光屈折率変調重合体組成物、ホログラム記録材料および屈折率制御方法
【課題】 光の照射により屈折率を効率的に変調(変化)させることができ、また一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない保存安定性の高い光屈折率変調重合体組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 式;CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 (式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体(A)を主成分とし、この重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)を5〜60重量部含むことを特徴とする光屈折率変調重合体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により容易に屈折率の変調が可能であり、かつこの変調した屈折率を経時でも安定的に保持できる、したがって、例えば光照射部と光未照射部との屈折率差を経時でも安定的に保持できる光屈折率変調重合体組成物に関し、またこれを用いたホログラム記録材料とさらに屈折率制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムは、レーザーの可干渉性光の干渉パターンを感光材料等に記録したものであり、多機能を持つことから、光学素子、立体画像ディスプレイ、干渉計測、画像・情報処理等、多岐にわたって利用されている。また、ホログラムは、サブミクロン単位での情報の記録と等価であるといえることから、有価証券、クレジットカード等の偽造防止用のマーク等にも広く利用されている。
特に、体積位相型ホログラムは、ホログラム記録媒体中に光学的吸収ではなく屈折率の異なる空間的な干渉縞を形成することにより、像を通過する光ビームを吸収することなく位相を変調することができるので、近年においては、ディスプレイ用途のほかに、ホログラム光学素子やホログラム記録材料への応用が期待されている。
【0003】
このようなホログラム記録材料としては、光重合開始剤の構成成分である3−ケトクマリン類とジアリールヨードニウム塩とを組み合わせて用いた光硬化樹脂組成物(特許文献1参照)、光重合開始剤と担持重合体としてポリメチルメタクリレートとを組み合わせたホログラム記録材料(特許文献2参照)が提案されている。
また、湿式処理を伴わない1回の処理工程により、ホログラムの作製が可能である光重合型感光材料として、下記の第1および第2の例からなる2つのタイプの感光材料が、提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
第1の例は、反応性および屈折率の異なる2つの重合可能な不飽和エチレン性モノマーと光重合開始剤の組み合わせ、例えばシクロヘキシルメタクルート、N−ビニルカルバゾールおよびベンゾインメチルエーテルからなり、これを2枚のガラス板に狭持し、二光束光学系で露光することによりホログラム記録できる感光性樹脂組成物である。
第2の例は、同程度の屈折率を持つ重合可能な不飽和エチレン性モノマーとそれが重合する際に架橋剤として働く不飽和エチレン性モノマー、これら2つのモノマーと屈折率を異にする非反応性化合物および重合開始剤の4成分、例えばブチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1−フェニルナフタレンおよびベンゾインメチルエーテルからなり、第1の例と同様にホログラムを作製できる感光性樹脂組成物である。
【0005】
また、熱可塑性樹脂、重合可能な不飽和エチレン性モノマーおよび光重合開始剤を基本組成とし、屈折率変調を向上させるために熱可塑性樹脂または重合可能な不飽和エチレン性モノマーのどちらか一方に芳香環を有する化合物を使用して屈折率差を持たせる提案がなされている(特許文献4参照)。
さらに、上記提案における可塑剤の代わりに、カチオン重合性モノマーおよびカチオン重合開始剤を配合することが提案され(特許文献5参照)、またエポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和エチレン性モノマーおよび光ラジカル重合剤からなるホログラム記録用感光性樹脂組成物が提案されている(特許文献6参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−88005号公報
【特許文献2】特開平4−31590号公報
【特許文献3】米国特許第3993485号公報
【特許文献4】米国特許第5098803号公報
【特許文献5】特開平5−107999号公報
【特許文献6】特開平5−94014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、光の照射により屈折率を変調させることによりホログラムとする材料が、今日まで、種々提案されている。この種の材料は、光の照射により屈折率を効率的に変調させることが必要であり、また一旦変調した屈折率が経時で変化することのない高い保存安定性が要求される。しかしながら、前記した公知の材料は、いずれも、これらの特性を必ずしも十分に満足させうるものではなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に照らし、光の照射により屈折率を効率的に変調(変化)させることができ、また一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない保存安定性の高い光屈折率変調材料を提供すること、また、この材料を用いたホログラム記録材料とさらに屈折率制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を克服するため、鋭意検討した結果、特定の重合方法により分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存する重合体を生成し、これを主成分とした材料に光を照射して上記側鎖ビニル基を架橋反応させて密度変化を大きくすることにより上記材料の屈折率を効率的に変調(増加)させることができ、また、この主成分に対し、熱硬化性重合体を特定量含ませて、上記光の照射により屈折率を変調させたのち、上記の熱硬化性重合体の硬化温度以上に加熱して熱硬化させると、ポリマー分子が固定化されることで残存する上記側鎖ビニル基の反応が抑制されて一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない高い保存安定性が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見をもとに、さらに検討を続けた結果、完成されたものである。
すなわち、本発明は、つぎの式(1);
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体(A)を主成分とし、この重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)を5〜60重量部含むことを特徴とする光屈折率変調重合体組成物に係るものである。
この光屈折率変調重合体組成物は、紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上となるものである。また、光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下となるものである。
【0011】
特に、本発明は、重合体(A)の立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である上記光屈折率変調重合体組成物、熱硬化性重合体(B)が、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体である上記光屈折率変調重合体組成物、重合体(A)100重量部あたり、上記エポキシ基を有する熱硬化性重合体(B)が5〜35重量部である上記光屈折率変調重合体組成物、熱硬化性重合体(B)の硬化温度が150℃以下である上記光屈折率変調重合体組成物、光開始剤、増感剤、連鎖移動剤および熱酸発生剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む上記光屈折率変調重合体組成物を、それぞれ、提供できるものである。
また、本発明は、上記各構成の光屈折率変調重合体組成物からなることを特徴とするホログラム記録材料と、上記各構成の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴とする屈折率制御方法とを、それぞれ、提供できるものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明は、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体を主成分としこれに熱硬化性樹脂を含ませたことにより、任意量の光の照射により屈折率を任意に増加変調できると共に、熱硬化により残存する側鎖ビニル基の反応を抑制して、一旦変調した屈折率を経時で大きく変調させることのない高い保存安定性を発揮させうる光屈折率変調重合体組成物と上記屈折率制御方法を提供できる。
また、この光屈折率変調重合体組成物の使用により、例えば、耐候性、耐熱性、化学的安定性、保存安定性に優れ、また乾式処理による高解像度、高回折効率、高透明性、再生波長再現性に優れた体積位相型ホログラムを形成可能なホログラム記録材料やホログラム記録媒体、それらを用いたホログラム材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いられる重合体(A)は、つぎの式(1);
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体である。
【0014】
上記式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体としては、特に限定されず、例えば、ビニルメタクリレート、ビニルエチルメタクリレート、ビニルオクチルメタクリレート、ビニルヘキシルメタクリレート、ビニルブチルメタクリレート、ビニルアクリレート、ビニルエチルアクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、材料の汎用性、入手性、耐熱特性の点より、ビニルメタクリレートが好ましい。ビニルメタクリレートの単独重合体であるポリビニルメタクリレート(以下、PVMAという)は、光学ポリマーの中でも、優れた透明性を有すると共に、複屈折が起こりにくく、また成形性が良好で機械的強度もバランスしており、光の照射により得られる屈折率差も大きいため、本発明において最も好ましい。
【0015】
本発明の重合体(A)は、PVMAのようなアクリル・ビニル単量体の単独重合体だけでなく、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体とすることにより、耐熱特性や熱硬化性樹脂との相溶性を向上させることができる。
このような共重合体としては、例えば、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体Aと他の単量体Bとの共重合配列がAAAAAA−BBBBBB…のようなブロック連鎖となるブロック共重合体か、上記配列がABAABABABBA…のようなランダム連鎖となるランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0016】
上記の共重合体において、紫外線等の光のより低い照射強度で大きな屈折率変化を得るには、ランダム共重合体の方が好ましい。ブロック共重合体であっても、屈折率の増加と所望する物性を勘案して、適宜利用することができる。
このように、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他のモノマーとの共重合体とすると、フィルム物性、透明性、製造コスト等の観点より、ポリマー材料の種類を最適化することができる。特にランダム共重合体では、側鎖ビニル基の初期反応性が向上し、紫外線等の光のより低い照射照度で屈折率の効率的な増加が可能となる。
【0017】
