説明

光学要素切替装置およびその光学要素切替装置を備えたレンズ鏡筒

【課題】外径方向および光軸方向における鏡筒の大型化を抑制しつつ、複数の光学要素のうちの所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けること。
【解決手段】被写体の光を通過する開口部を備えるベース202と、ベース202に対し光軸回りに回動可能に支持されるカム203と、NDフィルタ302と同数設けられ、光軸と直交する同一平面上に配置されるとともに、それぞれが一端部を支軸として回動可能にベース202に支持され、それぞれがNDフィルタ302を保持する複数のフィルタ枠201と、カム203の回動により、複数のフィルタ枠201が相互に干渉しないよう、開口301に重複する位置と当該開口301から退避したそれぞれの退避位置との間に移動可能にガイドされるガイド機構と、を備えた光学フィルタ切り替え機構を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の光学要素を備え、当該複数の光学要素の中の所望の光学要素を選択的に使用できるように、光路中に位置付ける光学要素を適宜切り替える光学要素切替装置およびその光学要素切替装置を備えたレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば濃度の異なる複数枚のNDフィルタを備え、当該複数枚のNDフィルタの中の所望のNDフィルタを光路上に選択的に位置付けるように、光路に対する各NDフィルタの位置を切り替えるNDフィルタ切替機構を備えたレンズ装置があった。このようなNDフィルタ切替機構を備えたレンズ装置は、撮影状況などに応じて、所望のNDフィルタを選択的に光路上に位置付けるように各フィルタの位置を切り替えることによって、レンズ鏡筒内に入射する外光量を多段階に調整することができる。
【0003】
このように、従来、濃度の異なる複数枚のNDフィルタなどのような複数の光学要素のうち、所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けるように、光路上に位置付けられる光学要素を切り替え可能とする光学要素切替機構、および当該光学要素切替機構を備えた光学装置があった。このような光学装置における従来の光学要素切替機構の一例を説明する。
【0004】
図21は、従来のNDフィルタ切替機構の一例を示す説明図である。図21において、従来のNDフィルタ切替機構2100は、複数のNDフィルタ2101を支持するターレット2102を備えている。ターレット2102は、光路2103から退避した位置に設けられた回動軸2104を中心として回動可能に設けられている。ターレット2102には、ターレット2102を回動させるための切り替えレバー(図示を省略する)などが連結されている。
【0005】
従来のNDフィルタ切替機構2100が備えたターレット2102において、各NDフィルタ2101は、それぞれ、回動軸2104までの距離が等しくなるような位置関係で支持されている。すなわち、各NDフィルタ2101は、回動軸2104を中心とする同一円周上に設けられている。また、各NDフィルタ2101および回動軸2104間の距離は、それぞれ、光路2103および回動軸2104間の距離と等しい。
【0006】
このような構成からなる従来のNDフィルタ切替機構2100においては、NDフィルタ切替機構2100の操作者が切り替えレバーを操作すると、当該切り替えレバーの動作に連動して、切り替えレバーに連結されているターレット2102が回動軸を中心として回動する。各NDフィルタ2101および回動軸2104間の距離は、それぞれ、光路2103および回動軸2104間の距離と等しいため、回動軸2104を中心とするターレット2102の回動によって、光路2103上に位置付けられるNDフィルタ2101を選択的に切り替えることができる。すなわち、複数のフィルタをひとつの保持枠に取付けるとともに、切替機構の回転支点をひとつにすることによって、光軸方向の厚みを抑えるようにした技術があった。
【0007】
また、従来、たとえばフィルターを撮像レンズの口径などに関係なく最も小型ですむ光路上のローパスフィルターと分光プリズムの間に切り替え機構と収納機構とともに収納設置し、フィルターを1本の軸に複数個の回動する保持具により積層収納され花車状カムによって光路上に選別施置し、フィルターの不使用時など当該フィルターが光路から排除された場合には別軸に1個だけ保持されたダミーガラスを自動的に復帰するように構成した技術があった(たとえば、下記特許文献1を参照。)。
【0008】
具体的に、この特許文献1に記載された技術においては、複数のフィルタを夫々保持具(保持枠)に取り付け、夫々の保持枠を光軸方向に重なり合わせて配置することによって、フィルタが鏡筒の外径より外周側にはみ出さないようなNDフィルタ切替機構(ハイビジョンカメラのフィルター収納交換機構)を実現している。
【0009】
また、従来、NDフィルタを保持したホルダを支点軸を中心として光軸と直交する方向に出し入れ移動させ、支点軸から延長する端部にレンズ鏡筒外へ突き出る作動片を設け、このホルダに対してレンズ鏡筒の外面に沿うように支点軸を中心として旋回動作可能に回動リンクを配置し、回動リンクの一端側にホルダの作動片と係合される操作片を設けるとともに旋回方向にばね付勢されるトグルばねを回動リンクに設けて、回動リンクの他端側を外部筐体に備えたスライドつまみの切り換え操作で旋回動作させるリンク機構を構成した技術があった(たとえば、下記特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実用新案登録第3146954号
【特許文献2】特開平11−194417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した図21に示した従来の技術では、光軸方向に切替え装置の小型化を実現することができるが、複数枚のNDフィルタ2101に対して、NDフィルタ切替機構2100におけるターレット2102の回転支点(回転軸2104)が1つであるため、NDフィルタ2101の切り替えをおこなった場合、ターレット2102の一部が鏡筒の外径よりも外周側にはみ出してしまう(図21における点線枠2105を参照)。このため、鏡筒の径方向における小型化が難しいという問題があった。
【0012】
また、上述した特許文献1に記載された従来の技術では、鏡筒外径方向における小型化を実現することができるが、複数のフィルタを光軸方向に重なり合わせて配置する構造であるため、光軸方向の小型化が難しいという問題があった。
【0013】
また、上述した特許文献2に記載された従来の技術では、NDフィルタを出し入れ移動させるリンク機構をNDフィルタごとに設ける必要がある。すなわち、複数のNDフィルタを備えたレンズ装置においては複数のリンク機構が必要となる。このため、部品点数が増加し、構造が複雑化するという問題があった。
【0014】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、外径方向および光軸方向における鏡筒の大型化を抑制しつつ、複数の光学要素のうちの所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けることができる光学要素切替装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる光学要素切替装置は、被写体の光を通過する開口部を備える固定ベース部材と、前記固定ベース部材に対し光軸回りに回動可能に支持される回動カム部材と、光学要素と同数設けられ、光軸と直交する同一平面上に配置されるとともに、それぞれが一端部を支軸として回動可能に前記固定ベース部材に支持され、それぞれが前記光学要素を保持する複数の保持部材と、前記回動カム部材の回動により、前記複数の保持部材が相互に干渉しないよう、前記開口部に重複する位置と当該開口部から退避したそれぞれの退避位置との間に移動可能にガイドされるガイド機構と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記ガイド機構が、前記保持部材に設けられるカムピンと、前記カムピンと嵌合し、前記固定ベース部材に設けられる第1のカムと、前記カムピンと嵌合し、前記回動カム部材に設けられる第2のカムと、を備え、前記第1のカムは、前記保持部材の