説明

光学物品及びその製造方法

【課題】高温での劣化を防止することができる光学物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の光学物品は、放熱用の水晶基材51にガラス材52を熱成形して一体化したことを特徴とする。本発明の光学物品の製造方法は、一方の金型と他方の金型との間に水晶基材51とこの水晶基材51のα−β相転移温度よりガラス転移温度が低いガラス材52とを配置するとともに、これらの金型を型締めしながら加熱してガラス材52を成形部53に加工する加熱プレス工程を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱用の水晶基材を有する光学物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタは、照明光学系で照射された光が色光分離光学系、液晶ユニット及びダイクロイックプリズムを通り、さらに、投写レンズからスクリーンに画像が投影されるものである。
照明光学系は、光源を備え、この光源からの出射光を均一にするためのフライアイレンズが備えられている。そして、液晶ユニットには、偏光板や防塵ガラス等が備えられている。
【0003】
プロジェクタに備えられる液晶ユニットでは、偏光板をPVA等からなるフィルム状部材とし、防塵ガラスを熱伝導性に優れた水晶とし、この水晶にフィルム部材をアクリル系の接着剤によって接着固定する(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−350291号公報(段落[0032]〜[0034]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例の光学物品は、水晶からなるガラスを接着剤でフィルム部材に接着固定するため、光学物品の高温での使用が制限される。そして、接着剤は有機物質であるため、高温あるいは紫外線で劣化することになり、接着剤が劣化すると、さらに熱を吸収することになる。
【0006】
本発明の目的は、高温での劣化を防止することができる光学物品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例の光学物品は、水晶基材とガラス材とからなる光学物品であって、前記水晶基材と前記ガラス材との界面を熱圧着で接合し、前記ガラス材の他方の面を熱成形したことを特徴とする。
この構成の本適用例では、光学物品の高温での使用を想定し、放熱等を目的として水晶基材を採用できる。そして、この水晶基材に、熱成形によってガラス材を熱接合し一体化させる。水晶基材とガラス材の間には、接着剤が介在していない。
従って、本適用例では、水晶基材により光学物品の耐熱性等を高めることができる。また、熱や紫外線などに弱い接着剤を使用しないので、光学物品の黄変や破損などを防止することができる。
【0008】
[適用例2]
本適用例の光学物品は、水晶基材とガラス材と中間ガラス材とからなる光学物品であって、前記水晶基材と前記中間ガラス材との界面および前記ガラス材と前記中間ガラス材との界面を熱圧着で接合し、前記ガラス材の他方の面を熱成形し、前記中間ガラス材の熱膨張率は、前記水晶基材の熱膨張率と前記ガラス材の熱膨張率との間の範囲内であることを特徴とする。
この構成の本適用例では、中間ガラス部材が熱膨張による変形を吸収、緩和する働きをし、各材料の接合部における剥離や破損などの発生が減少する。特に、水晶基材とガラス材との熱膨張率差が大きい場合に、得られる効果が大きい。
【0009】
[適用例3]
上記適用例に係る光学物品は、フライアイレンズであることが好ましい。。
フライアイレンズは、小レンズがマトリクス状に配列された構成を有するレンズである。
フライアイレンズは、プロジェクタなどの光学装置において、光源に近接して設けられ、光源からの出射光を複数の部分光束に分割する。ここで、フライアイレンズが光源に近接することから、光源の発熱によってフライアイレンズが高温に加熱される。
【0010】
本適用例では、加熱プレスによってガラス材を水晶基材に一体化する際に、金型などを用いてガラス材にマトリクス状の小レンズを熱成形することができる。このため、フライアイレンズの効率的な製造が可能となる。
