一方のエナンチオマーを選択的に分解させること(速度論的光学分割)ことにより、対応する光学活性なビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法を提供することを目的としている。
さらに、本発明は、前記した方法のための新規な触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体を、キラルなジアミン配位子を含有する遷移金属触媒の存在下で、加アルコール分解することにより、選択的にビニルエーテル部分を分解することができるだけでなく、原料物質としてラセミ体を使用した場合に、一方のエナンチオマーのビニルエーテル部分を高選択性で分解することができ、その結果ラセミ体を光学分割(速度論的光学分割)することができることを見出した。
すなわち、本発明は、次の一般式(1)
【0008】
【化4】

【0009】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、若しくは炭素数6〜36の炭素環式芳香族基を示すか、又はR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、及び炭素数7〜37のアラルキル基からなる群から選ばれる0個〜10個のベンゼン環に結合する置換基を示す。式中の*印は、当該炭素原子が不斉炭素原子であることを示す。)
で表される光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法を提供する。
また、本発明は、次の一般式(1)
【0010】
【化5】

【0011】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、若しくは炭素数6〜36の炭素環式芳香族基を示すか、又はR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、及び炭素数7〜37のアラルキル基からなる群から選ばれる0個〜10個のベンゼン環に結合する置換基を示す。式中の*印は、当該炭素原子が不斉炭素原子であることを示す。)
で表される光学活性アミン、及びパラジウム化合物を含有してなる光学活性アミン−パラジウム触媒、より詳細には、ラセミ体の光学分割用の触媒、さらに詳細には、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体の製造用の触媒を提供する。
【0012】
以下、本発明の方法及び触媒について説明する。
本発明は、光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法を提供するものである。
本発明の方法における原料となるビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体としては、ビフェノール、好ましくは2,2’−ビフェノールのモノビニルエーテル誘導体、又はビナフトール、好ましくは2,2’−ビナフトールのモノビニルエーテル誘導体であればよく、フェノール部分、ナフトール部分、及びビニル部分は適宜置換基を有していてもよい。このような置換基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2〜20、好ましくは2〜10の直鎖状又は分岐状のアルケニル基、炭素数2〜20、好ましくは2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキニル基、炭素数3〜20、好ましくは3〜15の飽和又は不飽和の単環式、多環式、又は縮合環式の脂環式基、炭素数1〜20、好ましくは1〜10の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、モノ置換アミノ基、ジ置換アミノ基、炭素数2〜21、好ましくは2〜11の直鎖状又は分岐状のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数3〜21、好ましくは3〜10の直鎖状又は分岐状のアルケニルカルボニルオキシ基、炭素数3〜20、好ましくは3〜15の飽和又は不飽和の単環式、多環式、又は縮合環式の脂環式−カルボニル基、炭素数3〜20、好ましくは3〜15の飽和又は不飽和の単環式、多環式、又は縮合環式の脂環式−カルボニルオキシ基、炭素数2〜21、好ましくは2〜11の直鎖状又は分岐状のアルコキシカルボニル基、炭素数3〜21、好ましくは3〜10の直鎖状又は分岐状のアルケニルオキシカルボニル基、炭素数3〜20、好ましくは3〜15の飽和又は不飽和の単環式、多環式、又は縮合環式の脂環式−オキシカルボニル基、などが挙げられる。このような置換基は、原料となるビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のどの部分についていてよい。
本発明の原料となるビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体の好ましい例としては、次の一般式(2)
【0013】
【化6】

【0014】
(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立してベンゼン環又はナフタレン環を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又は炭素数3〜15の脂環式炭化水素基を示し、R10は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜15の脂環式炭化水素基、炭素数2〜21のアルキルカルボニル基、炭素数4〜16の脂環式炭化水素−カルボニル基、又は、炭素数8〜41のアラルキルカルボニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、置換基を有していてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有する複素環基、置換基を有していてもよい炭素数7〜40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数7〜37の炭素環式芳香族−カルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜37の炭素環式芳香族−オキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数8〜41のアラルキルオキシカルボニル基、及び、置換若しくは非置換のアミノ基からなる置換基、並びに隣接する位置の置換基が一緒になって炭素数3〜5のアルキレン基、及び炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基からなる群から選ばれる0個〜12個の環A又は環Bに結合する置換基を示す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0015】