一端部までの距離が常に一定である円弧部によって形成され、前記第2のカムは、光軸までの距離が常に一定である円周部と、光軸までの距離が変化する変形部と、によって形成され、前記回動カム部材は、第1の所定角度に回動された場合に、前記光学要素の一つを前記開口部に位置させ、かつ、当該光学要素に対応した前記カムピンを前記変形部におけるもっとも光軸に近い位置に位置させ、その他の前記光学要素を前記退避位置に位置させ、かつ、その他の前記光学要素に対応した前記カムピンを前記円周部に位置させることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記変形部が、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、前記第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、前記回動カム部材が、前記第1の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つの前記カムピンを前記第1の変形部と前記第2の変形部との第1の連結部もしくは、前記変形部と前記円周部との第2の連結部に位置させることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記変形部が、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、前記第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、前記回動カム部材が、第2の所定角度に回動された場合に、全ての前記光学要素が前記退避位置に位置させ、前記回動カム部材は、前記第1の所定角度もしくは、前記第2の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つの前記カムピンを前記第1の変形部と前記第2の変形部との第1の連結部もしくは、前記変形部と前記円周部との第2の連結部に位置させることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記保持部材が、前記固定ベース部材と前記回動カム部材との間に配置されることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記固定ベース部材が、前記保持部材と前記回動カム部材との間に配置されることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記固定ベース部材が、前記回動カム部材と対向した面から略光軸方向に突出し、略L字型からなる突起部を備え、前記突起部もしくは、前記回動カム部材は、弾性部材によって形成され、前記回動カム部材は、前記突起部に対して、バヨネット形式で取り付けられ、前記回動カム部材が、前記固定ベース部材と対向しない面が前記突起部の略光軸と直交する面と光軸方向において同一位置に設けられたことを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる光学要素切替装置は、上記の発明において、前記光学要素が、フィルタであることを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかるレンズ鏡筒は、上記の光学要素切替装置を備えたレンズ鏡筒であって、前記回動カム部材および前記固定ベース部材は、光軸を中心とする略円板形状からなり、前記回動カム部材の外径が、前記固定ベース部材の外径より小さく形成され、前記レンズ鏡筒の外周部と前記回動カム部材との間に設けられるとともに、光軸と直交する方向に沿って前記回動カム部材と積み重なる位置に設けられる別部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
この発明にかかる光学要素切替装置によれば、外径方向および光軸方向における鏡筒の大型化を抑制しつつ、複数の光学要素のうちの所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明にかかる実施の形態のレンズ装置を示す説明図である。
【図2】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その1)である。
【図3】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その2)である。
【図4】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その3)である。
【図5】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その4)である。
【図6】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その5)である。
【図7】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その6)である。
【図8】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その1)である。
【図9】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その2)である。
【図10】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その3)である。
【図11】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その4)である。
【図12】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その5)である。
【図13】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その6)である。
【図14】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構がとりうる各状態を示す説明図(その7)である。
【図15】カムの回転量と各NDフィルタの動作との関係を示すタイミングチャートである。
【図16】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構の動作を示す説明図(その1)である。
【図17】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構の動作を示す説明図(その2)である。
【図18】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その7)である。
【図19】この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構を示す説明図(その8)である。
【図20】この発明にかかる実施形態の光学フィルタ切り替え機構を備えたレンズ鏡筒を一部拡大して示す説明図である。
【図21】従来のNDフィルタ切替機構の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる光学要素切替装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
まず、この発明にかかる実施の形態の光学要素切替装置および当該光学要素切替装置を備えた光学装置の構成について説明する。図1は、この発明にかかる実施の形態のレンズ装置を示す説明図である。図1においては、この発明にかかる実施の形態のレンズ装置を、光軸を通り当該光軸に平行な平面で切断した断面を示している。
【0028】
図1において、この発明にかかる実施の形態のレンズ装置100は、鏡筒101を備えている。鏡筒101は、略円筒形状からなる。鏡筒101において、接眼側および対物側となる端部には、それぞれ、鏡筒101の内部を外部に開放する開口102、103が設けられている。
【0029】
鏡筒101は、接眼側(図1の紙面左右方向における右側)となる端部を、図示を省略する撮像装置本体に対向させた状態で、当該撮像装置本体に取り付けられる。この実施の形態においては、レンズ装置100によって、光学要素切替装置を備えた光学装置を実現することができる。
【0030】
