説明

光学系及びそれを有する光学機器

【課題】 膜硬度が弱い機能膜を施したレンズを機能膜を破損することなく他のレンズとマージナルコンタクトすることができ、各レンズを高い組立精度で容易に組み立てることができる光学系を得ること。
【解決手段】 少なくとも一方の面に膜硬度がH以下の機能膜を形成したレンズと、該レンズの機能膜を形成した面と対向して、該機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズとがマージナルコンタクトされていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学系に関し、例えば銀塩フィルム用カメラ、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ、望遠鏡、双眼鏡、プロジェクター、複写機等の光学機器に用いられる光学系として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、プラスチックなどの透光性媒質を用いた光学素子(レンズ)には、表面反射が多いとフレアーやゴーストが多く発生し、また透過率が低下するので表面に薄膜の誘電体膜よりなる反射防止膜が施されている。
【0003】
この反射防止膜には、光学素子に入射する光束の入射角度範囲が広くても、良好なる反射防止効果が得られることが要望されている。
【0004】
広い入射角度範囲で高い反射防止効果を得るには、空気と層との間や、層と層との間の界面を構成する膜の屈折率差が小さいことが必要である。このためには誘電体膜よりも低屈折率の機能膜を用いることが有効である。
【0005】
従来より低屈折率の機能膜として、層内(透明材料中)に微小空孔を分散させた多孔質膜や微粒子を配列した膜(多孔質光学材料)が知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0006】
この他、可視光の波長以下の微細な微細凹凸構造を表面に形成し、反射防止を行った機能膜が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0007】
一方、レンズをレンズ鏡筒内に収納保持するには、レンズをレンズ鏡筒に直接組み込み、保持部材(押さえリング)を用いて固定する方法が用いられている。或いは、スペーサを用いて隣接するレンズ間の相対的な間隔を維持しながら、保持部材で保持する方式が用いられている。
【0008】
このとき光学系全体の長さを短縮するためや、組立精度を向上させるために隣接するレンズ同士をレンズ外周部で直接接触させ、レンズ鏡筒内でその状態を保持する方式(以下、マージナルコンタクトと呼ぶ)が利用されている。
【0009】
通常、金属やモールド樹脂で製作された鏡筒やスペーサの加工精度は数μmから数10μmである。これに対し、レンズ面の曲率の加工精度はサブミクロンの精度である。そのため、マージナルコンタクト方式は、対向するレンズ間隔の精度や偏心の精度が高く要求される場合に大変有効であり、高精度が要求される光学系には、多く適用されている。
【0010】
また最近では、レンズの偏心に関する敏感度が高い一部のレンズはレンズ鏡筒内で偏心調整を行った後に固定することも行われている。
【0011】
図8(a),(b)はレンズ鏡筒3内にマージナルコンタクトした2つのレンズ1、2を光軸9に対して偏心調整した後に固定する方法の説明図である。
【0012】
図8(a)はマージナルコンタクトされた2つのレンズ1、2を光軸9と直交する面内で矢印の如く回転調整を行い、調心を行っている状態を示している。
【0013】
図8(b)はマージナルコンタクトした2つのレンズ1、2を光軸9と直交する面内で矢印の如くシフト調整を行い、調心を行っている状態を示している。
【特許文献1】特開平6−003501号公報
【特許文献2】特開2004−302112号公報
【特許文献3】特開2005−157119号公報
【特許文献4】特開2006−10831号公報
【非特許文献1】Applied Optics,Vol.25,No.24,pp4562−4567,(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1〜4や非特許文献1で開示されている広い入射角度範囲で良好なる反射防止効果を得るための低屈折率の機能膜は、誘電体膜よりなる低屈折率の膜に比べて膜硬度が大変小さい(弱い)。
【0015】
このため光学系の全長を短縮するためや、高い組立精度を得るために2つのレンズをマージナルコンタクトするとき、機能膜が施された面が他の面と接触すると接触部で機能膜が破損し、反射防止効果が低下してしまう場合がある。
【0016】
