説明

光学膜の製造方法、光学膜および光学部品

【課題】 加熱処理による不均化反応を用いた低屈折率を有する光学膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 MgおよびFを含有する多孔質膜からなる光学膜の製造方法であって、下記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を遮蔽した空間内で、フッ素化合物を含有する雰囲気中で加熱処理して、MgおよびFを含有する多孔質膜を得る工程を有する光学膜の製造方法。


(式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学膜の製造方法、光学膜および光学部品に関し、特に反射防止効果に優れた低屈折率の光学膜の製造方法、光学膜およびその光学膜を有する光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学機器を構成する光学部品の表面には、光透過率を向上させることを目的として、反射防止膜が設けられている。
【0003】
空気中において、屈折率ngの基材上に、屈折率ncがnc=√ngである低屈折率材料を、λ/4の光学膜厚でコーティングすることで反射率は理論上ゼロとなる(ここでλは設計波長)ことが知られている。
【0004】
一般的な反射防止膜は、基板より低屈折率な材料を真空蒸着することで形成される。低屈折率材料として氷晶石(3NaF・AlF、nd=1.339)が知られているが、より強度に優れたフッ化マグネシウム(MgF、nd=1.38)が広く用いられている。ここでndは波長587nmの光に対する屈折率である。
【0005】
光学ガラスBK7(nd=1.52)にフッ化マグネシウム(nd=1.38)をλ/4の光学膜厚で設けた場合、1.26%の残存反射率が発生する。
【0006】
この場合、反射率をゼロとするためには、屈折率ncが
【0007】
【数1】

【0008】
である必要がある。
【0009】
より低反射効果を必要とする光学素子の反射防止膜としては、前記単層ではなく、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した、多層膜が用いられる。この場合も空気側である最上層としては低屈折率材料を用いることが重要となる。
【0010】
低屈折率膜上に、より低屈折率を呈する光学膜を形成することで、更に反射率特性を改善することが可能となる。低屈折率膜として前記フッ化マグネシウム(nd=1.38)上に成膜する場合、(式1)と同様に、
【0011】
【数2】

【0012】
とすることで最良の結果が得られる。
【0013】
このように、より低屈折率を呈する材料を光学膜として用いることで、これまでより広波長域において優れた反射防止機能が得られることが可能となり、またシミュレーションにより示唆されている。
【0014】
低屈折率膜を得る手法として、多孔質膜を用いる試みが広く行われている。屈折率の異なる材料A(屈折率n)、B(屈折率n)をp:1−pで混合すると、見かけの屈折率nは
【0015】
【数3】

【0016】
で表される。ここでpは空隙度(porosity)である。
【0017】
低屈折率膜を得るには、屈折率≒1で表される気体(通常の場合は空気)との多孔質膜を形成することが有利であることが示唆される。ここで材料Aが空気の場合、n≒1となり、上記の式(3)は
【0018】
【数4】

【0019】
となり、空隙度pのときのバルク屈折率nの材料が示す屈折率に他ならない。低屈折率材料としてフッ化マグネシウム(nd=1.38)を用いて、見掛けの屈折率n=1.23を示す多孔質膜とするには約40%の多孔度とする必要がある。
【0020】
多孔質膜を作成する手段として、真空蒸着等の乾式プロセスではなく、湿式プロセスが有効である。湿式の場合、コーティング材料を溶媒に溶解あるいは分散した後、各種コーティング手段で成膜するため、多孔質膜を得易いという利点がある。
【0021】
フッ化マグネシウムを湿式プロセスで製造する方法として以下の方法が知られている。特許文献1および非特許文献1には、フッ化マグネシウムを加熱処理による不均化反応(thermal disproportional reaction)で製造する方法が開示されている。フッ素含有マグネシウム化合物あるいはその前駆体を、基板上に塗布後、不均化することでフッ化マグネシウムを製造しているが、いずれの場合も屈折率は1.39前後とバルクのフッ化マグネシウムの値を示すに過ぎない。
【0022】
フッ化マグネシウム微粒子ゾルを製造する方法として特許文献2が挙げられる。酢酸マグネシウムとフッ化水素酸水溶液を反応した後、オートクレーブを用い、高温、高圧条件下で処理することでフッ化マグネシウム微粒子を製造し、これを塗布することで低屈折率膜を作成している。その際、屈折率は1.256(λ=193nmでの値)とバルクより低いことが示されている。しかしながら基板上にフッ化物微粒子を塗布した場合、膜強度は不十分である。
【0023】
膜強度を向上させる方法として、特許文献3には、フッ化マグネシウムゾルと金属・非金属ゾルを混合することで耐引掻性コーティングを作成する方法が開示されている。フッ化マグネシウムゾルとシリカゾルとの組み合わせにおける屈折率の具体的な数値の記載はないが、透過率から類推される屈折率はシリカそのものの値(nd=1.46から1.47)に近い。
【0024】
また、特許文献4には、フッ化マグネシウム微粒子ゾルとシリカ系バインダーの組み合わせが開示されている。シリカ系バインダーを用いることで膜強度を増加しているが、フッ化マグネシウム微粒子同士あるいは基板との結着力が乏しいため、満足できる膜強度を有するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開昭59−213643号公報
【特許文献2】WO2002/018982号公報
【特許文献3】WO2005/120154号公報
【特許文献4】WO2006/030848号公報
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】M.Tada et al.,J. Mater.Res.,Vol.14,No.4,Apr,1999.1610から1616頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
