説明

光学素子の成形装置及び成形方法

【課題】本発明は、成形装置の熱変形を有効に抑制し、この熱変形を抑制することによって、高精度の光学素子を歩留まり良く製造する光学素子の成形装置を提供する。
【解決手段】上型と下型の間に光学素材が置かれた成形型80を、チャンバー2内に設けた加熱、プレス成形及び冷却の各ステージ3,4,5へ順次搬送して光学素子を成形する成形装置であって、加熱、プレス成形及び冷却の各ステージにおいて成形型80を搭載し、搭載された成形型80に対して、それぞれ加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを行う上下一対の複数組のプレート3b,4b,5bと、加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを制御する制御手段と、を備え、上側のプレスプレート4bが、それを上下動させるシャフト4dと、シャフト4dの動作時に生じる水平方向の力に応じてプレスプレート4bを水平方向へ移動させる水平移動手段4eを介して接続されている光学素子の成形装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状精度の高い光学素子を連続的に製造可能な成形装置及び成形方法に係り、特に、プレス成形時において、成形型の型ズレを抑制し、所定の光学素子形状とする光学素子の成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成形型内に収容した光学素材を、加熱軟化させてプレス成形し、光学素子を高精度に製造する方法が一般化する中、製造コストを低減するために、成形型を各処理ステージに搬送させながら複数の光学素子を連続的に成形する光学素子の製造装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。ここで、光学素材は光学素子とする成形用の素材をいう。
【0003】
これら光学素子の製造装置において、光学素材の加熱軟化時とプレス成形時には、成形型を所定の温度にまで加熱して、成形素材を加工するのに十分な軟化温度を維持し、成形後は、光学素材を冷却して固化させ、最終的には、成形型が酸化されないような200℃以下の温度にまで冷却する。上記のように、プレス成形時に成形型の成形面の形状を正確に成形素材に転写して、これを冷却、固化させることで成形形状を保持し、形状精度の高い光学素子が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−259240号公報
【特許文献2】特開2008−69019号公報
【特許文献3】特開2009−96676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス成形時に生じる僅かな形状誤差によって光学素子に求められる性能に達しない場合があり、より形状精度の高い光学素子を得るために、さらなる形状精度の向上が検討されている。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の光学素子の製造において、プレス成形の際に、成形型のプレスプレートとの接触面に、上下方向の力の他に、水平方向にも力が働く場合があり、このような水平方向の力は、成形型の上型と下型の位置をずらして、得られる光学素子にディセンタやチルトを生じさせ、これにより、成形される光学素子の形状にズレが生じ、歩留まりを低下させるとの知見を得た。
【0007】
すなわち、成形型のプレスプレートとの接触面と、プレスプレートを上下動させるプレス軸と、が完全に垂直に交わっていない場合、プレス操作によりプレスプレートを上下動させると、プレスプレートによって成形型にかかる力が上下方向の力だけではなく、水平方向への力をも生じさせるのである。
【0008】
このとき、成形型にかかる力を図5に模式的に示した。図5には、プレスプレート104bと、プレスプレート104bを保持し、上下動させるシャフト104dと、プレスプレート104bによりプレス圧力をかけられる光学素子の成形型80を示した。プレスプレート104bは、その成形型80の押圧面(接触面)が水平となるように調整される。シャフト104dは、プレスプレート104bを鉛直方向に上下動させるようになっており、このシャフト104dのシャフト軸が鉛直方向と一致している場合には、プレス成形した際にも成形型80には鉛直方向の力のみがかかって押圧される。ところが、シャフト軸を厳密に鉛直方向に一致させることは困難で、多少のずれが生じてしまう場合がある。そのような場合には、プレスプレート4bと直接接触する成形型80の上型には、図5(a)の矢印(実線)で示したような斜め方向に力がかかり、矢印(破線)で示したように鉛直方向だけでなく水平方向にも力が生じることとなる。
【0009】
このような水平方向への力が生じると、プレスプレート104bは接触している成形型(上型)をプレスしながら水平方向へ移動させる力が加わり、この力が一定以上の大きさとなった場合、プレスプレート104bと接触している成形型(上型)が水平方向に引きずられ、成形型における上型及び下型の中心軸がズレたり、中心軸が傾斜することで、得られる光学素子の上下面にディセンタ又はチルトが発生する。
【0010】
より高精度の光学素子が求められる近年においては、このプレス成形時に生じる微妙なズレが製品の求められる性能に達しない原因となり、歩留まりを低下させていた。
