説明

光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造

【課題】 オフセットを設けることなく光損失を低減することを可能とする光導波路構造の形成方法を提供する。
【解決手段】 半導体積層60Aを基板2の上に設け、マスク71を半導体積層60Aの上に形成し、マスク71を用いて半導体積層60Aをエッチングして導波路メサ5、第1のテラス3、第2のテラス4、第1のトレンチ6、第2のトレンチ7を形成し、導波路メサ5を埋め込むように樹脂体9を設け、導波路メサ5の上面5a及び樹脂体9の上に金属体10を設け、金属体10を加熱した後に冷却する。金属体10は、第1の領域21の上に設けられた第1の部分11と、第2の領域22の上に設けられた第2の部分12と、第1の部分と第2の部分とに接続され導波路メサ5の上面5aに接合する第3の部分13とを含む。第1の部分11は、第2の部分12よりも長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野の従来技術として、例えば特許文献1に記載の光導波路が知られている。この光導波路は、一対の直線部と、直線部同士を接続する屈曲した屈曲部とを含む。一般に、屈曲した導波路を伝播する光の強度分布は、その屈曲の径方向外側に偏ることが知られている。この強度分布の偏りに起因して、直線部と屈曲部との接続部において光損失が生じる場合がある。このような問題に対して、特許文献1に記載の光導波路では、直線部と屈曲部との接続部分において互いの中心軸をずらす(すなわちオフセットを設ける)ことによって、屈曲部における強度分布の偏りに起因した光損失の低減を図っている。特に、特許文献1には、所定の計算式を用いることにより比較的少ない演算量でもってオフセット量を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−109160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示されたオフセット量設計方法を用いてもなお、最適なオフセット量を算出することは容易でない。このため、例えば、種々のオフセット量の複数の光導波路を実際に作成し、その結果から最適なオフセット量を選ぶという方法が行われることが多い。また、最適なオフセット量が光の波長によって異なるので、一定のオフセット量が設定された光導波路を広い波長範囲において用いることが困難であった。
【0005】
また、たとえ上述したような方法で最適なオフセット量を求めることができたとしても、半導体の製造プロセスにおけるリソグラフィの精度では、例えばレジストマスクの微細な構造が丸まる等するため、そのオフセット量を正確に反映した光導波路を製造することが困難であった。
【0006】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、オフセットを設けることなく光損失を低減可能な光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る光導波路構造を形成する方法は、導波路メサと、第1及び第2のテラスと、第1のテラスと導波路メサとで規定される第1のトレンチと、第2のテラスと導波路メサとで規定される第2のトレンチとを含む光導波路構造を形成する方法であって、屈曲した基準線に交差する方向に沿って配列された第1の領域及び第2の領域と、第1の領域と第2の領域との間に位置する第3の領域とを含む主面を有する基板を用意する工程と、第1のクラッド層のための第1のIII-V族化合物半導体膜、コア層のための第2のIII-V族化合物半導体膜、及び第2のクラッド層のための第3のIII-V族化合物半導体膜を含む半導体積層を基板の主面の上に設ける工程と、導波路メサ、第1のテラス、及び第2のテラスを規定する第1のマスクを半導体積層の上に形成する工程と、第1のマスクを用いて半導体積層をエッチングすることにより、導波路メサ、第1のテラス、第2のテラス、第1のトレンチ、及び第2のトレンチを形成する工程と、導波路メサの上面、第1のテラスの上面、第2のテラスの上面、第1のトレンチの内面、及び第2のトレンチの内面の上に絶縁膜を形成する工程と、導波路メサを埋め込むように絶縁膜の上に樹脂体を設ける工程と、導波路メサの上面の上において樹脂体及び絶縁膜に開口部を設ける工程と、導波路メサの上面及び樹脂体の上に金属体を設ける工程と、金属体を加熱した後に冷却する工程と、を備え、導波路メサは、第1のクラッド層、コア層、及び第2のクラッド層を含み、第1のクラッド層、コア層、及び第2のクラッド層は基板の主面の上に順に積層されており、第1のテラス及び第1のトレンチは、第1の領域の上に設けられ、第2のテラス及び第2のトレンチは、第2の領域の上に設けられ、導波路メサは、第3の領域の上に設けられ、導波路メサは、屈曲した基準線に沿って延在しており、金属体は、第1の領域及び樹脂体の上面の上に設けられた第1の部分と、第2の領域及び樹脂体の上面の上に設けられた第2の部分と、第1の部分と第2の部分とに接続され導波路メサの上面に接合する第3の部分とを含み、第1の部分と第3の部分との接続部から第1の部分のエッジまでの距離は、第2の部分と第3の部分との接続部から第2の部分のエッジまでの距離よりも大きい、ことを特徴とする。
【0008】
この方法においては、基板の上に設けられた半導体積層をエッチングすることにより、導波路メサ、第1のテラス、第2のテラス、第1のトレンチ、及び第2のトレンチを形成する。導波路メサ、第1のトレンチ、及び第2のトレンチは、屈曲した基準線に沿って延在している。続いて、導波路メサの上面、第1のテラスの上面、第2のテラスの上面、第1のトレンチの内面、及び第2のトレンチの内面の上に絶縁膜を形成した後に、導波路メサを埋め込むようにその絶縁膜の上に樹脂体を設ける。続いて、導波路メサの上面を露出するように樹脂体及び絶縁膜に開口部を設ける。そして、導波路メサの上面及び樹脂体の上に金属体を形成する。この金属体は、基板の主面の第1の領域及び樹脂体の上に配置された第1の部分と、基板の主面の第2の領域及び樹脂体の上に配置された第2の部分と、第1の部分と前記第2の部分とに接続され導波路メサの上面に接触する第3の部分とを含む。また、その金属体において、第1の部分と第3の部分との接続部から第1の部分のエッジまでの距離は、第2の部分と第3の部分との接続部から第2の部分のエッジまでの距離よりも大きい。つまり、この金属体は、第1の部分が第2の部分よりも長い。続く工程では、この金属体を一旦加熱した後に冷却する。
【0009】
