説明

光導波路

【課題】 外力による変形により生ずる曲線部分における放射損失の低減を図ることにより、広範な用途に適用可能な形状を有し、低損失であって、かつ、容易に製造することが可能な光導波路を提供する。
【解決手段】 有機材料からなる光導波路であって、コア層1とクラッド層2とを含み、信号光を入射−伝播−出射する光導波路10である。コア層1がクラッド層2の形成する略平面内に形成され、U字形状部を一部に有し、かつ、コア層1の形状変形が抑制されている。U字形状部は、好適には、コア層1とクラッド層2との界面における全反射の通常臨界角度より常に小さな角度を保つように決められた形状を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路に関し、詳しくは、簡易な工程により製造でき、伝送損失(伝搬損失)、特に放射損失の小さい光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信技術の発展に伴い、光スイッチや光合分波器などの光通信用部品を構成する基本素子として、高性能の光導波路の開発が望まれている。光導波路は一般に、基板上に、直接または下部クラッド層を介して、コア層および上部クラッド層を順次形成してなる構造を基本構造とする。そのコア層の材料としては、従来より、光伝播損失が小さいなどの利点から、光ファイバと同様に主として石英ガラス等の無機材料が用いられているが、最近では、加工性やコスト性に優れる合成樹脂などの有機材料を用いたポリマー光導波路について、検討が進められてきている。
【0003】
このような光導波路の製造方法としては、フォトリソグラフィーや反応性イオンエッチング(RIE)等を用いてコア層をパターン形成する方法が一般的である(例えば、特許文献1、2等に記載)。即ち、図5に示すように、まず、(a)基板101上にクラッド層102およびコア層103を順次塗布形成した後、(b)その上にマスク層104を形成し、(c)フォトリソグラフィーにより所望のコア層形状にパターニングする。さらに、(d)このマスク層104を用いてコア層103をRIE等により加工し、最後に(e)マスク層104を除去することで、所望の形状のコア層103を得ることができる。
【0004】
ところで、光導波路は、光ファイバと同様に、コア層とその周囲の層との屈折率差を利用して、層間の界面で光を全反射させながら伝搬させるものであるため、曲線部があると、その部分で光の漏れが生ずるという問題がある。従って、例えば、光ファイバーや柔軟性のあるフィルム光導波路等の従来の光デバイスを用いて、屋内配線や装置間、装置内配線等の短距離の伝送経路において光の伝送方向を反転させようとすると、外力等によるその変形によって光の漏れが生じてしまい、適用が困難となっていた。図6に、かかる従来の光デバイスの一例としてのフィルム光導波路100を用いた短距離光配線の一例を示す。
【0005】
このような曲線部または曲面部における光の放射損失の問題に対して、例えば、特許文献3には、曲線導波路と直線導波路を有し、コアとクラッドの屈折率差を、直線導波路よりも曲線導波路で大きくした光導波路が記載されている。また、特許文献4には、曲がり部分が複数の円弧を組み合わせて構成され、円弧を円と見なしたとき、辺の数が300以上の正多角形の辺として曲がり部分を構成してなる光回路パターンマスクを用いた高分子光導波路が記載されている。
【特許文献1】特開平6−347658号公報(段落[0010]〜[0012]等)
【特許文献2】特開平8−304650号公報(段落[0009]等)
【特許文献3】特開2000−131547号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2000−89051号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、FTTH(Fiber To The Home)などの普及に伴うインターネットの急速なブロードバンド化の流れにより、民生用の安価な光回路部品へのニーズが高まってきている。そのために、より広範な用途に適用可能な構造を有し、かつ、伝送損失が小さく、即ち高効率であって、さらに、生産性にも優れる光導波路を実現することが望まれていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、外力による変形により生ずる曲線部分における放射損失の低減を図ることにより、広範な用途に適用可能な形状を有し、低損失であって、かつ、容易に製造することが可能な光導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上述の問題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の光導波路は、有機材料からなる光導波路であって、コア層とクラッド層とを含み、信号光を入射−伝播−出射する光導波路において、前記コア層が前記クラッド層の形成する略平面内に形成され、U字形状部を一部に有し、かつ、該コア層の形状変形が抑制されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係る前記U字形状部は、前記コア層とクラッド層との界面における全反射の通常臨界角度より常に小さな角度を保つよう決められた形状を保持するものとすることが好ましい。また、本発明の光導波路は、例えば、前記クラッド層が下部クラッド層と上部クラッド層とからなり、前記コア層が該下部クラッド層と上部クラッド層とに挟持されているか、または、前記コア層が前記クラッド層上に形成されているものとすることができる。さらに、前記コア層は、光導波路の底面に対し傾斜した略平面内に形成されていてもよく、光導波路の底面に略並行な略平面内に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、配線等の広範な用途に好適に適用することができ、かつ、伝送損失が低く、安定した伝搬が可能な高性能の光導波路を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施の形態につき詳細に説明する。
