説明

光学用フィルム

【課題】成形加工時の熱劣化に起因するフィルム欠陥が少なく、優れた透明性を有する光学用フィルムを提供する。
【解決手段】
ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂100重量部と、1%熱減量温度が340℃以上であるトリアジン系化合物0.1〜2重量部とを含む光学用フィルムであって、熱分解GC/MS分析により求めた(メタ)アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマー単位が、メチルメタクリレート単位97〜100%とメチルアクリレート単位0〜3%からなることを特徴とする光学用フィルムにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用フィルムに関するものであり、特に、フィルム成形時における熱劣化に起因するフィルム欠陥の少ない、紫外線吸収能を有する光学用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特徴を生かした液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。これら液晶表示装置は、偏光フィルムに始まり、その表示品位を保つ為に各種フィルムが用いられている。又、携帯情報端末や携帯電話向けに液晶表示装置を更に軽量化する目的で、ガラス基板の代わりに樹脂フィルムを用いたプラスチック液晶表示装置も実用化されている。
【0003】
液晶表示装置のように偏光を取り扱う場合、用いる樹脂フィルムは光学的に透明である事の他に、光学的に均質である事、着色や変色が少ない事、点状或いはスジ状等の外観欠陥が少ない事が求められる。又、ガラス基板を樹脂フィルムに代えたプラスチック液晶表示装置用のフィルム基板の場合等のように、複屈折と厚みの積で表される位相差が小さい事が要求されることもある。更に、外部の応力等によりフィルムの位相差が変化しにくい事が要求されることもある。
【0004】
また、液晶表示装置と同様に、カメラ、フィルム一体型カメラ、ビデオカメラ等の各種撮影装置、CDやDVD等の光ピックアップ装置、プロジェクター等のOA機器等に使用される従来ガラスが用いられていたレンズも、軽量化を目的とした樹脂への置き換えが進んでいる。このようなプラスチックレンズは、温度や湿気等の使用環境による歪みによる焦点距離のズレの発生や射出成形等の加工時の応力発生等による位相差の影響を受けやすいため、外部応力により位相差が変化しにくい事がフィルムと同様に要求されている。これらを満足させる樹脂組成物として従来からのトリアセチルセルロースに代わり、透明性および耐熱性の高い(メタ)アクリル系樹脂の使用が検討されている。代表的な(メタ)アクリル系樹脂として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられるが、一般的に市販されているPMMAは、重合時や加工時における、樹脂の解重合防止や、流れ性改善のために、アクリル酸メチルが共重合されている。また、このような光学フィルムでは、必要に応じて、トリアジン系化合物に代表される紫外線吸収剤を添加し、紫外線吸収能を付与することもある。
【0005】
光学フィルムには外観欠点の少ないものが要望されるため、光学フィルム材料として(メタ)アクリル系樹脂を主成分とする樹脂材料を用いる場合、外観欠点の原因となる樹脂材料中の異物等を除去するため、当該樹脂材料を含有する成型材料を押出し成型して光学フィルムを成型する際にポリマーフィルターに通して異物を除去する必要がある。しかし、溶融製膜法を用いた場合、このフィルタリングの際にかかる熱によって(メタ)アクリル系樹脂の熱劣化が起こり、成型後のフィルムに分解したモノマーによる発泡や光学的な欠陥が生じるという問題があった。このような(メタ)アクリル樹脂の熱劣化を防ぐためにリン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びチオエーテル系化合物などの酸化防止剤を添加することが知られている(特許文献1)。また、原料となる(メタ)アクリル樹脂に環状構造を有するモノマー単位を導入し、耐熱性を向上させた樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/054410号公報
【特許文献2】特開2006−328334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、長時間の生産におけるフィルム欠陥に対し改善の余地があった。また、特許文献2の方法では、原料となる(メタ)アクリル樹脂に環状構造を有するモノマー単位を導入する工程を必要とするため、生産性が低下したり、製造過程で樹脂の分解が進んだりするため、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、成型加工時の熱劣化に起因するフィルム欠陥が少なく、紫外線吸収能を有する光学用フィルムを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の(メタ)アクリル系樹脂と特定のトリアジン構造を有する化合物を含有する光学フィルムが光学用フィルムとして優れていることがわかった。即ち本発明は、以下に関する。
(i)ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂100重量部と、1%熱減量温度が340℃以上であるトリアジン系化合物0.1〜2重量部とを含む光学用フィルムであって、熱分解GC/MS分析により求めた(メタ)アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマー単位が、メチルメタクリレート単位97〜100%とメチルアクリレート単位0〜3%からなることを特徴とする光学用フィルム。
(ii)膜厚40μmにおける380nmの光線透過率が25%以下であることを特徴とする(i)記載の光学用フィルム。
(iii)延伸されたフィルムであることを特徴とする(i)または(ii)に記載の光学用フィルム。
(iv)(i)〜(iii)のいずれかに記載の光学用フィルムを用いてなることを特徴とする偏光子保護フィルム。
(v)(iv)に記載の偏光子保護フィルムを少なくとも1枚含む偏光板。
(vi)(iv)に記載の偏光子保護フィルムを偏光板の最表面とバックライト側の少なくとも1方に使用した偏光板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成型加工時の熱劣化に起因するフィルム欠陥が少なく、紫外線吸収能を有する光学用フィルムを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下、説明する。
【0012】
