光学素子及びそれを有する光学系
【課題】 微細凹凸形状の格子の高さを高くせずに、成形などの製造で高性能の反射防止構造が容易に得られる構造より成る光学素子を得ること。
【解決手段】 透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長のうち任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる少なくとも2層が積層されて構成されており、該積層された充填率の異なる複数の層の中で任意の2つの層1、層2における格子の充填率をFF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足すること。
【解決手段】 透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長のうち任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる少なくとも2層が積層されて構成されており、該積層された充填率の異なる複数の層の中で任意の2つの層1、層2における格子の充填率をFF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及びそれを有する光学系に関し、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、TVカメラ、観察系等の光学機器の光学系に用いられる光学素子として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、プラスチックなどの透光性媒質を用いた光学素子において、表面反射による光を減少させるために、透明基板の光入出射面に反射防止膜を設けている。例えば、可視光に対する反射防止膜としては、薄膜の誘電体膜を複数層重ねた多層膜のものが知られている。この多層膜は、透明基板の表面に真空蒸着等により、金属酸化物等の薄膜を成膜して形成されている。また、光学素子に用いる反射防止構造として、透明基板の表面に可視光の波長以下のピッチの微細凹凸形状の複数の格子を有する領域(微細凹凸構造)を形成することで反射防止効果を得る構成が知られている。(非特許文献1参照)。使用波長より十分小さな周期構造(周期間隔)を有する微細凹凸形状の格子を用いた場合、格子により回折は生じず、微細凹凸形状の格子は、特定の屈折率を有する薄膜のような光学作用をする。
【0003】
例えば、基板の媒質の屈折率n2=1.58と入射媒質である空気(n1=1)の界面に、円柱形状の格子が媒質と空気の体積比率50%で形成されたとする。この場合、この微細凹凸形状の格子は、媒質と空気の中間の屈折率ne=1.29の薄膜のように振る舞う。そして格子の高さをdとするときne×dが波長の1/4となるように設定すれば、この格子形状は反射防止膜として機能する。このような、微細凹凸形状の格子を表面に持つ光学素子の製法として、成形用の金型の表面に微細凹凸構造を形成し、その型でプラスチック樹脂などを成形するものが知られている(特許文献2参照)。この製法では、光学素子の成形と同時に反射防止構造を形成することが可能となるため、通常の薄膜の反射防止膜と異なり、反射防止処理を施す追加の工程がなくなり製作が容易となる。また、上記成形用の金型に微細凹凸構造を形成する製法としては、以下のものが挙げられる。
【0004】
1つめは、金型の表面に微細凹凸のレジストパターンを形成した後、反応性イオンエッチングなどの異方性エッチングを施し、レジストパターンを除去して、微細凹凸形状を作製する方法である(特許文献1参照)。或いは、陽極酸化ポーラスアルミナとエッチングを繰り返すことで、擬似円錐形状を型に形成する方法なども知られている(特許文献3参照)。その他に、前述したような周期構造の格子ではなく、ランダムな形状の格子を有する反射防止構造として、ナノ微粒子を型に吹き付けることで微細凹凸構造を形成する製法も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−272505号公報(図1)
【特許文献2】特開昭62−96902号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2005−156695号公報
【特許文献4】特開2002−286906号公報
【非特許文献1】:Applied Optics,Vol.25,No.24,pp4562−4567,(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細凹凸構造は高性能な反射防止効果が比較的容易に得られる。しかしながら、より高性能な反射防止特性を得ようとすると、格子の形状が金型で成形するのが困難な形状となってくる。例えば格子の形状として錐形状を例に説明する。微細凹凸形状の格子の周期Pについては、可視光での応用を考えると、透過反射において特定の入射角まで微細凹凸構造による回折光が発生しないようにする必要があり、具体的には200nm以下より細かいことが望ましい。
【0007】
一方、微細凹凸形状の格子の高さは、等価とみなされる屈折率がより滑らかに変化するほうが高性能となるため、波長の1/5以上で高いほど望ましい。従来の多層薄膜による反射防止膜と同等以上の特性を得るためには、格子の高さは300nm以上が望ましい。このように微細凹凸構造の形状は、格子の周期Pはより細かく、格子の高さdはより高いほうが、高性能な反射防止特性を得るためには望ましい。しかしながら、この形状は、錐形状が尖っている形状であることを意味している。これは、金型による成形において、転写性と離型性が困難となる。微細凹凸構造を用いて、より高性能な反射防止特性を得ようとすると、格子の形状が成形困難な形状となってしまい、理想的な微細凹凸形状の格子を得ることが難しい。
【0008】
本発明は、微細凹凸形状の格子の高さを高くせずに、成形などの製造で高性能の反射防止構造が容易に得られる構造より成る光学素子の提供を目的とする。さらに、このような光学素子を用いることで、不要な回折光やフレア光の発生が少ない良好な光学性能を有する光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学素子は、透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が互いに異なる2層が積層された構成を含み、該2層における格子の充填率を各々FF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細凹凸形状の格子の高さを高くせずに、成形などの製造で高性能の反射防止構造が容易に得られる構造より成る光学素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における反射防止構造を有する光学素子の拡大斜視図
【図2】図1の反射防止構造の拡大断面図
【図3】実施例1における微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図4】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図5】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図6】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図7】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図8】本発明の微細凹凸構造を構成する2つの異なる充填率を有する層の関係図
【図9】実施例2における樹脂材料を用いた時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図10】実施例3における高屈折率材料を用いた時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図11】実施例4における反射防止構造を有する光学素子の拡大斜視図
【図12】図11の反射防止構造の拡大断面図
【図13】実施例5の微細凹凸構造がランダムに配列された素子の上面図
【図14】本発明の微細凹凸構造の他の形状を示す断面図