撮像装置本体内には、撮像用の光電変換素子すなわち撮像素子が配置されている。撮像素子は、レンズ装置100を介して入射した外光を光電変換し、入射光量に応じた電気信号を出力する。撮像素子は、具体的には、たとえばCCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOSイメージセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子によって実現することができる。
【0031】
鏡筒101の内周側には複数(この実施の形態においては5つ)のレンズ群104、105、106、107、108が設けられている。複数のレンズ群104、105、106、107、108は、対物側(図1の紙面左右方向における左側)から順に、第1レンズ群104、第2レンズ群105、第3レンズ群106、第4レンズ群107、および、第5レンズ群108の順に配列されている。
【0032】
複数のレンズ群のうち、もっとも対物側に設けられた第1レンズ群104は、第1レンズ枠109と、当該第1レンズ枠109に保持された第1レンズ110と、によって構成されている。第1レンズ110は、1つのレンズであってもよいし、複数のレンズであってもよい。
【0033】
この実施の形態における第1レンズ110は、光軸方向に配列された複数のレンズによって構成されている。図1において、符号Cは、光軸を示している。第1レンズ枠109は、鏡筒101における対物側に取り付けられ、略円筒形状からなる。第1レンズ枠109は、鏡筒101に対する位置が固定されている。
【0034】
第2レンズ群105、第3レンズ群106、第4レンズ群107および第5レンズ群108は、1つのレンズあるいは複数のレンズによって構成されている。第2レンズ群105、第3レンズ群106、第4レンズ群107および第5レンズ群108は、それぞれ、鏡筒101に対して相対的に、光軸方向に沿って移動可能に設けられている。第2レンズ群105、第3レンズ群106、第4レンズ群107および第5レンズ群108を光軸方向に沿って移動可能とする構成については、公知の各種の技術を用いて容易に実現可能であるため、説明を省略する。
【0035】
レンズ装置100においては、第1レンズ群104を固定した状態で第2レンズ群105、第3レンズ群106、第4レンズ群107および第5レンズ群108を、光軸方向に沿って対物側あるいは接眼側へ移動させることによって、撮像装置が備えた撮像素子に対する焦点位置を調整することができる。
【0036】
鏡筒101内において、第3レンズ群106と第4レンズ群107との間には、光学フィルタ切り替え機構120が設けられている。この実施の形態においては、光学フィルタ切り替え機構120によって光学要素切替装置を実現することができる。光学フィルタ切り替え機構120は、複数枚のND(Neutral Density、減光)フィルタを備えており、操作者の操作に応じていずれか1つのNDフィルタを選択的に光路上に位置付けることが可能な構成とされている。
【0037】
図2、図3、図4、図5、図6および図7は、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120を示す説明図である。図2においては、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120を、光軸を通り当該光軸に平行な平面で切断した断面を示している。
【0038】
図3においては、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120の、対物側からの分解斜視状態を示している。図4、図5および図6においては、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120の一部を、対物側から見た状態を示している。図7においては、図2の一部を拡大して示している。
【0039】
図2、図3、図4、図5、図6および図7において、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、フィルタ枠201(201A、201B、201C)と、ベース202と、カム203と、固定用部材204と、を備えている。フィルタ枠201、ベース202、カム203および固定用部材204は、光軸方向に沿って対物側からフィルタ枠201、ベース202、カム203、固定用部材204の順に配置されている。
【0040】
固定用部材204は、鏡筒101に固定される。この固定用部材204には、ビス205を介してベース202が取り付けられている。これにより、ベース202は、固定用部材204を介して、鏡筒101に対する位置が固定される。ビス205は、光学フィルタ切り替え機構120における最外周側において、固定用部材204とベース202とを固定している。
【0041】
ベース202は、光軸Cを中心とする略円板形状をなしている。また、ベース202は、レンズ装置100における光路を開放するように、光軸方向に貫通する開口301を備えている。開口301は、円形をなしている。光学フィルタ切り替え機構120は、鏡筒101に対して、ベース202における開口301の中心が光軸と一致するように配置される。この実施の形態においては、ベース202によって固定ベース部材を実現することができる。また、この実施の形態においては、開口301によって、被写体の光を通過する開口部を実現することができる。
【0042】
フィルタ枠201は、それぞれ、NDフィルタ302(302A、302B、302C)を保持している。この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、3枚のNDフィルタ302を備えている。このため、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、3つのフィルタ枠201を備えている。この実施の形態においては、NDフィルタ302によって光学要素を実現することができる。この実施の形態においては、フィルタ枠201によって保持部材を実現することができる。
【0043】
光学フィルタ切り替え機構120が備えるNDフィルタ302の枚数は、3枚に限るものではない。光学フィルタ切り替え機構120が備えるNDフィルタ302の枚数は、4枚以上であってもよい。あるいは、光学フィルタ切り替え機構120が備えるNDフィルタ302の枚数は、2枚であってもよい。
【0044】
NDフィルタ302は、NDフィルタ302に入射する光量に対してNDフィルタ302を通過する光量を減少させる。NDフィルタ302を使用することによりシャッタースピードを下げることが可能になり、たとえば大口径レンズ使用時の晴天時の屋外ポートレート撮影などに際して、開放状態のまま撮影が可能になったり、シャッタースピードを下げることで長時間撮影による特殊効果を出したり、といった撮影ができる。
【0045】
この実施の形態においては、黒色あるいは金属蒸着による銀色などの濃さの度合いが異なる複数種類(この実施の形態においては3種類)のNDフィルタ302が取り付けられている。具体的には、たとえば「ND2」、「ND4」、「ND8」、「ND400」などの種類があり、「ND2」であれば光量は1/2、「ND400」であれば1/400の光量となる。光学フィルタ切り替え機構120において、各フィルタ枠201が保持するNDフィルタ302の濃度は、それぞれ異なっている。
【0046】
フィルタ枠201には、それぞれ、開口301と略同一径の開口303が設けられている。NDフィルタ302は、フィルタ枠201に設けられた開口を覆うような状態で、フィルタ枠201に保持されている。具体的に、NDフィルタ302は、たとえばフィルタ枠201に対して接着剤によって接着されている。
【0047】
フィルタ枠201は、それぞれ、回転支点軸受部304を備えている。フィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304は、ベース202に設けられた回転支点軸受部304に挿入される。これによって、フィルタ枠201は、それぞれ、フィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304およびベース202に設けられた回転支点軸305を介してベース202に軸支されている。
【0048】
