説明

光学素子及び光学素子の製造方法

【課題】偏光板の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能な光学素子を提供する。
【解決手段】光学素子1は、偏光層12からなる偏光板10と、偏光板10の偏光層12における一方の表面に貼り合わされた透光性基板20と、偏光板10の偏光層12における他方の表面に貼り合わされた他の透光性基板30とを備え、透光性基板20及び他の透光性基板30は、無機材料としてのサファイアからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器に用いられる偏光板としては、通常、ポリビニルアルコール(PVA)からなる偏光層の片面又は両面に、機械的強度等を確保するためのトリアセチルセルロース(TAC)からなる支持層が積層された2層構造又は3層構造の偏光板が知られている(例えば、特許文献1参照。)。TACからなる支持層は、透明性、均一性、平面性等に優れ、分子配向による異方性が非常に小さいことから、偏光層を支持するための支持層として好適に使用されている。
【0003】
ところで、従来の偏光板においては、偏光層を通過しない光は内部で吸収されるため、多量の熱が発生して偏光板の温度上昇を招くこととなる。このため、偏光板が劣化して偏光板の偏光特性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決するための光学素子として、偏光板の両面(偏光板における支持層のさらに外側)に熱伝導性の透光性基板を貼り付けた構造を有する光学素子が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この光学素子によれば、偏光板で発生した熱は、熱伝導性の透光性基板を介して系外に放散されるようになるため、偏光板の温度上昇を抑制することが可能になる。このため、偏光板が劣化して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを抑制することが可能になる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−20317号公報
【特許文献2】特開2000−112022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の光学機器においては光源の高輝度化が進み、偏光板においては従来よりも多量の熱が発生し偏光板の温度上昇が起こり易くなってきている。このため、偏光板の温度上昇に起因して、偏光板が劣化して偏光板の偏光特性が低下してしまうという問題が起こり易くなってきている。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、偏光板の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能な光学素子を提供することを目的とする。また、そのような優れた光学素子を製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するため、特許文献1に記載された偏光板及び特許文献2に記載された光学素子において、偏光板の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下する原因を究明すべく鋭意努力を重ねた結果、この原因は、(ア)偏光板を構成する支持層が外部に露出していること及び(イ)偏光板を構成する偏光層の光入射側及び/又は光射出側に支持層が存在することにあるという知見を得た。
【0009】
すなわち、特許文献1に記載された偏光板においては、偏光板を構成する支持層が外部に露出しているため、偏光層の温度上昇及び外気からの水分の浸入に起因して支持層が膨張・変形してしまい易くなる。このため、光入射側及び光射出側の支持層における分子配向の乱れが発生する結果、偏光板としての偏光特性が低下してしまう。また、この場合、光入射側の支持層における分子配向の乱れが発生すると、この分子配向の乱れがダイレクトに偏光層で検光されてしまうため、偏光板としての偏光特性が大きく低下してしまう。
【0010】
一方、特許文献2に記載された光学素子においては、偏光板の両面に熱伝導性の透光性基板を貼り付けた構造を有しているため、支持層が外部に露出することがなくなる。このため、外気からの水分の浸入に起因して支持層が膨張・変形してしまうのを抑制することが可能となる。
しかしながら、通常、支持層は透光性基板に比べて熱伝導性が小さいことから、偏光板の両面に熱伝導性の透光性基板が貼り付けてあったとしても、偏光層で発生した熱が支持層を介することによって透光性基板に伝わりにくくなってしまう。このため、偏光層で発生した熱は放散されずに偏光層の温度上昇を招いてしまう結果、支持層において熱歪による複屈折が発生し、偏光板としての偏光特性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明の発明者らは、以上の知見に基づいて、偏光板として偏光層の光入射側及び光射出側に支持層が存在しないような構造の偏光板を用いれば、偏光板の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能になることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の光学素子は、偏光層からなる偏光板と、前記偏光板の偏光層における一方の表面に貼り合わされた第1の透光性基板と、前記偏光板の偏光層における他方の表面に貼り合わされた第2の透光性基板とを備え、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板は、無機材料からなることを特徴とする。
【0013】
このため、本発明の光学素子によれば、偏光板が支持層を有していないため、支持層における分子配向の乱れの発生が存在しなくなる。つまり、支持層における熱歪による複屈折が存在しないので、偏光板の温度上昇に起因して偏光板としての偏光特性が大きく低下してしまうことがなくなる。
また、本発明の光学素子によれば、偏光層からなる偏光板を備えるとともに、偏光層の両面には第1の透光性基板及び第2の透光性基板が貼り合わされているため、偏光層で発生した熱を支持層を介さずに第1の透光性基板及び第2の透光性基板に効率よく伝達することが可能になる。このため、偏光板(偏光層)の温度上昇を抑制することが可能になる。