【図15】実施例7における3層構造の時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図16】本発明の光学素子を搭載した撮影光学系
【図17】本発明の光学素子を搭載した観察光学系
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光学素子は、透明基板の入射媒質(光入射側)の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成されている。複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の(例えば可視光の波長400nm〜700nm)任意の波長以下で配列されている。反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる第1の層、第2の層が積層された構成を含む。ただし積層する層の数は2層に限られず、3層以上あってもよい。光学素子の反射防止構造は、複数の格子の格子構造が反転した形状が形成された金型を用いて成形転写することで形成されている。
【0013】
図1は本発明の微細凹凸構造の凸部又は凹部の複数の格子より成る反射防止構造を有する光学素子の実施例1の要部斜視図である。図2(a)、(b)、(c)は、図1の光学素子の構成の説明図である。このうち図2(a)は、図1のxz断面の説明図、図2(b)は、図1のyz断面の説明図、図2(c)は、図1のxy断面の説明図を表わしている。光学素子1は、第1の微細凹凸形状の複数の格子5aより成る層(第1の層)5と、第2の微細凹凸形状の複数の格子より成る層(第2の層)6からなる微細凹凸領域(反射防止構造体)(反射防止構造)3が基板(透明基板)4の上に形成されている。反射防止構造3は入射媒質2と接している。媒質2は、空気である。この光学素子1は、レンズや平行平板などの透過基板(基板)4の表面に反射防止性能(反射防止構造)3を付加した構成より成っている。
【0014】
微細凹凸形状の格子5a、6aの平均間隔(周期Px、Py)は、使用波長の任意の波長以下で配列している。ここで使用波長とは例えば可視光の波長400nm〜波長700nmの範囲内の波長である。格子5a、6aの周期Px、Pyは入射光が、透過及び反射する際に、不要な回折光が発生しないように決定されている。第1の微細凹凸形状の層(第1の層)5は、微細な四角柱の格子(微細部)(微細凹凸形状)5aが2次元(図中xy方向)に直交配列された構成となっている。第1の層5は、第1の媒質7と第2の媒質8から構成され、四角柱の格子5aを構成する材質を第1の媒質7としている。図1の構成では、第2の媒質8は空気となっている。
【0015】
図2に示すように四角柱の格子5aは、x方向に幅ax、y方向に幅ayからなり、第1の層5の格子5aの高さは、d1である。ここで、第1の層5の体積に対して、第1の媒質7からなる四角柱の格子5aの全体の体積が占める割合を、第1の層5における充填率FF1と定義する。同様に、第2の微細凹凸形状の層(第2の層)6は、第3の媒質9と第4の媒質10から構成され、四角柱の格子6aを構成する材質を第3の媒質9としている。図1の構成では、第4の媒質10は空気となっている。四角柱の格子6aは、x方向に幅bx、y方向に幅byからなり、第2の層6の格子6aの高さは、d2である。ここで、第2の層6の体積に対して、第3の媒質9からなる四角柱の格子6aの全体の体積が占める割合を、第2の層6における充填率FF2と定義する。第2の層6を構成する四角柱の格子6aの周期と配列は、第1の層5を構成する四角柱の格子5aの周期と配列と同じにしている。
【0016】
このように構成すると、第2の層6を構成する四角柱の格子6aを、第1の層5を構成する四角柱の格子5aの界面にだけ形成することが可能となる。1つの媒質の表面にだけ、微細構造を形成するのは、比較的容易に製造できる。尚、格子5a、6aの形状は四角柱の他、多角柱、円柱でも良い。そして、本実施例の反射防止構造3は、層1としての第1の層5の充填率FF1と、層2としての第2の層6の充填率FF2の差FF1−FF2を特定の範囲に設定することを特徴としている。後で詳細に説明するが、充填率の差FF1−FF2を
0.36≦FF1−FF2≦0.56 ‥‥‥(1)
の範囲に設定するのがよい。さらに、高性能にするためには、充填率の差FF1−FF2を
0.40≦FF1−FF2≦0.48 ‥‥‥(1a)
の範囲に設定するのがよい。これによれば、第1の層5と第2の層6の境界面で発生する反射光を有効に利用でき、微細凹凸領域(反射防止構造)3の高さが比較的低い構成で、高性能な反射防止性能を得ることができる。以上が、光学素子の基本的な形態である。この他、本発明の光学素子はプラスチック樹脂や紫外線硬化樹脂からなり、充填率の異なる複数の層があるときは、入射媒質から、透明基板4に向かって、充填率が徐々に高くなっている。そして微細凹凸構造は平面上又は曲面上に形成されている。
【0017】
[実施例1]
本発明の実施例1の具体的な構成を説明する。前述したように、図1が本発明の光学素子の基本構成である。実施例1の光学素子はガラス基板(透明基板)(基板)4の上に反射防止構造3を形成している。実施例1では、基板4と、第1の媒質7と第3の媒質9を同一の媒質で構成している。また、入射媒質2と、第3の媒質8、第4の媒質10を同一の媒質で構成している。さらに、入射媒質2を空気としている。このような構成にすると、金型を用いた成形により、簡易に反射防止構造3を製造できる。
【0018】
図3(A)に、実施例1の構成パラメータを示す。基板4として、株式会社OHARA製のガラスモールド用光学ガラスであるL−BAL42(屈折率nd=1.58313、アッベ数νd=59.4)を用いた。表中、第1層が第1の微細凹凸形状の第1の層5を、第2層が第2の微細凹凸形状の第2の層6を表わしている。微細凹凸形状の格子の周期は、第1層、第2層で等しく、且つx方向、y方向でも等しい直交配列となっている。そして、その周期Px、Pyは、不要な回折光が発生しないように140nmとした。
【0019】
また、第1層5の格子5aにおいては、x方向の幅axが119nm、y方向の幅ayが119nmとなる正方形の四角柱とした。この形状における前述した充填率FF1は、
FF1=ax*ay/(Px*Py)
=119*119/(140*140)
=0.72
となる。そして、第1の層5の格子5aの高さd1は、87nmとした。第2層6の格子6aは、x方向の幅bxが71nm、y方向の幅byが71nmとなる正方形の四角柱とした。この場合の充填率FF2は、同様にして求めると、FF2=0.26となる。そして、第2の層6の格子6aの高さd2は、110nmである。
【0020】
2つの充填率の差は、
FF1−FF2=0.72−0.26=0.46
となり、本発明の構成を満たしている。また、微細凹凸領域3の高さは
d1+d2=87+110=197nm
と200nm未満の薄い高さとなっている。この構成の、可視光の波長域400nmから700nmの反射率を図3(B)に示す。この特性は、微細凹凸領域3が形成されている面に入射媒質側から垂直に入射した際の特性である。可視域全域で0.05%以下の高性能な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0021】
従来の錐形状の反射防止構造は、微細凹凸部の高さが200nm程度で、反射防止効果はあるが、高性能な反射防止特性は得られていなかった。従って、本実施例の構成のように、充填率の異なる層を最適に積層した構造は、微細凹凸領域3を高くせずに、高性能な反射防止特性を得る構成である。そして、微細凹凸領域3の高さが低いほど、製造は容易になる。特に、金型を用いた成形により微細凹凸形状の格子を作成する場合には、転写性と離型性の観点から望ましい。また、成形による製法では、型からの離型を容易にするため、前述の充填率の異なる層は、入射媒質から基板側に向かって、徐々に充填率が高い層が積層されていることが好ましい。
【0022】