この水晶基材によって、光源からの熱を効率的に放熱し、フライアイレンズの耐性を高めることができる。そして、熱に弱い接着剤を使用しないので、光源からの熱によるフライアイレンズの黄変や破損などを防止することができる。
【0011】
[適用例4]
本適用例に係る光学物品を製造する方法は、複数の金型を用いて加熱プレスする光学物品の製造方法であって、一方の金型と他方の金型との間に水晶基材とこの水晶基材のα−β相転移温度よりガラス転移温度が低いガラス材とを配置するとともに、これらの金型を型締めし、加熱して前記ガラス材を加工する加熱プレス工程を備えることを特徴とする。
この構成の本適用例では、加熱プレス工程において、金型を型締めし、加熱することで、水晶基材に対してガラス材を一体化させると同時に、ガラス材を加工する。
このため、成形が既に完成したガラス材を基材に接着する従来の製造方法と比べ、光学物品を効率的に製造することができる。
また、水晶基材とガラス材との界面に、熱や紫外線などに弱い接着剤が介在しないので、光学物品の黄変や破損などを防止することができる。
【0012】
また、本適用例では、水晶基材のα−β相転移温度よりガラス転移温度が低いガラス材を用いるので、加熱プレス工程における加熱温度を水晶基材のα−β相転移温度より低くすることができる。これにより、水晶基材の相転移によって、光学物品の複屈折率が変化することを防止することができる。
なお、ガラス材の割れなどを防止するために、加熱温度はガラス材の屈伏点温度の±10℃の範囲内であることが好ましい。
【0013】
[適用例5]
上記適用例に係る光学物品の製造方法は、前記水晶基材と前記ガラス材との熱膨張率差Δαが、Δα≦5.0×10−6/℃であることを特徴とする。
一体化された複数の部材の熱膨張率差が大きいと、温度変化(特に急激な温度変化)があった場合に、部材の剥離や破損などが発生しやすい。
これに対し、本適用例では、水晶基材とガラス材との熱膨張率差Δαが小さいので、水晶基材またはガラス材の剥離や破損などを防止することができる。
【0014】
[適用例6]
上記適用例に係る光学物品の製造方法は、前記加熱プレス工程が、前記水晶基材の上に中間ガラス材を配置して熱プレスする第1加熱プレス工程と、前記第1加熱プレス工程で成形された前記中間ガラス材の上に前記ガラス材を配置し、前記ガラス材と前記中間ガラス材と前記水晶基材とを金型で熱成形する第2加熱プレス工程とを備え、前記中間ガラス材の熱膨張係数は前記水晶基材の熱膨張係数と前記ガラス材の熱膨張率の間の範囲内であることが好ましい。
この構成の本適用例では、加熱プレス工程を第1加熱プレス工程と第2加熱プレス工程に分け、水晶基材とガラス材との間に中間ガラス材を備えた光学物品を得ることができる。
ここで、中間ガラス部材の熱膨張率は、水晶基材およびガラス材の熱膨張率の間の範囲内とする。すなわち、水晶部材またはガラス材と中間ガラス部材との間の熱膨張率差は、水晶部材とガラス材との間の熱膨張率差よりも小さい。
したがって、本適用例の光学部材では、中間ガラス部材が熱膨張による変形を吸収、緩和する働きをし、各材料の接合部における剥離や破損などの発生が減少する。特に、水晶基材とガラス材との熱膨張率差が大きい場合に、得られる効果が大きい。
【0015】
[適用例7]
上記適用例に係る光学物品の製造方法は、前記光学物品がフライアイレンズであることが好ましい。
本適用例では、熱成形によってガラス材を水晶基材に一体化する際に、金型などを用いてガラス材からマトリクス状の小レンズを形成することができる。このため、フライアイレンズの効率的な製造が可能となる。
【0016】
[適用例8]
上記適用例に係る光学物品の製造方法は、前記水晶基材表面の中心線平均粗さ(Ra)が、10nm以下であることが好ましい。
この構成の本適用例では、水晶基材表面の中心線平均粗さ(Ra)が小さいので、ガラス材との一体化がしやすくなる。
なお、水晶基材表面の中心線平均粗さ(Ra)は、より好ましくは、1nm以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
本実施形態の光学物品は、フライアイレンズである。
図1には、本実施形態のフライアイレンズを用いたプロジェクタの一例が示されている。図1において、プロジェクタ1は、外装筺体2と、投射レンズ3と、光学ユニット4等を備える。
光学ユニット4は、光源装置41と、均一照明光学装置42と、色分離光学装置43と、リレー光学装置44と、光学装置45と、これら光学部品42〜45を内部に収納配置する光学部品用筐体46とを備える。