本発明の一般式(2)における置換基R及びRは、無くてもよく(即ち0個の場合)、置換基としてはベンゼン環又はナフタレン環の任意の位置に任意の数だけ設けることもできる。片方のベンゼン環又はナフタレン環のみに置換基を設けてもよいが、置換基を設ける場合には、両方のベンゼン環又はナフタレン環の同じ位置に同じ置換基を設けるのが好ましい。
本発明の一般式(2)における炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜15、炭素数2〜10の直鎖状又は分枝状のアルケニル基が挙げられる。このようなアルケニル基の例としては、ビニル基、1−メチル−ビニル基、2−メチル−ビニル基、n−2−プロペニル基、1,2−ジメチル−ビニル基、1−メチル−プロペニル基、2−メチル−プロペニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数3〜15の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基が挙げられる。このような脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ビシクロ[1.1.0]ブチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチル基、アダマンチル基(トリシクロ[3.3.1.1]デカニル基)、ビシクロ[4.3.2]ウンデカニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカニル基、などが挙げられる。
【0016】
本発明の一般式(2)におけるR10は、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のもうひとつの水酸基の置換基であり、当該置換基はなくてもよいが、室温で光学分割することができるていどに安定な回転障害を有するためには、2原子以上の大きさの置換基を有するものが好ましい。また、選択的なビニルエーテル基の分解という観点からも、通常の加水分解における酸性条件や塩基性の条件で分解するような官能基を有するものが好ましい。
このような置換基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基や、前記した炭素数3〜15の脂環式炭化水素基、これらのアルキル基や脂環式炭化水素基にカルボニル基が結合した炭素数2〜11のアルキルカルボニル基や、炭素数4〜16の脂環式炭化水素−カルボニル基などが挙げられる。また、本発明の一般式(2)における炭素数8〜41のアラルキルカルボニル基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記したアルキル基が結合した炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)にカルボニル基が結合した基が挙げられる。このような置換基としては、例えば、ベンジルカルボニル基、フェネチルカルボニル基、α−ナフチル−メチルカルボニル基などが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(2)におけるR及びRはそれぞれ独立して環A又は環Bに結合する置換基を示し、前記したものに限定されるものではない。環A又は環Bがベンゼン環の場合には、それぞれの環に1個〜4個の置換基を有することができ、環A又は環Bがナフタレン環の場合には、それぞれの環に1個〜6個までの置換基を有することができる。したがって、R及びRはそれぞれ独立して1個〜12個までの置換基となることができる。環A及び環Bのそれぞれの置換基はそれぞれ独立して選択することができるが、好ましくは環Aと環Bは同じ置換基を有しているものが挙げられる。また、環A及び環Bはそれぞれ独立してベンゼン環とナフタレン環から選択することができるが、環Aと環Bは同じ環であるものが好ましい。
本発明の一般式(2)におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数1〜20のアルキル基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数2〜20のアルケニル基としては、前記した炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数6〜36の炭素環式芳香族基としては、炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。このような炭素環式芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有する複素環基としては、1個〜4個、好ましくは1〜3個又は1〜2個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員、好ましくは5〜8員の環を有する単環式、多環式、又は縮合環式の複素環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピロリル基、2−ピリジル基、2−インドール基、ベンゾイミダゾリル基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数7〜40のアラルキル基としては前記した、炭素数7〜40のアラルキル基が挙げられる。このようなアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数1〜20のアルコキシ基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基に酸素原子結合した基が挙げられる。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基などが挙げられる。
【0018】