本発明は、ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂100重量部と、1%熱減量温度が340℃以上であるトリアジン系化合物0.1〜2重量部とを含む光学用フィルムであって、熱分解GC/MS分析により求めた(メタ)アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマー単位が、メチルメタクリレート単位97〜100%とメチルアクリレート単位0〜3%からなることを特徴とする光学用フィルムである。
【0013】
((メタ)アクリル系樹脂)
本発明の光学用フィルムに含まれる(メタ)アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が110℃以上であり、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。この範囲を下回ると、フィルムの耐熱性が劣るため、高温時の物性変化が大きくなり、適用範囲が狭くなる。特に光学用途に使用される場合には、ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、フィルムに高温環境下でゆがみなどが生じ易く、安定した光学的特性が得られない傾向があり、好ましくない。
【0014】
本発明のアクリル系樹脂は、メチルメタクリレートのホモポリマーであることが望ましいが、メチルアクリレート単位を含む場合には、熱分解GC/MS分析で3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、含まれていないことがさらに好ましい。アクリル酸エステル単位の含有量が上記範囲内から外れた場合、樹脂のガラス転移温度が低くなったり、高温成形時のポリマー主鎖の開裂が起こりやすくなり、成形後のフィルム外観が悪くなったりする傾向がある。なお熱分解GC/MS分析測定は、得られたモノマー成分の面積比により、樹脂を構成するモノマー比を算出した。
【0015】
このような、メチルアクリレート単位が少ない(メタ)アクリル系樹脂としては、市販品としては、例えばパラペットHR-S(クラレ製)やパラペットHR-L(クラレ製)、アクリペットVH(三菱レイヨン製)などが上げられる。
【0016】
上記(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であることが好ましく、5×10〜3×10であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。
【0017】
一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムの機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0018】
((メタ)アクリル系樹脂の製造方法)
ここで、上記(メタ)アクリル系樹脂の製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合させることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。製造方法としては特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが適用可能であるが、光学分野に用いる場合、不純物が少ないとの観点から、塊状重合法、溶液重合法が特に好ましい。例えば、特開昭56−8404、特公平6−86492、特公昭52−32665などに記載の方法に準じて製造できる。
【0020】
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、熱分解GC/MS分析により求めた(メタ)アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマー単位が、メチルメタクリレート単位97〜100%とメチルアクリレート単位0〜3%からなるように選択する。
【0021】
(トリアジン系化合物)
本発明にかかる光学用フィルムに含まれるトリアジン系化合物としては、トリアジン骨格を有するものであれば、特に制限されないが、2−ヒドロキシフェニルー1,3,5−トリアジン骨格を有するものが好ましい。上記骨格を有するものであれば、その他の置換基で置換されていてもよい。具体的には、WO2001/047900、WO2005/109052、WO2007/114112、特開2007−217667記載の下記化合物などがあげられる。
【0022】
市販品としては、チバスペシャリティケミカルズ製 商品名チヌビン400、チヌビン460、チヌビン477などがあげられる。これらは単独で使用しても、2種以上を混合してもよい。
【0023】
上記の中でも、熱安定化効果が高いと想定されることから、置換または無置換のヒドロキシフェニル基を2個以上有するものが好ましいと考えられる。トリアジン系化合物が2種以上の混合物である場合も、1種あたりのヒドロキシフェニル基の個数が多いものが好ましいと考えられる。
【0024】
また、高温での成形時に副反応が少ないことから、ヒドロキシフェニル基の置換基としては、反応性官能基が少ないことが好ましいと考えられる。
【0025】
また、本発明では、トリアジン系化合物は、1%熱減量温度が340℃以上であることが必要であり、350℃以上であることが好ましく、360℃以上であることがさらに好ましく、380℃以上であることが特に好ましい。340℃未満であると加工温度と近くなることから、揮発する場合が多く好ましくない。上限は特に制限されないが、取り扱いと物性のバランスから500℃以下が好ましい。ここで、1%熱減量温度とは熱減量(重量%)が1%になるとき(もともとの重量を100重量%とすると99重量%となるとき)の温度のことであり、具体的には、トリアジン化合物15mgを用いて、熱重量測定装置(TGA、株式会社島津製作所製TGA−50型)で、窒素雰囲気下、10℃/分で室温から昇温し、熱減量(重量%)が1%になるときの温度のことである。
【0026】
本発明のトリアジン系化合物は(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して、(B)トリアジン系化合物0.1〜2.0重量部であることが好ましく、0.1〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0027】
トリアジン系化合物の量が上記範囲内であれば、光学用フィルムの熱劣化に起因する欠陥を少なくすることができ、またフィルムにした際に380nm以下の光を効率よくカットすることができる。
【0028】