光源装置41は、光源ランプ411と、リフレクタ412と、平行化レンズ413とを有しており、光源ランプ411から射出された放射状の光束をリフレクタ412にて反射させ、平行化レンズ413を介して平行光として射出する。
【0018】
均一照明光学装置42は、本実施形態の光学物品である第1フライアイレンズ421および第2フライアイレンズ422と、偏光変換素子8と、重畳レンズ424とを備える。
第1フライアイレンズ421は、入射光軸方向から見て略矩形状の輪郭を有する第1小レンズが、入射光軸に対し略直交する面内においてマトリクス状に配列された構成を有するフライアイレンズである。各第1小レンズは、光源装置41から射出される光束を複数の部分光束に分割している。
第2フライアイレンズ422は、第1フライアイレンズ421と略同様な構成を有しており、第2小レンズがマトリクス状に配列された構成を有するフライアイレンズである。この第2フライアイレンズ422は、重畳レンズ424とともに、第1フライアイレンズ421の各第1小レンズの像を光学装置45の後述する液晶パネル上に結像させる機能を有している。
第2フライアイレンズ422と重畳レンズ424との間には偏光変換素子8が設置される。
【0019】
色分離光学装置43は、2枚のダイクロイックミラー431,432と、反射ミラー433とを備え、ダイクロイックミラー431,432により均一照明光学装置42から射出された複数の部分光束を、赤、緑、青の3色の色光に分離する機能を有している。
リレー光学装置44は、入射側レンズ441、リレーレンズ443、および反射ミラー442,444を備え、色分離光学装置43で分離された赤色光を光学装置45の後述する赤色光用の液晶パネルまで導く機能を有している。
【0020】
この際、色分離光学装置43のダイクロイックミラー431では、均一照明光学装置42から射出された光束の青色光成分が反射するとともに、赤色光成分と緑色光成分とが透過する。ダイクロイックミラー431によって反射した青色光は、反射ミラー433で反射し、フィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する青色光用の液晶パネルに達する。
このフィールドレンズ425は、第2フライアイレンズ422から射出された各部分光束をその中心軸(主光線)に対して平行な光束に変換する。他の緑色光用、赤色光用の液晶パネルの光束入射側に設けられたフィールドレンズ425も同様である。
【0021】
ダイクロイックミラー431を透過した赤色光と緑色光のうちで、緑色光はダイクロイックミラー432によって反射し、フィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する緑色光用の液晶パネルに達する。一方、赤色光はダイクロイックミラー432を透過してリレー光学装置44を通り、さらにフィールドレンズ425を通って光学装置45の後述する赤色光用の液晶パネルに達する。
【0022】
光学装置45は、光変調装置としての3枚の液晶パネル451(赤色光用の液晶パネルを451R、緑色光用の液晶パネルを451G、青色光用の液晶パネルを451Bとする)と、これら液晶パネル451の光束入射側および光束射出側にそれぞれ配置される偏光素子9と、クロスダイクロイックプリズム454とを備える。
偏光素子9は、液晶パネル451の光束入射側に設けられた入射側偏光板9Aと、光束射出側に設けられた射出側偏光板9Bとを備える。
クロスダイクロイックプリズム454は、射出側偏光板9Bから射出された色光毎に変調された光学像を合成してカラー画像を形成する。このクロスダイクロイックプリズム454で形成されたカラー画像は、上述した投射レンズ3によりスクリーン等へ拡大投射される。
【0023】
図2は、本実施形態のフライアイレンズを側面から見た断面図である。
図2に示すように、フライアイレンズ5(421,422)は、放熱用の水晶基材51と、この水晶基材51に熱成形により一体化されたガラス材52とを備える。
【0024】
水晶基材51は、水晶を平板状に切り出したものである。この切り出しの方向を選択することで、所望の複屈折率を有する水晶基材51を得ることができる。
なお、水晶基材51の熱膨張率もまた、切り出し方向によって変動する。C軸に垂直な方向に切り出した場合は約7×10−6/℃となり、C軸に平行な方向に切り出した場合は約12.9×10−6/℃となることが知られている。