また、フィルタ枠201は、フィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304およびベース202に設けられた回転支点軸305を中心として、回動可能に設けられている。フィルタ枠201は、それぞれ、光軸Cに直交する平面に沿って回動可能とされている。
【0049】
ベース202に設けられた回転支点軸305は、それぞれ、開口301の中心すなわち光軸Cを中心とする同一円周上に設けられている。また、ベース202に設けられた回転支点軸305は、それぞれ、光軸Cを中心とする同一円周上において、等間隔に設けられている。
【0050】
フィルタ枠201において、フィルタ枠201における開口303(の中心)と当該フィルタ枠201をベース202に軸支する回転支点軸受部304および回転支点軸305(の軸心)との間の距離は、ベース202における開口301(の中心)と回転支点軸受部304および回転支点軸305(の軸心)との間の距離と等しい。
【0051】
これにより、フィルタ枠201は、回転支点軸受部304および回転支点軸305(の軸心)を中心として回動すると、当該フィルタ枠201が保持するNDフィルタ302と開口301とが光軸方向において重なる位置、あるいは、当該NDフィルタ302が開口301から退避する位置に位置付けられる。この実施の形態においては、NDフィルタ302が開口301から退避し、もっとも開口301から離間した位置を、退避位置とする。
【0052】
ベース202は、フィルタ枠201の回動位置をガイドするスリット306(306A、306B、306C)を備えている。スリット306は、ベース202に設けられた円弧形状をなす溝によって実現されている。より詳細に、スリット306は、それぞれ、対応するフィルタ枠201の回動中心位置までの距離が常に一定である形状をなす溝によって実現されている。
【0053】
スリット306は、各フィルタ枠201にそれぞれ対応させて設けられている。すなわち、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120においては、ベース202において3つのスリット306が設けられている。この実施の形態においては、円弧状のスリット306によって第1のカムを実現することができる。
【0054】
フィルタ枠201は、それぞれ、カムピン401を備えている。カムピン401は、フィルタ枠201における接眼側の面から、光軸方向に沿って突出し、対応するスリット306にそれぞれ挿入される。各フィルタ枠201(201A、201B、201C)すなわちNDフィルタ302(302A、302B、302C)は、スリット306に対するカムピン401の位置に応じて、回転支点軸受部304および回転支点軸305(の軸心)を中心として回動する。
【0055】
なお、ベース202に設けられた回転支点軸305にフィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304を挿入することにより、回転支点軸受部304および回転支点軸305(の軸心)を中心としてフィルタ枠201を回動可能とする構成について説明したが、これに限るものではない。回転支点軸受部304および回転支点軸305の軸心位置を中心として、光軸Cに直交する平面に沿って各フィルタ枠201を回動可能とする構成であればよい。
【0056】
具体的には、たとえば、フィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304に代えて、ベース202に設けられた回転支点軸305と略同一径の開口をフィルタ枠201に設け、フィルタ枠201が備えた開口にベース202に設けられた回転支点軸305を挿入することによって、回転支点軸305(の軸心)を中心としてフィルタ枠201を回動可能とする構成を実現してもよい。
【0057】
また、具体的には、たとえばベース202に設けられた回転支点軸305に代えて、フィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304と略同一径の開口をベース202に設け、ベース202に設けられた開口にフィルタ枠201が備えた回転支点軸受部304を挿入することによって、回転支点軸受部304(の軸心)を中心としてフィルタ枠201を回動可能とする構成を実現してもよい。
【0058】
カム203は、光軸Cを中心とする略円板形状をなし、光軸方向において固定用部材204とベース202との間に挟持されている。中央に光軸Cを中心とする円形のカム用開口501を備えている。カム用開口501は、カム用開口501の中心が、開口301の中心すなわち光軸Cと一致するように設けられている。カム用開口501の開口径は、開口301の開口径よりも大きい。
【0059】
カム203は、光軸Cを中心として、ベース202に対して相対的に回動可能に設けられている。カム203は、ベース202における接眼側の面から光軸方向に突出するリング状の突起701によって、カム用開口501の中心が光軸Cと一致するようにベース202に対する位置が固定されている。
【0060】
図18および図19は、カム203を示す説明図である。図18および図19において、カム203は、カム203と対向した面から略光軸方向に突出し、略L字型からなる突起部1801、1901を備えている。突起部1801、1901は、弾性部材によって形成されている。もしくは、突起部1801のみでなくカム203全体が、弾性部材によって形成されていてもよい。
【0061】
カム203は、突起部1801に対して、バヨネット形式で取り付けられている。カム203は、ベース202と対向しない面が、突起部1801の略光軸と直交する面と光軸方向において同一位置になるように設けられている。突起部1801、1901は、リング形状でも、光軸を中心とする同一円周上に複数設けられてもよい。
【0062】
図20は、レンズ鏡筒101を一部拡大して示す説明図である。図20において、レンズ鏡筒101内において、ベース202およびカム203は、ポールやモータなどのヘッド部に対して図20に示したような位置関係に設けられている。
【0063】
カム203の外周縁には、ギア502が設けられている。このギア502は、図示を省略する切替レバーに連結されている。ギアと切替レバーとは、直接連結されているものに限らず、図示を省略するギア列などを介して連結されていてもよい。
【0064】
カム203において対物側の面には、カム溝503が設けられている。カム溝503には、スリット306を介してカムピン401が嵌合する。すなわち、カムピン401は、スリット306を介してベース202を板厚方向に貫通し、カム溝503に嵌合する。カムピン401は、各スリット306とカム溝503とが交差する位置において、カム溝503に嵌合する。
【0065】
カム溝503は、光軸Cまでの距離が常に一定である円周部503aと、光軸Cまでの距離が変化する変形部503bと、を備えている。カム溝503において、円周部と変形部503bとは、交互に出現する。カム溝503は、円周部503aと変形部503bとが交互に連なった1つの溝によって実現される。
【0066】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120におけるカム溝503は、環状ではなく、両端部において閉じている。円周部503aは、カム203の外周縁に沿って湾曲した形状をなす。変形部503bは、円周部503aの間を連結するように設けられ、円周部503aとの連結部の中間位置が光軸Cに近づくように略くの字形状に屈曲した形状をなす。この実施の形態においては、カム溝503によって第2のカムを実現することができる。
【0067】
つぎに、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120の動作について説明する。図8、図9、図10、図11、図12、図13および図14は、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120がとりうる各状態を示す説明図である。図8、図9、図10、図11、図12、図13および図14においては、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120を光軸方向における対物側から見た状態を示している。
【0068】
