説明

光学膜、その製造方法および光学素子

【課題】低屈折率の光学膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を有する光学膜。少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属の金属酢酸塩または金属アルコキシドと、トリフルオロ酢酸とを溶媒中で反応させてフッ化カルボン酸金属塩を含有する含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有する光学膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学膜、その製造方法および光学素子に関し、特に反射防止効果に優れた低屈折率の光学膜、その製造方法およびその光学膜を用いた光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学機器を構成する光学部品の表面には、光透過率を向上させることを目的に、反射防止膜が設けられている。
空気中に対し、基材屈折率ngに対し、屈折率ncが、
nc=√ng (式1)
である低屈折率材料を、波長λの光に対しλ/4の光学膜厚でコーティングすることで反射率は理論上ゼロとなる。
【0003】
一般的な反射防止膜は、基板より低屈折率な材料を真空蒸着することで形成される。低屈折率材料として、フッ化マグネシウム(MgF)nd=1.38が広く用いられている。ここでndは587nmの波長の光に対する屈折率である。
【0004】
光学ガラスBK7(nd=1.52)にフッ化マグネシウム(nd=1.38)をλ/4の光学膜厚で設けた場合、1.26%の残存反射率が発生する。
この場合、反射率をゼロとするためには、屈折率ncが、
nc=√nd(BK7)=√1.52=1.23 (式2)
である必要がある。
【0005】
より低反射効果を必要とする光学素子の反射防止膜としては、前記単層ではなく、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した多層膜が用いられる。この場合も空気側である最上層としては低屈折率材料が重要となる。
【0006】
一方、多孔質膜とすることで、低屈折率化する試みが広く行われている。屈折率の異なる材料A、Bをp:1−pで混合すると、見かけの屈折率nは
n=n×p+n×(1−p)=n−p×(n−n) (式3)
で表される。ここでpは多孔度(porosity)である。
【0007】
低屈折率膜を得るには、屈折率≒1で表される気体(通常の場合は空気)との多孔質膜を形成することが有利であることが示唆される。ここで材料Aが空気の場合、n≒1となり、上記の式3は
n=n−p×(n−1) (式4)
となり、多孔度pのときのバルク屈折率nの材料が示す屈折率に他ならない。
【0008】
低屈折率材料としてフッ化マグネシウム(nd=1.38)を用いて、見掛けの屈折率n=1.23を示す多孔質膜とするには約40%の多孔度とする必要がある。
フッ化マグネシウム(MgF)より低屈折率を呈する材料として、フッ化アルミニウム(AlF)とフッ化ナトリウム(NaF)との複合物が知られている。いくつかの結晶形が知られているが、ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム(3NaF・AlF)nd=1.339が代表例として挙げられる。
【0009】
多孔質膜を作成する手段として、真空蒸着である乾式プロセスではなく、湿式プロセスが有効である。湿式の場合、コーティング材料を溶媒に溶解あるいは分散した後、各種コーティング手段で成膜するため、多孔質膜を得易いという利点がある。
【0010】
一方、フッ化マグネシウムを湿式プロセスで作成する方法として以下の方法が知られている。特許文献1および非特許文献1には、フッ化マグネシウムを熱不均化反応(thermal disproportional reaction)で作成する方法が示されている。フッ素含有マグネシウム化合物あるいは前駆体を、基板上に塗布後、熱不均化反応することでフッ化マグネシウムを作成しているが、いずれの場合も屈折率は1.39前後とバルクのフッ化マグネシウムの値を示すに過ぎない。
【0011】
非特許文献2には、フッ化マグネシウムとフッ化ナトリウムの混合系の作成方法が開示されている。しかしながら湿式方式で作成されるフッ化マグネシウムとフッ化ナトリウムの混合物は、潮解性があるために十分ではない。また、非特許文献2では、屈折率の記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭59−213643号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M.Tada et al.,J.Mater.Res.,Vol.14,No.4,Apr、1999、1610から1616
【非特許文献2】I.Sevonkaev et al.,J.Colloid and Interface Science、317(2008)130から136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、従来の技術では、熱不均化反応を利用した湿式方式で作成されるフッ化マグネシウムにおいて、低屈折率という観点では、十分な特性ではなかった。また、湿式方式で作成されるフッ化マグネシウムとフッ化ナトリウムの混合フッ化物は、潮解性において実用的に十分な特性が得られていない。また、湿式方式で作成されるフッ化マグネシウムに関しては、十分な強度が得られていない。