このような目的で用いられる他の単量体は、アクリル・ビニル単量体と共重合可能で、かつ重合触媒に対し非活性または触媒能を失活させない単量体であればよい。共重合性の観点より、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。また、トリフルオロエチルメタクレレート等のハロゲン原子を含むものやジエチルアミノエチルメタクリレート等のヘテロ原子を含む単量体も使用できる。
触媒能を失活させる官能基を有する単量体であっても、官能基をキャップすることで共重合させることもできる。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート類などは、水酸基をトリメチルシリル基等でキャップすると、共重合可能である。同様に、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸類も、使用可能である。
【0018】
このような共重合体において、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と上記他の単量体との使用割合は、光の照射前後で所望の屈折率変化が得られる範囲であれば、特に限定されない。通常は、他の単量体が、単量体全体の10〜80モル%、特に10〜50モル%であるのがよい。他の単量体が10モル%未満となると、共重合化のメリットが出にくく、80モル%を超えると、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体に由来する側鎖ビニル基のラジカル反応性が低下しやすい。
【0019】
本発明において、重合体(A)は、上記の式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体単独またはこれと他の単量体との混合物を、重合触媒として特定のアニオン開始剤を使用して重合反応させることにより、得ることができる。
ラジカル開始剤では、重合中に側鎖ビニル基も消費され、屈折率の増加に使用するビニル基を残すことができず、また溶剤に不溶なネットワークポリマー(ゲル)になってしまう。また、アニオン開始剤でも、有機金属化合物であるBuLiやグリニヤー試薬等の汎用的なアニオン開始剤では、側鎖ビニル基の一部が重合中に架橋反応してしまい、また得られる重合体の収率や分子量が低くなるため、好ましくない。
【0020】
このため、本発明では、上記重合体を得るためのアニオン開始剤として、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒を使用する。
ここで、希土類金属は、Sc、Y、ランタノイドまたはアクチノイド等の13族金属を指し、活性中心とは、単量体に配位または結合して直接重合反応を開始する部位をいう。このような金属錯体触媒は、いわゆるメタロセン触媒と呼ばれており、これには、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、インデニルと金属イオンとの錯体、フルオレニルと金属イオンとの錯体等が挙げられる。
【0021】
このような金属錯体触媒の中でも、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、特につぎの式(2)で表される金属錯体化合物が好ましく用いられる。
(Cp1)(Cp2)Mr−(R)p・(L)q …(2)
(式中、Cp1,Cp2は、相互に独立して、非置換のシクロペンタジエニルまたは 置換されたシクロペンタジエニルであり、Cp1とCp2とは直接または連結基を 介して結合していてもよい。Mrはr価の希土類金属原子で、rは2〜4の整数で ある。Rは水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。Lは配位能を有 する溶媒である。pはRの数、qはLの数で、それぞれ0〜2の整数であり、上記 rに対してr=p+2となるように選択される。)
【0022】
上記の式(2)において、Cp1またはCp2が置換されたシクロペンタジエニルである場合、置換基としては、メチル基またはトリメチルシリル基が好ましい。Cp1またはCp2中の置換基の数としては、3〜5が好ましい。
Cp1またはCp2には、C5 H5 、C5 (CH3 )5 、C5 H2 (CH3 )3 、C5 (CH2 CH3 )5 、C5 H2 (CH2 CH3 )3 、C5 H2 〔CH(CH3 )2 〕3 、C5 H2 〔Si(CH3 )3 〕3 、C5 H2 〔CH(CH3 )2 〕3 等がある。
【0023】
Cp1とCp2とは、単結合または連結基を介して結合していてもよく、特に連結基を介して結合しているのが好ましい。
連結基としては、−(CH2 )n〔Si(CH3 )2 〕m−〔n,mはそれぞれ0〜3の整数であり、(m+n)は1〜3である〕が好ましく、特にジメチルシリル基(nが0でmが1)、ジメチレン(nが2でmが0)であるのが好ましい。また、連結基は、エーテル性の酸素原子等のヘテロ原子を含む連結基であってもよい。
【0024】
また、上記の式(2)において、Mは活性中心となるr価の希土類金属原子で、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ルテチウム(Lu)が好ましい。その価数(r)は2、3、または4であり、特に2または3が好ましい。
Rは、水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、メチル基が好ましい。Lは配位能を有する溶媒であり、ヘテロ原子を含む溶媒が好ましく、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロビラン等の環状エーテル系溶媒、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等が好ましい。
【0025】
上記の式(2)で表される金属錯体化合物の中でも、つぎの式(3)〜(5)で表される金属錯体化合物が特に好ましく用いられる。
(Cp※)2 SmIII −(CH3 )・(THF) …(3)
(Cp※)2 YbIII −(CH3 )・(THF) …(4)
(Cp※)2 Y III −(CH3 )・(THF) …(5)
(式中、Cp※は1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルであり、 THFはテトラヒドロフランである)
【0026】
重合反応は、無水かつ無酸素の条件下で行うのが望ましい。また、重合反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。さらに、重合反応は、溶媒の存在下で実施するのが好ましい。溶媒としては非極性溶媒が好ましく、特に、ベンゼン、トルエンまたはキシレン等の芳香族系非極性溶媒が好ましい。
重合時の単量体の量は、溶媒中5〜30重量%とするのが好ましい。5重量%未満では分子量を十分に大きくできないおそれがあり、30重量%を超えると重合中に系の粘性が上がり、重合転化率が低下するおそれがある。また、金属錯体触媒の量は、単量体に対して0.01〜10モル%が好ましく、特に0.1〜5モル%が好ましい。
重合時の反応温度は、100℃以下が好ましく、特に−95℃〜+30℃程度が好ましい。さらに好ましくは−95℃〜−25℃である。低温で重合を行うほど生成するポリマーの立体規則性が向上し、シンジオタクチシティが向上する傾向がある。
【0027】
このように合成される重合体(A)は、重合体分子内に式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体に由来するラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存しており、その残存率は、90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。
ここで、未反応のラジカル重合性の側鎖ビニル基は、例えば、1H−NMRにより求めることができる。例えば、PVMAの場合、ビニル基由来のプロトンに帰属されるピーク(4.9ppm付近)と、α位のメチル基由来のプロトンに帰属されるピーク(1.3〜0.6ppm付近)との面積比により、算出することができる。
【0028】
アニオン開始剤を用いた重合反応により、上記の重合体(A)として、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体を合成する場合、上記の両単量体の添加順序を適宜選択することより、既述したとおり、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でも、任意に合成することができる。
また、このように合成される重合体(A)は、単量体の選択により、その立体規則性がシンジオタクティシティー(rr)で70%以上であるのが好ましい。そうであることにより、重合体のガラス転移点(Tg)がはるかに高くなり、耐熱性も良好になる。すなわち、希土類金属を活性中心とする金属メタロセン錯体触媒の存在下に重合して得られる重合体(A)は、シンジオタクティシティーが70%以上になりうる。
【0029】
一般に、シンジオタクティシティーとは、以下のように、説明される。鎖状重合体分子の主鎖を形成する繰り返し単位の炭素原子に2種の異なる原子または原子団(置換基)が結合していると、この炭素原子を中心にして立体異性が生じる。
このとき、任意の繰り返し単位において、主鎖に沿って隣の単位が常に反対の立体配置を採るものをシンジオタクティック、主鎖に沿って隣の単位が常に同じ立体配置を採るものをアイソタクティック、主鎖に沿って隣の単位の立体配置が任意であるものをアタクティック、とそれぞれいう。また、ポリマー鎖中の全立体配置のシンジオタクティック部分の割合をシンジオタクティシティー、アイソタクティック部分の割合をアイソタクティシティー、アタクティック部分の割合をアタクティシティー、とそれぞれいう。
【0030】
シンジオタクティシティーは、ポリマーの立体規則性を表す指標である。
本発明におけるシンジオタクティシティーの値は、重合体を構成する単量体由来の重合単位の全量のうち、シンジオタクティックなトリアドの重合単位の割合をモル%で表した値をいう。この明細書において、トリアドとは、重合体の繰り返し単位の3つからなる連鎖をいう。3つの繰り返し単位のカルボニル基のα−炭素(不斉炭素)の立体配置の一方をd、他方をlと表現した場合、dddまたはlllで連なる連鎖をアイソタクティックなトリアド、dldまたはldlで連なる連鎖をシンジオタクティックなトリアド、ddl、lld、dll、lddで連なる連鎖をヘテロタクティックなトリアドという。
【0031】
シンジオタクティシティーは、核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により、求められる。すなわち、本発明の重合体をこれを溶解する重水素化溶媒で溶解または膨潤させ、1H−NMR法または13C−NMR法により測定し、シンジオタクティシティー、アイソタクティシティー、アタクティシティーを反映するシグナルの積分値を測定し、これらの比を求めることにより、算出することができる。
【0032】
本発明の重合体が重水素化溶媒に難溶性である場合には、必要に応じて、重水素化溶媒または重水素化されていない溶媒を追加して、用いてもよい。重水素化されていない溶媒を用いる場合は、NMRの測定に影響を及ぼさない原子を含む溶媒を選択するのが好ましく、例えば、1H−NMRスペクトルデータに影響をおよぼさない重クロロホルム、重ベンゼンが挙げられる。
なお、NMRにおける測定核の選択は、重合体のスペクトルパターンに応じて適宜変更することができる。基本的には、1H−NMRスペクトルによるのが好ましく、1H−NMRデータにおける必要なピークが、他の不要なピークと重なる場合または1H−NMRでは測定できない場合には、13C−NMRスペクトルによるのが好ましい。
【0033】
具体的には、ビニル(メタ) アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基Xが水素原子またはメチル基である場合、このXに由来する1H−NMRのシグナルは、シンジオタクティックなトリアド中の水素原子、アイソタクティックなトリアド中の水素原子、アタクティックなトリアド中の水素原子で異なるケミカルシフトを持つことを利用し、これらのシグナルの面積比を求めることにより、シンジオタクティックなトリアド(rr)、アタクティック(ヘテロタクティックともいう)なトリアド(mr)、アイソタクティックなトリアド(mm)の割合(rr/mr/mm)が求められる。