一方、トリアジン系化合物が0.1重量部より少ないと熱劣化によるフィルム欠陥が増え、2.0重量部より多いと溶融製膜の際に揮発した紫外線吸収剤が成形ロールを汚染し、さらにフィルムに汚れが転写することで、得られたフィルムの外観が悪化する傾向がある。
【0029】
以下、本発明の(メタ)アクリル系樹脂にトリアジン系化合物を配合したもの、さらにはその他の配合剤を添加したものを樹脂組成物という。
【0030】
本発明のトリアジン系化合物は必要に応じ、他の一般的な熱安定剤と併用することが出来る。併用する熱安定剤としては特に限定されないが、リン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びチオエーテル系化合物を好適に用いることが出来るこの中で特にリン系熱安定剤を好適に用いることが出来る。
【0031】
前記リン系化合物としては、リン酸およびそのアルキルエステル類であれば特に制限はないが、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレンフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト等を挙げることができる。
【0032】
前記ヒンダードフェノール系化合物としては、フェノール性水酸基を含む化合物であれば特に制限はないが、例えば、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5・5〕ウンデカン、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(3',5'−ジ−t−アミル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)メチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−2'−ヒドロキシ−5'−メチル−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,5−ジ−t−ブチル−6−(3',5'−ジ−t−ブチル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)メチルフェニルアクリレート等を挙げることができる。
【0033】
前記ラクトン系化合物としては、ラクトン環を含む化合物であれば特に制限はないが、例えば、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オンを挙げることができる。
【0034】
前記ヒンダードアミン系化合物としては、2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル基を含む化合物であれば特に制限はないが、例えば、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ}−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル]{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}]等を挙げることができる。
【0035】
前記チオエーテル系化合物としては、チオエーテル基を含む化合物であれば特に制限はないが、例えば、ジラウリル3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3'−チオプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3'−チオジプロピオネート等を挙げることができる。なお、上説したようなその他の熱安定剤を、本発明にかかる樹脂組成物に含有させる場合であっても、(メタ)アクリル系樹脂とトリアジン系化合物との配合比は、上説した範囲内とすることが好ましい。
【0036】
(その他の添加剤)
本発明にかかる光学用フィルムに含有されうるその他の添加剤としては、可塑剤、滑剤、およびフィラー等の従来公知の添加剤を挙げることができる。また、上説したアクリル系樹脂以外の樹脂もまた、その他の添加剤として含有させることができる。なお、その他の添加剤は、任意成分であり、本発明にかかる樹脂組成物は、これらのその他の添加剤を含まなくてもよい。
【0037】
上記可塑剤には、いわゆる可塑剤に加えて、可撓性を有する高分子(可撓性高分子)等も含まれる。つまり、本明細書では、可塑剤、および可撓性高分子等を総称して、可塑剤と称する。
【0038】
上記可塑剤は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる可塑剤を用いることができる。具体的には、例えば、アジピン酸ジ−n−デシル等の脂肪族二塩基酸系可塑剤やリン酸トリブチル等のリン酸エステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0039】
本発明にかかる樹脂組成物に上記可塑剤を含有させることにより、該樹脂組成物を成形してなるフィルムにおいて、機械的特性を向上させることができる。
【0040】
一方、上記可塑剤の添加により、得られるフィルムのガラス転移温度が低下して耐熱性が損なわれたり、透明性が損なわれたりするといった問題が生じることがある。
【0041】
したがって、本発明にかかる樹脂組成物に上記可塑剤を含有させる場合、該樹脂組成物を成形してなるフィルムにおいて、フィルムの性能が妨げられない範囲で添加することが好ましい。
【0042】
上記可塑剤の含有量は、具体的には、樹脂組成物において、20重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下とすることがより好ましい。
【0043】
本発明にかかる樹脂組成物に上記滑剤を含有させることにより、該樹脂組成物を成形する際に、成形ロールと樹脂の剥離性を改善することができる。使用する滑剤としては、特に限定されるものではなく、公知の任意の滑剤を用いることができる。例えば、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類、ステアリン酸などの脂肪酸類、エチレンビスステアリン酸アマイドやステアリルアマイドなどの脂肪酸アマイド類、スタリン酸ステアリルなどの脂肪酸エステル類、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸などが使用できる。この中でも、樹脂との相溶性の観点から、脂肪酸アマイド類が好ましい。
【0044】
滑剤を添加する場合、メチルメタクリレートのホモポリマーにおける含有量は、1重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.01重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