【0015】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、フッ化物を用いた低屈折率の光学膜、およびそれを用いた優れた反射防止性能を有する光学素子を提供するものである。
また、本発明は不均化反応を用いた低屈折率の光学膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決する光学膜は、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を有することを特徴とする。
上記の課題を解決する光学素子は、上記の光学膜を有することを特徴とする光学素子である。
【0017】
上記の課題を解決する光学膜の製造方法は、少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属の金属酢酸塩または金属アルコキシドと、トリフルオロ酢酸とを溶媒中で反応させてフッ化カルボン酸金属塩を含有する含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0018】
また、上記の課題を解決する光学膜の製造方法は、少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属と、トリフルオロ酢酸とを反応させて得られたフッ化カルボン酸金属塩を溶媒に溶解して含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フッ化物を用いた低屈折率の光学膜、およびそれを用いた優れた反射防止性能を有する光学素子を提供することができる。
また、本発明によれば、不均化反応を用いた低屈折率の光学膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例18における分光反射率を示す図である。
【図2】本発明の実施例42の高温高湿試験前後での分光反射率を示す。
【図3】比較例1の高温高湿試験前後での分光反射率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る光学膜は、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を有することを特徴とする。
【0022】
多くの金属フッ化物は、それら金属の酸化物と比較して低屈折率を呈するが、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物に、Li成分を含有することで、これら金属フッ化物のみを用いるより、更に低屈折率な光学膜が得られる。
【0023】
アルカリ金属成分を含有することで低屈折率な光学膜の作成を試みるに際し、Naではなく、Liを用いることで潮解性の問題を回避しつつ、より低屈折率にすることが可能となる。
【0024】
これら少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物は、これら金属酢酸塩とトリフルオロ酢酸を溶媒中に溶解、あるいはトリフルオロ酢酸塩を溶媒に溶解し、基材に塗布、加熱することにより得られる。
【0025】
このように、溶液系で湿式成膜することで多孔質膜を作成することによって、より低屈折率化することが可能となる。ここで湿式プロセスを用いることで、乾式プロセスで成膜する場合と比較し、元素組成において高い自由度を得ることが可能となる。
多孔質において用いる波長λに対し、1/10以下好ましくは1/20以下の孔径あるいは粒径の粒子状物質から成る場合、見かけ上透明な膜となる。孔径が用いる波長の1/10より大きい場合は白濁といった問題が生じる。
本発明の光学膜は多孔度pによって、その特徴を表すことが出来る。多孔度pは膜を形成する材料の屈折率nに対し、得られた膜の屈折率nによって求められる。
p=(n−n)/(n−1) (式5)
多孔度は10%から90%が好ましく、より好ましくは20%から80%である。多孔度が90%を越える場合、得られる光学膜の膜強度が著しく低下する。
【0026】
少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物からなる光学膜に、更にフッ素以外の部分と親和性の良い、更には反応性を有す
る酸化ケイ素バインダーを塗布、硬化することで膜強度を向上することができる。
本発明は、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物からなる光学膜を用いることで、低屈折率を実現することが可能となり、優れた低反射および入射角特性といった反射防止効果を有する反射防止膜、およびそれを有する光学部品が得られる。
【0027】
このように、不均化反応により、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物からなる光学膜を作成した後、フッ素以外の部分と親和性の良い、更には反応性を有する酸化ケイ素バインダーを塗布することで作成された光学膜は低屈折率を呈し、かつ表面を擦っても傷が発生しない膜強度を有する。同時にバインダーを塗布することで、高温高湿環境における光学膜の安定性が向上する。このことは作成した光学膜に対し、フッ素化されていない部分、あるいはその他の官能基(例えば−O−や−OH)が存在することで、高温高湿環境で不安定になる部分が、バインダーと反応あるいは被覆されることで環境に対する安定性が向上すると考えられる。