図1(a)に、本発明の一好適例の光導波路の平面図を示す。図示するように、本発明の光導波路10は、コア層1とクラッド層2とを含み、コア層1を介して信号光を入射−伝播−出射するものであり、コア層1がクラッド層2の形成する略平面内に形成され、U字形状部を一部に有し、かつ、コア層1の形状変形が抑制されている点に特徴を有する。かかる本発明の光導波路10は、図示するように、コア層1の入射側および出射側の双方にコネクタ3を取り付けることで、例えば、配線板等において光の伝送方向を反転させる部品として使用することができる。図1(b)に、本発明の他の光導波路30を用いた光配線の一例を示す。また、本発明の光導波路を用いれば、例えば、図1(c)に示すような配線も可能である。図示する例では、光導波路10Aにより一つの配線板6A内(同一面内)での配線を行うとともに、光導波路10B、10Cにより複数、図示する例では2枚の配線板6A、6B間(異なる面間)での配線を行っている。
【0013】
本発明において、かかるU字形状部は、コア層1とクラッド層2との界面における全反射の通常臨界角度より常に小さな角度を保つよう決められた形状を保持するものとすることが好ましく、これにより光の漏れの低減を図ることができる。
【0014】
図2に、コア層1と、上下クラッド層2a、2bとを有する光導波路における光の伝搬を表す断面図を示す。図示するように、コア層1の屈折率をn1、上下クラッド層2a、2bの屈折率をn2とすると、コア層1内を伝搬可能な光の最大入射角θは下記式(1)、

により表される。即ち、光の入射角が上記式(1)により決定される通常臨界角度θよりも小さければ、その光はコア層1とクラッド層2との界面で全反射し、一方、入射角が上記θよりも大きければ、その光はクラッド層2から外部に放射されることになる。U字形状部の曲率半径が小さいほど通常臨界角度θも小さくなるため、放射損失は増大する傾向がある。従って、通常臨界角度θを維持するためにU字形状部の曲率半径が変形により小さくならないよう抑制することで、放射損失を低減できるのである。従来の光デバイスは、図6に示すように使い方次第で自在に変形してしまうため、これに伴い放射損失が増大するという不都合が生ずる。これに対し本発明の光導波路では、コア層の形状変形が抑制されているため、図1(b)に示すように、コネクタ等の接続部33同士の2点間距離が変化せず、かつ、コア層31がクラッド層32の形成する面内から外れることがない。このため、放射損失の低減を確実に図ることが可能となるのである。
【0015】
ここで、材料の種類や製法の違いによって、同じ形状の光導波路であっても放射損失の増大の仕方は変わってくる。材料に関しては、例えば、コア層とクラッド層との屈折率差、NA(開口数)の違いなどが影響し、また、製法によるコア層とクラッド層との界面の仕上がりの滑らかさ等も影響する。従って、コア層が略平面を維持している状態での放射損失が、その平面に垂直な方向での変形の仕方(曲率)によって増大を開始する限界の曲率についても、材料や製法の違いにより変わることになる。
【0016】
本発明の光導波路は、上記U字形状部を一部に有するコア層1が一平面内に形成されてなるものであればよく、その構造等については特に制限されるものではない。例えば、図1の平面図に示すように、コア層1がクラッド層2上に形成されてなるリッジ型構造や、図2の断面図に示すように、クラッド層が下部クラッド層2bと上部クラッド層2aとからなり、コア層1がこれらに挟持されている埋め込み型構造にて形成することができる。また、コア層1は、図示する例では光導波路10の底面に略並行な略平面内に形成されているが、光導波路10の底面に対し傾斜した略平面内に形成してもよく、この場合、光の伝送を三次元的に行うことが可能となる。この場合、コア層1の断面形状についても特に制限はなく、一般的な矩形状の他、略円形状としてもよく、この場合、伝送損失の低減にさらに寄与することができる。
【0017】
また、本発明の光導波路においては、その製造方法についても特に制限されるものではないが、特に、埋め込み型の場合には、上下クラッド層2a、2bのいずれかに、インプリント法(ホットエンボス法またはナノインプリント法とも称する)によりコア層1に対応する溝部を設ける方法を好適に用いることができる。
【0018】
図3に、かかるインプリント法を用いた本発明の光導波路10の製造工程の一例を示す。図示する例では、(a)基板5上に下部クラッド層2bを塗工した後、(b)かかる下部クラッド層2bに対し凹凸パターンが形成されたモールド16をプレスして、その凹凸パターンを下部クラッド層2b表面に転写することにより、溝部4を形成している(インプリント工程)。その後、(c)溝部4内にコア層1を塗工して、さらに、(d)上部クラッド層2aを積層することにより、光導波路10を製造することができる。
【0019】