したがって、本発明の光学素子は、偏光板の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能な光学素子となる。
【0014】
また、本発明の光学素子によれば、偏光層を第1の透光性基板及び第2の透光性基板によって両面から挟んだ構造を有しているため、所定の機械的強度を得ることができる。
【0015】
通常、偏光板に使用される支持層は有機部材なので、熱伝導率が低く温度が上昇しやすい。また、有機部材からなる支持層は、高温高湿条件の下では劣化したり分子配向が乱れたりする。従って、有機部材からなる支持層を有する偏光板が劣化してしまうと、支持層における光透過率が低下したり、熱によって偏光特性が大きく低下したりしてしまうこととなる。
しかしながら、本発明の光学素子によれば、偏光板が支持層を有していないため、そのような不具合が生ずることもない。すなわち、偏光板における光透過率の低下を抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板と前記偏光層と前記第2の透光性基板とは、それぞれ粘着剤又は接着剤によって貼り合わされていることが好ましい。
【0017】
このように構成することにより、各部材間の界面における表面反射の発生が抑制され、光透過率を高めることが可能になる。
また、第1の透光性基板、偏光層及び第2の透光性基板の線膨張係数がそれぞれ異なる場合であっても、各部材間の貼り合わせ面における剥離が起こりにくくなり、長期信頼性の低下を抑制することが可能になる。
【0018】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、サファイア又は水晶からなることが好ましい。
【0019】
これらの材料からなる透光性基板は熱伝導性に非常に優れているため、偏光層で発生した熱を効率よく系外に放散させることができ、偏光層の温度上昇を効果的に抑制することが可能となる。
【0020】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、石英ガラス、硬質ガラスその他の透明ガラスからなることが好ましい。
【0021】
これらの材料からなる透光性基板は複屈折が小さいため、透光性基板を通過する光束の品質低下を抑制することができ、偏光板に入射する光束又は偏光板から射出される光束の品質低下を抑制することができる。また、これらの材料からなる透光性基板は熱膨張率が小さいため、熱による伸び・変形が大きいという性質を有する偏光板をこのような熱膨張率の小さな材料からなる透光性基板に接着することにより、偏光板自体の変形を抑えることができる。
【0022】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体からなることが好ましい。
【0023】
結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体における熱膨張が大きな軸方向と偏光層の延伸方向とを揃えることにより、偏光層の熱変形を抑制することができる。
【0024】
なお、第1の透光性基板及び第2の透光性基板としては、上記した以外にも、白板ガラスからなる透光性基板、パイレックス(登録商標)からなる透光性基板、YAG多結晶からなる透光性基板、酸窒化アルミニウムからなる透光性基板なども好適に用いることができる。
【0025】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、光学軸を有する材料からなり、前記光学軸を有する材料からなる透光性基板の光学軸が前記偏光層の偏光軸と略平行又は略垂直となるように、前記偏光層に対して前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板が配置されていることが好ましい。
【0026】
このように構成することにより、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち光学軸を有する材料からなる透光性基板の光学軸が偏光層の偏光軸と略平行又は略垂直となっていない場合に発生する望ましくない複屈折を抑制することで、光学素子の品質を向上することが可能となる。
【0027】
なお、この明細書において「偏光層の偏光軸」とは、偏光層を通過する光の偏光軸のことである。
【0028】
本発明の光学素子においては、前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板は、同一材料からなることが好ましい。
【0029】
このように構成することにより、製造コストの低減を図ることが可能となる。また、線膨張係数が一致するため、内部応力による歪みを低減することが可能となる。
【0030】
本発明の光学素子の製造方法は、偏光層と、光学軸を有する無機材料からなる第1の透光性基板及び第2の透光性基板とを備える光学素子を製造するための光学素子の製造方法であって、前記偏光板の偏光層における一方の表面に粘着剤を塗布する粘着剤塗布工程と、前記粘着剤を介して前記偏光層の一方の表面と前記第1の透光性基板とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、前記偏光板の偏光層における他方の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記接着剤を介して前記偏光層と前記第2の透光性基板とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0031】
このため、本発明の光学素子の製造方法によれば、支持層を有していない偏光板を用いて光学素子を製造するため、支持層における分子配向の乱れの発生が存在しなくなる。つまり、支持層における熱歪による複屈折が存在しないので、偏光層の温度上昇に起因して偏光板としての偏光特性が大きく低下してしまうことがなくなる。
また、本発明の光学素子の製造方法によれば、偏光層の両面に第1の透光性基板及び第2の透光性基板を貼り合わせた構造の光学素子を製造することができるため、偏光層で発生した熱を支持層を介さずに第1の透光性基板及び第2の透光性基板に効率よく伝達することが可能になる。このため、偏光板(偏光層)の温度上昇を抑制することが可能になる。