このように、加熱処理による不均化反応を利用して製造されたフッ化マグネシウムの場合、低屈折率という観点で、十分な特性が得られていない。また、加熱処理による不均化反応を利用して製造されたフッ化マグネシウムにおいては、高温高湿環境下における安定性が十分とはいえなかった。
【0028】
また、湿式法で製造されるフッ化マグネシウムに関しては、十分な強度が得られていなかった。
【0029】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、加熱処理による不均化反応を用いた低屈折率を有する光学膜の製造方法、その方法により製造された光学膜および優れた反射防止性能を有する光学部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記の課題を解決する光学膜の製造方法は、MgおよびFを含有する多孔質膜からなる光学膜の製造方法であって、一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を遮蔽した空間内で加熱処理して、MgおよびFを含有する多孔質膜を得る工程を有することを特徴とする。
【0031】
【化1】

【0032】
(式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。)
上記の課題を解決する光学膜は、上記の光学膜の製造方法によって製造された、屈折率ndが1.05以上1.3以下であることを特徴とする光学膜である。
【0033】
上記の課題を解決する光学部品は、上記の光学膜を有することを特徴とする光学部品である。
【0034】
本発明によれば、フッ素含有有機マグネシウム化合物を遮蔽した空間内で加熱処理し、不均化することにより、フッ化マグネシウム膜で低屈折率(nd=1.05〜1.3)を実現することが可能となる。そして、優れた低反射および入射角特性といった反射防止効果を有する光学膜、およびそれを有する光学部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の他の実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の他の実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明の光学膜の有無による分光反射率の結果を示す図である。
【図5】実施例21の環境試験前後での分光反射率を示す図である。
【図6】比較例1の環境試験前後での分光反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0037】
本発明に係る光学膜の製造方法は、MgおよびFを含有する多孔質膜からなる光学膜の製造方法であって、下記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を遮蔽した空間内で加熱処理して、MgおよびFを含有する多孔質膜を得る工程を有することを特徴とする。
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。)
本発明等者は、MgおよびFを含有する光学膜の製造方法において、フッ素含有有機マグネシウム化合物を加熱処理によって不均化させ、マグネシウムがフッ素化する反応において、低屈折率化するには、反応雰囲気が重要であることを見出した。
【0040】
フッ素含有有機マグネシウム化合物を加熱処理による不均化反応により、フッ化マグネシウム膜を作成する際、加熱によるフッ素原子の離脱が起こる。そして、離脱したフッ素原子がマグネシウム−カルボン酸間の結合と置換されることでフッ化マグネシウムが形成されると考えられる。そのために、加熱により発生したフッ素を有効に利用することがフッ化マグネシウムの製造に必要である。
【0041】
本発明においては、前記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する塗布膜を遮蔽した空間内で、フッ素化合物を含有する雰囲気中で加熱処理を行なうことが好ましい。
【0042】
ここで、雰囲気がフッ素化合物を含有するとは、雰囲気中にフッ素ガス等をドープする。あるいは基板に塗布したフッ素含有有機マグネシウム化合物あるいは混合されたフッ素化合物の熱分解あるいは不均化に際して発生する分解物のフッ素化合物を用いて形成された雰囲気のいずれの場合でも良い。
【0043】
遮蔽した空間内の雰囲気中のフッ素化合物濃度を制御する目的で、基板を被覆部材で覆って外部から遮蔽することが有効である。図1は、本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の一実施態様を示す概略図である。11は基材(支持体)、12は塗布膜、13は加熱手段、14は被覆部材、15は遮蔽した空間を示す。
【0044】
被覆部材はドープあるいは熱分解、不均化に際して発生したフッ素化合物を蒸散させないためのもので、かつ加熱に耐えられるものであれば良い。金属、ガラスまたはセラミックスが好適である。基材の形状によっては、基材そのものを被覆部材として利用することが可能である。図2に示すように、基材が凸状の場合、自身が形成する空間によって被覆することができる。加熱手段としては、電熱線を利用したホットプレート、オーブン、温風乾燥機、真空乾燥機、赤外線ランプといった公知の方法を用いることが可能である。加熱温度は260℃以上500℃未満の範囲が可能である。500℃より高い場合は金属フッ素化物ではなく、金属酸化物となり、屈折率が高くなってしまう。また、260℃未満では加熱だけではフッ素化せず、所望の反応物が得られない。加熱処理時間は5分から10時間、より好ましくは10分から2時間である。5分より短いと基材の温度が十分に上昇せず、反応が不十分となる。被覆部材と加熱手段は、厳密に接合されている必要は無く、平面からなる加熱手段上に、厚さ0.5mmのアルミ板をプレス加工で御椀状に加工したもので覆うことで、本発明の目的は達成することが可能である。
【0045】