本発明の一般式(2)における炭素数2〜21のアルキルカルボニルオキシ基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基にカルボニルオキシ基(−CO−O−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数2〜20のアルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソ−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数7〜37の炭素環式芳香族−カルボニルオキシ基としては、前記した炭素数6〜36の炭素環式芳香族基にカルボニルオキシ基(−CO−O−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数7〜37の炭素環式芳香族−カルボニルオキシ基としては、例えば、ベンゾイルオキシ基、α−ナフチル−カルボニルオキシ基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基としては、前記した炭素数7〜40のアラルキル基にカルボニルオキシ基(−CO−O−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、ベンジルカルボニルオキシ基、フェネチルカルボニルオキシ基、などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基にオキシカルボニル基(−O−CO−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数7〜37の炭素環式芳香族(アリール)−オキシカルボニル基としては、前記した炭素数6〜36の炭素環式芳香族基(アリール基)にオキシカルボニル基(−O−CO−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数7〜37のアルコキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、α−ナフチルオキシカルボニル基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数8〜41のアラルキルオキシカルボニル基としては、前記した炭素数7〜40のアラルキル基にオキシカルボニル基(−O−CO−基)が結合したものが挙げられる。このような炭素数7〜41のアラルキルオキシカルボニル基としては、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における置換若しくは非置換のアミノ基としては、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアシル化アミノ基などが挙げられる。これらのアルキル基としては前記した炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、アシル基としては、前記したアルキルカルボニル基や炭素環式芳香族−カルボニル基などが挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(2)における隣接する位置の置換基が一緒になって炭素数3〜5のアルキレン基としては、ベンゼン環又はナフタレン環のオルト位又はペリ位においてアルキレン鎖が結合したものであり、このようなアルキレン基としては、n−プロピレン基、n−ブチレン基などが挙げられる。
本発明の一般式(2)における炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基としては、ベンゼン環又はナフタレン環のオルト位又はペリ位においてアルキレンジオキシ鎖が結合したものであり、このようなアルキレンジオキシ基としては、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、n−プロピレンジオキシ基などが挙げられる。
【0020】
本発明の一般式(2)における置換基R、R、R、R、R及びR10は、さらに置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、前記した炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数3〜15の脂環式炭化水素基、炭素数2〜21のアルキルカルボニル基、炭素数4〜16の脂環式炭化水素−カルボニル基、炭素数8〜41のアラルキルカルボニル基、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有する複素環基、炭素数7〜40のアラルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜37の炭素環式芳香族−カルボニルオキシ基、炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基、炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、炭素数7〜37の炭素環式芳香族−オキシカルボニル基、炭素数8〜41のアラルキルオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアミノ基、アルキルシリル基、などが挙げられる。
【0021】
本発明の原料となるビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体は、不斉炭素原子を有していてもよいが、不斉炭素原子を有していなくても、ビフェニル基又はビナフチル基の両方のオルト位に比較的大きな置換基、即ちビニルエーテル基と置換ヒドロキシ基が結合しているために、回転障害を有しており、室温で回転障害による異性体を分離することができる(アトロプ異性、又は軸性不斉)。以下、本明細書では、この異性体の一方を(R)体、他の方を(S)体ということにする。
本発明の方法における原料物質としては、アトロプ異性体の一方又は両方を任意の比率で使用こともできるが、光学分割するという点からは両方の異性体を50:50で含有するラセミ体を使用することが好ましい。
【0022】
本発明の方法における光学活性アミン−パラジウム触媒における光学活性アミンとしては、次の一般式(1)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、若しくは炭素数6〜36の炭素環式芳香族基を示すか、又はR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、及び炭素数7〜37のアラルキル基からなる群から選ばれる0個〜10個のベンゼン環に結合する置換基を示す。式中の*印は、当該炭素原子が不斉炭素原子であることを示す。)
【0025】
本発明の一般式(1)における置換基R及びRは、無くてもよく(即ち0個の場合)、置換基としてはベンゼン環の任意の位置に任意の数だけ設けることもできる。片方のベンゼン環のみに置換基を設けてもよいが、置換基を設ける場合には、両方のベンゼン環の同じ位置に同じ置換基を設けるのが好ましい。
本発明の一般式(1)における炭素数1〜20のアルキル基としては、前記した炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