【0011】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたもので、光学素子の製造にあたって、プレス成形時に生じる光学素子の変形を効果的に抑制し、これにより、高精度の光学素子を歩留まり良く製造できる光学素子の製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明の光学素子の成形装置及び製造方法により、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の光学素子の成形装置は、上型と下型の間に光学素材が置かれた成形型を、チャンバー内に設けた加熱、プレス成形及び冷却の各ステージへ順次搬送して光学素子を成形する成形装置であって、前記成形装置は、前記加熱、プレス成形及び冷却の各ステージにおいて前記成形型を搭載し、搭載された前記成形型に対して、それぞれ加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを行う上下一対の複数組のプレートと、前記加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを制御する制御手段と、を備えるとともに、前記プレス成形ステージにおける上側のプレスプレートが、該プレスプレートを上下動させるシャフトと、前記シャフトの動作時に前記プレスプレートと前記成形型との接触により生じる水平方向の力に応じて前記プレスプレートを水平方向へ移動させる水平移動手段を介して接続されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光学素子の成形方法は、上記の光学素子の成形装置を用い、前記成形型に光学素材を収容し、前記成形型を加熱して該成形型内の光学素材を軟化させる加熱工程と、軟化した光学素材を、プレス手段を用いて前記成形型により加圧して光学素子形状を付与するプレス工程と、プレス工程後、前記成形型を冷却し、光学素子形状を付与した光学素材を固化させる冷却工程と、を有する光学素子の成形方法であって、前記プレス工程において、プレス成形ステージにおける上側のプレスプレートを該プレスプレートを上下動させるシャフトにより前記成形型に接近させて密接させ、さらに、前記シャフトの動作時に前記プレスプレートと前記成形型との接触により生じる水平方向の力に応じて前記プレスプレートを水平方向へ移動させてプレス成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学素子の成形装置及び成形方法によれば、プレス成形時において、プレスシャフトの軸が鉛直方向に厳密に一致していないことに起因する成形型のズレが生じないため、成形された光学素子のディセンタ及びチルトの発生を抑制できる。したがって、所望の形状を有する光学素子を高い歩留まりで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態である光学素子の成形装置の概略構成図である。
【図2】図1の成形装置に用いたプレス成形ステージにおける水平移動手段の断面図である。
【図3】図2の水平移動手段が作用した場合の概念図である。
【図4】本発明の他の実施形態である光学素子の成形装置の概略構成図である。
【図5】従来のプレス成形時において、シャフト軸が鉛直方向とずれている場合に成形型にかかる力及びプレスプレートの動作を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態である光学素子の成形装置の概略構成図である(チャンバー2のみ断面で示している)。
【0018】
本発明の光学素子の成形装置1は、光学素子を成形するための成形室となるチャンバー2と、該チャンバー2の内部に設けた、光学素材を収容した成形型を加熱して光学素材を軟化させる加熱ステージ3と、加熱軟化した光学素材をプレス成形するプレス成形ステージ4と、プレス成形による光学素子形状を付与された光学素材を冷却する冷却ステージ5と、を有する。
【0019】
ここで、成形室であるチャンバー2は、その内部において、光学素子を成形操作する場を提供する。このチャンバー2には、光学素子の成形型80を内部に取り入れる取入れ口と、光学素子の成形が終了した後、成形型80を取り出す取出し口が設けられ、この取入れ口及び取出し口には、それぞれ取入れシャッター6及び取出しシャッター7が設けられている。必要に応じて、これらシャッターを開閉し、成形型80をチャンバー2から出し入れでき、チャンバー2内の雰囲気が維持される。また、この取入れ口及び取出し口には、そのチャンバー2外部にそれぞれ成形型80を載置できる成形型載置台8及び9が設けられている。
【0020】
このチャンバー2の内部には、光学素子を成形するための加熱ステージ3、プレス成形ステージ4及び冷却ステージ5が設けられており、これらの各ステージにより成形操作する。実際には、光学素材を収容した成形型80が、取入れ口からチャンバー2内に取り入れられ、上記の各ステージにおいて所定の処理を施されながら順番に移動し、所定の処理が終了したら成形型80は、取出し口からチャンバー2の外部に取出される。
【0021】
このチャンバー2の内部は、光学素材を軟化し、変形を容易にするため、高温に加熱されるので、成形型80が酸化されないように、窒素等の不活性ガス雰囲気に維持されている。不活性ガス雰囲気とするには、チャンバー2を密閉構造として内部雰囲気を置換して達成できるが、半密閉構造として、不活性ガスを常時チャンバー2内に供給して、チャンバー内を陽圧にしながら外部の空気が流入しないようにして不活性ガス雰囲気を維持するようにしてもよい。上記した取入れシャッター6及び取出しシャッター7は、チャンバー2内部を簡便な構成で半密閉状態とするのに効果的である。なお、これらチャンバー2及びシャッター6,7は、ステンレス、合金鋼等の素材で形成し高温下におけるガス、不純物が析出しない素材が好ましい。
【0022】
次に、本発明の成形操作する各ステージについて説明する。なお、各ステージの説明にあたって用いる成形型80は、一般に、上側の光学機能面を形成する上型と、下側の光学機能面を形成する下型とで構成される一組の成形型であり、さらに上型及び下型の位置を合わせる胴型を有する。胴型は、プレス時に、上型及び下型の光軸を同軸上に規制する中空円筒形状の内胴と、内胴の外周に設けられ上型及び下型間の距離を規制する中空円筒形状の外胴と、で構成することが好ましい。