金属体の加熱のときには金属体の下の樹脂体も加熱され、ある程度柔らかくなる。そして、冷却のときには、まず、金属体の温度が低下し、続いて、金属体の下の樹脂体の温度が低下する。その際に、第1の領域の上の樹脂体の方が、第2の領域の上の樹脂体よりも早く冷却される。これは、第1の領域の上に設けられた金属体(第1の部分)の方が、第2の領域の上に設けられた金属体(第2の部分)よりも長いためである。このため、第1の領域の上の樹脂体の方が、第2の領域の上の樹脂体よりも、金属体を介した放熱が効率よく行われる結果、早く冷却される。つまり、第2の領域の上の樹脂体が硬化する前に、第1の領域の上の樹脂体が硬化する。第1の領域の上の樹脂体の硬化時の収縮により、導波路メサを基板の主面の法線方向に対して傾斜させると共に、導波路メサを基板の主面の法線方向に沿って圧縮するような応力が生じる。特に、導波路メサを基板の主面の法線方向に対して傾斜させるような応力は、樹脂体の収縮に伴って金属体が引っ張られることにより、その金属体に接合された導波路メサに伝達される。このため、この方法により形成される光導波路構造においては、導波路メサが基板の主面の法線方向に対して傾斜していると共に、導波路メサのコア層の断面内において歪の分布が生じている。
【0010】
その歪の分布により、この導波路メサのコア層の断面内には、バンドギャップの分布が生じる。バンドギャップの分布が生じると、導波路メサのコア層の断面内に屈折率の分布が生じる。上述したように、屈曲した導波路を伝播する光の強度分布は、その屈曲の径方向外側に偏るが、この屈折率の分布を利用することによって、その強度分布の偏りを抑制することが可能となる。したがって、この方法により形成される光導波路構造を用いれば、屈曲した導波路における強度分布の偏りに起因して導波路の接続部で生じる光損失を、オフセットを設けることなく低減することが可能となる。
【0011】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法は、第1のマスクを形成する前に、コンタクト層のための第4のIII-V族化合物半導体膜を半導体積層の上に形成する工程と、第4のIII-V族化合物半導体膜の上に第2のマスクを形成する工程と、第2のマスクを用いて第4のIII-V族化合物半導体膜をエッチングすることにより、第5のIII-V族化合物半導体膜を形成する工程と、をさらに備え、第1のマスクを形成する工程においては、半導体積層及び第5のIII-V族化合物半導体膜の上に第1のマスクを形成し、導波路メサ、第1のテラス、第2のテラス、第1のトレンチ、及び第2のトレンチを形成する工程においては、第1のマスクを用いて半導体積層及び第5のIII-V族化合物半導体膜をエッチングすることにより、導波路メサ、第1のテラス、第2のテラス、第1のトレンチ、及び第2のトレンチを形成し、導波路メサは、第2のクラッド層の上に積層されたコンタクト層を含む、ことができる。この方法によれば、コンタクト層の上面を導波路メサの上面として金属体と接触させることが可能となる。
【0012】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法は、金属体に接続された第1の電極を形成する工程と、基板の裏面の上に第2の電極を形成する工程と、をさらに備えることができる。この方法によれば、導波路メサのコア層に電流を注入することにより、導波路メサのコア層における屈折率の分布を調整することが可能な光導波路構造を形成することができる。
【0013】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法においては、金属体は、Tiからなる金属膜を含み、Tiからなる金属膜は導波路の上面に接合していることができる。この方法によれば、金属体と導波路メサとの密着性が良好となる。このため、樹脂体の収縮を金属体から導波路メサに確実に伝達することが可能となる。その結果、導波路メサのコア層の断面内における歪の分布を好適に生じさせることができる。
【0014】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法においては、第1の部分と第3の部分との接続部から第1の部分のエッジまでの距離と、第2の部分と第3の部分との接続部から第2の部分のエッジまでの距離との差は、5μm以上であることができる。この方法によれば、金属体の冷却のときに、第1の領域の上の樹脂体の方が、第2の領域の上の樹脂体よりも確実に早く冷却される。その結果、導波路メサのコア層の断面内における歪の分布を好適に生じさせることができる。
【0015】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法においては、コア層は、AlGaInAsからなる井戸層と、AlInAsからなるバリア層とを含む量子井戸構造を有することができる。この方法によれば、導波路メサのコア層の断面内における歪の分布に応じて、屈折率の分布を確実に生じさせることができる。
【0016】
本発明に係る光導波路構造を形成する方法においては、基板の主面からの導波路メサの高さは、導波路メサの幅の2倍以上4倍以下であることができる。この方法によれば、導波路メサに破損を生じさせることなく確実に導波路メサを傾斜させることができる。
【0017】
ここで、上記課題を解決するために、本発明に係る光導波路構造は、屈曲した基準線に交差する方向に配列された第1及び第2の領域と、第1の領域と第2の領域との間に位置する第3の領域とを含む主面を有する基板と、第1の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる第1のテラスと、第2の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる第2のテラスと、第3の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる導波路メサと、第1の領域の上において、第1のテラスと導波路メサとで規定される第1のトレンチと、第2の領域の上において、第2のテラスと導波路メサとで規定される第2のトレンチと、第1のテラスの上面、第2のテラスの上面、第1のトレンチの内面、及び第2のトレンチの内面の上に設けられ、導波路メサの上面の上に開口部を有する絶縁膜と、導波路メサを埋め込むように絶縁膜の上に設けられ、導波路メサの上面の上に開口部を有する樹脂体と、導波路メサの上面及び樹脂体の上に設けられた金属体と、を備え、導波路メサは、屈曲した基準線に沿って延在しており、導波路メサは、第1のクラッド層、コア層、第2のクラッド層、及びコンタクト層を含み、第1のクラッド層、コア層、第2のクラッド層、及びコンタクト層は、基板の主面の上に順に積層されており、金属体は、第1の領域及び樹脂体の上面の上に設けられた第1の部分と、第2の領域及び樹脂体の上面の上に設けられた第2の部分と、第1の部分と第2の部分とに接続され導波路メサの上面に接合する第3の部分とを含み、第1の部分と第3の部分との接続部から第1の部分のエッジまでの距離は、第2の部分と第3の部分との接続部から第2の部分のエッジまでの距離よりも大きく、導波路メサは、基板の主面の法線方向に対して傾斜している、ことを特徴とする。