上説したアクリル系樹脂以外の樹脂を、上記その他の添加剤として用いる場合、該樹脂は特に限定されるものではない。例えば、上説したアクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。中でも、上説したアクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有させることが好ましい。
【0046】
なお、その他の添加剤として含有させる樹脂は、単一種を単独で用いてもよいし、複数種類の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
その他の添加剤として、上記樹脂を添加する場合、樹脂組成物における含有量は、1重量%〜30重量%とすることが好ましく、2重量%〜20重量%とすることがより好ましく、3重量%〜10重量%とすることがさらに好ましい。
【0048】
一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも多いと、上説したアクリル系樹脂およびトリアジン系化合物の性能が十分に発揮されなくなる傾向がある。一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも少ないと、上記樹脂の添加効果が得られにくくなることがある。
【0049】
上記フィラーは、特に限定されるものではなく、フィルムに用いられる従来公知のあらゆるフィラーを用いることができる。また、フィラーは、無機の微粒子であってもよいし、有機の微粒子であってもよい。
【0050】
無機の微粒子であるフィラーとしては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、および酸化ジルコニウム等の金属酸化物微粒子、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、およびケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩微粒子、並びに炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、およびリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0051】
有機の微粒子であるフィラーとしては、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、および架橋スチレン系樹脂等の樹脂微粒子を挙げることができる。
【0052】
このようなフィラーを添加することにより、フィルムの滑り性を改善することができる。
【0053】
上記フィラーの添加量は特に限定されるものではないが、本発明にかかる樹脂組成物を成形して光学用フィルムとする場合、得られるフィルムの光学特性が著しく損なわない範囲とすることが好ましい。
【0054】
一般的には、本発明にかかる樹脂組成物において、上記フィラーの含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0055】
なお、上説したようなその他の添加剤を、本発明にかかる樹脂組成物に含有させる場合であっても、(メタ)アクリル系樹脂とトリアジン系化合物との配合比は、上説した範囲内とすることが好ましい。
【0056】
(光学用フィルムおよびその製造方法)
本発明にかかる光学用フィルムとしては、位相差フィルムや偏光子保護フィルム、位相差発現機能を有する偏光子保護フィルム、光学補償機能を付与するコーティング材のベースフィルムなどを挙げることができる。本発明にかかる光学用フィルムは、上記に示した条件を満たすフィルムであればよいが、延伸されたフィルム、すなわち、延伸フィルムであることが好ましい。延伸フィルムによれば、機械的特性を向上させることができる。
【0057】
なお、本発明にかかる光学用フィルムが延伸フィルムである場合、一軸延伸した一軸延伸フィルムであってもよいし、さらに延伸工程を組み合わせて行って得られる二軸延伸フィルムであってもよい。
【0058】
本発明にかかる光学用フィルムが延伸フィルムである場合、その厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜200μmであることが好ましく、20μm〜150μmであることがより好ましく、30μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0059】
フィルムの厚みが上記範囲内であれば、光学特性が均一で、ヘーズが良好な光学用フィルムとすることができる。
【0060】
一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、フィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、延伸倍率が過大になり、ヘーズが悪化する傾向がある。
【0061】
本発明にかかる光学用フィルムは、膜厚40μmにおける波長380nmの光線透過率が25%以下であり、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
また、膜厚40μmにおける波長420nmの光線透過率は、80%以上であり、85%以上であることがより好ましい。420nmは可視光領域であり、特にこの波長での光線透過率は高いことが好ましい。
【0063】
膜厚40μmにおける波長380nm及び420nmの光線透過率が、上記範囲内であれば、フィルムの無色透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる光学用フィルムを、無色透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0064】
本発明にかかる光学用フィルムは、ヘーズが1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明にかかる光学用フィルムのヘーズが上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる光学用フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0066】
本発明にかかる光学用フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。
【0067】
全光線透過率が、上記範囲内であれば、フィルムの透明性を高いものとすることができる。それゆえ、本発明にかかる光学用フィルムを、透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0068】
本発明にかかる光学用フィルムは、偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差および厚み方向位相差がともに小さいことが好ましい。