本発明の一般式(1)における炭素数6〜36の炭素環式芳香族基としては、前記した炭素数6〜36の炭素環式芳香族基が挙げられる。一般式(1)の置換基R及びRにおける、好ましい炭素数6〜36の炭素環式芳香族基としては、前記したものの他にテトラフェニルフェニル基、好ましくは2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基が挙げられる。このようなテトラフェニルフェニル基、好ましくは2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基は、一般式(1)のベンゼン環のどの位置に結合していてもよいが、好ましくは窒素原子のパラ位が挙げられる。それぞれのベンゼン環のパラ位にテトラフェニルフェニル基、好ましくは2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基が結合したものがさらに好ましい。
本発明の一般式(1)における炭素数1〜20のアルコキシ基としては、前記した炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。
本発明の一般式(1)における炭素数7〜37のアラルキル基としては、前記した炭素数7〜37のアラルキル基が挙げられる。
本発明の一般式(1)におけるR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環としては、飽和又は不飽和の5〜8員の単環式、多環式、又は縮合環式の脂環式基が挙げられ、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環などが挙げられる。
【0026】
一般式(1)で表される光学活性アミンは、一般式(1)で*印で示される炭素原子に不斉があり、それぞれの不斉炭素原子の立体配置をR又はSでそれぞれ示す。以下、本明細書では、これらの2個の不斉炭素原子の立体配置がR、Rであるものを(R、R)型光学活性アミンと表記し、S、Sであるものを(S、S)型光学活性アミンと表記する。
本発明における好ましい光学活性アミンとしては、(R、R)型光学活性アミンが挙げられるがこれに限定されるものではない。
好ましい光学活性アミンとしては、一般式(1)におけるR及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成している光学活性アミンが挙げられ、また置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位において2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基である光学活性アミンが挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましい光学活性アミンとしては、例えば、
1.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位が2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基である(R、R)型光学活性アミン(以下、単に(R,R)−ジアミンという。)、
2.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位がフェニル基である(R、R)型光学活性アミン、
3.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位がt−ブチル基である(R、R)型光学活性アミン、
4.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位がメチル基である(R、R)型光学活性アミン、
5.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位がフッ素原子である(R、R)型光学活性アミン、
6.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環が無置換である(R、R)型光学活性アミン、
7.R及びRが隣接する炭素原子と一緒になってシクロヘキサン環を形成し、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環が3,5−ジメチル基である(R、R)型光学活性アミン、
8.R及びRがそれぞれフェニル基であり、置換基R及びRがそれぞれのベンゼン環のパラ位がメトキシ基である(R、R)型光学活性アミン、
などが挙げられる。
【0027】
本発明の光学活性アミン−パラジウム触媒における、パラジウム成分としては各種のパラジウム化合物から選択することができる。好ましいパラジウム化合物としては、前記した一般式(1)で表される光学活性アミンと錯体を形成することができるパラジウム化合物が挙げられる。このようなパラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、塩化パラジウムなどのパラジウム塩、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム([PdCl(CHCN)])、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム([PdCl(PhCN)])などのパラジウム有機錯体などが挙げられる。
本発明の光学活性アミン−パラジウム触媒は、一般式(1)で表される光学活性アミンとパラジウム成分とを混合して使用することもできるし、これらを錯体にしてから使用することもできる。詳細な反応機構は必ずしも明確ではないが、触媒活性は錯体として作用してものと考えられる。したがって、一般式(1)で表される光学活性アミンとパラジウム成分とを混合して使用する場合には、化学量論量又は少し過剰、例えば1.05〜1.5当量程度の比で使用するのが好ましい。
【0028】
本発明の方法は、前記した一般式(2)で表される化合物、好ましくはそのラセミ体を、好ましくは溶媒の存在下で、低級アルコールと、本発明の光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下で反応させることにより行うことができる。使用する光学活性アミン−パラジウム触媒として一般式(1)で表される光学活性アミンとパラジウム成分とを、反応系にそれぞれ添加してもよいが、好ましくは予め一般式(1)で表される光学活性アミンとパラジウム成分とを、好ましくは溶媒の存在下で混合して錯体を形成させて使用する。