【0018】
この光導波路構造においては、導波路メサの傾斜に伴って、導波路メサのコア層の断面内において歪の分布が生じる。このため、導波路メサのコア層の断面内において屈折率の分布が生じる。したがって、その屈折率の分布を利用することにより、屈曲した導波路メサを伝播する光の強度分布の偏りを抑制することが可能となる。したがって、この光導波路構造によれば、オフセットを設けることなく光損失を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、オフセットを設けることなく光損失を低減可能な光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る光導波路構造の構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図3】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図4】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図5】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図6】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図7】本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。
【図8】本実施形態に係る光導波路構造の導波路メサのコア層における歪の分布を示す図である。
【図9】比較例に係る光導波路構造の導波路メサのコア層における歪の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0022】
図1の(a)部は、本実施形態に係る光導波路構造を含む半導体光素子の一部を示す平面図である。半導体光素子としては、マッハツェンダー変調器や方向性結合器等が例示される。図1の(b)部は、図1の(a)部のI−I線に沿っての模式的な断面図である。なお、図1の(b)部に示される断面は、図1の(a)部に示される基準線RL1に直交する面である。
【0023】
図1に示されるように、光導波路構造1は、基板2を備えている。基板2は、主面2aと裏面2bとを有している。主面2aは、第1の領域21、第2の領域22、及び第3の領域23を含む。第1の領域21及び第2の領域22は、円弧状に屈曲した基準線RL1に交差する方向(ここでは直交する方向)に配列されている。第1の領域21及び第2の領域22は、基準線RL1の径方向内側から外側に向かう方向に順に配列されている。第3の領域23は、第1の領域21と第2の領域22との間に位置している。第3の領域23は、基準線RL1に沿って延びている。基板2は、第1導電型(例えばn型)のIII-V族化合物半導体からなる。基板2のIII-V族化合物半導体は、例えばInPとすることができる。
【0024】
光導波路構造1は、III-V族化合物半導体からなる第1のテラス3を備えている。第1のテラス3は、基板2の主面2aの第1の領域21の上に設けられている。第1のテラス3は、第1のクラッド層31、コア層32、及び第2のクラッド層33を有している。第1のクラッド層31、コア層32、及び第2のクラッド層33は、基板2の主面2aの上に順に積層されている。
【0025】
光導波路構造1は、III-V族化合物半導体からなる第2のテラス4を備えている。第2のテラス4は、基板2の主面2aの第2の領域22の上に設けられている。第2のテラス4は、第1のクラッド層41、コア層42、及び第2のクラッド層43を有している。第1のクラッド層41、コア層42、及び第2のクラッド層43は、基板2の主面2aの上に順に積層されている。
【0026】
光導波路構造1は、III-V族化合物半導体からなる導波路メサ5を備えている。導波路メサ5は、基板2の主面2aの第3の領域23の上に設けられている。基板2の主面2aからの導波路メサ5の高さは、例えば4μm程度である。導波路メサ5は、第1のクラッド層51、コア層52、第2のクラッド層53、及びコンタクト層54を有している。第1のクラッド層51、コア層52、第2のクラッド層53、及びコンタクト層54は、基板2の主面2aの上に順に積層されている。導波路メサ5は、基板2の主面2aの法線方向に対して、基準線RL1の径方向内側に向けて傾斜している。主面2aの法線方向に対する導波路メサ5の傾斜角度は、例えば3度程度である。
【0027】
導波路メサ5は、一対の側面5ba,5bbを有している。側面5ba及び側面5bbは、第1の領域21から第2の領域22に向かう方向に配列されている。側面5baは、後述する第1のトレンチ6を規定する側面である。換言すれば、側面5baは、導波路メサ5の傾斜方向内側の側面である。さらに換言すれば、側面5baは、基準線RL1の径方向内側の側面である。側面5bbは、後述する第2のトレンチ7を規定する側面である。換言すれば、側面5bbは、導波路メサ5の傾斜方向外側の側面である。さらに換言すれば、側面5bbは、基準線RL1の径方向外側の側面である。側面5baは、側面5bbよりも短い。より具体的には、側面5baの主面2aからの長さは、側面5bbの主面2aからの長さよりも短い。側面5baの主面2aからの長さと、側面5bbの主面2aからの長さと差は、例えば0.02%以上0.1%以下とすることができる。
【0028】
第1のクラッド層31,41,51は、第1導電型のIII-V族化合物半導体からなる。第1のクラッド層31,41,51のIII-V族化合物半導体は、例えばInPとすることができる。第2のクラッド層33,43,53は、第2導電型(例えばp型)のIII-V族化合物半導体からなる。第2のクラッド層33,43,53のIII-V族化合物半導体は、例えばInPとすることができる。コンタクト層54は、第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる。コンタクト層54のIII-V族化合物半導体は、例えばGaInAsとすることができる。第2導電型のドーパントは、例えばZnとすることができる。
【0029】