【0069】
より具体的には、面内位相差は原料フィルムに関しては、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。また、面内位相差は延伸フィルムに関しては、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
【0070】
また、厚み方向位相差は原料フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差は延伸フィルムに関しては、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0071】
このような光学特性を有する構成とすれば、本発明にかかる光学用フィルムを、液晶表示装置の偏光板に備える偏光子保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0072】
フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差が50nmを超えたりすると、本発明にかかる光学用フィルムを用いた偏光子保護フィルムを、液晶表示装置の偏光板として用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0073】
なお、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。
【0074】
Re=(nx−ny)×d Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d
なお、上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さ、||は絶対値を表す。
【0075】
また、本発明にかかる光学用フィルムは、偏光子保護フィルムとして使用する場合、配向複屈折の値が0〜0.1×10−3であることが好ましく、0〜0.01×10−3であることがより好ましい。
【0076】
配向複屈折が上記範囲内であれば、環境の変化に対しても、成形加工時に複屈折が生じることなく、安定した光学的特性を得ることができる。
【0077】
一方、一方、本発明にかかる光学用フィルムを、位相差フィルムや位相差発現機能を有する偏光子保護フィルムなどに使用する場合には、配向複屈折の値が1.0×10−3以上であることが好ましく、2.0×10−3以上であることがより好ましい。
【0078】
なお、本明細書において、特にことわりのない限り、「配向複屈折」とは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折が意図される。配向複屈折(△n)は、前述のnx、nyを用いて説明すると、△n=nx−ny=Re/dで定義され、位相差計により測定することができる。
【0079】
本発明にかかる光学用フィルムは、光弾性係数の絶対値が、20×10−12/N以下であることが好ましく、10×10−12/N以下であることがより好ましく、5×10−12/N以下であることがさらに好ましい。
【0080】
光弾性係数が上記範囲内であれば、本発明にかかる光学用フィルムを液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【0081】
一方、光弾性係数の絶対値が20×10−12/Nより大きいと、本発明にかかる光学用フィルムを液晶表示装置に用いた場合、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生しやすくなったりする傾向がある。この傾向は、高温多湿環境下において、特に顕著となる。
【0082】
なお、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を発生させると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、本明細書において、「光弾性係数」とは、その応力と複屈折との比が意図される。すなわち、光弾性係数(c)は、以下の式により算出される。
【0083】
c=△n/△F
ただし、本発明において、光弾性係数はセナルモン法により、波長515nmにて、23℃、50%RHにおいて測定した値である。
【0084】
本発明にかかる光学用フィルムは、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。具体的には、例えば、本発明にかかる光学用フィルムを、表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、表面に別のフィルムをラミネートしたりして用いる場合、本発明にかかる光学用フィルムに表面処理を施すことが好ましい。
【0085】
このような表面処理を施すことにより、本発明にかかる光学用フィルムと、コーティングまたはラミネートされる別のフィルムとの間の相互の密着性を向上させることができる。
【0086】
なお、本発明にかかる光学用フィルムに対する表面処理の目的は、作用効果を目的とするものに限定されるものではない。つまり、本発明にかかる光学用フィルムは、その用途に関係なく、表面処理が施されていてもよい。
【0087】
上記表面処理は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射およびアルカリ処理等を挙げることができる。中でも、コロナ処理であることが好ましい。
【0088】
本発明にかかる光学用フィルムは、上説したような特性を有するため、そのまま最終製品として各種用途に用いることができる。また、上説したような各種加工を施すことにより、用途の幅を広げることができる。
【0089】
本発明にかかる光学用フィルムの用途は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)等に好適に用いることができる。
【0090】
本発明にかかる光学用フィルムは、上説したように、光学的均質性、透明性等の光学特性に優れている。そのため、これらの光学特性を利用して、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺等の公知の光学的用途に特に好適に用いることができる。
【0091】
また、本発明の光学用フィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。すなわち、本発明にかかる光学用フィルムは、偏光板の偏光子保護フィルムとして用いることができる。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
【0092】
