説明

光導電層の製造方法

【課題】物理的衝撃に強い光導電層を製造する。
【解決手段】放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成するBi12MO20粒子(ただし、MはSi,Ge,Ti中の少なくとも1種である)からなる光導電層の製造方法であって、Bi12MO20粒子の圧粉体2′を成形し、この圧粉体2′に高分子物質5を含浸させ、含浸させた高分子物質を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療用X線撮影において、被験者の受ける被爆線量の減少、診断性能の向上等のために、X線に感応する光導電層を感光体として用い、この光導電層にX線により形成された静電潜像を、光或いは多数の電極で読み取って記録するX線撮像パネルが知られている。これらは、周知の撮影法であるTV撮像管による間接撮影法と比較して高解像度である点で優れている。
【0003】
上述したX線撮像パネルは、この撮像パネル内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。
【0004】
Bi12MO20(ただし、MはSi,Ge,Ti中の少なくとも1種である)はX線吸収率が大きい上、毒性が低く、化学的安定性が高いことから、放射線光導電体の材料として好適であり、Bi12MO20の多結晶体やBi12MO20粒子が樹脂バインダ等に分散された塗布膜等の態様で光導電層に用いられている。例えば、特許文献1にはビスマス塩と金属アルコキシドの混合溶液と、アルカリ水溶液を混合してBi12MO20前駆体を得、得られたBi12MO20前駆体を成形し、成形したBi12MO20前駆体を焼成して光導電層を製造する方法が記載されている。この製造方法により製造された光導電層は焼結体であるため、緻密な層となり、発生電荷の捕集効果が高まるので感度を向上させることが可能となる。また、光導電層の充填率が高いためにX線吸収率が向上するので、膜厚を薄膜としても放射線撮像パネルの読取速度を向上させることが可能であり、暗電流が軽減されるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−96657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の光導電層は上記のような優れた性能を有する一方で、焼結体であるがゆえにもろく、物理的衝撃に弱いため、取扱性能が低いという問題がある。取扱性能の高さからすればBi12MO20粒子が樹脂バインダ等に分散された塗布膜である方が好ましいが、この場合には放射線電荷変換材料の充填率が低く、感度(発生電荷量)が低いという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、物理的衝撃に強く、粒子分散型塗布膜からなる光導電層よりも充填率が高く、感度の高い光導電層を製造することが可能な光導電層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光導電層の製造方法は、放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成するBi12MO20粒子(ただし、MはSi,Ge,Ti中の少なくとも1種である。以下、この記載は省略する。)からなる光導電層の製造方法であって、Bi12MO20粒子の圧粉体を成形し、該圧粉体に高分子物質を含浸させ、該高分子物質を硬化させることを特徴とするものである。
本発明の光導電層の製造方法は、前記高分子物質を硬化させた圧粉体をスライスする態様としてもよい。
【0009】
前記圧粉体成形前のBi12MO20粒子は、500℃〜870℃の範囲で熱処理されたものであることが好ましい。
前記高分子物質は熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂または電子線硬化性樹脂のいずれかであること好ましい。
前記圧粉体の成形は、一軸プレス法および冷間静水等方圧プレス法、または一軸プレス法または冷間静水等方圧プレス法のいずれかで行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光導電層の製造方法は、Bi12MO20粒子の圧粉体を成形し、この圧粉体に高分子物質を含浸させ、圧粉体に含浸させた高分子物質を硬化させて製造するので、Bi12MO20粒子の隙間に高分子物質が存在している構成となり、物理的衝撃に強い光導電層を製造することができる。また、Bi12MO20粒子の圧粉体を成形し、これに高分子物質を含浸させているので、粒子分散型塗布膜からなる光導電層よりもBi12MO20粒子の充填率が高く、感度の高い光導電層を製造することができる。
また、本発明の光導電層の製造方法によれば、物理的衝撃に強い光導電層を製造することができるので、加工に適し、例えば高分子物質を硬化させた圧粉体をスライスする態様で光導電層を製造することもでき、非常に簡便に大量生産の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の光導電層の製造方法の一実施の態様を示す概略工程模式図である。
