光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法
【課題】被測定物質分子の結合位置に左右されることなく高精度な濃度測定が可能な光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の光学素子4は、導電性を有する導電性微細構造体6を有し、導電性微細構造体6の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する。光学素子4は、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有する。
【解決手段】本発明の光学素子4は、導電性を有する導電性微細構造体6を有し、導電性微細構造体6の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する。光学素子4は、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法に関し、特に標的物質の濃度を検知する光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な導電性構造体には局在表面プラズモン(Localized Surface Plasmon Resonance:以下LSPR)が誘起されることが知られている。このLSPRは上記の導電性構造体周囲の屈折率、誘電率によりその共鳴条件が決まる。従って、導電性構造体周囲の誘電率変化を共鳴条件の変化として検出できる。共鳴条件の変化は、上記導電性構造体に光を照射、透過させその光学スペクトルの変化を測定することで検出できる。
【0003】
LSPRは導電性構造体周囲の屈折率、誘電率変化に敏感である。したがってLSPRは高感度な屈折率センサに適用することが出来る。また以下に示すようにこの誘電率変化が生体反応によるものである場合には、この現象をバイオセンサなどに応用することで高感度なセンシングが可能となり、医療分野や食品、環境等の分野への幅広い応用が期待されている。
【0004】
例えば導電性構造体周囲で抗原抗体反応を起こさせればこれを検知できる。非特許文献1には、導電性構造体として平滑な基板上に形成された微小なAg薄膜微粒子構造を用いた例が示されている。すわなち、この構造の周囲に抗体が付着している場合と、この抗体にさらに抗原が結合している状態の光学スペクトルの変化から抗原濃度を測定する方法が開示されている。
【0005】
またこの他にも酵素と基質の複合体やDNAのハイブリダイゼーションによる相補的な塩基対形成やなども同様に検知できる。
【0006】
また特許文献1にはガラス基板上にAu微粒子を固定し、そのプラズモン共鳴のスペクトルから微粒子周囲の屈折率を検知する方法が開示されている。
【0007】
従来技術を含む一般的な透過測定の場合、導電性微粒子周囲での抗原抗体反応による誘電率変化を、反応前後での導電性微粒子の透過スペクトルLSPR光学スペクトル(反応前)101及びLSPR光学スペクトル(反応後)102を測定することで検出する。そして、反応前後でのLSPRの共鳴条件の変化から抗原の濃度を検知する(図19(a))。このときの計測系の概略は図19(b)のように、抗体105で表面を修飾された導電性微粒子103が誘電体基板104に支持された測定素子106に対して照射光107、透過光108を照射し、その透過スペクトルを測定するものである。
【非特許文献1】Richard P. Van Duyneら(NANO LETTERS 2004年 Vol.4, No.6 1029−1034)
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の様にLSPRを用いた光学スペクトル信号の変化として金属構造体周囲の誘電率変化を検出する場合、測定する生体物質の濃度が非常に低い場合、被測定物質分子が金属構造体表面のどの部分に結合するかは全くの確率論的である。このため、ドットごとにスペクトル信号の変化量が異なり、生体物質付着後のスペクトルがブロードニングしてしまう。その結果測定感度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、被測定物質分子の結合位置に左右されることなく高精度な濃度測定が可能な光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明の光学素子は、導電性を有する構造体を有し、構造体の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する。本発明の光学素子は、構造体の表面上における被測定物質分子の結合能が構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学素子は、構造体の表面上における被測定物質分子の結合能が構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布する構成としている。これにより、被測定物質分子の結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制し、高精度な濃度測定を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、標的物質の存在を、LSPRを誘起しうる導電性微粒子の光学スペクトルの変化やその他光学信号の変化によって評価する方法において、測定における感度向上の手法に関するものである。
【0013】
以下に例を用いて本発明の実施の形態を説明するが、この説明が本発明を何ら限定するものではない。
【0014】
例として抗原抗体反応を考える。ここでは標的物質を抗原とする。
【0015】
図1に本発明の光学素子の一例の側面図及び平面図を示す。
【0016】
光学素子201は、誘電体基板1と、誘電体基板1上に配置された、導電性を有する構造体からなる導電性微細構造体層2と、導電性微細構造体層2上に配置された誘電体層13aとを有する。導電性微細構造体層2はAuで構成されているとするがこれに限るものではなく、損失が少ない金属であれば好ましいが導電体であれば何でも良い。また、誘電体基板1および誘電体層13aは石英であるとするが誘電体基板と誘電体層の物質が同一であることに限定するものではない。ただし誘電体基板1は光学測定で用いる測定波長において透明度が高い物質であることが好ましい。
【0017】
ここで導電性微細構造体6上に発生する強電場部位10を考える。導電性微細構造体6にある偏光面をもった光を照射すると、その偏光面と導電性微細構造体6の形状に依存した表面電荷12が発生する。これは導電性微細構造体6内に電気変位ベクトルが生じ、その方向に変位電流が流れ、結果的に表面電荷12となって現れるものである。
【0018】
図2(a)及び図2(b)に、正方形の導電性微細構造体に偏光を照射することで生じる表面電荷の分布状況を示す。図2(a)は、導電性微細構造体の内部に生じる電荷分布を示す模式図であり、図2(b)は強電場部位の発生位置を示す図である。
【0019】
この場合、導電性微細構造体6の端面6aは偏光方向と略直交する面、すわなち、電気変位ベクトルの方向と略直交する面である。隣接面6bは端面6aに隣接する面である。なお、隣接面6bは光が照射される面のみならず、光の照射される方向に略平行な面を含むものであってもよい。辺11は端面6aと隣接面6bとに接する辺である。強電場部位10は、端面6aと、隣接面6bの辺11から所定の距離である約100nm以内の領域6b1(図5参照)内とに発生する。
【0020】
強電場部位10は導電性微細構造体6に誘起された局在プラズモン共鳴による表面電荷12による電場である。ここでは光源からの光として偏光を制御した光を扱ったが、これに限るものではなく、無偏光の光を照射してもよい。その場合にも、その光によって導電性微細構造体6内に前述のように表面電荷が現れる。このような電荷分布の不均一性はその不均一性の発生方向に導電性微細構造体6内で電気変位ベクトルが生じることと同じである。
【0021】
したがって、導電性微細構造体層2の上の誘電体層13aは図2(b)に示すように、光学素子に光源からの光が照射される際に発生する強電場部位10が外部に露出するように形成されていることが必要である。そしてその露出部位は全ての導電性微細構造体6においてそろっていることが好ましい。
【0022】
次に、導電性微細構造体層に生体物質が付着する際の光学スペクトルシフトを考える。
【0023】
導電性微細構造体6には局在表面プラズモンが誘起されているとする。ここで、生体物質が導電性微細構造体に付着すると、その共鳴条件が変化し、光学スペクトルの変化となって観測される。
【0024】
この共鳴条件の変化は、導電性微細構造体6のどの部位に生体物質が付着するかにより、その程度が異なる。つまり付着部位により光学スペクトルの変化量が異なることになる。
【0025】
例えば、図2(a)及び図2(b)に示すような導電性微細構造体6が正方形のドット形状の場合、図2中の直線偏光が照射される場合、図2(b)に示すような強電場部位10が発生する。このように電場強度が強い部分に被測定物質分子が付着する場合には、電場強度が弱い部分に付着する場合と比較して光学スペクトルのシフト量が大きくなる。
【0026】
ここで、被検出物質である抗原の濃度が高い場合、例えば一つの導電性微細構造体に対して数千個や数万個というオーダーの抗原が結合する場合、全ての導電性微細構造体の表面において抗原の結合は確率的に生じる。このため、各導電性微細構造体ごとに抗原の結合の様態は略同一とみなすことができる(図3(a))。
