説明

光学要素

【課題】眼鏡レンズ等に適用した場合、近赤外線の長波長側域の広い波長域における優れた熱線カット作用を奏して、目の保護の観点から望ましく、且つ、酷暑における熱線カットによる涼感が得られる光学要素を提供すること。
【解決手段】透明基材10の少なくとも一面に多層の無機蒸着膜16を備えた光学要素。無機蒸着膜16が、基材側から順に熱線カット複合層および光学複合層を備えている。熱線カット複合層は、周期表10族の群から選択される1種以上の金属元素(例えば、Ag)からなる又は基とする金属層と、該金属層の上下に隣接してチタニア(複合酸化物を含む。)からなる接着層とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材の少なくとも一面に膜構成が多層の無機蒸着膜を備えた光学要素に関する。特に、熱線カット(熱線反射)作用を有する眼鏡レンズとして、好適な発明に係る。
【0002】
ここでは、眼鏡用の熱線カットレンズを例に採り説明するが、これに限られるものではない。
【0003】
即ち、本発明に係る光学要素は、眼鏡用に限られず、各種ディスプレイの前面パネル、カメラ用レンズ・フィルター等の熱線カットが要望される他の光学要素にも適用できる。
【0004】
眼鏡に適用する場合は、有害光線(特に近赤外線)の遮断を目的として、ゴルフ、サイクリング、釣り、ヒッチハイク、ウォーキング、ドライブ、買い物、洗濯物干し等の屋外使用に好適である。
【0005】
なお、本願明細書・特許請求の範囲における各用語の意味は下記の如くである。
「透過率曲線」:分光光度計で測定した波長に対応する透過率の波形曲線、
「可視光線波長域」:380〜780nmの波長域、
「視感透過率τ」:JIS T7333(2005)に規定する透過率、
「熱線」:780〜2500nmの近赤外波長域の電磁波。
【背景技術】
【0006】
昨今、人間の眼(目)に対する近赤外線の影響が知られるようになってきている。以下に、インターネット情報の一部を、編集上の変更を加えて引用する。
【0007】
[柳澤裕之、“gooヘルスケア”、平成23年6月18日検索、<URL:http://health.goo.ne.jp/medical/search/10R20400.html]
「赤外線は、可視光線(390〜750nm)より長い750nm〜1000μmの波長を有する電磁波で、熱線とも呼ばれています。自然界では、太陽放射線が50%以上を占めますが、地上に存在する発熱体からも放射されています。太陽放射線の50%近くは、成層圏で水蒸気や二酸化炭素などに吸収されます。地球そのものも発熱体であり、3000〜5000nmの赤外線を放射しています。
【0008】
赤外線は、その波長により大きく近赤外線(750nm〜2500nm)と遠赤外線(2500nm〜1000μm)に分けられます。赤外線は、生体への影響として、主に眼障害や皮膚障害、熱中症を引き起こします。皮膚への透過吸収は、近赤外線(とくに、750〜1500nm)で最も大きく、深さ30mmにも達します。」
【0009】
そして、眼障害が下記のように現れると記載されている。
「・近赤外線
水晶体の白濁を引き起こし、白内障の原因となります。角膜炎や結膜炎の原因となることもありますが、紫外線と異なり遅発性です。
・遠赤外線
網膜火傷や虹彩萎縮、黄斑変性を引き起こします。」
【0010】
そこで、近赤外線等をカットする光学要素(光学フィルターやプラスチックレンズ)が、特許文献1・2等で提案されている。
【0011】
特許文献1には、「特定のリン酸エステル化合物と、銅イオンと、置換又は未置換のアミノ基とがアクリル系樹脂中に含有させた樹脂組成物からなる光学フィルター」(要約、請求項9等)に係るものが記載されている。
【0012】
特許文献2には、「紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物)とともに赤外線吸収剤(ジチオールニッケル錯塩)を含有させて、波長200〜400nm域の平均透過率が0.3%以下、波長400〜750nm域の平均光線透過率が50%以上、かつ、波長750〜1000nm域の平均光線透過率が15%以下のプラスチックレンズ」(要約、請求項1〜3等)に係るものが記載されている。
【0013】
しかし、これらの近赤外線カットは、何れも有機金属錯体を介して近赤外線カットに有効な金属イオンを樹脂中に導入するものである。近赤外線を安定してカットするためには、金属イオンを相当高濃度で樹脂中に含有させる必要がある。例えば、特許文献1の実施例1の如く、銅イオンの樹脂分中含有量が0.36g/100gであると、1200nmの波長で分光透過率が32%と、充分な近赤外線カット作用を望めない。また、同文献図1から推定される如く、それ以上の長波長域の近赤外線のカットを行うには更に異種の物質を混入させる必要があるため、非常に高価となってしまう。