したがって、本発明の光学素子に製造方法によれば、偏光層の温度上昇に起因して偏光層の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能な光学素子を製造することが可能となる。
【0032】
また、本発明の光学素子の製造方法によれば、偏光層を第1の透光性基板及び第2の透光性基板によって両面から挟んだ構造を有する光学素子を製造することができるため、所定の機械的強度を得ることができる。
【0033】
通常、偏光板に使用される支持層は有機部材なので、熱伝導率が低く温度が上昇しやすい。また、有機部材からなる支持層は、高温高湿条件の下では劣化したり分子配向が乱れたりする。したがって、有機部材からなる支持層を有する偏光板が劣化してしまうと、支持層における光透過率が低下したり、熱によって偏光特性が大きく低下したりしてしまうこととなる。
しかしながら、本発明の光学素子の製造方法によれば、偏光層を支持する支持層を有していない偏光板を用いて光学素子を製造するため、そのような不具合が生ずることもない。すなわち、偏光板における光透過率の低下を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本発明の光学素子の製造方法によれば、偏光層と第1の透光性基板とを貼り合わせる際には粘着剤を用い、偏光層と第2の透光性基板とを貼り合わせる際には接着剤を用いているため、第1の透光性基板の光学軸と偏光層の偏光軸との軸合わせ及び第2の透光性基板の光学軸と偏光層の偏光軸との軸合わせを比較的容易に行うことが可能となる。
【0035】
本発明の光学素子の製造方法においては、前記第1貼り合わせ工程と前記接着剤塗布工程との間に、前記粘着剤を介して前記第1の透光性基板に貼り合わされた前記偏光層に熱処理を施す熱処理工程をさらに含むことが好ましい。
このような方法とすることにより、熱処理により偏光層の熱による初期的な収縮がなされるから、製造された光学素子に熱が加わったとしても熱応力による偏光層の損傷を防止することが可能となる。
【0036】
本発明の光学素子の製造方法においては、前記第1貼り合わせ工程では、前記第1の透光性基板の光学軸と前記偏光層の偏光軸とが略平行又は略垂直となるように前記偏光層と前記第1の透光性基板とを貼り合わせ、前記第2貼り合わせ工程では、前記第2の透光性基板の光学軸と前記偏光層の偏光軸とが略平行又は略垂直となるように前記偏光層と前記第2の透光性基板とを貼り合わせることが好ましい。
このような方法とすることにより、第1の透光性基板の光学軸及び第2の透光性基板の光学軸がともに偏光層の偏光軸と略平行又は略垂直となっていない場合に発生する望ましくない複屈折を抑制することで、品質の高い光学素子を製造することが可能となる。
【0037】
本発明の光学素子の製造方法においては、前記接着剤として、紫外線硬化型の接着剤を用い、前記第2貼り合わせ工程は、前記接着剤に紫外線を照射して前記接着剤を硬化させる紫外線照射工程を含むことが好ましい。
【0038】
このような方法とすることにより、上述のような優れた光学素子を容易に製造することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の光学素子及び光学素子の製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0040】
[実施形態1]
まず、実施形態1に係る光学素子1の構成について、図1を用いて説明する。
図1は、実施形態1に係る光学素子1を模式的に示す図である。
【0041】
実施形態1に係る光学素子1は、図1に示すように、偏光板10と、偏光板10における一方の表面に貼り合わされた第1の透光性基板20と、偏光板10における他方の表面に貼り合わされた第2の透光性基板30とを備えた光学素子である。
【0042】
偏光板10は、偏光層12からなる。偏光層12としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)をヨウ素又は二色性染料で染色し一軸延伸して、該染料の分子を一方向に配列させるように形成された偏光層を好ましく用いることができる。このように形成された偏光層は、前記一軸延伸方向に平行な方向の偏光を吸収し、一方、前記一軸延伸方向に垂直な方向の偏光を透過させる。
【0043】
第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30は、例えばサファイアからなる。サファイアからなる第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30は、熱伝導率が約40W/(m・K)と高い上、硬度も非常に高く、熱膨張率は小さく、傷がつきにくく透明度が高い。なお、中程度の輝度として安価性を重視する場合には、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30として、約10W/(m・K)の熱伝導率を有する水晶からなる透光性基板を用いてもよい。第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30の厚さは、熱伝導性の観点からいえば0.2mm以上であることが好ましく、光学素子の薄型化の観点からいえば2.0mm以下であることが好ましい。
なお、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30は、ともに所定の光学軸を有している。
【0044】
図1に示すように、偏光層12と第1の透光性基板20とは粘着層Dを介して貼り合わされており、偏光層12と第2の透光性基板30とは接着層Cを介して貼り合わされている。これにより、各部材間の界面における表面反射の発生が抑制され、光透過率を高めることが可能になる。また、偏光層12、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30の線膨張係数がそれぞれ異なる場合であっても、各部材間の貼り合わせ面における剥離が起こりにくくなり、長期信頼性の低下を抑制することが可能になる。
【0045】
