説明

光学異性体の分離方法

【課題】
充填剤を固定相とし、溶媒を移動相として用いる液体クロマトグラフィーにより、高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を分離することができる光学異性体の分離方法を提供する。
【解決手段】
充填剤を固定相として用いる液体クロマトグラフィーにより、光学異性体混合物から少なくとも1つの光学異性体を分離する光学異性体の分離方法であって、移動相としてシクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いることを特徴とする光学異性体の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填剤を固定相とし、シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を移動相として用いる液体クロマトグラフィーにより、高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を分離することができる光学異性体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異性体混合物を各光学異性体(光学活性体)に分離する技術は近年重要性を増している。なぜなら、各光学異性体で、作用・機能が大きく異なることがしばしば示されてきているからである。そのため、例えば医薬品開発において、米国においては、キラルな構造を有するものは、光学異性体の双方について、薬理活性や副作用などを明らかにすることが求められている。
【0003】
光学活性体を製造する方法としては、光学異性体混合物を合成して、化学的、生物化学的又はクロマトグラフィーにより光学分割する方法や、化学的又は生物化学的に不斉合成する方法、光学活性な天然物を利用する方法などが知られている。
【0004】
これらの中でも、光学異性体混合物を合成し、得られた光学異性体混合物を液体カラムクロマトグラフィーにより各光学異性体に分離する方法は、多様な移動相を選択でき、種々の相互作用を分離に利用できることから、広く利用されている方法である。
【0005】
また近年においては、光学異性体を効率よく大量に分離できる方法として、擬似移動層クロマトグラフィー(擬似移動床方式によるクロマトグラフィーともいう。)を用いる光学異性体の分離方法が提案され、注目されている(特許文献1)。
【0006】
一方、新しい光学分割方法として、特許文献2、3には、2−オキサビシクロ[3.3.0]オクタン化合物を光学分割剤として用いるアルコールやラクトン化合物の光学異性体混合物の分離方法が提案されている。この方法は、2−オキサビシクロ[3.3.0]オクタン化合物とアルコールやラクトン化合物の光学異性体混合物を反応させて得られるジアステレオマー混合物を、液体カラムクロマトグラフィーの手法などによりそれぞれのジアステレオマーに分離し、分離したジアステレオマーから光学活性なアルコールやラクトン化合物を得るものである。
【0007】
【特許文献1】特開平4−211021号公報
【特許文献2】特開2004−83445号公報
【特許文献3】国際公開第04/106320号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特許文献2、3などに記載された方法により、種々の光学活性体の製造を検討する中でなされたものであり、充填剤を固定相とし、溶媒を移動相として用いる液体クロマトグラフィーにより、高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を分離することができる光学異性体の分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献2、3に記載された方法により、種々の光学活性体の製造を試みた。そして、特許文献2、3に記載された方法の中で、2−オキサビシクロ[3.3.0]オクタン化合物と光学異性体のラセミ体混合物を反応させて得られるジアステレオマー混合物を、液体カラムクロマトグラフィーによりそれぞれのジアステレオマーに分離する工程において、移動相として、シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いると、高い生産効率で、光学純度の高いジアステレオマーを分離することが可能であることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、充填剤を固定相として用いる液体クロマトグラフィーにより、光学異性体混合物から少なくとも1つの光学異性体を分離する光学異性体の分離方法であって、移動相としてシクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いることを特徴とする光学異性体の分離方法が提供される。
【0011】
本発明の分離方法においては、前記液体クロマトグラフィーが、擬似移動層クロマトグラフィーであることが好ましい。
本発明の分離方法においては、下記の式(I)、(II)又は(III)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R12は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物と、活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物とを反応させて得られた2種類のジアステレオマーからなる混合物を各ジアステレオマーに分離するものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分離方法によれば、単位時間あたりの処理量、および溶媒1リットルあたりの処理量を大きくすることができるので、高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