図1(A)は被覆部材がない状態を示し、塗布膜12は開放されているので、フッ素化合物は大気中に蒸散される。図1(B)は、本発明における被覆部材を用いて遮蔽した空間を形成した状態を示し、塗布膜12は被覆部材14で覆われて外部から遮蔽されているので、遮蔽した空間15内にフッ素化合物は保持されている。
【0046】
ここで遮蔽された空間の体積を変える事で、基材に塗布したフッ素含有有機マグネシウム化合物あるいは混合されたフッ素化合物の熱分解あるいは不均化に際して、発生する分解物によるフッ素化合物濃度を制御することが可能となる。その結果、作成される膜の屈折率を任意に制御することが可能となる。
【0047】
遮蔽した空間の大きさは、例えば図1に示す塗布膜と被覆部材の間の距離dで示すと、その距離dは100mm以下、好ましくは1mm以上50mm以下が望ましい。
【0048】
遮蔽した空間は、塗布膜の面積に応じて決められる。遮蔽した空間の体積V(mm)と塗布膜の面積(mm)はV/Sが1から1000の範囲が好ましく、より好ましくは10から300の範囲である。V/Sが1より小さい場合、形成される膜が脆くなり過ぎる。一方、V/Sが1000を越える場合、遮蔽による効果が十分に得られない。
【0049】
フッ素含有有機マグネシウム化合物として、CF基を有することが好ましい。CF基を有するフッ素含有有機マグネシウム化合物として、フッ化カルボン酸マグネシウム、フッ化マグネシウムアルコキシド、フッ化マグネシウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。これらのうち、フッ化カルボン酸マグネシウムが、塗布液としての安定性に優れており、加熱処理による不均化反応に適している。
【0050】
下記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物は、MgもしくはMg化合物とフッ化カルボン酸を反応させて得られる。
【0051】
【化3】

【0052】
式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。
【0053】
Xの例を示すと、例えば単結合、−CF−、−(CF−、−(CF−、−(CF−、−CH−、−CHCF−等が挙げられる。マグネシウム化合物としては酢酸マグネシウム、各種マグネシウムアルコキシドを用いることが出来る。
フッ化カルボン酸は末端にCF基を有しているものが好ましく、下記の一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【化4】

【0055】
(式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。)
一般式(2)で表されるフッ化カルボン酸の具体例として、トリフルオロ酢酸(CFCOOH)、ペンタフルオロプロピオン酸(CFCFCOOH)、ヘプタフルオロ酪酸(CF(CFCOOH)、ノナフルオロ吉草酸(CF(CFCOOH)、ウンデカフルオロヘキサン酸(CF(CFCOOH)等のパーフルオロカルボン酸、および置換基を有するフルオロカルボン酸を用いることができる。
【0056】
フッ化カルボン酸は、加熱によりフッ素化し、またマグネシウムと有機化合物間の結合の強さのバランス等において好ましい。フッ化カルボン酸は、溶液中で反応させたものを用いても良いし、反応後、取り出した後、再度溶解して用いても良い。
【0057】
フッ化カルボン酸としてトリフルオロ酢酸を用いて、MgもしくはMg化合物とフッ化カルボン酸を反応させた場合の具体例は、以下の通りである。
【0058】
(CHCOO)Mg+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+2CHCOOH
(1)
Mg(COH)+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+2COH(2)
Mg+2CFCOOH→(CFCOO)Mg+H(3)
このうち(1)、(2)は溶液中での平衡反応であり、フッ化カルボン酸マグネシウムを単離する工程が必要であり、あるいは過剰にトリフルオロ酢酸を用いる必要がある。フッ化カルボン酸マグネシウムを作成するためには(3)の金属マグネシウムとフッ化カルボン酸による反応が好適である。
【0059】
フッ素含有有機マグネシウム化合物を有機溶媒に溶解した後、基材上に塗布することで塗布膜が形成される。塗布膜を形成する方法として、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。膜厚は、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度などを変化させることと、塗布溶液の濃度を変えることにより制御することが可能である。
【0060】
塗布膜の膜厚は、加熱による不均化反応により、1/2から1/10程度まで減少する。減少の度合いは、不均化反応の際の遮蔽の度合いにより変化する。
【0061】
いずれの場合も加熱による不均化反応後の膜厚dが、設計波長λにおける光学膜厚λ/4の整数倍となるように、塗布膜の膜厚は調整される。
【0062】
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプピルアルコール、ブタノール、エチレングリコールもしくはエチレングリコール−モノ−n−プロピルエーテルなどのアルコール類;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの各種のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルのような各種エーテル類;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。本発明で使用される塗布溶液を調製するに当たり、溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0063】
これら有機溶媒は塗布方法に応じて適時選択される。蒸発速度が速すぎる場合、塗布ムラが発生しやすい。その場合、蒸気圧の低い溶媒を用いることで改善される。
【0064】