図8、図9、図10、図11、図12、図13および図14において、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、図8に示した状態を第1の状態とする。第1の状態においては、3つのNDフィルタ302がすべて光路から退避した位置に位置付けられている。以下、3つのNDフィルタ302がすべて光路から退避した位置に位置付けられている状態を、第1の状態として説明する。
【0069】
3つのNDフィルタ302のうち、NDフィルタ302Aが光路上に位置付けられ、NDフィルタ302B、302Cが光路から退避した位置に位置付けられている状態を、第2の状態として説明する。また、3つのNDフィルタ302のうち、NDフィルタ302Bが光路上に位置付けられ、NDフィルタ302A、Cが光路から退避した位置に位置付けられている状態を、第3の状態として説明する。さらに、3つのNDフィルタ302のうち、NDフィルタ302Cが光路上に位置付けられ、NDフィルタ302A、Bが光路から退避した位置に位置付けられている状態を、第4の状態として説明する。
【0070】
第1の状態から第2の状態へ移行する場合、図8の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図8における時計回り方向に回動させる。カム203が回動することにより、スリット306Aとカム溝503とが交差する位置、すなわちカムピン401Aが変形部503bに案内されて、移動する。鏡筒101に対するベース202の位置が固定されているため、カムピン401Aは、カム203の回動にともなってスリット306Aがなす円弧上を移動する。
【0071】
カムピン401Aは、カム203の回動にともなって、スリット306Aがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。NDフィルタ302Aは、スリット306Aがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動するカムピン401Aすなわちフィルタ枠201Aとともに移動し、光軸Cに近づく方向に移動する。
【0072】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第1の状態(すなわち図8に示した状態)から第2の状態(すなわち図10に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図8に示した状態から図9に示した状態を経て図10に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第1の状態から第2の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)およびフィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)、およびカム203のみが変位する。
【0073】
第2の状態から第3の状態へ移行する場合、図10の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図10における時計回り方向に回動させる。カム203が回動することにより、スリット306Aとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Aが変形部503bに案内されて、移動する。また、カム203が回動することにより、スリット306Bとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Bが変形部503bに案内されて、移動する。
【0074】
鏡筒101に対するベース202の位置が固定されているため、カムピン401Aはカム203の回動にともなってスリット306Aがなす円弧上を移動し、カムピン401Bはカム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上を移動する。カムピン401Aは、カム203の回動にともなって、スリット306Aがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。カムピン401Bは、カム203の回動にともなって、スリット306Bがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。
【0075】
カムピン401Aの移動とカムピン401Bの移動とは、並行しておこなわれる。具体的に、カムピン401Bは、カム203の回動にともなってスリット306Aがなす円弧上をカムピン401Aが光軸Cから離反する方向に移動している間に、カム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。これにより、光学フィルタ切り替え機構120においては、NDフィルタ302Aを光路から退避させながら、同時にNDフィルタ302Bを光路上に進出させ、当該NDフィルタ302Bを光路上に位置付けることができる。
【0076】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第2の状態(すなわち図10に示した状態)から第3の状態(すなわち図12に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図10に示した状態から図11に示した状態を経て図12に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第2の状態から第3の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)、およびカム203のみが変位する。
【0077】
第3の状態から第4の状態へ移行する場合、図12の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図12における時計回り方向に回動させる。カム203が回動することにより、スリット306Bとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Bが変形部503bに案内されて、移動する。また、カム203が回動することにより、スリット306Cとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Cが変形部503bに案内されて、移動する。
【0078】
鏡筒101に対するベース202の位置が固定されているため、カムピン401Bはカム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上を移動し、カムピン401Cはカム203の回動にともなってスリット306Cがなす円弧上を移動する。カムピン401Bは、カム203の回動にともなって、スリット306Bがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。カムピン401Cは、カム203の回動にともなって、スリット306Cがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。
【0079】
カムピン401Bの移動とカムピン401Cの移動とは、並行しておこなわれる。具体的に、カムピン401Cは、カム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上をカムピン401Bが光軸Cから離反する方向に移動している間に、カム203の回動にともなってスリット306Cがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。これにより、光学フィルタ切り替え機構120においては、NDフィルタ302Bを光路から退避させながら、同時にNDフィルタ302Cを光路上に進出させることができる。
【0080】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第3の状態(すなわち図12に示した状態)から第4の状態(すなわち図14に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図12に示した状態から図13に示した状態を経て図14に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第3の状態から第4の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)、フィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)、およびカム203のみが変位する。