を効率よく分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光学異性体の分離方法は、充填剤を固定相として用いる液体クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー)により、光学異性体混合物から少なくとも1つの光学異性体を分離する光学異性体の分離方法であって、移動相としてシクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いる液体クロマトグラフィーは、充填剤を固定相とし、シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を移動相とするものであり、光学異性体混合物中のそれぞれの光学異性体が、固定相と移動相に対して異なった分配のされかたをすることに基づいて該混合物から少なくとも1つの光学異性体が分離される。
【0017】
用いる充填剤は、公知のカラムクロマトグラフィー用の充填剤から適宜選択すればよい。充填剤としては、例えば、シリカゲル;中性アルミナ;イオン交換樹脂;ゼオライト;活性炭;多糖誘導体(セルロース、アミロースのエステルやカーバメイト)、ポリアクリレート誘導体、ポリアミド誘導体などの高分子化合物をシリカゲルに担持させたもの;クラウンエーテル、シクロデキストリン誘導体などの低分子化合物をシリカゲルに担持させたもの;などが挙げられる。
【0018】
充填剤の種類、平均粒径および充填量などは、分離対象の光学異性体の化学的・物理的性質を考慮して、光学異性体混合物から分離対象の光学異性体を最も効率よく分離できるような条件を適宜選択することができる。
【0019】
本発明においては、液体クロマトグラフィーの移動相として、シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いる。
シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いることにより、高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を分離することができる。また、用いるシクロペンチルメチルエーテルは、化学的に安定であり、種々の有機化合物に対する溶解力に優れ、適度な沸点を有するため、作業時に蒸気を吸引する危険性が少なく、かつ蒸発除去が容易であり、かつ、使用後の回収性に優れ、環境を汚染する問題も少ないものである。
【0020】
本発明に用いるシクロペンチルメチルエーテルは公知物質であり、公知の方法により製造することができる。例えば、塩基の存在下、シクロペンチルアルコールにメチル化剤を反応させる方法;固体酸の存在下、シクロペンテンとメチルアルコールとを接触させる方法;などにより、製造することができる。また、市販品をそのまま用いることもできる。
【0021】
液体クロマトグラフィーの移動相として用いるシクロペンチルメチルエーテル以外の他の溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリンなどの脂環式炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;などが挙げられる。これらの他の溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記他の溶媒の種類や、シクロペンチルメチルエーテルの含有量は、分離する光学異性体の物性に応じて適宜定めることができる。
【0023】
移動相として使用する、シクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒中におけるシクロペンチルメチルエーテルの含有量は、全溶媒中、通常、1〜100%(容量%)、好ましくは5〜50%(容量%)、より好ましくは5〜30%(容量%)である。
【0024】
本発明においては、前記液体クロマトグラフィーの中でも、擬似移動層クロマトグラフィーを採用することが好ましい。擬似移動層クロマトグラフィーを用いることで、より高い生産効率で、光学純度の高い光学異性体を効率よく分離することができる。
【0025】
例えば、説明の簡略化の観点から、光学異性体混合物として2種類のジアステレオマーからなる混合物を想定した場合、擬似移動層クロマトグラフィーは、以下の通りに実施される。
すなわち、擬似移動層クロマトグラフィーは、内部に充填剤を収容し、かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床(カラム)に、光学異性体混合物(ジアステレオマー混合物)含有液および溶離液(移動相)を導入し、充填床から分離された1種類の光学異性体(ジアステレオマーa)を含有する液と他のもう1種類の光学異性体(ジアステレオマーb)を含有する液を抜き出すことからなり、充填床に、溶離液導入口、吸着されやすい光学異性体(強吸着成分)を含有する液の抜き出し口、光学異性体混合物含有液導入口、吸着されにくい光学異性体(弱吸着成分)を含有する液の抜き出し口を、流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し、かつこれらを充填床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することからなる。
【0026】
上記のような擬似移動層クロマトグラフィーを実施するには、擬似移動層型クロマト分離装置を用いる。この分離装置は、一般的には充填剤が充填された幾つかの室(カラム)からなる充填床と、この充填床内を液体が循環できる構造を有する。液体の流れの方向に沿って、充填床に設けられた、溶離液供給口、第1の成分(強吸着成分)液抜出口、原液(光学異性体混合物含有液)供給口および第2の成分(弱吸着成分)液抜出口を、液体の流れの方向に間欠的に移動させるが、このようにすることで、液体の流れと反対の方向に吸着層を移動させるのと同様の効果を得ることができる。すなわち、吸着層を移動させることで分離を行なう移動層型クロマトグラフィーと同様の高い分離能が得られる。