本実施例において金型は陽極酸化と孔径拡大処理を繰り返すことで、金型の表面に微細凹凸構造を付与している。ここで、図3(B)の反射防止性能の算出には、以下の手法を利用できる。ひとつは、RCWA(厳密結合波解析)などのベクトル解析によって、微細構造における波動光学的な観点から反射・透過率を厳密に算出する手法である。もうひとつは、微細凹凸領域を、均質な屈折率層に近似して計算する手法である。この方法は、有効屈折率法と呼ばれ、微細凹凸構造の周期が、使用波長より十分小さい領域では有効な手法である。
【0023】
上記、実施例を有効屈折率法で計算すると、可視域の中止波長λ0=550nmで、第1の層5の第1の媒質7は有効屈折率n1e=1.398、第2の層6の第3の媒質9は有効屈折率n2e=1.135となった。また光学膜厚は、それぞれ、
n1e*d1=1.398*87=121.6nm
である。また、
n2e*d2=1.135*110=124.9nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.88倍、第2層6の光学膜厚は0.91倍の値となっている。
【0024】
次に、上記実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.5とした場合の、形状パラメータを図4(A)に、その時の反射率特性を図4(B)に示す。上述した実施例1に比べて、反射防止特性は悪化しているが、可視域全域(波長400nm〜波長700nm)で0.5%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.40である。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.267*98=124.2nm
n2e*d2=1.051*116=121.9nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学樹脂は0.90倍、第2層6の光学膜厚は0.88倍の値となっている。
【0025】
次に、前述の実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.9とした場合の、形状パラメータを図5(A)に、その時の反射率特性を図5(B)に示す。この場合も、可視域全域で0.5%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.47である。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.515*83=125.7nm
n2e*d2=1.219*102=124.3nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.91倍、第2層6の光学膜厚は0.90倍の値となっている。
【0026】
次に、前述の実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.72と、図3の構成と同じ充填率にし、本実施例の特徴である充填率の差が満足すべき範囲を調べた。反射率の特性が可視域全域で0.5%以下となる特性を良好な範囲とし、充填率の差が最小となる場合と、最大となる場合を求めた。
【0027】
図6(A)は、充填率の差が最小となる構成で、このときの充填率の差は、FF1−FF2=0.36であった。また、反射率の特性は図6(B)に示すように、可視域全域で0.5%以下の特性となっている。この例での光学膜厚は、
n1e*d1=1.398*79=110.4nm
n2e*d2=1.188*93=110.5nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.80倍、第2層6の光学膜厚は0.80倍の値となっている。この例は、微細凹凸領域3の高さが172nmとかなり薄い構成である。
【0028】
図7(A)は、充填率の差が最大となる構成で、このときの充填率の差は、FF1−FF2=0.56であった。また、反射率の特性は図7(B)に示すように、可視域全域で0.5%以下の特性となっている。この例での光学膜厚は、
n1e*d1=1.398*89=124.4nm
n2e*d2=1.082*116=125.5nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.90倍、第2層6の光学膜厚は0.91倍の値となっている。
【0029】
続いて、図8に、上述したように反射率の特性が可視域全域で0.5%以下となる場合の、充填率差の範囲をプロットした。横軸を第1の層5の充填率にとった時のグラフとしている。図中の実線は、前述の図3、図4、図5で示したように、各充填率で最良の反射防止性能が得られるときの充填率差の関係を表わしている。また、グラフ中の丸線と角線で囲まれた領域が、良好な反射防止性能を実現する範囲である。
【0030】
以上説明した特性から、充填率FF1と、充填率FF2の差FF1−FF2が第1の層5の充填率を大きく変化させた場合でも、相関が高いことがわかる。そこで、第1の層5の充填率FF1と、第2の層6の充填率FF2の差FF1−FF2を特定の範囲に設定するのが、高性能な反射防止特性をえる上で重要であることがわかる。具体的には、差FF1−FF2を条件式(1)の如く設定すればよい。さらに、より高性能にするためには、差FF1−FF2を条件式(1a)の如く設定すればよい。
【0031】
また、光学膜厚に関しては、第1の層5、第2の層6ともに、使用中心波長の1/4の厚みに対し、0.8倍以上0.91倍以下の範囲となっている。前述した反射防止性能は、光学素子に垂直に入射する時の光学膜厚である。例えば、入射角が35度の場合、光学膜厚は、cos35°=0.82だけ薄くなる。そのため、実際の膜厚は1/cos35°=1.22だけ厚くする必要がある。従って、本実施例の反射防止構造を斜入射の光束に対して使用することも考慮すると、見かけの屈折率n1e、n2eと微細凹凸(格子5、6)の厚みd1、d2の積は、使用波長の中心波長をλ0とするとき以下の範囲に設定するのが好ましい。
【0032】
0.8*λ0/4≦n1e*d1≦1.1*λ0/4
0.8*λ0/4≦n2e*d2≦1.1*λ0/4
[実施例2]
実施例2の光学素子は、図1の構成で、材質を樹脂にした場合である。この例でも、基板4と、第1の媒質7、第3の媒質9を同一の媒質で構成している。図9(A)に、実施例2の構成パラメータを示す。基板4として、プラスチック樹脂(nd=1.5304、νd=56.0)を用いた。この構成の、可視波長域400nmから700nmの反射率を図9(B)に示す。この場合も、実施例1と同じく可視域全域で0.05%以下の高性能な反射防止性能が得られている。この実施例での充填率の差FF1−FF2は、0.46であり、条件式(1)を満足している。
【0033】
[実施例3]
実施例3の光学素子は、図1の構成で、材質を高屈折率ガラスにした場合である。この例でも、基板4と、第1の媒質7、第3の媒質9を同一の媒質で構成している。図10(A)に、実施例3の構成パラメータを示す。基板4として、株式会社OHARA製のガラスモールド用光学ガラスであるL−LAH53(nd=1.80610、νd=40.9)を用いた。この構成の、可視波長域400nmから700nmの反射率を図10(B)に示す。この場合は、実施例1に比べて、反射防止特性は若干悪くなっているが、可視域全域で0.1%以下の高性能な反射防止性能が得られていることがわかる。この実施例での充填率の差FF1−FF2は、0.46であり、条件式(1)を満足している。
【0034】
[実施例4]
上記実施例1〜3の反射防止構造3は、いずれも四角柱の微細凹凸構造の格子が2層積層された構造であった。本発明の光学素子は、2つの微細凹凸構造からなる2つの層の充填率の差を特定の範囲に設定することを特徴としており、微細凹凸形状の格子の形に依存しない。例えば、図11、図12に示すような円柱状の微細凹凸構造の格子でも良い。この場合も、円柱状の格子5a、6aの充填率を、条件式(1)を満足する構成となるように設定すればよい。また、格子が2次元周期構造で配列されている場合、微細凹凸形状の格子の配列も、図11、図12に示したxy方向に周期を持つ配列のほかに、三角配列などの配列としても差しつかえない。また、周期も図11、図12に示したようにxy方向で同じにする必要は無く、光学素子として用いた場合には、光学素子への入射角の変化に応じて、場所毎や、xy方向で別々に周期を設定しても良い。