【0081】
第4の状態から第3の状態へ移行する場合、図14の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図14における反時計回りに回動させる。カム203が回動することにより、カムピン401Bはスリット306Bがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。また、カム203が回動することにより、カムピン401Cは、スリット306Cがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。
【0082】
カムピン401Bの移動とカムピン401Cの移動とは、並行しておこなわれる。具体的に、カムピン401Cは、カム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上をカムピン401Bが光軸Cに近づく方向に移動している間に、カム203の回動にともなってスリット306Cがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。これにより、光学フィルタ切り替え機構120においては、NDフィルタ302Cを光路から退避させながら、同時にNDフィルタ302Bを光路上に進出させることができる。
【0083】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第4の状態(すなわち図14に示した状態)から第3の状態(すなわち図12に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図14に示した状態から図13に示した状態を経て図12に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第4の状態から第3の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)、フィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)、およびカム203のみが変位する。
【0084】
第3の状態から第2の状態へ移行する場合、図12の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図12における反時計回り方向に回動させる。カム203が回動することにより、スリット306Aとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Aが変形部503bに案内されて、移動する。また、カム203が回動することにより、スリット306Bとカム溝503とが交差する位置すなわちカムピン401Bが変形部503bに案内されて、移動する。
【0085】
鏡筒101に対するベース202の位置が固定されているため、カムピン401Aはカム203の回動にともなってスリット306Aがなす円弧上を移動し、カムピン401Bはカム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上を移動する。カムピン401Aは、カム203の回動にともなって、スリット306Aがなす円弧上を光軸Cに近づく方向に移動する。カムピン401Bは、カム203の回動にともなって、スリット306Bがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。
【0086】
カムピン401Aの移動とカムピン401Bの移動とは、並行しておこなわれる。具体的に、カムピン401Bは、カム203の回動にともなってスリット306Aがなす円弧上をカムピン401Aが光軸Cに近づく方向に移動している間に、カム203の回動にともなってスリット306Bがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。これにより、光学フィルタ切り替え機構120においては、NDフィルタ302Bを光路から退避させながら、同時にNDフィルタ302Aを光路上に進出させることができる。
【0087】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第3の状態(すなわち図12に示した状態)から第2の状態(すなわち図10に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図12に示した状態から図11に示した状態を経て図10に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第3の状態から第2の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)、およびカム203のみが変位する。
【0088】
第2の状態から第1の状態へ移行する場合、図10の状態にあるカム203を、光軸Cを中心として図10における反時計回りに回動させる。カム203が回動することにより、カムピン401Aはスリット306Aがなす円弧上を光軸Cから離反する方向に移動する。
【0089】
このように、光学フィルタ切り替え機構120においては、第2の状態(すなわち図10に示した状態)から第1の状態(すなわち図8に示した状態)へ移行する場合、各フィルタ枠201およびカム203が、図10に示した状態から図9に示した状態を経て図8に示した状態へと変位する。この実施の形態における光学フィルタ切り替え機構120においては、第2の状態から第1の状態へ移行するまでの間、フィルタ枠201B(およびNDフィルタ302B)およびフィルタ枠201C(およびNDフィルタ302C)は、円周部503aの案内によって、変位せずに、フィルタ枠201A(およびNDフィルタ302A)、およびカム203のみが変位する。
【0090】
図15は、カム203の回転量と各NDフィルタ302A、302B、302Cの動作との関係を示すタイミングチャートである。図15において、第1の状態にあるカム203を時計回り方向に回動させると、光路上に位置付けられるNDフィルタ302は、NDフィルタ302A→NDフィルタ302B→NDフィルタ302Cの順に切り替わる。
【0091】
NDフィルタ302AからNDフィルタ302Bへの切り替えや、NDフィルタ302BからNDフィルタ302Cへの切り替えに際しては、図15において符号1501、符号1502で示した区間において、2つのフィルタ枠201が並行して変位している。2つのフィルタ枠201が並行して変位する区間は、先に光路上に位置付けられていたNDフィルタ302が光路から退避する方向への変位を開始した後に開始される。
【0092】
すなわち、先に光路上に位置付けられていたNDフィルタ302が光路から退避する方向へ変位し始めてから、つづいて光路上に位置付けられるNDフィルタ302が変位を開始する。これによって、フィルタ枠201どうしが接触してフィルタ枠201やNDフィルタ302などを損傷することを確実に防止することができる。2つのフィルタ枠201が並行して変位することで、1つのフィルタ枠201を退避位置に移動させてから、他方のフィルタ枠201を光路に移動させる機構よりフィルタ切り替え機構120の外径方向における寸法を小さくすることができる。
【0093】
つぎに、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120における各フィルタ枠201どうしの関係について説明する。図16および図17は、この発明にかかる実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120の動作を示す説明図である。図16においては、光学フィルタ切り替え機構120が、光路に対する各NDフィルタ302の位置を、光路にNDフィルタ302が位置付けられていないフィルタなし状態から、第1の状態、第2の状態、第3および第4の状態に順次変化する際に動作するNDフィルタ302(フィルタ枠201)を示している。図17においては、光学フィルタ切り替え機構120が、光路に対する各NDフィルタ302の位置を、第4の状態、第3の状態、第2の状態、第1の状態およびフィルタなし状態に順次変化する際に動作するNDフィルタ302(フィルタ枠201)を示している。