【0027】
本発明に用いる擬似移動層型クロマト分離装置の液の流れの概念図を図1に示す。図1中、1は溶離液供給口、2は第1の成分液抜出口、3は原液供給口、4は第2の成分液抜出口、5は循環液をそれぞれ示す。また、1a〜4aは、それぞれ一定時間運転後における次の運転時間での各供給・抜出口1〜4の位置を示す。
【0028】
液体は、循環ポンプ(図示を省略)などによってカラムaからカラムhに向かって循環しており、溶離液供給口1、第1の成分液抜出口2、原液供給口3、第2の成分液抜出口4は、それぞれカラムa、c、e、gの前に設置されている。また、溶離液供給口1、第1の成分液抜出口2、原液供給口3、第2の成分液抜出口4には、それぞれ開閉可能な弁(図示を省略)が取り付けられ、分離装置全体として、どの弁を開き、どの弁を閉じるかが制御可能となっている。弁としては、例えば電磁式弁などが挙げられる。
【0029】
この状態で一定時間運転後、溶離液供給口1、第1の成分液抜出口2、原液供給口3、第2の成分液抜出口4を、循環液5の流れの方向に沿って次のカラムの前に移動させる(溶離液供給口1、第1の成分液抜出口2、原液供給口3、第2の成分液抜出口4は、それぞれ溶離液供給口1a、第1の成分液抜出口2a、原液供給口3a、第2の成分液抜出口4aとなる。)。この状態で一定時間(運転切替時間)運転を行い、これを繰り返す。
【0030】
擬似移動層型クロマト分離装置を運転して、光学異性体混合物から効率よく光学異性体を分離するためには、溶離液供給口1などの移動速度V1(V1=カラム長さ/運転切替時間)を、第2の成分の吸着剤中の移動速度V2よりも小さく、第1の成分の吸着剤中の移動速度V3よりも大きくなるようにする必要がある(V2>V1>V3)。このような運転条件は、各カラム中を流れる液の流速や、運転切り替え時間や、溶離液の種類を適宜選択することにより設定することができる。
【0031】
擬似移動層型クロマト分離装置をこのように操作することにより、充填床は、見かけ上、循環液5の流れの方向とは逆の方向に移動させることができ、第1の成分液抜出口2、および第2の成分液抜出口4から、第1の成分を含む液および第2の成分を含む液をそれぞれ連続式に抜き出すことができる。
【0032】
擬似移動層クロマトグラフィーに用いる充填剤としては、光学異性体混合物から少なくとも1つの光学異性体を分離することができるものであれば、特に制限されず、公知のものを使用することができる。充填剤の具体例としては、前記の通りの充填剤が挙げられる。
充填剤の種類、平均粒径および充填量などは、分離対象の光学異性体の化学的・物理的性質を考慮して、光学異性体混合物から分離対象の光学異性体を最も効率よく分離できるような条件を適宜選択することができる。
【0033】
本発明に用いる擬似移動層型クロマト分離装置としては特に制限されない。例えば、特開平3−168100号公報や特開平3−134562号公報、特開平4−211021号公報、特開平6−039206号公報、特開平11−090106号公報、特開2000−155114号公報、特開2000−162198号公報、特開2006−064631号公報などに記載された擬似移動層型クロマト分離装置が挙げられる。
【0034】
本発明の分離方法を適用し得る光学異性体混合物としては、例えば、ジアステレオマー混合物、ラセミ体混合物、ジアステレオマー混合物とラセミ体混合物との混合物などが挙げられる。
なかでも、本発明の分離方法は、下記の式(I)、(II)又は(III)
【0035】
【化2】

【0036】
で示されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物と、活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物とを反応させて得られた2種類のジアステレオマーからなる混合物に適用するのが好ましい。それにより、前記ジアステレオマー混合物から各ジアステレオマーを高い生産効率で分離することができる。
なお、本発明に用いられる前記式(III)で表される化合物はビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクテンであるが、本明細書においては便宜的に、前記式(I)、(II)又は(III)で表される化合物をビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物と総称するものとする。
【0037】
前記式(I)、(II)および(III)中、R〜R10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R12は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0038】
これらの中でも、入手容易性や取り扱い容易性などの観点から、R1〜R10が水素原子又はメチル基であり、R11が2−プロペニル基、フェニル基又はジフェニルメチル基である、式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物の使用が好ましく、R1〜R10がすべて水素原子であり、R11が2−プロペニル基、フェニル基又はジフェニルメチル基である、式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物の使用がより好ましく、R1〜R10がすべて水素原子であり、R11が2−プロペニル基である、式(I)〜(III)のいずれかで表される化合物の使用がさらに好ましい。R〜R10がすべて水素原子であり、R11が2−プロペニル基である式(III)で表される化合物の使用が特に好ましい。
【0039】