【0027】
これに対し、例えば被検出物質濃度が低い場合の極限的な例を図3(b)及び図3(c)に示す。一つの導電性微細構造体に対し一つしか被測定物質分子である抗原が結合しない場合、図3(b)に示すケース1及び図3(c)に示すケース2との違いのように、各導電性微細構造体ごとに抗原が結合する部位が大きく異なってしまうことになる。
【0028】
すわなち、図3に示す構成は、導電性微細構造体に発生する電場の強度に分布があるにもかかわらず、導電性微細構造体の表面上における被測定物質分子の結合能に分布を持たせず、均一なものとしている。このため、被測定物の濃度が低い場合、被測定物質分子が電場強度が強い部分に付着するか、あるいは、電場強度が弱い部分に付着かによって検出される光学スペクトルのシフト量が異なってしまう。
【0029】
ケース1及びケース2による結合部位の相違は透過スペクトルを観察した場合にスペクトル変化の差として観測される。図4(a)にその測定結果の一例を示す。図中、抗原反応前のスペクトルを反応前透過スペクトルAとし、ケース1のスペクトルを第1の反応後透過スペクトルB1、同様にケース2を第2の反応後透過スペクトルB2としている。
【0030】
被測定物質分子である抗原が電場強度が強い部分に結合したケース2の場合、弱い部分に結合したケース1に比べ、スペクトルのシフト量が大きくなっていることがわかる。そして、ひとつの測定素子の中にケース1やケース2の素子が混在すると、抗原抗体反応後の光学スペクトルはシフト量が異なる様々なスペクトルの和となりブロードなスペクトルである反応後透過スペクトルB3が観測される(図4(b))。
【0031】
これに対し本発明の光学素子4は、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有するように構成している。以下、図5に基づき説明する。
【0032】
導電性微細構造体6は、上述したように、端面6aと、端面6aに隣接する隣接面bと、端面6aと隣接面6bとが接する辺11とを有する。このような構成の導電性微細構造体6において、強電場部位10は、端面6aと、隣接面6bの辺11から距離約100nm以内の領域6b1内とに発生する。一方、端面6a及び領域6b1以外の他の領域である領域6b2で発生する電場は強電場部位10で発生する電場に比較して弱い。
【0033】
そこで、本発明の光学素子4は、電場の分布に対して、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有するように構成している。つまり、端面6a及び領域6b1における結合能と、領域6b2における結合能とが異なるように構成している。換言すれば、端面及び辺から所定の距離以内の隣接面上の領域における結合能と、構造体の表面のうちの、端面及び領域以外の他の領域における結合能とが異なるようにしている。
【0034】
より具体的には、領域6b2は、被測定物質分子の結合を抑制するため誘電体層13aで被覆し、抗原が結合する部位を制限するように構成している。本発明の光学素子4は、被測定物質分子である抗原が結合するのは、共鳴時に強電場部位10が発生している端面6a及び領域6b1に制限され、弱い電場の領域6b2には抗原が結合しなくすることができる。つまり、本発明の光学素子4は、抗原抗体反応により生体分子が導電性微細構造体6に付着した際には必ず光学スペクトルの変化が大きく生じるような付着の仕方に限定している。
【0035】
その結果、被測定物質分子の結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑えることができ、観測される光学スペクトルが図4(b)に示すように反応後に大きく広がるのを抑制できる。このため、本発明の光学素子4によれば、被測定物の被測定物質分子濃度が低いような場合であっても高精度な濃度測定が可能となる。
【0036】
また本発明の光学素子4は、領域6b2の被測定物質分子の結合能を低下させるため、領域6b2に化学的に修飾した化学修飾部13bあるいは粗面化した凹凸部13cを形成するものであってもよい。化学修飾部13bあるいは凹凸部13cを備えた光学素子4の製造方法は図6に示すとおりである。
【0037】
まず、図6(a)に示すように、ドットパターンに対しフォトレジスト層を形成すべくフォトレジスト14を塗布し、露光光を照射する。光照射によって発生する導電性微細構造体6周囲の電場強度は、端面6a及び領域6b1が強くなる。このため、適当な露光時間を設定することで図6(b)に示すように、領域6b2のフォトレジスト14は除去され、端面6a及び領域6b1にフォトレジスト14は残存することとなる。
【0038】
次いで、金属表面が露出している領域6b2に例えばmPEG−SH(チオール修飾ポリエチレングリコール)の水溶液などを作用させ化学修飾部13bを形成する(図6(c))。これにより、生体分子等の被測定物質分子の結合能を低下させることができる。
【0039】
あるいは領域6b2をドライエッチング等で粗面化し、凹凸部13cを形成する(図6(d))などして表面に空気を多く含ませる撥水性を増すようにする。生体分子等の被測定物質分子の結合能を低下させることができる。
【0040】
そして、これらの加工を施した後、フォトレジスト14を除去し、フォトレジスト14が除去された部位にのみ抗体を修飾する。これにより導電性微細構造体6の表面上に抗体の分布が生じ、その結果抗原の吸着部位を限定した本発明の光学素子を作製することができる。
【実施例】
【0041】
以下では実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定する物ではない。
(実施例1)
図7(a)及び図7(b)に誘電体層を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図8(a)に誘電体層を形成した状態、図8(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図を示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0042】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図7(b)に示すように一辺約200nm×50nmの長方形の導電性微粒子16に形成し隙間を約500nm空けて格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0043】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではないが、プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。導電性微粒子16の材質としては、特に銀、銅、白金、アルミニウムの群から選択されたものを含むものであってもよい。このように導電性微粒子16の材質としては、誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではない。光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0044】
次に、スパッタ装置を用いてSiO2を厚さ約20nm成膜する。さらにレジストを塗布した後、これを電子線描画装置を用いてパターニングする。そしてドライエッチングプロセスにより誘電体層13aをパターニングする(図8(a))。このとき、誘電体層13aは導電性微粒子16の端面から約50nm内側に作製しておく。
【0045】
ここで誘電体層はSiO2に限るものではない。また成膜方法もスパッタに限るものではなく、CVD等でもよい。
【0046】
以上の工程を経て光学素子4が出来上がる。
【0047】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図8(a)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0048】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0049】
例えば抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図8(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0050】
次に、上述のようにして誘電体層13aが形成された導電性微細構造体素子55aの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0051】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は、図9(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0052】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55a上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0053】