フッ素含有有機マグネシウム化合物を基材上に塗布した後、加熱処理して不均化反応させて、フッ化マグネシウムに転化することで多孔質なフッ化マグネシウムからなる光学膜が形成される。
【0065】
前記加熱処理による不均化反応により、前記フッ素含有有機マグネシウム化合物をフッ化マグネシウムにする。この場合、熱によるフッ素原子の放出のしやすさが重要となる。加熱によりフッ素を放出しやすい末端基としてCF基を有することが好ましい。
【0066】
加熱処理温度は用いるフッ素含有有機マグネシウム化合物によって異なる。トリフルオロ酢酸マグネシウムの場合、250℃以上で加熱による不均化反応が起こる。その際、雰囲気がフッ素化合物を有することで、よりフッ素化が促進、更に多孔質化することで低屈折率化する。その際、多孔質化は加熱により更に進行するため、加熱時間は10分から2時間が好ましく、より好ましくは30分から1時間である。
【0067】
不均化する工程では、前記塗布膜を遮蔽した空間内で、フッ素化合物を含有する雰囲気中で加熱処理を行なう。前記フッ素化合物は、前記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物の分解物からなる。また、不均化する工程における雰囲気中にフッ素化合物を増やすために、塗布液中に更にフッ素化合物を添加することも有効である。添加されるフッ素化合物として、フッ化カルボン酸あるいはフッ化アルコール類が挙げられる。また、遮蔽した空間内にフッ素ガスを添加してもよい。
【0068】
フッ素含有有機マグネシウム化合物(F−X−Mg:単純化した構造式を示す。)の不均化反応によるフッ化マグネシウムへの反応は、単純化して以下の式で表される。
F−X−Mg → F−Mg + X
ここで、(A)加熱によりフッ素原子が外れること、(B)該フッ素原子がMg−X間の結合を切断し、(C)Mg−Fになる反応が進行する。
【0069】
しかし、フッ素原子は反応性が高いため、必ずしも(B)の反応になるとは限らず、(A)により発生したフッ素原子が系外に散逸してしまうことにより、期待される反応(C)が得られないことが考えられ、不均化工程におけるフッ素化が必ずしも上記の反応式の通りに行われている訳ではない。
【0070】
そのため、本発明では、(A)により発生したフッ素原子を散逸させないようにすることで、不均化によるフッ素化反応をより効率良く反応させることが可能になる。
【0071】
フッ素原子を散逸させない方法としては、本発明における光学膜を形成する塗布膜の外側を被覆部材で覆って外部から遮蔽すること、反応を促進させるために他のフッ素源を導入することも有効である。また、基材の形状によっては、基材そのものを遮蔽物として利用することが可能である。
【0072】
図2は、本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の他の実施態様を示す概略図である。21は基材、22は加熱手段、23は補助部材、光学膜を形成するための塗布膜24を示す。例えば、基材が凹レンズのような形状の場合、図2に示すように、基材21の凹面に設けられた塗布膜24の側を下側にして、そのまま(図2(A))または補助部材23(図2(B))を介して加熱手段22の上に設置する。このようにすることで、フッ素原子を散逸させないで不均化反応を行なうことができる。25は遮蔽した空間を示す。
【0073】
また、光学レンズのような、表面に傷が入ることを防止することを目的として、図2あるいは図3に示すように、基材に補助部材32を用いることが可能である。この場合においても、補助部材が光学膜を遮蔽する形式になっていることが重要である。図3は、本発明における加熱処理工程における遮蔽した空間内の状態の他の実施態様を示す概略図である。31は加熱手段、32は補助部材、33は基材、34は光学膜、35は被覆部材を示す。
【0074】
図3(A)は塗布膜を有する基材を被覆部材で遮蔽した状態、図3(B)は補助部材で遮蔽した状態、図3(C)は補助部材および被覆部材の両方で遮蔽した状態を示す。
【0075】
ここで、MgおよびFを含有する多孔質膜の元素比F/Mgが1.4≦F/Mg≦1.8の範囲が好ましく、1.4から1.6の範囲がより好ましい。F/Mg<1.4の場合、Mg−F以外の成分が多いため屈折率が高くなる。逆にF/Mg>1.8では空隙度が高くなりすぎるため、結果として膜強度が不足する。
【0076】
前記F/Mg以外の部分は、マグネシウムに対しフッ素化されていない部分であり、フッ素以外のその他の官能基(例えば−O−や−OH)が存在すると考えられる。
【0077】
被覆部材により遮蔽される空間体積を変化させることで、フッ素化比率を変えることが可能である。空間体積を変える事で、強度、屈折率を任意の値にすることが可能となる。同時に、フッ素以外の部分が存在することで、環境特性が悪化する。
【0078】
本発明における多孔質膜は、フッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する塗布膜を、加熱による不均化反応および加熱による結晶化により形成される。多孔質の測定は、ガス吸着法による比表面積/最高分布測定のよって行われるが、薄膜の場合、エリプソメトリーによる屈折率測定により行なうことができる。
【0079】
このように作成されたフッ化マグネシウム(F/Mg<2)の多孔質膜に対し、フッ素以外の部分と親和性の良い、更には反応性を有する酸化ケイ素前駆体を塗布、硬化することで強度に優れた、低屈折率の光学膜を作成することができる。前記多孔質膜上に、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を塗布した後、加熱処理して酸化ケイ素バインダーを形成する工程を有することが好ましい。
【0080】
酸化ケイ素前駆体としては各種ケイ素アルコキシド、シラザンおよびそれらの重合物を用いることが可能である。これらのうち、より反応性に富む、ポリシラザンが好ましい。ケイ素アルコキシドとして、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の同一または別異の低級アルキル基が挙げられる。
【0081】