【0023】
また、この成形型80は、タングステンカーバイドやセラミックス等の素材で構成され、上型及び下型は、成形する光学素子の面形状を転写するための成形面をそれぞれ有しているが、ここで形成される光学素子形状は、両凸、両凹、平凸、平凹、凸メニスカス、凹メニスカス形状のいずれの形状を成形する成形型であってもよい。なお、外胴を用いる場合には、これをSUS316L等のステンレス製とすることが好ましい。
【0024】
本発明の加熱ステージ3は、成形型80に収容された光学素材を軟化させ、その内部にヒータ3aが埋め込まれた上下一対の加熱プレート3bを有する。この加熱プレート3bは、上下一対の加熱プレート3bを成形型の上型、下型にそれぞれ接触させることで、上型及び下型を加熱でき、さらに成形型内部に収容されている光学素材も加熱できる。
【0025】
より具体的には、加熱ステージ3において、下側の加熱プレート3bは加熱プレート3b自体の熱をそのまま伝えないように断熱板3cを介してチャンバー2の底板に固定されており、上側の加熱プレート3bは、加熱プレート3b自体の熱をそのまま伝えないように断熱板3cを介してシャフト3dと接続され、このシャフト3dは図示しないシリンダーによって加熱プレート3bを上下に移動できる。このように、加熱プレート3bを上下に移動させることで、この上側の加熱プレート3bと成形型80の上型との接触・非接触を制御でき、所定のタイミングで成形型80と光学素材を加熱できる。
【0026】
本発明のプレス成形ステージ4は、上下のプレスプレート4b間の距離を狭めることにより成形型80の上型と下型との距離を狭めて、成形型80内に収容された光学素材を軟化状態のまま押圧して変形させ、上型及び下型の有する光学形成面形状を光学素材に転写し光学素子を成形するもので、その内部にヒータ4aが埋め込まれた上下一対のプレスプレート4bから構成される。このプレスプレート4bを用いたプレスは前段階の加熱温度を維持しながら行われる。
【0027】
より具体的には、このプレス成形ステージ4において、下側のプレスプレート4bは下側のプレスプレート4b自体の熱をチャンバー2に伝達しないように断熱板4cを介してチャンバー2の底板に固定されており、上側のプレスプレート4bは、プレスプレート4b自体の熱をそのまま伝えないように断熱板4cを介してシャフト4dと接続され、このシャフト4dは図示しないシリンダーによってプレスプレート4bを上下に移動できる。このようにプレスプレート4bを上下に移動させることにより、この上側のプレスプレート4bを下降させ、下側のプレスプレート4bに載置された成形型80を用いたプレス成形ができる。このときプレス成形は所定の圧力で行われ、光学素材に高精度に光学素子形状を付与できる。
【0028】
本発明の冷却ステージ5は、成形型80を冷却して光学素子形状が付与された光学素材を冷却、固化する、その内部に、ヒータ5aが埋め込まれた上下一対の冷却プレート5bから構成される。この冷却プレート5bは、上下一対の冷却プレート5bを成形型の上型、下型にそれぞれ接触させることにより、上型及び下型を冷却でき、さらに成形型内部に収容されている光学素材も冷却できる。
【0029】
より具体的には、この冷却ステージ5において、下側の冷却プレート5bは下側の冷却プレート5b自体の熱をチャンバー2に伝達しないように、断熱板5cを介してチャンバー2の底板に固定されており、上側の冷却プレート5bは、冷却プレート5b自体の熱をそのまま伝えないように断熱板5cを介してシャフト5dと接続され、このシャフト5dは図示しないシリンダーによって冷却プレート5bを上下に移動できる。このように、冷却プレート5bを上下に移動させることにより、この上側の冷却プレート5bと成形型80の上型との接触・非接触を制御でき、所望のタイミングで成形型80と光学素材を冷却できる。
【0030】
この成形型に冷却プレート5bを接触させることによる光学素材の固化は、その素材のガラス転移点以下、より好ましくは歪点以下に冷却すればよく、十分に冷却されると光学素材の光学素子形状は安定し、変形が抑制される。ここで冷却とは、光学素子形状を安定して付与できるように光学素材を固化させる温度をいい、その温度は、プレスプレートよりも50〜150℃程度低いだけで、依然として高温であるため、この冷却プレート5bにもその内部にヒータ5aが埋め込まれている。
【0031】
そして、本発明の光学素子の成形装置1の特徴部分は、上記したプレス成形ステージ4において、シャフト4dとプレスプレート4bの間に水平移動手段4eが設けられている点にある。以下、この水平移動手段4eについて、図2を参照しながら説明する。
【0032】
この水平移動手段4eは、シャフト4dの先端に固定された転動体受け41と、シャフト4dに取り付けられ水平移動可能に設けられた水平移動部材42と、転動体受け41と水平移動部材42との間に設けられた複数の転動体43と、転動体受け41と水平移動部材42とが転動体43を所定の圧力で常時押圧するような弾性力を生じさせるコイルスプリング44と、で構成されている。
【0033】
転動体受け41は、上下動するシャフト4dの下端部に固定され、その下面が平板状に形成されている。
【0034】
この転動体受け41は、そのシャフト4dとの接続部付近において、シャフト4dの直径よりも大きい円板状の部材とし、シャフト4dに対して水平面に伸びたフランジ状の突起部を有するように設ける。この突起部は、後述する水平移動部材42との弾性力を生じさせるコイルスプリング44を設けるスペースとなり、それに加えて、水平移動部材42を下方から支えて、落ちないように保持する機能を有する。
【0035】