【図2】本発明の光導電層の製造方法の別の実施の態様を示す概略工程模式図である。
【図3】Bi12MO20粒子の製造方法に使用できる製造装置の一実施の形態を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の光導電層の製造方法を、図面を参照して説明する。図1は本発明の光導電層の製造方法の一実施の態様を示す概略工程模式図である。まず、一軸プレスによりBi12MO20粒子のペレットを作製する(図示せず)。ペレットを作製する前(圧粉体成形前)のBi12MO20粒子は、500℃〜870℃の範囲で事前に熱処理されたものであることが好ましい。この場合、圧粉体成形後に熱処理をすると、成形後のBi12MO20粒子間で融着が起こって焼結体様となり、割れやすく、取り扱い性が悪くなるため好ましくない。
【0013】
熱処理されたBi12MO20粒子を用いることにより、Bi12MO20粒子の粒界が減少するため、放射線発生時にキャリアがトラップされることが抑制されるので、発生電荷量を向上させることが可能である。従って、これを用いて製造される放射線光導電体の感度、S/N比をより高いものとすることができる。なお、500℃未満の場合には、熱処理していないBi12MO20粒子を用いた場合と比べて発生電荷量は殆ど変わらない。一方で、870℃より高い温度では、Bi12MO20粒子の融点は880℃付近であることからBi12MO20粒子が溶けてしまい、Bi12MO20結晶の分解が生じる。但し、本発明の光導電層の製造方法においては、多少の融着があってもペレット作製時に融着したBi12MO20粒子を粉砕することが可能であれば支障なく使用することが可能である。
【0014】
作製したペレットを冷間静水等方圧プレス装置1に入れる。この冷間静水等方圧プレス装置1は、冷間静水等方圧プレス法(CIP法、冷間等方圧プレス成形、静水圧プレスとも呼ばれる)を実施できる装置であり、作製したBi12MO20粒子のペレット2を圧縮容器中で、加熱せずに、圧力伝達液3を介し、静水圧によって等方的に加圧してBi12MO20粒子を固化させて成形するものである。これによってBi12MO20粒子の圧粉体を成形する(図1(a))。加圧する圧力は圧粉体を成形することができれば特に限定されるものではないが、10MPa〜700MPa程度であることが好ましく、Bi12MO20粒子の充填率を60%以上とするためには、20MPa〜200MPaとすることがより好ましい。
【0015】
作製したBi12MO20粒子の圧粉体2′を真空容器4に移す。真空容器4内にはあらかじめBi12MO20粒子の圧粉体2′に含浸させる高分子物質5が準備されている(図1(b))。この真空容器4内をポンプ(図示せず)で吸引して真空状態とする。その後、Bi12MO20粒子の圧粉体2′を高分子物質5に浸漬する(図1(c))。これによって、Bi12MO20粒子の圧粉体2′中に高分子物質5が含浸される。
【0016】
続いて、Bi12MO20粒子の圧粉体2″を高分子物質5から取り出し、真空容器4内を大気圧に戻す(図1(d))。Bi12MO20粒子の圧粉体2″を真空容器4から取り出し、余分な高分子物質を取り除いた後、Bi12MO20粒子の圧粉体2″に含浸された高分子物質5を硬化させる(図1(e))。以上の工程によって、Bi12MO20粒子の圧粉体に高分子物質が含浸された光導電層を製造することができる。Bi12MO20粒子のペレット2を所望の膜厚となるように、例えばシート状のペレットとして準備しておけば、そのまま光導電層として使用することができる。
【0017】
なお、ここでは一軸プレスによりペレット形成後、CIP法によりBi12MO20粒子の圧粉体を成形する場合を例にとって説明したが、一軸プレス法、CIP法いずれか一方でBi12MO20粒子の圧粉体を成形してもよい。但し、Bi12MO20粒子の充填率を上げるという観点からは一軸プレス法およびCIP法を併用することが好ましい。
【0018】
図1では製造されたBi12MO20粒子の圧粉体2″をそのまま光導電層とする製造態様を説明したが、次ぎに、より大量生産に適した製造態様を図2を用いて説明する。図2は本発明の光導電層の製造方法の別の実施の態様を示す概略工程模式図である。なお、この図2において、図1中の構成要素と同等の構成要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する。まず、一軸プレスによりBi12MO20粒子のペレット2を作製する。このペレットは図1に示すペレットとは異なり、光導電層を複数枚切り出すことができる厚みで準備される。
【0019】