前記式(I)で表される1−アルコキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタン、式(II)で表される1−ヒドロキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタン、および式(III)で表されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクテンの製造方法に特に制限はなく、例えば、Tetrahedron Lett.,35,7785(1994)に記載の方法で得られる化合物から容易に誘導できる。
【0040】
例えば、前記式(II)で表される1−ヒドロキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタンが得られると、当該化合物とR12OH(式中、R12は前記と同じ意味を表す。)で表されるアルコールとを反応させることにより、式(I)で表される1−アルコキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタンを得ることができる。
【0041】
また、式(II)で表される1−ヒドロキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタンを脱水反応することにより、式(III)で表されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクテンを得ることもできる。
【0042】
前記式(I)で表される1−アルコキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタン、および式(II)で表される1−ヒドロキシビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクタンの1位の置換基と5位の置換基とはシス配置であり、トランス配置である化合物は存在しない。
【0043】
また、式(III)で表されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサオクテンの二重結合に、付加反応により1位に置換基が導入されたとき、1位の置換基と5位の置換基とはシス配置であり、トランス配置である化合物は存在しない。
【0044】
活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物と、ビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物との反応は、酸触媒の存在下、無溶媒又は適当な溶媒中で行うことができる。
ここで、前記式(I)〜(III)のいずれかで示されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物は、光学分割剤と同様の機能、すなわち、活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物と反応して2種類のジアステレオマーを形成する機能を有する、光学活性な前記ビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物が用いられる。
【0045】
用いる酸触媒は特に制限されず、液状酸触媒および固体状酸触媒のいずれも使用することができる。例えば、ピリジニウムパラトルエンスルホネート(PPTS)、パラトルエンスルホン酸(p−TsOH)、パラトルエンスルホン酸一水和物(p−TsOH・HO)、モンモリロナイト、酸性イオン交換樹脂、合成ゼオライト(例えば、モレキュラーシーブ)などが挙げられる。
【0046】
酸触媒の使用量は、ビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物1重量部に対し、通常0.0001〜2重量部、好ましくは0.001〜1重量部である。
【0047】
用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば、特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素類;ジクロオメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシド;スルホラン;などが挙げられる。これらの中でも、収率よく目的物を得ることができること、および取り扱い性に優れることなどの理由から、非極性溶媒が好ましく、芳香族炭化水素類または脂肪族炭化水素類がより好ましく、トルエン又はヘプタン(好ましくはn−ヘプタン)が特に好ましい。
【0048】
次いで、得られたジアステレオマー混合物を液体カラムクロマトグラフィーにより各ジアステレオマーに分離する。この場合においても、液体カラムクロマトグラフィーとして、擬似移動層クロマトグラフィーを用いることが好ましい。
【0049】
なお、得られたジアステレオマーからは前記ビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物を切り離すことができるので、適宜、活性水素を有する光学活性体を得ることができる。すなわち、分離したジアステレオマーの少なくとも一つとアルコールとを、酸触媒の存在下、無溶媒又は溶媒中で反応させることにより、活性水素を有する光学活性体を得ることができる。このように、本発明の一態様としては、上記分離方法を用いる、活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物からの活性水素を有する光学活性体の製造方法も提供することができる。
【0050】
分離したジアステレオマーの少なくとも一つとアルコールとの反応に用いる酸触媒および溶媒としては、前記活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物とビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物との反応に用いることができる酸触媒および溶媒として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0051】