【0014】
そして、実施例2の如く、樹脂中、特に高屈折率のプラスチックレンズの成形材料中に高濃度で有機金属錯体を均一分散混合させることは困難であると考えられる。ちなみに、特許文献1におけるアクリル系樹脂は、屈折率(n)1.49である。
【0015】
また、特許文献2に記載された「プラスチックレンズ」は、波長750〜1000nmの波長域で平均透過率が15%以下に係るものではあるが、図1〜2に示す如く、1000nmより長波長域では可視光線波長域以上に透過率が増大している。しかし、太陽光の分光放射照度分布によれば1000乃至1500nm以上の波長域の光も存在している。このため、本発明が目的とする、熱線からの眼の保護、さらには、熱線カットによる眼の涼感を得がたいと推定される。
【0016】
このように、近赤外線カット(熱線カット)の光学要素は、従来、1000nmより短波長域のカットを予定したものが殆どであった。
【0017】
前述の如く近赤外線は、波長域1500nmまで皮膚への透過吸収が最も大きく、その波長側域までのカットしなければ、眼障害に対しては有効でないと考えられる。
【0018】
さらに、昨今の酷暑日の多発にかんがみ、目元における涼しさ(涼感)も要求されるようになってきている。このとき、前述の如く、太陽光の放射光は1500nm以上においても存在していることから、酷暑等において涼感を得るためには、できるだけ長波長側の熱線もカットすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−7871号公報
【特許文献2】特開平7−92301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記にかんがみて、眼鏡レンズ等に適用した場合、近赤外線の広い波長域における熱線カット作用を奏して、目(眼)の保護の観点から望ましく、また、酷暑等における熱線カットによる涼感も得られる光学要素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記各構成の光学要素に想到した。
【0022】
透明基材の少なくとも一面に膜構成が多層の無機蒸着膜を備えた光学要素であって、
前記無機蒸着膜が、前記透明基材の表面側から順に熱線カット複合層および光学複合層を備え、前記熱線カット複合層が、周期表10族の群から選択される1種以上の金属元素からなる又は該金属元素を基とする金属層と該金属層の上下に隣接してチタニア(複合酸化物を含む。)からなる接着層とで構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の膜構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】膜構成(A)とした実施例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図3】膜構成(B)とした実施例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図4】膜構成(C)とした実施例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図5】膜構成(D)とした実施例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図6】膜構成(E)とした実施例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図7】膜構成(F)とした比較例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図8】膜構成(G)とした比較例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図9】膜構成(H)とした比較例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【図10】膜構成(I)とした比較例1〜4の熱線カットレンズの透過率のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態(光学要素)について、熱線カットレンズを例に採り説明する。ここでは、偏光素子レスの光学要素としての熱線カットレンズを、例に採り説明する。
【0025】
薄板状の偏光素子の片面又は両面に透明基材層を有している複層構造の偏光レンズにも本発明は、適用可能である。
【0026】
本実施形態の熱線カットレンズは、射出成形法又は注型成形法で成形する。
【0027】
そして、熱線カットレンズ形成材である透明基材は、有機ガラス基材(透明合成樹脂材料)でも無機ガラス基材でもよい。
【0028】