コア層32,42,52は、例えば、井戸層とバリア層とを交互に積層した量子井戸構造を有することができる。井戸層の積層数は、例えば25層とすることができる。バリア層の積層数は、例えば26層とすることができる。井戸層及びバリア層は、III-V族化合物半導体からなる。井戸層のIII-V族化合物半導体は、例えばAlGaInAsとすることができる。バリア層のIII-V族化合物半導体は、例えばAlInAsとすることができる。コア層32,42,52のバンドギャップ波長は、例えば1.4μm程度である。
【0030】
光導波路構造1は、第1のトレンチ6及び第2のトレンチ7を備えている。第1のトレンチ6は、基板2の主面2aの第1の領域21の上に設けられている。第1のトレンチ6は、第1のテラス3と導波路メサ5(側面5ba)とによって規定されている。第2のトレンチ7は、基板2の主面2aの第3の領域23の上に設けられている。第2のトレンチ7は、第2のテラス4と導波路メサ5(側面5bb)とによって規定されている。
【0031】
光導波路構造1は、絶縁膜8を備えている。絶縁膜8は、第1のテラス3の上面3a、第2のテラス4の上面4a、第1のトレンチ6の内面6a、及び第2のトレンチ7の内面7aの上に設けられている。絶縁膜8は、導波路メサ5の上面5a(すなわコンタクト層54の上面)の上に設けられた開口部8aを有している。つまり、導波路メサ5の側面5ba,5bbは絶縁膜8に覆われており、導波路メサ5の上面5aは絶縁膜8に覆われていない。絶縁膜8は、例えばシリコン酸化膜とすることができる。より具体的には、絶縁膜8は、SiOからなることができる。
【0032】
光導波路構造1は、樹脂体9を備えている。樹脂体9は、導波路メサ5を埋め込むように絶縁膜8の上に設けられている。より具体的には、樹脂体9は、第1のトレンチ6及び第2のトレンチ7に充填されると共に、第1のテラス3及び第2のテラス4の上に設けられる。樹脂体9は、導波路メサ5の上面5aの上に設けられた開口部9aを有している。つまり、導波路メサ5の上面5aは、樹脂体9に覆われておらず絶縁膜8及び樹脂体9から露出している。樹脂体9は、例えばBCBからなることができる。
【0033】
光導波路構造1は、金属体10を備えている。金属体10は、導波路メサ5の上面5a及び樹脂体9の上に設けられている。金属体10は、第1の部分11、第2の部分12、及び第3の部分13を有している。第1の部分11は、第1の領域21及び樹脂体9の上面9bの上に設けられている。第1の部分11は、樹脂体9の上面9bに接合されている。第2の部分12は、第2の領域22及び樹脂体9の上面9bの上に設けられている。第2の部分12は、樹脂体9の上面9bに接合されている。第3の部分13は、樹脂体9の開口部9a及び絶縁膜8の開口部8aにおいて導波路メサ5の上面5aの上に設けられている。第3の部分13は、導波路メサ5の上面5aに接合されている。第3の部分13は、第1の部分11と第2の部分12とに接続されている。
【0034】
第1の部分11と第3の部分13との接続部C1から第1の部分11のエッジE1までの距離D1は、第2の部分12と第3の部分13との接続部C2から第2の部分12のエッジE2までの距離D2よりも大きい。したがって、金属体10は、第1の部分11が第2の部分12よりも長く、第3の部分13に対して非対称な形状となっている。距離D1と距離D2との差は、例えば5μm以上とすることができる。より具体的には、距離D1は、例えば10μm程度とすることができる。距離D2は、例えば3μm程度とすることができる。金属体10は、例えば、Ti,Pt,Auの少なくともいずれかを含むことができる。例えば、金属体10は、Tiからなる金属膜、Ptからなる金属膜、及びAuからなる金属膜を順に積層することにより形成することができる。特に、導波路メサ5の上面5aと接合する金属膜は、Tiからなる金属膜とすることができる。
【0035】
光導波路構造1は、第1の電極14及び第2の電極15を備えている。第1の電極14は、第1のテラス3及び樹脂体9の上に設けられている。第1の電極14は、金属体10の第1の部分11に接続されている。第2の電極15は、基板2の裏面2bの上に設けられている。光導波路構造1においては、第1の電極14、第2の電極15、及び金属体10を用いることによって、導波路メサ5のコア層52に電流を注入することができる。
【0036】
ここで、導波路メサ5は、図1の(a)部に示されるように、円弧状に屈曲した基準線RL1に沿って延在している。また、第1のトレンチ6及び第2のトレンチ7は、導波路メサ5に沿って延在している。つまり、導波路メサ5、第1のトレンチ6、及び第2のトレンチ7は、本実施形態に係る半導体光素子Dにおける光導波路100の第1の屈曲部101を構成している。図1の(a)部に示されるように、光導波路100は、第1の屈曲部101の他に、第2の屈曲部102、第1の直線部103、及び第2の直線部104を有している。
【0037】
第2の屈曲部102は、第1の屈曲部101と同様の構成からなるが、基準線RL1と反対の方向に円弧状に屈曲した基準線RL2に沿って延在している。第1の直線部103及び第2の直線部104は、主に、直線状に延在している点、及び、導波路メサ5がコンタクト層54を有さない点で第1の屈曲部101と相違している。第1の屈曲部101と第2の屈曲部102、第1の屈曲部101と第1の直線部103、第2の屈曲部102と第2の直線部104は、オフセットを設けることなく接続されている。
【0038】
引き続いて、光導波路構造1を形成する方法について説明する。図2〜6は、本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法の主要な工程を示す図である。この方法においては、まず、図2の(a)部に示されるように、基板2を用意する(工程S101)。続いて、基板2の上に半導体積層60を設ける(工程S102)。半導体積層60は、第1のクラッド層31,41,51のための第1のIII-V族化合物半導体膜61、コア層32,42,52のための第2のIII-V族化合物半導体膜62、第2のクラッド層33,43,53のための第3のIII-V族化合物半導体膜63、及び、コンタクト層54のための第4のIII-V族化合物半導体膜64を含む。
【0039】
この工程S102では、第1のIII-V族化合物半導体膜61、第2のIII-V族化合物半導体膜62、第3のIII-V族化合物半導体膜63、及び第4のIII-V族化合物半導体膜64を、基板2の主面2aの上に順にエピタキシャル成長することにより、半導体積層60を形成する。半導体積層60における各半導体膜の成長は、例えば、有機金属気相成長法により行うことができる。