図1で説明したのと同様の手順により図2(a)〜(e)の工程を経て、Bi12MO20粒子の圧粉体に高分子物質が含浸された光導電層が製造される。このBi12MO20粒子の圧粉体に高分子物質が含浸された光導電層を所望の厚さにスライスすることによって、一度に複数枚の光導電層を製造することができる(図2(f))。従来のBi12MO20焼結体は物理的にもろいために、このようにスライスすることはできず、また粒子分散型塗布膜からなる光導電層も一枚ずつ製造するために、時間がかかっていたが、本発明の製造方法によれば、一度に複数枚の光導電層を製造することが可能であるため、大量生産に対応することができる。
【0020】
本発明の製造方法に用いられる高分子物質としては、熱硬化性樹脂、あるいは活性線硬化性樹脂である紫外線硬化性樹脂または電子線硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、RTVゴムの他、フェノール樹脂、アミノ樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを好ましく挙げることができ、これらの熱硬化性樹脂は加熱することにより硬化させることができる。
【0021】
活性線硬化性樹脂としては紫外線硬化性や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂であってもよい。活性線硬化性樹脂は紫外線や電子線のような活性線照射により、架橋反応などを経て硬化させることができる。
【0022】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの紫外線硬化性樹脂は紫外線を照射することにより硬化させることができる。電子線硬化性樹脂としてはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等を好ましく挙げることができる。
【0023】
本発明の製造方法に用いられるBi12MO20粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法により製造されたBi12MO20粒子を用いることができる。まずBi元素を有する溶液とM元素を有する溶液とを準備する。Bi元素を有する溶液は、Bi源となるBi含有化合物を溶媒に溶解させて調製する。Bi源としては、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、酢酸ビスマス、リン酸ビスマス、三フッ化ビスマス、三塩化ビスマス、三臭化ビスマス、三ヨウ化ビスマス、水酸化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、トリ−i−プロポキシビスマス(Bi(O-i-C373)、トリエトキシビスマス(Bi(OC253)、トリ−t−アミロキシビスマス(Bi(O-t-C5113)、トリフェニルビスマス(Bi(C653)、トリス(ジピバロイルメタナト)ビスマス(Bi(C111923)、酸化ビスマス、などといった化合物を用いることができる。
【0024】
M元素を有する溶液の調製は、Bi元素と同様に、M源となるM元素含有化合物を溶媒に溶解させて調製する。M元素がSiである場合、Si源としては、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、酢酸ケイ素、シュウ酸ケイ素、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、二ケイ酸ナトリウム、二ケイ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素(結晶性)、二酸化ケイ素(アモルファス)、コロイダルシリカ、テトラメトキシシラン(Si(OCH34)、テトラエトキシシラン(Si(OC254)、テトラ−i−プロポキシシラン(Si(O−i−C374)、テトラ−n−プロポキシシラン(Si(O−n−C374)、テトラ−i−ブトキシシラン(Si(O−i−C494)、テトラ−n−ブトキシシラン(Si(O−n−C494)、テトラ−sec−ブトキシシラン(Si(O−sec−C494)、テトラ−t−ブトキシシラン(Si(O−t−C494)、SiH[N(CH323、SiH[N(C2523、等を好ましく挙げることができる。
【0025】
また、M元素がGeである場合、Ge源としては、四塩化ゲルマニウム、四臭化ゲルマニウム、四ヨウ化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、オルトゲルマニウム酸ナトリウム、オルトゲルマニウム酸カリウム、メタゲルマニウム酸ナトリウム、メタゲルマニウム酸カリウム、ゲルマニウム酸ナトリウム、ゲルマニウム酸カリウム、ゲルマニウム酸カルシウム、二ゲルマニウム酸ナトリウム、二ゲルマニウム酸カリウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸、ヘキサフルオロゲルマニウム酸アンモニウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸ナトリウム、ヘキサフルオロゲルマニウム酸カリウム、二酸化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム(Ge(OCH34)、テトラエトキシゲルマニウム(Ge(OC254)、テトラ−i−プロポキシゲルマニウム(Ge(O−i−C374)、テトラ−n−プロポキシゲルマニウム(Ge(O−n−C374)、テトラ−i−ブトキシゲルマニウム(Ge(O−i−C494)、テトラ−n−ブトキシゲルマニウム(Ge(O−n−C494)、テトラ−sec−ブトキシゲルマニウム(Ge(O−sec−C494)、テトラ−t−ブトキシゲルマニウム(Ge(O−t−C494)、等を好ましく挙げることができる。