次に導電性微細構造体素子55aの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55aに導入し、導電性微細構造体素子55aからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0054】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図9(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0055】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0056】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に誘電体層13aを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0057】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は長方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例2)
図10(a)及び図10(b)に化学装飾部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図11(a)にレジスト層を形成した状態、図11(b)に化学装飾部を形成した状態、図12(a)にレジスト層を除去した状態、図12(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図をそれぞれ示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0058】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図10(b)に示すように一辺約300nmの正方形に形成し隙間を約800nm空けて正方格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0059】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではない。プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。導電性微粒子16の材質は、特にAg、Pt、Cu、Alなどの誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではないが、光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0060】
次に、フォトリソグラフィを用いてレジストパターンを形成する。ネガ型フォトレジストを塗布した後、露光光を照射しパターニングする。このとき、導電性微粒子16近傍の強電場領域のみが感光し潜像を形成するような露光時間で露光する。そしてこれを現像しパターニングされたレジスト層17を形成する(図11(a)、図11(b))。
【0061】
さらに、チオール修飾ポリエチレングリコールの水溶液を導電性微粒子16の表面に作用させ、化学修飾部13bを形成する(図11(c))。ここで作用させる水溶液はチオール修飾ポリエチレングリコール水溶液に限るものではなく、作用させた結果、被作用表面に抗体や抗原が結合しにくくなる物質であれば良い。
【0062】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図11(b)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0063】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0064】
まず、アセトン等を用いて、レジスト層17のみを剥離した状態にする(図12(a))。このとき、化学修飾部13bは導電性微粒子16の端面16aから約100nm内側に配置しておく。
【0065】
次に、抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図12(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0066】
次に、上述のようにして化学修飾部13bが形成された導電性微細構造体素子55bの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0067】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は、図13(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0068】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は図13(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0069】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55b上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0070】
次に導電性微細構造体素子55bの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55bに導入し、導電性微細構造体素子55bからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0071】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図13(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0072】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0073】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に化学修飾部13bを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0074】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は長方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例3)
図14(a)及び図14(b)に誘電体層を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図15(a)にレジスト層を形成した状態、図15(b)に凹凸部を形成した状態、図13(a)にレジスト層を除去した状態、図13(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図をそれぞれ示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0075】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図14(b)に示すように一辺約300nmの正方形に形成し隙間を約800nm空けて正方格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0076】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではない。プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。本実施例では導電性微粒子16の材質は、特に銀、銅、白金、アルミニウムなどの誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではない。光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0077】
次に、フォトリソグラフィを用いてレジストパターンを形成する。ネガ型フォトレジストを塗布した後、露光光を照射しパターニングする。このとき、導電性微粒子16近傍の強電場領域のみが感光し潜像を形成するような露光時間で露光する。そしてこれを現像しパターニングされたレジスト層17を形成する(図15(a)、図15(b))。
【0078】
次に、この光学素子4を短時間Arガスのプラズマにさらすことで凹凸部13cを形成する(図15(c))。但しここでプラズマはアルゴンに限られず、導電性微粒子16の表面を荒らすものであればよい。
【0079】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図15(b)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0080】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0081】
まず、アセトン等を用いて、レジスト層のみを剥離した状態にする(図16(a))。このとき、凹凸部13cは導電性微粒子16の端面から約100nm内側に配置しておく。
【0082】
例えば抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図16(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0083】
