説明

光学用積層ポリエステルフィルム

【課題】 光拡散層、プリズム層、ハードコート層との接着性が良好で、透明性を損なうことなく、しかも帯電防止性能に優れた光学用積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルフィルムの一方の面にカチオンポリマーを含む塗布層を有し、ポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと熱架橋剤とを含有する塗布剤を塗布して得られた層をもう一方の面に有することを特徴とする光学用二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ディスプレイ用途として好適に用いられる光学用積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急激に数量が伸びている液晶ディスプレイ装置は、光源からの光を視認側に集光し、かつ均一な面光源とする役割を果すバックライトユニットと、印加電圧を表示画素毎に調整し赤・緑・青の光を制御された光量表示させる液晶セル層ユニットの大きく分けて2つのユニットによって構成されている。
【0003】
このうち、バックライトユニットは赤・緑・青の波長領域に発光特性を有する蛍光体を用いた冷陰極管光源を視認側から見て側面に配置し、光を視認側に効率よく導く役割を有する導光板、視認側に導かれた光をディスプレイ面内に均一に分散する拡散板、ディスプレイの側面側に向いている光を視認側に集光し、ディスプレイの輝度を向上させるプリズムシートによって構成される。
【0004】
一般的な液晶ディスプレイでは、導光板の上に通常、下拡散板と呼称される拡散板を1枚配置し、その上に2枚のプリズムシートをそれぞれ集光方向が縦横方向および左右方向となるよう配置し、さらにその上に通常、上拡散板と呼称される拡散シートを1枚配置することでバックライトユニットは構成されている。この構成以外にも、例えば更なる集光性や拡散性を求める目的や、あるいはプリズムシートや拡散板の枚数を減らしてバックライトユニットの厚みを薄くする目的、あるいはコストダウンを計る目的等で、様々なプリズムシートと拡散板との組合せのバリエーションが考えられている。
【0005】
例えば前述の例において、2枚のプリズムシートを重ねる構成では、そのうちの1枚のプリズムシートの裏面が、もう一つの三角プリズム形状を有するプリズム層と接することとなるが、液晶ディスプレイに設置する際およびフィルムの取り扱い時に、キズの発生を防止するため、裏面に耐擦傷性を付与する目的でハードコート層を塗設することが提案されている(特許文献1)。
【0006】
ところで、ハードコートフィルムや拡散板やプリズムシートなどの光学機能フィルムは、キズや汚れから保護するために、通常、ポリオレフィン系フィルム(ポリエチレンフィルムやEVAフィルムなど)を被着させて保護をする。そしてこれらの光学機能フィルムを使用する際に、保護用のフィルムを剥離する。ところがこの際に剥離帯電が発生することが多く、時に極めて多くの静電気が発生し、作業性を悪化させることが多かったのみならず、塵埃を引き寄せることでバックライトユニットに異物が混入する原因ともなる可能性がある。
【0007】
一方で、ハードコートフィルムや拡散板やプリズムシートなどの光学機能フィルムに帯電防止性を付与する方法には、既に幾つかの提案があり、例えば透明支持体と光拡散層との間に金属酸化物を用いた透明導電層を有する光拡散板(特許文献2)や、先の特許文献1に示されたハードコート層にも、透明基材フィルムとの間に導電性粒子を添加した導電層等を付与することが示されている。
【0008】
しかしながら、これらの帯電防止方法は、透明導電層での光線透過率の低下を免れることはできず、また基材フィルムとプリズム層やハードコート層あるいは光拡散層との接着性に配慮したものではなかった。
【特許文献1】特開平11−326607号公報
【特許文献2】特開平5−333202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、液晶ディスプレイのバックライトを構成する拡散板やプリズムシートなどの光学機能フィルム用基材として好適に用いることのできる光学用積層ポリエステルフィルムを提供することであって、具体的には光拡散層、プリズム層、ハードコート層との接着性が良好で、透明性を損なうことなく、しかも帯電防止性能に優れた光学用積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの一方の面にカチオンポリマーを含む塗布層を有し、ポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと熱架橋剤とを含有する塗布剤を塗布して得られた層をもう一方の面に有することを特徴とする光学用二軸配向ポリエステルフィルムに存する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、そのポリエステルの構成成分として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどの芳香族ポリエステル、あるいはこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体よりなるものなどが挙げられる。
【0013】
ポリエステルが共重合ポリエステルの場合には、第三成分の含有量が10モル%以下の共重合体であることが好ましい。かかる共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。なお、こうした共重合成分の使用量が10モル%を超えると、フィルムの耐熱性、機械的強度、耐溶剤性などの低下が顕著となる。
【0014】
上記ポリエステルの中でも、ポリエチレンテレフタレートを構成成分としたもの、あるいはその共重合ポリエステルを用いたフィルムが、基材フィルムとしての特性とコストとのバランス点で好適である。
【0015】
なお、上記のポリエステルは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とジオールとの反応で直接低重合度ポリエステルを得るか、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとジオールとを従来公知のエステル交換触媒で反応させた後、重合触媒の存在下で重合を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、鉄化合物等公知の触媒を使用してよいが、アンチモン化合物の量をゼロまたはアンチモンとして100ppm以下とすることにより、フィルムのくすみを低減させる方法も好ましく用いることができる。またこれらの重合は、溶融状態で所望の重合度まで重合することも可能であるし、固相重合を併用することもできる。特にポリエステルに含まれるオリゴマーの量を減らすためには、固相重合を併用することが好ましい。