また、ジアステレオマーとの反応に用いるアルコールは、特に制限されないが、取り扱い性に優れることから、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、およびイソプロピルアルコールなどの炭素数1〜6の1級アルコールが好ましい。
【0052】
分離したジアステレオマーの少なくとも一つとアルコールとの反応は、−20℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。反応時間は、通常数分間から数十時間である。
【0053】
反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作、および所望により、再結晶、クロマトグラフィー、蒸留など公知の分離精製操作を行うことにより、目的物を単離することができる。
目的物の構造は、元素分析、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトルなどの公知の分析手段により同定、確認することができる。
【0054】
前記光学活性体の製造方法により製造可能な活性水素を有する光学活性体としては、例えば、光学活性アルコール、光学活性アミン、光学活性カルボン酸、光学活性チオールなどが挙げられる。
【0055】
光学活性アルコールとしては、例えば、光学活性を有するアルキルアルコール、アセチレンアルコール、オレフィンアルコール、芳香族アルコール、ヒドロキシアルデヒド、ヒドロキシケトン、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシエステル、ヒドロキシジスルフィド、アミノアルコール、保護アミノアルコール、ヒドロキシチオエーテル、ヒドロキシチオエステル、ヒドロキシチオケトン、ニトロアルコール、ニトリルアルコール、エポキシアルコール、ヒドロキシエーテル、ヒドロキシスルホン酸エステル、ハロゲノアルコール、アミドアルコール、ヒドロキシカーボネート、オキシム基含有アルコール、オキシムエーテル基含有アルコール、イソシアナトアルコール、ヒドロキシリン酸エステル、チアゾール含有アルコール、オキサゾール含有アルコール、イミダゾール含有アルコール、トリアゾール含有アルコール、テトラゾール含有アルコール、保護イミダゾール含有アルコール、保護トリアゾール含有アルコール、保護テトラゾール含有アルコール、イミダゾール塩含有アルコール、トリアゾール塩含有アルコール、テトラゾール塩含有アルコール、ヒドロキシカルボン酸塩、ヒドロキシ酸無水物、スルホキシド基含有アルコール、ヒドロキシチアル、ニトロソアルコール、アゾ基含有アルコール、ヒドロキシイミン、ヒドロキシアジド、アミノアルコール塩などを挙げることができる。これらの光学活性アルコールは、直鎖状構造のものでも、環状構造のものであってもよい。
【0056】
光学活性アルコールの具体例としては、1−フェニルエタノール、1−フェニル−1,2−エタンジオール、1−フェニル−1,2−エタンジオール−2−トシレート、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1−フルオロ−3−ペンチルオキシ−2−プロパノール、1−フルオロ−3−ヘキシルオキシ−2−プロパノール、1−フルオロ−3−ヘプチルオキシ−2−プロパノール、1,2−プロパンジオール−1−トシレート、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2−アミノ−1−ブタノール、1,4−ジメトキシ−2,3−ブタンジオール、2−ペンタノール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオール、1−フルオロ−2−オクタノール、2−ノナノール、1−フルオロ−2−デカノール、酢酸2−ヒドロキシ−1,2,2−トリフェニルエチル、乳酸エチル、3−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオンアミド、酪酸メチル、3−ヒドロキシ酪酸メチル、3−ヒドロキシ酪酸エチル、3−ヒドロキシ酪酸t−ブチル、4−ブロモ−3−ヒドロキシ酪酸メチル、3−ヒドロキシ酪酸ナトリウム、パントテニルアルコール、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、メントール、ボルネオール、2−アミノ−2−フェニルエタノール、2,3−グリセロールカーボネートトシレート、2,3−グリセロールカーボネート−3−ニトロベンゼンスノレホネート、ヒドロベンゾイン、ノルエフェドリン、1,1’−ビ−2−ナフトール、4,4a,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−4a−メチル−2(3H)−ナフタレノンなどが挙げられる。
【0057】
光学活性アミンとしては、例えば、光学活性を有するアミノアルコール、アセチレン含有アミン、オレフィン含有アミン、芳香族アミン、アミノアルデヒド、アミノケトン、保護アミノ基含有アミン、アミノ酸エステル、アミノチオエーテル、アミノチオエステル、アミノチオケトン、ニトロアミン、ニトリルアミン、アミノエポキシ、エーテル含有アミン、スルホン酸エステル含有アミン、ハロゲノアミン、アミド基含有アミン、カーボネート含有アミン、オキシム基含有アミン、オキシムエーテル基含有アミン、イソシアナトアミン、リン酸エステル含有アミン、チアゾール含有アミン、オキサゾール含有アミン、イミダゾール含有アミン、トリアゾール含有アミン、テトラゾール含有アミン、保護イミダゾール含有アミン、保護トリアゾール含有アミン、保護テトラゾール含有アミン、イミゾール塩含有アミン、トリアゾール塩含有アミン、テトラゾール塩含有アミン、スルホキシド基含有アミン、チアル基含有アミン、ニトロソアミン、アゾ基含有アミン、イミノ基含有アミン、アジド基含有アミン、ジスルフィド含有アミン、アミノ酸塩などを挙げることができる。これらの光学活性アミンは、直鎖状構造のものでも、環状構造のものであってもよい。