【0035】
[実施例5]
図13は本発明の光学素子の実施例5の要部平面図である。微細凹凸形状より成る格子は、図13示すようにランダムに配列しても良い。ランダム配列の場合、各々の微細凹凸形状の格子に対し、隣接する数個の格子の間隔を測定し、その平均間隔が、使用波長以下の構造を有していればよい。また、充填率も使用光束を鑑みて、十分ランダムと見なせる領域内で充填率を求めればよい。図13は、円柱形状の格子をランダムに配列した構造である。また、作成した光学素子については、分光エリプソメトリ法などで、十分に均一であると見なせる評価領域の有効屈折率や層厚を解析すればよい。
【0036】
次に、一例として、このような円柱形状の格子をランダムに形成した金型に製作する手法について説明する。金型の表面にアルミを成膜した後、陽極酸化処理を行うと、微細な細孔が形成される。陽極酸化時の化成電圧を変えることで平均間隔を調整できる。また、陽極酸化の時間で細孔の深さを制御できる。その後、エッチングなどを行い、孔径を拡大する処理を行えば、所望の形状の孔径が得られる。この処理を2回行えば、孔径が異なる2層の円柱孔が形成される。
【0037】
次に、この金型を使って光学素子を形成する手法としては、一般的に知られているUV硬化樹脂を用いた2P成形、ホットプレス成形、樹脂のインジェクション成形などがある。これらの形成手法を行えば、微細凹凸構造からなる反射防止構造を表面にもった光学素子を容易に製造することができる。特に樹脂の成形では、レンズなどの光学素子の表面に反射防止構造を形成した構成では、レンズ形状の成形と一体で反射防止構造を形成できるので製作が容易となる。また、UV硬化樹脂を用いた成形の場合、ガラス基板の上にUV硬化樹脂を塗布し、その樹脂表面に反射防止構造を形成することができる。この場合は、基板と微細凹凸形状の層との間にUV硬化樹脂の層が残存するが、図1などの構成の基板4を残存した樹脂層と考えれば、高性能な反射防止構造を実現することができる。
【0038】
[実施例6]
前述の実施例は、構成を明確にするため、異なる充填率からなる微細凹凸形状を有する2層構造について説明してきた。実際の微細凹凸形状の格子は、成形などで製作した場合、図14に示すように各層の境界面で微細凹凸形状のエッジが鈍った形状になる場合がある。このような形状でも、高性能な反射防止性能は実現することは可能である。図14に示すように第1の層5と第2の層6の境界面に形成された、形状が鈍った領域11は、微細凹凸形状の格子の変化に伴い、充填率が変化している極薄層の集まりと見なすことが出来る。鈍った領域が広い場合には、微細凹凸形状の格子が錐形状に近づいていくので好ましくない。そのため、鈍った領域は、第1の層5や第2の層6の高さの1/5以下あるいは、使用波長の1/20以下の高さであるのが望ましい。
【0039】
[実施例7]
上記実施例の反射防止構造は、充填率の異なる2つの層を積層した構造となっていた。しかしながら、本発明の光学素子は、2層に限定するものではなく、3層以上の層構造を有する場合でも有効である。図15(A)に3層構造より成る反射防止構造の場合の形状パラメータを示す。材料は実施例1と同じ株式会社OHARA製のL−BAL42とした。図15(B)に、その時の反射率特性を示す。この場合も、可視域全域で0.1%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.45、FF2−FF3=0.20である。
【0040】
第1の層と第2の層が条件式(1)を満足していることがわかる。いずれかの層で条件式(1)の構成を満たしていれば、良好な反射防止性能を得ることができる。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.455*83=120.8nm
n2e*d2=1.188*78=92.7nm
n3e*d2=1.082*65=70.3nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層の光学膜厚は0.88倍、第2層の光学膜厚は0.67倍、第3層の光学膜厚は0.51倍の値となっている。
【0041】
[実施例8]
図16は、本発明の実施例8の光学素子を用いた撮影光学系(光学系)のレンズ断面図である。図中、12は撮影レンズで、内部に絞り14と前述の光学素子1を持つ。図では、最終レンズの第1レンズ面に反射防止構造が形成されている。13は結像面であるフィルムまたはCCDである。光学素子1は、図では、レンズ機能の素子であり、レンズ面の反射を抑制し、フレア光の発生を低減させている。本実施例において反射防止構造を有する光学素子を最終レンズに設けているが、これに限定するものではなく、他のレンズでも良く、又複数使用しても良い。また、本実施例では、カメラの撮影レンズの場合を示したが、これに限定するものではない。ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナーや、デジタル複写機のリーダーレンズ、走査光学系、プロジェクター、レーザ光学系など広い波長域で使用される光学系に本発明の光学素子を使用しても、同様の反射防止効果が得られる。
【0042】
[実施例9]
図17は、本発明の実施例9の光学素子を用いた双眼鏡等の観察光学系のレンズ断面である。図17中、15は対物レンズ、16は像を成立させるためのプリズム、17は接眼レンズ、18は評価面(瞳面)である。1は前述の本発明の光学素子である。図17では接眼レンズ17の1つのレンズを、本発明の反射防止構造を有する光学素子1としたが、これに限定するものではなく、他のレンズでも良く、又本発明の光学素子を複数使用しても良い。
【0043】
また図17の観察光学系では接眼レンズ17に本発明の光学素子1を使用した場合を示したが、これに限定するものではなく、プリズム16の表面や対物レンズ15内の位置にも設けることができ、この場合も同様の効果が得られる。また本実施例は双眼鏡の場合を示したが、これに限定するものではない。本発明の光学素子は地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡等の観察光学系にも適用して同様の効果が得られる。この他レンズシャッターカメラやビデオカメラなどの光学式のファインダー(光学系)にも適用して同様の効果が得られる。
【0044】
以上のように各実施例によれば、微細凹凸構造の格子の高さをあまり高くしないで高性能な反射防止性能を得ることができる。従って、本発明の手段を用いれば、成形などの製造上の難易度を上げることなく、高性能の反射防止構造を有する光学素子が実現できる。さらに、光学系に各実施例の光学素子を用いれば、不要な回折光やフレア光の発生の少ない良好な光学性能を有する光学系が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1 光学素子、2 入射媒質、3 微細凹凸領域、4 射出媒質である基板、5第1の充填率を有する微細凹凸形状の層、6 第2の充填率を有する微細凹凸形状の層、7 第1の媒質、8 第2の媒質、9 第3の媒質、10 第4の媒質
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及びそれを有する光学系に関し、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、TVカメラ、観察系等の光学機器の光学系に用いられる光学素子として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、プラスチックなどの透光性媒質を用いた光学素子において、表面反射による光を減少させるために、透明基板の光入出射面に反射防止膜を設けている。例えば、可視光に対する反射防止膜としては、薄膜の誘電体膜を複数層重ねた多層膜のものが知られている。この多層膜は、透明基板の表面に真空蒸着等により、金属酸化物等の薄膜を成膜して形成されている。また、光学素子に用いる反射防止構造として、透明基板の表面に可視光の波長以下のピッチの微細凹凸形状の複数の格子を有する領域(微細凹凸構造)を形成することで反射防止効果を得る構成が知られている。(非特許文献1参照)。使用波長より十分小さな周期構造(周期間隔)を有する微細凹凸形状の格子を用いた場合、格子により回折は生じず、微細凹凸形状の格子は、特定の屈折率を有する薄膜のような光学作用をする。