次に、上述のようにして凹凸部13cが形成された導電性微細構造体素子55cの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0084】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は概略図17(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0085】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55c上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0086】
次に導電性微細構造体素子55cの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55cに導入し、導電性微細構造体素子55cからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0087】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図17(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0088】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0089】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に凹凸部13cを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0090】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は正方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例4)
図18に本発明の光学素子を用いたセンサ装置の構成例を示す。
【0091】
センサ装置70は、流路60と、光源51と分光計測器56からなる光学系と、中央演算装置61と表示ユニット62からなる計測処理系とを有する。
【0092】
流路60は、送液ポンプ58、注入口52、反応ウェル53、排出口54及び廃液リザーバ59を有する。
【0093】
レファレンス液及び検体液は、送液ポンプ58から注入口52へと供給される。レファレンス液及び検体液は、光学素子4が配置されている反応ウェル53内に流入する。レファレンス液及び検体液は、反応ウェル53内の光学素子4に接触しながら流れ、反応ウェル53を通過後、排出口54から廃液リザーバ59へとより排出される。
【0094】
光源51は、反応ウェル53内の光学素子4に光を照射する。光源51はタングステンランプが適用可能であるが、これに限定さえるものではない。測定波長域に発光波長がある光源であれば良い。光検出手段である分光計測器56は、光学素子4を透過した透過光を分光測定する。
【0095】
分光計測器56で得られたデータは、中央演算装置61にて処理され、処理結果は計測結果として表示ユニット62に表示される。中央演算装置61はデータ処理とともに光源51の制御信号を発生する。
【0096】
上述した誘電体層13a、化学修飾部13b、あるいは凹凸部13cを備えた本発明の光学素子4を用いたセンシング装置を構成することにより、高精度なセンシング(例えば屈折率センシングやバイオセンシング)を行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の光学素子の側面図及び平面図である。
【図2】導電性微細構造体に生じる表面電荷の分布状況について説明する図である。
【図3】導電性微細構造体への抗原の結合の様態を説明する図である。
【図4】抗原抗体反応前と反応後の光学スペクトルの測定結果の例を示すグラフである。
【図5】導電性微細構造体の表面に誘電体層を形成し抗原が結合する部位を制限した構成の光学素子の一例を示す図である。
【図6】本発明の光学素子の製造方法の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例1の、誘電体層を形成する前段階における光学素子の概略図である。
【図8】誘電体層を形成した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図9】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の、化学装飾部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図である。
【図11】レジスト層を形成した状態、及び化学装飾部を形成した状態の光学素子の概略図である。
【図12】レジスト層を除去した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図13】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例3の、凹凸部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図である。
【図15】レジスト層を形成した状態、及び凹凸部を形成した状態の光学素子の概略図である。
【図16】レジスト層を除去した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図17】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図18】本発明の光学素子を用いたセンサ装置の構成例である。
【図19】従来の測定素子で検出された光学スペクトルの一例を示すグラフ及び従来の測定素子の概略図である。
【符号の説明】
【0098】
4 光学素子
6 導電性微細構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法に関し、特に標的物質の濃度を検知する光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な導電性構造体には局在表面プラズモン(Localized Surface Plasmon Resonance:以下LSPR)が誘起されることが知られている。このLSPRは上記の導電性構造体周囲の屈折率、誘電率によりその共鳴条件が決まる。従って、導電性構造体周囲の誘電率変化を共鳴条件の変化として検出できる。共鳴条件の変化は、上記導電性構造体に光を照射、透過させその光学スペクトルの変化を測定することで検出できる。
【0003】
LSPRは導電性構造体周囲の屈折率、誘電率変化に敏感である。したがってLSPRは高感度な屈折率センサに適用することが出来る。また以下に示すようにこの誘電率変化が生体反応によるものである場合には、この現象をバイオセンサなどに応用することで高感度なセンシングが可能となり、医療分野や食品、環境等の分野への幅広い応用が期待されている。
【0004】
例えば導電性構造体周囲で抗原抗体反応を起こさせればこれを検知できる。非特許文献1には、導電性構造体として平滑な基板上に形成された微小なAg薄膜微粒子構造を用いた例が示されている。すわなち、この構造の周囲に抗体が付着している場合と、この抗体にさらに抗原が結合している状態の光学スペクトルの変化から抗原濃度を測定する方法が開示されている。
【0005】
またこの他にも酵素と基質の複合体やDNAのハイブリダイゼーションによる相補的な塩基対形成やなども同様に検知できる。
【0006】
また特許文献1にはガラス基板上にAu微粒子を固定し、そのプラズモン共鳴のスペクトルから微粒子周囲の屈折率を検知する方法が開示されている。
【0007】
従来技術を含む一般的な透過測定の場合、導電性微粒子周囲での抗原抗体反応による誘電率変化を、反応前後での導電性微粒子の透過スペクトルLSPR光学スペクトル(反応前)101及びLSPR光学スペクトル(反応後)102を測定することで検出する。そして、反応前後でのLSPRの共鳴条件の変化から抗原の濃度を検知する(図19(a))。このときの計測系の概略は図19(b)のように、抗体105で表面を修飾された導電性微粒子103が誘電体基板104に支持された測定素子106に対して照射光107、透過光108を照射し、その透過スペクトルを測定するものである。
【非特許文献1】Richard P. Van Duyneら(NANO LETTERS 2004年 Vol.4, No.6 1029−1034)
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の様にLSPRを用いた光学スペクトル信号の変化として金属構造体周囲の誘電率変化を検出する場合、測定する生体物質の濃度が非常に低い場合、被測定物質分子が金属構造体表面のどの部分に結合するかは全くの確率論的である。このため、ドットごとにスペクトル信号の変化量が異なり、生体物質付着後のスペクトルがブロードニングしてしまう。その結果測定感度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、被測定物質分子の結合位置に左右されることなく高精度な濃度測定が可能な光学素子、センサ装置及び光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明の光学素子は、導電性を有する構造体を有し、構造体の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する。本発明の光学素子は、構造体の表面上における被測定物質分子の結合能が構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学素子は、構造体の表面上における被測定物質分子の結合能が構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布する構成としている。これにより、被測定物質分子の結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制し、高精度な濃度測定を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、標的物質の存在を、LSPRを誘起しうる導電性微粒子の光学スペクトルの変化やその他光学信号の変化によって評価する方法において、測定における感度向上の手法に関するものである。