【0028】
本発明において用いられる少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物は、上記元素の複合物となっており、下記一般式(1)で表すことができる。
【0029】
(LiMgAl)F (1)
一般式(1)中、x、y、zは任意の値でもよいが、具体的には、y+z=1を基準とすると、yおよびzは任意の組み合わせが可能であり、xは0.1以上2以下が好ましい。wはx+2y+3zを越えない範囲が好ましい。
【0030】
MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物にLi元素を添加することで屈折率は低下する。Li元素の量は0.1≦x/(y+z)≦2の範囲が好ましい。2を越える範囲においては、得られる光学膜が白化し、クモリが生じる場合がある。
【0031】
前記Li元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素との元素比Li/(Mg、AlまたはMg+Al)が0.1以上2以下の範囲であることが好ましい。
フッ素量はLi、Mg、Alの元素比によって異なる。最大にフッ素化される場合として、AlFおよび2LiFの組み合わせから、(LiAl)Fとなる。熱分解によるフッ化物の場合、フッ素比率は予想される数値より小さくなる場合がある。
【0032】
これらフッ化物は含フッ素前駆体を不均化反応することで得られる。一般に、金属Mの含フッ素前駆体を(M−X−F)とすると、不均化反応は
M−X−F → M−F + X
で表される。ここでXは反応残渣あるいは未反応基を表す。
【0033】
ここで、(A)不均化反応によりフッ素原子が外れること、(B)該フッ素原子がM−X間の結合を切断し、(C)M−Fになる反応が進行する。
本発明の光学膜の製造方法は、不均化反応により、下記の2つの方法により行なわれる。
【0034】
(1)少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属の金属酢酸塩または金属アルコキシドと、トリフルオロ酢酸とを溶媒中で反応させてフッ化カルボン酸金属塩を含有する含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とす
る光学膜の製造方法。
【0035】
(2)少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属と、トリフルオロ酢酸と反応させて得られたフッ化カルボン酸金属塩を溶媒に溶解して含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とする光学膜の製造方法。
【0036】
本発明において、不均化反応を起こすには、加熱、焼成によるのが一般的であるが、紫外線等のエネルギー線を用いることも可能であるし、またこれらを併用することでもよい。
【0037】
フッ化物を作成するための含フッ素前駆体は、不均化反応によるフッ素化のし易さの観点から、CF基を含有することが好ましい。
CF基を有する例として、フッ化カルボン酸塩、フッ化アセチルアセトナートあるいはフッ化アルコキシド類が挙げられる。
【0038】
フッ化カルボン酸の具体例として、トリフルオロ酢酸(CFCOOH)、ペンタフルオロプロピオン酸(CFCFCOOH)、ヘプタフルオロ酪酸(CF(CFCOOH)、ノナフルオロ吉草酸(CF(CFCOOH)、ウンデカフルオロヘキサン酸(CF(CFCOOH)といったパーフルオロカルボン酸、および置換基を有するフルオロカルボン酸を用いることができる。
【0039】
フッ化カルボン酸金属塩を得る方法として、各種金属カルボン酸塩や金属アルコキシドをフッ化カルボン酸と液中で反応させる方法、あるいは直接金属とフッ化カルボン酸を反応させ、フッ化カルボン酸金属塩を作成した後、溶媒に溶解する方法のいずれでも可能である。
【0040】
マグネシウムにおいて、フッ化カルボン酸としてトリフルオロ酢酸を用いた場合の具体例としては、以下の通りである。
(CHCOO)Mg+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+2CHCOOH (1)
Mg(COH)+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+COH
(2)
Mg+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+H (3)
【0041】
このうち(1)、(2)は溶媒中での平衡反応であり、フッ化カルボン酸マグネシウムを単離する工程が必要であり、あるいは過剰にトリフルオロ酢酸を用いる必要がある。ここで、フッ化カルボン酸マグネシウムを作成するためには(3)の金属マグネシウムとフッ化カルボン酸による反応が好適である。
【0042】
これらLi、Mg、Alの含フッ素前駆体は不均化反応により、フッ化物となる。Li、Mg、Alのトリフルオロ酢酸塩は不均化反応を経て、各種フッ化物となる。