【0040】
第1のIII-V族化合物半導体膜61は、第1導電型(例えばn型)のIII-V族化合物半導体からなる。第1のIII-V族化合物半導体膜61のIII-V族化合物半導体は、例えばInPとすることができる。第1のIII-V族化合物半導体膜61における第1導電型ドーパント濃度は、例えば、5×1017cm−3程度である。第1のIII-V族化合物半導体膜61の膜厚は、例えば700nm程度である。
【0041】
第2のIII-V族化合物半導体膜62は、ノンドープのIII-V族化合物半導体層からなる。第2のIII-V族化合物半導体膜62は、例えば、井戸層とバリア層とを交互に積層した量子井戸構造を有することができる。井戸層の積層数は、例えば25層とすることができる。バリア層の積層数は、例えば26層とすることができる。井戸層のIII-V族化合物半導体は、例えばAlGaInAsとすることができる。バリア層のIII-V族化合物半導体は、例えばAlInAsとすることができる。第2のIII-V族化合物半導体膜62のバンドギャップ波長は、例えば1.4μm程度である。第2のIII-V族化合物半導体膜62の膜厚は、例えば380nm程度である。
【0042】
第3のIII-V族化合物半導体膜63は、第2導電型(例えばp型)のIII-V族化合物半導体からなる。第3のIII-V族化合物半導体膜63のIII-V族化合物半導体は、例えばInPとすることができる。第3のIII-V族化合物半導体膜63における第2導電型ドーパント濃度は、例えば、1×1018cm−3程度である。第3のIII-V族化合物半導体膜63の膜厚は、例えば1500nm程度である。
【0043】
第4のIII-V族化合物半導体膜64は、第2導電型のIII-V族化合物半導体からなる。第4のIII-V族化合物半導体膜64のIII-V族化合物半導体は、例えばGaInAsとすることができる。第4のIII-V族化合物半導体膜64における第2導電型ドーパント濃度は、例えば、2×1019cm−3程度である。第4のIII-V族化合物半導体膜64の膜厚は、例えば200nm程度である。
【0044】
続いて、図2の(b)部に示されるように、第4のIII-V族化合物半導体膜64の上にマスク(第2のマスク)70を形成する(工程S103)。ここで、基板2の主面2aの第1の領域21は、第1の部分領域21aと第2の部分領域21bとを含む。第1の部分領域21a及び第2の部分領域21bは、基準線RL1に交差する方向に配列されている。また、基板2の主面2aの第2の領域22は、第3の部分領域22aと第4の部分領域22bとを含む。第3の部分領域22a及び第4の部分領域22bは、基準線RL1に交差する方向に配列されている。
【0045】
第1の部分領域21aの上には、後の工程において第1のテラス3が設けられる。第2の部分領域21bの上には、後の工程において第1のトレンチ6が設けられる。第3の部分領域22aの上には、後の工程において第2のトレンチ7が設けられる。第4の部分領域22bの上には、後の工程において第2のテラス4が設けられる。この工程S103においては、第2の部分領域21bの少なくとも一部、第3の部分領域22aの少なくとも一部、及び第3の領域23の上に、マスク70を形成する。したがって、第1の部分領域21a及び第4の部分領域22bの上にはマスク70が形成されない。マスク70の幅は、導波路メサ5の幅よりも大きい。マスク70は、例えばシリコン窒化物からなることができる。より具体的には、マスク70は、例えばSiNからなることができる。
【0046】
この工程S103においては、例えば、次のようにマスク70を形成することができる。すなわち、この工程S103においては、まず、第4のIII-V族化合物半導体膜64の上に、例えば化学気相成長法によりSiN膜を堆積する。続いて、そのSiN膜の上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によりレジストマスクを形成する。そして、レジストマスクを用いてSiN膜をドライエッチングし、マスク70を形成する。
【0047】
続いて、図3の(a)部に示されるように、マスク70を用いて第4のIII-V族化合物半導体膜64をエッチングする(工程S104)。この工程S104のエッチングにより、第4のIII-V族化合物半導体膜64から第5のIII-V族化合物半導体膜65が形成される。また、この工程S104のエッチングにより、半導体積層60Aの一部が露出する。半導体積層60Aは、第1のIII-V族化合物半導体膜61、第2のIII-V族化合物半導体膜62、及び第3のIII-V族化合物半導体膜63を含む。この工程S104のエッチングの後、マスク70を除去する。
【0048】
続いて、図3の(b)部に示されるように、第1のテラス3、第2のテラス4、及び導波路メサ5を規定するマスク(第1のマスク)71を、半導体積層60Aの上に形成する(工程S105)。マスク71は、第1のマスク部71a、第2のマスク部71b、及び第3のマスク部71cを含む。第1のマスク部71aは、第1の部分領域21a及び半導体積層60Aの上に設けられており、第1のテラス3を規定する。第2のマスク部71bは、第4の部分領域22b及び半導体積層60Aの上に設けられており、第2のテラス4を規定する。第3のマスク部71cは、第3の領域23及び第5のIII-V族化合物半導体膜65の上に設けられており、導波路メサ5を規定する。マスク71は、第2の部分領域21b、及び第3の部分領域22aの上には設けられていない。マスク71は、マスク70と同様の材料から同様の方法により形成することができる。
【0049】
続いて、図4の(a)部に示されるように、マスク71を用いて半導体積層60A及び第5のIII-V族化合物半導体膜65をエッチングする(工程S106)。この工程S106のエッチングは、例えば、ハロゲン系ガス(例えば、塩素やヨウ化水素等)を用いたドライエッチングとすることができる。このエッチングの後、マスク71を除去する。この工程S106のエッチングにより、第1のテラス3、第2のテラス4、導波路メサ5、第1のトレンチ6、及び第2のトレンチ7が形成される。第1のテラス3は、第1のクラッド層31、コア層32、及び第2のクラッド層33を含む。第2のテラス4は、第1のクラッド層41、コア層42、及び第2のクラッド層を含む。導波路メサ5は、第1のクラッド層51、コア層52、及び第2のクラッド層53を含む。さらに、導波路メサ5は、この工程S106のエッチングにより第5のIII-V族化合物半導体膜65から形成されたコンタクト層54を含む。
【0050】