上記のように、インプリント法を用いて溝部4の形成を行うことにより、従来のリソグラフィー法に必要な現像作業が不要となり、簡易な工程で効率良く製造を行うことが可能となる。また、ビーム系が不要であるため装置コストが抑制でき、化学増幅系などの高価なレジスト材料が不要となる点でもコストの低減に寄与することができる。さらに、インプリント法では、パターンの形状をそのまま転写することができるため、設計通りの3次元形状を容易に得ることができるとともに、従来のリソグラフィー法では対応できなかった曲面などの多様な断面形状にも、光導波路を形成することが可能となるという利点もある。
【0020】
上記インプリント工程においては、下部クラッド層2bの材料として、熱可塑性材料または熱硬化性材料を用いる熱インプリント法、または、光硬化材料を用いる光インプリント法のいずれかを、好適に採用することができる。このうち、熱可塑性材料を用いる場合には、そのガラス転移点以上の温度でモールド16のプレスを行った後、モールド16からの離型前に下部クラッド層2bの冷却硬化を行うことにより、形状精度良く溝部4のパターンを形成した下部クラッド層2bを形成することができる。また、熱硬化性材料を用いた場合には、プレス後、モールド16からの離型前に下部クラッド層2bの熱硬化を行い、光硬化材料を用いた場合には、同様にプレス後、モールド16からの離型前に、下部クラッド層2bの光硬化を行えばよい。いずれの場合においても、モールド16からの離型前に下部クラッド層2bを硬化させることができるため、所望の形状の溝部4のパターンを、歪みを生ずることなく形成することができる。
【0021】
熱インプリント法に用いることのできる下部クラッド層2bの材料としては、透明性に優れた熱可塑性材料および熱硬化性材料であればよく、特に制限されるものではない。例えば、熱可塑性材料としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。これらの材料は、単独もしくはブレンドして用いてもよく、ブレンドの場合には、ブレンドされる各々の材料の3次元網目構造が相互貫通している構造(IPN(Inter penetrating networks)構造)をとってもよい。上記材料の成分をブロックとして、共重合体としてもよい。また、上記材料に適量の溶剤を添加して、転写性を改良することも可能である。
【0022】
また、熱硬化性材料としては、シリコン系材料、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらの材料は、単品もしくはブレンドして用いてもよく、ブレンドの場合には、ブレンドされる各々の材料の3次元網目構造が相互貫通している構造(IPN構造)をとってもよい。上記材料の成分をブロックとして、共重合体としてもよい。
【0023】
次に、光インプリント法は、一般的に材料の硬化速度が速いので、熱インプリント法と比較して、プロセス時間を短くできる利点がある。かかる光インプリント法に用いることのできる光硬化材料は、(a)重クロム酸塩系感光性樹脂、(b)光分解型感光性樹脂、(c)光二量化型感光性樹脂、(d)光重合型感光性樹脂に分類される。
【0024】
(a)重クロム酸塩系感光性樹脂としては、ゼラチン、グルー、卵白、アラビアゴム、セラミックなどの天然高分子、あるいは、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリルアミドのような合成高分子に、重クロム酸アンモニウムあるいは重クロム酸カリウムを加えたものを挙げることができる。また、(b)光分解型感光性樹脂としては、芳香族ジアゾニウム塩系樹脂、o−キノンジアジド類樹脂、アジド化合物含有樹脂があり、(c)光二量化型感光性樹脂としては、桂皮酸エステル系樹脂が挙げられる。これらはいずれも、光インプリント法における下部クラッド層材料として用いることができる。
【0025】
さらに、(d)光重合型感光性樹脂としては、不飽和二重結合のラジカル重合反応を利用した光ラジカル重合系組成物、二重結合へのチオール基の付加反応を利用した光付加反応系組成物、および、エポキシ基の開環付加反応(カチオン重合)を利用した光カチオン重合系組成物等が挙げられる。このうち光ラジカル重合系組成物としては、(メタ)アクリロイル基、マレイン酸、フマル酸基を官能基として導入した不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和エポキシ樹脂、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、二重結合へのチオール基の付加反応を利用した光付加反応系組成物としては、ポリウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基にアリルアルコールを反応結合させたポリエンにペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)のようなチオール基を持つ化合物が挙げられ、光カチオン重合系組成物としては、光の照射により、BF3、SnCl4、PF5などのルイス酸を放出する化合物を光カチオン重合開始剤として用いて、エポキシ基などを光開環重合させるものが挙げられる。上記の光重合型感光性樹脂は、いずれも光インプリント法に使用可能である。
【0026】
なお、断面略円形状のコア層1を有する光導波路を製造する場合には、下部クラッド層に溝部を形成するにあたり、インプリント工程において使用するモールドとして、図4に示すような、凹凸パターンの凸側が、角部を有しない断面略半円形状であるモールド26を用いることが好ましい。図示するモールド26を用いることで、下部クラッド12bに転写される凹凸パターンの底部を断面略半円形状に形成することができ、図中の(c)に示すように、コア層11を断面略円形状に形成することが容易となる。