【0013】
以下に例を用いて本発明の実施の形態を説明するが、この説明が本発明を何ら限定するものではない。
【0014】
例として抗原抗体反応を考える。ここでは標的物質を抗原とする。
【0015】
図1に本発明の光学素子の一例の側面図及び平面図を示す。
【0016】
光学素子201は、誘電体基板1と、誘電体基板1上に配置された、導電性を有する構造体からなる導電性微細構造体層2と、導電性微細構造体層2上に配置された誘電体層13aとを有する。導電性微細構造体層2はAuで構成されているとするがこれに限るものではなく、損失が少ない金属であれば好ましいが導電体であれば何でも良い。また、誘電体基板1および誘電体層13aは石英であるとするが誘電体基板と誘電体層の物質が同一であることに限定するものではない。ただし誘電体基板1は光学測定で用いる測定波長において透明度が高い物質であることが好ましい。
【0017】
ここで導電性微細構造体6上に発生する強電場部位10を考える。導電性微細構造体6にある偏光面をもった光を照射すると、その偏光面と導電性微細構造体6の形状に依存した表面電荷12が発生する。これは導電性微細構造体6内に電気変位ベクトルが生じ、その方向に変位電流が流れ、結果的に表面電荷12となって現れるものである。
【0018】
図2(a)及び図2(b)に、正方形の導電性微細構造体に偏光を照射することで生じる表面電荷の分布状況を示す。図2(a)は、導電性微細構造体の内部に生じる電荷分布を示す模式図であり、図2(b)は強電場部位の発生位置を示す図である。
【0019】
この場合、導電性微細構造体6の端面6aは偏光方向と略直交する面、すわなち、電気変位ベクトルの方向と略直交する面である。隣接面6bは端面6aに隣接する面である。なお、隣接面6bは光が照射される面のみならず、光の照射される方向に略平行な面を含むものであってもよい。辺11は端面6aと隣接面6bとに接する辺である。強電場部位10は、端面6aと、隣接面6bの辺11から所定の距離である約100nm以内の領域6b1(図5参照)内とに発生する。
【0020】
強電場部位10は導電性微細構造体6に誘起された局在プラズモン共鳴による表面電荷12による電場である。ここでは光源からの光として偏光を制御した光を扱ったが、これに限るものではなく、無偏光の光を照射してもよい。その場合にも、その光によって導電性微細構造体6内に前述のように表面電荷が現れる。このような電荷分布の不均一性はその不均一性の発生方向に導電性微細構造体6内で電気変位ベクトルが生じることと同じである。
【0021】
したがって、導電性微細構造体層2の上の誘電体層13aは図2(b)に示すように、光学素子に光源からの光が照射される際に発生する強電場部位10が外部に露出するように形成されていることが必要である。そしてその露出部位は全ての導電性微細構造体6においてそろっていることが好ましい。
【0022】
次に、導電性微細構造体層に生体物質が付着する際の光学スペクトルシフトを考える。
【0023】
導電性微細構造体6には局在表面プラズモンが誘起されているとする。ここで、生体物質が導電性微細構造体に付着すると、その共鳴条件が変化し、光学スペクトルの変化となって観測される。
【0024】
この共鳴条件の変化は、導電性微細構造体6のどの部位に生体物質が付着するかにより、その程度が異なる。つまり付着部位により光学スペクトルの変化量が異なることになる。
【0025】
例えば、図2(a)及び図2(b)に示すような導電性微細構造体6が正方形のドット形状の場合、図2中の直線偏光が照射される場合、図2(b)に示すような強電場部位10が発生する。このように電場強度が強い部分に被測定物質分子が付着する場合には、電場強度が弱い部分に付着する場合と比較して光学スペクトルのシフト量が大きくなる。
【0026】
ここで、被検出物質である抗原の濃度が高い場合、例えば一つの導電性微細構造体に対して数千個や数万個というオーダーの抗原が結合する場合、全ての導電性微細構造体の表面において抗原の結合は確率的に生じる。このため、各導電性微細構造体ごとに抗原の結合の様態は略同一とみなすことができる(図3(a))。
【0027】
これに対し、例えば被検出物質濃度が低い場合の極限的な例を図3(b)及び図3(c)に示す。一つの導電性微細構造体に対し一つしか被測定物質分子である抗原が結合しない場合、図3(b)に示すケース1及び図3(c)に示すケース2との違いのように、各導電性微細構造体ごとに抗原が結合する部位が大きく異なってしまうことになる。
【0028】
すわなち、図3に示す構成は、導電性微細構造体に発生する電場の強度に分布があるにもかかわらず、導電性微細構造体の表面上における被測定物質分子の結合能に分布を持たせず、均一なものとしている。このため、被測定物の濃度が低い場合、被測定物質分子が電場強度が強い部分に付着するか、あるいは、電場強度が弱い部分に付着かによって検出される光学スペクトルのシフト量が異なってしまう。
【0029】
ケース1及びケース2による結合部位の相違は透過スペクトルを観察した場合にスペクトル変化の差として観測される。図4(a)にその測定結果の一例を示す。図中、抗原反応前のスペクトルを反応前透過スペクトルAとし、ケース1のスペクトルを第1の反応後透過スペクトルB1、同様にケース2を第2の反応後透過スペクトルB2としている。
【0030】
被測定物質分子である抗原が電場強度が強い部分に結合したケース2の場合、弱い部分に結合したケース1に比べ、スペクトルのシフト量が大きくなっていることがわかる。そして、ひとつの測定素子の中にケース1やケース2の素子が混在すると、抗原抗体反応後の光学スペクトルはシフト量が異なる様々なスペクトルの和となりブロードなスペクトルである反応後透過スペクトルB3が観測される(図4(b))。
【0031】
これに対し本発明の光学素子4は、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有するように構成している。以下、図5に基づき説明する。
【0032】
導電性微細構造体6は、上述したように、端面6aと、端面6aに隣接する隣接面bと、端面6aと隣接面6bとが接する辺11とを有する。このような構成の導電性微細構造体6において、強電場部位10は、端面6aと、隣接面6bの辺11から距離約100nm以内の領域6b1内とに発生する。一方、端面6a及び領域6b1以外の他の領域である領域6b2で発生する電場は強電場部位10で発生する電場に比較して弱い。
【0033】
そこで、本発明の光学素子4は、電場の分布に対して、導電性微細構造体6の表面上における被測定物質分子の結合能が導電性微細構造体6の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有するように構成している。つまり、端面6a及び領域6b1における結合能と、領域6b2における結合能とが異なるように構成している。換言すれば、端面及び辺から所定の距離以内の隣接面上の領域における結合能と、構造体の表面のうちの、端面及び領域以外の他の領域における結合能とが異なるようにしている。
【0034】
より具体的には、領域6b2は、被測定物質分子の結合を抑制するため誘電体層13aで被覆し、抗原が結合する部位を制限するように構成している。本発明の光学素子4は、被測定物質分子である抗原が結合するのは、共鳴時に強電場部位10が発生している端面6a及び領域6b1に制限され、弱い電場の領域6b2には抗原が結合しなくすることができる。つまり、本発明の光学素子4は、抗原抗体反応により生体分子が導電性微細構造体6に付着した際には必ず光学スペクトルの変化が大きく生じるような付着の仕方に限定している。
【0035】
その結果、被測定物質分子の結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑えることができ、観測される光学スペクトルが図4(b)に示すように反応後に大きく広がるのを抑制できる。このため、本発明の光学素子4によれば、被測定物の被測定物質分子濃度が低いような場合であっても高精度な濃度測定が可能となる。
【0036】
また本発明の光学素子4は、領域6b2の被測定物質分子の結合能を低下させるため、領域6b2に化学的に修飾した化学修飾部13bあるいは粗面化した凹凸部13cを形成するものであってもよい。化学修飾部13bあるいは凹凸部13cを備えた光学素子4の製造方法は図6に示すとおりである。
【0037】
まず、図6(a)に示すように、ドットパターンに対しフォトレジスト層を形成すべくフォトレジスト14を塗布し、露光光を照射する。光照射によって発生する導電性微細構造体6周囲の電場強度は、端面6a及び領域6b1が強くなる。このため、適当な露光時間を設定することで図6(b)に示すように、領域6b2のフォトレジスト14は除去され、端面6a及び領域6b1にフォトレジスト14は残存することとなる。
【0038】
次いで、金属表面が露出している領域6b2に例えばmPEG−SH(チオール修飾ポリエチレングリコール)の水溶液などを作用させ化学修飾部13bを形成する(図6(c))。これにより、生体分子等の被測定物質分子の結合能を低下させることができる。