【0003】
例えば、基板の媒質の屈折率n2=1.58と入射媒質である空気(n1=1)の界面に、円柱形状の格子が媒質と空気の体積比率50%で形成されたとする。この場合、この微細凹凸形状の格子は、媒質と空気の中間の屈折率ne=1.29の薄膜のように振る舞う。そして格子の高さをdとするときne×dが波長の1/4となるように設定すれば、この格子形状は反射防止膜として機能する。このような、微細凹凸形状の格子を表面に持つ光学素子の製法として、成形用の金型の表面に微細凹凸構造を形成し、その型でプラスチック樹脂などを成形するものが知られている(特許文献2参照)。この製法では、光学素子の成形と同時に反射防止構造を形成することが可能となるため、通常の薄膜の反射防止膜と異なり、反射防止処理を施す追加の工程がなくなり製作が容易となる。また、上記成形用の金型に微細凹凸構造を形成する製法としては、以下のものが挙げられる。
【0004】
1つめは、金型の表面に微細凹凸のレジストパターンを形成した後、反応性イオンエッチングなどの異方性エッチングを施し、レジストパターンを除去して、微細凹凸形状を作製する方法である(特許文献1参照)。或いは、陽極酸化ポーラスアルミナとエッチングを繰り返すことで、擬似円錐形状を型に形成する方法なども知られている(特許文献3参照)。その他に、前述したような周期構造の格子ではなく、ランダムな形状の格子を有する反射防止構造として、ナノ微粒子を型に吹き付けることで微細凹凸構造を形成する製法も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−272505号公報(図1)
【特許文献2】特開昭62−96902号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2005−156695号公報
【特許文献4】特開2002−286906号公報
【非特許文献1】:Applied Optics,Vol.25,No.24,pp4562−4567,(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細凹凸構造は高性能な反射防止効果が比較的容易に得られる。しかしながら、より高性能な反射防止特性を得ようとすると、格子の形状が金型で成形するのが困難な形状となってくる。例えば格子の形状として錐形状を例に説明する。微細凹凸形状の格子の周期Pについては、可視光での応用を考えると、透過反射において特定の入射角まで微細凹凸構造による回折光が発生しないようにする必要があり、具体的には200nm以下より細かいことが望ましい。
【0007】
一方、微細凹凸形状の格子の高さは、等価とみなされる屈折率がより滑らかに変化するほうが高性能となるため、波長の1/5以上で高いほど望ましい。従来の多層薄膜による反射防止膜と同等以上の特性を得るためには、格子の高さは300nm以上が望ましい。このように微細凹凸構造の形状は、格子の周期Pはより細かく、格子の高さdはより高いほうが、高性能な反射防止特性を得るためには望ましい。しかしながら、この形状は、錐形状が尖っている形状であることを意味している。これは、金型による成形において、転写性と離型性が困難となる。微細凹凸構造を用いて、より高性能な反射防止特性を得ようとすると、格子の形状が成形困難な形状となってしまい、理想的な微細凹凸形状の格子を得ることが難しい。
【0008】
本発明は、微細凹凸形状の格子の高さを高くせずに、成形などの製造で高性能の反射防止構造が容易に得られる構造より成る光学素子の提供を目的とする。さらに、このような光学素子を用いることで、不要な回折光やフレア光の発生が少ない良好な光学性能を有する光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学素子は、透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が互いに異なる2層が積層された構成を含み、該2層における格子の充填率を各々FF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細凹凸形状の格子の高さを高くせずに、成形などの製造で高性能の反射防止構造が容易に得られる構造より成る光学素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における反射防止構造を有する光学素子の拡大斜視図
【図2】図1の反射防止構造の拡大断面図
【図3】実施例1における微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図4】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図5】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図6】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図7】実施例1における微細凹凸構造の他の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図8】本発明の微細凹凸構造を構成する2つの異なる充填率を有する層の関係図
【図9】実施例2における樹脂材料を用いた時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図10】実施例3における高屈折率材料を用いた時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図11】実施例4における反射防止構造を有する光学素子の拡大斜視図
【図12】図11の反射防止構造の拡大断面図
【図13】実施例5の微細凹凸構造がランダムに配列された素子の上面図
【図14】本発明の微細凹凸構造の他の形状を示す断面図
【図15】実施例7における3層構造の時の微細凹凸構造の形状パラメータと微細凹凸構造での反射率
【図16】本発明の光学素子を搭載した撮影光学系
【図17】本発明の光学素子を搭載した観察光学系
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光学素子は、透明基板の入射媒質(光入射側)の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成されている。複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の(例えば可視光の波長400nm〜700nm)任意の波長以下で配列されている。反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる第1の層、第2の層が積層された構成を含む。ただし積層する層の数は2層に限られず、3層以上あってもよい。光学素子の反射防止構造は、複数の格子の格子構造が反転した形状が形成された金型を用いて成形転写することで形成されている。
【0013】
図1は本発明の微細凹凸構造の凸部又は凹部の複数の格子より成る反射防止構造を有する光学素子の実施例1の要部斜視図である。図2(a)、(b)、(c)は、図1の光学素子の構成の説明図である。このうち図2(a)は、図1のxz断面の説明図、図2(b)は、図1のyz断面の説明図、図2(c)は、図1のxy断面の説明図を表わしている。光学素子1は、第1の微細凹凸形状の複数の格子5aより成る層(第1の層)5と、第2の微細凹凸形状の複数の格子より成る層(第2の層)6からなる微細凹凸領域(反射防止構造体)(反射防止構造)3が基板(透明基板)4の上に形成されている。反射防止構造3は入射媒質2と接している。媒質2は、空気である。この光学素子1は、レンズや平行平板などの透過基板(基板)4の表面に反射防止性能(反射防止構造)3を付加した構成より成っている。
【0014】