【0026】
また、M元素がTiである場合、Ti源としては、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン、酢酸チタン、シュウ酸チタン、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、二酸化チタン、テトラメトキシチタン(Ti(OCH34)、テトラエトキシチタン(Ti(OC254)、テトラ−i−プロポキシチタン(Ti(O−i−C374)、テトラ−n−プロポキシチタン(Ti(O−n−C374)、テトラ−i−ブトキシチタン(Ti(O−i−C494)、テトラ−n−ブトキシチタン(Ti(O−n−C494)、テトラ−sec−ブトキシチタン(Ti(O−sec−C494)、テトラ−t−ブトキシチタン(Si(O−t−C494)、Ti[N(CH324、Ti[N(C2524、等を好ましく挙げることができる。
【0027】
上記のBi源及びM源を溶解させる溶媒としては、水、もしくはアルコールをはじめとする有機溶媒を用いることが好ましいが、低コストであることから水を用いることが好ましい。またBi元素はアルカリ性領域では水にほとんど溶解しないことから、得られた溶液が酸性になっていることが好ましい。ここで、溶液を酸性にするために酸を用いる場合は、いかなる酸を用いてもよいが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸などといった無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸などといった有機酸を用いてもよい。
【0028】
一方、最終的にBi12MO20を沈殿として得るために、混合液はBiの溶解度が低いアルカリ性となっていることが好ましい。従って、M源を溶解した溶液はアルカリ性になっていることが好ましい。ここで、溶液をアルカリ性にするためのアルカリ性の化合物としては、例えばLiOH、KOH、NaOH、RbOH、アンモニア、NR4OH(Rはアルキル基)等の化合物を好ましく挙げることができる。
【0029】
図3は、Bi12MO20粒子の製造方法に好適な反応装置10の構成を示す概略断面図である。図3に示すように、反応装置10は、混合液を加熱・撹拌して反応させる反応容器11、反応容器を加熱するための温度制御部12、反応液を撹拌するためのモーター13と撹拌部16、Bi元素を有する溶液を装填する溶液槽14aとこの溶液を反応容器11へと供給するための送液流路15a、M元素を有する溶液を装填する溶液槽14bとこの溶液を反応容器11へと供給するための送液流路15bとを具備している。
【0030】
まず、Bi元素を有する溶液とM元素を有する溶液とをそれぞれ溶液槽14a、14bに装填し、反応容器11には撹拌部16がひたる程度以上の量の母液を装填する。この母液中には、Bi元素およびM元素が含まれていなくてもよいし、必要に応じてBi元素もしくはM元素の総供給量の一部が含まれていてもよい。母液としては水、もしくはアルコールをはじめとする有機溶媒を用いてよいが、Bi12MO20を沈殿として得るために、混合液はBiの溶解度が低いアルカリ性となっていることが好ましい。従って、母液はアルカリ性になっていることが好ましく、M源を溶解した溶液をアルカリ性にするために用いた上記アルカリ化合物を用いて調整することができる。
【0031】
続いて 温度制御部12を作用させて、反応容器11中の母液を25℃〜75℃に調整する。この温度範囲とすることにより、数時間の反応でBi12MO20粒子を得ることが可能である。次に、Bi元素を有する溶液とM元素を有する溶液を反応容器11内へと添加する。混合の促進、反応の促進、反応溶液の循環による均一化のため、撹拌部16により撹拌を行う。反応容器11への両溶液の添加は、混合液中のBi及びM元素の双方の物質量が、添加開始時から並行して増加するように、すなわち、添加開始直前の混合液中のBi元素とM元素の物質量と比較して、添加中および添加完了時における混合液中のBi元素とM元素の物質量が何れも増加するように添加することが好ましい。
【0032】