本発明の方法における低級アルコールとしては、炭素数1〜10,好ましくは炭素数1〜5の置換又は非置換の直鎖状又は分枝状のアルカノールが挙げられる。当該アルカノールの置換基としては、塩素原子などのハロゲン原子、水酸基、アミノ基などが挙げられる。好ましい低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−クロロエタノール、2−ブロモエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなどが挙げられ、なかでも2−クロロエタノールが好ましい。低級アルコールの使用量は、一般式(2)で表される化合物の化学量論量以上であれば特に制限はないが、原料物質に対するモル比で5〜10000倍、好ましくは10〜1000倍、10〜100倍が挙げられる。また、低級アルコールを溶媒として使用することもできる。
本発明の方法では、低級アルコールを反応物と同時に溶媒としても使用することができるので、特に溶媒を使用する必要は無いが、溶媒を使用することもできる。この場合に使用できる好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル系溶媒などが挙げられる。溶媒として水を使用することもできるが、加水分解反応などの副反応が生起することがあるので、好ましくない。
本発明の方法の反応条件としては、特に制限はないが、一般的には室温又はそれ以下の温度が好ましい。反応温度を溶媒の還流温度(35〜80℃)とすることもできるが、原料化合物や生成物のラセミ化が生起することもあり得ることから、反応温度は室温程度とするのが好ましい。
反応時間は、適時選択することができるが、生成物として光学活性体を得る場合には、本発明の方法による光学分割が速度論的手法であることから、極端に長時間になる反応時間を避けた方がよい。好ましい反応時間としては、1〜150時間、より好ましくは1〜80時間程度である。
本発明の方法により生成する化合物は、次の一般式(3)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、環A、環B、R、R、及びR10は、前記した一般式(2)のものと同じである。)
で表される化合物である。また、副生成物として対応するビニルエーテルも生成する。
一般式(3)で表される生成物は、原料化合物がラセミ体の場合であっても、触媒として光学活性アミンを使用していることにより、どちらかの光学活性体(エナンチオマー)が優先的に生成することになる。どちらの異性体になるかは、使用する光学活性アミンの光学活性や反応条件によることが多い。
本明細書では、本発明の方法における光学選択性を、次に示す反応速度比krelによって示す。反応速度比krelは、以下の計算式で算出される。
rel(sub.) = ln[(1-conv)(1-eesub)]/ln[(1-conv)(1+eesub)]
rel(pro.) = ln[(1-conv)(1+eepro)]/ln[(1-conv)(1-eepro)]
上記式における、krel(sub.)は反応原料についての反応速度比krelであり、convは反応原料の転換率(小数での値)を示し、eesubは未反応原料のエナンチオマー過剰率((R−S)/(R+S)又は(S−R)/(R+S)(式中のR及びSは各エナンチオマーの量を示す。))を示す。また、上記式における、krel(pro.)は生成物についての反応速度比krelであり、convは反応原料の転換率(小数での値)を示し、eeproは反応生成物のエナンチオマー過剰率((R−S)/(R+S)又は(S−R)/(R+S)(式中のR及びSは各エナンチオマーの量を示す。))を示す。
生成物がラセミ体の場合には、R体とS体が当量であるからeeの値はいずれも、0となるから、反応速度比krelの値は、1となる。また、片方のエナンチオマーが優先的に生成した場合には、反応速度比krelの値は、大きくなる。本発明の方法によれば、原料がラセミ体の場合でも、反応速度比krelの値は、5以上、好ましくは11.0以上、より好ましくは20.8以上、さらに好ましくは24.5以上となり、本発明の方法が光学分割手段として極めて優れた方法であることが示された(後述する実施例参照)。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、簡便な方法で、かつ穏和な反応条件で選択的にビニルエーテル基を切断することができ、各種の有機工業製品の製造に使用できる有機化合物の新規な方法を提供するものである。さらに、本発明は、一般式(1)で表される光学活性アミンを使用することにより、ラセミ体を光学分割する新たな手法を提供するものである。本発明のこの方法は、迅速でかつ大量の原料化合物を処理することができ、バッチ式だけでなく連続式の方法においても使用可能となり、工業的な光学分割として極めて優れた方法を提供するものである。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
光学活性2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルの製造
(1)低級アルコールとしてメタノールを用いた場合
アルゴン雰囲気下、次式
【0034】
【化9】

【0035】
で表されるN,N’−ジ{3−(2’,3’,4’,5’−テトラフェニルビフェニル}−シクロヘキサン−1,2−ジアミン(以下、(R,R)−ジアミンという。)20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチル79.9mg(202μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。61時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、原料化合物の2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルが45.3%残存し、その光学純度を測定したところ90.2%eeで、(R)体であった。一方、反応生成物は54.7%得られ、光学純度は74.6%eeで、(S)体であった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は20.8であった。
回収原料のNMRは次のとおりであった。
H NMR (アセトン−d) δ:
8.09(d,1H,J=9.2Hz), 8.07(d,1H,J=9.2Hz), 8.02(d,1H,J=8.2Hz),
7.96(d,1H,J=8.2Hz), 7.50(d,1H,J=9.2Hz), 7.48(dd,1H,J=1.4,6.9Hz),
7.45(d,1H,J=9.2Hz), 7.41(dd,1H,J=1.4,6.9Hz), 7.33(dd,1H,J=1.4,6.9Hz),
7.27(dd,1H,J=1.4,6.9Hz), 7.24(d,1H,J=8.7Hz), 7.10(d,1H,J=8.7Hz),
6.63(dd,1H,J=6.0,13.8Hz), 4.38(dd,1H,J=1.4,13.8Hz),
4.21(dd,1H,J=1.4,6.0Hz), 0.72(s,9H).