有機ガラス基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET:ポリエステル)、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート樹脂、芳香族アリルカーボネート樹脂、ポリチオウレタン、エピスルフィド樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド、ポリオレフィン系等を挙げることができる。
【0029】
より具体的には、「CR−39」(PPG CO.社製脂肪族アリルカーボネート樹脂、nD:1.50)、「MR−20」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、nD:1.60)、「MR−10」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、nD:1.67)、「MR−174」(三井化学株式会社製エピスルフィド樹脂、nD:1.74)、等を好適に使用可能である。
【0030】
上記無機ガラス基材としては、度無しレンズとする場合は、汎用の硼珪酸ガラスを使用する。度有りレンズとする場合は、屈折率(nD )1.55以上のものを得易い、バリウムクラウンガラス(BaK)1.54〜1.60、重クラウンガラス(SK)>1.54、特重クラウンガラス(SSK)>1.60、軽バリウムフリント(BaLF)>1.55、バリウムフリント(BaF)>1.56、重バリウムフリント(BaSF)>1.585等が好適である。なお、各有機ガラス及び無機ガラスの各略号の後の数字は、各基材(ガラス)の屈折率(nD) を示す。
【0031】
そして、有機ガラス基材の場合、耐擦傷性の見地から、通常、ハードコート14を形成し、該ハードコート14を形成する場合には、耐衝撃性を高めるため、プライマー層12を基材10との間に介在させることが望ましい(図1参照)。
【0032】
本発明の熱線カットレンズ(有機ガラス基材)の注型成形による製造に際して、レンズ基材の材料である重合性液状材料に、種々の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、染料、青味付け(ブルーイング)剤、内部離型剤、消臭剤、酸化防止剤、安定剤、重合開始剤等を必要に応じて添加してもよい。特に、紫外線吸収剤は、有害光線である紫外線カット(400nm以下)の作用を奏し、本発明の熱線カットと相乗して眼保護作用が顕著となり有効である。
【0033】
なお、樹脂硬化(重合)は、熱硬化重合、紫外線硬化重合等で行う。
【0034】
ここで、上記紫外線吸収剤としては、慣用のものを使用できる。例えば、ベンゾフェノン系、ジフェニルアクリレート系、立体障害アミン系、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシベンゾエート系、シアノアクリレート系、ヒドロキシフェニルトリアジン系等を挙げることができる。
【0035】
これらの内で、下記構造式(1)で示されるベンゾトリアゾール系のもの及びそれらの誘導体が望ましい。
【0036】
【化1】

【0037】
なお、紫外線吸収剤の配合量は、樹脂100部に対して、0.1〜6部(望ましくは1〜4部)とする。紫外線吸収剤の配合量が過少では、紫外線カットが困難となる。他方、過多では、全体透過率が低くなり、視認性を確保し難くなる。
【0038】
また、本発明の有機ガラス基材のレンズの表面は、一般的に行われている強化塗膜(ハードコート)を塗布し、硬度等の改質処理することが望ましい。
【0039】
ハードコートは、汎用のシリコーン系塗膜で形成する。該ハードコートは、通常、プライマー層を介する。
【0040】
プライマー層は、ウレタン系やエステル系の熱可塑性エラストマーで形成することが望ましく、通常、金属酸化微粒子等を添加して屈折率を上げて使用する。
【0041】
上記ハードコートおよびプライマー層には、紫外線吸収剤や、塗膜の平滑性を向上させるためにシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を含むレベリング剤、その他改質剤の添加も可能である。なお、紫外線吸収剤は、前述の有機ガラス基材に配合したものと同様なものを使用可能である。
【0042】
塗布(コーティング)方法としては、ディッピング法、スピンコート法の公知の方法から選ばれる。
【0043】
そして、本実施形態の眼鏡用レンズでは、上記有機ガラス基材上にプライマー層を介して形成したハードコート上に、ハードコート側から順に、熱線カット複合層および光学複合層を備えている。
【0044】
光学複合層と熱線カット複合層の順を逆にすると、熱線カット作用を得がたいとともに、必要な可視光線透過率を確保し難くなる。即ち、熱線カット膜の反射が大きいため、高反射ミラー膜となってしまい、ファッション性の観点からも好ましくない。熱線カット複合層の上に光学複合層を設けることにより、熱線カット作用およびファッション性に優れた反射防止及び低反射ミラー膜とすることができる。