また破損した機能膜の一部がレンズ面に飛散し、光学性能が低下する原因となってくる場合がある。
【0017】
このため機能膜を施したレンズをマージナルコンタクトしてレンズ鏡筒内に収納する場合には、機能膜が破損されないようにすることが大きな課題となっている。
【0018】
本発明は膜硬度が弱い機能膜を施したレンズを機能膜を破損することなく他のレンズとマージナルコンタクトすることができ、各レンズを高い組立精度で容易に組み立てることができる光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の光学系は、
少なくとも一方の面に膜硬度がH以下の機能膜を形成したレンズと、該レンズの機能膜を形成した面と対向して、該機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズとがマージナルコンタクトされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば膜硬度が弱い機能膜を施したレンズを機能膜を破損することなく他のレンズとマージナルコンタクトすることができ、各レンズを高い組立精度で容易に組み立てることができる光学系が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の光学系は、マージナルコンタクトする2つのレンズを有している。このうち一方のレンズであって、マージナルコンタクトしている面にはISO/DIN 15184規格されている引っかき硬度規格による膜硬度が計測において、H以下の膜硬度の弱い機能膜が形成されている。
【0022】
一方のレンズの機能膜が施されている面と、マージナルコンタクトしているレンズのマージナルコンタクト面は、機能膜が施されている面の径よりも大きな径(レンズ径)より成っている。
【0023】
機能膜は可視光領域(波長400nm〜700nm)において反射防止機能を有している。
【実施例】
【0024】
図1は本発明の実施例1の光学系の主要部の断面形状図である。図1では第1レンズ1と第2レンズ2がレンズ鏡筒3に組み込まれている状態を示している。実際の光学系では、さらに多数のレンズがレンズ鏡筒3に組み込まれていたり、ズーミングに応じて、複数のレンズ群がレンズ鏡筒内を移動する機構を有している。図1では複雑になるため、本発明の特徴を簡潔に説明するために、最低限の数のレンズとレンズ鏡筒の構成を示している。
【0025】
図1において、第1レンズ1は凸形状の第1面5と凹形状の第2面6からなるメニスカス形状の負レンズである。第2レンズ2は凸形状の第1面7と凸形状の第2面8からなる正レンズである。また、第1レンズ1の第1面5の外径はΦ1a、第2面6の内径はΦ1bである。ここでΦ1b<Φ1aである。第2レンズ2の第1、第2面7,8の外径はいずれもΦ2である。
【0026】
第1レンズ1の凹形状の第2面(レンズ面)6には膜硬度の弱い反射防止機能を有する機能膜14が施されている。機能膜14はISO/DIN 15184規格による膜硬度がH以下である。
【0027】
ここで機能膜とは、層内(透明材料中)に微小空孔を分散させた多孔質膜や微粒子を配列した膜、或いは微細凹凸形状を有する膜をいう。
【0028】
機能膜14は、図2に示すように、第1レンズ1のレンズ面6上に形成された、例えば、薄膜部15と微細構造部16から構成されている。薄膜部15は1層以上の薄膜からなり、真空蒸着やスパッタ成膜、ゾルゲル液のスピン塗布法などにより微細構造を含まない緻密な膜で構成されている。
【0029】
薄膜部15の上に、それよりも又は第1レンズ1の材料よりも低屈折率の層として作用する微細構造部16を積層している。
【0030】
微細構造部16は使用波長の最短波長(例えば波長400nm)の1/2以下(例えば200nm以下)の周期構造を有する微細構造より成っている。
【0031】
一般に空気と媒質の界面に微細構造を形成した場合、波長以下の構造は、構造体としての機能は有さず、空気と媒質の占有率に応じた屈折率を有する薄膜と等価の作用をする。微細構造を円錐形状などにすると、媒質から空気に向けて、連続的に屈折率が減少する膜と等価となる。この構成では、基本的に屈折率差が発生する界面が存在していないため、広入射角にわたり、良好な反射防止特性が得られる。
【0032】
本実施例では、これによって高性能な反射防止特性を有する機能膜14を構成している。
【0033】
また、本実施例に用いられる微細構造部16は、図3に示すような微粒子16aが配列した構造のもの(微細な空孔や粒子を含んだ低屈折率の層)が適用可能である。また図4に示すような使用波長(例えば550nm)以下の微細凹凸形状部16bを最外面側に複数配列した構造のものが適用可能である。
【0034】