微細凹凸形状の格子5a、6aの平均間隔(周期Px、Py)は、使用波長の任意の波長以下で配列している。ここで使用波長とは例えば可視光の波長400nm〜波長700nmの範囲内の波長である。格子5a、6aの周期Px、Pyは入射光が、透過及び反射する際に、不要な回折光が発生しないように決定されている。第1の微細凹凸形状の層(第1の層)5は、微細な四角柱の格子(微細部)(微細凹凸形状)5aが2次元(図中xy方向)に直交配列された構成となっている。第1の層5は、第1の媒質7と第2の媒質8から構成され、四角柱の格子5aを構成する材質を第1の媒質7としている。図1の構成では、第2の媒質8は空気となっている。
【0015】
図2に示すように四角柱の格子5aは、x方向に幅ax、y方向に幅ayからなり、第1の層5の格子5aの高さは、d1である。ここで、第1の層5の体積に対して、第1の媒質7からなる四角柱の格子5aの全体の体積が占める割合を、第1の層5における充填率FF1と定義する。同様に、第2の微細凹凸形状の層(第2の層)6は、第3の媒質9と第4の媒質10から構成され、四角柱の格子6aを構成する材質を第3の媒質9としている。図1の構成では、第4の媒質10は空気となっている。四角柱の格子6aは、x方向に幅bx、y方向に幅byからなり、第2の層6の格子6aの高さは、d2である。ここで、第2の層6の体積に対して、第3の媒質9からなる四角柱の格子6aの全体の体積が占める割合を、第2の層6における充填率FF2と定義する。第2の層6を構成する四角柱の格子6aの周期と配列は、第1の層5を構成する四角柱の格子5aの周期と配列と同じにしている。
【0016】
このように構成すると、第2の層6を構成する四角柱の格子6aを、第1の層5を構成する四角柱の格子5aの界面にだけ形成することが可能となる。1つの媒質の表面にだけ、微細構造を形成するのは、比較的容易に製造できる。尚、格子5a、6aの形状は四角柱の他、多角柱、円柱でも良い。そして、本実施例の反射防止構造3は、層1としての第1の層5の充填率FF1と、層2としての第2の層6の充填率FF2の差FF1−FF2を特定の範囲に設定することを特徴としている。後で詳細に説明するが、充填率の差FF1−FF2を
0.36≦FF1−FF2≦0.56 ‥‥‥(1)
の範囲に設定するのがよい。さらに、高性能にするためには、充填率の差FF1−FF2を
0.40≦FF1−FF2≦0.48 ‥‥‥(1a)
の範囲に設定するのがよい。これによれば、第1の層5と第2の層6の境界面で発生する反射光を有効に利用でき、微細凹凸領域(反射防止構造)3の高さが比較的低い構成で、高性能な反射防止性能を得ることができる。以上が、光学素子の基本的な形態である。この他、本発明の光学素子はプラスチック樹脂や紫外線硬化樹脂からなり、充填率の異なる複数の層があるときは、入射媒質から、透明基板4に向かって、充填率が徐々に高くなっている。そして微細凹凸構造は平面上又は曲面上に形成されている。
【0017】
[実施例1]
本発明の実施例1の具体的な構成を説明する。前述したように、図1が本発明の光学素子の基本構成である。実施例1の光学素子はガラス基板(透明基板)(基板)4の上に反射防止構造3を形成している。実施例1では、基板4と、第1の媒質7と第3の媒質9を同一の媒質で構成している。また、入射媒質2と、第3の媒質8、第4の媒質10を同一の媒質で構成している。さらに、入射媒質2を空気としている。このような構成にすると、金型を用いた成形により、簡易に反射防止構造3を製造できる。
【0018】
図3(A)に、実施例1の構成パラメータを示す。基板4として、株式会社OHARA製のガラスモールド用光学ガラスであるL−BAL42(屈折率nd=1.58313、アッベ数νd=59.4)を用いた。表中、第1層が第1の微細凹凸形状の第1の層5を、第2層が第2の微細凹凸形状の第2の層6を表わしている。微細凹凸形状の格子の周期は、第1層、第2層で等しく、且つx方向、y方向でも等しい直交配列となっている。そして、その周期Px、Pyは、不要な回折光が発生しないように140nmとした。
【0019】
また、第1層5の格子5aにおいては、x方向の幅axが119nm、y方向の幅ayが119nmとなる正方形の四角柱とした。この形状における前述した充填率FF1は、
FF1=ax*ay/(Px*Py)
=119*119/(140*140)
=0.72
となる。そして、第1の層5の格子5aの高さd1は、87nmとした。第2層6の格子6aは、x方向の幅bxが71nm、y方向の幅byが71nmとなる正方形の四角柱とした。この場合の充填率FF2は、同様にして求めると、FF2=0.26となる。そして、第2の層6の格子6aの高さd2は、110nmである。
【0020】
2つの充填率の差は、
FF1−FF2=0.72−0.26=0.46
となり、本発明の構成を満たしている。また、微細凹凸領域3の高さは
d1+d2=87+110=197nm
と200nm未満の薄い高さとなっている。この構成の、可視光の波長域400nmから700nmの反射率を図3(B)に示す。この特性は、微細凹凸領域3が形成されている面に入射媒質側から垂直に入射した際の特性である。可視域全域で0.05%以下の高性能な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0021】
従来の錐形状の反射防止構造は、微細凹凸部の高さが200nm程度で、反射防止効果はあるが、高性能な反射防止特性は得られていなかった。従って、本実施例の構成のように、充填率の異なる層を最適に積層した構造は、微細凹凸領域3を高くせずに、高性能な反射防止特性を得る構成である。そして、微細凹凸領域3の高さが低いほど、製造は容易になる。特に、金型を用いた成形により微細凹凸形状の格子を作成する場合には、転写性と離型性の観点から望ましい。また、成形による製法では、型からの離型を容易にするため、前述の充填率の異なる層は、入射媒質から基板側に向かって、徐々に充填率が高い層が積層されていることが好ましい。
【0022】
本実施例において金型は陽極酸化と孔径拡大処理を繰り返すことで、金型の表面に微細凹凸構造を付与している。ここで、図3(B)の反射防止性能の算出には、以下の手法を利用できる。ひとつは、RCWA(厳密結合波解析)などのベクトル解析によって、微細構造における波動光学的な観点から反射・透過率を厳密に算出する手法である。もうひとつは、微細凹凸領域を、均質な屈折率層に近似して計算する手法である。この方法は、有効屈折率法と呼ばれ、微細凹凸構造の周期が、使用波長より十分小さい領域では有効な手法である。
【0023】
上記、実施例を有効屈折率法で計算すると、可視域の中止波長λ0=550nmで、第1の層5の第1の媒質7は有効屈折率n1e=1.398、第2の層6の第3の媒質9は有効屈折率n2e=1.135となった。また光学膜厚は、それぞれ、
n1e*d1=1.398*87=121.6nm
である。また、
n2e*d2=1.135*110=124.9nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.88倍、第2層6の光学膜厚は0.91倍の値となっている。
【0024】
次に、上記実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.5とした場合の、形状パラメータを図4(A)に、その時の反射率特性を図4(B)に示す。上述した実施例1に比べて、反射防止特性は悪化しているが、可視域全域(波長400nm〜波長700nm)で0.5%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.40である。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.267*98=124.2nm
n2e*d2=1.051*116=121.9nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学樹脂は0.90倍、第2層6の光学膜厚は0.88倍の値となっている。
【0025】
次に、前述の実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.9とした場合の、形状パラメータを図5(A)に、その時の反射率特性を図5(B)に示す。この場合も、可視域全域で0.5%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.47である。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.515*83=125.7nm