Li、Mg、Alの含フッ素前駆体の混合物を作成した後、不均化反応させることで、任意組成のフッ化物(LiMgAl)Fが得られる。
【0043】
(1)少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属の金属酢酸塩または金属アルコキシドと、トリフルオロ酢酸とを溶媒中で反応させてフッ化カルボン酸金属塩を含有する含フッ素前駆体を得る工程、または(2)少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属と、トリフルオロ酢酸とを反応さ
せて得られたフッ化カルボン酸金属塩を溶媒に溶解して含フッ素前駆体を得る工程で得られた前記含フッ素前駆体を、基材に塗布、加熱することにより得られる。
【0044】
このとき、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物を作成することで、低屈折率光学膜を得ることが可能となる。
前記含フッ素前駆体を有機溶剤に溶解した後、基材上に塗布することで成膜される。塗布膜を形成する方法として、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。膜厚は、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度などを変化させることと、塗布溶液の濃度を変えることにより制御することが可能である。
【0045】
塗布膜の膜厚は、不均化反応により、1/2から1/10程度まで減少する。減少の度合いは、不均化反応の条件により変化する。
いずれの場合も加熱による不均化反応後の膜厚dが、設計波長λにおける光学膜厚λ/4の整数倍となるように、塗布膜の膜厚は調整される。
【0046】
溶媒には有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプピルアルコール、ブタノール、エチレングリコールもしくはエチレングリコール−モノ−n−プロピルエーテルなどのアルコール類;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの各種のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルのような各種エーテル類;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。本発明で使用される塗布溶液を調製するに当たり、溶液の安定性の点から上述した各種の溶媒類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0047】
これら溶媒は塗布方法に応じて適時選択される。蒸発速度が速すぎる場合、塗布ムラが発生しやすい。その場合、蒸気圧の低い溶媒を用いることで改善される。
少なくともLi元素と、MgあるいはAlから選ばれた元素とを含有するフッ化物が、酢酸塩とトリフルオロ酢酸を溶媒中に溶解、あるいはトリフルオロ酢酸塩を溶媒に溶解し、基材に塗布した後、不均化反応させることで、フッ化物に転化し、少なくともLi元素と、MgあるいはAlから選ばれた元素とを含有するフッ化物からなる光学膜が形成される。
【0048】
加熱による不均化反応において、温度は用いるフッ素含有有機マグネシウム化合物によって異なる。トリフルオロ酢酸マグネシウムの場合、250℃以上の加熱により不均化反応が起こる。その際、雰囲気がフッ素化合物を有することで、よりフッ素化が促進し、更に多孔質化することで低屈折率化する。その際、多孔質化は加熱により進行するため、加熱時間は10分から2時間が好ましく、より好ましくは30分から1時間である。
【0049】
得られた前記フッ化物層が多孔質膜からなることが好ましい。また、多孔質は得られる光学膜の屈折率により確認できる。
不均化する工程における雰囲気中にフッ素化合物を増やすために、塗布液中に更にフッ
素化合物を添加することも有効である。添加されるフッ素化合物として、フッ化カルボン酸あるいはフッ化アルコール類が挙げられる。
【0050】
これらフッ化物は含フッ素前駆体を不均化反応することで得られる。金属Mの含フッ素前駆体を(M−X−F)とすると、不均化反応は単純化して以下の式で表される。
F−X−M → F−M + X
ここで、(A)加熱によりフッ素原子が外れること、(B)該フッ素原子がM−X間の結合を切断し、(C)M−Fになる反応が進行する。
【0051】
湿式方法で、フッ化物を作成する場合、フッ素比率F/Mは、想定される組成より小さな値となる。例えば2(LiF)(AlF)の混合物の場合、F/M=5(M=LiとAlの元素比の合計)となるが、実際には5より小さな値となる。
【0052】
このことは、フッ素原子は反応性が高いため、必ずしも(B)の反応になるとは限らず、(A)により発生したフッ素原子が系外に散逸してしまうことにより、期待される反応(C)が得られないことが考えられ、不均化工程におけるフッ素化が必ずしも上記式通りに行われている訳ではないことを示唆している。そのため、(A)により発生したフッ素原子を散逸させないようにすることで、不均化によるフッ素化反応をより効率良く反応させることが可能になる。
【0053】