或いは、図5に示すように、機能膜14として、レンズ面6に直接、微細構造部14aを形成して薄膜層15を省略しても良い。いずれの場合も、最外面(空気と接する面)の膜のISO/DIN 15184規格されている引っかき硬度規格による膜硬度がH以下の弱い機能膜の構成であれば、本発明の対象とする光学系が適用できる。微細凹凸形状(微細構造部)や、低屈折率の層等の製法としては、例えば以下に示すものが利用できる。
【0035】
ここで低屈折率の層とは、それが形成される基板(レンズ又は薄膜層)の屈折率に比べて低い屈折率より成る層のことである。例えばMgF(屈折率1.38)やSiO(屈折率1.49)よりも小さな屈折率1.35以下のことである。
【0036】
1)微細凹凸形状を有する型を用いた射出成形によりレンズ面に微細凹凸形状を転写する製法
2)レンズと微細凹凸構造が形成された型を、放射線硬化性樹脂の前駆液層を介して積層した後、放射線を照射して前駆液層を硬化させた後に離型することにより微細凹凸形状をレンズ表面に形成する製法
3)光(可視光)の波長以下(例えば波長550nm以下)のサイズからなる微粒子をバインダ中に分散してなる液をレンズ面にスピンコート又はディップコートの少なくとも一方を行うことで微粒子を配列した層を最外面側(空気と接する面側)に形成する製法
4)最外面側にシリカエアロゲルの多孔質層を形成する製法
5)異なる媒質を分散した樹脂をレンズ面に塗布し、前記媒質を処理により樹脂から削除することで空孔が形成された屈折率層を最外面側に形成する製法
6)ジルコニウム、シリコン、チタニウムおよび亜鉛の化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物とアルミニウム化合物を少なくとも含む塗布液をレンズ面にスピンコート又はディップコートの少なくとも一方を行う。これにより製膜した多成分系膜を、温水処理することで作製した微細構造層を最外面側に形成する製法
以上、説明した各種の製法が、高性能の特性を有する機能膜の製法として利用できる。これ以外の製法でも、高性能な機能膜を実現する製法で、膜硬度の弱い膜となる場合は、本発明に適用できる。
【0037】
次に図1において2つのレンズ1,2をレンズ鏡筒3に組み込む手順に従って、実施例1の光学系の構成を説明する。
【0038】
本実施例では、機能膜を形成したレンズと機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズとを収納するレンズ鏡筒は、機能膜を形成したレンズが、機能膜を有する面とは反対側の面方向から、該レンズ鏡筒に組み込まれる形状より成っている。
【0039】
図1の光学系の構成は、矢印13の方向からレンズ2,1を順にレンズ鏡筒3に組み込むようにレンズ鏡筒3、第1、第2レンズ1,2の形状が構成されている。
【0040】
まず、第2レンズ2がレンズ鏡筒3に外径部10で嵌合することで、光軸9に垂直な方向の位置が保持される。そして光軸9に平行な方向にスライドし、第2レンズ2の第2面8の外周部でレンズ鏡筒3に接触することで、光軸9方向に固定される。
【0041】
次に、第1レンズ1がレンズ鏡筒3に組み込まれる。レンズ鏡筒3に対し外径部11で嵌合しながらスライドし、第1レンズ1の第2面6の内径Φ1bのエッジ部12が、第2レンズ2の第1面7と接触し、光軸9方向に固定される。最後に、押さえ環4で各レンズが動かないように保持される。
【0042】
図1においては、第1レンズ1の外径に対して、レンズ鏡筒3の径が大きめの構成となっている。レンズ外径とレンズ鏡筒径の差分の範囲で、第1レンズ1が自由に動くことが出来る。
【0043】
この構成は、レンズ単品の面が偏心していた場合でも、第1レンズ1の第2面6のエッジ部12が、対向する第2レンズ2の面7と全面で接触させることが可能となる。そのため、第1レンズ1の第2面6と、第2レンズ2の第1面7の相対偏心に対する敏感度が高い場合に有効である。
【0044】
本実施例の光学系の構成では、機能膜14を有する面6の内径Φ1bに対し、対向する第2レンズ2の面7の径Φ2を大きくしている。
【0045】
本実施例の構成とすることで、膜硬度の弱い機能膜14を有する第2面6は、内径Φ1bのエッジ部12でのみ第2レンズ2と接触することとなる。そのため、機能膜14には、触れることなく第1レンズ1を保持することができる。
【0046】
図1の本実施例において、機能膜14が施された第1レンズ1は、機能膜14が施された面6と反対側の面方向からレンズ鏡筒3に組み入れられる。この構成では、第1レンズ1は第1面5を保持した状態でレンズ鏡筒3に組み込むことができるので、機能膜14に触れずに組み込むこともできる。
【0047】