なお、反応容器11への両溶液の添加は、混合開始時の温度より混合液の温度を昇温させながら行うことが好ましい。反応を比較的低い温度でまず開始させることにより、生成する核の数を十分に少なくすることができるため、比較的粒子サイズを大きくすることができ、その後昇温させることによって充分に結晶化させることが可能となる。上述の工程の後、液体成分の除去と洗浄を行い、最終的に乾燥することで目的とするBi12MO20粒子を得ることができる。得られたBi12XO20粒子の平均粒径は、2μmよりも大きく20μmより小さいことが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0033】
続いて本発明の製造方法によって製造される光導電層を有する放射線撮像パネルの構成について説明する。放射線撮像パネルには、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsIなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオードで電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の製造方法によって得られた光導電層は前者の直接変換方式に用いることができる。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能である。
【0034】
また、本発明の製造方法によって製造される光導電層は、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)にも、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも用いることができる。
【0035】
前者のTFT方式の放射線撮像パネルとしては、例えば特開2006−96557号の[0067]〜[0073]に記載されているものが挙げられ、図6に示される放射線撮像パネルの放射線光導電層104に、本発明の製造方法によって製造される光導電層を使用することができる。また、後者の光読取方式に用いられる放射線撮像パネルとしては、例えば特開2006−96557号の[0051]〜[0066]に記載されているものが挙げられ、図1に示される放射線撮像パネルの記録用放射線導電層2に、本発明の製造方法によって製造される光導電層を使用することができる。
以下に本発明の放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法の実施例を示す。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
酸化ビスマス(高純度化学製、純度5N)279.6gを、474.4gの硝酸(和光純薬製、濃度61.1wt%)と純水とを用いて溶解し、1.2mol/lの濃度でBi元素を有する溶液(Bi溶液:B-1)を1l調製した。別に、ケイ酸カリウム溶液(和光純薬製、モル比率:SiO2/K2O=3.9、濃度28.0%)30.1gと水酸化カリウム溶液(和光純薬製、8N)700mlと純水とを混合し、0.1mol/lの濃度でSi元素を有する溶液(Si溶液:S-1)を1l調製した。また、水酸化カリウム溶液(和光純薬製、8N)62.5mlと純水を用いて、500mlのアルカリ性母液(母液:M-1)を調製した。
【0037】
上記で調製した溶液を用いて、図3に示す反応装置10にてBi12SiO20粒子の合成を行った。テフロン(登録商標)コーティングした反応容器11中に母液(M-1)500mlを加え、テフロン(登録商標)コーティングした撹拌部16を母液中(M-1)で1000rpmにて稼動させながら、母液(M-1)の温度を50℃に昇温した。次に、溶液槽14a中のBi溶液(B-1、50ml)と溶液槽14b中のSi溶液(S-1、50ml)とを、それぞれ送液流路15aと送液流路15bとを経由させて、10ml/分の速度で5分間かけて、同時に撹拌部16の筒の内部へと添加した。添加中、反応容器11内の混合液の温度は50℃に保たれていた。添加終了後、混合液の温度を2.5℃/分の速度で10分間かけて75℃へと昇温した。昇温終了後、75℃にて120分間撹拌を継続した。
【0038】
撹拌終了後、反応系全体を室温へと冷却し、得られた沈殿物をろ別し、純水で充分に洗浄した。得られた固形物を100℃にて12時間乾燥させることにより、12.5gのBi12SiO20粒子を得た(収率88%)。得られた粒子中の粒子の平均粒径は5μm程度であった。
【0039】
このBi12SiO20粒子を一軸プレス(100MPa)で成形し、その後、CIP成形(200MPa)を行った。この成形体を密閉容器に入れて、容器内をロータリーポンプで真空状態にし、真空下で熱硬化性樹脂(RTVゴム、商品名:KE109、A液:B液=1:1、信越シリコーン(株))液に成形体を浸漬した。その後、成形体を容器の外に取り出して余分の樹脂を除去した後、120℃の温度で2時間加熱して樹脂を硬化させ、膜厚が500μmの熱硬化性樹脂が含浸された光導電層を得た。得られた光導電層の両側にAu電極をスパッタして、Bi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、得られたBi12SiO20粒子を500℃−2h大気雰囲気下で熱処理し、この熱処理後の粒子を用いた以外は実施例1と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0041】