フッ素原子を散逸させない方法としては、遮蔽物を設けること、反応を促進させるために、反応系にフッ素源を導入することも有効である。また、基材形状によっては基材そのものを遮蔽物として利用することが可能である。例えば凹レンズのような形状の場合、凹面を下側にして設置することで同様の効果が得られる。
【0054】
前記F/M以外の部分、すなわち化学量論的に、フッ素化されていない部分は、フッ素以外のその他の官能基(例えば−O−や−OH)が存在すると考えられる。同時に、このようなフッ素以外の部分が存在することで、環境特性が悪化すると考えられる。
【0055】
本発明においては、前記フッ化物層の上に酸化ケイ素バインダー層を有することが好ましい。前記フッ化物層の上に、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を塗布した後、加熱処理して酸化ケイ素バインダー層を形成する。作成されたフッ化物からなるフッ化物層に対し、フッ素以外の部分と親和性の良い、更には反応性を有する酸化ケイ素バインダーを塗布、硬化して酸化ケイ素バインダー層を形成することで強度に優れた、低屈折率の光学膜が得られる。
【0056】
酸化ケイ素バインダー層を形成する酸化ケイ素前駆体としては、各種ケイ素アルコキシド、シラザンおよびそれらの重合物を用いることが可能である。これらのうち、より反応性に富む、ポリシラザンが好ましい。
【0057】
ケイ素アルコキシドとして、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基が挙げられる。
ポリシラザンとして、実質的に有機基を含まないポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部を置換基で置換した基がケイ素原子に結合したポリシラザン、アルコキシ基などの加水分解性基がケイ素原子に結合したポリシラザン、窒素原子にアルキル基などの有機基が結合したポリシラザンなどが挙げられる。
【0058】
酸化ケイ素前駆体は触媒を用いることで、硬化反応を促進することが可能である。ケイ素アルコキシドの場合、酸あるいは塩基触媒が挙げられる。シラザンの場合、各種アミン
系化合物あるいは金属触媒およびその化合物が触媒として用いられる。
【0059】
酸化ケイ素前駆体を溶媒で希釈した溶液を、前記フッ化物層上に塗布する。シラザンあるいはその重合物の場合、反応性が高いため、疎水系溶媒を用いることが好ましい。疎水系溶媒として、キシレンあるいはトルエン等の石油系溶媒、ジブチルエーテルが挙げられる。
【0060】
シラザンの場合、疎水系溶媒に希釈する際、あるいは希釈した後に触媒を添加することで、反応を抑制することが好ましい。
少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物層上に塗布する、酸化ケイ素前駆体を含む溶液は、シリカ換算で0.001≦SiO≦0.1の範囲、特に0.005≦SiO≦0.05の範囲がより好ましい。SiO<0.001では、バインダーとしての前駆体量が十分でなく、得られる膜の強度が十分でなく、SiO>0.1では強度は増すものの、屈折率が高くなる。
【0061】
ここでシリカ換算とは、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を高温で完全に反応させた後の固形分量から求める。シリコンアルコキシド加水分解物を酸化ケイ素前駆体として用いる場合、シリカ換算10質量%の酸化ケイ素前駆体を含む溶液を400℃で乾燥し、反応を完全に行なうと、10質量%のシリカ(SiO)からなる焼成物を得ることができる。なお、有機修飾等、完全にSiOとならない場合はこの限りでない。
【0062】
酸化ケイ素前駆体は加熱により硬化する。アルコキシドより反応性の高いシラザンでは、室温でシリカに転化するものもある。湿度を与えること、熱を加えることで、より緻密なシリカを形成する。
【0063】
本発明における光学膜は、多孔質化されているので、屈折率nd=1.15から1.40と低い値を示す。酸化ケイ素バインダーを用いた場合においても、屈折率nd=1.18とバルクのフッ化マグネシウム(nd=1.38)と比較して極めて低い値を示す。
【0064】
本発明の光学膜には、更に各種機能を付与するための層を設けることができる。例えば、透明基材とハードコート層との密着性を向上させるために接着剤層やプライマー層を設けることができる。上記のように透明基材とハードコート層との中間に設けられるその他の層の屈折率は、透明基材の屈折率とハードコート層の屈折率の中間値とすることが好ましい。
【0065】
このような本発明の低屈折率の光学膜を、単独あるいは多層膜と組み合わせて光学部品に用いることで優れた反射防止性能を実現することが可能となる。また、本発明の光学膜は低屈折率であるため、多層膜構成における最上層に用いた場合、界面反射の低下および斜入射特性が向上する。
【0066】
本発明に係る光学素子は、上記の光学膜を有することを特徴とする光学素子である。本発明における光学膜は、各種光学部品に適用することができる。カメラレンズ、双眼鏡や、プロジェクターなどの表示装置あるいは窓ガラスなどにも用いることが出来る。
【実施例1】
【0067】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
(i)前駆体溶液の作成
〔LiF前駆体溶液の作成〕