【0027】
なお、インプリント法では、前述したように熱収縮や光硬化収縮により寸法変化が生ずるため、使用する材料に応じて変化量をあらかじめ予測して、光導波路を設計する必要がある。また、解像度がモールドで定まってしまう点、モールド内に樹脂の残膜が発生する場合がある点にも注意を要する。
【0028】
図3(a)、(d)に示す下部クラッド層2bおよび上部クラッド層2aの形成は、使用する材料に応じて慣用の塗工方法により行えばよく、特に制限されるものではない。例えば、コンマ法、グラビア法等を用いることができる。また、図3(c)に示す溝部4内へのコア層1の塗工は、特に制限されるものではなく、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット、ディスペンサー塗布等の慣用の印刷方法により印刷する手法を用いることができる。特に、断面略円形状のコア層を得るためには、インクジェットまたはディスペンサー塗布、中でも、ディスペンサー塗布の手法を用いることが好ましい。図3(d)に示す上部クラッド層2aの塗工後には、熱ないし光(紫外線(UV)、電子線(EB)等)を適宜付与して、未硬化の部分を硬化させることにより、光導波路10を得ることができる。なお、図3(c)に示すコア層1の塗工後にも、コア層をある程度硬化させて形状を保持するために、熱ないし光を付与することが可能である。特に、断面略円形状のコア層とする場合には、塗工後に熱ないし光硬化を行うことが好ましい。
【0029】
本発明に係るコア層1の材料としては、特に制限されるものではなく、光硬化材料、熱硬化性材料、熱可塑性材料等の各種モノマー(溶液も含む)、オリゴマー(溶液も含む)、ポリマー溶液のうちから、透明性や耐熱性等のコア層としての要求特性等の観点から、適宜選択して用いることができる。但し、上下クラッド層よりも高屈折率にて形成することが必要となるので、クラッド層の材料との関連で選択することを要する。
【0030】
このうちモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの低級アルコールエステル、下記一般式(2)、

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数8〜20のアルキル基を表す)で表される化合物、ジ(メタ)アクリルエステル、トリ(メタ)アクリルエステル、さらには、スチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマーなどを挙げることができる。
【0031】
アクリル酸およびメタクリル酸の低級アルコールエステルの低級アルコールとしては、炭素数1〜5、好ましくは1〜3の1価アルコール、より好ましくはメタノールが挙げられる。
【0032】
また、前記一般式(1)で表される化合物において、炭素数8〜20の高級アルキル基を示すR2の好ましい炭素数は10〜16、より好ましくは12〜14である。この高級アルキル基R2は、単独アルキル基であっても混合アルキル基であってもよいが、最も好ましくは炭素数12と13との混合アルキル基である。この場合、炭素数12のアルキル基のものと炭素数13のアルキル基のものとの割合、即ち、ドデシル(メタ)アクリレートとトリデシル(メタ)アクリレートとの割合は、重量比として通常20:80〜80:20であり、特に40:60〜60:40であることが好ましい。
【0033】
ジ(メタ)アクリルエステルとしては、エチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、ポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、アルキル鎖の炭素数が3〜6のジオールと(メタ)アクリル酸とのジエステルが挙げられる。また、トリ(メタ)アクリルエステルとしては、アルキル鎖の炭素数が3〜6のトリオールと(メタ)アクリル酸とのトリエステルが挙げられる。なお、ポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステルを構成するポリエチレングリコールとしては、下記一般式(3)、

において、nが1〜15、特に1〜10のものが好ましい。
【0034】
上記モノマーを重合あるいは共重合させて層を形成するための方法としては、熱や光による硬化方法が一般的であるが、特に制限されるものではない。一般的には、熱硬化の場合には、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジーt−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、クミルパーオキシオクトエートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリルなどのアゾ化合物等の重合開始剤を添加し、50〜120℃で1〜20時間重合させる方法を採用することができる。また、光硬化の場合の重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタールなどのケタール系化合物、α−ヒドロキシケトン、ミヒラーズケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのケトン系化合物、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、メタロセンなどのメタロセン系化合物、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン化合物などが好適に用いられる。