【0058】
光学活性アミンの具体例としては、2−メチルブチルアミン、1−シクロヘキシルエチルアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、cis−N−ベンジル−2−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミンなどを挙げることができる。
【0059】
光学活性カルボン酸としては、例えば、光学活性を有するアルキルカルボン酸、アセチレンカルボン酸、オレフィン含有カルボン酸、芳香族カルボン酸、アルデヒド含有カルボン酸、エステル基含有カルボン酸、ジスルフィド含有カルボン酸、ケトカルボン酸、アミノ酸、保護アミノ酸、チオエーテル含有カルボン酸、チオエステル含有カルボン酸、チオケトン含有カルボン酸、ニトロ基含有カルボン酸、ニトリル基含有カルボン酸、エポキシ基含有カルボン酸、エーテル含有カルボン酸、スルホン酸エステル含有カルボン酸、ハロゲノカルボン酸、アミド基含有カルボン酸、カーボネート含有カルボン酸、オキシム基含有カルボン酸、オキシムエーテル基含有カルボン酸、イソシアナトカルボン酸、リン酸エステル含有カルボン酸、チアゾール含有カルボン酸、オキサゾール含有カルボン酸、イミダゾール含有カルボン酸、トリアゾール含有カルボン酸、テトラゾール含有カルボン酸、保護イミダゾール含有カルボン酸、保護トリアゾール含有カルボン酸、保護テトラゾール含有カルボン酸、酸無水物含有カルボン酸、イミダゾール塩含有カルボン酸、トリアゾール塩含有カルボン酸、テトラゾール塩含有カルボン酸、スルホキシド基含有カルボン酸、チアル基含有カルボン酸、ニトロソ基含有カルボン酸、アゾ基含有カルボン酸、イミノ基含有カルボン酸、アジド基含有カルボン酸、アミノ酸塩などを挙げることができる。これらの光学活性カルボン酸は、直鎖状構造のものでも、環状構造のものであってもよい。
【0060】
光学活性カルボン酸の具体例としては、α−メトキシフェニル酢酸、2−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)フェニル酢酸、2−フェニノレプロピオン酸、{〔(フェニルアミノ)カルボニル〕オキシ}プロピオン酸、エポキシコハク酸、2−アミノ酪酸、2一フェニル酪酸、3−ヒドロキシテトラデカン酸、cis−2−ベンズアミドシクロヘキサンカルボン酸、α−フェニルグリシン、p−ヒドロキシフェニルグリシン、N−(3,5−ジニトロベンゾイル)−α−フェニルグリシン、テトラヒドロ−2−フランカルボン酸などが挙げられる。
【0061】
光学活性チオールとしては、光学活性を有するアルキルメルカプタン、アセチレンメルカプタン、オレフィンメルカプタン、芳香族メルカプタン、メルカプトアルデヒド、メルカプトケトン、メルカプトカルボン酸、アミノメルカプタン、保護アミノメルカプタン、メルカプトチオエーテル、メルカプトチオエステル、メルカプトチオケトン、ニトロメルカプタン、ニトリルメルカプタン、エポキシメルカプタン、メルカプトエーテル、メルカプトスルホン酸エステル、ハロゲノメルカプタン、アミドメルカプタン、メルカプトカーボネート、オキシム基含有メルカプタン、オキシムェーテル基含有メルカプタン、メルカプトカルボン酸エステル、イソシアナトメルカプタン、メルカプトリン酸エステル、チアゾール含有メルカプタン、オキサゾール含有メルカプタン、イミダゾール含有メルカプタン、トリアゾール含有メルカプタン、テトラゾール含有メルカプタン、保護イミダゾール含有メルカプタン、保護トリアゾール含有メルカプタン、保護テトラゾール含有メルカプタン、イミダゾール塩含有メルカプタン、トリアゾール塩含有メルカプタン、テトラゾール塩含有メルカプタン、メルカプトカルボン酸塩、メルカプト酸無水物、スルホキシド基含有メルカプタン、メルカプトチアル、ニトロソメルカプタン、アゾ基含有メルカプタン、メルカプトイミン、メルカプトアジド、アミノメルカプタン塩などが挙げられる。
【0062】
これらの光学活性チオールは、直鎖状構造のものでも、環状構造のものであってもよい。光学活性チオールの具体例としては、ペンタン−2−チオールなどが挙げられる。
【0063】
これらの中でも、前記光学活性体の製造方法は、分子内に不斉炭素原子を有するアルコールの光学異性体のラセミ体混合物からの光学活性アルコールの製造に特に好適である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、各実施例における「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0065】
(参考例1) 1−(1−オクテニル−3−オキシ)−5−(2−プロペニル)−2−オキサビシクロ[3.3.0]オクタン(以下、「ALM」と略記する)の光学異性体混合物の製造
光学活性な1−メトキシ−5−(2−プロペニル)−2−オキサビシクロ[3.3.0]オクタン 30部とモレキュラーシーブ5A 30部を含む無水トルエン35mL溶液に、1−オクテン−3−オールのラセミ体混合物 19部を室温で加えた後、110℃で10時間撹拌した。この際、還流管内にメタノールを吸着する性質をもつモレキュラーシーブ(MS−4A)を600部充填し、該還流管内に生成したメタノールを吸着させた。反応液を濾過し、濾液を減圧濃縮して残留物37部を得た。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:ジエチルエーテル=40:1(容量比))にて精製して目的物のジアステレオマー混合物を得た。
【0066】
(実施例1)
