説明

光学素子の製造方法

【課題】光学ウェハを洗浄する工程や光学ウェハに薄膜を形成する工程において、光学ウェハが破損するのを防止することができる光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】光学ウェハ12の表面に薄膜13を蒸着し、スクライブ装置のテーブル14の上面に前記光学ウェハ12を載置し、スクライバー15の切断刃16の刃先16aによって、光学ウェハ12の上面にスクライブ溝12aを形成する。光学ウェハ12の表面にスクライブ溝12aを形成した後に、光学ウェハ12を洗浄したり薄膜13を蒸着したりするのと比較して、洗浄時や蒸着時に光学ウェハ12が破損するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光学フィルタや光学ミラー等の光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子の製造方法として、次のようなものが提案されている。鏡面研磨された光学ウェハを複数の光学チップに分割してなる光学素子の製造方法において、第1工程で前記光学ウェハの上面にダイヤモンド刃先によって線状ひび(スクライブ溝)を設ける。第2工程で、前記光学ウェハの洗浄を行う。又、第3工程で光学ウェハの表面に薄膜を形成する。さらに、第4工程で前記線状ひびに沿って圧力を加えて前記光学ウェハを複数の光学チップに分割する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の光学素子の製造方法においては、第1工程で光学ウェハの表面に対しダイヤモンド刃先によって線状ひび(スクライブ溝)を形成するようにしているので、線状ひびが形成されて強度的に弱くなった光学ウェハに対し、光学ウェハの洗浄工程や光学薄膜を蒸着する工程において、光学ウェハが破損し易いという問題があった。
【0004】
本発明は、上記従来の技術に存する問題点を解消して、光学素子材料を洗浄する工程や光学素子材料に薄膜を形成する工程において、光学素子材料が破損するのを防止することができる光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、偏平状の光学素子材料の表面及び裏面の少なくとも一方に薄膜を形成する第1工程と、上記第1工程の後に、スクライブ装置によって前記光学素子材料の表面又は裏面に対し、所定深さのスクライブ溝を形成する第2工程と、上記第2工程の後に、前記光学素子材料を、割断装置により前記スクライブ溝に沿って複数の光学素子に分割する第3工程とを含むことを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記第3工程は、前記薄膜の表面側に保護シートを接触させた状態で行われ、前記保護シートの裏面には、前記薄膜の表面に粘着される粘着層が形成されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、光学素子材料の表面及び裏面の少なくとも一方に薄膜を形成する第1工程の後に、前記光学素子材料の表面又は裏面に対し、スクライブ装置によって所定深さのスクライブ溝を形成するようにした。このため、光学素子材料を洗浄する工程や薄膜を形成する工程において、光学素子材料が破損するのを防止することができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記第3工程が前記薄膜の表面側に保護シートを接触させた状態で行われるので、薄膜の表面の損傷を防止することができるとともに、保護シートを薄膜から剥離する際に第2工程及び第3工程によって生じた光学素子材料の微粉を保護シートの粘着層に吸着させて除去することができる。このため、光学素子の洗浄作業を無くしたり或いは容易に行ったりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した光学素子としての光学フィルタの製造方法の一実施形態を図面にしたがって説明する。
最初に、第1工程について説明する。図1に示すように、ワークに対し薄膜を蒸着する蒸着装置を構成するワークテーブル11の上面に対し、光学素子材料としての扁平状をなす光学ウェハ12を載置する。次に、前記蒸着装置により前記光学ウェハ12の上面(表面)に対し、フィルタ用の薄膜13を蒸着により形成する。