【0016】
ポリエステルフィルムに用いるポリエステルの固有粘度は、0.40〜0.90dl/g、さらには0.45〜0.85dl/gであることが好ましい。固有粘度が低すぎると、フィルムの機械的強度が低下する傾向にある。また、固有粘度が高すぎると、フィルムの製膜時における溶融押出工程での負荷が大きく、生産性が低下する傾向にある。
【0017】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、2層以上のポリエステルが共押出法で積層された積層フィルムであってもよい。フィルムが3層以上の場合には、フィルムは2つの最表層と、それ自体が積層構成であってもよい中間層によって構成されるが、この2つの最表層の厚みは、各々、通常2μm以上、好ましくは5μm以上とし、一方で、フィルム総厚みの通常1/4以下、好ましくは1/10以下とすることができる。
【0018】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムには、フィルムとしての滑り性の確保や、工程中での傷発生防止のために、無機微粒子あるいは有機微粒子をフィルム中に添加するか、あるいは析出させることが可能である。ポリエステルフィルム中に添加する微粒子としては特に限定されるものではないが、例示するならば、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、アルミナなどの無機微粒子、あるいは架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂などの架橋高分子微粒子を挙げることができる。これらのなかでも、高度な透明性を得るために、屈折率が比較的ポリエステルに近く、光学用積層ポリエステルフィルム中でのボイド形成が少ない、無定形シリカ粒子を使用することが好ましい。これらの微粒子は、平均粒径として通常0.02〜5μmの範囲のものを、一種あるいは二種以上を併用して用いることができる。またその添加量は、通常0.0005〜1.0重量%の範囲である。
【0019】
これらの微粒子は、ポリエステルフィルムが単層構成である場合にはフィルム全体に添加されるが、ポリエステルフィルムが3層以上の積層構成である場合には、中間層には微粒子を添加せずに、両表層だけに微粒子を添加することで、ポリエステルフィルムの透明性を維持しつつ、しかも滑り性を確保することが容易となるため好ましい。特にフィルム厚みが厚い場合(例えば100μm以上)には、両表層だけに微粒子を添加することが有効である。
【0020】
また、フィルム加工中の熱履歴などにより、ポリエステルフィルム中に含有しているオリゴマーがフィルムの表面に析出し、これが異物となったりフィルムの透明性を悪化させたりすることを防ぐため、低オリゴマー化したポリエステルを用いることが可能である。オリゴマー量を低減したポリエステルとしては、前述した固相重合を併用して重合したポリエステル、あるいは熱水処理や水蒸気処理を用いたポリエステル等を用いることができる。フィルムが単層構成の場合にはフィルム全体に用い、フィルムは多層構造の場合には、両表層だけに低オリゴマー化したポリエステルを用いることもできる。
【0021】
さらに、本発明における光学用積層ポリエステルフィルム中には、上記の微粒子以外に必要に応じて従来から公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、蛍光増白剤、染料、顔料等の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、ポリエステルフィルムが3層以上の積層構成であってその中間層に添加することが、フィルム表面に添加剤が析出するのを防ぐことができる点で好ましい。
【0022】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるわけではないが、拡散板用フィルムとして用いるために、通常50〜350μm、特に75〜250μmの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、その片面にカチオンポリマーを含む塗布層(以下、第一層と略記することがある)を有することを特徴の一つとするものであり、当該塗布層は、帯電防止性と易接着性を有するものである。
【0024】
本発明においては、第一層中に用いる帯電防止剤としてカチオンポリマーを用いる。低分子の帯電防止剤では、例えばフィルムを巻き取った時に、重なり合う面に表面に析出した低分子帯電防止剤が転着するなどの欠点があるため、好ましくない。また高分子帯電防止剤のなかでは、ノニオンポリマーは概して帯電防止性能が不足することが多く、好ましくない。アニオンポリマーの帯電防止剤では、例えばポリスチレンスルホン酸のように強い酸性であり、取り扱い性に難点があり、その中和塩の場合には、後述するインラインコート法による塗布・延伸時に、塗膜が白化しやすい欠点があるため、やはり好ましくない。これに対してカチオンポリマーは、比較的帯電防止性能に優れていて、しかも取り扱い性の点や延伸時の白化が少ない点で良好であるため、本発明では好ましく用いられる。
【0025】
本発明で用いるカチオンポリマーは、4級化された窒素を含むユニットを繰り返し単位として含有するポリマーが好適であるが、特に下記式(I)または(II)式で示される主鎖にピロリジニウム環を有するユニットを主たる繰り返し単位として含有するカチオンポリマーであることが、優れた帯電防止性能が得られる点で好ましい。またこれらは、帯電防止性易接着層のカチオンポリマーの配合量を減らしても、帯電防止性能の低下が少ないため、代わりに接着性を有する成分の配合量を増やし、塗布層の接着性を向上させることができる点で有利である。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
(I)式あるいは(II)式の構造において、R、Rは、炭素数が1〜4のアルキル基もしくは水素であることが好ましく、これらは同一基でもよいし異なっていてもよい。またR、Rのアルキル基は、ヒドロキシル基、アミド基、アミノ基、エーテル基で置換されていてもよい。さらに、RとRとが化学的に結合していて、環構造を有するものであってもよい。また(I)式あるいは(II)式のXは、ハロゲンイオン、硝酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、モノメチル硫酸イオン、モノエチル硫酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオンである。
【0029】