ここで、基板2の主面2aからの導波路メサ5の高さは、例えば4μm程度である。また、例えば、基板2の主面2aからの導波路メサ5の高さは、導波路メサ5の幅の2倍以上4倍以下とすることができる。さらに、第1のトレンチ6を規定する導波路メサ5の側面5baの主面2aからの高さ(長さ)と、第2のトレンチ7を規定する導波路メサ5の側面5bbの主面2aからの高さ(長さ)とは、互いに略同一となっている。
【0051】
続いて、図4の(b)部に示されるように、絶縁膜8Aを形成する(工程S107)。絶縁膜8Aは、第1のテラス3の上面3a、第2のテラス4の上面4a、導波路メサ5の上面5a、第1のトレンチ6の内面6a、及び第2のトレンチ7の内面7aの上に設けられる。この工程S107においては、絶縁膜8Aは、例えば、化学気相成長法によりシリコン酸化物(例えばSiO)を堆積することで形成することができる。
【0052】
続いて、図5の(a)部に示されるように、導波路メサ5を埋め込むように絶縁膜8Aの上に樹脂体9Aを設ける(工程S108)。樹脂体9Aは、第1のトレンチ6及び第2のトレンチ7に充填されると共に、第1のテラス3の上面3a、第2のテラス4の上面4a、及び導波路メサ5の上面5aに設けられる。この工程S108では、例えば、BCBをスピンコートで塗布した後に、そのBCBを窒素雰囲気下において摂氏280度〜摂氏320度の温度範囲で5分間程度ベークして熱硬化させることにより、樹脂体9Aを形成することができる。樹脂体9Aの厚さは、例えば1.5μm以上3.0μm以下とすることができる。
【0053】
続いて、図5の(b)部に示されるように、導波路メサ5の上面5aを露出するように樹脂体9A及び絶縁膜8Aに開口部を設ける(工程S109)。この工程S109により、導波路メサ5の上面5aの上に開口部8aを有する絶縁膜8、及び、導波路メサ5の上面5aの上に開口部9aを有する樹脂体9が形成される。この工程S109においては、例えば、導波路メサ5の上面5aの上に開口を有するレジストマスクを樹脂体9Aの上に形成した後に、そのレジストマスクを用いたドライエッチング及びバッファードフッ酸によって、導波路メサ5の上面5aの上の樹脂体9A及び絶縁膜8Aを除去することで、樹脂体9及び絶縁膜8を形成することができる。
【0054】
続いて、図6の(a)部に示されるように、導波路メサ5の上面5a及び樹脂体9の上に金属体10を設ける(工程S109)。金属体10は、第1の部分11、第2の部分12、及び第3の部分13を含む。第1の部分11は、第1の領域21及び樹脂体9の上面9bの上に設けられ、樹脂体9の上面9bに接合されている。第2の部分12は、第2の領域22及び樹脂体9の上面9bの上に設けられ、樹脂体9の上面9bに接合されている。第3の部分13は、導波路メサ5の上面5aの上に設けられ、導波路メサ5の上面5aに接合されている。第3の部分13は、第1の部分11と第2の部分12とを接続している。第1の部分11と第3の部分13との接続部C1から第1の部分11のエッジE1までの距離D1は、第2の部分12と第3の部分13との接続部C2から第2の部分12のエッジE2までの距離D2よりも大きい。
【0055】
この工程S110においては、例えば、リフトオフ法により金属体10を形成することができる。より具体的には、この工程S110においては、まず、金属体10のためのパターンを有するレジストマスクを樹脂体9の上に形成する。続いて、Ti,Pt,Auをこの順に真空蒸着する。その後、レジストマスクを除去(リフトオフ)することにより、金属体10が形成される。このとき、Tiからなる金属膜の膜厚は、例えば50nm以上100nm以下とすることができる。また、Ptからなる金属膜の膜厚は、例えば50nm以上100nm以下とすることができる。また、Auからなる金属膜の膜厚は、例えば150nm以上300nm以下とすることができる。
【0056】
続いて、金属体10を加熱して合金化する(工程S111)。この工程S111においては、例えば、窒素雰囲気下において5分以上10分以下の時間で室温から摂氏300度以上摂氏350度以下の温度範囲まで金属体10の温度を上昇させる。摂氏300度以上摂氏350度以下の温度範囲より低いと合金化せず、高いと樹脂が焦げてしまう虞がある。そして、この工程S111では、例えば、金属体10の温度を摂氏300度以上摂氏350度以下の温度範囲に2.5分以上5分以下程度の時間保持する。
【0057】
続いて、金属体10を冷却する(工程S112)。この工程S112では、例えば、まず、金属体10の温度を1分以上3分以下程度の時間で摂氏150度程度まで降温する。その後に、室温の大気中に取り出して自然放冷する。
【0058】
このように、金属体10を工程S111で一旦加熱した後に、工程S112で冷却することにより、図6の(b)部に示されるように、導波路メサ5が基板2の主面2aに対して傾斜する。これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、工程S111において金属体10を加熱したとき、樹脂体9も加熱されてある程度柔らかくなる。その後、工程S112において金属体10を冷却するときには、まず、金属体10の温度が低下し、続いて金属体10の下の樹脂体9の温度が低下する。
【0059】
第1の領域21の上に設けられた第1の部分11が、第2の領域22の上に設けられた第2の部分12よりも長いため、樹脂体9のうちの第1の領域21の上の部分(樹脂部91)の方が、第2の領域の上の部分(樹脂部92)よりも放熱性がよい。このため、樹脂体9の温度が低下するとき、樹脂部91の方が、樹脂部92よりも早く冷却される。このため、樹脂部92が硬化する前に、樹脂部91が硬化・収縮する。樹脂部91収縮によって、樹脂部91に接合された金属体10が、第2の領域22から第1の領域21に向かう方向(基準線RL1の径方向外側から内側に向かう方向)に引っ張られる。これに伴い、金属体10に接合された導波路メサ5に対して、同様の方向に応力が与えられる。その結果、同様の方向に導波路メサ5が傾斜する。
【0060】
続づく工程では、図7の(a)部に示されるように、基板2の裏面2bを研磨して、基板2の厚さを、例えば350μ程度から100μm程度まで薄くした後に、基板2の裏面2bの上に第2の電極15を設ける(工程S113)。一方で、例えば第1のテラス3の上に、第1の電極14を設ける。第1の電極14及び第2の電極15は、例えばリフトオフ法により形成することができる。
【0061】