【0039】
あるいは領域6b2をドライエッチング等で粗面化し、凹凸部13cを形成する(図6(d))などして表面に空気を多く含ませる撥水性を増すようにする。生体分子等の被測定物質分子の結合能を低下させることができる。
【0040】
そして、これらの加工を施した後、フォトレジスト14を除去し、フォトレジスト14が除去された部位にのみ抗体を修飾する。これにより導電性微細構造体6の表面上に抗体の分布が生じ、その結果抗原の吸着部位を限定した本発明の光学素子を作製することができる。
【実施例】
【0041】
以下では実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定する物ではない。
(実施例1)
図7(a)及び図7(b)に誘電体層を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図8(a)に誘電体層を形成した状態、図8(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図を示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0042】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図7(b)に示すように一辺約200nm×50nmの長方形の導電性微粒子16に形成し隙間を約500nm空けて格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0043】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではないが、プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。導電性微粒子16の材質としては、特に銀、銅、白金、アルミニウムの群から選択されたものを含むものであってもよい。このように導電性微粒子16の材質としては、誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではない。光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0044】
次に、スパッタ装置を用いてSiO2を厚さ約20nm成膜する。さらにレジストを塗布した後、これを電子線描画装置を用いてパターニングする。そしてドライエッチングプロセスにより誘電体層13aをパターニングする(図8(a))。このとき、誘電体層13aは導電性微粒子16の端面から約50nm内側に作製しておく。
【0045】
ここで誘電体層はSiO2に限るものではない。また成膜方法もスパッタに限るものではなく、CVD等でもよい。
【0046】
以上の工程を経て光学素子4が出来上がる。
【0047】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図8(a)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0048】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0049】
例えば抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図8(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0050】
次に、上述のようにして誘電体層13aが形成された導電性微細構造体素子55aの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0051】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は、図9(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0052】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55a上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0053】
次に導電性微細構造体素子55aの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55aに導入し、導電性微細構造体素子55aからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0054】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図9(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0055】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0056】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に誘電体層13aを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0057】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は長方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例2)
図10(a)及び図10(b)に化学装飾部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図11(a)にレジスト層を形成した状態、図11(b)に化学装飾部を形成した状態、図12(a)にレジスト層を除去した状態、図12(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図をそれぞれ示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0058】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図10(b)に示すように一辺約300nmの正方形に形成し隙間を約800nm空けて正方格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0059】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではない。プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。導電性微粒子16の材質は、特にAg、Pt、Cu、Alなどの誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではないが、光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0060】
次に、フォトリソグラフィを用いてレジストパターンを形成する。ネガ型フォトレジストを塗布した後、露光光を照射しパターニングする。このとき、導電性微粒子16近傍の強電場領域のみが感光し潜像を形成するような露光時間で露光する。そしてこれを現像しパターニングされたレジスト層17を形成する(図11(a)、図11(b))。
【0061】
さらに、チオール修飾ポリエチレングリコールの水溶液を導電性微粒子16の表面に作用させ、化学修飾部13bを形成する(図11(c))。ここで作用させる水溶液はチオール修飾ポリエチレングリコール水溶液に限るものではなく、作用させた結果、被作用表面に抗体や抗原が結合しにくくなる物質であれば良い。
【0062】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図11(b)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0063】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0064】
まず、アセトン等を用いて、レジスト層17のみを剥離した状態にする(図12(a))。このとき、化学修飾部13bは導電性微粒子16の端面16aから約100nm内側に配置しておく。
【0065】
次に、抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図12(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0066】
次に、上述のようにして化学修飾部13bが形成された導電性微細構造体素子55bの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0067】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は、図13(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0068】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は図13(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0069】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55b上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0070】