本発明の光学用フィルムは、偏光子保護フィルムを少なくとも1枚使用した偏光板に使用できる。さらには、偏光板の最表面とバックライト側の少なくとも1方に使用できる。上述のように偏光子保護フィルムとして用いることができるが、その特性から紫外線の曝露量が多い部位に使用することがより効果を発揮するため好ましい。即ち、液晶及び2枚の偏光板を含む液晶表示装置を想定した場合、最表面およびバックライト側に使用される偏光子保護フィルムが最も紫外線の曝露量が多いことから、最表面およびバックライト側の偏光子保護フィルムとして使用されることが好ましい。
【0093】
ここで、本発明にかかる光学用フィルムを製造する方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明にかかる光学用フィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0094】
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形、溶液流延成形、スピンコート成形等を挙げることができる。
【0095】
中でも、溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0096】
以下、本発明にかかるフィルムの製造方法の一実施形態として、本発明にかかる光学用フィルムを溶融押出法により製造する方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、溶融押出法で成形されたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で成形されたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
【0097】
本発明にかかる光学用フィルムを溶融押出法により成形する場合、まず、上述の樹脂組成物を、押出機に供給し、該樹脂組成物を加熱溶融させる。
【0098】
樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0099】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明にかかる樹脂組成物)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0100】
次に、押出機内で加熱溶融された樹脂組成物を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、熱可塑性樹脂組成物中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
【0101】
次に、Tダイに供給された樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜する。
【0102】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0103】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0104】
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
【0105】
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、成膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
【0106】
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで成膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、比較的厚みの厚い原料フィルムを一旦取得する。その後、該原料フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。
【0107】
より具体的に説明すると、厚み40μmの光学用フィルムを製造する場合、また、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの原料フィルムを取得する。その後、該原料フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
【0108】
このように、本発明にかかる光学用フィルムが延伸フィルムである場合、本発明にかかる樹脂組成物を一旦、未延伸状態の原料フィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルムを製造することができる。
【0109】
本明細書では、説明の便宜上、本発明にかかる樹脂組成物をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。なお、該原料フィルムもまた、本発明にかかる光学用フィルムの一実施形態であることを付言しておく。
【0110】
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
【0111】
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間的)しか存在しないことがありうる。
【0112】
また、上記原料フィルムは、その後、延伸される場合、延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。また、上記原料フィルムは、完成品である光学用フィルムとしての性能を有していなくてもよい。
【0113】
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0114】
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
【0115】
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0116】
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0117】
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0118】
なお、本発明にかかる樹脂組成物は、原料フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られる光学用フィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
【0119】
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
【0120】