以上のように形成された光導波路構造1においては、導波路メサ5のコア層52の断面内において、屈折率の分布が生じる。これは、以下の理由によると考えられる。上述したように、工程S111及び工程S112において、導波路メサ5に、第2の領域22から第1の領域21に向かう方向(すなわち主面2aに沿った方向)の応力が与えられる。一方で、工程S111及び工程S112においては、樹脂部91,92の硬化・収縮に起因して、基板2の主面2aの法線方向について導波路メサ5を圧縮するような応力が、導波路メサ5に与えられる。このため、光導波路構造1においては、導波路メサ5のコア層52の断面内において、応力の分布が生じる。その応力の分布の結果、導波路メサ5のコア層52には、図8に示されるような非対称な歪が生じる。
【0062】
図8の(a)部及び(b)部に示されるように、導波路メサ5のコア層52におけるx軸方向引っ張り歪、及びy軸方向圧縮歪は、x軸負方向に向かうにつれて(すなわち、導波路メサ5の傾斜の外側から内側に向かうにつれて)大きくなる。ここでのx軸方向は、基板2の主面2aに沿って第1の領域21から第2の領域22へ向かう方向であり、y軸方向は、基板2の主面2aの法線に沿って裏面2bから主面2aに向かう方向である。このように導波路メサ5のコア層52に非対称な歪が生じると、コア層52の断面内においてバンドギャップの分布が生じる。例えば、コア層52がAlGaInAs系量子井戸を有する場合、歪が相対的に大きい部分(例えば導波路メサ5の傾斜方向の内側に位置する部分)ではバンドギャップが小さくなる。
【0063】
この導波路メサ5のコア層52の断面内におけるバンドギャップの分布が、導波路メサ5のコア層52の断面内における屈折率の分布を生じさせる。例えば、コア層52がAlGaInAs系量子井戸を有する場合、バンドギャップが相対的に小さい部分(例えば導波路メサ5の傾斜方向の内側に位置する部分)の屈折率が相対的に高くなる。以上のように、この光導波路構造1の形成方法においては、導波路メサ5のコア層52の断面内において屈折率の分布を生じさせることができる。
【0064】
上述したように、屈曲した導波路を伝播する光の強度分布は、その屈曲の径方向外側に偏るが、光導波路構造1においては、屈折率の分布を利用することによって、光の強度分布の偏りを抑制することが可能となる。したがって、この方法により形成される光導波路構造1を用いれば、例えば、光導波路100の第1の屈曲部101と第1の直線部とを、オフセットを設けることなく接続した場合にも、光の強度分布の偏りに起因した光損失を低減することができる。
【0065】
さらに、光導波路構造1は、第1の電極15及び第2の電極14を備えている。したがって、光導波路構造1においては、導波路メサ5のコア層52に電流(電子)を注入することができる。注入された電子は、バンドギャップが相対的に小さい部分(例えば導波路メサ5の傾斜方向の内側に位置する部分)に存在しやすい。電子が存在すると、キャリアプラズマ効果によって、屈折率が低下する。したがって、バンドギャップが相対的に小さい部分の屈折率の向上を相殺することができる。このように、この光導波路構造1によれば、電流を注入することによって、導波路メサ5のコア層52の断面内における屈折率の分布を調整することができる。
【0066】
なお、本実施形態に係る方法によって形成された光導波路構造1においては、導波路メサ5に対して図8に示されるような非対称な歪が生じることから、導波路メサ5の側面5baの長さと側面5bbの長さとが互いに異なる。より具体的には、導波路メサ5の側面5baは、側面5bbよりも大きく圧縮されるため短くなっている。側面5baの主面2aからの長さと、側面5bbの主面2aからの長さと差は、例えば0.02%以上0.1%以下程度である。
【0067】
ここで、図7の(b)部は、比較例に係る光導波路構造の構造を模式的に示す断面図である。この比較例に係る光導波路構造1Aは、金属体10を備えていない点、絶縁膜8に替えて絶縁膜8Aを備える点、樹脂体9に替えて樹脂体9Aを備える点、及び、導波路メサ5に替えて導波路メサ5Aを備える点で、光導波路構造1と相違している。光導波路構造1Aは、例えば、光導波路100の第1の直線部103や第2の直線部104に用いられる。光導波路構造1Aの導波路メサ5Aは、コンタクト層54を有していない点、及び基板2の主面2aに対して傾斜していない点で導波路メサ5と相違している。このような光導波路構造1Aにおいては、図9に示されるように、導波路メサ5Aのコア層52の断面内において歪が非対称とならない。
【0068】
以上の実施形態は、本発明に係る光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造の一実施形態を説明したものであり、本発明に係る光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造は、上記のものに限定されない。本発明の光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造は、各請求項の要旨を変更しない範囲において、本実施形態に係る光導波路構造を形成する方法、及び光導波路構造を任意に変形したものとすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…光導波路構造、2…基板、2a…主面、2b…裏面、3…第1のテラス、3a…上面、4…第2のテラス、4a…上面、5…導波路メサ、5a…上面、5b…側面、6…第1のトレンチ、6a…内面、7…第2のトレンチ、7a…内面、8…絶縁膜、8a…開口部、9…樹脂体、9a…開口部、9b…上面、10…金属体、11…第1の部分、12…第2の部分、13…第3の部分、14…第1の電極、15…第2の電極、21…第1の領域、22…第2の領域、23…第3の領域、31,41,51…第1のクラッド層、32,42,52…コア層、33,43,53…第2のクラッド層、54…コンタクト層、60,60A…半導体積層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路メサと、第1及び第2のテラスと、前記第1のテラスと前記導波路メサとで規定される第1のトレンチと、前記第2のテラスと前記導波路メサとで規定される第2のトレンチとを含む光導波路構造を形成する方法であって、
屈曲した基準線に交差する方向に沿って配列された第1の領域及び第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間に位置する第3の領域とを含む主面を有する基板を用意する工程と、
第1のクラッド層のための第1のIII-V族化合物半導体膜、コア層のための第2のIII-V族化合物半導体膜、及び第2のクラッド層のための第3のIII-V族化合物半導体膜を含む半導体積層を前記基板の前記主面の上に設ける工程と、
前記導波路メサ、前記第1のテラス、及び前記第2のテラスを規定する第1のマスクを前記半導体積層の上に形成する工程と、