(実施例3)
実施例1において、得られたBi12SiO20粒子を800℃−2h大気雰囲気下で熱処理し、この熱処理後の粒子を用いた以外は実施例1と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0042】
(実施例4)
実施例1において、得られたBi12SiO20粒子を870℃−2h大気雰囲気下で熱処理し、この熱処理後の粒子を用いた以外は実施例1と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。なお、この熱処理後の粒子は粒子間で融着が生じたためアルミナ乳鉢と乳棒を用いて粉砕したものを用いた。
【0043】
(実施例5)
実施例1で使用したケイ酸カリウムの代わりにTi(O−iC37)4を用いた以外は実施例1と同様の手順でBi12TiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0044】
(実施例6)
実施例1で使用したケイ酸カリウムの代わりにGe(O−C25)4を用いた以外は実施例1と同様の手順でBi12GeO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0045】
(実施例7)
実施例1において一軸プレス(100MPa)のみで成形し、CIP成形を行わなかった以外は実施例1と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0046】
(実施例8)
実施例7において、実施例3で使用した800℃で熱処理したBi12SiO20粒子を用いた以外は、実施例7と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0047】
(実施例9)
実施例1において、熱硬化性樹脂が含浸された光導電層の膜厚を1.5cmとした以外は同様にして、熱硬化性樹脂が含浸された光導電層を得た。その後この熱硬化性樹脂が含浸された光導電層をダイサーで500μm厚にスライスしたものを10枚作製した。この10枚中1枚の両側にAu電極をスパッタして、Bi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0048】
(実施例10)
実施例9において、実施例3で使用した800℃で熱処理したBi12SiO20粒子を用いた以外は、実施例9と同様の手順でBi12SiO20粒子からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0049】
(比較例1)
実施例1で得たBi12SiO20粒子を一軸プレス(10MPa〜140MPa)で成形し、その後、CIP成形(200MPa)を行った。これを大気中850℃で2時間焼成してBi12SiO20焼結体を作製した。このBi12SiO20焼結体をITO基板上に銀ペーストで貼り付けて、最後にBi12SiO20成形体上に上部電極としてAuを60nmの厚さでスパッタし、Bi12SiO20焼結体からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0050】
(比較例2)
比較例1において実施例1で得たBi12SiO20粒子の代わりに実施例2で得たBi12TiO20粒子を用いた以外は同じようにして光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0051】
(比較例3)
比較例1において実施例1で得たBi12SiO20粒子の代わりに実施例3で得たBi12GeO20粒子を用いた以外は同じようにして光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0052】
(比較例4)
実施例1で得たBi12SiO20粒子と熱硬化性樹脂(RTVゴム)との混合物にメチルエチルケトン(MEK)を添加してBi12SiO20粒子を分散状態で含有する分散液とした。この分散液を充分撹拌してBi12SiO20粒子が均一に分散し、かつ熱硬化性樹脂とBi12SiO20粒子との混合比が1:6の塗布液を調整した。得られた塗布液をアプリケーターを用いてテフロン(登録商標)シート上に均一に塗布した。塗布後乾燥させ、シートから剥がし、120℃の温度で2時間加熱して樹脂を硬化させ、膜厚が250μmの光導電層を得た。得られた光導電層の両側にAu電極をスパッタして、Bi12SiO20塗布膜からなる光導電層を備えた放射線撮像パネルの検出部を完成させた。
【0053】
(空間充填率の測定)
実施例1〜5,比較例1〜4で作製した光導電層の空間充填率を下記式により求めた。
空間充填率=Vx/V
(ただし、Vx:Bi12MO20の体積、V:光導電層の全体積)
【0054】
(発生電荷量の測定)