また、この場合、機能膜14が施された面6と反対側の面5に膜硬度の高い(膜硬度がH以上)反射防止膜を施すのが良い。これによればレンズの組み込み性が大幅に改善される。
【0048】
図1の実施例1の比較例1を図9に示す。図9は図1と同じレンズ構成で、機能膜14を有する面6の内径Φ1bが、対向する第2レンズ2の面7の径Φ2より大きい場合の光学系である。図9の参考例1の場合、第2レンズ2の外径Φ2のエッジ部2aが、機能膜14を有する面6と接触することになる。そのため、接触した箇所の機能膜14は破壊されることとなる。
【0049】
ここで、前述で説明したような偏心の調整を行った場合を考える。
【0050】
図9に示した構成では、第2レンズ2の外径Φ2のエッジ部2aが機能膜14の面6上を回転やシフトすることとなり、機能膜14の破壊具合は増加される。そして、状況によっては削り粉のようなゴミが発生してしまう。このゴミは、マージナルコンタクトされた面の間に発生するため、偏心の調整を行った後、レンズを取り外さないと除去することができない。そのため、生産性を大幅に悪化させてしまう。また、破壊された箇所は、微細構造部がなくなっているため、所望の反射特性が得られない。低屈折率層である微細構造部がなくなることで、構成によっては、通常の反射防止膜よりも高い反射率となる場合もあり、不要なゴースト光の発生原因となってくる。
【0051】
また、機能膜14の一部が破壊されることで、機能膜14としては、耐環境性に優れていたとしても、破壊された箇所の耐環境性が低下し、その破壊部を起点として、レンズ全面の環境特性が悪化する。これに対して本実施例では、このようなことがない。
【0052】
図6は本実施例において微細凹凸構造の機能膜14の上に、微細凹凸構造の高さよりも薄い膜(保護膜)17を施す構成の説明図である。
【0053】
図6の構成は機能膜14としての特性を低下させないような10nm以下の膜厚の薄膜(保護膜)17を表面にコーティングすることで、水分の浸入を防ぐなどの耐環境性を向上させる効果を有している。
【0054】
この構成で、例えば図9のような構成をとると硬度の弱い微細凹凸構造が破壊されてしまい、保護コート17も同時に除去されてしまうため、環境特性が悪化してしまう場合がある。
【0055】
これに対し図1に示す本実施例の構成では、偏心の調整を行った場合でも、機能膜14を有する面6のエッジ部12が対向する面7上を移動することになるので、機能膜14が破壊されることがない。従って、本実施例によれば機能膜を用いることによる効果が全面にわたり得られる。
【0056】
本実施例の機能膜14の膜硬度は、ISO/DIN 15184に規定されている引っかき硬度規格による膜硬度がH以下の機能膜であることが効果上好ましい。これ以上の膜硬度があれば、前述したような、レンズ組み込み時に機能膜が破壊されることが少ない。
【0057】
本実施例の機能膜14における薄膜層15の構成は、TiO、SiO、Alなどの無機材料を真空蒸着により1層以上蒸着した膜である。或いはSiO、TiO、ZrO、ZnOの化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物からなる塗布液をレンズ面にスピンコート又はディップコートすることで製膜した多成分系膜である。また微細構造部16の構成は、アルミニウムを含有する溶液をレンズ面にスピンコート又はディップコート塗布し,皮膜を形成し、該皮膜を80度程度の温水に浸漬処理することで微細凹凸構造を形成した構成である。このとき、機能膜14の膜硬度は6Bである。
【0058】
また、本実施例の光学系においては機能膜14と対向する第2レンズ2の面7には、機能膜14より膜硬度が高い蒸着などによる反射防止膜が施されていることが望ましい。好ましくは膜硬度がH以上の反射防止膜を施すのが良い。
【0059】
蒸着などで製作された反射防止膜は、膜硬度が優れている(硬い)ので、レンズ面にキズがつくことが少ない。さらに面7には、表面に撥油膜(撥油処理)が施されていることが好ましい。この場合、偏心調整を行う場合に、機能膜14が施された面6のエッジ部12が面7に塗布された撥油膜上を滑らかに移動するので、偏心調整が行いやすくなる。
【0060】
本実施例に係る機能膜14としては、膜の最外面側にレンズ1又は薄膜層15に比べ低屈折率の層(微細構造部)16を有することが光学性能上好ましく、さらには層16の材料の屈折率が1.35以下の低屈折率の層であることが望ましい。
【0061】
通常の膜材として、MgFの材料の屈折率が1.38程度であるので、屈折率1.35以下の膜でないと、機能膜としての効果が低くなってしまう。
【0062】
また、本実施例の機能膜としては、反射防止機能を有するほかに、ダイクロ膜や干渉フィルター等のような分光特性を有していても良い。
【0063】