第1の透光性基板20における偏光板10とは反対側の面及び第2の透光性基板30における偏光板10とは反対側の面には、図示しない反射防止層が形成されている。
【0046】
実施形態1に係る光学素子1は、偏光層12からなる偏光板10と、偏光板10の偏光層12における一方の表面に貼り合わされた第1の透光性基板20と、偏光板10の偏光層12における他方の表面に貼り合わされた第2の透光性基板30とを備える光学素子である。
【0047】
このため、実施形態1に係る光学素子1によれば、偏光板10が支持層を有していないため、支持層における分子配向の乱れの発生が存在しなくなる。つまり、支持層における熱歪による複屈折が存在しないので、偏光板10の温度上昇に起因して偏光板としての偏光特性が大きく低下してしまうことがなくなる。
また、実施形態1に係る光学素子1によれば、偏光層12からなる偏光板10を備えるとともに、偏光層12の両面には第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30が貼り合わされているため、偏光層12で発生した熱を支持層を介さずに第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30に効率よく伝達することが可能になる。このため、偏光板10(偏光層12)の温度上昇を抑制することが可能になる。
したがって、実施形態1に係る光学素子1は、偏光板10の温度上昇に起因して偏光板の偏光特性が低下してしまうのを従来よりも抑制することが可能な長寿命の光学素子となる。
【0048】
また、実施形態1に係る光学素子1によれば、偏光層12を第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30によって両面から挟んだ構造を有しているため、所定の機械的強度を得ることができる。
【0049】
通常、偏光板に使用される支持層は有機部材なので、熱伝導率が低く温度が上昇しやすい。また、有機部材からなる支持層は、高温高湿条件の下では支持層が劣化したり分子配向が乱れたりする。従って、有機部材からなる支持層を有する偏光板が劣化してしまうと、支持層における光透過率が低下したり、熱によって偏光特性が大きく低下したりしてしまうこととなる。
しかしながら、実施形態1に係る光学素子1によれば、偏光板10が支持層を有していないため、そのような不具合が生ずることもない。すなわち、偏光板10における光透過率の低下を抑制することが可能となる。
【0050】
実施形態1に係る光学素子1においては、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30は、サファイアからなる。
【0051】
サファイアからなる透光性基板は熱伝導性に非常に優れているため、偏光板10で発生した熱を効率よく系外に放散させることができ、偏光板10の温度上昇を効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
実施形態1に係る光学素子1においては、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30は、同一材料からなるため、製造コストの低減を図ることが可能となる。また、線膨張係数が一致するため、内部応力による歪みを低減することが可能となる。
【0053】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係る光学素子の製造方法について、図2及び図3を用いて説明する。
図2は、実施形態2に係る光学素子の製造方法を説明するために示すフローチャートである。図3は、実施形態2に係る光学素子の製造方法を説明するために示す図である。
【0054】
実施形態2に係る光学素子の製造方法は、上記した実施形態1に係る光学素子1を製造するための方法であって、「粘着剤塗布工程」、「第1貼り合わせ工程」、「接着剤塗布工程」、「第2貼り合わせ工程」が順次実施される。以下、これら各工程を順次説明する。
【0055】
1.粘着剤塗布工程
まず、偏光板10の偏光層12における一方の表面に粘着剤を塗布する(図2のステップS1)。このとき、粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤やウレタン系粘着剤などを好適に用いることができる。
【0056】
2.第1貼り合わせ工程
次に、粘着剤を介して偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせる(図2のステップS2)。このとき、第1の透光性基板20の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように、偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせる(図3参照。)。
ここで、粘着剤を介して第1の透光性基板20に貼り合わされた偏光層12を、摂氏80度〜110度の環境に0.5〜10時間放置する。すなわち、粘着剤を介して第1の透光性基板20に貼り合わされた偏光層12に熱処理(アニール処理)を施す。
【0057】
3.接着剤塗布工程
次に、偏光板10の偏光層12における他方の表面及び偏光板10の偏光層12の周囲に接着剤を塗布する(図2のステップS3)。このとき、接着剤としては、紫外線硬化型の接着剤を用いている。
【0058】
4.第2貼り合わせ工程
そして、接着剤を介して偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせる(図2のステップS4)。このとき、第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように、偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせる(図3参照。)。
具体的に説明すると、第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように偏光層12と第2の透光性基板30とを接着した後で、図示しない紫外線照射装置を用いて偏光層12に塗布した接着剤に紫外線を照射し接着剤を硬化させる。
【0059】
以上により、実施形態1に係る光学素子1を製造することができる。
【0060】