次に導電性微細構造体素子55bの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55bに導入し、導電性微細構造体素子55bからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0071】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図13(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0072】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0073】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に化学修飾部13bを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0074】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は長方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例3)
図14(a)及び図14(b)に誘電体層を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図を示す。また、図15(a)にレジスト層を形成した状態、図15(b)に凹凸部を形成した状態、図13(a)にレジスト層を除去した状態、図13(b)に抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図をそれぞれ示す。以下、本実施例の光学素子の製造方法について説明する。
【0075】
まず、基板となる支持体15上に導電体層を形成する。そして、導電体層を図14(b)に示すように一辺約300nmの正方形に形成し隙間を約800nm空けて正方格子状に配置したものをあらかじめ用意しておく。
【0076】
支持体15は厚さ約525μmの石英基板であり、支持体15上の導電性微粒子16は厚さ約20nmのAu薄膜であるが、導電性微粒子16の厚さはこれに限るものではない。本実施例では導電性微粒子16の材質はAuであるがこれに限るものではない。プラズモン共鳴を発生し得る材質であることが好ましい。本実施例では導電性微粒子16の材質は、特に銀、銅、白金、アルミニウムなどの誘電損失が小さい金属が好ましく、また半導体などその他の導電性物質でも良い。また支持体15も石英に限るものではない。光学スペクトルを測定する波長域に対して透過率が高い物質であることが好ましい。支持体15の厚さもこれに限るものではない。
【0077】
次に、フォトリソグラフィを用いてレジストパターンを形成する。ネガ型フォトレジストを塗布した後、露光光を照射しパターニングする。このとき、導電性微粒子16近傍の強電場領域のみが感光し潜像を形成するような露光時間で露光する。そしてこれを現像しパターニングされたレジスト層17を形成する(図15(a)、図15(b))。
【0078】
次に、この光学素子4を短時間Arガスのプラズマにさらすことで凹凸部13cを形成する(図15(c))。但しここでプラズマはアルゴンに限られず、導電性微粒子16の表面を荒らすものであればよい。
【0079】
このとき、この光学素子4に対して測定用の光は直線偏光であり、図15(b)に示す偏光面(矢印E方向)を有するものとする。
【0080】
次に導電性微粒子16の表面を抗体で修飾する。
【0081】
まず、アセトン等を用いて、レジスト層のみを剥離した状態にする(図16(a))。このとき、凹凸部13cは導電性微粒子16の端面から約100nm内側に配置しておく。
【0082】
例えば抗体として抗AFP(α―fetoprotein)抗体を導電性微粒子16のAu表面に固定化する。この場合、チオール基を有する11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で滴下することにより微粒子表面にカルボキシル基が露出される。ここにN−Hydroxysulfosuccinimide水溶液及び1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl carbodiimide hydrochloride水溶液を同様にスポッタ等で反応領域に滴下する。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。ここにストレプトアビジンを反応させ微粒子表面をストレプトアビジンで修飾する。そしてこの微粒子にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。その結果、導電性微粒子16は図16(b)の様に抗体8で修飾された状態になる。
【0083】
次に、上述のようにして凹凸部13cが形成された導電性微細構造体素子55cの抗原抗体反応及び光学スペクトル測定に関して説明する。
【0084】
抗原抗体反応及び光学スペクトル測定は概略図17(a)に示すような測定基板57を用いた構成で行なう。
【0085】
まず、AFPを含んだ検体を注入口52より注入し、反応ウェル53にてAFPを導電性微細構造体素子55c上に捕捉させる。その後検体を排出口54より排出し、リン酸緩衝液を注入口52より注入し、反応ウェル53の内部を洗浄する。最後にリン酸緩衝液を充填する。
【0086】
次に導電性微細構造体素子55cの光学スペクトルを、光源51からの光を導電性微細構造体素子55cに導入し、導電性微細構造体素子55cからの散乱光を分光計測器56にて分光測定する。
【0087】
光学スペクトルを抗原抗体の反応前光学スペクトルA及び反応後光学スペクトルBで比較し(図17(b))、局在プラズモン共鳴によるピークのシフト量を求め、このシフト量から標的物質の濃度を検知する。
【0088】
このとき、予め濃度が既知のAFP溶液を用いて信号値と濃度との関係を求めておくことで、被測定検体の濃度を求めることが出来る。
【0089】
本発明の光学素子は、導電性微細構造体の表面に凹凸部13cを形成し、抗原が結合する部位を制限するように構成してある。これにより、結合部位の差によるシフト量のバラツキを抑え、観測される光学スペクトルが反応後に大きく広がってしまうのを抑制している。このため、本発明の光学素子によれば、高精度な濃度測定が可能となる。
【0090】
なお、本実施例では導電性微粒子の構造は正方形の薄膜としたが、これに限るものではない。LSPRを誘起する構造であればよい。また照射する光源は直線偏光に限らず、また、部分偏光や無偏光でも良い。
(実施例4)
図18に本発明の光学素子を用いたセンサ装置の構成例を示す。
【0091】
センサ装置70は、流路60と、光源51と分光計測器56からなる光学系と、中央演算装置61と表示ユニット62からなる計測処理系とを有する。
【0092】
流路60は、送液ポンプ58、注入口52、反応ウェル53、排出口54及び廃液リザーバ59を有する。
【0093】
レファレンス液及び検体液は、送液ポンプ58から注入口52へと供給される。レファレンス液及び検体液は、光学素子4が配置されている反応ウェル53内に流入する。レファレンス液及び検体液は、反応ウェル53内の光学素子4に接触しながら流れ、反応ウェル53を通過後、排出口54から廃液リザーバ59へとより排出される。
【0094】
光源51は、反応ウェル53内の光学素子4に光を照射する。光源51はタングステンランプが適用可能であるが、これに限定さえるものではない。測定波長域に発光波長がある光源であれば良い。光検出手段である分光計測器56は、光学素子4を透過した透過光を分光測定する。
【0095】
分光計測器56で得られたデータは、中央演算装置61にて処理され、処理結果は計測結果として表示ユニット62に表示される。中央演算装置61はデータ処理とともに光源51の制御信号を発生する。
【0096】
上述した誘電体層13a、化学修飾部13b、あるいは凹凸部13cを備えた本発明の光学素子4を用いたセンシング装置を構成することにより、高精度なセンシング(例えば屈折率センシングやバイオセンシング)を行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の光学素子の側面図及び平面図である。
【図2】導電性微細構造体に生じる表面電荷の分布状況について説明する図である。
【図3】導電性微細構造体への抗原の結合の様態を説明する図である。
【図4】抗原抗体反応前と反応後の光学スペクトルの測定結果の例を示すグラフである。
【図5】導電性微細構造体の表面に誘電体層を形成し抗原が結合する部位を制限した構成の光学素子の一例を示す図である。
【図6】本発明の光学素子の製造方法の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例1の、誘電体層を形成する前段階における光学素子の概略図である。
【図8】誘電体層を形成した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図9】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の、化学装飾部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図である。
【図11】レジスト層を形成した状態、及び化学装飾部を形成した状態の光学素子の概略図である。