上述の、主鎖にピロリジニウム環を有するユニットを主たる繰り返し単位として含有するカチオンポリマーの中でも、特に(I)式の構造で、Xが塩素イオンである場合には、帯電防止性能が優れると同時に、帯電防止性能の湿度依存性が小さく、低湿度下でも帯電防止性能の低下が少なくなる点で好ましい。また、帯電性易接着にハロゲンイオンを使用できない場合においては、塩素イオンの代わりにメタンスルホン酸あるいはモノメチル硫酸イオンを使用することで、塩素イオンの場合に近い帯電防止性能を得ることができる。
【0030】
(I)式のユニットを繰り返し単位とするポリマーは、次の(III)式で示されるジアリルアンモニウム塩を単量体として、水を主とする媒体中で、ラジカル重合で閉環させながら重合することで得られる。また、(II)式のユニットを繰り返し単位とするポリマーは、(III)式の単量体を、二酸化硫黄を媒体とする系で環化重合させることにより得られる。
【0031】
【化3】

【0032】
また、(I)式または(II)式に示すユニットを繰り返し単位とするポリマーは、単一のユニットから構成されるホモポリマーである場合が、より良好な帯電防止性能を得ることができるが、後述するように、カチオンポリマーを含む塗布液をポリエステルフィルムに塗布した後に、さらにポリエステルフィルムを延伸する場合に、塗布層の透明性を改善するために、(I)式または(II)式で示されるユニットの0.1〜50モル%が、共重合可能な他の成分で置き換えられてもよい。
【0033】
共重合成分として用いる単量体成分としては、(III)式のジアリルアンモニウム塩と共重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を1種あるいは2種以上を選ぶことができる。
【0034】
これらは具体的には、アクリル酸およびその塩、メタクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、マレイン酸およびその塩あるいは無水マレイン酸、フマル酸およびその塩あるいは無水フマル酸、モノアリルアミンおよびその4級化物、アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルオキシプロピルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルアミノエチルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジアルキルアミンおよびその4級化物などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の帯電防止性易接着層中のカチオンポリマーは、上記(I)または(II)式で示される主鎖にピロリジニウム環を繰り返し単位として含有するカチオンポリマーの代わりに、例えば(IV)式または(V)式で示されるユニットを繰り返し単位とするカチオンポリマーであってもよい。
【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
(IV)式あるいは(V)式の構造において、R、Rはそれぞれ水素またはメチル基であり、R、Rは、それぞれが炭素数2〜6のアルキル基であることが好ましく、またR、R、R、R10、R11、R12はメチル基あるいはヒドロキシエチル基もしくは水素であり、これらは同一基でもよいし異なっていてもよい。さらに(IV)式あるいは(V)式のXは、ハロゲンイオン、硝酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、モノメチル硫酸イオン、モノエチル硫酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオンである。
【0039】
(IV)式あるいは(V)式で示されるユニットを繰り返し単位とするカチオンポリマーは、例えば、それぞれのユニットが対応するアクリル酸モノマーまたはメタクリル酸モノマーを、水を主とする媒体中でラジカル重合することで得ることができるが、これに限定されるわけではない。
【0040】
本発明で用いるカチオンポリマーの平均分子量(数平均分子量)は、通常1000〜500000、さらには5000〜100000の範囲であることが好ましい。平均分子量が1000未満であると、フィルムを巻き取った時に重なり合う面にカチオンポリマーが転着したり、ブロッキングしたりするなどの原因となり、逆に平均分子量が500000を超えると、これを含む塗布液の粘度が高くなり、フィルム面に均一に塗布することが困難となることがある。
【0041】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、カチオンポリマーを含む塗布層上に設けたハードコート層や、光拡散層やプリズム層などの光学機能層などとの接着性や、基材となるポリエステルフィルムとの密着性を向上させるため、バインダーポリマーを第一層中に添加することが好ましい。このバインダーポリマーとしては、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン等を挙げることができる。これらのポリマーは、そのモノマーの一成分としてノニオン、カチオン、または両性系の親水性成分を共重合することで親水性を付与し、水溶化あるいは水分散化させることができる。またこれ以外に、ノニオン、カチオン、または両性系の界面活性剤を用いて、強制乳化させることで水分散させたり、ノニオン、カチオン、または両性系の界面活性剤を用いて乳化重合させて水分散体としたりすることもできる。さらにこれらのポリマーは、共重合体でも使用することができ、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよく、異種ポリマーとの結合体でもよい。異種ポリマーとの結合体しては、例えばポリウレタンまたはポリエステルの水溶液または水分散体存在下で、アクリル系モノマーを乳化重合させて得られるウレタン−グラフト−ポリアクリレート、またはポリエステル−グラフト−ポリアクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、第一層中に、塗膜の耐熱性接着性や耐溶剤性、耐ブロッキング性などの向上を目的として、架橋剤を添加することができる。この架橋剤には、メチロール化あるいはアルコキシメチロール化したメラミン系化合物やベンゾグアナミン系化合物、もしくは尿素系化合物、もしくはアクリルアミド系化合物の他、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、シランカップリング剤系化合物、チタンカップリング剤系化合物などから選ばれた少なくとも1種類を含有させることが好ましい。