【0094】
図16および図17に示すように、第2の状態と第3の状態との間における状態変化、第3の状態と第4の状態との間における状態変化に際しては、2つのフィルタ枠201すなわち2つのNDフィルタ302が並行して移動する。これによって、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、フィルタ枠201やNDフィルタ302の損傷を抑えつつ、NDフィルタ302の切り替えを迅速におこなうことができる。また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、複数のフィルタを切り替え、かつフィルタどうしが干渉しないような動作を、1つのカム203によって実現することができる。
【0095】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、フィルタ部分が鏡筒101外径からはみ出すことがなくなる。これによって、鏡筒101の製品外径を小さくできる。また、フィルタ枠201が移動時に相互に干渉しない構成であるため、フィルタが重なることがなく、光学フィルタ切り替え機構120の光軸方向における寸法を小さく(すなわち薄く)することができる。
【0096】
上記のようにこの実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、複数のフィルタをそれぞれ複数の保持部材に取り付けて、複数の保持部材が同一平面上に配置され、可動部材および固定ベース部材に複数の保持部材を開口位置と退避位置との間に自由移動させるガイド機構を備えることを特徴とする。
【0097】
以上説明したように、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120(光学要素切替装置)は、開口301(被写体の光を通過する開口部)を備えるベース202(固定ベース部材)と、ベース202に対し光軸C回りに回動可能に支持されるカム203(回動カム部材)と、NDフィルタ302(光学要素)と同数設けられ、光軸Cと直交する同一平面上に配置されるとともに、それぞれが一端部を支軸として回動可能にベース202に支持され、それぞれがNDフィルタ302を保持する複数のフィルタ枠201(保持部材)と、カム203の回動により、複数のフィルタ枠201が相互に干渉しないよう、開口301に重複する位置と当該開口301から退避したそれぞれの退避位置との間に移動可能にガイドされるガイド機構と、を備えたことを特徴としている。
【0098】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、複数のNDフィルタ302を光軸方向における同一位置に位置付けるとともに光路に対するNDフィルタ302の位置にかかわらずすべてのNDフィルタ302およびフィルタ枠201が鏡筒101の外径よりも外周側にはみ出すことがないように構成したので、外径方向および光軸方向における鏡筒101の大型化を抑制しつつ、複数の光学要素のうちの所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けることができる。
【0099】
また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、ガイド機構が、保持部材に設けられるカムピン401と、カムピン401と嵌合し、固定ベース部材に設けられるスリット306(第1のカム)と、カムピン401と嵌合し、カム203に設けられるカム溝503(第2のカム)と、を備え、スリット306は、フィルタ枠201の一端部までの距離が常に一定である円弧部によって形成され、カム溝503は、光軸Cまでの距離が常に一定である円周部503aと、光軸Cまでの距離が変化する変形部503bと、によって形成され、カム203が、光軸Cを中心として第1の所定角度に回動された場合に、1つのNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302A)を開口301に位置させ、かつ、当該NDフィルタ302Aに対応したカムピン401(たとえばカムピン401A)を変形部503bにおけるもっとも光軸Cに近い位置に位置させ、その他のNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302B、302C)を退避位置に位置させ、かつ、その他のNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302B、302C)に対応したカムピン401(401B、401C)を円周部503aに位置させることを特徴としている。
【0100】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、簡易な構成によって、外径方向および光軸方向における鏡筒101の大型化を抑制しつつ、複数のNDフィルタ302(NDフィルタ302A、302B、302C)のうちの所望のNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302A)を選択的に光路上に位置付けることができる。
【0101】
また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、変形部503bが、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、カム203は、第1の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つのカムピン401(たとえばカムピン401A)を第1の変形部と第2の変形部との第1の連結部もしくは、変形部503bと円周部503aとの第2の連結部に位置させることを特徴としている。
【0102】
あるいは、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、変形部503bが、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、カム203が、第2の所定角度に回動された場合に、全てのNDフィルタ302を退避位置に位置させ、カム203が、第1の所定角度もしくは、第2の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つのカムピン401(たとえばカムピン401A)を第1の変形部と第2の変形部との第1の連結部もしくは、変形部と円周部との第2の連結部に位置させることを特徴としていてもよい。
【0103】
このように、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、カム203が、各所定角度(0[deg]、48[deg],96[deg]、144[deg])に回動された場合に、各所定回動角度位置でのクリック感(保持力)を引き出すことができる。これによって、光学フィルタ切り替え機構120の操作性の向上を図ることができる。
【0104】
また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、ベース202が、フィルタ枠201とカム203との間に配置されることを特徴としている。この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、鏡筒101に固定されたベース202を基準としてフィルタ枠201やカム203を動作させることができる。これによって、フィルタ枠201やカム203の動作精度の向上を図ることができる。
【0105】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120における構成に代えて、フィルタ枠201が、ベース202とカム203との間に配置されるようにしてもよい。これによって、ベース202とカム203との間によってフィルタ枠201の位置を規制することができるので、部品点数を増やすことなく、簡易な構成によって、フィルタ枠201の脱落などを防止することができる。
【0106】
また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、カム203が、カム203と対向した面から略光軸方向に突出し、略L字型からなる突起部を備え、突起部もしくは、カム203が、弾性部材によって形成され、カム203が、突起部に対して、バヨネット形式で取り付けられ、カム203が、ベース202と対向しない面が突起部の略光軸と直交する面と光軸方向において同一位置に設けられたことを特徴としている。