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
【0121】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0122】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0123】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘーズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0124】
上記原料フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
【0125】
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、さらに、ヘーズが1%以下である延伸フィルムを製造することができる。
【0126】
また、本発明にかかる光学用フィルムにおいて、アクリル系熱可塑性樹脂とトリアジン系化合物との混合割合を上説した範囲で調整し、適切な延伸条件を選択することにより、ヘーズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。
【0127】
本発明にかかる光学用フィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層や光学補償機能を有する化合物等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。
【0128】
本発明にかかる光学用フィルムの表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、表面に別のフィルムをラミネートしたりする場合、上記方法で製造した延伸フィルム(原料フィルムを本発明にかかる光学用フィルムとする場合には、該原料フィルム)に表面処理を施すことが好ましい。
【0129】
なお、表面処理の種類については、上説した通りである。また、本発明にかかるフィルムにおいて、表面処理を施す場合、その表面処理の程度は特に限定されるものではないが、50dyn/cm以上であることが好ましく、50dyn/cm〜80dyn/cm以下であることがより好ましい。
【0130】
このような程度の表面処理であれば、従来公知の表面処理設備を用いて表面処理を施すことができる。
【0131】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0132】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0133】
〔ガラス転移温度〕
(メタ)アクリル系樹脂10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、株式会社島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0134】
[アクリル酸エステル単位の定量]
ポリメチルメタクリレートの熱分解GC/MS分析により、得られたモノマー成分の面積比により、樹脂を構成するモノマー比を算出した。熱分解GC/MSは、Agilent technologies製 GC/MS−5973Nを使用し、カラムはJ&W製 DB−5MS(0.25mmΦ×30m)を使用した。カラム温度は、35℃で5分間保持後、10℃/分で290℃まで昇温し、そのまま19.5分保持した。キャリアガスはヘリウム(1mL/min)を用いた。注入口温度は290℃、インターフェース温度は290℃とした。熱分解装置は日本分析工業製JCI−22を用いて、熱分解温度は590℃×5秒とした。
【0135】
[トリアジン系化合物の1%熱減量温度の測定]
トリアジン化合物15mgを用いて、熱重量測定装置(TGA、株式会社島津製作所製TGA−50型)で、窒素雰囲気下、10℃/分で室温から昇温し、トリアジン化合物の熱減量(重量%)が1%になるときの温度を測定した。トリアジン化合物が溶剤を含んでいる場合は、加熱初期に溶剤が揮発した後の重量を基準とし、トリアジン化合物自体の重量減少が1%となる温度を用いた。
【0136】
〔熱減量測定〕
(メタ)アクリル系樹脂とトリアジン系化合物を含有する樹脂15mgを用いて、熱重量測定装置(TGA、株式会社島津製作所製TGA−50型)で、空気雰囲気下、270℃に加熱し60分経過した時点での熱減量(重量%)を測定した。熱減量が大きいほど、加熱による樹脂の分解が大きいことを表し、フィルムを作成した際の欠陥が多くなる傾向がある。
【0137】
〔光線透過率〕
光線透過率は紫外可視分光光度計(日本分光、V−560)を用いて透過率を測定することにより評価した。
【0138】
〔厚み測定〕
位相差フィルムの厚みは、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製
)を用いて測定した。 〔面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth測定〕
フィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で面内位相差Reを測定した。
【0139】
デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、および、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nm、面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nz、を求め、厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)を計算した。
【0140】
〔フィルム外観評価〕
得られたフィルムから縦210mm、横300mmのサイズの試験片を切り出し、暗室にてデスクスタンド(ナショナル製SQ948H、蛍光灯27W)の光を照射しながら、目視で観察されるフィルム欠陥の周囲を油性ペンでチェックした。次いで、倍率50倍の透過型光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ(VH−Z75)、株式会社キーエンス製)でチェックした欠陥を観察した。上記観察をフィルムの両面について行い、欠陥の総数、種類を測定した。樹脂の熱劣化に起因する樹脂由来欠陥と、添加剤のブリードアウトによりロールが汚染されることに由来する欠陥とを見分けるのに、倍率50倍以上の透過型光学顕微鏡で観察したときの欠陥の色で判断した。樹脂由来の欠陥は、黄色および無色透明であり、それ以外をロール汚染に由来する欠陥とした。欠陥数が非常に多いものを×、欠陥数が数十個みられるものを△、欠陥数が数個みられるものを○、欠陥数がないものを◎とした。