シリカゲルからなる充填剤(DM−60、平均粒子径40μm、洞海化学社製)を、内径8cm、充填層の長さ50cmのカラムに充填し、このカラムを8本連結して擬似移動層型クロマト分離装置を構成した。この擬似移動層型クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を50mL/分(濃度100g/L)で供給した。
【0067】
擬似移動層型クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサンおよびシクロペンチルメチルエーテル(容量比)=95/5
・溶離液の供給速度:703mL/分
・強吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:173.6mL/分
・弱吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:180.4mL/分
・カラムの切り替え時間:410秒
・温度:40℃
【0068】
上記条件によりALMのジアステレオマー混合物の分離を行なった結果、強吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度99%d.e.以上の光学活性体を、弱吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度99%d.e.以上の光学活性体をそれぞれ得た。また、その処理量は7.2kg/24時間であり、単位溶媒量当たりの処理量は、20.3g/Lであった。
【0069】
(比較例1)
シリカゲルからなる充填剤(DM−60、平均粒子径40μm、洞海化学社製)を、内径8cm、充填層の長さ50cmのカラムに充填し、このカラムを8本連結して擬似移動層型クロマト分離装置を構成した。この擬似移動層型クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を50mL/分(濃度100g/L)で供給した。
【0070】
擬似移動層型クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサンおよびジイソプロピルケトン(容量比)=90/10
・溶離液の供給速度:413mL/分
・強吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:262.3mL/分
・弱吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:250.3mL/分
・カラムの切り替え時間:410秒
・温度:40℃
【0071】
上記条件により、ALMのジアステレオマー混合物の分離を行なった結果、強吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度72.8%d.e.の光学活性体を、弱吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度75.5%d.e.の光学活性体をそれぞれ得た。また、その処理量は7.2kg/24時間であり、単位溶媒量当たりの処理量は、14g/Lであった。
【0072】
(比較例2)
シリカゲルからなる充填剤(DM−60、平均粒子径40μm、洞海化学社製)を、内径8cm、充填層の長さ50cmのカラムに充填し、このカラムを8本連結して擬似移動層型クロマト分離装置を構成した。この擬似移動層型クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を30mL/分(濃度50g/L)で供給した。
【0073】
擬似移動層型クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサンおよびジイソプロピルケトン(容量比)=95/5
・溶離液の供給速度:341mL/分
・強吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:111.2mL/分
・弱吸着成分に富む流体の抜き出し口の流量:59.8mL/分
・カラムの切り替え時間:1170秒
・温度:40℃
【0074】
上記条件によりALMのジアステレオマー混合物の分離を行なった結果、強吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度99%d.e.以上の光学活性体を、弱吸着成分に富む流体の抜き出し口からは、光学純度99%d.e.の光学活性体をそれぞれ得た。また、その処理量は2.2kg/24時間であり、単位溶媒量当たりの処理量は、12.9g/Lであった。
【0075】
実施例1、比較例1、2の、擬似移動層型クロマト分離装置を用いた分離の条件、得られた強吸着成分の光学純度、弱吸着成分の光学純度、一日あたりの処理量(kg/day)、および溶媒1Lあたりの処理量(g/L)を、第1表にまとめた。
第1表中、Hexはn−ヘキサン、CPMEはシクロペンチルメチルエーテル、DIPCはジイソプロピルケトンをそれぞれ表す(以下にて同じ。)。
【0076】
【表1】

【0077】
第1表より、シクロペンチルメチルエーテルを含有する溶媒を用いる場合(実施例1)には、シクロペンチルメチルエーテルを用いない場合(比較例1,2)に比して、高い単位時間あたりの処理量、および、高い溶媒1Lあたりの処理量で、光学純度の高い光学異性体を分離することができた。
【0078】
(実施例2)
シリカゲル(60N、球状中性、関東化学社製)を充填した内径1cm、長さ10cmのセミ分取用カラムを8本連結してなる高速液体クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を2mL(ALMとして1g)供給し、出口にてフラクションコレクターにて分取した。
【0079】
高速液体クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサン/シクロペンチルメチルエーテル=98/2(容量比)の混合液
・流速:2mL/分