【0107】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、簡易な構成によって、固定用部材204およびビス205を廃止することができるとともに、実施の形態1より光軸方向における鏡筒101の大型化を抑制しつつ、複数のNDフィルタ302(NDフィルタ302A、302B、302C)のうちの所望のNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302A)を選択的に光路上に位置付けることができる。
【0108】
また、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120は、光学要素が、NDフィルタ302であることを特徴としている。この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120によれば、外径方向および光軸方向における鏡筒101の大型化を抑制しつつ、複数の光学要素のうちの所望の光学要素を選択的に光路上に位置付けることができ、複数段階の濃度の切り替えを実現することができる。
【0109】
なお、この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120においては、NDフィルタ302によって光学要素を実現したが、光学要素はNDフィルタ302によって実現するものに限らない。具体的には、たとえばNDフィルタ302に代えて、外光中の赤外線を除去するための赤外線カットフィルタなどの光学要素として用いてもよい。
【0110】
また、この実施の形態のレンズ装置は、上記の光学要素切替装置120を備え、回動カム部材および固定ベース部材は、光軸を中心とする略円板形状からなり、回動カム部材の外径が、固定ベース部材の外径より小さく形成され、レンズ鏡筒の外周部と回動カム部材との間に設けられるとともに、光軸と直交する方向に沿って回動カム部材と積み重なる位置に設けられる別部材を備えたことを特徴としている。
【0111】
この実施の形態の光学フィルタ切り替え機構120を備えたレンズ鏡筒101によれば、鏡筒101の外周部とカム203との間のスペースを十分に活用し、別部材(ポールやモータのヘッド部など)を配置することによって、光軸方向における鏡筒101の大型化を抑制しつつ、複数のNDフィルタ302(NDフィルタ302A、302B、302C)のうちの所望のNDフィルタ302(たとえばNDフィルタ302A)を選択的に光路上に位置付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、この発明にかかる光学要素切替装置は、たとえば濃度の異なる複数枚のNDフィルタなどのような複数の光学要素を備え、当該複数の光学要素の中の所望の光学要素を選択的に使用できるように、光路中に位置付ける光学要素を適宜切り替える光学要素切替装置に有用であり、特に、薄型化が要求される光学要素切替装置に適している。
【符号の説明】
【0113】
100 レンズ装置
101 鏡筒
120 光学フィルタ切り替え機構
201 フィルタ枠
202 ベース
203 カム
302 NDフィルタ
306 スリット
401 カムピン
503 カム溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体の光を通過する開口部を備える固定ベース部材と、
前記固定ベース部材に対し光軸回りに回動可能に支持される回動カム部材と、
光学要素と同数設けられ、光軸と直交する同一平面上に配置されるとともに、それぞれが一端部を支軸として回動可能に前記固定ベース部材に支持され、それぞれが前記光学要素を保持する複数の保持部材と、
前記回動カム部材の回動により、前記複数の保持部材が相互に干渉しないよう、前記開口部と夫々の退避位置との間に移動可能にガイドされるガイド機構と、
を備えたことを特徴とする光学要素切替装置。
【請求項2】
前記ガイド機構は、
前記保持部材に設けられるカムピンと、
前記カムピンと嵌合し、前記固定ベース部材に設けられる第1のカムと、
前記カムピンと嵌合し、前記回動カム部材に設けられる第2のカムと、
を備え、
前記第1のカムは、前記保持部材の一端部までの距離が常に一定である円弧部によって形成され、
前記第2のカムは、光軸までの距離が常に一定である円周部と、光軸までの距離が変化する変形部と、によって形成され、
前記回動カム部材は、第1の所定角度に回動された場合に、前記光学要素の一つを前記開口部に位置させ、かつ、当該光学要素に対応した前記カムピンを前記変形部におけるもっとも光軸に近い位置に位置させ、その他の前記光学要素を前記退避位置に位置させ、かつ、その他の前記光学要素に対応した前記カムピンを前記円周部に位置させることを特徴とする請求項1に記載の光学要素切替装置。
【請求項3】
前記変形部は、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、前記第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、
前記回動カム部材は、前記第1の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つの前記カムピンを前記第1の変形部と前記第2の変形部との第1の連結部もしくは、前記変形部と前記円周部との第2の連結部に位置させることを特徴とする請求項2に記載の光学要素切替装置。
【請求項4】
前記変形部は、光軸を中心とする円周方向に対して第1の角度をなす第1の変形部と、前記第1の角度と異なる角度をなす第2の変形部とによって形成され、
前記回動カム部材は、第2の所定角度に回動された場合に、全ての前記光学要素が前記退避位置に位置させ、
前記回動カム部材は、前記第1の所定角度もしくは、前記第2の所定角度に回動されたときに、少なくとも一つの前記カムピンを前記第1の変形部と前記第2の変形部との第1の連結部もしくは、前記変形部と前記円周部との第2の連結部に位置させることを特徴とする請求項2に記載の光学要素切替装置。
【請求項5】
前記保持部材は、前記固定ベース部材と前記回動カム部材との間に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学要素切替装置。
【請求項6】
前記固定ベース部材は、前記保持部材と前記回動カム部材との間に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光学要素切替装置。
【請求項7】
前記固定ベース部材は、前記回動カム部材と対向した面から略光軸方向に突出し、略L字型からなる突起部を備え、
前記突起部もしくは、前記回動カム部材は、弾性部材によって形成され、
前記回動カム部材は、前記突起部に対して、バヨネット形式で取り付けられ、
前記回動カム部材は、前記固定ベース部材と対向しない面が前記突起部の略光軸と直交する面と光軸方向において同一位置に設けられたことを特徴とする請求項6に記載の光学要素切替装置。
【請求項8】
前記光学要素は、フィルタであることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の光学要素切替装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一つに記載の光学要素切替装置を備えたレンズ鏡筒であって、
前記回動カム部材および前記固定ベース部材は、光軸を中心とする略円板形状からなり、
前記回動カム部材の外径が、前記固定ベース部材の外径より小さく形成され、
前記レンズ鏡筒の外周部と前記回動カム部材との間に設けられるとともに、光軸と直交する方向に沿って前記回動カム部材と積み重なる位置に設けられる別部材を備えたことを特徴とするレンズ鏡筒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2011−107600(P2011−107600A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265048(P2009−265048)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】