水平移動部材42は、シャフト4dに取り付けられ、該シャフト4dに対して、該シャフト4dの動作時にプレスプレート4bと成形型80との接触により生じる水平方向の力に応じてプレスプレート4bを水平方向へ移動させるように設けられている。この水平移動部材42は、シャフト4dに対して水平移動を許容しているため、シャフト4dに固定されておらず、転動体受け41の突起部に係止部42bが引っ掛かるように設けられており、実際には転動体受け41の突起部と係止部42bとの間にコイルスプリング44が設けられ、その弾性力で保持されている。また、この水平移動部材42は、転動体43を介して転動体受け41と常に一定の距離で保持されている。
【0036】
この水平移動部材42は、中空の柱状に形成され、その上部にシャフト4dを通すための円形の開口が形成されている。この開口は、シャフト4dの形状に沿って円形に形成されており、シャフト4dとは所定のクリアランスを有する大きさに形成されている。なお、この水平移動部材42は中空の柱状であれば、その外形は特に制限されず、典型的な形状として円柱状、多角形状等の形状であればよい。
【0037】
なお、水平移動部材42のシャフト4dのための開口はそのまま係止部42bを形成し、この係止部42bの側面と、シャフト4dの側面との間に所定のクリアランスを有することが好ましい。このとき、所定のクリアランスを精度良く確保するために、シャフト4dの側面に固定できる環状部材を別部材として設けることで、開口側面とシャフト4dとのクリアランスをより適正にできるため好ましい。このクリアランスは、水平移動部材42の揺動する際の最大移動距離を決定する。水平移動部材42の最大移動距離は、シャフト4dの軸に対して径方向360度において20μm以下が好ましく、2〜12μm程度がより好ましい。
【0038】
転動体43は、転動体受け41の下面と水平移動手段42の内側底面との間に挟まれて設けられ、これらを互いに異なる方向へ水平移動可能とする部材である。より具体的には、転動体43は、シャフト4dに対して、シャフト4dの上下動する動作時にプレスプレート4bと成形型80との接触により生じる水平方向の力に応じて、水平移動部材42を水平方向へ移動させる。
【0039】
この転動体43は、直径が均一な球状部材とすることが好ましい。転動体43は、ベアリング鋼と呼ばれる高炭素高クロム鋼材や、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)等のセラミックス、又はタングステンカーバイド(WC)等を含むサーメット、その他の金属などの高硬度の素材によって形成された、直径0.1mm〜5mmの真球状の部材を用いる。
【0040】
これらの素材からなる転動体43は、上記したうち1種を用いて構成することが好ましいが、転動体受け41と水平移動部材42とを平行に保持された状態を維持できれば異なる種類の素材からなる複数種を混合して構成してもよい。
【0041】
なお、転動体43の形状は、真球状のほかに、円柱状、扁平球状などとしてもよいが、転動体43の加工の容易性、高さ(直径)精度の出し易さ、転がり易さの点から、真球状が最も好ましい。
【0042】
この転動体43による水平移動について、シャフト4dとプレスプレート4bとの摩擦係数をμ1とし、プレスプレート4bと成形型80との摩擦係数をμ2としたとき、μ1<μ2の関係を満たすことが重要である。この関係を満たす場合に、プレスプレート4bの水平方向への力が成形型にかかっても、成形型を移動させることなく、シャフト4dとプレスプレート4bとの位置が相対的にずれ、プレスプレート4b自体は水平方向へ移動することがなく、成形型の上下がずれることもなくなる。なお、ここでいう摩擦係数はプレス温度におけるものである。
【0043】
ここで、シャフト4dとプレスプレート4bとの摩擦係数は、実際には、断熱板4c、水平移動手段4eがプレスプレートに固定されており、シャフト4dと水平移動手段4eとの摩擦係数のことを意味し、この摩擦係数μ1は、転動体43により決定される。また、プレスプレート4bと成形型80との摩擦係数は、これらに用いられる材質、表面処理を行っている場合は膜質により決定され、典型的には、タングステンカーバイド製のプレスプレート、成形型(上型)である場合には、μ2は高温環境では≒1である。
【0044】
次に、コイルスプリング44は、転動体受け41と水平移動部材42との間に弾性力を生じさせ、これら部材が転動体43に常に所定の圧力で常時押圧するように保持して、この弾性力により必要に応じて水平移動を可能としている。例えば、プレス成形前後においてプレスプレートが成形型に接触していない場合には、シャフト4dが水平移動部材42の開口部中央に位置するように保持する。その後、プレス成形時にプレスプレートが成形型と接触し、プレス圧力が生じた場合には、シャフト4dの軸が鉛直軸とはズレている場合、その度合いに応じてシャフト4dが水平方向に移動しようとするが、プレスプレートは成形型80との接触により、これを水平方向に移動させようとすれば力が生じ、この力に応じて、水平移動部材42がシャフト4dに対して水平方向へ移動する。
【0045】
このような水平移動を可能とするための弾性力は、突起部41bに引っ掛かっているヘッド(水平移動部材42、断熱板4c、プレスプレート4b等)の質量によっても変わるため、適宜調節することが好ましい。例えば、この弾性力により支えるヘッドの質量が6kgである場合には、弾性力が10〜1000Nとなるような条件が挙げられる。
【0046】
この弾性力が強すぎると外部からの水平方向の力に抗して、水平移動部材42が移動せずに成形型(上型)の位置を変えてしまう可能性があり、従来の課題を何ら解決しないため、成形型(上型)の位置を変えないようにヘッドの水平移動する条件を調節する。
【0047】
コイルスプリング44は、その複数個を転動体受け41の突起部上部であってシャフト4dの周囲に均等に配置して、転動体受け41と水平移動部材42との間で生じる弾性力を均等にして、力の偏った方向を作らないようにする。このとき用いるコイルスプリング44の個数は、3個以上であり、4個以上が好ましく、6個以上がより好ましい。