【図12】レジスト層を除去した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図13】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例3の、凹凸部を形成する前段階における本実施例の光学素子の概略図である。
【図15】レジスト層を形成した状態、及び凹凸部を形成した状態の光学素子の概略図である。
【図16】レジスト層を除去した状態、及び抗体で表面を装飾した状態の光学素子の概略図である。
【図17】抗原抗体反応及び光学スペクトル測定を行う装置の概略図、及び光学スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図18】本発明の光学素子を用いたセンサ装置の構成例である。
【図19】従来の測定素子で検出された光学スペクトルの一例を示すグラフ及び従来の測定素子の概略図である。
【符号の説明】
【0098】
4 光学素子
6 導電性微細構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する構造体を有し、前記構造体の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する光学素子において、
前記構造体の表面上における前記被測定物質分子の結合能が前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記構造体は、前記電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有し、
前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域における前記結合能と、前記構造体の表面のうちの、前記端面及び前記領域以外の他の領域における前記結合能とが異なる、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記所定の距離は100nmである、請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため誘電体で覆われている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため化学的に修飾されている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項6】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため粗面化されている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項7】
前記構造体は金属である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記構造体の材質は、金、銀、銅、白金、アルミニウムの群から選択された一の物質を含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
光源と、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の光学素子と、前記光学素子が配置され、前記被測定物質分子を含む被測定物が前記光学素子に接触して通過する反応ウェルと、前記光源から前記光学素子に照射された光の透過光を検出する光検出手段とを有するセンサ装置。
【請求項10】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面に誘電体層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域以外の他の領域における前記誘電体層を除去する工程とを含む光学素子の製造方法。
【請求項11】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面にフォトレジスト層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域のみ前記フォトレジスト層が残るように露光光を照射する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記領域以外の他の領域を前記被測定物質分子の結合を抑制するため化学的に修飾する工程を含む光学素子の製造方法。
【請求項12】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面にフォトレジスト層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域のみ前記フォトレジスト層が残るように露光光を照射する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記領域以外の他の領域を前記被測定物質分子の結合を抑制するため粗面化する工程を含む光学素子の製造方法。
【請求項1】
導電性を有する構造体を有し、前記構造体の表面に被測定物質分子が結合することで変化する光学スペクトル信号を検出する光学素子において、
前記構造体の表面上における前記被測定物質分子の結合能が前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向に分布を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記構造体は、前記電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有し、
前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域における前記結合能と、前記構造体の表面のうちの、前記端面及び前記領域以外の他の領域における前記結合能とが異なる、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記所定の距離は100nmである、請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため誘電体で覆われている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため化学的に修飾されている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項6】
前記他の領域は、前記被測定物質分子の結合を抑制するため粗面化されている、請求項2または3に記載の光学素子。
【請求項7】
前記構造体は金属である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記構造体の材質は、金、銀、銅、白金、アルミニウムの群から選択された一の物質を含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
光源と、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の光学素子と、前記光学素子が配置され、前記被測定物質分子を含む被測定物が前記光学素子に接触して通過する反応ウェルと、前記光源から前記光学素子に照射された光の透過光を検出する光検出手段とを有するセンサ装置。
【請求項10】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面に誘電体層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域以外の他の領域における前記誘電体層を除去する工程とを含む光学素子の製造方法。
【請求項11】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面にフォトレジスト層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域のみ前記フォトレジスト層が残るように露光光を照射する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記領域以外の他の領域を前記被測定物質分子の結合を抑制するため化学的に修飾する工程を含む光学素子の製造方法。
【請求項12】
基板に導電体層を成膜する工程と、
前記導電体層をパターニングし、導電性であって、かつ前記構造体の内部に生じる電気変位ベクトルの方向と略直交する端面と、前記端面に隣接する隣接面と、前記端面と前記隣接面とが接する辺とを有する構造体を形成する工程と、
前記導電体層の表面にフォトレジスト層を成膜する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記辺から所定の距離以内の前記隣接面上の領域のみ前記フォトレジスト層が残るように露光光を照射する工程と、
前記構造体の表面のうち、前記端面及び前記領域以外の他の領域を前記被測定物質分子の結合を抑制するため粗面化する工程を含む光学素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−232721(P2008−232721A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70598(P2007−70598)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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