【0045】
上記熱線カット複合層は、周期表10族の元素群(Cu、Ag、Au)からなる又は基とする金属層と、該金属層の上下に隣接してチタニア(酸化チタン;複合酸化物を含む。)からなる接着層とで構成されている。このときの金属としては、Agが、薄層で熱線カット率(熱線反射率)が高くて望ましい。なお、熱線カット複合層は、さらに、基材の上面にハードコート層を形成する場合、シリカ介在層を形成してもよい。ハードコート層密着性(接着性)を確保し易くなる(実施例膜構成(E))。
【0046】
金属層の厚みは、要求される熱線カット(熱線反射)率と可視光線透過率とのバランス(要求度)から設定する。Agからなる金属層の場合、例えば、10〜20nm、望ましくは12〜16nmとする。また、Agは、Pd,In,Cu等を微量含有する改質Ag基合金とすることが望ましい。Ag単体では、湿気、薬品(塩化物等)の影響を受けやすいためである。
【0047】
また、チタニア(複合酸化物)は接着層の作用を奏し、その厚みは、可及的に薄い方が望ましく、通常1〜50nm、望ましくは5〜30nmとする。
【0048】
光学複合層(光学フィルター)の膜構成設計は、眼鏡レンズに要求される可視光線波長域の反射乃至透過特性に応じて行なう。即ち、適宜反射防止膜やミラー膜を形成する。
【0049】
反射防止膜の設計は、通常、光学膜厚をλ/4(例えば、λ:500nm)の整数倍に選び、無反射条件から所要の屈折率を計算し、該屈折率を有する材料からなる層、又は、複層等価膜で置き換えることにより行う(小瀬他編「光工学ハンドブック」朝倉書店、1996.2、p170参照)。
【0050】
また、ミラー膜の設計は、透明な高屈折率、低屈折率のλ/4繰り返し光学複合層とする(同p171参照)。
【0051】
ここで、上記光学複合層の形成材料としては、下記のものを挙げることができる。
Ti,Ta,Zr,Nb,Sb,Y,In、Sn,La,Ce,Mg,Al,Siのいずれか、又は2種以上を金属成分とする無機酸化物、
Mg,La,Al,Li等の無機ハロゲン化物(特にフッ化物が望ましい。)、
【0052】
上記多層の無機蒸着膜の形成方法は、特に限定されないが、真空蒸着法(イオンアシスト法を含む。)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク放電法などの乾式メッキ法(PVD法)を使用して形成する。
【0053】
そして、上記の多層の無機蒸着膜のうちの1層又は、複数層を、イオンアシストを行って蒸着(成膜)してもよい(特開2003−202407号段落0006・0007等参照)。
【0054】
代表的な蒸着材料の屈折率(nD)を以下に示す(表示のものを除く)。
SiO2:1.43〜1.47
TiO2:2.2〜2.4
ZrO2:1.90〜2.1
Ta25:2.0〜2.3
ITO:2.0
【0055】
本実施形態では、多層の無機蒸着膜の最上層の上に、防汚性などの見地から、表面保護膜(例えば撥水防汚膜)を形成することが望ましい。
【0056】
撥水防汚膜としては、汎用のもの(例えば、KP−801M 信越化学工業社製)を使用可能であるが、フッ素変性有機基と反応性のシリル基を有するフッ素有機基導入シラン化合物を膜成分(主剤)とするコーティング剤からなり、水に対する接触角が80°以上であるもので形成することが望ましい。
【0057】
このフッ素有機基導入シラン化合物は、防汚性及び耐擦傷性が良好である。
【0058】
撥水防汚膜の膜厚は、通常0.001〜0.05μm、好ましくは0.001〜0.03μm、さらに好ましくは0.001〜0.02μmとする。撥水防汚膜の膜厚が0.001μm未満では、撥水防汚性能が期待できず、耐擦傷性や耐薬品性能に問題を生じる。また、0.05μmを超えると撥水防汚膜の表面光散乱による透過率の低下が生じ易くなる。
【0059】
撥水防汚膜の塗布方法は、ディッピング法・スピンコーティング法・刷毛塗り法・スプレー法など任意である。
【0060】
そして、上記の如く調製した各光学要素は、各透過率曲線において、基材が有機ガラスの場合、下記特性を有するものとすることが望ましい。
【0061】
780〜2500nmの近赤外波長域における、全体平均透過率が25%(さらには20%)以下であるとともに、視感透過率τが60%(さらには65%)以上である。
【0062】
また、基材が無機ガラスの場合、下記特性を有するものとすることが望ましい。
【0063】
780〜2500nmの近赤外波長域における、全体平均透過率が30%以下であるとともに、視感透過率τが50%(さらには55%)以上である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の効果を確認するために、比較例とともに行なった実施例について説明する。図1に実施例/比較例の光学要素のモデル断面図を示す。