ポリシラザンとしては、実質的に有機基を含まないポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部を置換基で置換した基がケイ素原子に結合したポリシラザン、アルコキシ基などの加水分解性基がケイ素原子に結合したポリシラザン、窒素原子にアルキル基などの有機基が結合したポリシラザンなどが挙げられる。
【0082】
酸化ケイ素前駆体は触媒を用いることで、硬化反応を促進することが可能である。ケイ素アルコキシドの場合、酸あるいは塩基触媒が挙げられる。シラザンの場合、各種アミン系化合物あるいは金属触媒およびその化合物が触媒として用いられる。
【0083】
酸化ケイ素前駆体は溶媒で希釈された溶液を、前記多孔質フッ化マグネシウム上に塗布する。シラザンあるいはその重合物の場合、反応性が高いため、疎水系溶媒を用いることが重要である。疎水系溶媒として、キシレンあるいはトルエン等の石油系溶媒、ジブチルエーテルが挙げられる。
【0084】
シラザンの場合、疎水系溶媒に希釈する際、あるいは希釈した後に触媒を添加することで、反応を抑制することが重要である。
【0085】
フッ化マグネシウムの多孔質膜上に塗布する酸化ケイ素前駆体を含む溶液は、シリカ換算で0.001≦SiO≦0.1の範囲のSi元素を含むことが好ましく、0.005≦SiO≦0.05の範囲がより好ましい。SiO<0.001では、バインダーとしての前駆体量が十分でなく、得られる膜の強度が十分でなく、SiO>0.1では強度は増すものの、屈折率が高くなる。
【0086】
ここでシリカ換算とは、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を完全に反応させた後の固形分量を表す。シリカ換算10質量%の酸化ケイ素前駆体を含む溶液を、反応を完全に行なうと、10質量%のシリカ(SiO)からなる焼成物を得ることができる。なお、有機修飾等、完全にSiOとならない場合はこの限りでない。
【0087】
酸化ケイ素前駆体は加熱することで硬化する。アルコキシドより反応性の高いシラザンでは、室温でシリカに転化するものもある。湿度を与えること、熱を加えることで、より緻密なシリカを形成する。
【0088】
本発明は、加熱処理による不均化反応を用いた低屈折率特性を有する光学膜を作成したのち、反応性の高い酸化ケイ素バインダーを形成することで、屈折率が低く、かつ優れた強度を有する光学膜および該光学膜を用いることで優れた反射防止性能を有する光学部品を得ることができる。
【0089】
同時にフッ素化の程度を制御することで作成される光学膜の屈折率を制御すると同時にフッ素化されていない、あるいはフッ素以外の部分が存在することで、作成されるフッ化マグネシウム膜の膜強度を向上することができる。
【0090】
更には、前述フッ素化された部分以外の部分を被覆するかあるいは反応する酸化ケイ素バインダーを形成することで、膜強度をアップし、かつ使用環境耐久性能を向上させることが可能となる。
【0091】
また、不均化反応により多孔質フッ化マグネシウムを作成した後、フッ素以外の部分と親和性の良い、更には反応性を有する酸化ケイ素前駆体を塗布した後、焼成することで得られた光学膜は低屈折率を呈する(nd=1.1〜1.3)。かつ、表面を擦っても傷が発生しない膜強度を有する。
【0092】
また、酸化ケイ素前駆体を塗布、焼成することで、高温高湿環境における光学膜の安定性が向上する。このことはマグネシウムの中のフッ素化されていない部分、あるいはその他の官能基(例えば−O−や−OH)が存在することで高温高湿環境で不安定になる部分が、酸化ケイ素前駆体と反応あるいは被覆されることで環境に対する安定性が向上すると考えられる。
【0093】
本発明における多孔質膜からなる光学膜は、多孔質化することで屈折率ndが、1.05以上1.3以下とバルクのフッ化マグネシウム(nd=1.38)と比較して極めて低い値を示す。
【0094】
多孔質膜上に酸化ケイ素バインダーを用いた場合においても、屈折率ndが1.1以上1.3以下とバルクのフッ化マグネシウム(nd=1.38)と比較して極めて低い値を示す。
【0095】
本発明における基材には、各種ガラスが用いられる。ガラスの具体例として、無アルカリガラス、アルミナケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムあるいは希土類を含有する高屈折率低分散ガラス、フッ素系低屈折率ガラス等の光学ガラスを挙げることができる。
【0096】
本発明における光学膜には、各種機能を付与するための層を更に設けることができる。例えば、透明基材とハードコート層との密着性を向上させるために接着剤層やプライマー層を設けたりすることができる。上記のように透明基材とハードコート層との中間に設けられるその他の層の屈折率は、透明基材の屈折率とハードコート層の屈折率の中間値とすることが好ましい。
【0097】
このような低屈折率の光学膜を、単独あるいは多層膜と組み合わせて光学部品に用いることで優れた反射防止性能の光学部品を実現することが可能となる。また、低屈折率であるため、多層膜構成における最上層に光学膜を用いた場合、界面反射の低下および斜入射特性が向上する。
【0098】
本発明における光学膜は、各種光学部品に適用することができる。カメラレンズ、双眼鏡や、プロジェクターなどの表示装置あるいは窓ガラスなどにも用いることが出来る。
【0099】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
【実施例1】
【0100】
〔反射率・屈折率測定用サンプル〕
直径30mm、厚さ1mmの合成石英基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄、乾燥した後、コーティング用基板とした。
【0101】
マグネシウムエトキシド(ALDRICH社製)1質量部、イソプロピルアルコール15質量部に対し、トリフルオロ酢酸10質量部を少しずつ加え、コーティング用塗料を作成した。マグネシウムエトキシドとトリフルオロ酢酸は反応して溶解することで、トリフルオロ酢酸マグネシウムが生成しているのが19F−NMRで認められた。
【0102】