酢酸リチウム(キシダ化学株式会社製)1.7質量部、イソプロピルアルコール30質量部に対し、トリフルオロ酢酸7.5質量部を少しずつ加え、LiF前駆体用塗料を作成
した。
【0068】
〔MgF前駆体溶液の作成〕
酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)2.7質量部、イソプロピルアルコール30質量部に対し、トリフルオロ酢酸7.5質量部を少しずつ加え、MgF前駆体用塗料を作成した。
【0069】
〔AlF前駆体溶液の作成〕
アルミニウムsec−ブトキシド(キシダ化学株式会社製)5質量部、イソプロピルアルコール30質量部に対し、トリフルオロ酢酸14質量部を少しずつ加え、AlF前駆体用塗料を作成した。
【0070】
〔NaF前駆体溶液の作成〕
酢酸ナトリウム(キシダ化学株式会社製)2質量部、イソプロピルアルコール6質量部に対し、トリフルオロ酢酸10質量部を少しずつ加え、NaF前駆体用塗料を作成した。
【0071】
(ii)評価方法
〔屈折率の測定〕
分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)、M−2000D)を用いて、波長190から1000nmの範囲で偏光解析により、屈折率および膜厚の解析を行なった。屈折率の値を表1に示す。なお表中、屈折率に()が付いているものは、作成した光学膜がクモリを生じているため、正確性に欠けると判断し、参考値として掲載した。
【0072】
〔潮解性試験〕
純水で拭き取りを行うことで、作成した光学膜の潮解性を評価した。
○:拭き取り前後で反射率の変化がない。
△:拭き取り前後で反射率変動が認められる。
×:拭き取り後、膜が溶解してしまっている。
【0073】
〔クモリ評価〕
作成した光学膜に、ランプの光を通して、クモリが生じていないか、目視により判定をおこなった。
○:クモリが認められない。
×:クモリが認められる。
【0074】
〔光学膜の強度評価:(1)接触のみ〕
光学膜の強度評価として、清浄化した手袋で触った場合を試験し、痕跡が残る場合を(×)、痕跡が認められない場合を(○)と判断した。その結果を表2に示す。
【0075】
〔光学膜の強度評価:(2)拭き取り〕
光学膜の強度評価として、、250g/cmの圧力で10回拭いた場合を実施し、痕跡が残る場合を(×)、痕跡が認められない場合を(○)と判断した。その結果を表2に示す。
【0076】
〔総合判定〕
上記の試験の結果、下記の判定をおこなった。
◎:屈折率が低く、強度が非常に優れる。
○:屈折率が低く、強度に優れる。
×(1):屈折率が高い。
×(2):強度不足。
【0077】
〔光学膜の多孔質化の評価〕
光学膜を形成する材料のバルク屈折率nより算出される屈折率と、作成した光学膜の屈折率nを(式5)に従い算出することで多孔度を求める。
n=nBx・x/(x+y+z)+nBy・y/(x+y+z)+nBz・z/(x+y+z)
ここでnBx、nBy、nBzはLiF、MgF、AlFの屈折率を表し、
Bx=1.30
By=1.38
Bz=1.38
である。
【0078】
〔実施例1〕
LiF前駆体溶液およびMgF前駆体溶液をLi/Mg=0.1となるよう調合し、コーティング用塗料を調製した。
【0079】
直径30mm、厚さ1mmの合成石英基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄、乾燥した後、コーティング用ガラス基板とした。
前記ガラス基板に前記コーティング用塗料をスピンコートした後、ホットプレートで加熱(300℃)することで不均化反応を行い、屈折率1.29となる低屈折率を示す多孔質膜からなる光学膜を得た。
【0080】
〔実施例2から7〕
コーティング用塗料の組成比をLi/Mg=0.2(実施例2)、0.3(実施例3)、0.5(実施例4)、1.0(実施例5)、1.5(実施例6)、2.0(実施例7)となるよう調製した以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0081】
〔実施例8から14〕
コーティング用塗料の組成をLi/Alとした以外は、実施例1から8と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0082】
〔実施例15から21〕
コーティング用塗料の組成比をLi/Mg/Al(但し、Mg/Al=0.8/0.2)とした以外は、実施例1から8と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0083】
〔実施例22から28〕
コーティング用塗料の組成比をLi/Mg/Al(但し、Mg/Al=0.5/0.5)とした以外は、実施例1から8と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0084】
〔実施例29から35〕
コーティング用塗料の組成比をLi/Mg/Al(但し、Mg/Al=0.2/0.8)とした以外は、実施例1から8と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0085】
〔比較例1〕
コーティング用塗料の組成比をMgF前駆体溶液のみとした以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0086】
〔比較例2〕