前記第1のマスクを用いて前記半導体積層をエッチングすることにより、前記導波路メサ、前記第1のテラス、前記第2のテラス、前記第1のトレンチ、及び前記第2のトレンチを形成する工程と、
前記導波路メサの上面、前記第1のテラスの上面、前記第2のテラスの上面、前記第1のトレンチの内面、及び前記第2のトレンチの内面の上に絶縁膜を形成する工程と、
前記導波路メサを埋め込むように前記絶縁膜の上に樹脂体を設ける工程と、
前記導波路メサの前記上面の上において前記樹脂体及び前記絶縁膜に開口部を設ける工程と、
前記導波路メサの前記上面及び前記樹脂体の上に金属体を設ける工程と、
前記金属体を加熱した後に冷却する工程と、を備え、
前記導波路メサは、前記第1のクラッド層、前記コア層、及び前記第2のクラッド層を含み、
前記第1のクラッド層、前記コア層、及び前記第2のクラッド層は前記基板の前記主面の上に順に積層されており、
前記第1のテラス及び前記第1のトレンチは、前記第1の領域の上に設けられ、
前記第2のテラス及び前記第2のトレンチは、前記第2の領域の上に設けられ、
前記導波路メサは、前記第3の領域の上に設けられ、
前記導波路メサは、前記屈曲した基準線に沿って延在しており、
前記金属体は、前記第1の領域及び前記樹脂体の上面の上に設けられた第1の部分と、前記第2の領域及び前記樹脂体の上面の上に設けられた第2の部分と、前記第1の部分と前記第2の部分とに接続され前記導波路メサの前記上面に接合する第3の部分とを含み、
前記第1の部分と前記第3の部分との接続部から前記第1の部分のエッジまでの距離は、前記第2の部分と前記第3の部分との接続部から前記第2の部分のエッジまでの距離よりも大きい、ことを特徴とする光導波路構造を形成する方法。
【請求項2】
前記第1のマスクを形成する前に、コンタクト層のための第4のIII-V族化合物半導体膜を前記半導体積層の上に形成する工程と、
前記第4のIII-V族化合物半導体膜の上に第2のマスクを形成する工程と、
前記第2のマスクを用いて前記第4のIII-V族化合物半導体膜をエッチングすることにより、第5のIII-V族化合物半導体膜を形成する工程と、をさらに備え、
前記第1のマスクを形成する工程においては、前記半導体積層及び前記第5のIII-V族化合物半導体膜の上に前記第1のマスクを形成し、
前記導波路メサ、前記第1のテラス、前記第2のテラス、前記第1のトレンチ、及び前記第2のトレンチを形成する工程においては、前記第1のマスクを用いて前記半導体積層及び前記第5のIII-V族化合物半導体膜をエッチングすることにより、前記導波路メサ、前記第1のテラス、前記第2のテラス、前記第1のトレンチ、及び前記第2のトレンチを形成し、
前記導波路メサは、前記第2のクラッド層の上に積層された前記コンタクト層を含む、
請求項1に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項3】
前記金属体に接続された第1の電極を形成する工程と、
前記基板の裏面の上に第2の電極を形成する工程とをさらに備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項4】
前記金属体は、Tiからなる金属膜を含み、
前記Tiからなる金属膜は前記導波路の前記上面に接合している、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項5】
前記第1の部分と前記第3の部分との接続部から前記第1の部分のエッジまでの距離と、前記第2の部分と前記第3の部分との接続部から前記第2の部分のエッジまでの距離との差は、5μm以上である、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項6】
前記コア層は、AlGaInAsからなる井戸層と、AlInAsからなるバリア層とを含む量子井戸構造を有する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項7】
前記基板の前記主面からの前記導波路メサの高さは、前記導波路メサの幅の2倍以上4倍以下である、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光導波路構造を形成する方法。
【請求項8】
屈曲した基準線に交差する方向に配列された第1及び第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間に位置する第3の領域とを含む主面を有する基板と、
前記第1の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる第1のテラスと、
前記第2の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる第2のテラスと、
前記第3の領域の上に設けられIII-V族化合物半導体からなる導波路メサと、
前記第1の領域の上において、前記第1のテラスと前記導波路メサとで規定される第1のトレンチと、
前記第2の領域の上において、前記第2のテラスと前記導波路メサとで規定される第2のトレンチと、
前記第1のテラスの上面、前記第2のテラスの上面、前記第1のトレンチの内面、及び前記第2のトレンチの内面の上に設けられ、前記導波路メサの上面の上に開口部を有する絶縁膜と、
前記導波路メサを埋め込むように前記絶縁膜の上に設けられ、前記導波路メサの前記上面の上に開口部を有する樹脂体と、
前記導波路メサの前記上面及び前記樹脂体の上に設けられた金属体と、
を備え、
前記導波路メサは、前記屈曲した基準線に沿って延在しており、
前記導波路メサは、第1のクラッド層、コア層、第2のクラッド層、及びコンタクト層を含み、
前記第1のクラッド層、前記コア層、前記第2のクラッド層、及び前記コンタクト層は、前記基板の前記主面の上に順に積層されており、
前記金属体は、前記第1の領域及び前記樹脂体の上面の上に設けられた第1の部分と、前記第2の領域及び前記樹脂体の上面の上に設けられた第2の部分と、前記第1の部分と前記第2の部分とに接続され前記導波路メサの前記上面に接合する第3の部分とを含み、
前記第1の部分と前記第3の部分との接続部から前記第1の部分のエッジまでの距離は、前記第2の部分と前記第3の部分との接続部から前記第2の部分のエッジまでの距離よりも大きく、
前記導波路メサは、前記基板の前記主面の法線方向に対して傾斜している、
ことを特徴とする光導波路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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