前記石英基板に前記コーティング用塗料を、2000RPMの回転速度でスピンコートした後、石英基板裏面に傷が生じないよう、隙間1mmを有するアルミ製台を介して300℃に設定したホットプレートで1時間加熱した。その際、被覆部材として、ステンレス製カバー(アズワン(株)深型組バットミニ用、外寸法116×77mm、深さ約5mm)で、コーティングを施した基板を覆うことで、熱による不均化反応時の分解物を蒸散させないようにした。
【0103】
次いで得られた膜について、エリプソメーターを用いて、屈折率ndの測定を行った。各々の屈折率を表1に示す。
【0104】
〔屈折率の測定〕
分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)M−2000D)を用いて、波長190から1000nmの範囲で偏光解析により、屈折率および膜厚の解析を行なった。
【0105】
〔F/Mg測定〕
シリコン基板上に、上記反射率・屈折率測定用サンプルと同様の方法で成膜し、走査型蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用いて蛍光X線測定を行なうことで、作成した膜のフッ素/マグネシウム比(F/Mg)の測定をおこなった。その結果を表1に示す。
【0106】
[V/Sの算出]
基材の塗布面積S(mm)と被覆部材が形成する遮蔽空間の体積V(mm)からV/Sを算出する。なお、特に被覆部材を設けない場合はV/S=∞とした。その結果を表1に示す。
【0107】
〔光学膜の強度評価(1)〕
光学膜の強度評価として、(1)接触のみ:清浄化した手袋で触った場合を試験し、痕跡が残る場合を(×)、痕跡が認められない場合を(○)と判断した。その結果を表1に示す。
【0108】
〔総合判定〕
これら試験の結果、
◎ :屈折率が低く、強度が非常に優れる
○ :屈折率が低く、強度に優れる
×(1):屈折率が高い
×(2):強度不足
×(3):屈折率が高く、強度不足
と判定をおこなった。
【実施例2】
【0109】
マグネシウムエトキシド1質量部にトリフルオロ酢酸20質量部を加え、加温して完全に溶解することで、褐色溶液となる。前記溶液を冷却すると白色沈殿物が析出する。白色沈殿物を取り出し、トリフルオロ酢酸で洗浄したものを真空乾燥して白色結晶を得た。
【0110】
前記白色結晶2質量部をイソプロピルアルコール23質量部に溶解し、コーティング用塗料を作成した。
【0111】
作成したコーティング用塗料を実施例1と同様に塗布、成膜し、評価をおこなった。
【実施例3】
【0112】
マグネシウム粉末1質量部、1−ブタノール18質量部に対し、トリフルオロ酢酸25質量部を少しずつ加えてマグネシウムを溶解する。完全に溶解した後、0.20μmフィルターを用いてろ過した後、140℃で真空乾燥することで透明固形物を得た。
【0113】
前記透明固形物2質量部をイソプロピルアルコール25質量部に溶解し、コーティング用塗料を作成し、実施例1と同様に塗布、成膜し、評価をおこなった。
【実施例4】
【0114】
トリフルオロ酢酸をペンタフルオロプロピオン酸(CFCFCOOH、東京化成工業(株)製)に変更し、焼成温度を400℃に変えた以外は実施例2と同様に作成、評価をおこなった。
【実施例5】
【0115】
トリフルオロ酢酸をヘプタフルオロ酪酸(CF(CFCOOH、東京化成工業(株)製)に変更し、焼成温度を400℃に変えた以外は実施例2と同様に作成、評価をおこなった。
【実施例6】
【0116】
トリフルオロ酢酸をノナフルオロ吉草酸(CF(CFCOOH、東京化成工業(株)製)に変更し、焼成温度を400℃に変えたに以外は実施例2と同様に作成、評価をおこなった。
【実施例7】
【0117】
トリフルオロ酢酸をウンデカフルオロヘキサン酸(CF(CFCOOH、東京化成工業(株)製)に変更し、焼成温度を400℃に変えた以外は実施例2と同様に作成、評価をおこなった。
【実施例8】
【0118】
トリフルオロ酢酸を3,3,3−トリフルオロプロピオン酸(CFCHCOOH、東京化成工業(株)製)に変更し、焼成温度を400℃に変えた以外は実施例2と同様に作成、評価をおこなった。
【実施例9】
【0119】
実施例3において、ステンレス製カバーを内径34mm、深さ10mmの円筒形のアルミ製カバーに変えた以外は、実施例3と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例10】
【0120】
実施例3においてステンレス製カバーを内径34mm、深さ20mmの円筒形のアルミ製カバーに変えた以外は、実施例3と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例11】
【0121】
実施例3においてステンレス製カバーを内径34mm、深さ40mmの円筒形のアルミ製カバーに変えた以外は、実施例3と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例12】
【0122】
コーティング用ガラス基板として直径30mm、曲率半径18.17mmの平凹レンズ(SLB−30−40N、シグマ光機)を用い、実施例3のコーティング液を凹面側にスピンコーターで成膜した。コーティングした平凹レンズを厚さ1mmのアルミ製補助部材を介し、図2(B)に示すように配置することで、加熱時の分解物を凹レンズの凹面側に閉じ込めるようにして焼成を行った。サンプルは曲率を有するため、偏光解析測定は行なえず、反射率測定の値より屈折率を推定した(表1中ではカッコ付きで記載した。)。
【0123】
〔比較例1から6〕
実施例3から8において、カバーなしで加熱処理をおこなった以外は同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0124】
〔比較例7〕
実施例12において、凹面側に塗布、形成した膜を上側にした状態で焼成することでサンプルを作成した。そのときサンプルにはカバーをせず、焼成をおこなった以外は実施例12と同様に評価をおこなった。
【0125】
〔比較例8〕
酢酸マグネシウム4水和物3.45質量部をメタノール48.3質量部に溶解した。フッ化水素酸水溶液(濃度50%)1.29質量部をメタノール50質量部で希釈した後、前記酢酸マグネシウムメタノール溶液に、攪拌しながらに滴下することで、フッ化マグネシウム微粒子を含有するフッ化マグネシウムゾル溶液を合成する。