コーティング用塗料をAlF前駆体溶液のみとした以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0087】
〔比較例3〕
コーティング用塗料の組成比をMg/Al=0.8/0.2となるよう調製した以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0088】
〔比較例4〕
コーティング用塗料の組成比をMg/Al=0.5/0.5となるよう調製した以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0089】
〔比較例5〕
コーティング用塗料の組成比をMg/Al=0.2/0.8となるよう調製した以外は実施例1と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0090】
〔比較例6から12〕
コーティング用塗料の組成をNa/Mgとした以外は、実施例1から7と同様にサンプルを作成、評価を行った。
【0091】
以上の結果より、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するフッ化物に、Li元素成分を含有することで、含有しない場合と比較して低屈折率の光学膜が得られた。
【0092】
【表1】

【0093】
〔実施例36〕
テトラメトキシシラン(キシダ化学(株))1.329質量部、エタノール1.18質量部を混合する。塩酸(37%)0.03質量部、水1.34質量部、エタノール1.18質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合し、室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール100質量部を追加し、シリカ換算で0.005となるように、オーバーコート液を調製した。
実施例19と同じ方法で作成した光学膜の上に、実施例1と同じスピン条件で上記オーバーコート液を塗布、200℃で加熱することで光学膜を形成した。
【0094】
〔実施例37〕
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合し、室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール500質量部を追加し、シリカ換算で0.01となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0095】
〔実施例38〕
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合し、室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール130質量部を追加し、シリカ換算で0.03となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0096】
〔実施例39〕
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合し、室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール54質量部を追加し、シリカ換算で0.05となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0097】
〔実施例40〕
ポリシラザン(アクアミカNN320−20、AZエレクトロニックマテリアルズ(株))1質量部、ジ−n−ブチルエーテル(キシダ化学(株)199質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.15質量部を混合し、シリカ換算で0.001となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0098】
〔実施例41〕
ポリシラザン2質量部、ジ−n−ブチルエーテル198質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.3質量部を混合し、シリカ換算で0.002となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0099】
〔実施例42〕
ポリシラザン5質量部、ジ−n−ブチルエーテル195質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.75質量部を混合し、シリカ換算で0.005となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0100】
〔実施例43〕
ポリシラザン10質量部、ジ−n−ブチルエーテル188.5質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)1.5質量部を混合し、シリカ換算で0.01となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0101】
〔実施例44〕
ポリシラザン15質量部、ジ−n−ブチルエーテル183質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)2質量部を混合し、シリカ換算で0.
015となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0102】
〔実施例45〕
ポリシラザン20質量部、ジ−n−ブチルエーテル177質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)3質量部を混合し、シリカ換算で0.02となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0103】
〔実施例46〕
ポリシラザン50質量部、ジ−n−ブチルエーテル142.5質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)7.5質量部を混合し、シリカ換算で0.05となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0104】
〔実施例47〕
ポリシラザン100質量部、ジ−n−ブチルエーテル85質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)15質量部を混合し、シリカ換算で0.1となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例36と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0105】
〔比較例13〕
ポリシラザン150質量部、ジ−n−ブチルエーテル30質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)20質量部を混合し、シリカ換算で0.151となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、比較例1と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0106】
オーバーコートされるシリカバインダー量が多くなり、膜強度は優れているものの、屈折率nd=1.38とバルクのフッ化マグネシウムと変わらず、低屈折率膜としての効果が得られなかった。
【0107】
〔比較例14〕
酢酸マグネシウム4水和物3.45質量部をメタノール48.3質量部に溶解した。フッ化水素酸水溶液(濃度50%)1.29質量部をメタノール50質量部で希釈した後、前記酢酸マグネシウムメタノール溶液に、攪拌しながらに滴下することで、フッ化マグネシウム微粒子を含有するフッ化マグネシウムゾル溶液を合成する。
【0108】
フッ化マグネシウムゾル溶液150質量部をテフロン(登録商標)製の耐圧容器(オートクレーブ)に入れて密閉し、120℃の温度で24時間熱処理した。
上記熱処理したフッ化マグネシウムゾルを濃縮したのち、イソプロピルアルコールで希釈することで塗布液を作成した。塗布液を実施例1と同様にコーティング用基板にスピンコートすることで成膜し、200℃で乾燥することで光学膜を作成、評価をおこなった。
以上の結果を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
〔反射率測定〕
図1は、本発明の実施例18の光学膜の有無による分光反射率の結果を示す図である。測定にはレンズ反射率測定機(オリンパス(株)、USPM−RU)用い、入射角0度(垂直入射)における反射率を示す。本発明の光学膜のコートの無い石英からなる基板が3.5%の反射率であるのに対し、実施例18の光学膜は、屈折率1.24の低屈折率であるため、波長500から550nmの光に対する反射率は0.1%以下の低反射を示すことが判る。
【0111】
〔環境試験〕
実施例42と比較例1のサンプルを用いて高温高湿環境(60℃、90RH%、200時間)での光学膜の安定性試験をおこなった。その結果を図2および図3に示す。図2は、本発明の実施例42の高温高湿試験前後での分光反射率を示す。図3は、比較例1の高温高湿試験前後での分光反射率を示す。
【0112】
以上の結果から不均化反応を利用して作成した光学膜単独では反射率が変化することが判る。また、酸化ケイ素バインダーを塗布することで耐久性に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の光学膜の製造方法によれば、熱不均化反応を用いた低屈折率を有する光学膜が得られるので、反射防止性能を有する光学部品の光学膜に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を有することを特徴とする光学膜。
【請求項2】
前記Li元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素との元素比Li/(Mg、AlまたはMg+Al)が0.1以上2以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の光学膜。
【請求項3】
前記フッ化物層が多孔質膜からなることを特徴とする請求項1または2記載の光学膜。
【請求項4】
前記フッ化物層の上に酸化ケイ素バインダー層を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の光学膜。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光学膜を有することを特徴とする光学素子。
【請求項6】
少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属の金属酢酸塩または金属アルコキシドと、トリフルオロ酢酸とを溶媒中で反応させてフッ化カルボン酸金属塩を含有する含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とする光学膜の製造方法。
【請求項7】
少なくともLi金属と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の金属と、トリフルオロ酢酸とを反応させて得られたフッ化カルボン酸金属塩を溶媒に溶解して含フッ素前駆体を得る工程、前記含フッ素前駆体を基材に塗布した後、加熱して、少なくともLi元素と、MgおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とを含有するフッ化物からなるフッ化物層を形成する工程を有することを特徴とする光学膜の製造方法。
【請求項8】
前記フッ化物層の上に、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を塗布した後、加熱処理して酸化ケイ素バインダー層を形成する工程を有することを特徴とする請求項6または7記載の光学膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−8345(P2012−8345A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144279(P2010−144279)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】