なお、NMRスペクトルの帰属の参考として、新版高分子分析ハンドブック、日本分析化学会編(1995)、Mackromol.Chem.,Rapid.Commun.,14,719(1993)を使用した。
【0034】
また、ビニル(メタ) アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基がフッ素原子またはトリフルオロオメチル基である場合のシンジオタクティシティーは、13C−NMRピークの面積比によって求められる。
すなわち、カルボニル基のα−炭素の13C−NMRシグナルが、シンジオタクティックなトリアド中の炭素原子、アイソタクティックなトリアド中の炭素原子、アタクティックなトリアド中の炭素原子で異なることを利用して、これらのピークの面積比を求めることにより、(rr/mr/mm)が求められる。
【0035】
本発明におけるシンジオタクティシティーは、このように求められる各タクティシティーから、〔rr/(rr+mr+mm)〕×100(%)として、算出される値である。前記アニオン開始剤を用いた重合反応により得られる重合体(A)は、このシンジオタクティシティー(rr)が、70%以上という高い値をとることにより、アタクティックなポリマーと比べて、耐熱性や強度の点で優れたものとなる。シンジオタクティシティーが高いほど、これらの物性は向上するのである。
このように、本発明の重合体(A)は、従来の重合体に比べて、耐熱性や強度の面で、優位な物性を有している。この重合体(A)は、数平均分子量が2,000以上であるのが好ましい。分子量が高いほど強度や物性の点で好ましく、特に20,000以上であるのがよい。また、通常は、500,000以下であるのがよい。
【0036】
つぎに、本発明に用いられる熱硬化性重合体(B)は、加熱により架橋反応して硬化する重合体であり、例えば、ポリメチルメタクリレートまたはその共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ステレン樹脂、アリル樹脂、ウレタンーアクリルーステレン共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
これらの熱硬化性重合体(B)は、重合体(A)と同様に、数平均分子量が2,000以上であるのが好ましい。分子量が高いほど強度や物性の点で好ましく、特に20,000以上であるのがよい。また、重合体(A)との相溶性や溶媒への溶解性の観点より、数平均分子量が通常500,000以下であるのが好ましい。
【0037】
このような熱硬化性重合体(B)の中でも、エポキシ樹脂は、酸触媒下での硬化性が良好であり、また一般的に硬化後の収縮率がビニル系よりも小さく、さらに硬化後の耐熱性にも優れているため、特に好ましく用いられる。
エポキシ樹脂は、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体であり、特に熱硬化温度が低く硬化時間が短いものが好ましい。また、耐光性、耐熱性、透明性の観点より、脂肪族または脂環式のエポキシ樹脂が好ましい。さらに、重合体(A)が(メタ)アクリル系ポリマーのため、これとの相溶性の観点より、(メタ)アクリル系骨格を有するエポキシ樹脂が好ましい。もちろん、これらに限定されることなく、目的に応じて種々のエポキシ樹脂を任意に使用できる。
【0038】
本発明において、熱硬化性重合体(B)は、前記の重合体(A)100重量部あたり、通常5〜60重量部、好ましくは10〜50重量部の割合で用いられる。熱硬化性重合体(B)が多すぎると、必要な屈折率変調が得られなかったり、重合体(A)との相溶性が低下し透明性が損なわれるおそれがある。また、熱硬化性重合体(B)が少なすぎると、熱硬化による残存ビニル基の反応抑制効果が不十分となる。
なお、熱硬化性重合体(B)の個々の使用量は、熱硬化性重合体(B)の種類や重合体(A)の種類に応じて、適宜決定するのが望ましい。例えば、熱硬化性重合体(B)としてエポキシ樹脂を使用するときは、前記の重合体(A)100重量部あたり、5〜35重量部の使用量とするのが望ましい。
【0039】
本発明の光屈折率変調重合体組成物は、重合体(A)を主成分とし、これに熱硬化性重合体(B)を上記特定量含ませてなるものであり、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基により、これに紫外線等の光を照射して上記のビニル基を架橋反応させると、その屈折率が増加変調する性質を有している。この性質として、例えば、紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上、最大0.01以上となるものである。
【0040】
なお、上記の屈折率は、m−Line法(プリズムカップリング法)を用いて、He−Neレーザー(波長633nm)で測定される。
この場合、TE(トランスバース・エレクトリック)モード(材料のフィルム面と平行方向の光の偏波モード)およびTM(トランスバース・マグネチック)モード(材料のフィルム面と垂直方向の光の偏波モード)での測定が可能であるが、本発明においては、特にTEモードでの屈折率によりその増加分を評価する。
【0041】
また、光導波路・光集積回路では、TEモードとTMモードの屈折率の差が大きいと、光の伝播損失が大きくなり、光情報に位相が生じる。このため、TEモードとTMモードの屈折率の差が小さい、つまり材料の偏波依存性ロス(Polarization Dependent Loss:PDL)が少ない材料が望ましい。
具体的には、TEモードとTMモードの屈折率の差は、通常0.001程度以下であるのが望ましい。本発明の光屈折率変調重合体組成物は、重合体(A)にみられるように、アクリル系材料からなるため、光導波路材料として汎用されている材料と比べて、複屈折が小さいことから、上記のPDLが小さく、特に有利である。
【0042】
また、本発明の光屈折率変調重合体組成物は、上記光を照射して屈折率を増加変調したのちに、熱硬化性重合体(B)を熱硬化させることにより、ポリマー分子が固定化されて側鎖ビニル基の反応が抑制され、一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない高い保存安定性を示すという特異な性質を有している。
この性質として、例えば、光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下、特に好ましくは0.002以下となるものである。
【0043】
このような性質を有する本発明の光屈折率変調重合体組成物には、必要に応じて、光開始剤、増感剤および連鎖移動剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含ませることができる。これらの添加剤を含ませることにより、重合体(A)の分子内に残存している側鎖ビニル基の光の照射による架橋反応性を向上させることができ、これにより屈折率の増加変調をより良く引き起こすことができる。
なお、重合体(A)は、その単量体組成により、この重合体(A)単独では上記ビニル基の光の照射による架橋反応性を発現させにくい場合がある。このような重合体(A)に対して、上記添加剤を含ませることにより、光の照射による架橋反応性を発現させることができるようになり、屈折率の増加変調を引き起こすことが可能となる。
【0044】
光開始剤は、紫外領域の光に吸収を有し、ラジカルを発生するものであり、例えば、水素引抜き型のベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が挙げられる。また、分子内開裂型として、ベンゾイン系、アルキルフェノン系等が挙げられる〔参考文献:光硬化技術実用ガイド(テクノネット社)2002〕。
光増感剤(光開始助剤)としては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミン系化合物、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない〔参考文献:紫外線硬化システム(総合技術センター)平成2年〕。
【0045】
また、米国特許第3,652,275号明細書には、光開始剤と併用して、連鎖移動剤が光硬化システムとして有効であるとの記載がある。
このような連鎖移動剤としては、例えば、N−フェニルグリシン、1,1−ジメチル−3,5−ジケトシクロヘキセン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、4−アセトアミドチオフェノール、メルカプトコハク酸、ドデカンチオール、β−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタンスルホン酸、1−フェニル−4H−テトラゾール−5−チオール、6−メルカプトプリンモノハイドレート、ビスー(5−メルカプト−1,3,4−チオジアゾール)−2−イル、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、2−メルカプト−4−スルホ−6−クロロベンズオキサゾール等からなる群より選ばれるものが挙げられる。
これらの中でも、2−メルカプトベンズオキサゾール(以下、2−MBOという)、2−メルカプトベンズイミダゾール(以下、2−MBIという)、2−メルカプトベンゾチアゾール(以下、2−MBTという)等が、特に好ましく用いられる。
【0046】
また、上記本発明の光屈折率変調重合体組成物には、必要に応じて、熱酸発生剤を含ませることができる。この熱酸発生剤を含ませることにより、熱硬化性重合体(B)の硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮させることができる。
熱酸発生剤には、硬化速度、腐食性、安全衛生等の面より、適宜のものが選択される。例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。市販品としては、旭電化工業(株)製の「アデカオプトンCP−66」、「同CP−77」、三新化学工業(株)製の「サンエイドS1シリーズ」等がある。
【0047】
本発明においては、このように構成される光屈折率変調重合体組成物を使用することにより、種々のホログラム記録材料を提供できる。
すなわち、上記構成の光屈折率変調重合体組成物の使用により、例えば、耐候性、耐熱性、化学的安定性、保存安定性に優れ、また乾式処理による高解像度、高回折効率、高透明性、再生波長再現性に優れた体積位相型ホログラムを形成可能なホログラム記録材料やホログラム記録媒体、それらを用いたホログラム材料を提供できる。
【0048】
また、本発明においては、上記構成の光屈折率変調重合体組成物を使用した屈折率制御方法を提供することができる。この屈折率制御方法は、本質的に、上記の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴としたものである。
以下、上記屈折率を変調するための光として、紫外領域の光を利用する場合について、説明する。ただし、屈折率変調の原理からして、紫外以外の領域の光(例えば可視領域)でもその波長に吸収があり、側鎖ビニル基の架橋反応を励起しうるものであれば、屈折率の増加変調を同様に期待できることは言うまでもない。
【0049】
本発明の屈折率制御方法においては、まず、上記の光屈折率変調重合体組成物を用いて適宜の成形処理を施したのち、これに紫外線を照射する。
紫外線の波長は、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基を架橋反応させて、重合体(A)を構造変化させ、密度変化を大きくできる波長であればよい。この波長は、照射強度等との関係で、一概には決まらないが、好ましくは200〜450nm、特に250〜350nmであるのがよい。
【0050】
紫外線の光源は、照射する波長を考慮し、適宜選択される。例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー等を用いられる。照射に際し、特定の波長を照射するための波長フィルターを用いてもよい。