【0010】
次に、第2工程について説明する。第1工程が終了して薄膜13が蒸着された光学ウェハ12を、図2に示すスクライブ装置のワーク把持テーブル14の上面に載置する。この実施形態では前記薄膜13が形成されていない前記光学ウェハ12の下面(裏面)がワーク把持テーブル14に支持されるようにする。前記ワーク把持テーブル14の上面は図示しないが多数の吸着孔が形成された吸着面となっており、ワーク把持テーブル14の上面に光学ウェハ12の下面が吸着把持される。この状態で、スクライブ装置のスクライバー15を下降して、その回転可能なディスク状の切断刃16の刃先16aを前記薄膜13を貫通して光学ウェハ12の上面に所定深さ切り込んだ状態で、スクライバー15を水平(紙面直交)方向に直線移動する。これによって前記光学ウェハ12の上面に対し切断刃16の刃先16aによってスクライブ溝12aが直線状に形成される。なお、スクライブ溝12aが形成された部分の前記薄膜13は刃先16aによって切断される。
【0011】
前記光学ウェハ12の表面に対し、切断刃16により平面視碁盤目状にスクライブ溝12aを形成することにより第2工程が終了する。
次に、上記第2工程の後に、光学ウェハ12を割断装置によって複数の光学フィルタに割断する第3工程について説明する。
【0012】
上記割断装置に用いられる図3に示すワーク把持用治具21は、平面視円環状をなす取付リング22と、このリング22の内側に全域に亘って張設された例えばポリエチレン等の合成樹脂シートよりなる把持シート23と、この把持シート23の上面に塗布された例えば粘着糊よりなる粘着層24とを備えている。前記粘着層24は把持シート23の上面全域に形成され、粘着層24によって取付リング22の下面に把持シート23の外周縁部が粘着されている。
【0013】
上記ワーク把持用治具21は、図3に示すように、前記把持シート23が割断装置とは別の準備作業を行う作業テーブル25の上面に前記粘着層24が上に位置するように水平に載置される。この状態で、把持シート23の粘着層24の上面に対し、前記光学ウェハ12のスクライブする上面と反対側の下面が支持され、前記把持シート23の上面の所定位置に粘着層24によって光学ウェハ12が粘着されている。
【0014】
次に、前記光学ウェハ12に蒸着された薄膜13の上面(表面)に対し、例えばビニールシート等の透明合成樹脂シートよりなる保護シート26を被覆する。保護シート26の下面には粘着層27が塗布されていて、この粘着層27により薄膜13の上面に保護シート26が粘着されている。薄膜13の外周縁からはみ出た前記保護シート26は粘着層27により前記把持シート23の粘着層24に粘着されている。
【0015】
以上のようにして、前記ワーク把持用治具21に対する薄膜13を備えた光学ウェハ12の装着作業が終了する。
図4に示すように、前記ワーク把持用治具21は割断装置を構成する案内テーブル30の上面に移動可能に支持されている。前記ワーク把持用治具21は図4において図3に示す状態と上下逆に反転した状態で、案内テーブル30の上面に支持されている。又、前記案内テーブル30の内側の所定位置に設けられた割断用テーブル31の上面には、保護シート26の下面(表面)が支持されている。前記ワーク把持用治具21は図示しない水平移動機構によって水平X軸方向及び水平Y軸方向にそれぞれ往復移動可能に、かつ旋回機構によって垂直軸線の回りで往復旋回可能に支持されている。前記ワーク把持用治具21の上方には図示しない昇降機構によって昇降動作されるブレード32が装設されている。
【0016】
前記水平移動機構及び旋回機構によって、前記ワーク把持用治具21を水平方向に移動するとともに旋回して、光学ウェハ12のスクライブ溝12aを所定位置にあるブレード32の直線状の刃先32aと上下に対応させる。この状態で、前記ブレード32を下降動作させて、光学ウェハ12のスクライブ溝12aと対応する部分に曲げ応力を付与して光学ウェハ12を前記スクライブ溝12aに沿って直線状に割断する。この作業を碁盤目状に形成された全てのスクライブ溝12aに沿って順次行い、光学ウェハ12を平面視四角形状の複数の光学フィルタ33に分割形成する。
【0017】