【実施例2】
【0036】
光学活性2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルの製造
(2)低級アルコールとして2−クロロエタノールを用いた場合
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチル79.9mg(202μmol)を2−クロロエタノール0.2ml(2.98mmol)に溶解し、20℃にて攪拌した。63時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルが68.5%残存し、その光学純度を測定したところ43.4%eeで、(R)体であった。一方、反応生成物は31.5%得られ、光学純度は92.9%eeで、(S)体であった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は41.2であった。
実施例1及び実施例2の結果をまとめて次の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
また、比較例として、実施例1と同様な方法において、(R,R)−ジアミンに代えて光学活性(キラル)な配位子として知られる(S)−BINAP又は(−)−スパルテイン((-)-Sparteine)を使用して、同様にkrelの値を測定した。結果を次の表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この結果、本発明の光学活性アミンは、光学分割において、極めて優れた活性を有していることが示された。
【実施例3】
【0041】
光学活性6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
(1)酢酸パラジウム5モル%、(R,R)−ジアミン10モル%の場合
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル71.7mg(201μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。20時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが48.7%残存し、その光学純度を測定したところ87.5%eeで、(R)体であった。一方、反応生成物は51.3%得られ、光学純度は82.8%eeで、(S)体であった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は30.1であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR(アセトン−d) δ:
7.33(d,1H,J=8.4Hz), 7.31(d,1H,J=8.4Hz), 6.91(dd,1H,J=1.2,8.4Hz),
6.81(dd,1H,J=1.2,8.8Hz), 6.77(dd,1H,J=1.2,8.4Hz), 6.69(dd,1H,J=1.2,8.8Hz),
6.55(dd,1H,J=6.0,14.0Hz), 4.46(dd,1H,J=1.2,14.0Hz),
4.23(dd,1H,J=1.2,6.0Hz), 3.72(s,3H),3.68(s,3H),0.98(s,9H).
【実施例4】
【0042】
光学活性6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
(2)酢酸パラジウム1モル%、(R,R)−ジアミン2モル%の場合
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン8.2mg(8.0μmol)と、酢酸パラジウム0.9mg(4.0μmol)をジクロロメタン0.1mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル142mg(398μmol)、メタノール160μlをジクロロメタン0.12ml(1.98mmol)に溶解し、20℃にて攪拌した。68時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが55.8%残存し、その光学純度を測定したところ69.8%eeであった。一方、反応生成物は44.2%得られ、光学純度は88.0%eeであった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は32.7であった。
【実施例5】
【0043】
光学活性5,5‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と5,5‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル71.2mg(202μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。40時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、5,5‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが50.4%残存し、その光学純度を測定したところ85.8%eeで、(R)体であった。一方、反応生成物は49.6%得られ、光学純度は86.1%eeで、(S)体であった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は35.8であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR (アセトン−d) δ:
7.18(d,1H,J=8.0Hz),7.17(d,1H,J=8.0Hz), 6.87(d,1H,J=8.0Hz),
6.84(d,1H,J=8.0Hz), 6.51(dd,1H,J=6.0,14.0Hz), 4.41(dd,1H,J=1.6,14.0Hz),
4.22(dd,1H,J=1.6,6.0Hz), 2.30(s,3H), 2.25(s,3H), 1.92(s,3H),
1.84(s,3H), 0.89(s,9H).
【実施例6】
【0044】
光学活性5,5‘−ジクロロ−4,4‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と5,5‘−ジクロロ−4,4‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル85.1mg(202μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。72時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、5,5‘−ジクロロ−4,4‘,6,6‘−テトラメチル−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが59.9%残存し、その光学純度を測定したところ50.9%eeであった。一方、反応生成物は40.1%得られ、光学純度は81.0%eeであった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は12.1であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR(アセトン−d) δ:
7.03(s,1H), 7.00(s,1H), 6.58(dd,1H,J=6.0,13.6Hz),
4.52(dd,1H,J=1.6,13.6 Hz), 4.35(dd,1H,J=1.6,6.0Hz), 2.43(s,3H),
2.41(s,3H), 2.08(s,3H), 2.01(s,3H), 0.92(s,9H).
【実施例7】
【0045】
光学活性4,4‘,6,6‘−テトラメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と4,4‘,6,6‘−テトラメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル83.2mg(200μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。12時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、4,4‘,6,6‘−テトラメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが64.0%残存し、その光学純度を測定したところ49.4%eeであった。一方、反応生成物は36.0%得られ、光学純度は88.3%eeであった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は25.4であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR(アセトン−d) δ:
6.53(dd,1H,J=6.4,13.8Hz), 6.44(d,1H,J=2.3Hz), 6.36(d,1H,J=2.3Hz),
6.32(d,1H,J=2.3Hz), 6.24(d,1H,J=2.3Hz), 4.45(dd,1H,J=1.4,13.8Hz),
4.20(dd,1H,J=1.4,6.4Hz), 3.80(s,3H), 3.79(s,3H), 3.68(s,3H),
3.64(s,3H),0.99(s,9H).