紫外線の照射強度は、小さすぎると分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体の光化学反応を誘起することができず、屈折率変調が得られなくなり、逆に大きすぎると、成形体が不透明になったり、強度が低下する場合がある。これらを考慮して、適宜設定される。照射する波長によっても異なるが、通常0.001〜3W/cm2 程度とするのが適当であり、好ましくは0.1〜1W/cm2 である。
【0051】
紫外線の照射時間は、得ようとする屈折率差を考慮して、適宜設定される。すなわち、成形体の屈折率は、紫外線の照射により連続的に増加するため、照射時間の設定により、屈折率を任意に制御することができる。
具体的な照射時間は、紫外線の照射波長、強度等により異なるため、これらに応じて、適宜設定すればよい。例えば、PVMAの成形体に280〜300nmの波長を含む紫外線を300mW/cm2 の強度で照射して、屈折率を0.005増加させようとする場合、その照射時間は、約0.5〜2分間程度とするのが適当である。
【0052】
紫外線の照射にあたり、成形体の温度を高くして行うことができる。これにより、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基の架橋反応性が高まり、屈折率をより効率的に変調させることができる。
具体的な温度は、成形体の溶融温度や熱硬化性重合体(B)の熱硬化温度を超えない範囲で、適宜設定される。例えば、重合体(A)がPVMAであり、熱硬化性重合体(B)がエポキシ樹脂からなるときは、約50℃以下が適当である。
なお、紫外線の照射による屈折率の変調処理では、使用実施形態の汎用性を考慮して、不活性ガスの存在下で行う必要は特にない。しかし、N2 やAr等の不活性ガスの存在下では、フィルムと空気界面での表面酸化が抑制され、より低照度で大きな屈折率変化が得やすくなるため、本発明には特に好ましいものである。
【0053】
本発明において、このような条件下で紫外線を照射すると、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基が架橋反応し、これにより成形体の密度が上がり、その屈折率が増加する。上記した架橋反応は、成形体の一部を架橋させる等、密度が大きくなる反応であれば有効に利用することができる。
このように紫外線を照射すると、最大で0.01以上の屈折率の増加変調を行わせることができる。実際には、0.005以上の屈折率差を得ることができれば、光学素子、光記録材料等の光デバイスにとって、十分に高い値と言うことができる。
【0054】
本発明の屈折率制御方法では、上記のように紫外線を照射して成形体の屈折率を増加変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させるものであり、これによりポリマー分子が固定化されることで残存する側鎖ビニル基の反応が抑制されて上記一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない、耐候性や耐熱性等の保存安定性にすぐれたものとすることができる。
加熱温度と加熱時間は、熱硬化性重合体(B)の種類により異なるが、通常、150℃以下で2時間以下が望ましい。150℃を超えると、重合体(A)の熱による反応が危惧され、高温による着色も懸念される。加熱時間が2時間を超えると、作業上の効率が損なわれる。熱酸発生剤の添加により、硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮できる。
【0055】
つぎに、実施例および比較例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下において、部および%とあるのは、特に断らない限り、重量部および重量%を意味する。
【実施例1】
【0056】
<触媒の合成>
配位アニオン重合触媒を、以下のように合成した。
アルゴン置換した1リットルのフラスコに、SmI2 3.9616gと、テトラヒドロフラン(THF)330mlを加え、撹拌しながら、ペンタメチルシクロペンタジエニルカリウム塩〔(C5 Me5 )K〕45.858gを加え、室温で反応させた。その後、THFを減圧除去し、固形物にトルエンを加えて、上澄みを回収し、減圧乾燥させたのち、THFとヘキサンで、(C5 Me5 )2 Sm(THF)2 の再結晶を行った。この(C5 Me5 )2 Sm(THF)2 2.5gをトルエン60mlに溶解し、トリエチルアルミニウム2.2mlを加え、撹拌して反応を行った。沈殿物を除去したのち、再結晶を行い、(C5 Me5 )2 SmMe(THF)を得た。
【0057】
<PVMAの合成>
十分に水分、空気を除いたシュレンク管に、十分に乾燥、脱気したトルエンを80ml加え、CaH2 で乾燥後、蒸留精製したビニルメタクリレート20ml(18.7g/166.4ミリモル)を加えた。内温を−78℃に調整したのち、前記の方法で合成した触媒である(C5 Me5 )2 SmMe(THF)0.189g(0.373ミリモル)を乾燥トルエン5mlで希釈したものを仕込み、重合を開始した。触媒量は、単量体/触媒比が446となるようにし、理論分子量を約50,000に設定した。
重合温度−78℃で3時間反応させたのち、反応系にメタノールを加えて重合反応を停止した。さらに、メタノールを加えて生成した重合体(PVMA)を沈降させて単離し、酢酸エチルに溶解したのち、再度メタノールで再沈殿させて、精製した。
【0058】
重合体の乾燥は、減圧乾燥により行った。生成した重合体の収量は18.7g(収率>99%)であった。また、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により求めた数平均分子量(Mn)は77,000、重量平均分子量(Mw)は115,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.49であった。
さらに、1H−NMRにより求めた重合体中のラジカル重合性の側鎖ビニル基の残存率〔ビニル基の残存率(%)=ビニル基(4.9ppm)/メチル基(1.3〜0.6ppm)×100〕は100%であり、主鎖の立体規則性は、シンジオタクティシティー(rr)が92%であった。
【0059】
上記重合体(PVMA)の1H−NMRチャートを、図1に示した。また、この1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図を、図2に示した。上記タクティシティーの算出には、1.2〜0.9ppmに検出されるPVMAの主鎖メチル基〔1.19ppm付近(mm)、1.07ppm(mr)、0.92ppm(rr)〕の積分曲線を使用した。
つぎに、このようにして得たPVMA約0.1gを酢酸エチル50mlに浸漬し、2日間振騰した。酢酸エチル不溶成分を抽出し十分に乾燥させ、その重さを酢酸エチル溶解前の全重合体量で割り、不溶成分の割合(ゲル分率)を求めたところ、0%であった。
【0060】
<光屈折率変調サンプルの作製>
上記のPVMA0.4g、光開始剤として2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1(チバガイギー社製の「イルガキュアー907」)をPVMAに対して1%(0.004g)、熱硬化性エポキシ樹脂〔ダイセル化学工業(株)製の「EHPE−3150」〕0.1g、熱カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製の「サンエイドSI−60L」〕を上記「EHPE−3150」に対して1%(0.001g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。
このようにして、光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を調製した。なお、この組成物で使用したPVMAと熱硬化性エポキシ樹脂の割合は、PVMA100部あたり、熱硬化性エポキシ樹脂25部であった。
【0061】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0062】
ついで、このシリコンウエハ上のフィルムに対して、紫外線を照射した。照射に際し、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製の「UV照射装置CV−110Q−G」(装置型式名)を用い、光源としてメタルハライドランプを使用した。
なお、メタルハライドランプは、波長が250nm〜450nmの光を発しているが、あらかじめ、PVMAの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、280〜300nmで側鎖ビニル基の吸収を示したため、他の波長の照射の影響はないと判断し、波長フィルターは特に使用しなかった。
【0063】
照射強度は、高エネルギー用UVラジオメーター、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製の「UVパワーパック照射測定器」により、測定した。
紫外線の照射は、Hバルブ、出力55%、照射距離40mm、ライン速度4m/分の条件でフィルターを使用せずに行った。この条件での積算光量は1.072J/cm2 であった。各波長での照度と光量は表1に示されるとおりであった。
【0064】
表1
┌──────────┬──────────┬──────────┐
│ UV波長帯域 │ 照度(W/cm2 ) │ 光量(J/cm2 ) │
├──────────┼──────────┼──────────┤
│ │ │ │
│UVA (320〜390nm)│ 1.672 │ 0.388 │
│ │ │ │
│UVB (280〜320nm)│ 1.412 │ 0.342 │
│ │ │ │
│UVC (250〜260nm)│ 0.250 │ 0.058 │
│ │ │ │
│UVV (395〜445nm)│ 1.236 │ 0.284 │
│ │ │ │
├──────────┼──────────┼──────────┤
│ │ │ │
│ 積算量 │ − │ 1.072 │
│ │ │ │
└──────────┴──────────┴──────────┘
【0065】
このように紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。結果は、表2に示されるとおりであった。
なお、上記屈折率は、m−line法(プリズムカップリング法)により、He−Neレーザー(波長633nm)、TE(トランスバース・エレクトリック)モード(材料のフィルム面と平行方向の光の偏波モード)およびTM(トランスバース・マグネチック)モード(材料のフィルム面と垂直方向の光の偏波モード)で測定した。
【0066】
表2
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48250 │ − │ 1.48097 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49673 │ 0.01423 │ 1.49777 │ 0.01680 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49833 │ 0.00160 │ 1.49856 │ 0.00079 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0067】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48250から1.49673(屈折率差0.01423)まで増加させることができた。また、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49833(熱硬化処理後との屈折率差0.00160)であり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇が低く抑えられていた。
【実施例2】
【0068】
<光屈折率変調サンプルの作製>
実施例1で得たPVMA0.35g、光開始剤として「イルガキュアー907」をPVMAに対して1%(0.0035g)、熱硬化性エポキシ樹脂として「EHPE−3150」0.15g、熱カチオン重合開始剤として「サンエイドSI−60L」を上記「EHPE−3150」に対して1%(0.0015g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。