【0035】
なお、上記モノマーとともに、リン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、グリコール類及びグリコール(メタ)アクリレート類の1種または2種以上をブレンドして用いることが、高温高湿下に長期間放置した場合の白濁を防止する点から好ましい。
【0036】
また、ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸のエステル)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(結晶、非結晶)、ポリシラン、ポリエーテルスルホン、ポリノルボルネン、エポキシ系樹脂、例えば、ビスフェノールA型、ノボラック型のエポキシ樹脂とポリアミノアミド、変性ポリアミノアミド、変性芳香族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、変性脂環族ポリアミン,フェノールなどの活性水素を持つ硬化剤との混合硬化物、ポリアリール、ポリイミド(PI)、ポリカルボジイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体(MS、MMA−St)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂(中でも、SBS、ABSは耐衝撃性に優れる利点を備える)、ポリフェニレンエーテル等のポリアリーレンエーテル、ポリアリレート(PAR)、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー(SEBS)、フッ化ビニリデン系樹脂、ヘキサフルオロプロピレン系樹脂、ヘキサフルオロアセトン系樹脂等のフッ素系樹脂などを挙げることができ、中でも、(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0037】
透明樹脂としては、他に、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(商品名:アートン(JSR(株))、ゼオネックス(日本ゼオン(株)等)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)、フェノール樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂等が挙げられる。上記のうち、モノマーあるいは低分子材料から出発できるものとしては、スチレン系樹脂、特にはMS樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂がある。
【0038】
さらに、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの低級アルコールエステルとスチレン系モノマーとの共重合体の他、前述したモノマー類の一部または全ての水素原子をフッ素原子に置き換えたモノマーを用いた透明樹脂などを用いることもできる。
【0039】
また、上部クラッド層2aについては、先に挙げた下部クラッド層2bと同様の材料を用いればよく、伝送損失の低減の観点からは、同一の材料を用いて形成することが好ましい。これらコア層1およびクラッド層2の材料は、単独または2種以上を適宜混合して使用することが可能である。
【0040】
本発明においては、特には、コア層1およびクラッド層2に用いる有機材料として、曲げ弾性率が2000MPa以上、好ましくは3000〜70000MPaであるものを選択することが好ましい。曲げ弾性率は材料の種類とその厚さにより変化するが、このような曲げ弾性率を満足するものとすることで、材料や厚さによらず、本発明に係るコア層1のU字形状部の変形を確実に抑制して、放射損失の低減効果を担保することができる。ここで、この曲げ弾性率の測定は、JIS K7203で規定された試験法により行うことができる。
【0041】
なお、図3、4に示す製造工程において使用する基板5としては、従来より知られているものから適宜選択して用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、シリコン基板や石英基板、金属箔、ガラス板などの他、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子フィルム等を用いることができる。但し、前述のインプリント工程において光インプリント法を用いる場合には、基板5側から光を照射して硬化を行う必要があるため、基板5として透明なものを用いることが必要となる。さらに、上記各層の塗工溶液の調製に用いる溶剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、酢酸セロソルブ、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、シクロヘキサノン等の慣用の有機溶剤から適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0042】