【実施例8】
【0046】
光学活性ビス(5,6,5‘,6’−メチレンジオキシ)−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン10.2mg(10.0μmol)と、酢酸パラジウム1.1mg(4.9μmol)をジクロロメタン0.1mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体とビス(5,6,5‘,6’−メチレンジオキシ)−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニル39.4mg(103μmol)、メタノール40μl(0.99mmol)をジクロロメタン60μlに溶解し、20℃にて攪拌した。21時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、ビス(5,6,5‘,6’−メチレンジオキシ)−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルが56.5%残存し、その光学純度を測定したところ66.7%eeであった。一方、反応生成物は43.5%得られ、光学純度は86.2%eeであった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は26.7であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR(アセトン−d) δ:
6.88(d,2H,J=8.0Hz), 6.86(d,1H,J=8.4Hz), 6.65(d,1H,J=8.4Hz),
6.56(d,1H,J=8.0Hz), 6.53(dd,1H,J=6.4,14.0Hz), 6.02(d,2H,J=9.1Hz),
5.98(d,1H,J=6.3Hz), 4.48(d,1H,J=14.0Hz), 4.23(d,1H,J=6.4Hz), 1.08(s,9H).
【実施例9】
【0047】
光学活性6,6‘−ジブロモ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルの製造
アルゴン雰囲気下、(R,R)−ジアミン20.4mg(19.9μmol)と、酢酸パラジウム2.2mg(9.8μmol)をジクロロメタン0.2mlに溶解し室温にて攪拌した。2時間後、ジクロロメタンを減圧下で除去し、得られた錯体と6,6‘−ジブロモ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチル111mg(200μmol)、メタノール80μl(1.98mmol)をジクロロメタン0.12mlに溶解し、20℃にて攪拌した。61時間後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したところ、6,6‘−ジブロモ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルが61.2%残存し、その光学純度を測定したところ49.2%eeで、(R)体であった。一方、反応生成物は38.8%得られ、光学純度は76.6%eeで、(S)体であった。また、この時の反応の選択性を示すkrelの値は12.2であった。
回収した原料化合物のNMRは次のとおりであった。
H NMR(アセトン−d) δ:
8.30(d,1H,J=2.0Hz), 8.24(d,1H,J=2.0Hz), 8.13(d,1H,J=8.8Hz),
8.11(d,1H,J=8.8Hz), 7.60(d,1H,J=8.4Hz), 7.54(d,1H,J=8.4Hz),
7.50(dd,1H,J=2.0,9.2Hz), 7.44(dd,1H,J=2.0,9.2Hz), 7.19(d,1H,J=9.2Hz),
7.03(d,1H,J=9.2Hz), 6.68(dd,1H,J=6.0,13.6Hz), 4.44(dd,1H,J=1.6,13.6Hz),
4.29(dd,1H,J=1.6,6.0Hz), 0.76(s,9H).