【0141】
〔製造例1〕
撹拌機付き8L重合機に、水 120部、メタクリル酸メチル 100部、ジラウロイルパーオキサイド 0.28部、1,1ジ(t−ブチルぺルオキシ)シクロヘキサン(濃度80%) 0.2部、t−ドデシルメルカプタン 1.4部、α―オレフィンスルホン酸ナトリウム 0.008部、リン酸カルシウム 0.24部を仕込んだ。脱酸素後、適宜リン酸カルシウムを追加しながら、内温を80℃にして2.5時間加熱し、さらに内温を90℃まで上げて1.5時間加熱し、重合を行った。得られたラテックスをpH3〜4の塩酸を用いて除去し、さらに水にて十分に洗浄を行った。得られたメチルメタクリレートのホモポリマーの分子量(Mw)は106000であった。熱分解GC/MSの結果、樹脂を構成するモノマー単位はメチルメタクリレート100%であった。
【0142】
〔実施例1〕
製造例1で得られたメチルメタクリレートのホモポリマー100重量部と、トリアジン系化合物として、Tinuvin460(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)2.0重量部とを単軸押出機を用いてペレットにし、ペレット状の樹脂組成物を得た。このペレットのガラス転移温度及び熱減量測定を行った。
【0143】
このペレット状の樹脂組成物を、100℃で5時間乾燥後、40mmφ単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて270℃で押し出すことにより得られたシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅300mm、厚み130μmのフィルムを得た。このフィルムについて上記の方法に従ってフィルム外観評価を行った(表1)。
【0144】
このフィルムについて、延伸倍率2 倍(縦・横)、ガラス転移温度より10 ℃ 高い温度で同時二軸延伸(株式会社東洋精機製 二軸延伸装置 X4HD)を行ない、二軸延伸フィルムを作成した。この二軸延伸フィルムについて、上記の方法に従って、波長380nmの光線透過率及びR0、Rthを測定した(表1)。
【0145】
[実施例2]
トリアジン系化合物をTINUVIN477(チバ・スペシャリティケミカルズ製)1.0重量部とした以外は、実施例1と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0146】
[実施例3]
(メタ)アクリル系樹脂として、パラペット(株式会社クラレ製、グレードHR−S、メチルアクリレート単位の含有量)を使用した意外は、実施例1と同様にフィルムを作成した。熱分解GC/MSの結果、上記樹脂を構成するモノマー単位はメチルメタクリレート98.9%、メチルアクリレート1.1%であった。結果を表1に示す。
【0147】
[実施例4]
(メタ)アクリル系樹脂として、パラペット(株式会社クラレ製、グレードHR−S)を使用した意外は、実施例2と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0148】
[比較例1]
トリアジン系化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0149】
[比較例2]
トリアジン系化合物のかわりに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であるLA−31(ADEKA製)1.2重量部を用いた以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。
【0150】
[比較例3]
トリアジン系化合物のかわりに、ヒンダードフェノール系熱安定剤であるAO330(ADEKA製)0.10重量部を用いた以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0151】
[比較例4]
トリアジン系化合物を添加しなかった以外は、実施例3と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0152】
[比較例5]
トリアジン系化合物のかわりに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であるLA−31(ADEKA製)1.2重量部を用いた以外は実施例3と同様にフィルムを作成した。
【0153】
[比較例6]
トリアジン系化合物のかわりに、ヒンダードフェノール系熱安定剤であるAO330(ADEKA製)0.10重量部を用いた以外は実施例3と同様にフィルムを作成した。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
添加剤の1%重量減少温度が340℃以上であるトリアジン系化合物を配合した実施例1〜4は、トリアジン系化合物を含まない比較例1、4に比べて、トリアジン系化合物の熱安定化効果により、樹脂由来欠陥が減少し、また添加剤に起因する汚れが少ない、良好なフィルムが得られる。一方、比較例2、5のように、トリアゾール系化合物では、フィルム汚れが激しい。比較例3、6のような熱安定剤ではフィルム汚れが激しく、また380nmの透過率が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂100重量部と、1%熱減量温度が340℃以上であるトリアジン系化合物0.1〜2重量部とを含む光学用フィルムであって、熱分解GC/MS分析により求めた(メタ)アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマー単位が、メチルメタクリレート単位97〜100%とメチルアクリレート単位0〜3%からなることを特徴とする光学用フィルム。
【請求項2】
膜厚40μmにおける380nmの光線透過率が25%以下であることを特徴とする請求項1記載の光学用フィルム。
【請求項3】
延伸されたフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光学用フィルムを用いてなることを特徴とする偏光子保護フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の偏光子保護フィルムを少なくとも1枚含む偏光板。
【請求項6】
請求項4に記載の偏光子保護フィルムを偏光板の最表面とバックライト側の少なくとも1方に使用した偏光板。


【公開番号】特開2012−82358(P2012−82358A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231172(P2010−231172)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】