n2e*d2=1.219*102=124.3nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.91倍、第2層6の光学膜厚は0.90倍の値となっている。
【0026】
次に、前述の実施例と同じ材料で、第1の層5の充填率FF1を0.72と、図3の構成と同じ充填率にし、本実施例の特徴である充填率の差が満足すべき範囲を調べた。反射率の特性が可視域全域で0.5%以下となる特性を良好な範囲とし、充填率の差が最小となる場合と、最大となる場合を求めた。
【0027】
図6(A)は、充填率の差が最小となる構成で、このときの充填率の差は、FF1−FF2=0.36であった。また、反射率の特性は図6(B)に示すように、可視域全域で0.5%以下の特性となっている。この例での光学膜厚は、
n1e*d1=1.398*79=110.4nm
n2e*d2=1.188*93=110.5nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.80倍、第2層6の光学膜厚は0.80倍の値となっている。この例は、微細凹凸領域3の高さが172nmとかなり薄い構成である。
【0028】
図7(A)は、充填率の差が最大となる構成で、このときの充填率の差は、FF1−FF2=0.56であった。また、反射率の特性は図7(B)に示すように、可視域全域で0.5%以下の特性となっている。この例での光学膜厚は、
n1e*d1=1.398*89=124.4nm
n2e*d2=1.082*116=125.5nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層5の光学膜厚は0.90倍、第2層6の光学膜厚は0.91倍の値となっている。
【0029】
続いて、図8に、上述したように反射率の特性が可視域全域で0.5%以下となる場合の、充填率差の範囲をプロットした。横軸を第1の層5の充填率にとった時のグラフとしている。図中の実線は、前述の図3、図4、図5で示したように、各充填率で最良の反射防止性能が得られるときの充填率差の関係を表わしている。また、グラフ中の丸線と角線で囲まれた領域が、良好な反射防止性能を実現する範囲である。
【0030】
以上説明した特性から、充填率FF1と、充填率FF2の差FF1−FF2が第1の層5の充填率を大きく変化させた場合でも、相関が高いことがわかる。そこで、第1の層5の充填率FF1と、第2の層6の充填率FF2の差FF1−FF2を特定の範囲に設定するのが、高性能な反射防止特性をえる上で重要であることがわかる。具体的には、差FF1−FF2を条件式(1)の如く設定すればよい。さらに、より高性能にするためには、差FF1−FF2を条件式(1a)の如く設定すればよい。
【0031】
また、光学膜厚に関しては、第1の層5、第2の層6ともに、使用中心波長の1/4の厚みに対し、0.8倍以上0.91倍以下の範囲となっている。前述した反射防止性能は、光学素子に垂直に入射する時の光学膜厚である。例えば、入射角が35度の場合、光学膜厚は、cos35°=0.82だけ薄くなる。そのため、実際の膜厚は1/cos35°=1.22だけ厚くする必要がある。従って、本実施例の反射防止構造を斜入射の光束に対して使用することも考慮すると、見かけの屈折率n1e、n2eと微細凹凸(格子5、6)の厚みd1、d2の積は、使用波長の中心波長をλ0とするとき以下の範囲に設定するのが好ましい。
【0032】
0.8*λ0/4≦n1e*d1≦1.1*λ0/4
0.8*λ0/4≦n2e*d2≦1.1*λ0/4
[実施例2]
実施例2の光学素子は、図1の構成で、材質を樹脂にした場合である。この例でも、基板4と、第1の媒質7、第3の媒質9を同一の媒質で構成している。図9(A)に、実施例2の構成パラメータを示す。基板4として、プラスチック樹脂(nd=1.5304、νd=56.0)を用いた。この構成の、可視波長域400nmから700nmの反射率を図9(B)に示す。この場合も、実施例1と同じく可視域全域で0.05%以下の高性能な反射防止性能が得られている。この実施例での充填率の差FF1−FF2は、0.46であり、条件式(1)を満足している。
【0033】
[実施例3]
実施例3の光学素子は、図1の構成で、材質を高屈折率ガラスにした場合である。この例でも、基板4と、第1の媒質7、第3の媒質9を同一の媒質で構成している。図10(A)に、実施例3の構成パラメータを示す。基板4として、株式会社OHARA製のガラスモールド用光学ガラスであるL−LAH53(nd=1.80610、νd=40.9)を用いた。この構成の、可視波長域400nmから700nmの反射率を図10(B)に示す。この場合は、実施例1に比べて、反射防止特性は若干悪くなっているが、可視域全域で0.1%以下の高性能な反射防止性能が得られていることがわかる。この実施例での充填率の差FF1−FF2は、0.46であり、条件式(1)を満足している。
【0034】
[実施例4]
上記実施例1〜3の反射防止構造3は、いずれも四角柱の微細凹凸構造の格子が2層積層された構造であった。本発明の光学素子は、2つの微細凹凸構造からなる2つの層の充填率の差を特定の範囲に設定することを特徴としており、微細凹凸形状の格子の形に依存しない。例えば、図11、図12に示すような円柱状の微細凹凸構造の格子でも良い。この場合も、円柱状の格子5a、6aの充填率を、条件式(1)を満足する構成となるように設定すればよい。また、格子が2次元周期構造で配列されている場合、微細凹凸形状の格子の配列も、図11、図12に示したxy方向に周期を持つ配列のほかに、三角配列などの配列としても差しつかえない。また、周期も図11、図12に示したようにxy方向で同じにする必要は無く、光学素子として用いた場合には、光学素子への入射角の変化に応じて、場所毎や、xy方向で別々に周期を設定しても良い。
【0035】
[実施例5]
図13は本発明の光学素子の実施例5の要部平面図である。微細凹凸形状より成る格子は、図13示すようにランダムに配列しても良い。ランダム配列の場合、各々の微細凹凸形状の格子に対し、隣接する数個の格子の間隔を測定し、その平均間隔が、使用波長以下の構造を有していればよい。また、充填率も使用光束を鑑みて、十分ランダムと見なせる領域内で充填率を求めればよい。図13は、円柱形状の格子をランダムに配列した構造である。また、作成した光学素子については、分光エリプソメトリ法などで、十分に均一であると見なせる評価領域の有効屈折率や層厚を解析すればよい。
【0036】
次に、一例として、このような円柱形状の格子をランダムに形成した金型に製作する手法について説明する。金型の表面にアルミを成膜した後、陽極酸化処理を行うと、微細な細孔が形成される。陽極酸化時の化成電圧を変えることで平均間隔を調整できる。また、陽極酸化の時間で細孔の深さを制御できる。その後、エッチングなどを行い、孔径を拡大する処理を行えば、所望の形状の孔径が得られる。この処理を2回行えば、孔径が異なる2層の円柱孔が形成される。
【0037】
次に、この金型を使って光学素子を形成する手法としては、一般的に知られているUV硬化樹脂を用いた2P成形、ホットプレス成形、樹脂のインジェクション成形などがある。これらの形成手法を行えば、微細凹凸構造からなる反射防止構造を表面にもった光学素子を容易に製造することができる。特に樹脂の成形では、レンズなどの光学素子の表面に反射防止構造を形成した構成では、レンズ形状の成形と一体で反射防止構造を形成できるので製作が容易となる。また、UV硬化樹脂を用いた成形の場合、ガラス基板の上にUV硬化樹脂を塗布し、その樹脂表面に反射防止構造を形成することができる。この場合は、基板と微細凹凸形状の層との間にUV硬化樹脂の層が残存するが、図1などの構成の基板4を残存した樹脂層と考えれば、高性能な反射防止構造を実現することができる。
【0038】
[実施例6]