このように、実施形態2に係る光学素子の製造方法は、光学素子1を製造するための方法であって、偏光板10の偏光層12における一方の表面に粘着剤を塗布する粘着剤塗布工程と、粘着剤を介して偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、粘着剤を介して第1の透光性基板20に貼り合わされた偏光層12に熱処理を施す熱処理工程と、偏光板10の偏光層12における他方の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、接着剤を介して偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程とをこの順序で含んでいる。
【0061】
このため、実施形態2に係る光学素子の製造方法によれば、上述した実施形態1に係る光学素子1を容易に精度よく製造することが可能となる。従って、上述した実施形態1に係る光学素子1の効果を有する光学素子を製造することが可能となる。
【0062】
また、実施形態2に係る光学素子の製造方法によれば、偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせる際には粘着剤を用い、偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせる際には接着剤を用いているため、第1の透光性基板20の光学軸と偏光層12の偏光軸との軸合わせ及び第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸との軸合わせを比較的容易に行うことが可能となる。
【0063】
実施形態2に係る光学素子の製造方法においては、第1貼り合わせ工程では、第1の透光性基板20の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせ、第2貼り合わせ工程では、第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせている。このため、第1の透光性基板20の光学軸及び第2の透光性基板30の光学軸がともに偏光層12の偏光軸と略平行又は略垂直となっていない場合に発生する望ましくない複屈折を抑制することで、品質の高い光学素子1を製造することが可能となる。
実施形態2に係る光学素子の製造方法においては、熱処理工程で、粘着剤を介して第1の透光性基板20に貼り合わされた偏光層12に熱処理を施すことによって、偏光層12の熱による初期的な収縮がなされる。これにより、製造された後の光学素子に熱が加わったとしても熱応力による偏光層12の損傷を防止できる。
【0064】
実施形態2に係る光学素子の製造方法においては、接着剤として、紫外線硬化型の接着剤を用いている。そして、第2貼り合わせ工程は、接着剤に紫外線を照射して接着剤を硬化させる紫外線照射工程を含んでいる。これにより、上述のような優れた光学素子1を容易に製造することができるようになる。
【0065】
以上、本発明の光学素子及び光学素子の製造方法を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0066】
(1)上記実施形態1の光学素子1においては、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30の材料として、ともにサファイアを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。透光性基板及び他の透光性基板の材料として、サファイアのほかに、水晶、石英ガラス、硬質ガラス、結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体を用いてもよい。透光性基板及び他の透光性基板の材料として水晶を用いた場合には、サファイアの場合と同様の効果を得ることができる。また、透光性基板及び他の透光性基板の材料として石英ガラス、硬質ガラス、結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体を用いた場合には、これらの材料は複屈折が小さいため、透光性基板を通過する光束の品質低下を抑制することができる。また、これらの材料は熱膨張率が比較的小さいため、熱による伸び・変形が大きい性質を有する偏光板をこのような熱膨張率の小さな材料からなる透光性基板及び他の透光性基板に接着することにより、偏光板自体の変形を抑えることができる。透光性基板又は他の透光性基板の材料として結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体を用いた場合、結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体における熱膨張が大きな軸方向と偏光板の延伸方向とを揃えることにより、熱による偏光板の変形を抑制することができる。また、透光性基板及び他の透光性基板の材料として、他の透明ガラス(例えば、白板ガラスやパイレックス(登録商標)など)、YAG多結晶、酸窒化アルミニウムなども好適に用いることができる。つまり、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30が無機材料であればよい。なお、立方晶の焼結体としては例えばYAGの透光性焼結ガラスを採用できる。
【0067】
(2)上記実施形態1の光学素子1においては、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30が同一の材料からなる場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30のうち、一方の透光性基板は石英ガラス、硬質ガラスその他の透明ガラスからなり、他方の透光性基板はサファイア又は水晶からなるものであってもよい。
【0068】