【0048】
そして、上記した各ステージの上側の加熱プレート3b、プレスプレート4b及び冷却プレート5bは、上記したように断熱板を介してシャフトに固定されており、このシャフトがシリンダーに接続されている。ここでシリンダーは、各プレートを上下動できればよく、例えば、電動サーボシリンダー、油圧シリンダー、電動油圧シリンダー等のシリンダーを使用できる。
【0049】
上記した加熱プレート3b、プレスプレート4b、冷却プレート5bは、基本的にその成形型との接触面が水平面と平行となっており、特に、プレスプレート4bにおいては、プレスプレート4bの成形型との接触面が傾いていると、成形型80の上型及び下型の中心軸が一致せず、得られる光学素子の光軸が一致せず不良品となってしまうことがある。したがって、これら各ステージにおけるプレートの管理は厳密に行われる。
【0050】
それでも、なお、各プレートを上下動させるシャフトの軸までも鉛直方向に合わせることが困難であり、本発明はこのような問題点を解消するのに効果的である。ただし、あまりに傾斜していると、水平移動の許容範囲を超えてしまう。したがって、本発明においては、プレスプレート4bがそれぞれ水平に設けられている場合、シャフト軸の鉛直軸に対する傾きが1′以内とすることが好ましく、0.5′以内とすることがより好ましい。
【0051】
これらの各ステージにおいて、プレートはステンレス、タングステンカーバイド、合金鋼等の素材の内部にカートリッジヒータを挿入し、固定しており、カートリッジヒータを加熱してプレートの温度を上昇させ、所望の温度に維持できる。
【0052】
また、各ステージの断熱板3c,4c,5cは、セラミックス、ステンレス、ダイス鋼、ハイス鋼等の公知の断熱板を用いればよく、硬度が高くプレス成形時の圧力等によっても変形しにくく、ズレを生じることが少ないセラミックスが好ましい。ダイス鋼、ハイス鋼を用いる場合は、表面にCrN、TiN、TiAlNのコーティング処理を施すことが好ましい。
【0053】
水平移動手段4eに用いる素材は、耐熱性のある材料、例えば、ステンレス、タングステンカーバイド、合金鋼等が挙げられる。なお、スプリングコイル44は、使用により弾性力の減衰が少ないことが求められ、ステンレス、チタン製耐熱合金、Niベースの耐熱合金(例、登録商標:インコネル、登録商標:ハステロイなど)の材料から構成されることが好ましい。
【0054】
以上、説明した加熱ステージ3、プレス成形ステージ4、冷却ステージ5は、それぞれ所定の処理が行われる場(ステージ)を形成し、各ステージによる処理が順次円滑になされるように制御手段によって制御されている。具体的には、この制御手段は、成形型80を、搬送手段(図示せず)により所定のタイミングで各ステージに搭載されるように移動させる機能を有する。
【0055】
より具体的には、加熱プレート3b、プレスプレート4b、冷却プレート5bによる処理は、成形型80を順次上記の順序で各プレート上へと搬送移動させながら所定の処理を行い、成形型80が次のステージに移動すると、処理の終わったステージは空くため、さらに、そこに別の光学素材を収容した成形型80を搬送し、連続的に複数個の光学素子の成形操作が同時に行える。
【0056】
この処理のための上記搬送手段は、図示していないが、例えば、ロボットアーム等により、成形型載置台8から加熱プレート3bへ、加熱プレート3bからプレスプレート4bへ、プレスプレート4bから冷却プレート5bへ、冷却プレート5bから成形型載置台9へ、と移動できればよい。
【0057】
なお、この制御手段は、成形型の移動、加熱・プレス成形・冷却の各ステージにおける上下一対のプレートの温度や、上下移動のタイミング等をも制御し、一連の成形操作を円滑に、かつ、連続的に行えるように制御している。このとき、取入れシャッター及び取出しシャッターの開閉も制御する。また、チャンバー2内の雰囲気が不活性ガスで満たされるように窒素の供給量やタイミング等を制御することが好ましい。
【0058】
すなわち、この光学素子の成形装置1は、1以上のポジションで温度の上げ下げを行いながら所定の処理をする、成形型の搬送による光学素子の成形装置である。
【0059】
次に、この光学素子の成形装置1を用いた光学素子の成形方法について説明する。
【0060】
まず、取入れ口側の成形型載置台8に成形型80を載置し、この成形型80の内部に光学素材を収容する。取入れシャッター6を開けて取入れ口を開口させ、この成形型80を搬送手段により加熱プレート3b上に搬送する。搬送されると、成形型80の下型は下側の加熱プレート3bに接触するため加熱プレート3bと同じ温度まで昇温される。これと同時に、上型には上方向から上側の加熱プレート3bを接触させて同様に加熱する。
【0061】
このように上型及び下型が加熱されると、その内部に収容されている光学素材も加熱され、この光学素材は屈伏点以上に加熱されると変形が容易となる。一般に、加熱温度は、軟化点まで温度を上げるとレンズ表面が白濁するので屈伏点(At)から軟化点の間の温度に設定する。このとき、昇温速度は5〜150℃/分が好ましい。
【0062】
このようにして加熱ステージ3で十分に加熱された成形型80及び光学素材は、搬送手段により、下側のプレスプレート4b上に搬送され載置される。
【0063】
プレスプレート4bも加熱プレート3bと同程度の温度に加熱されており、光学素材が軟化状態を維持している。さらに、上側のプレスプレート4bを下降させてプレスプレート4b間の距離を狭めることにより、上型と下型との距離を狭めて、成形型80の内部に収容された光学素材に圧力をかけて変形できる。
【0064】