次に、ワーク把持用治具21を前記割断装置の案内テーブル30から取り外した後、図5に示すように、ワーク把持用治具21を上下反転させて、前記作業テーブル25に載置する。この状態で、保護シート26を粘着層24と粘着層27の粘着力に抗して、図6に示すように薄膜13及び把持シート23の上面から剥離する。さらに、図6において、分割された複数の光学フィルタ33を粘着層24から剥離して、図7に示すように単体の光学フィルタ33とする。
【0018】
上記実施形態の光学素子の製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、前記光学ウェハ12の表面に薄膜13を蒸着した後にスクライブ装置のスクライバー15によって光学ウェハ12の表面にスクライブ溝12aを形成した。このため、光学ウェハ12を洗浄する工程や薄膜13を形成する工程において、光学ウェハ12が破損するのを防止することができる。
【0019】
(2)上記実施形態では、図3に示すように、前記保護シート26に対し粘着層27を塗布し、この粘着層27を前記薄膜13の表面に粘着するようにした。このため、前記光学ウェハ12を割断した後に、薄膜13の表面から保護シート26を粘着層27の粘着力に抗して剥離する際に、粘着層27にスクライブ溝12aの形成作業及び割断作業時に生成された光学ウェハ12の微細な粉末を前記粘着層27によって吸着し、薄膜13の表面から保護シート26を剥離する際に、薄膜13の表面から微細な粉末を分離することができる。このため、光学フィルタ33の洗浄作業を無くしたり、容易に行ったりすることができる。
【0020】
なお、この発明は、以下のように具体化してもよい。
・前記実施形態では、光学ウェハ12の表面のみに薄膜13を形成し、薄膜13側から光学ウェハ12にスクライブ溝12aを形成するようにしたが、図2において光学ウェハ12及び薄膜13を上下逆向きにしてワーク把持テーブル14に支持し、薄膜13が形成されていない光学ウェハ12の上面に直接スクライブ溝12aを形成してもよい。
【0021】
・光学ウェハ12の表面及び裏面にそれぞれ薄膜13を形成し、一方の薄膜13側から光学ウェハ12の表面又は裏面にスクライブ溝12aを形成するようにしてもよい。
・保護シート26に設けた粘着層27を省略し、保護シート26の裏面を前記把持シート23の粘着層24に粘着するようにしてもよい。
【0022】
・光学素子として光学ウェハの表面に反射膜を形成した光学ミラーの製造方法に具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明を光学フィルタの製造方法に具体化した一実施形態を示し、光学ウェハの上面に薄膜を蒸着する第1工程を説明する正面図。
【図2】薄膜を形成した光学ウェハにスクライブ溝を形成する第2工程を説明する正面図。
【図3】割断装置のワーク把持用治具に光学ウェハを装着した状態を示す断面図。
【図4】割断装置の案内テーブル及び割断用テーブルにワーク把持用治具を装着して光学ウェハを割断する第3工程を説明する断面図。
【図5】割断された光学ウェハとワーク把持用治具を示す断面図。
【図6】ワーク把持用治具の把持シートから保護シートを分離した状態を示す断面図。
【図7】割断された単体の光学ウェハを示す正面図。
【符号の説明】
【0024】
12a…スクライブ溝、13…薄膜、21…ワーク把持用治具、23…把持シート、27…粘着層、26…保護シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏平状の光学素子材料の表面及び裏面の少なくとも一方に薄膜を形成する第1工程と、
上記第1工程の後に、スクライブ装置によって前記光学素子材料の表面又は裏面に対し、所定深さのスクライブ溝を形成する第2工程と、
上記第2工程の後に、前記光学素子材料を、割断装置により前記スクライブ溝に沿って複数の光学素子に分割する第3工程と
を含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第3工程は、前記薄膜の表面側に保護シートを接触させた状態で行われ、前記保護シートの裏面には、前記薄膜の表面に粘着される粘着層が形成されていることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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