・各フラクション採取時間:3分
【0080】
フラクションナンバー1から4までの弱吸着成分に富む液体(フラクション(1))からは、光学純度98%d.e.の光学活性体を0.25g得た。フラクションナンバー36から45までの強吸着成分に富む液体(フラクション(2))からは、光学純度98%d.e.の光学活性体を0.2g得た。また、フラクションナンバー5から35までは、弱吸着成分と強吸着成分両者の混合物として得られ、分離精製することはできなかった。処理に要した時間は135分であった。
【0081】
(比較例3)
シリカゲル(60N、球状中性、関東化学社製)を充填した内径1cm、長さ10cmのセミ分取用カラムを8本連結してなる高速液体クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を2mL(ALMとして1g)供給し、出口にてフラクションコレクターにて分取した。
【0082】
高速液体クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサン/ジイソプロピルケトン=96/4(容量比)の混合液
・流速:2mL/分
・各フラクション採取時間:3分
【0083】
フラクションナンバー1、2の弱吸着成分に富む液体(フラクション(1))からは、光学純度95%d.e.の光学活性体を0.15g得た。フラクションナンバー34から47までの強吸着成分に富む液体(フラクション(2))からは、光学純度96%d.e.の光学活性体を0.1g得た。また、フラクションナンバー3から33までは、弱吸着成分と強吸着成分両者の混合物として得られ、分離精製することはできなかった。処理に要した時間は141分であった。
【0084】
(比較例4)
シリカゲル(60N、球状中性、関東化学社製)を充填した内径1cm、長さ10cmのセミ分取用カラムを8本連結してなる高速液体クロマト分離装置に、参考例1のALMのジアステレオマー混合物を2mL(ALMとして1g)供給し、出口にてフラクションコレクターにて分取した。
【0085】
高速液体クロマト分離装置の運転条件を以下に示す。
・溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル=99/1(容量比)の混合液
・流速:2mL/分
・各フラクション採取時間:3分
【0086】
フラクションナンバー1から3までの弱吸着成分に富む液体(フラクション(1))からは、光学純度94%d.e.の光学活性体を0.1g得た。フラクションナンバー36から43までの強吸着成分に富む液体(フラクション(2))からは、光学純度95%d.e.の光学活性体を0.13g得た。また、フラクションナンバー5から35までは、弱吸着成分と強吸着成分両者の混合物として得られ、分離精製することはできなかった。処理に要した時間は129分であった。
【0087】
実施例2、比較例3、4の、高速液体クロマト分離装置を用いた分離の条件、上記フラクションから得られた光学活性体の光学純度、および処理時間を第2表にまとめた。
第2表中、AcOEtは酢酸エチルを表す。
【0088】
【表2】

【0089】
第2表より、シクロペンチルメチルエーテルを含有する溶媒を用いる場合(実施例2)には、シクロペンチルメチルエーテルを用いない場合(比較例3,4)に比して、高い生産効率で、より光学純度の高い光学異性体を分離することができた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明に用いる擬似移動層型クロマト分離装置例での液の流れを示す概念図である。
【符号の説明】
【0091】
1…溶離液供給口、2,2a…第1の成分液抜出口、3,3a…原液供給口、4,4a…第2の成分液抜出口、5…循環液、1a,2a,3a,4a…一定時間運転後における次の運転時間での各供給・抜出口1〜4の位置、a,b,c,d,e,f,g、h…カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を固定相として用いる液体クロマトグラフィーにより、光学異性体混合物から少なくとも1つの光学異性体を分離する光学異性体の分離方法であって、移動相としてシクロペンチルメチルエーテルを含む溶媒を用いることを特徴とする光学異性体の分離方法。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフィーが、擬似移動層クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項1に記載の光学異性体の分離方法。
【請求項3】
下記の式(I)、(II)又は(III)
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、R11は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、又は置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表し、R12は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるビシクロ[3.3.0]−2−オキサ−1−オクタン化合物と、活性水素を有する光学異性体のラセミ体混合物とを反応させて得られた2種類のジアステレオマーからなる混合物を各ジアステレオマーに分離するものである、請求項1または2に記載の光学異性体の分離方法。



【図1】
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【公開番号】特開2007−271586(P2007−271586A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101050(P2006−101050)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】