このとき、プレスプレート4bを上下動させるシャフト4dのシャフト軸が、鉛直方向と一致せず、プレスプレート4bと接触する成形型の接触面に対して垂直になっていないと、その上下動によるプレスプレート4bと成形型との接触時に成形型を水平方向に移動させようとする力が生じる。このとき、成形型80の上型及び下型の位置が適正に保持され、上下のプレスプレート4bも水平に保持されていても、シャフト軸との関係でズレが生じていると、上記した水平方向に生じる力により上側のプレスプレートがわずかに水平方向に移動させられる。そのため、従来は、上型と接触してから光学素材を押し切るまでの間に、上型の位置がプレスプレートの水平移動に引きずられて移動又は傾斜し、成形される光学素子の球面軸がずれて、不良品となる場合があった。
【0065】
一方、本発明は、図3に示したように、プレス前の状態(図3(a))からプレスを開始して押し切った状態(図3(b))にもっていった際に、もともと水平移動手段4eの中央部に保持されているシャフト4dの位置が水平方向にずれても、水平移動手段4eを設けたことで、シャフト軸の水平方向への移動に対してプレスプレート4bの位置は移動させない。すなわち、シャフト4dに対して、プレスプレート4bは水平方向へ移動するが、成形型80に対しては水平方向へ移動させないため、成形型(上型)の位置をずらす力を生じさせることなく、光学素子形状を精度よくプレス成形できる。なお、図3では転動体受け41、転動体43、コイルスプリング44の図示を省略している。
【0066】
このプレス工程では、上記したように成形型80の上下から圧力をかけることで光学素材のプレス成形を行い、これにより光学素材には上型及び下型の光学形成面が転写され、光学素子形状が付与される。
【0067】
また、このプレス工程におけるプレスは、加熱温度が前段の加熱ステージで加熱した温度と同程度の温度であり、プレス時の光学素材にかかる圧力は1〜37.5N/mmが好ましく、例えば、5〜20N/mmが特に好ましい。
【0068】
そして、このようなプレス工程で、押切りが完了した成形型80は、搬送手段によりプレスプレート4bから冷却プレート5bへと搬送される。この搬送手段は、上記した搬送手段と同様である。
【0069】
次に、冷却プレート5bにより成形型80を冷却するが、これは、上記加熱工程と同様に、下型は下側の冷却プレート5bで、上型は上側の冷却プレート5bを下降させて接近、接触させることで冷却する。
【0070】
さらに、この冷却中に、光学素材の温度がガラス転移点以下になったところで、光学素材に加圧する圧力を変化させることもでき、例えば、光学素材の温度が、ガラス転移点以上のときにはプレス時の圧力と同じ圧力としておき、ガラス転移点よりも低い温度になってからは圧力を高くして、段階的に加圧してもよい。冷却時の光学素材にかかる圧力は1〜37.5N/mmが好ましく、例えば、5〜20N/mmが特に好ましい。
【0071】
ガラス転移点以上の温度において低圧にするのは、肉厚バラツキを抑えるためであり、それ以下の温度域では押込み量がほとんど無いので増圧しても問題ない。すなわち、光学素材が硬化状態に近づくガラス転移点(Tg)付近までは低い圧力で保圧し、ガラス転移点(Tg)付近からそれ以下の温度となり光学素材が固化するまで、より高い圧力をかける。このように冷却工程において圧力を継続してかけることにより光学素子の面形状が安定する。
【0072】
なお、ここで、低い圧力とは2.5N/mm以下、高い圧力とは2.5N/mm超である。また、光学素材が歪点以下となり、固化した後は、さらに20N/mm超となるような高い圧力をかけてもよい。このように段階的に圧力を高めることで光学素子の面ワレが生じる等の不具合が生じることを抑制し、形状精度が向上する。また、固化した後の圧力は、光学素材にワレが生じる等の不具合が生じない限りはどのような圧力でもよいが、通常、30N/mm程度が上限である。上記では2段階に圧力を増加させていく例を説明したが、それ以上の多段階として増圧してもよい。
【0073】
これにより光学素材を冷却して、固化させる。この冷却は、光学素材のガラス転移点(Tg)以下に冷却させることが好ましく、光学素材の歪点以下の温度にまで冷却させることがより好ましい。このとき、降温速度は5〜150℃/分が好ましい。
【0074】
なお、上記した加熱工程及び冷却工程は、それぞれ段階的に温度を変化させることが好ましく、加熱工程において1以上の加熱ステージを設けることにより、段階的に光学素材の温度を上昇させて、プレス成形ステージの直前の加熱ステージで、成形温度にまで加熱する。また、冷却工程においても1以上の冷却ステージを設けることにより、段階的に光学素材の温度を下降させて、200℃以下の温度とする。このように、段階的に加熱及び冷却することで、光学素材の急激な温度変化を抑制し、歪が生じたり、面ワレ等が生じたりする等の光学素子の特性を悪化させないようにできる。ここで面ワレとは、光学素子が成形型から離型する際に、一部だけが先に離型し、その後に残りが離型した場合に、曲率が不連続な光学面が形成されて非球面形状精度が悪化する不良を生じる離型異常のことをいう。
【0075】
このような、加熱工程及び冷却工程を実施するために、それぞれ複数の加熱ステージ及び冷却ステージを用いた光学素子の成形装置の一例を図4に示した。この図4に示した光学素子の成形装置11は、チャンバー12、第1の加熱ステージ13、第2の加熱ステージ14、第3の加熱ステージ15、プレス成形ステージ16、第1の冷却ステージ17、第2の冷却ステージ18、第3の冷却ステージ19を有する装置構成となっており、チャンバー12には光学素子の成形装置1と同様に、成形型80の取入れ口とそれを開閉可能とする取入れシャッター20、取出し口とそれを開閉可能とする取出しシャッター21、それら取入れ口及び取出し口の外側には成形型載置台22及び23が設けられている。
【0076】
この光学素子の成形装置11は、加熱ステージを3つ、冷却ステージを3つ設けて、段階的に加熱及び冷却する以外は、図1の光学素子の成形装置1の構成と同様である。