【0126】
フッ化マグネシウムゾル溶液150質量部をテフロン(登録商標)製の耐圧容器(オートクレーブ)に入れて密閉し、120℃の温度で24時間熱処理した。
【0127】
上記熱処理したフッ化マグネシウムゾルを濃縮したのち、イソプロピルアルコールで希釈することで塗布液を作成した。塗布液を焼成温度を200℃とし、実施例1と同様にコーティング用基板にスピンコートすることで成膜し、評価をおこなった。
【0128】
【表1】

【実施例13】
【0129】
テトラメトキシシラン(キシダ化学(株))1.329質量部、エタノール1.18質量部を混合する。塩酸(37%)0.03質量部、水1.34質量部、エタノール1.18質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合した。室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール100質量部を追加し、シリカ換算で0.005となるように、オーバーコート液を調製した。
【0130】
実施例3と同じ方法で作成した多孔質フッ化マグネシウム膜の上に、実施例1と同じスピンコート条件で上記オーバーコート液を塗布、200℃で焼成することで、酸化ケイ素バインダーを形成した光学膜を作成した。
【0131】
光学膜の強度評価として、(1)接触のみ:清浄化した手袋で触った場合、(2)拭き取り:250g/cmの圧力で10回拭いた場合、を実施し、痕跡が残る場合を(×)、痕跡が認められない場合を(○)と判断した。その結果を表2に示す。
【0132】
光学膜の屈折率ndの測定は、実施例1記載の方法で行った。
【実施例14】
【0133】
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合した。室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール500質量部を追加し、シリカ換算で0.01となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例15】
【0134】
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合した。室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール130質量部を追加し、シリカ換算で0.03となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例16】
【0135】
テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合した。室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール54質量部を追加し、シリカ換算で0.05となるように、オーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例17】
【0136】
ポリシラザン(アクアミカNN320−20、AZエレクトロニックマテリアルズ(株))1質量部、ジ−n−ブチルエーテル(キシダ化学(株))199質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.15質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.001となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例18】
【0137】
ポリシラザン2質量部、ジ−n−ブチルエーテル198質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.3質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.002となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例19】
【0138】
ポリシラザン5質量部、ジ−n−ブチルエーテル195質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)0.75質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.005となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例20】
【0139】
ポリシラザン10質量部、ジ−n−ブチルエーテル188.5質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)1.5質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.01となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例21】
【0140】
ポリシラザン15質量部、ジ−n−ブチルエーテル183質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)2質量部を混合した、そして、シリカ換算で0.015となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例22】
【0141】
ポリシラザン20質量部、ジ−n−ブチルエーテル177質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)3質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.02となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例23】
【0142】
ポリシラザン50質量部、ジ−n−ブチルエーテル142.5質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)7.5質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.05となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【実施例24】