【0043】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、第一層中に、塗布層表面の滑り性の付与や耐ブロッキング性の向上を目的として、無機や有機の微粒子を添加することができる。この微粒子としては、酸化ケイ素、アルミナ、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂などの微粒子や、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物微粒子、アンチモン−スズ複合酸化物微粒子などの導電性微粒子から選ばれた少なくとも1種を含有させることが好ましい。添加する微粒子は、平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、その添加量も帯電防止性易接着層中に10重量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、カチオンポリマーを含む帯電防止性易接着中に、界面活性剤を添加することができる。この界面活性剤には、塗布液のヌレ性の改善を目的に、アセチレグリコールのアルキレンオキサイド付加重合物などのノニオン系界面活性剤を好ましく用いることができる。また、フィルムと共に塗布層が延伸される工程での塗布層の透明性の維持を目的として、グリセリンのポリアルキレンオキサイド付加物、あるいはポリグリセリンのポリアルキレンオキサイド付加物などを好ましく用いることができる。
【0045】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、カチオンポリマーを含む帯電防止性易接着層中を構成する組成、すなわちカチオンポリマー、バインダー、架橋剤、微粒子、界面活性剤の量比は、その選択される化合物によって最適値が異なるため特に規定するものではないが、塗布層表面に帯電防止性能を付与するために、カチオンポリマーの含有割合は、通常5%以上、好ましくは10〜80%の範囲とするのが好ましい。
【0046】
本発明において、第一層表面の固有抵抗値は、通常1×1013Ω以下、好ましくは1×1011Ω以下、さらに好ましくは1×1010Ω以下であり、下限は特に限定されないが、通常1×10Ωである。表面固有抵抗値が1×1013Ωを超える場合には、第一層上にさらに積層した光拡散層やハードコート層などの機能層の表面にも、帯電防止性能を有効に発揮させることができないことある。
【0047】
本発明において、第一層の塗工量は、最終的な被膜とした際に、0.01〜0.5g/m、さらには0.02〜0.3g/mの範囲とするのが好ましい。塗工量が0.01g/m未満では、帯電防止性能や接着性が不十分となることがあり、0.5g/mを超える場合には、もはや帯電防止性能や接着性は飽和しており、逆にブロッキングの発生等の弊害が発生しやすくなる傾向がある。
【0048】
本発明において、第一層は、後述するように、主として水を媒体とした塗布液としてポリエステルフィルム上に塗布され、その後少なくとも一方向に延伸され、さらに熱固定をする、いわゆるインラインコーティングで積層される必要がある。このときの塗布液の安定性の向上、あるいは塗布性や塗布膜特性の改善を目的に、水以外に、通常10重量%以下の量で水との相溶性のある有機溶剤を加えることが可能である。この有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、エチルセルソルブ、t−ブチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラハイドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエタノールアミン、トリメタノールアミン等のアミン類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類等を例示することができる。これらは単独、あるいは複数を組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、前述した帯電防止性で易接着性の第一層が積層された反対面には、ポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと熱架橋剤とを含有する塗布剤を塗布して得られる層(以下、第二層と略記することがある)を有する必要があり、当該層は易接着性を有するものである。
【0050】
上記のポリカーボネート構造を有するポリウレタンとは、ポリウレタンの主要な構成成分のポリオールの一つとしてポリカーボネート類を使用したものである。
【0051】
ポリカーボネート類は、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等の炭酸エステルと各種ジオールとを反応させて、エステル交換しながら重縮合することで得られる。ここで用いるジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン等を挙げることができる。したがって、ポリカーボネート類はポリカーボネートジオールの形となる。
【0052】
ポリカーボネートジオールは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量で、300〜5000であることが好ましい。
【0053】
ポリカーボネート類以外のポリオール成分の例としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールのようなポリエーテル類、ポリエチレンアジペート、ポリエチレン−ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンのようなポリエステル類、アクリル系ポリオール、ひまし油など挙げることができる。
【0054】
ポリカーボネート構造を有するポリウレタンの、ポリイソシアネート成分の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、水添フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。このなかでも特に芳香族環を持たない水添芳香族のジイソシアネートや、脂肪族ジイソシアネートは、熱や光によってポリウレタンが劣化した場合でも、着色することが少ないため、本発明では好ましく用いることができる。
【0055】
鎖長延長剤、あるいは架橋剤(ポリウレタンと併用する熱架橋剤とは異なる)の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、水などを挙げることができる。
【0056】