【0065】
(1)光学基材は、下記のレンズ基材を使用した。
なお、レンズ基材の寸法仕様は、「外径75mmΦ、中心厚1.2mmt」とした。
【0066】
・屈折率(n)1.52:「BK−7(商品名)」(Schott AG社製、硼珪酸ガラス)、
・屈折率1.60:「MR−20(商品名)」(三井化学株式会社製;ポリチオウレタン系)樹脂100gに対して下記「UV−01(商品名)」を1.0gを他の副資材とともに添加して調製したもの、
・屈折率1.67:「MR−10(商品名)」(三井化学株式会社製;ポリチオウレタン系)、樹脂100gに対して下記「UV−02」を2.0g添加したもの、
・屈折率1.74:「MR−174(商品名)」(三井化学株式会社製;エピスルフィド系)、樹脂100gに対して下記「UV−02」を2.0g添加したもの。
【0067】
各基材は、前処理として40℃の10%水酸化ナトリウム水溶液に3分浸漬させ、次いで水洗、乾燥させたものを使用した。
【0068】
なお、紫外線吸収剤は、下記化合物名の市販品を使用した。
UV−01 2-(4-エトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
UV−02 2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール
UV−03 2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
【0069】
(2)各プライマー組成物は下記の如く調製したものを使用した。
【0070】
<プライマー組成物1>
市販のTPEE「ペスレジンA−160P」100部に、チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」57部、希釈剤としてメチルアルコール350部、及びシリコーン系界面活性剤「L−7001」1部を混合し、均一な状態になるまで撹拌して、プライマー組成物を調製した。
【0071】
<プライマー組成物2>
チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1120Z(S−7,G)」を210部に変更する以外はプライマー組成物1と同様にして調製した。
【0072】
なお、上記プライマー組成物及び下記ハードコート組成物の塗布は、ディッピング法(引き上げ速度:105mm/min)で行った。
【0073】
(3)各ハードコート組成物は下記の如く調製したものである。
【0074】
<ハードコート組成物1>
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン150部、テトラエトキシシラン25部に、メチルアルコール150部を加え、撹拌しながら0.01Nの塩酸40部を滴下して一昼夜加水分解を行って加水分解物を調製した。
【0075】
該加水分解物に、チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」170部、シリコーン系界面活性剤(L−7001)1部と、触媒としてアセチルアセトンアルミニウム1.0部を混合し、一昼夜撹拌し、ハードコート組成物を調製した。
【0076】
<ハードコート組成物2>
チタニア系酸化金属微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」を 350部に変更する以外はハードコート組成物1と同様にして調製した。
【0077】
(4)多層の無機蒸着膜(熱線カット複合層+光学複合層)は下記の如く形成したものである。
【0078】
真空室を60℃に加熱しながら、圧力1.33×10−3Pa以下まで排気し、イオンクリーニングを行った後、同真空蒸着を行った。
【0079】
なお、上記イオンクリーニングは、下記条件で行なった。
真空室内温度:60℃、加速電圧:500kV、ガス導入量: Ar;20sccm、
【0080】
(5)撥水防汚膜は、下記の如く形成したものである。
【0081】
1)薬品調製
フッ素系コーティング剤(信越化学工業社製KY−130(3))をフッ素系溶剤(信越化学工業社製FRシンナー)で希釈して固形分3%となるように調製したものを、スチールウール(日本スチールウール社製、#0、線径0.025mm)0.5gを上方が開放の円筒形の銅(容量:内径16mm×内高さ6mm)に詰めた容器に充填(薬品充填量1.0g)した後、120℃で1h乾燥させた。
【0082】
2)成膜
薬品を充填した上記容器を真空蒸発装置内にセットし、0.01Paの真空とした後、加熱源としてモリブデン製抵抗加熱ボートで0.6Å/sの成膜速度で蒸発させ0.005μmの撥水防汚膜を各被処理要素表面に形成した。
【0083】