【0048】
以上の実施例3〜実施例9の結果をまとめて次の表3に示す。表3のエントリー(Entry)の番号は、実施例3〜実施例9をそれぞれ1〜7の数字で示したものである。表3中のRは、エントリー(Entry)番号1〜5(実施例3〜7)は、置換基部分のみを示しており、エントリー(Entry)番号6及び7(実施例8及び9)は、原料化合物の全体を示している。
【0049】
【表3】

【0050】
この結果、原料化合物のベンゼン環又はナフタレン環上の置換基の種類によるkrelの値の変化には系統的な変化は観測されず、置換基の存在やその種類による影響は少ないと考えられる。
【実施例10】
【0051】
光学活性2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルの製造
光学活性アミンとして実施例1に記載の(R,R)−ジアミンに代えて、次の表4の1〜8及び11〜16に示す光学活性(キラル)なジアミン配位子を用いて、実施例1と同様な方法で光学活性2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルを製造した。同様にしてkrelの値を測定した。
結果を次の表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
この結果、光学活性アミンのベンゼン環の置換基の種類により、krelの値が変化することがわかった。また、一般式(1)で表される光学活性アミンの置換基R及びRが一緒になって環を形成したもののほうが全般的に好ましいkrelの値を与えることが分かった。
【実施例11】
【0054】
光学活性2−置換−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルの製造
原料物質として実施例1に記載の2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルに代えて、次の表5のR欄に示す置換基(一般式(2)におけるR10に相当)を有する2−置換−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルを用いて、実施例1と同様な方法で光学活性2−置換−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビナフチルを製造した。同様にしてkrelの値を測定した。
結果を次の表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
この結果、一般式(2)における置換基R10が、嵩高い基であるほうがkrelの値がよいことがわかった。これは、反応自体による影響よりも、オルト位の置換基が嵩高いほうが回転障害が大きくなり光学活性体として安定であるためと考えられる。
【実施例12】
【0057】
光学活性6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルの製造
原料物質として実施例2に記載の2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビナフチルに代えて、次の表6のエントリー番号2に示される6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ビニルオキシ−1,1‘−ビフェニルを用いて、実施例2と同様な方法で光学活性6,6‘−ジメトキシ−2−ピバロイルオキシ−2‘−ヒドロキシ−1,1‘−ビフェニルを製造した。同様にしてkrelの値を測定した。
結果を次の表6に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
この結果、原料物質の種類によらず、低級アルコールとして2−クロロエタノールを使用する場合に、ほぼ同等な極めて優れたkrelの値を得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、簡便な方法で穏和な条件で選択的にビニルエーテル基を切断できる方法を提供するだけでなく、光学分割のための新規な触媒を提供するものであり、かつ本発明の方法は大量の化合物を迅速に処理することも可能であり、各種の有機工業薬品の新たな製造方法として、また新規光学活性触媒を提供するものとして有機工業において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、若しくは炭素数6〜36の炭素環式芳香族基を示すか、又はR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、及び炭素数7〜37のアラルキル基からなる群から選ばれる0個〜10個のベンゼン環に結合する置換基を示す。式中の*印は、当該炭素原子が不斉炭素原子であることを示す。)
で表される光学活性アミン−パラジウム触媒の存在下に、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法。
【請求項2】
一般式(1)におけるR及びRのいずれか1個又は2個が、2,3,4,5−テトラフェニルフェニル基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体が、次の一般式(2)
【化2】

(式中、環A及び環Bはそれぞれ独立してベンゼン環又はナフタレン環を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又は炭素数3〜15の脂環式炭化水素基を示し、R10は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜15の脂環式炭化水素基、炭素数2〜21のアルキルカルボニル基、炭素数4〜16の脂環式炭化水素−カルボニル基、又は、炭素数8〜41のアラルキルカルボニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、置換基を有していてもよい1個〜4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3〜8員の環を有する複素環基、置換基を有していてもよい炭素数7〜40のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数7〜37の炭素環式芳香族−カルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数8〜41のアラルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜37の炭素環式芳香族−オキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数8〜41のアラルキルオキシカルボニル基、及び、置換若しくは非置換のアミノ基からなる置換基、並びに隣接する位置の置換基が一緒になって炭素数3〜5のアルキレン基、及び炭素数1〜3のアルキレンジオキシ基からなる群から選ばれる0個〜12個の環A又は環Bに結合する置換基を示す。)
で表される化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体が、ラセミ体である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ビニルエーテル部分が加アルコール分解されて、生成した対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体が光学活性体である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
低級アルコールが、2−クロロエタノールである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
次の一般式(1)
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、若しくは炭素数6〜36の炭素環式芳香族基を示すか、又はR及びRが隣接する炭素原子と一緒になって5〜8員のシクロアルキル環を形成していてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜36の炭素環式芳香族基、及び炭素数7〜37のアラルキル基からなる群から選ばれる0個〜10個のベンゼン環に結合する置換基を示す。式中の*印は、当該炭素原子が不斉炭素原子であることを示す。)
で表される光学活性アミン、及びパラジウム化合物を含有してなる光学活性アミン−パラジウム触媒。
【請求項8】
パラジウム化合物が、酢酸パラジウムである請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
触媒が、ラセミ体の光学分割用の触媒である請求項7又は8に記載の触媒。
【請求項10】
触媒が、ビフェノール−モノビニルエーテル誘導体又はビナフトール−モノビニルエーテル誘導体のビニルエーテル部分を、低級アルカノールの存在下で選択的に加アルコール分解して、対応するビフェノール誘導体又はビナフトール誘導体を製造する方法に用いられるものである請求項7又は8に記載の触媒。



【公開番号】特開2006−188459(P2006−188459A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1584(P2005−1584)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】