そして低屈折率の層としては、製法や構造に限定される必要はなく、前述したような様々な形状の微細構造部を用いることができる。
【0064】
図7は本発明の光学系の実施例2の要部概略図である。図7は、図1とほぼ同じレンズ構成である。実施例2の光学系はメニスカス形状の負の第1レンズ1と両凸形状の正の第2レンズ2から構成されている。
【0065】
図7の実施例2では、機能膜14は、第2レンズ2の凸形状の第1面7に形成されている。この場合も、機能膜14が施されている面7の径(外径φ2)より、対向する第1レンズ1の面6の径(φ1b)を大きく取ることで、機能膜14が施されている面7のエッジ部12でマージナルコンタクトされることとなる。これにより、図1の実施例1と同じように、機能膜14を破壊することなく、双方のレンズをレンズ鏡筒3に組み込むことが容易となる。
【0066】
以上のように、本発明の光学系は、機能膜を施すレンズの形状には依存せず、マージナルコンタクトが可能なレンズ形状であれば、どのようなレンズ形状にも適用することができる。
【0067】
以上のように各実施例によれば膜硬度が弱い膜をレンズに施した場合でも、膜を破壊することなくマージナルコンタクトできる光学系が得られる。そして、それにより高性能の反射防止特性を有する機能膜を提供することができる。さらに不要な反射光を抑制し、ゴースト光が発生しない良好な光学性能を有する光学系が得られる。
【0068】
さらに組み込み精度の高いマージナルコンタクトの面に、機能膜を適用することができ、小型化、高性能化が求められている撮影レンズなどの光学系が容易に得られる。
【0069】
尚、本発明の光学系は、2つのレンズをマージナルコンタクトするとき、マージナルコンタクトする一方のレンズ面に施した機能膜の膜硬度が、機能膜を形成した面と対向するレンズの材料の硬度より小さい構成であれば適用できる。又は機能膜を形成した面と対向するレンズの面に形成された膜(例えば反射防止膜)の膜硬度より小さい構成であれば適用できる。
【0070】
本発明の光学系は、例えばビデオカメラの撮影レンズやファインダー光学系、事務機のイメージスキャナーやデジタル複写機等のリーダーレンズ、そしてプロジェクターの投射光学系などの光学機器において広い波長域で使用される光学系に適用できる。
【0071】
また双眼鏡や地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡等の光学機器の観察光学系にも適用することができる。
【0072】
本発明の光学系は、これらの光学機器に用いれば広い波長域にわたり良好なる反射防止を行った光学系が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1における光学系の構成図
【図2】本発明に用いられる機能膜の構成図
【図3】機能膜の最外層に用いられる微細構造部の一例を示す図
【図4】機能膜の最外層に用いられる微細構造部の他の例を示す図
【図5】本発明に用いられる微細凹凸構造の機能膜の構成図
【図6】保護層を有する微細凹凸構造の機能膜の構成図
【図7】本発明の他の実施例における光学系の構成図
【図8】レンズの偏心調整の説明図
【図9】従来例における光学系の構成図
【符号の説明】
【0074】
1 第1レンズ
2 第2レンズ
3 レンズ鏡筒
4 押さえ環
5、6,7,8 レンズ面
9 光軸、
10,11 嵌合部
12 エッジ部
13 組み込み方向
14 機能膜
15 薄膜
16 微細構造部
17 保護層
16a 微粒子
16b 微細凹凸形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に膜硬度がH以下の機能膜を形成したレンズと、該レンズの機能膜を形成した面と対向して、該機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズとがマージナルコンタクトされていることを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズの該機能膜が形成された面と対向する面には、反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記反射防止膜の表面は、撥油処理が施されていることを特徴とする請求項2に記載の光学系。
【請求項4】
前記機能膜は、その最外面側に材料の屈折率が1.35以下の層を有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光学系。
【請求項5】
前記機能膜は、可視光領域で反射防止機能を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項6】