前述の実施例は、構成を明確にするため、異なる充填率からなる微細凹凸形状を有する2層構造について説明してきた。実際の微細凹凸形状の格子は、成形などで製作した場合、図14に示すように各層の境界面で微細凹凸形状のエッジが鈍った形状になる場合がある。このような形状でも、高性能な反射防止性能は実現することは可能である。図14に示すように第1の層5と第2の層6の境界面に形成された、形状が鈍った領域11は、微細凹凸形状の格子の変化に伴い、充填率が変化している極薄層の集まりと見なすことが出来る。鈍った領域が広い場合には、微細凹凸形状の格子が錐形状に近づいていくので好ましくない。そのため、鈍った領域は、第1の層5や第2の層6の高さの1/5以下あるいは、使用波長の1/20以下の高さであるのが望ましい。
【0039】
[実施例7]
上記実施例の反射防止構造は、充填率の異なる2つの層を積層した構造となっていた。しかしながら、本発明の光学素子は、2層に限定するものではなく、3層以上の層構造を有する場合でも有効である。図15(A)に3層構造より成る反射防止構造の場合の形状パラメータを示す。材料は実施例1と同じ株式会社OHARA製のL−BAL42とした。図15(B)に、その時の反射率特性を示す。この場合も、可視域全域で0.1%以下の良好な特性は得られている。この例での充填率の差は、FF1−FF2=0.45、FF2−FF3=0.20である。
【0040】
第1の層と第2の層が条件式(1)を満足していることがわかる。いずれかの層で条件式(1)の構成を満たしていれば、良好な反射防止性能を得ることができる。また、光学膜厚は、
n1e*d1=1.455*83=120.8nm
n2e*d2=1.188*78=92.7nm
n3e*d2=1.082*65=70.3nm
となった。λ0/4=137.5nmに対して、第1層の光学膜厚は0.88倍、第2層の光学膜厚は0.67倍、第3層の光学膜厚は0.51倍の値となっている。
【0041】
[実施例8]
図16は、本発明の実施例8の光学素子を用いた撮影光学系(光学系)のレンズ断面図である。図中、12は撮影レンズで、内部に絞り14と前述の光学素子1を持つ。図では、最終レンズの第1レンズ面に反射防止構造が形成されている。13は結像面であるフィルムまたはCCDである。光学素子1は、図では、レンズ機能の素子であり、レンズ面の反射を抑制し、フレア光の発生を低減させている。本実施例において反射防止構造を有する光学素子を最終レンズに設けているが、これに限定するものではなく、他のレンズでも良く、又複数使用しても良い。また、本実施例では、カメラの撮影レンズの場合を示したが、これに限定するものではない。ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナーや、デジタル複写機のリーダーレンズ、走査光学系、プロジェクター、レーザ光学系など広い波長域で使用される光学系に本発明の光学素子を使用しても、同様の反射防止効果が得られる。
【0042】
[実施例9]
図17は、本発明の実施例9の光学素子を用いた双眼鏡等の観察光学系のレンズ断面である。図17中、15は対物レンズ、16は像を成立させるためのプリズム、17は接眼レンズ、18は評価面(瞳面)である。1は前述の本発明の光学素子である。図17では接眼レンズ17の1つのレンズを、本発明の反射防止構造を有する光学素子1としたが、これに限定するものではなく、他のレンズでも良く、又本発明の光学素子を複数使用しても良い。
【0043】
また図17の観察光学系では接眼レンズ17に本発明の光学素子1を使用した場合を示したが、これに限定するものではなく、プリズム16の表面や対物レンズ15内の位置にも設けることができ、この場合も同様の効果が得られる。また本実施例は双眼鏡の場合を示したが、これに限定するものではない。本発明の光学素子は地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡等の観察光学系にも適用して同様の効果が得られる。この他レンズシャッターカメラやビデオカメラなどの光学式のファインダー(光学系)にも適用して同様の効果が得られる。
【0044】
以上のように各実施例によれば、微細凹凸構造の格子の高さをあまり高くしないで高性能な反射防止性能を得ることができる。従って、本発明の手段を用いれば、成形などの製造上の難易度を上げることなく、高性能の反射防止構造を有する光学素子が実現できる。さらに、光学系に各実施例の光学素子を用いれば、不要な回折光やフレア光の発生の少ない良好な光学性能を有する光学系が得られる。
【符号の説明】
【0045】
1 光学素子、2 入射媒質、3 微細凹凸領域、4 射出媒質である基板、5第1の充填率を有する微細凹凸形状の層、6 第2の充填率を有する微細凹凸形状の層、7 第1の媒質、8 第2の媒質、9 第3の媒質、10 第4の媒質
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる第1の層、第2の層が積層された構成を含み、該第1の層、第2の層における格子の充填率を各々FF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記充填率の異なる複数の層は、入射媒質から、前記透明基板に向かって、充填率が徐々に高くなっていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1及び第2の層は、見かけの屈折率を各々n1e、n2e、層厚をd1、d2、使用波長の中心波長をλ0とするとき
0.8*λ0/4≦n1e*d1≦1.1*λ0/4
0.8*λ0/4≦n2e*d2≦1.1*λ0/4
なる条件のうち、少なくとも1つを満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記反射防止構造は、前記複数の格子の格子構造が反転した形状が形成された金型を用いて成形転写することで形成されたものであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光学素子。
【請求項5】
請求項1乃至4項のいずれか1項に記載の光学素子を有することを特徴とする光学系。
【請求項1】
透明基板と該透明基板の入射媒質の界面に凸形状又は凹形状の複数の格子を配列した、反射防止機能を有する反射防止構造が形成された光学素子に於いて、該複数の格子は平均間隔が、使用波長域内の任意の波長以下で配列されており、該反射防止構造は、格子の配列面内における格子の充填率が異なる第1の層、第2の層が積層された構成を含み、該第1の層、第2の層における格子の充填率を各々FF1、FF2とするとき
0.36≦FF1−FF2≦0.56
なる条件を満足することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記充填率の異なる複数の層は、入射媒質から、前記透明基板に向かって、充填率が徐々に高くなっていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1及び第2の層は、見かけの屈折率を各々n1e、n2e、層厚をd1、d2、使用波長の中心波長をλ0とするとき
0.8*λ0/4≦n1e*d1≦1.1*λ0/4
0.8*λ0/4≦n2e*d2≦1.1*λ0/4
なる条件のうち、少なくとも1つを満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記反射防止構造は、前記複数の格子の格子構造が反転した形状が形成された金型を用いて成形転写することで形成されたものであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光学素子。
【請求項5】
請求項1乃至4項のいずれか1項に記載の光学素子を有することを特徴とする光学系。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−281876(P2010−281876A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132941(P2009−132941)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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