水晶基材表面の中心線平均粗さ(Ra)は、10nm以下であり、より好ましくは、1nm以下である。
【0025】
ガラス材52は、図1の上方から見て、略矩形状の輪郭を有する小レンズ531がマトリクス状に配列された成形部53とされている。
ガラス材52としては、ガラス転移温度が水晶基材51のα−β相転移温度より低く、水晶基材51との熱膨張率差Δαが、Δα≦5.0×10/℃の材料を用いる。
【0026】
次に、本実施形態のフライアイレンズ5の製造方法を図に基づいて説明する。
本実施形態のフライアイレンズ5の製造方法は、金型を型締めしながら加熱してガラス材52を成形部53に加工する加熱プレス工程を備える。
図3は、本実施形態のフライアイレンズの製造方法における加熱プレス工程を示す概略図である。
加熱プレス工程では、図3に示すように、水晶基材51を収容する下型61と、上型62とを備えた金型6を使用する。上型62は、本体621と、コア金型622と、を有する。コア金型622の下型61側は、成形部53に対応する形状の成形面62Aとされている。また、下型61および上型62は、図示しない加熱手段により加熱される。
【0027】
まず、図3(A)に示すように、水晶基材51を下型61に収容する。そして、水晶基材51の上面で上型62の成形面62Aに対応する位置に、水晶基材51よりも小さい平板状のガラス材52を載置する。
次に、図3(B)に示すように、下型61と上型62とを型締めしながら加熱する。このとき、ガラス材52に圧力を加える。
加熱温度は、ガラス材52の屈伏点温度±10℃の範囲内である。ここで、ガラス材52のガラス転移温度が水晶基材51のα−β相転移温度より低いので、水晶基材51は、α−β相転移を起こさない。
なお、型締めの圧力や時間などの諸条件は、フライアイレンズ5の大きさ、材質、形状などに応じて適宜設定することができる。
最後に、金型6を開き、水晶基材51およびガラス材52を冷却することで、ガラス材52が成形部53に加工されたフライアイレンズ5が完成する。
【0028】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態のフライアイレンズ5では、放熱性に優れる水晶基材51を使用することで、光源装置41からの熱に対するフライアイレンズ5の耐熱性を高めることができる。また、熱や紫外線などに弱い接着剤を使用しないので、フライアイレンズ5の黄変や破損などを防止することができる。
【0029】
(2)本実施形態のフライアイレンズ5の製造方法では、加熱プレス工程において、金型6を型締めしながら加熱することで、水晶基材51に対してガラス材52を一体化させると同時に、ガラス材52を成形部53に加工することができる。これにより、フライアイレンズ5を効率的に製造することができる。
(3)水晶基材51のα−β相転移温度よりガラス転移温度が低いガラス材52を用い、加熱プレス工程における加熱温度を水晶基材51のα−β相転移温度より低くしている。このため、水晶基材51の相転移によって、フライアイレンズ5の複屈折率が変化することを防止することができる。
【0030】
(4)水晶基材51とガラス材52との熱膨張率差Δαが、Δα≦5.0×10−6/℃であるため、水晶基材51またはガラス材52の剥離や破損などを防止することができる。
(5)加熱プレス工程における加熱温度をガラス材52の屈伏点温度±10℃の範囲内にしているので、成形部53の割れなどを防止することができる。
(6)水晶基材51表面の中心線平均粗さ(Ra)を10nm以下としたので、ガラス材52との一体化がしやすくなる。
【0031】
[第2実施形態]
本実施形態の光学物品は、水晶基材51と成形部53との間に中間ガラス部材を備える点において、上述の第1実施形態と異なる。第1実施形態と共通の構成については同一の符号を用い、説明を省略する。
【0032】
図4は、本実施形態のフライアイレンズ5を側面から見た断面図である。
図4に示すように、フライアイレンズ5は、放熱用の水晶基材51と、この水晶基材51に熱プレスにより一体化された中間ガラス材54と、中間ガラス材54に熱成形により一体化された成形部53(ガラス材52)とを備える。