本発明におけるポリカーボネートを構成成分とするポリウレタンは、後述するように水を主たる媒体とするものである。ポリウレタンを水に分散または溶解させるには、乳化剤を用いる強制乳化型、ポリウレタン樹脂中に親水性基を導入する自己乳化型あるいは水溶型等がある。特に、ポリウレタン樹脂の骨格中にイオン性基を導入しアイオノマー化した自己乳化タイプが、液の貯蔵安定性や得られる塗布層の耐水性、透明性、接着性に優れており好ましい。また、導入するイオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、4級アンモニウム等、種々のものが挙げられるが、カルボキシル基が好ましい。ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては、その重合反応の各段階の中で種々の方法が取り得る。例えば、プレポリマー合成時に、カルボキシル基を持つ樹脂を共重合成分として用いること、あるいはポリオールやポリイソシアネート、鎖延長剤などの一成分としてカルボキシル基を有する成分を用いることができる。特に、カルボキシル基含有ジオールを用いて、この成分の仕込み量によって所望の量のカルボキシル基を導入する方法が好ましい。例えば、ウレタン樹脂の重合に用いるジオールに対して、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ビス−(2−ヒドロキシエチル)プロピオン酸、ビス−(2−ヒドロキシエチル)ブタン酸等を共重合させることができる。またこのカルボキシル基はアンモニア、アミン、アルカリ金属類、無機アルカリ類等で中和した塩の形にするのが好ましい。特に好ましいものは、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンである。このようなポリウレタン樹脂は、塗布後の乾燥工程において中和剤が外れたカルボキシル基を、他の架橋剤による架橋反応点として用いることができる。これにより、塗布前の液の状態での安定性に優れることに加えて、得られる易接着層の耐久性、耐溶剤性、耐水性、耐ブロッキング性等をさらに改善することが可能となる。
【0057】
ポリウレタン中のイオン性基の量は、0.05重量%〜8重量%が好ましい。少ないイオン性基量では、ポリウレタンの水溶性あるいは水分散性が悪く、多いイオン性基量では、塗布後の塗布層の耐水性が劣ったり、吸湿してフィルムが相互に固着しやすくなったりすることがある。
【0058】
また、ポリウレタン中のポリカーボネート成分の含有量は、通常20〜95重量%であり、好ましくは40〜90重量%である。かかる含有量が20重量%未満では、ポリウレタンの接着性改良効果に乏しくなることがあり、95重量%を超えると、塗布性が悪化する傾向がある。
【0059】
さらに、本発明におけるポリウレタン樹脂は、ガラス転移点(以下Tgと記載することがある)が低いものが、良好な接着性を示す傾向にあり、特にTgが10℃以下であることが好ましい。ここで言うTgの測定は、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜を作成し、動的粘弾性測定を行い、E’’が最大となる温度を指す。
【0060】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの第二層中には、上述したポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと共に、加熱することで架橋反応が進行する熱架橋剤を添加する必要がある。この熱架橋剤には、メチロール化あるいはアルコキシメチロール化したメラミン系化合物やベンゾグアナミン系化合物、もしくは尿素系化合物、もしくはアクリルアミド系化合物の他、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、シランカップリング剤系化合物、チタンカップリング剤系化合物などから選ばれた少なくとも1種類を挙げることができる。
【0061】
ところで、前述したようなTgの低いポリウレタンを含有する易接着層は、易接着フィルムとした後にロール状に巻いた際に、フィルムの表裏が張り付く、いわゆるブロッキングが起こりやすくなる。このブロッキングを防止するための一つとして、易接着層に熱架橋剤を併用する方法がよく行われている。しかしながら、多量の熱架橋剤を添加することによってブロッキングを防止する方法は、本発明で用いるポリカーボネート構造のジオール成分を含むポリウレタン樹脂においては、易接着性向上の効果を阻害することがある。
【0062】
易接着性を維持しつつ易接着層を架橋するためには、易接着層中における架橋の密度を高くしすぎないこと、すなわち、添加する熱架橋剤の使用量を多くしすぎないか、官能基量の少ない熱架橋剤を使用すればよい。ここで官能基量とは、熱架橋剤分子の重量あたりに、架橋官能基がどの程度あるかを表す。これは例えば、熱架橋剤の構造を13C−NMRで帰属し、官能基の量比をH−NMRで求めて、熱架橋剤の分子量あたりの架橋官能基の比率を求めることができる。官能基量が高い熱架橋剤を使用する場合は、少量にとどめておくべきである。本発明においては、特に官能基量が10mmol/gを超える熱架橋剤を単独で用いる場合には、易接着層に対し30重量%以下、さらには15重量%の量とするのが好ましく、下限は3重量%であることが好ましい。一方、官能基量が10mmol/g未満である熱架橋剤は、易接着層に対し5〜50重量%、さらには10〜40重量%の範囲であることが好ましい。特に、ポリマー型熱架橋剤は官能基量が低く、使用しやすい。本発明においてもっとも好ましい様態は、カルボキシル基を含有するポリウレタンに対し、オキサゾリン基を有するポリマー型の熱架橋剤を使用することである。
【0063】
上述したように、本発明において、第二層は、ハードコート層や光拡散層などとの接着性が良好であるのはもちろん、通常、無溶剤系で塗工されるプリズム層に対しても、十分な接着性を有するものである。
【0064】
また本発明のフィルムの第二層には、ブロッキングを防止するために、易接着層全体の3重量%以上の微粒子を含有することが好ましい。含有量がこの比率以下だと、ブロッキングを防止する効果が不十分となりやすい。また含有量があまりに多すぎると、ブロッキングの防止効果は高いものの、易接着層の透明性が低下したり、易接着層の連続性が損なわれ塗膜強度が低下したりする、あるいは易接着性が低下することがある。具体的には、15重量%以下、さらには10重量%以下が好適である。この手法を用いることで、易接着性能と耐ブロッキング性能を両立することが可能となる。
【0065】
微粒子としては例えば、シリカやアルミナ、酸化金属等の無機粒子、あるいは架橋高分子粒子等の有機粒子等を用いることができる。特に、第二層への分散性や得られる塗膜の透明性の観点からは、シリカ粒子が好適である。
【0066】
微粒子の粒径は、小さすぎるとブロッキング防止の効果が得られにくく、大きすぎると塗膜からの脱落などが起きやすい。平均粒径として、第二層の厚さの1/2〜10倍程度が好ましい。さらに、粒径が大きすぎると、第二層の透明性が劣ることがあるので、平均粒径として、200nm以下、さらには100nm以下であることが好ましい。
【0067】
第二層中に占める、前記ポリウレタン樹脂の比率は適宜選択できる。ただし量が少量過ぎると、その効果が得られにくいため、当該ポリウレタンの配合比率は、下限が20%、あるいは40%、さらに好ましくは50%以上とすると接着性が高くなり好ましい。