実施例1〜10,比較例1〜4で作製した放射線撮像パネルに対し、電界2.5V/μmの条件で1mRのX線を0.08sec照射し、電圧を印加した条件で生じたパルス上の光電流を電流増幅器で電圧に変換し、デジタルオシロスコープで測定した。得られた電流・時間カーブより、X線照射時間の範囲において積分し、発生電荷量として測定した。
【0055】
(取扱い性試験)
実施例1〜10,比較例1〜4で作製した光導電層を約1mの高さから鉄板に落下させた際、光導電層が割れるかどうかを10回試験し、以下のように評価した。
10回中6回以上割れた場合を取扱い性:不良
2回以下の場合を取扱い性:良好
【0056】
結果を表1に示す。なお、表1の発生電荷量は実施例1を100とした相対値で示している。
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、本発明の製造方法により製造した光導電層は、Bi12MO20粒子の隙間に高分子物質が存在しているため、焼結体である比較例1〜3に比較して物理的衝撃に強く、取扱性が良好であった。また粒子分散塗布膜の比較例4に比べて空間充填率が高いため、発生電荷量が高かった。その発生電荷量は焼結体である比較例1〜3に比べれば若干低いものの、取扱性を比較考量すれば遜色のない差であった。
【0058】
実施例2〜4は得られたBi12SiO20粒子に熱処理を加えたものであるが、実施例1に比較して発生電荷量がいずれも高くなった。この実施例1と、実施例2〜4に比較から、Bi12MO20粒子を500℃〜870℃の範囲で熱処理することにより、Bi12MO20粒子の粒界を減少させることができ、放射線発生時にキャリアがトラップされることが抑制されるので、発生電荷量をより向上させることが可能であることがわかる。なお、実施例4では熱処理後の粒子が融着していたために粒子を粉砕して用いたが、この場合でも発生電荷量に影響はないことが示された。
【0059】
なお、実施例7は一軸プレスのみで成形したものであるが、この場合には空間充填率が若干下がっており、充填率を稼ぐためには、圧粉体の成形を一軸プレス法および冷間静水等方圧プレス法を併用する方が望ましいことがわかる。また、実施例9は図2に示す製造態様を示したものであるが、スライスすることによっても、1枚ずつ製造した場合と遜色のない光導電層を、一度に複数枚製造することが可能であり、大量生産を実現できることが示唆された。なお、実施例8は実施例7において、実施例10は実施例9において熱処理をしたBi12SiO20粒子を用いた場合であるが、これらにおいても熱処理をしたBi12SiO20粒子を用いた実施例8および10の方が発生電荷量がいずれも高かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、放射線撮像パネルを構成する光導電層の製造方法に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 冷間静水等方圧プレス装置
2 ペレット
2′ 圧粉体
3 圧力伝達液
4 真空容器
5 高分子物質
10 反応装置
11 反応容器
12 温度制御部
13 モーター
14 溶液槽
15 送液流路
16 撹拌部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線画像情報を静電潜像として記録する放射線撮像パネルを構成するBi12MO20粒子(ただし、MはSi,Ge,Ti中の少なくとも1種である)からなる光導電層の製造方法であって、Bi12MO20粒子の圧粉体を成形し、該圧粉体に高分子物質を含浸させ、該高分子物質を硬化させることを特徴とする光導電層の製造方法。
【請求項2】
前記高分子物質を硬化させた圧粉体をスライスすることを特徴とする請求項1記載の光導電層の製造方法。
【請求項3】
前記圧粉体成形前のBi12MO20粒子を500℃〜870℃の範囲で熱処理することを特徴とする請求項1または2記載の光導電層の製造方法。
【請求項4】
前記高分子物質が熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂または電子線硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1、2または3記載の光導電層の製造方法。
【請求項5】
前記圧粉体の成形を一軸プレス法および/または冷間静水等方圧プレス法により行うことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の光導電層の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185866(P2010−185866A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238853(P2009−238853)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】