光導波路においては、光ファイバーの場合と同様に、コア層に入射した光はコア層とクラッド層との界面にて全反射を繰り返しながら伝搬する。そのため、光の入射角度が全反射角度を超えた場合には、光はコア層の外部に放射され、放射損失となって伝搬損失を増大させることとなる。光導波路が曲げられた場合、その全反射角度は曲げの曲率Rが小さいほど小さくなるので、言い換えると、曲率Rは小さいほど放射損失は増大する。具体的には、プラスチック光ファイバー(POF)を屈曲させた場合、屈曲半径R=20mmで0.3dBの損失増のものが、R=10mmでは0.9dBの損失増に増大する。これは、コア径が大きいほど大きくなり、マルチモードの伝搬において、より重要な問題となるので、常に全反射角度を大きく保つことが伝搬損失の低減には重要となる。
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
2インチ径のSi基板上に、バーコーターを用いて、アクリル系樹脂(JSR製)を500μm厚さに塗布し、引き続き、100℃で3分間加熱した。次に、凹凸パターンの凸側がR=20mmのU字形状(断面50μm×50μm)を有する石英製モールドを準備し、180℃のプレス温度にて熱インプリントを行い、下部クラッド層にU字形状の溝を形成した後、高圧水銀灯(365nm)の光源を用いて、照度20mW/cm2、光量1.0J/cm2にて露光した。U字形状部の溝は幅50μm、高さ50μmの形状を有していた。
【0044】
次に、上記下部クラッド層に用いたアクリル樹脂に対し高屈折率モノマーとしてエポキシアクリレートを添加することで、下部クラッド層のアクリル系樹脂よりも屈折率を3%高くしたアクリル系樹脂組成物を、スクリーン印刷法にて下部クラッド層の溝部に印刷した後、150℃の温度にて60分間加熱した。
【0045】
次に、上部クラッド層として、上記下部クラッド層と同じアクリル系樹脂を離型フィルム上にバーコーター法にて塗布してなる500μmの膜を、上記のコア層および下部クラッド層上に転写、積層して、150℃で60分間加熱を行った。得られた光導波路(導波路長50mm、厚み1mm)は、50μm×50μmの断面矩形形状のコア層を有し、R=20mmのU字形状部を備えていた。曲げ弾性率は3300MPaであった。この光導波路は、U字に対し垂直な方向からの荷重に対してほとんど変形せず、入射光の放射損失は0.2dB以下であった。
【0046】
一方、比較として、市販の光ファイバーやフィルム状の柔軟な光導波路(曲げ弾性率400MPa程度)を用いて確認したところ、これらは荷重の負荷により容易に屈曲させることが可能であり、この場合、伝搬している光の角度は容易に全反射角度以上になって、前述したように、屈曲半径R=20mmで0.3dBの損失増がR=10mmでは0.9dBの損失増となり、放射損失の大幅な増大が生じてしまった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)は本発明の光導波路の一好適例を示す平面図であり、(b)、(c)は、本発明の光導波路の光配線への適用例を示す概略斜視図である。
【図2】光導波路における光の伝搬を表す説明図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の光導波路の製造方法の一好適例を示す製造工程図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の光導波路の製造方法の他の好適例を示す製造工程図である。
【図5】(a)〜(e)は、従来の光導波路の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図6】従来の光デバイスを用いた短距離光配線の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1、11 コア層
2、12 クラッド層
2a、12a 上部クラッド層
2b、12b 下部クラッド層
3 コネクタ
4、14 溝部
5 基板
16、26 モールド
10、20 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料からなる光導波路であって、コア層とクラッド層とを含み、信号光を入射−伝播−出射する光導波路において、前記コア層が前記クラッド層の形成する略平面内に形成され、U字形状部を一部に有し、かつ、該コア層の形状変形が抑制されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記U字形状部が、前記コア層とクラッド層との界面における全反射の通常臨界角度より常に小さな角度を保つよう決められた形状を保持する請求項1記載の光導波路。
【請求項3】
前記クラッド層が下部クラッド層と上部クラッド層とからなり、前記コア層が該下部クラッド層と上部クラッド層とに挟持されている請求項1または2記載の光導波路。
【請求項4】
前記コア層が前記クラッド層上に形成されている請求項1または2記載の光導波路。
【請求項5】
配線板内での配線に用いられる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項6】
複数の配線板間での配線に用いられる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項7】
前記有機材料の曲げ弾性率が2000MPa以上である請求項1〜6のうちいずれか一項記載の光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−106480(P2006−106480A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295009(P2004−295009)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】