ここで、中間ガラス材54の熱膨張係数は、水晶基材51の熱膨張係数とガラス材52の熱膨張率の間の範囲内である。中間ガラス材54のガラス転移温度は、水晶基材51のα−β相転移温度とガラス材52のガラス転移温度の中間の温度である。
【0033】
図5は、本実施形態のフライアイレンズの製造方法における加熱プレス工程を示す概略図である。
本実施形態の加熱プレス工程は、第1加熱プレス工程と、第2加熱プレス工程とを備える。
【0034】
第1加熱プレス工程では、まず、図5(A)に示すように、水晶基材51を下型61に収容する。そして、水晶基材51の上面に、水晶基材51と略同一形状で水晶基材51よりも薄い平板状の中間ガラス材54を載置する。
次に、図5(B)に示すように、中間ガラス材54の上面を平板状のプレス板7で熱プレスする。加熱温度は、中間ガラス材54の屈伏点温度±10℃の範囲内であり、水晶基材51のα−β相転移温度より低い。
続いて、プレス板7を外し、上型62を用意して第2加熱プレス工程を実施する。なお、プレス板7を外したあと、第2加熱プレス工程を実施する前までに、水晶基材51および中間ガラス材54は、200℃以下まで冷却される。
【0035】
第2加熱プレス工程では、まず、図5(C)に示すように、中間ガラス材54の上面で上型62の成形面62Aに対応する位置に、中間ガラス材54よりも小さい平板状のガラス材52を載置する。
次に、図5(D)に示すように、下型61と上型62とを型締めしながら加熱する。このとき、ガラス材52に圧力を加える。
加熱温度は、ガラス材52の屈伏点温度±10℃の範囲内であり、中間ガラス材54のガラス転移温度よりも低い。
最後に、金型6を開き、水晶基材51、中間ガラス材54およびガラス材52を冷却することで、フライアイレンズ5が完成する。
【0036】
従って、本実施形態では、上述の第1実施形態の作用効果に加え、次の作用効果を奏することができる。
(7)水晶基材51およびガラス材53の熱膨張率の間の範囲内の熱膨張率を有する中間ガラス材54が、熱膨張による変形を吸収、緩和する働きをするので、各材料の接合部における剥離や破損などの発生を減少させることができる。
(8)中間ガラス材54のガラス転移温度が、水晶基材51のα−β相転移温度とガラス材52のガラス転移温度の中間の温度である。
このため、第1加熱プレス工程において、水晶基材51がα−β相転移を起こすことがが無く、フライアイレンズ5の複屈折率が変化することを防止することができる。
また、第2加熱プレス工程において、中間ガラス材54がガラス転移温度以上の温度に加熱されることが無いので、中間ガラス材54を変形させることなくガラス材52の熱成形を実施することができる。
【0037】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記した各実施形態では、光学物品としてフライアイレンズ5を例示したが、本発明の光学物品はこれに限定されず、他のレンズやシート、フィルムなどであってもよい。
また、前記した各実施形態では、光学物品としてフライアイレンズ5をプロジェクタ1に用いたが、本発明では、プロジェクタ1以外の装置、例えば、ピックアップ装置にも用いることができる。
さらに、水晶基材51、中間ガラス材54およびガラス材52の物性は、前記した各実施形態で例示したものに限定されない。この場合でも、各部材の間に接着剤が介在しないことから、光学物品の黄変や破損などを適切に防止することができる。
【0038】
[実験例]
C軸に垂直な方向に切り出した□1×1mmの水晶板につき、引張強度と熱膨張率について、実験した。そして、これに基づいて、許容される水晶基材51とガラス材52との熱膨張率差Δαを求めた。なお、水晶はガラスよりも熱膨張が小さいと仮定した。
【0039】
引っ張り試験を実施すると、水晶の特性値から、水晶板の破断強度は、1.3×10kg/cm(1.30×10g/mm)となる。
ここで、C軸に垂直な方向に切り出した水晶板のヤング率は、7.79×1011dyne/cm(7.94×10g/mm)であるから、破断時の水晶板の伸びXは、
X=(1.30×10)/(7.94×10)=1.64×10−3(mm)
となる。
つまり、ヤング率の最も小さい水晶板であっても、1.64×10−3mmの伸びには耐えうるということがわかる。
【0040】
次に、水晶板に同一寸法のガラスを一体化した光学物品を、0℃から300℃まで加熱する場合を考える。