【0068】
その他第二層には、必要に応じて上記述べた成分以外を含むことができる。例えば、界面活性剤、その他のバインダー、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等である。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明において、第二層の塗工量は、最終的な乾燥厚みとして0.005〜0.5g/m、さらには0.01〜0.3g/mの範囲とするのが好ましい。塗工量が0.005g/m未満では接着性が不十分となり、一方で0.5g/mを超える場合には、もはや接着性は飽和しており、逆にブロッキングの発生等の弊害が発生しやすくなる。
【0070】
本発明において、第二層は、第一層と同様に、主として水を媒体とした塗布液としてポリエステルフィルム上に塗布され、その後少なくとも一方向に延伸され、さらに熱固定をする、いわゆるインラインコーティングで積層される必要がある。このときの塗布液の安定性の向上、あるいは塗布性や塗布膜特性の改善を目的に、水以外に、通常10重量%以下の量で水との相溶性のある有機溶剤を加えることが可能である。この有機溶剤としては、前述のカチオンポリマーを含む帯電防止性易接着層の場合と同じものを例示することができる。
【0071】
本発明においては、前述したカチオンポリマーを含む塗布層を片面に有し、他の面にポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと熱架橋剤とを含有する塗布剤を塗布した層とを有するが、これらの層の何れもが、主として水を媒体とした塗布液としてポリエステルフィルムに塗布された後に少なくとも一方向に延伸され、その後熱固定されたものであることが好ましい。具体的には、未延伸フィルムに水性塗布液を塗布した後に、縦方向・横方向に同時あるいは逐次に延伸し、次いで熱固定される場合、縦方向あるいは横方向に一軸延伸したフィルム塗布した後、先の延伸と直行する方向に延伸し、次いで熱固定される場合、縦および横方向に二軸延伸したフィルムに塗布後、さらに縦あるいは横あるいは両方向に再度延伸し、次いで熱固定される場合を例示することができる。本発明の場合においては、フィルムの表裏に異なる塗布液をほぼ同じタイミングで塗布をした後、少なくとも一方向に延伸し、その後熱固定することになる。
【0072】
このようないわゆるインラインコート法を用いることで、塗布層はポリエステルフィルムと同時に延伸されるため、ポリエステルフィルム上の塗布層が薄膜で均一となると同時に、密着性が強固になる。またこの後、通常200℃以上の高温で、ポリエステルフィルムと塗布層が同時に熱固定されるため、塗布層の熱架橋反応が十分に進行すると共に、ポリエステルフィルムとの密着性がさらに向上する。
【0073】
基材となるポリエステルフィルムへの塗布液の塗布方法としては、公知の任意の方法が適用できる。具体的には、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、バーコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法、ダイコート法などを単独または組み合わせて適用することができる。
【0074】
本発明における光学用積層ポリエステルフィルムは、プリズムシート用や拡散板用などの光学用途に供されるため、上記の両表面に塗布層を含めたフィルムヘーズとして、5.0%以下、さらには3.0%以下であることが好ましい。また同様に、両表面の塗布層を含めた全光線透過率は、85%以上、好ましくは88%以上であることが好ましい。
【0075】
次に本発明のフィルムの逐次二軸延伸によるポリエステルフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0076】
まず、本発明で使用するポリエステルの製造方法の好ましい例について説明する。ここではポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、使用するポリエステルにより製造条件は異なる。常法にしたがって、テレフタル酸とエチレングリコールとでエステル化し、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとでエステル交換反応を行い、その生成物を、重合槽に移送し、減圧しながら温度を上昇させ、最終的に真空下で280℃に加熱して重合反応を進め、ポリエステルを得る。
【0077】
次に例えば上記のようにして重合し、公知の手法により乾燥したポリエステルチップを溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。本発明においては、このようにして得られたシートを一軸あるいは二軸方向に延伸してフィルム化する。二軸延伸フィルムの延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70〜140℃で2〜6倍に延伸し、縦一軸延伸フィルムとした後、横方向に80〜150℃で2〜6倍延伸を行う。この際の縦延伸あるいは横延伸は、一段階の延伸でもよいが、二段階以上に延伸倍率を振分けて延伸してもよい。またこの場合、フィルムへのコーティングは、縦延伸が終了した時点のフィルムについて実施する。特に本発明においては、フィルムの表裏にコーティングを行う必要があるが、その両方をこの時に実施する。次にテンターにおいて、150〜250℃、好ましくは180〜240℃で1〜600秒間熱固定を行う。この際には、熱固定の最高温度ゾーンおよび/またはそれより低いも低い温度のゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩して、幅方向の収縮率を調節する方法を好ましく用いることができる。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【発明の効果】
【0078】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、ハードコート層や光拡散層、プリズム層との接着性に優れおり、透明性が良好であり、しかも反対面には帯電防止性易接着層を有しているので、この上に設けられたハードコート層や光拡散層は表面固有抵抗値が低いため、保護用に被着したEVAシートの剥離時に静電気はほとんど発生せず、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下、本発明の構成および効果を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。また、特にことわりのない限り、「部」とあるのは「重量部」を表す。
【0080】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0081】
(2)ポリエステルフィルムに用いる微粒子の平均子粒径(d50:μm)