【0143】
ポリシラザン100質量部、ジ−n−ブチルエーテル85質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)15質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.1となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0144】
〔比較例9〕
ポリシラザン150質量部、ジ−n−ブチルエーテル30質量部、酢酸パラジウム(II)ジ−n−ブチルエーテル(濃度0.1質量%)20質量部を混合した。そして、シリカ換算で0.151となるように、ポリシラザンオーバーコート液を調製した以外は、実施例13と同様にサンプルを作成、評価をおこなった。
【0145】
オーバーコートされるシリカバインダー量が多くなり、膜強度は優れているものの、屈折率nd=1.38とバルクのフッ化マグネシウムと変わらず、低屈折率膜としての効果が得られなかった。
【0146】
〔比較例10〕
比較例8で作成したフッ化マグネシウム膜上に、実施例21で作成したオーバーコート液を塗布することでサンプルを作成した以外は、比較例9と同様に評価をおこなった。
【0147】
〔比較例11〕
マグネシウムエトキシド(ALDRICH社製)1質量部、イソプロピルアルコール15質量部に対し、トリフルオロ酢酸10質量部を少しずつ加え、MgFゾル液を作成した。
【0148】
次いで、テトラメトキシシラン13.29質量部、エタノール11.8質量部を混合する。塩酸(37%)0.3質量部、水13.4質量部、エタノール11.8質量部を混合した触媒溶液を、前記溶液を攪拌しながら滴下、混合する。室温で1時間攪拌した後、イソプロピルアルコール130質量部を追加し、SiOゾル液を調製した。
【0149】
MgFゾル液60質量部、SiOゾル液40質量部を混合することでMgF/SiO一液塗布用塗料とする。
【0150】
前記塗料を実施例1と同様の方法で基板上に塗布、成膜することでサンプルを作成し、評価をおこなった。
【0151】
〔比較例12〕
MgFゾル液50質量部、SiOゾル液50質量部を混合した以外は比較例11と同様に作成、評価をおこなった。
【0152】
【表2】

【0153】
〔反射率測定〕
図4は、本発明の光学膜の有無による分光反射率の結果を示す図である。測定にはレンズ反射率測定機(オリンパス(株)、USPM−RU)を用い、入射角0度(垂直入射)における反射率を示す。
【0154】
〔環境試験〕
実施例21と比較例1サンプルを用いて、高温高湿環境(60℃、90RH%、200時間)での光学膜の安定性試験をおこなった。
【0155】
その結果を、図5に実施例21の環境試験結果、および図6に比較例1の環境試験結果を示す。その結果から、加熱処理で作成したフッ化マグネシウム膜単独では反射率が変化するが、酸化ケイ素バインダーを塗布することで耐久性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の光学膜の製造方法によれば、加熱処理による不均化反応を用いた低屈折率を有する光学膜が得られるので、反射防止性能を有する光学部品の光学膜に利用することができる。
【符号の説明】
【0157】
11 基材(支持体)
12 塗布膜
13 加熱手段
14 被覆部材
15 遮蔽した空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物を含有する溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を遮蔽した空間内で加熱処理して、MgおよびFを含有する多孔質膜を得る工程を有することを特徴とする光学膜の製造方法。
【化1】


(式中、Xは単結合を表すか、または置換基を有していてもよい−(CF−、−(CH−あるいは−(CF−(CH−を表す。n、mは1から4の整数を表す。)
【請求項2】
前記塗布膜を遮蔽した空間内で、フッ素化合物を含有する雰囲気中で加熱処理を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光学膜の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素化合物は、前記一般式(1)で表されるフッ素含有有機マグネシウム化合物の分解物からなることを特徴とする請求項2に記載の光学膜の製造方法。
【請求項4】
前記MgおよびFを含有する多孔質膜の元素比F/Mgが1.4≦F/Mg≦1.8であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の光学膜の製造方法。
【請求項5】
さらに前記多孔質膜上に、酸化ケイ素前駆体を含む溶液を塗布した後、加熱処理して酸化ケイ素バインダーを形成する工程を有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の光学膜の製造方法。
【請求項6】
前記酸化ケイ素前駆体を含む溶液は、シリカ換算で0.001≦SiO≦0.1の範囲のSi元素を含むことを特徴とする請求項5に記載の光学膜の製造方法。
【請求項7】
前記酸化ケイ素前駆体がポリシラザンを含むことを特徴とする請求項5または6に記載の光学膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学膜の製造方法によって製造された、屈折率ndが1.05以上1.3以下であることを特徴とする光学膜。
【請求項9】
請求項8に記載の光学膜を有することを特徴とする光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−48356(P2011−48356A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169605(P2010−169605)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】