(3)上記実施形態2の光学素子の製造方法において、第1貼り合わせ工程では、第1の透光性基板20の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせ、第2貼り合わせ工程では、第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略平行となるように偏光層12と第2の透光性基板30とを貼り合わせていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1貼り合わせ工程では、第1の透光性基板20の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略垂直となるように偏光層12と第1の透光性基板20とを貼り合わせ、第2貼り合わせ工程では、第2の透光性基板30の光学軸と偏光層12の偏光軸とが略垂直となるように偏光層12と第2透光性基板30とを貼り合わせることも好ましい。
なお、第1の透光性基板20若しくは第2の透光性基板30のどちらか一方が光学軸を有さない材料からなる場合、又は、第1の透光性基板20及び第2の透光性基板30がともに光学軸を有さない材料からなる場合には、当該光学軸を有さない材料からなる透光性基板は、偏光層12に対して任意に貼り付けることが可能である。
【0069】
(4)上記実施形態2の光学素子の製造方法において、粘着剤塗布工程においては、偏光板10の偏光層12における一方の表面に粘着剤を塗布しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、粘着剤に替えて接着剤を塗布してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態1に係る光学素子1を模式的に示す図。
【図2】実施形態2に係る光学素子の製造方法を説明するために示すフローチャート。
【図3】実施形態2に係る光学素子の製造方法を説明するために示す図。
【符号の説明】
【0071】
1…光学素子、10…偏光板、12…偏光層、20…第1の透光性基板、30…第2の透光性基板、C…接着層、D…粘着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光層からなる偏光板と、
前記偏光板の偏光層における一方の表面に貼り合わされた第1の透光性基板と、
前記偏光板の偏光層における他方の表面に貼り合わされた第2の透光性基板とを備え、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板は、無機材料からなることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、サファイア又は水晶からなることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光学素子において、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、石英ガラス、硬質ガラスその他の透明ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光学素子において、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、結晶化ガラスまたは立方晶の焼結体からなることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1に記載の光学素子において、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板のうち少なくとも一方は、光学軸を有する材料からなり、
前記光学軸を有する材料からなる透光性基板の光学軸が前記偏光層の偏光軸と略平行又は略垂直となるように、前記偏光層に対して前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板が配置されていることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子において、
前記第1の透光性基板及び前記第2の透光性基板は、同一材料からなることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
偏光層からなる偏光板と、光学軸を有する無機材料からなる第1の透光性基板及び第2の透光性基板とを備える光学素子を製造するための光学素子の製造方法であって、
前記偏光板の偏光層における一方の表面に粘着剤を塗布する粘着剤塗布工程と、
前記粘着剤を介して前記偏光層の一方の表面と前記第1の透光性基板とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、
前記偏光板の偏光層における他方の表面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤を介して前記偏光層の他方の表面と前記第2の透光性基板とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程とをこの順序で含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の光学素子の製造方法において、
前記第1貼り合わせ工程と前記接着剤塗布工程との間に、
前記粘着剤を介して前記第1の透光性基板に貼り合わされた前記偏光層に熱処理を施す熱処理工程をさらに含むことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光学素子の製造方法において、
前記第1貼り合わせ工程では、前記第1の透光性基板の光学軸と前記偏光層の偏光軸とが略平行又略垂直となるように前記偏光層と前記第1の透光性基板とを貼り合わせ、
前記第2貼り合わせ工程では、前記第2の透光性基板の光学軸と前記偏光層の偏光軸とが略平行又は略垂直となるように前記偏光層と前記第2の透光性基板とを貼り合わせることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の光学素子の製造方法において、
前記接着剤として、紫外線硬化型の接着剤を用い、
前記第2貼り合わせ工程は、前記接着剤に紫外線を照射して前記接着剤を硬化させる紫外線照射工程を含むことを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256898(P2007−256898A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121653(P2006−121653)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】