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均子粒径とした。
【0082】
(3)帯電防止性易接着層および易接着層に用いる微粒子の平均粒子径(nm)
微粒子の分散液を、マイクロトラックUPA(日機装社製)にて、個数平均の50%平均径を測定して、これを平均粒子径(nm)とした。
【0083】
(4)表面固有抵抗値(Ω)
日本ヒューレット・パッカード社製高抵抗測定器 HP4339B、および測定電極 HP16008Bを使用し、23℃、50%RHの測定雰囲気下で、印加電圧100Vで1分後の塗布層の表面固有抵抗値(Ω)を測定した。
【0084】
(5)フィルムヘーズ(%)
JIS K7136に準じて、ヘイズ測定装置(村上色彩技術研究所製HAZE METER HM−150)を使用して、フィルムヘーズ(%)を測定した。
【0085】
(6)全光線透過率(%)
JIS K7361に準じて、ヘイズ測定装置(村上色彩技術研究所製HAZE METER HM−150)を使用して、全光線透過率(%)を測定した。
【0086】
(7)ポリウレタン系塗布剤のガラス転移点温度 Tg(℃)
ポリウレタン樹脂の溶液もしくは水分散液を、乾燥後の膜厚が500μmになるように、テフロン(登録商標)製のシャーレ内で乾燥させ皮膜を得る。乾燥条件は、室温で1週間乾燥させた後、120℃で10分間さらに乾燥させる。得られた皮膜を幅5mmに切り出し、アイティー計測制御社製動的粘弾性測定装置(DVA−200型)にチャック間20mmとなるように測定装置にセットし、−100℃から200℃まで、10℃/分の速度で昇温させながら、周波数10Hzで測定する。E’’が最大となる点をTg(℃)とした。
【0087】
(8)プリズム層の形成
作成した積層ポリエステルフィルムの易接着層表面に、下記に示すプリズム層形成用の組成物を塗布液として、ダイコーターで50g/mの厚みで塗布した。その後プリズム型のレンズ(0.05mmピッチ)の逆形状が形成されたプリズム層成型用金型ロールに圧着させてプリズム層を成型すると同時に、プリズム層とは反対側(フィルム基材側)から次の条件で紫外線照射を行った。すなわち、160W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を使用し、照射距離150mmにて30秒間照射して硬化させて、プリズム層を作成した。
【0088】
<プリズム層形成用塗布液の組成>
1,9−ナノンジオールジアクリレート 80部
エチレンオキシド変性ビスフェノールAジメタクリレート 20部
紫外線反応開始剤 4部
(チバスペシャルティケミカルズ社製 IRGACURE184)
【0089】
(9)プリズム層の接着性評価
上記(8)のプリズム層に、基材フィルムまで達する碁盤目のクロスカット(2mmの升目を25個)を施し、その上に18mmのテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、180度の剥離角度で急速に剥がした後、剥離面を観察して剥離個数(/25個中)を数えて、次の基準のランクに分類する。(○以上が実用限界である)
◎:剥離個数が0個(/25個中)
○:剥離個数が1個以上5個未満(/25個中)
△:剥離面積が5個以上10個未満(/25個中)
×:剥離面積が10個以上(/25個中)
【0090】
(10)ハードコート層の形成
アクリル系ハードコート剤「KAYARAD」(日本化薬社製)と「紫光」(日本合成化学工業社製)との2:1の混合物を、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒で希釈した。これを、作成した積層ポリエステルフィルムの帯電防止性易接着層表面に、乾燥・硬化後の塗布量で3g/mとなるようにリバースグラビア方式で塗工した。次に110℃1分間乾燥して溶剤を除去した後、高圧水銀灯により出力120W/cm、照射距離15cm、ライン速度10m/分の条件で紫外線硬化させ、ハードコート層を形成した。
【0091】
(11)ハードコート層との接着性
上記(10)で作成した硬化直後のハードコートに、1インチ幅に碁盤目が100個になるように基材フィルムに達するクロスカットを入れ、その上に18mmのテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、同一箇所について3回180度の剥離角度で急速に剥がして剥離面を観察し、剥離個数(/100個)により評価した。判定基準は以下のとおりである。(○以上が実用限界である)
◎:剥離個数が0個(/100個中)
○:剥離個数が1個以上20個未満(/100個中)
△:剥離面積が20個以上40個未満(/100個中)
×:剥離面積が40個以上(/100個中)
【0092】
(12)光拡散層の形成
作成した積層ポリエステルフィルムの帯電防止性易接着層表面に、下記に示す光拡散層形成用の塗布液を、フィルムの片面に乾燥・硬化後の塗布量で12g/mになるようにリバースグラビア方式で塗布した。その後、100℃で2分間乾燥および硬化をさせて光拡散層を作成した。
<光拡散層形成用塗布液の組成>
アクリルポリオール(大日本インキ化学工業社製 アクリディックA−807) 150重量部
イソシアネート(武田薬品工業社製 タケネートD11N) 30重量部
メチルエチルケトン 200重量部
酢酸ブチル 200重量部
アクリル樹脂微粒子(綜研化学社製 MX−1000、平均粒子径10μm) 40重量部
【0093】
(13)光拡散層の接着性
上記(12)で作成した光拡散層に、基材フィルムに達する碁盤目のクロスカット(2mmの升目を25個)を施し、その上に18mm幅のテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT−18)を貼り付け、180度の剥離角度で急速にはがした後、剥離面を観察して剥離個数(/25個中)を数えて、次の基準のランクに分類した。(○以上が実用限界である)
◎:剥離個数が0個(/25個中)
○:剥離個数が1個以上5個未満(/25個中)
△:剥離面積が5個以上10個未満(/25個中)
×:剥離面積が10個以上(/25個中)
【0094】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、エチレングリコール溶液とした酸化ゲルマニウムを、ゲルマニウム金属としてポリマー中100ppmとなるように加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.65に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.65であった。
【0095】
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)を、あらかじめ160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度0.75ポリエステル(B)を得た。