このようにして、光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を調製した。なお、この組成物で使用したPVMAと熱硬化性エポキシ樹脂の割合は、PVMA100部あたり、熱硬化性エポキシ樹脂約43部であった。
【0069】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0070】
このシリコンウエハ上のフィルムに対し、実施例1と同様にして、紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。屈折率の測定は、実施例1と同様に行った。結果は、表3に示されるとおりであった。
【0071】
表3
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48842 │ − │ 1.48880 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49749 │ 0.00907 │ 1.49771 │ 0.00891 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49967 │ 0.00218 │ 1.49951 │ 0.00180 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0072】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48842から1.49749(屈折率差0.00907)まで増加させることができた。また、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49967(熱硬化処理後との屈折率差0.00218)であり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇が低く抑えられていた。
【0073】
比較例1
<光屈折率変調サンプルの作製>
実施例1で得たPVMA0.5g、光開始剤として「イルガキュアー907」をPVMAに対して1%(0.005g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。このようにして光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を得た。この組成物は、熱硬化性重合体を用いず、PVMAと光開始剤だけで構成したものである。
【0074】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0075】
このシリコンウエハ上のフィルムに対し、実施例1と同様にして、紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。屈折率の測定は、実施例1と同様に行った。結果は、表4に示されるとおりであった。
【0076】
表4
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48133 │ − │ 1.48155 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49253 │ 0.01120 │ 1.49372 │ 0.01217 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49585 │ 0.00332 │ 1.49635 │ 0.00263 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0077】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48133から1.49253(屈折率差0.01120)まで増加させることができた。しかし、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49585(熱硬化処理後との屈折率差0.00332)となり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇がやや高くなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で得たポリビニルメタクリレート(PVMA)の1H−NMRチャートを示す特性図である。
【図2】図1の1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図である
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により容易に屈折率の変調が可能であり、かつこの変調した屈折率を経時でも安定的に保持できる、したがって、例えば光照射部と光未照射部との屈折率差を経時でも安定的に保持できる光屈折率変調重合体組成物に関し、またこれを用いたホログラム記録材料とさらに屈折率制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムは、レーザーの可干渉性光の干渉パターンを感光材料等に記録したものであり、多機能を持つことから、光学素子、立体画像ディスプレイ、干渉計測、画像・情報処理等、多岐にわたって利用されている。また、ホログラムは、サブミクロン単位での情報の記録と等価であるといえることから、有価証券、クレジットカード等の偽造防止用のマーク等にも広く利用されている。
特に、体積位相型ホログラムは、ホログラム記録媒体中に光学的吸収ではなく屈折率の異なる空間的な干渉縞を形成することにより、像を通過する光ビームを吸収することなく位相を変調することができるので、近年においては、ディスプレイ用途のほかに、ホログラム光学素子やホログラム記録材料への応用が期待されている。
【0003】
このようなホログラム記録材料としては、光重合開始剤の構成成分である3−ケトクマリン類とジアリールヨードニウム塩とを組み合わせて用いた光硬化樹脂組成物(特許文献1参照)、光重合開始剤と担持重合体としてポリメチルメタクリレートとを組み合わせたホログラム記録材料(特許文献2参照)が提案されている。
また、湿式処理を伴わない1回の処理工程により、ホログラムの作製が可能である光重合型感光材料として、下記の第1および第2の例からなる2つのタイプの感光材料が、提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
第1の例は、反応性および屈折率の異なる2つの重合可能な不飽和エチレン性モノマーと光重合開始剤の組み合わせ、例えばシクロヘキシルメタクルート、N−ビニルカルバゾールおよびベンゾインメチルエーテルからなり、これを2枚のガラス板に狭持し、二光束光学系で露光することによりホログラム記録できる感光性樹脂組成物である。
第2の例は、同程度の屈折率を持つ重合可能な不飽和エチレン性モノマーとそれが重合する際に架橋剤として働く不飽和エチレン性モノマー、これら2つのモノマーと屈折率を異にする非反応性化合物および重合開始剤の4成分、例えばブチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1−フェニルナフタレンおよびベンゾインメチルエーテルからなり、第1の例と同様にホログラムを作製できる感光性樹脂組成物である。
【0005】
また、熱可塑性樹脂、重合可能な不飽和エチレン性モノマーおよび光重合開始剤を基本組成とし、屈折率変調を向上させるために熱可塑性樹脂または重合可能な不飽和エチレン性モノマーのどちらか一方に芳香環を有する化合物を使用して屈折率差を持たせる提案がなされている(特許文献4参照)。
さらに、上記提案における可塑剤の代わりに、カチオン重合性モノマーおよびカチオン重合開始剤を配合することが提案され(特許文献5参照)、またエポキシ樹脂とラジカル重合性不飽和エチレン性モノマーおよび光ラジカル重合剤からなるホログラム記録用感光性樹脂組成物が提案されている(特許文献6参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−88005号公報
【特許文献2】特開平4−31590号公報
【特許文献3】米国特許第3993485号公報
【特許文献4】米国特許第5098803号公報
【特許文献5】特開平5−107999号公報
【特許文献6】特開平5−94014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、光の照射により屈折率を変調させることによりホログラムとする材料が、今日まで、種々提案されている。この種の材料は、光の照射により屈折率を効率的に変調させることが必要であり、また一旦変調した屈折率が経時で変化することのない高い保存安定性が要求される。しかしながら、前記した公知の材料は、いずれも、これらの特性を必ずしも十分に満足させうるものではなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に照らし、光の照射により屈折率を効率的に変調(変化)させることができ、また一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない保存安定性の高い光屈折率変調材料を提供すること、また、この材料を用いたホログラム記録材料とさらに屈折率制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を克服するため、鋭意検討した結果、特定の重合方法により分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存する重合体を生成し、これを主成分とした材料に光を照射して上記側鎖ビニル基を架橋反応させて密度変化を大きくすることにより上記材料の屈折率を効率的に変調(増加)させることができ、また、この主成分に対し、熱硬化性重合体を特定量含ませて、上記光の照射により屈折率を変調させたのち、上記の熱硬化性重合体の硬化温度以上に加熱して熱硬化させると、ポリマー分子が固定化されることで残存する上記側鎖ビニル基の反応が抑制されて一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない高い保存安定性が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見をもとに、さらに検討を続けた結果、完成されたものである。
すなわち、本発明は、つぎの式(1);
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体(A)を主成分とし、この重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)を5〜60重量部含むことを特徴とする光屈折率変調重合体組成物に係るものである。
この光屈折率変調重合体組成物は、紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上となるものである。また、光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下となるものである。
【0011】
特に、本発明は、重合体(A)の立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である上記光屈折率変調重合体組成物、熱硬化性重合体(B)が、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体である上記光屈折率変調重合体組成物、重合体(A)100重量部あたり、上記エポキシ基を有する熱硬化性重合体(B)が5〜35重量部である上記光屈折率変調重合体組成物、熱硬化性重合体(B)の硬化温度が150℃以下である上記光屈折率変調重合体組成物、光開始剤、増感剤、連鎖移動剤および熱酸発生剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む上記光屈折率変調重合体組成物を、それぞれ、提供できるものである。