前記機能膜は、その最外面側に、微細構造部を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項7】
前記微細構造部は、最外面側が微細凹凸形状であることを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項8】
前記微細構造部は、微細な空孔や粒子を含んだ薄膜であることを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項9】
前記機能膜は、微細凹凸形状を有する型を用いた射出成形によりレンズ面に微細凹凸形状を転写することで作製されたものであることを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項10】
前記機能膜は、レンズと微細凹凸構造が形成された型を、放射線硬化性樹脂の前駆液層を介して積層した後、放射線を照射して前駆液層を硬化させた後に離型することにより微細凹凸形状をレンズ表面に形成することで作製されたものであることを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項11】
前記機能膜は、550nm以下のサイズからなる微粒子をバインダ中に分散してなる液をレンズ面にスピンコート又はディップコートすることで微粒子を配列した層を最外面側に形成することで作製されたものであることを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項12】
前記機能膜は、最外面側にシリカエアロゲルの多孔質層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項13】
前記機能膜は、異なる媒質を分散した樹脂をレンズ面に塗布し、前記媒質を処理により樹脂から削除することで空孔が形成された層を最外面側に有することを特徴とする請求項8に記載の光学系。
【請求項14】
前記機能膜は、ジルコニウム、シリコン、チタニウムおよび亜鉛の化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物と、アルミニウム化合物を少なくとも含む塗布液をレンズ面にスピンコート又はディップコートすることで製膜した多成分系膜を、温水処理することで作製した微細構造層を最外面側に有することを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項15】
前記微細構造部の最外面側には、10nm以下の膜厚の保護膜が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の光学系。
【請求項16】
前記微細構造部は、200nm以下の微細構造より成ることを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項17】
前記機能膜を形成したレンズと機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズとを収納するレンズ鏡筒を有し、該機能膜を形成したレンズが、該機能膜を有する面とは反対側の面方向から、該レンズ鏡筒に組み込まれる形状より構成されていることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項18】
前記機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有するレンズの該機能膜が施されている面と対向する面には、膜硬度がH以上の反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項19】
少なくとも一方の面に機能膜を形成した第1レンズと、該第1レンズの機能膜を形成した面と対向して、該機能膜を形成した面の径よりも大きな径を有する第2レンズとがマージナルコンタクトされた光学系であって、
該機能膜の膜硬度は、該機能膜を形成した面と対向する該第2レンズの材料の硬度より小さいか又は該機能膜を形成した面と対向する該第2レンズの面に形成された膜の膜硬度より小さいことを特徴とする光学系。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか1項の光学系を有していることを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−128844(P2009−128844A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306835(P2007−306835)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】