【0077】
第1の加熱ステージ13では、光学素材をガラス転移点以下、100〜200℃程度低い温度に一旦加熱する予備加熱を行い、第2の加熱ステージ14では ガラス転移点と屈伏点の間の温度にまで、第3の加熱ステージ15ではガラスの屈伏点以上、5〜50℃程度高い温度にまで加熱する。また、プレス成形ステージ16では成形温度を維持しながら、成形型による成形操作を行い光学素子形状を付与し、第1の冷却ステージ17では成形素材のガラス転移点以下、好ましくは歪点以下まで冷却し、第2の冷却ステージ18では、さらに200℃以下の成形型が酸化されない温度にまで冷却し、第3の冷却ステージ19では、室温にまで冷却する。
【0078】
ここで、第3の冷却ステージは、用いるプレートを、他のステージにおけるヒータの代わりに冷却水が循環するように配管を設けた水冷プレートとすることで、効率的に冷却できる。
【0079】
その後、冷却して得られた光学素子は、光学素子形状とするために、余肉部を切削して光学素子形状とし、アニール工程に付して歪み等を除去する等の後処理を施して最終的な製品とされる。
【0080】
図4では、プレス成形ステージにおいてのみ水平移動手段16eを設けているが、この水平移動手段は、加熱ステージ、冷却ステージにおいて設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0082】
(実施例1)
図4の光学素子の成形装置11を用いて、光学素子の成形を以下の通り行った。
【0083】
ここで用いた光学素子の成形装置11は、加熱プレート、プレスプレート及び冷却プレートとして、タングステンカーバイド製の100×78×34mmの直方体で内部に1.5kWのカートリッジヒータを3本有するプレートを用い、断熱板として、SUS304製の140×78×10mmの板状体を2枚重ね合わせたものを用いた。
【0084】
また、上側のプレートを上下移動させるシリンダーは、エアシリンダーを用い、シャフト径40mmのシャフトが上側のプレートと接続、固定されている。チャンバーはSS400製の440×592×240mmの箱状で、このチャンバーの下板は440×592×20mmのものを用いた。
【0085】
ここで、上側のプレスプレート16b(断熱板16c含む)とプレスシャフト16dは、水平移動手段16eを介して接続されている。水平移動手段16eは、図2と同一の構成を有し、プレスシャフト16dに直接固定されているφ40mm、厚さ5mmのクロムモリブデン鋼製の円板状の転動体受けと、φ75mm、高さ27mmの中空円柱状で、その上面にはシャフト16dが通る開口が設けられたSUS304製の水平移動部材と、φ8mmのベアリング鋼製の真球状の転動体と、SUS304製のコイルスプリングと、で構成されている。
【0086】
水平移動部材の開口部は、プレスシャフト16d軸に対して径方向360度において最大移動距離が30μmとなっており、コイルスプリングは、プレスシャフト16dの外周に沿って、均等に8本設けられている。ここで、コイルスプリングにより転動体受けと水平移動部材との間に定常時に生じている弾性力は100Nであり、このコイルスプリングが支えているヘッド部分の質量は6kgである。ここで、ヘッド部分は、水平移動部材とそれに固定されているプレスプレート16b(断熱板16cを含む)をいう。また、シャフト16dとプレスプレート16bとの間に生じる摩擦係数μ1は0.001、プレスプレート16bと成形型80との間に生じる摩擦係数μ2は0.9である。なお、この摩擦係数はプレス温度におけるものである。
【0087】
また、成形型80は、上型、下型並びに内胴及び外胴を有する胴型で構成され、上型、下型及び内胴はタングステンカーバイド製で、外胴はSUS316Lからなり、プレス成形により、直径16mm、中心厚さ1mm、周辺厚さ5mmの凹メニスカス形状の光学素子が得られるものを用いた。
【0088】
この成形型80の内部に直径φ14mm、中心厚み5.4mmの断面楕円状のランタン系の光学素材を収容した。なお、この光学素材の歪点は580℃、ガラス転移点(Tg)は616℃、屈伏点(At)は662℃である。
【0089】
光学素材を収容した成形型80を、搬送手段により第1の加熱プレート13b上に搬送し載置すると同時に上側の第1の加熱プレート13bを下降させて上型に接触させ、成形型80及び光学素材を120秒間加熱し、次いで、第2の加熱プレート14b上に搬送し載置すると同時に上側の第2の加熱プレート14bを下降させて上型に接触させ、成形型80及び光学素材を120秒間加熱し、さらに、第3の加熱プレート上に搬送し載置すると同時に上型の第3の加熱プレート15bを下降させて上型に接触させ、成形型80及び光学素材を120秒間加熱して光学素材を軟化状態とした。なお、第1の加熱プレート13bは500℃、第2の加熱プレート14bは600℃、第3の加熱プレート15bは690℃に設定した。
【0090】
次に、成形型80をプレスプレート16b上に搬送し載置して、上側のプレスプレート16bを下降させ、エアシリンダーにより光学素材に8.5N/mmの圧力をかけて、120秒間プレス成形を行った。このとき、プレスプレート16bの温度は690℃であった。
【0091】
プレス後、成形型を第1の冷却プレート17b上に搬送し載置すると同時に上側の冷却プレート17bを下降させて上型に接触させ、エアシリンダーにより光学素材に8.5N/mmの圧力をかけて、120秒間冷却し、次いで、成形型を第2の冷却プレート18b上に搬送し載置すると同時に上側の第2の冷却プレート18bを下降させて上型に接触させ、120秒間冷却し、さらに、成形型を第3の冷却プレート19b上に搬送し載置すると同時に上側の第3の冷却プレート19bを下降させて上型に接触させ、120秒間冷却した。このとき、第1の冷却プレート17bは640℃、第2の冷却プレート18bは580℃、第3の冷却プレート19bは20℃(冷却水温度)に設定した。