0℃において水晶板とガラスの寸法が同一であれば、300℃における水晶板とガラスとの寸法差Yは、Y=熱膨張率差Δα×300となる。
この寸法差Yが、1.64×10−3mmを超えるときに、水晶板とガラス板との接合部で破断が発生すると考えられる。ここから、300℃で破断するような熱膨張率差Δαを逆算すると、
Δα≧(1.64×10−3)/300=5.47×10−6(/℃)
となる。
このことから、水晶基材51との熱膨張率差Δαが、Δα≦5.0×10−6/℃であれば、300℃の温度変化によっても水晶基材51が破断しない光学物品が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、放熱用の水晶基材を有する光学物品及びその製造方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフライアイレンズを用いたプロジェクタの一例を示す図。
【図2】第1実施形態のフライアイレンズを側面から見た断面図。
【図3】第1実施形態のフライアイレンズの製造方法における加熱プレス工程を示す概略図。
【図4】第2実施形態のフライアイレンズを側面から見た断面図。
【図5】第2実施形態のフライアイレンズの製造方法における加熱プレス工程を示す概略図。
【符号の説明】
【0043】
5…フライアイレンズ、51…水晶基材、52…ガラス材、53…成形部、54…中間ガラス材、6…金型、61…下型、62…上型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基材とガラス材とからなる光学物品であって、
前記水晶基材と前記ガラス材との界面を熱圧着で接合し、
前記ガラス材の他方の面を熱成形したことを特徴とする光学物品。
【請求項2】
水晶基材とガラス材と中間ガラス材とからなる光学物品であって、
前記水晶基材と前記中間ガラス材との界面および前記ガラス材と前記中間ガラス材との界面を熱圧着で接合し、
前記ガラス材の他方の面を熱成形し、
前記中間ガラス材の熱膨張率は、前記水晶基材の熱膨張率と前記ガラス材の熱膨張率との間の範囲内であることを特徴とする光学物品。
【請求項3】
前記光学物品がフライアイレンズであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学物品。
【請求項4】
複数の金型を用いて加熱プレスする光学物品の製造方法であって、
一方の金型と他方の金型との間に水晶基材とこの水晶基材のα−β相転移温度よりガラス転移温度が低いガラス材とを配置するとともに、これらの金型を型締めし、加熱して前記ガラス材を加工する加熱プレス工程を備えることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項5】
前記水晶基材と前記ガラス材との熱膨張率差Δαが、
Δα≦5.0×10−6/℃
であることを特徴とする請求項4に記載の光学物品の製造方法。
【請求項6】
前記加熱プレス工程は、前記水晶基材の上に中間ガラス材を配置して熱プレスする第1加熱プレス工程と、前記第1加熱プレス工程で成形された前記中間ガラス材の上にガラス材を配置し、前期ガラス材と前記中間ガラス材と前記水晶基材とを金型で熱成形する第2加熱プレス工程とを備え、
前記中間ガラス材の熱膨張率は前記水晶基材の熱膨張率と前記ガラス材の熱膨張率との間の範囲内であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の光学物品の製造方法。
【請求項7】
前記光学物品がフライアイレンズであることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載の光学物品の製造方法。
【請求項8】
前記水晶基材表面の中心線平均粗さ(Ra)は、10nm以下であることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれかに記載の光学物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−186534(P2009−186534A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23556(P2008−23556)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】