(6)各実施例/比較例の光学要素(レンズ)の調製は、下記の如く行った。
【0084】
1)それぞれのレンズ基材に、プライマー組成物を塗布して、100℃×20min硬化後、ハードコート組成物を塗布し、120℃×2hの条件で硬化させ、プライマー/ハードコートを形成した。各実施例/比較例における、基材レンズ、プライマー組成物およびハードコート組成物の組合わせを表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
2)該プライマーコート/ハードコートを施した各レンズを回転するレンズドームにセットし、各実施例は表2−1に、各比較例は表2−2にそれぞれ示す膜構成設計に従って、多層の無機蒸着膜を前述の真空蒸着条件で形成した後、最表面に前述の条件で撥水防汚膜を成膜した。なお、熱線カット複合層は、物理膜厚(nm)表示とした。
【0087】
【表2−1】

【0088】
【表2−2】

【0089】
<試験方法及び結果>
上記で調製した各実施例・比較例の眼鏡用レンズ(光学要素)について、以下の1)〜3)の評価試験を行った。
【0090】
なお、分光透過率の測定は分光光度計U−4100((株)日立製作所製)を用いて、測定波長350〜2500nm、スキャンスピード1200nm/min、サンプリング間隔5nmの条件にて行った。
【0091】
1)密着性評価
各試験体は、カッターナイフでクロスハッチ(縦横共に10本線を引く)を罫書いた後、市販のセロハンテープ(ニチバン(株)製)を貼り付けて、勢いよく引き剥がす作業を10回繰り返し、膜の密着性を評価した。
【0092】
2)近赤外線域透過率評価
波長λ=780〜2500nmでの平均透過率を計算し評価を行った。
【0093】
3)可視光域透過率評価(視感透過率τ
視感度透過率を、JIS T7333に規定する測定方法に準じて求めた。
【0094】
ここでは、実施例及び比較例における試験結果の透過率曲線を図2〜10に示すとともに、評価試験の結果を表3−1、3−2に示す。
【0095】
表3−1、3−2から下記のことが分かる。
【0096】
1)熱線カット複合層を備えない比較例膜構成(I)(図10)の場合は、赤外線カット作用が殆どない。
【0097】
2)熱線カット複合層が本発明の膜構成例でない比較例膜構成(F)〜(I)とした各比較例1〜4群の場合は、熱線カット作用を奏するが、密着性において問題がある(表3−2)。
【0098】
3)熱線カット複合層が本発明の実施例膜構成(F)〜(I)とした各実施例1〜4の場合は、熱線カット作用とともに、密着性においても問題がない。
【0099】
なお、基材は、無機ガラス基材(実施例1・比較例1)より、有機ガラス基材(実施例2〜4・比較例2〜4)とした方が、熱線カット作用を得やすいことが分かる。
【0100】
【表3−1】

【0101】
【表3−2】

【符号の説明】
【0102】
10 光学基材(レンズ本体)
12 プライマーコート
14 ハードコート
16 多層の無機蒸着膜
18 表面保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一面に膜構成が多層の無機蒸着膜を備えた光学要素であって、
前記無機蒸着膜が、前記透明基材の表面側から順に熱線カット複合層および光学複合層を備え、前記熱線カット複合層が、周期表10族の群から選択される1種以上の金属元素からなる又は該金属元素を基とする金属層と該金属層の上下に隣接してチタニア(複合酸化物を含む。)からなる接着層とで構成されていることを特徴とする光学要素。
【請求項2】
前記金属層がAg又はAg基合金からなることを特徴とする請求項1記載の光学要素。
【請求項3】
前記透明基材が有機ガラス製であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学要素。
【請求項4】
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
780〜2500nmの近赤外波長域における、全体平均透過率が25%以下であるとともに、
視感透過率τが60%以上であることを特徴とする請求項3記載の光学要素。
【請求項5】
前記透明基材が無機ガラス製であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学要素。
【請求項6】
分光光度計にて測定された透過率曲線(以下「透過率曲線」)において、
780〜2500nmの近赤外波長域における、全体平均透過率が30%以下であるとともに、
視感透過率τが50%以上であることを特徴とする請求項5記載の光学要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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