【0092】
光学素材を室温になるまで冷却し、成形型から取り出し、光学素子を得た。
【0093】
(比較例1)
図4の光学素子の成形装置11のプレス成形ステージ16において、水平移動手段16eを設けずに、シャフト16dに断熱板を介して冷却プレートを固定した装置を用いた以外は実施例1と同様の操作により光学素子を得た。
【0094】
(試験例)
同一の光学素子を製造するための2個の成形型を用いて、連続的に、実施例1及び比較例1の成形操作を同一条件の元に、それぞれ一つの金型につき86ショット成形操作した。得られた86個の光学素子のレンズチルトを調べた。レンズチルトは、成形したレンズ(レンズ外周部に平行部を有する)の平行部の厚さを、所定の基準点から円周方向に均等に8ヵ所、マイクロメータにて測定し、基準点を0としたときの各測定箇所の差異を求め、この差異と外径から算出した。得られたレンズチルトに対して、所定の基準についての工程能力指数(Cpk)を算出したところ、表1の結果が得られた。
【0095】
【表1】

【0096】
この結果から、本発明の水平移動手段を備えたプレス成形は、従来より工程能力指数を向上させて、不良率を低減できる。
【0097】
以上に示したように、本発明の光学素子の成形装置及び製造方法により、成形装置の熱間状態でのプレス軸の厳密な位置調整が不要となり、生産性の向上と光学素子の変形を抑制し、歩留まりを向上できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の光学素子の成形装置は、プレス成形により光学素子を製造する際に使用できる。
【符号の説明】
【0099】
1…光学素子の成形装置、2…チャンバー、3…加熱ステージ、4…プレス成形ステージ、5…冷却ステージ、6…取入れシャッター、7…取出しシャッター、8,9…成形型載置台、80…成形型、3a,4a,5a…ヒータ、3b…加熱プレート、4b…プレスプレート、5b…冷却プレート、3c,4c,5c…断熱板、3d,4d,5d…シャフト、4e…水平移動手段、41…転動体受け、42…水平移動部材、43…転動体、44…コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型の間に光学素材が置かれた成形型を、チャンバー内に設けた加熱、プレス成形及び冷却の各ステージへ順次搬送して光学素子を成形する成形装置であって、
前記成形装置は、前記加熱、プレス成形及び冷却の各ステージにおいて前記成形型を搭載し、搭載された前記成形型に対して、それぞれ加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを行う上下一対の複数組のプレートと、前記加熱、プレス成形及び冷却の各プロセスを制御する制御手段と、を備えるとともに、
前記プレス成形ステージにおける上側のプレスプレートが、該プレスプレートを上下動させるシャフトと、前記シャフトの動作時に前記プレスプレートと前記成形型との接触により生じる水平方向の力に応じて前記プレスプレートを水平方向へ移動させる水平移動手段を介して接続されていることを特徴とする光学素子の成形装置。
【請求項2】
前記上側のプレスプレートと前記シャフトとの摩擦係数をμ1、前記上側のプレスプレートと該上側のプレスプレートと接触する成形型との摩擦係数をμ2、としたとき、μ1<μ2の関係を満たしている請求項1記載の光学素子の成形装置。
【請求項3】
前記水平移動手段が、上側のプレスプレートと前記シャフト軸との間に、転動体を設けて水平移動を可能としている請求項1又は2記載の光学素子の成形装置。
【請求項4】
前記水平移動手段が、前記シャフトの下端部に固定された転動体受けと、該シャフトに取り付けられ、該シャフトに対して水平移動可能に設けられた水平移動部材と、前記転動体受けと前記水平移動部材との間に設けられた複数の転動体と、前記転動体受けと前記水平移動部材とが前記転動体を所定の圧力で常時押圧するような弾性力を生じさせるコイルスプリングと、を有して構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の光学素子の成形装置。
【請求項5】
前記コイルスプリングにより生じる弾性力が10〜1000Nである請求項4記載の光学素子の成形装置。
【請求項6】
前記プレスプレートと前記プレス軸との水平方向の移動距離が、シャフト軸の径方向360度において20μm以下である請求項1乃至5のいずれか1項記載の光学素子の成形装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の光学素子の成形装置を用い、前記成形型に光学素材を収容し、前記成形型を加熱して該成形型内の光学素材を軟化させる加熱工程と、軟化した光学素材を、プレスプレートを用いて前記成形型により加圧して光学素子形状を付与するプレス工程と、プレス工程後、前記成形型を冷却し、光学素子形状を付与した光学素材を固化させる冷却工程と、を有する光学素子の成形方法であって、
前記プレス工程において、プレス成形ステージにおける上側のプレスプレートを該プレスプレートを上下動させるシャフトにより前記成形型に接近させて密接させ、さらに、前記シャフトの動作時に前記プレスプレートと前記成形型との接触により生じる水平方向の力に応じて前記プレスプレートを水平方向へ移動させてプレス成形することを特徴とする光学素子の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76952(P2012−76952A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221967(P2010−221967)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】