また、本発明は、上記各構成の光屈折率変調重合体組成物からなることを特徴とするホログラム記録材料と、上記各構成の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴とする屈折率制御方法とを、それぞれ、提供できるものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明は、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体を主成分としこれに熱硬化性樹脂を含ませたことにより、任意量の光の照射により屈折率を任意に増加変調できると共に、熱硬化により残存する側鎖ビニル基の反応を抑制して、一旦変調した屈折率を経時で大きく変調させることのない高い保存安定性を発揮させうる光屈折率変調重合体組成物と上記屈折率制御方法を提供できる。
また、この光屈折率変調重合体組成物の使用により、例えば、耐候性、耐熱性、化学的安定性、保存安定性に優れ、また乾式処理による高解像度、高回折効率、高透明性、再生波長再現性に優れた体積位相型ホログラムを形成可能なホログラム記録材料やホログラム記録媒体、それらを用いたホログラム材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いられる重合体(A)は、つぎの式(1);
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体である。
【0014】
上記式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体としては、特に限定されず、例えば、ビニルメタクリレート、ビニルエチルメタクリレート、ビニルオクチルメタクリレート、ビニルヘキシルメタクリレート、ビニルブチルメタクリレート、ビニルアクリレート、ビニルエチルアクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、材料の汎用性、入手性、耐熱特性の点より、ビニルメタクリレートが好ましい。ビニルメタクリレートの単独重合体であるポリビニルメタクリレート(以下、PVMAという)は、光学ポリマーの中でも、優れた透明性を有すると共に、複屈折が起こりにくく、また成形性が良好で機械的強度もバランスしており、光の照射により得られる屈折率差も大きいため、本発明において最も好ましい。
【0015】
本発明の重合体(A)は、PVMAのようなアクリル・ビニル単量体の単独重合体だけでなく、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体とすることにより、耐熱特性や熱硬化性樹脂との相溶性を向上させることができる。
このような共重合体としては、例えば、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体Aと他の単量体Bとの共重合配列がAAAAAA−BBBBBB…のようなブロック連鎖となるブロック共重合体か、上記配列がABAABABABBA…のようなランダム連鎖となるランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0016】
上記の共重合体において、紫外線等の光のより低い照射強度で大きな屈折率変化を得るには、ランダム共重合体の方が好ましい。ブロック共重合体であっても、屈折率の増加と所望する物性を勘案して、適宜利用することができる。
このように、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他のモノマーとの共重合体とすると、フィルム物性、透明性、製造コスト等の観点より、ポリマー材料の種類を最適化することができる。特にランダム共重合体では、側鎖ビニル基の初期反応性が向上し、紫外線等の光のより低い照射照度で屈折率の効率的な増加が可能となる。
【0017】
このような目的で用いられる他の単量体は、アクリル・ビニル単量体と共重合可能で、かつ重合触媒に対し非活性または触媒能を失活させない単量体であればよい。共重合性の観点より、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。また、トリフルオロエチルメタクレレート等のハロゲン原子を含むものやジエチルアミノエチルメタクリレート等のヘテロ原子を含む単量体も使用できる。
触媒能を失活させる官能基を有する単量体であっても、官能基をキャップすることで共重合させることもできる。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート類などは、水酸基をトリメチルシリル基等でキャップすると、共重合可能である。同様に、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸類も、使用可能である。
【0018】
このような共重合体において、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と上記他の単量体との使用割合は、光の照射前後で所望の屈折率変化が得られる範囲であれば、特に限定されない。通常は、他の単量体が、単量体全体の10〜80モル%、特に10〜50モル%であるのがよい。他の単量体が10モル%未満となると、共重合化のメリットが出にくく、80モル%を超えると、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体に由来する側鎖ビニル基のラジカル反応性が低下しやすい。
【0019】
本発明において、重合体(A)は、上記の式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体単独またはこれと他の単量体との混合物を、重合触媒として特定のアニオン開始剤を使用して重合反応させることにより、得ることができる。
ラジカル開始剤では、重合中に側鎖ビニル基も消費され、屈折率の増加に使用するビニル基を残すことができず、また溶剤に不溶なネットワークポリマー(ゲル)になってしまう。また、アニオン開始剤でも、有機金属化合物であるBuLiやグリニヤー試薬等の汎用的なアニオン開始剤では、側鎖ビニル基の一部が重合中に架橋反応してしまい、また得られる重合体の収率や分子量が低くなるため、好ましくない。
【0020】
このため、本発明では、上記重合体を得るためのアニオン開始剤として、希土類金属を活性中心とする金属錯体触媒を使用する。
ここで、希土類金属は、Sc、Y、ランタノイドまたはアクチノイド等の13族金属を指し、活性中心とは、単量体に配位または結合して直接重合反応を開始する部位をいう。このような金属錯体触媒は、いわゆるメタロセン触媒と呼ばれており、これには、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、インデニルと金属イオンとの錯体、フルオレニルと金属イオンとの錯体等が挙げられる。
【0021】
このような金属錯体触媒の中でも、シクロペンタジエニルと金属イオンとの錯体、特につぎの式(2)で表される金属錯体化合物が好ましく用いられる。
(Cp1)(Cp2)Mr−(R)p・(L)q …(2)
(式中、Cp1,Cp2は、相互に独立して、非置換のシクロペンタジエニルまたは 置換されたシクロペンタジエニルであり、Cp1とCp2とは直接または連結基を 介して結合していてもよい。Mrはr価の希土類金属原子で、rは2〜4の整数で ある。Rは水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。Lは配位能を有 する溶媒である。pはRの数、qはLの数で、それぞれ0〜2の整数であり、上記 rに対してr=p+2となるように選択される。)
【0022】
上記の式(2)において、Cp1またはCp2が置換されたシクロペンタジエニルである場合、置換基としては、メチル基またはトリメチルシリル基が好ましい。Cp1またはCp2中の置換基の数としては、3〜5が好ましい。
Cp1またはCp2には、C5 H5 、C5 (CH3 )5 、C5 H2 (CH3 )3 、C5 (CH2 CH3 )5 、C5 H2 (CH2 CH3 )3 、C5 H2 〔CH(CH3 )2 〕3 、C5 H2 〔Si(CH3 )3 〕3 、C5 H2 〔CH(CH3 )2 〕3 等がある。
【0023】
Cp1とCp2とは、単結合または連結基を介して結合していてもよく、特に連結基を介して結合しているのが好ましい。
連結基としては、−(CH2 )n〔Si(CH3 )2 〕m−〔n,mはそれぞれ0〜3の整数であり、(m+n)は1〜3である〕が好ましく、特にジメチルシリル基(nが0でmが1)、ジメチレン(nが2でmが0)であるのが好ましい。また、連結基は、エーテル性の酸素原子等のヘテロ原子を含む連結基であってもよい。
【0024】
また、上記の式(2)において、Mは活性中心となるr価の希土類金属原子で、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、ルテチウム(Lu)が好ましい。その価数(r)は2、3、または4であり、特に2または3が好ましい。
Rは、水素原子または炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、メチル基が好ましい。Lは配位能を有する溶媒であり、ヘテロ原子を含む溶媒が好ましく、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロビラン等の環状エーテル系溶媒、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等が好ましい。
【0025】
上記の式(2)で表される金属錯体化合物の中でも、つぎの式(3)〜(5)で表される金属錯体化合物が特に好ましく用いられる。
(Cp※)2 SmIII −(CH3 )・(THF) …(3)
(Cp※)2 YbIII −(CH3 )・(THF) …(4)
(Cp※)2 Y III −(CH3 )・(THF) …(5)
(式中、Cp※は1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルであり、 THFはテトラヒドロフランである)
【0026】
重合反応は、無水かつ無酸素の条件下で行うのが望ましい。また、重合反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。さらに、重合反応は、溶媒の存在下で実施するのが好ましい。溶媒としては非極性溶媒が好ましく、特に、ベンゼン、トルエンまたはキシレン等の芳香族系非極性溶媒が好ましい。
重合時の単量体の量は、溶媒中5〜30重量%とするのが好ましい。5重量%未満では分子量を十分に大きくできないおそれがあり、30重量%を超えると重合中に系の粘性が上がり、重合転化率が低下するおそれがある。また、金属錯体触媒の量は、単量体に対して0.01〜10モル%が好ましく、特に0.1〜5モル%が好ましい。
重合時の反応温度は、100℃以下が好ましく、特に−95℃〜+30℃程度が好ましい。さらに好ましくは−95℃〜−25℃である。低温で重合を行うほど生成するポリマーの立体規則性が向上し、シンジオタクチシティが向上する傾向がある。
【0027】
このように合成される重合体(A)は、重合体分子内に式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体に由来するラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存しており、その残存率は、90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。
ここで、未反応のラジカル重合性の側鎖ビニル基は、例えば、1H−NMRにより求めることができる。例えば、PVMAの場合、ビニル基由来のプロトンに帰属されるピーク(4.9ppm付近)と、α位のメチル基由来のプロトンに帰属されるピーク(1.3〜0.6ppm付近)との面積比により、算出することができる。
【0028】
アニオン開始剤を用いた重合反応により、上記の重合体(A)として、式(1)で表されるアクリル・ビニル単量体と他の単量体との共重合体を合成する場合、上記の両単量体の添加順序を適宜選択することより、既述したとおり、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でも、任意に合成することができる。