<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、平均粒子径2.2μmのエチレングリコールに分散させたシリカ粒子を0.2部、エチレングリコール溶液とした酸化ゲルマニウムを、ゲルマニウム金属としてポリマー中100ppmとなるように加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(C)を得た。得られたポリエステル(C)は、極限粘度0.65であった。
【0096】
実施例1〜5および比較例1〜3:
ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.3倍延伸した。この縦延伸フィルムの両表面に、帯電防止性易接着層の水性塗布液と易接着層の水性塗布液とを各々バーコート方式で塗布した。この後テンターに導き、120℃で乾燥・予熱を行って幅方向に3.8倍延伸し、さらに220℃で熱処理を行った後、180℃の冷却ゾーンで幅方向に4%弛緩し、表裏に各々異なる組成の塗布層を有する厚さ188μm(表層各5μm、中間層178μm)の積層ポリエステルフィルムを得た。下記表1に、各々のフィルムに用いた帯電防止性易接着層(第一層)と易接着層(第二層)の固形分組成、最終的な被膜とした際の塗工量、および被膜を有するポリエステルフィルムの全光線透過率を示す。
【0097】
次に、フィルム1〜8の第一層面に、各々ハードコート層を塗工した。次いでハードコートとは反対面にある第二層面上にプリズム層を塗工した。そしてプリズム層の塗工したフィルムの表裏を、EVAシート(厚み約50μm)で挟むように重ねて、これをニップロールで圧着し、ハードコート層面とプリズム層面の両方に被着させた。
【0098】
実施例1〜5は、本発明の積層ポリエステルフィルムの要件を満たしているので、ハードコートおよびプリズム層との接着性が良好である。しかも透明性が良好であり、また第一層に形成したハードコート層の表面固有抵抗値が低いため、保護用に被着したEVAシートの剥離時に静電気はほとんど発生しない。これに対して比較例1は、第一層がカチオンポリマーを含んでいないため、帯電防止性が付与されない。比較例2は、第二層がポリカーボネートポリウレタンを含まないため、プリズム層との接着性が不十分である。比較例3は、第二層に熱架橋剤が含まれていないため、プリズム層との接着性が不十分である。
【0099】
実施例6、7、比較例4:
実施例1、2、比較例1で作成したフィルム1〜フィルム3の第一層面に、各々光拡散層を塗工した。次いで光拡散層とは反対面にある第二層面上にプリズム層を塗工した。そしてプリズム層の塗工したフィルムの表裏を、EVAシート(厚み約50μm)で挟むように重ねて、これをニップロールで圧着し、ハードコート層面とプリズム層面の両方に被着させた。
【0100】
実施例6〜7は、本発明の積層ポリエステルフィルムの要件を満たしているので、光拡散層およびプリズム層との接着性が良好である。しかも透明性に優れており、また第一層面に形成したハードコート層の表面固有抵抗値が低いため、保護用に被着したEVAシートの剥離時に静電気はほとんど発生しない。これに対して比較例4は、第一層がカチオンポリマーを含んでいないため、帯電防止性が付与されない。
【0101】
【表1】

【0102】
表1中、各塗布層を構成する化合物は以下のとおりである。
<第一層>
・カチオンポリマー:(a1)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いた4級アンモニウム塩含有カチオンポリマー ((1式)のピロリジニウム環含有ポリマー)平均分子量約30000
・カチオンポリマー:(a2)
ポリ(トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート)モノメチル硫酸塩のホモポリマー ((V式)のカチオンポリマー)
・バインダーポリマー:(b)
水性アクリル樹脂(日本カーバイド工業社製 酸価6mgKOH/gのニカゾール)
・架橋剤:(c1)
メトキシメチロールメラミン(大日本インキ化学工業社製ベッカミンJ101)
・微粒子:(d1)
コロイダルシリカ微粒子
(平均粒径0.015μm)
・添加剤:(e)
ジグリセンリン骨格へのポリエチレンオキサイド付加物(平均分子量450)
【0103】
<第二層>
・ポリカーボネートポリウレタン:(u1)
数平均分子量が800で両末端がOHであるポリ(1,6−ヘキサンジオールカーボネート)を320部、水添ジフェニルメタンジイソシアネート505.7部、ジメチロールブタン酸が148.6部からなるプレポリマーをトリエチルアミンで中和し、イソホロンジアミンで鎖延長して得られる、Tgが7℃のポリウレタン樹脂の水分散体
・ポリカーボネートポリウレタン:(u2)
カルボキシル基を有する、Tgが−20℃の水分散型ポリカーボネートポリウレタン樹脂であるRU−40−350(スタール社製)
・ポリエステルポリウレタン:(u3)
ポリエステルウレタン(大日本インキ工業社製ハイドランAP−40F)、Tg=48℃
・架橋剤:(c1)
メトキシメチロールメラミン(大日本インキ化学工業社製ベッカミンJ101)、官能基(メトキシメチロール基)量=18mmol/g
・架橋剤:(c2)
オキサゾリン基がアクリル系樹脂にブランチされたポリマー型架橋剤(日本触媒社製エポクロス WS−500)、オキサゾリン基量=4.5mmol/g
・架橋剤:(c3)
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル水溶液(ナガセケムテックス社製デナコールEX−521)、エポキシ含量=5.3mmol/g
・微粒子:(d2)
コロイダルシリカ微粒子
(平均粒径0.07μm)
【0104】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のフィルムは、例えば、液晶ディスプレイ用途において、好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの一方の面にカチオンポリマーを含む塗布層を有し、ポリカーボネート構造のジオール成分を有するポリウレタンと熱架橋剤とを含有する塗布剤を塗布して得られた層をもう一方の面に有することを特徴とする光学用二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2009−226733(P2009−226733A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74770(P2008−74770)
【出願日】平成20年3月22日(2008.3.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】