また、このように合成される重合体(A)は、単量体の選択により、その立体規則性がシンジオタクティシティー(rr)で70%以上であるのが好ましい。そうであることにより、重合体のガラス転移点(Tg)がはるかに高くなり、耐熱性も良好になる。すなわち、希土類金属を活性中心とする金属メタロセン錯体触媒の存在下に重合して得られる重合体(A)は、シンジオタクティシティーが70%以上になりうる。
【0029】
一般に、シンジオタクティシティーとは、以下のように、説明される。鎖状重合体分子の主鎖を形成する繰り返し単位の炭素原子に2種の異なる原子または原子団(置換基)が結合していると、この炭素原子を中心にして立体異性が生じる。
このとき、任意の繰り返し単位において、主鎖に沿って隣の単位が常に反対の立体配置を採るものをシンジオタクティック、主鎖に沿って隣の単位が常に同じ立体配置を採るものをアイソタクティック、主鎖に沿って隣の単位の立体配置が任意であるものをアタクティック、とそれぞれいう。また、ポリマー鎖中の全立体配置のシンジオタクティック部分の割合をシンジオタクティシティー、アイソタクティック部分の割合をアイソタクティシティー、アタクティック部分の割合をアタクティシティー、とそれぞれいう。
【0030】
シンジオタクティシティーは、ポリマーの立体規則性を表す指標である。
本発明におけるシンジオタクティシティーの値は、重合体を構成する単量体由来の重合単位の全量のうち、シンジオタクティックなトリアドの重合単位の割合をモル%で表した値をいう。この明細書において、トリアドとは、重合体の繰り返し単位の3つからなる連鎖をいう。3つの繰り返し単位のカルボニル基のα−炭素(不斉炭素)の立体配置の一方をd、他方をlと表現した場合、dddまたはlllで連なる連鎖をアイソタクティックなトリアド、dldまたはldlで連なる連鎖をシンジオタクティックなトリアド、ddl、lld、dll、lddで連なる連鎖をヘテロタクティックなトリアドという。
【0031】
シンジオタクティシティーは、核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により、求められる。すなわち、本発明の重合体をこれを溶解する重水素化溶媒で溶解または膨潤させ、1H−NMR法または13C−NMR法により測定し、シンジオタクティシティー、アイソタクティシティー、アタクティシティーを反映するシグナルの積分値を測定し、これらの比を求めることにより、算出することができる。
【0032】
本発明の重合体が重水素化溶媒に難溶性である場合には、必要に応じて、重水素化溶媒または重水素化されていない溶媒を追加して、用いてもよい。重水素化されていない溶媒を用いる場合は、NMRの測定に影響を及ぼさない原子を含む溶媒を選択するのが好ましく、例えば、1H−NMRスペクトルデータに影響をおよぼさない重クロロホルム、重ベンゼンが挙げられる。
なお、NMRにおける測定核の選択は、重合体のスペクトルパターンに応じて適宜変更することができる。基本的には、1H−NMRスペクトルによるのが好ましく、1H−NMRデータにおける必要なピークが、他の不要なピークと重なる場合または1H−NMRでは測定できない場合には、13C−NMRスペクトルによるのが好ましい。
【0033】
具体的には、ビニル(メタ) アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基Xが水素原子またはメチル基である場合、このXに由来する1H−NMRのシグナルは、シンジオタクティックなトリアド中の水素原子、アイソタクティックなトリアド中の水素原子、アタクティックなトリアド中の水素原子で異なるケミカルシフトを持つことを利用し、これらのシグナルの面積比を求めることにより、シンジオタクティックなトリアド(rr)、アタクティック(ヘテロタクティックともいう)なトリアド(mr)、アイソタクティックなトリアド(mm)の割合(rr/mr/mm)が求められる。
なお、NMRスペクトルの帰属の参考として、新版高分子分析ハンドブック、日本分析化学会編(1995)、Mackromol.Chem.,Rapid.Commun.,14,719(1993)を使用した。
【0034】
また、ビニル(メタ) アクリレート単量体のカルボニル基のα−炭素に結合する置換基がフッ素原子またはトリフルオロオメチル基である場合のシンジオタクティシティーは、13C−NMRピークの面積比によって求められる。
すなわち、カルボニル基のα−炭素の13C−NMRシグナルが、シンジオタクティックなトリアド中の炭素原子、アイソタクティックなトリアド中の炭素原子、アタクティックなトリアド中の炭素原子で異なることを利用して、これらのピークの面積比を求めることにより、(rr/mr/mm)が求められる。
【0035】
本発明におけるシンジオタクティシティーは、このように求められる各タクティシティーから、〔rr/(rr+mr+mm)〕×100(%)として、算出される値である。前記アニオン開始剤を用いた重合反応により得られる重合体(A)は、このシンジオタクティシティー(rr)が、70%以上という高い値をとることにより、アタクティックなポリマーと比べて、耐熱性や強度の点で優れたものとなる。シンジオタクティシティーが高いほど、これらの物性は向上するのである。
このように、本発明の重合体(A)は、従来の重合体に比べて、耐熱性や強度の面で、優位な物性を有している。この重合体(A)は、数平均分子量が2,000以上であるのが好ましい。分子量が高いほど強度や物性の点で好ましく、特に20,000以上であるのがよい。また、通常は、500,000以下であるのがよい。
【0036】
つぎに、本発明に用いられる熱硬化性重合体(B)は、加熱により架橋反応して硬化する重合体であり、例えば、ポリメチルメタクリレートまたはその共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ステレン樹脂、アリル樹脂、ウレタンーアクリルーステレン共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
これらの熱硬化性重合体(B)は、重合体(A)と同様に、数平均分子量が2,000以上であるのが好ましい。分子量が高いほど強度や物性の点で好ましく、特に20,000以上であるのがよい。また、重合体(A)との相溶性や溶媒への溶解性の観点より、数平均分子量が通常500,000以下であるのが好ましい。
【0037】
このような熱硬化性重合体(B)の中でも、エポキシ樹脂は、酸触媒下での硬化性が良好であり、また一般的に硬化後の収縮率がビニル系よりも小さく、さらに硬化後の耐熱性にも優れているため、特に好ましく用いられる。
エポキシ樹脂は、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体であり、特に熱硬化温度が低く硬化時間が短いものが好ましい。また、耐光性、耐熱性、透明性の観点より、脂肪族または脂環式のエポキシ樹脂が好ましい。さらに、重合体(A)が(メタ)アクリル系ポリマーのため、これとの相溶性の観点より、(メタ)アクリル系骨格を有するエポキシ樹脂が好ましい。もちろん、これらに限定されることなく、目的に応じて種々のエポキシ樹脂を任意に使用できる。
【0038】
本発明において、熱硬化性重合体(B)は、前記の重合体(A)100重量部あたり、通常5〜60重量部、好ましくは10〜50重量部の割合で用いられる。熱硬化性重合体(B)が多すぎると、必要な屈折率変調が得られなかったり、重合体(A)との相溶性が低下し透明性が損なわれるおそれがある。また、熱硬化性重合体(B)が少なすぎると、熱硬化による残存ビニル基の反応抑制効果が不十分となる。
なお、熱硬化性重合体(B)の個々の使用量は、熱硬化性重合体(B)の種類や重合体(A)の種類に応じて、適宜決定するのが望ましい。例えば、熱硬化性重合体(B)としてエポキシ樹脂を使用するときは、前記の重合体(A)100重量部あたり、5〜35重量部の使用量とするのが望ましい。
【0039】
本発明の光屈折率変調重合体組成物は、重合体(A)を主成分とし、これに熱硬化性重合体(B)を上記特定量含ませてなるものであり、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基により、これに紫外線等の光を照射して上記のビニル基を架橋反応させると、その屈折率が増加変調する性質を有している。この性質として、例えば、紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上、最大0.01以上となるものである。
【0040】
なお、上記の屈折率は、m−Line法(プリズムカップリング法)を用いて、He−Neレーザー(波長633nm)で測定される。
この場合、TE(トランスバース・エレクトリック)モード(材料のフィルム面と平行方向の光の偏波モード)およびTM(トランスバース・マグネチック)モード(材料のフィルム面と垂直方向の光の偏波モード)での測定が可能であるが、本発明においては、特にTEモードでの屈折率によりその増加分を評価する。
【0041】
また、光導波路・光集積回路では、TEモードとTMモードの屈折率の差が大きいと、光の伝播損失が大きくなり、光情報に位相が生じる。このため、TEモードとTMモードの屈折率の差が小さい、つまり材料の偏波依存性ロス(Polarization Dependent Loss:PDL)が少ない材料が望ましい。
具体的には、TEモードとTMモードの屈折率の差は、通常0.001程度以下であるのが望ましい。本発明の光屈折率変調重合体組成物は、重合体(A)にみられるように、アクリル系材料からなるため、光導波路材料として汎用されている材料と比べて、複屈折が小さいことから、上記のPDLが小さく、特に有利である。
【0042】
また、本発明の光屈折率変調重合体組成物は、上記光を照射して屈折率を増加変調したのちに、熱硬化性重合体(B)を熱硬化させることにより、ポリマー分子が固定化されて側鎖ビニル基の反応が抑制され、一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない高い保存安定性を示すという特異な性質を有している。
この性質として、例えば、光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下、特に好ましくは0.002以下となるものである。
【0043】
このような性質を有する本発明の光屈折率変調重合体組成物には、必要に応じて、光開始剤、増感剤および連鎖移動剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含ませることができる。これらの添加剤を含ませることにより、重合体(A)の分子内に残存している側鎖ビニル基の光の照射による架橋反応性を向上させることができ、これにより屈折率の増加変調をより良く引き起こすことができる。
なお、重合体(A)は、その単量体組成により、この重合体(A)単独では上記ビニル基の光の照射による架橋反応性を発現させにくい場合がある。このような重合体(A)に対して、上記添加剤を含ませることにより、光の照射による架橋反応性を発現させることができるようになり、屈折率の増加変調を引き起こすことが可能となる。
【0044】
光開始剤は、紫外領域の光に吸収を有し、ラジカルを発生するものであり、例えば、水素引抜き型のベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が挙げられる。また、分子内開裂型として、ベンゾイン系、アルキルフェノン系等が挙げられる〔参考文献:光硬化技術実用ガイド(テクノネット社)2002〕。
光増感剤(光開始助剤)としては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミン系化合物、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない〔参考文献:紫外線硬化システム(総合技術センター)平成2年〕。
【0045】
また、米国特許第3,652,275号明細書には、光開始剤と併用して、連鎖移動剤が光硬化システムとして有効であるとの記載がある。
このような連鎖移動剤としては、例えば、N−フェニルグリシン、1,1−ジメチル−3,5−ジケトシクロヘキセン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、4−アセトアミドチオフェノール、メルカプトコハク酸、ドデカンチオール、β−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタンスルホン酸、1−フェニル−4H−テトラゾール−5−チオール、6−メルカプトプリンモノハイドレート、ビスー(5−メルカプト−1,3,4−チオジアゾール)−2−イル、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、2−メルカプト−4−スルホ−6−クロロベンズオキサゾール等からなる群より選ばれるものが挙げられる。
これらの中でも、2−メルカプトベンズオキサゾール(以下、2−MBOという)、2−メルカプトベンズイミダゾール(以下、2−MBIという)、2−メルカプトベンゾチアゾール(以下、2−MBTという)等が、特に好ましく用いられる。
【0046】
また、上記本発明の光屈折率変調重合体組成物には、必要に応じて、熱酸発生剤を含ませることができる。この熱酸発生剤を含ませることにより、熱硬化性重合体(B)の硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮させることができる。
熱酸発生剤には、硬化速度、腐食性、安全衛生等の面より、適宜のものが選択される。例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられる。市販品としては、旭電化工業(株)製の「アデカオプトンCP−66」、「同CP−77」、三新化学工業(株)製の「サンエイドS1シリーズ」等がある。
【0047】
本発明においては、このように構成される光屈折率変調重合体組成物を使用することにより、種々のホログラム記録材料を提供できる。
すなわち、上記構成の光屈折率変調重合体組成物の使用により、例えば、耐候性、耐熱性、化学的安定性、保存安定性に優れ、また乾式処理による高解像度、高回折効率、高透明性、再生波長再現性に優れた体積位相型ホログラムを形成可能なホログラム記録材料やホログラム記録媒体、それらを用いたホログラム材料を提供できる。
【0048】
また、本発明においては、上記構成の光屈折率変調重合体組成物を使用した屈折率制御方法を提供することができる。この屈折率制御方法は、本質的に、上記の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴としたものである。
以下、上記屈折率を変調するための光として、紫外領域の光を利用する場合について、説明する。ただし、屈折率変調の原理からして、紫外以外の領域の光(例えば可視領域)でもその波長に吸収があり、側鎖ビニル基の架橋反応を励起しうるものであれば、屈折率の増加変調を同様に期待できることは言うまでもない。
【0049】
本発明の屈折率制御方法においては、まず、上記の光屈折率変調重合体組成物を用いて適宜の成形処理を施したのち、これに紫外線を照射する。
紫外線の波長は、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基を架橋反応させて、重合体(A)を構造変化させ、密度変化を大きくできる波長であればよい。この波長は、照射強度等との関係で、一概には決まらないが、好ましくは200〜450nm、特に250〜350nmであるのがよい。
【0050】
紫外線の光源は、照射する波長を考慮し、適宜選択される。例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー等を用いられる。照射に際し、特定の波長を照射するための波長フィルターを用いてもよい。
紫外線の照射強度は、小さすぎると分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基を有する重合体の光化学反応を誘起することができず、屈折率変調が得られなくなり、逆に大きすぎると、成形体が不透明になったり、強度が低下する場合がある。これらを考慮して、適宜設定される。照射する波長によっても異なるが、通常0.001〜3W/cm2 程度とするのが適当であり、好ましくは0.1〜1W/cm2 である。
【0051】
紫外線の照射時間は、得ようとする屈折率差を考慮して、適宜設定される。すなわち、成形体の屈折率は、紫外線の照射により連続的に増加するため、照射時間の設定により、屈折率を任意に制御することができる。
具体的な照射時間は、紫外線の照射波長、強度等により異なるため、これらに応じて、適宜設定すればよい。例えば、PVMAの成形体に280〜300nmの波長を含む紫外線を300mW/cm2 の強度で照射して、屈折率を0.005増加させようとする場合、その照射時間は、約0.5〜2分間程度とするのが適当である。
【0052】
紫外線の照射にあたり、成形体の温度を高くして行うことができる。これにより、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基の架橋反応性が高まり、屈折率をより効率的に変調させることができる。
具体的な温度は、成形体の溶融温度や熱硬化性重合体(B)の熱硬化温度を超えない範囲で、適宜設定される。例えば、重合体(A)がPVMAであり、熱硬化性重合体(B)がエポキシ樹脂からなるときは、約50℃以下が適当である。
なお、紫外線の照射による屈折率の変調処理では、使用実施形態の汎用性を考慮して、不活性ガスの存在下で行う必要は特にない。しかし、N2 やAr等の不活性ガスの存在下では、フィルムと空気界面での表面酸化が抑制され、より低照度で大きな屈折率変化が得やすくなるため、本発明には特に好ましいものである。
【0053】
本発明において、このような条件下で紫外線を照射すると、重合体(A)の分子内に残存しているラジカル重合性の側鎖ビニル基が架橋反応し、これにより成形体の密度が上がり、その屈折率が増加する。上記した架橋反応は、成形体の一部を架橋させる等、密度が大きくなる反応であれば有効に利用することができる。
このように紫外線を照射すると、最大で0.01以上の屈折率の増加変調を行わせることができる。実際には、0.005以上の屈折率差を得ることができれば、光学素子、光記録材料等の光デバイスにとって、十分に高い値と言うことができる。
【0054】
本発明の屈折率制御方法では、上記のように紫外線を照射して成形体の屈折率を増加変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させるものであり、これによりポリマー分子が固定化されることで残存する側鎖ビニル基の反応が抑制されて上記一旦変調した屈折率が経時で大きく変調することのない、耐候性や耐熱性等の保存安定性にすぐれたものとすることができる。
加熱温度と加熱時間は、熱硬化性重合体(B)の種類により異なるが、通常、150℃以下で2時間以下が望ましい。150℃を超えると、重合体(A)の熱による反応が危惧され、高温による着色も懸念される。加熱時間が2時間を超えると、作業上の効率が損なわれる。熱酸発生剤の添加により、硬化温度を下げたり、硬化時間を短縮できる。
【0055】
つぎに、実施例および比較例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、以下において、部および%とあるのは、特に断らない限り、重量部および重量%を意味する。
【実施例1】
【0056】
<触媒の合成>
配位アニオン重合触媒を、以下のように合成した。
アルゴン置換した1リットルのフラスコに、SmI2 3.9616gと、テトラヒドロフラン(THF)330mlを加え、撹拌しながら、ペンタメチルシクロペンタジエニルカリウム塩〔(C5 Me5 )K〕45.858gを加え、室温で反応させた。その後、THFを減圧除去し、固形物にトルエンを加えて、上澄みを回収し、減圧乾燥させたのち、THFとヘキサンで、(C5 Me5 )2 Sm(THF)2 の再結晶を行った。この(C5 Me5 )2 Sm(THF)2 2.5gをトルエン60mlに溶解し、トリエチルアルミニウム2.2mlを加え、撹拌して反応を行った。沈殿物を除去したのち、再結晶を行い、(C5 Me5 )2 SmMe(THF)を得た。
【0057】
<PVMAの合成>
十分に水分、空気を除いたシュレンク管に、十分に乾燥、脱気したトルエンを80ml加え、CaH2 で乾燥後、蒸留精製したビニルメタクリレート20ml(18.7g/166.4ミリモル)を加えた。内温を−78℃に調整したのち、前記の方法で合成した触媒である(C5 Me5 )2 SmMe(THF)0.189g(0.373ミリモル)を乾燥トルエン5mlで希釈したものを仕込み、重合を開始した。触媒量は、単量体/触媒比が446となるようにし、理論分子量を約50,000に設定した。
重合温度−78℃で3時間反応させたのち、反応系にメタノールを加えて重合反応を停止した。さらに、メタノールを加えて生成した重合体(PVMA)を沈降させて単離し、酢酸エチルに溶解したのち、再度メタノールで再沈殿させて、精製した。
【0058】
重合体の乾燥は、減圧乾燥により行った。生成した重合体の収量は18.7g(収率>99%)であった。また、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により求めた数平均分子量(Mn)は77,000、重量平均分子量(Mw)は115,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.49であった。
さらに、1H−NMRにより求めた重合体中のラジカル重合性の側鎖ビニル基の残存率〔ビニル基の残存率(%)=ビニル基(4.9ppm)/メチル基(1.3〜0.6ppm)×100〕は100%であり、主鎖の立体規則性は、シンジオタクティシティー(rr)が92%であった。
【0059】
上記重合体(PVMA)の1H−NMRチャートを、図1に示した。また、この1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図を、図2に示した。上記タクティシティーの算出には、1.2〜0.9ppmに検出されるPVMAの主鎖メチル基〔1.19ppm付近(mm)、1.07ppm(mr)、0.92ppm(rr)〕の積分曲線を使用した。
つぎに、このようにして得たPVMA約0.1gを酢酸エチル50mlに浸漬し、2日間振騰した。酢酸エチル不溶成分を抽出し十分に乾燥させ、その重さを酢酸エチル溶解前の全重合体量で割り、不溶成分の割合(ゲル分率)を求めたところ、0%であった。
【0060】
<光屈折率変調サンプルの作製>
上記のPVMA0.4g、光開始剤として2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1(チバガイギー社製の「イルガキュアー907」)をPVMAに対して1%(0.004g)、熱硬化性エポキシ樹脂〔ダイセル化学工業(株)製の「EHPE−3150」〕0.1g、熱カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製の「サンエイドSI−60L」〕を上記「EHPE−3150」に対して1%(0.001g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。
このようにして、光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を調製した。なお、この組成物で使用したPVMAと熱硬化性エポキシ樹脂の割合は、PVMA100部あたり、熱硬化性エポキシ樹脂25部であった。
【0061】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0062】
ついで、このシリコンウエハ上のフィルムに対して、紫外線を照射した。照射に際し、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製の「UV照射装置CV−110Q−G」(装置型式名)を用い、光源としてメタルハライドランプを使用した。
なお、メタルハライドランプは、波長が250nm〜450nmの光を発しているが、あらかじめ、PVMAの紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、280〜300nmで側鎖ビニル基の吸収を示したため、他の波長の照射の影響はないと判断し、波長フィルターは特に使用しなかった。
【0063】
照射強度は、高エネルギー用UVラジオメーター、フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製の「UVパワーパック照射測定器」により、測定した。
紫外線の照射は、Hバルブ、出力55%、照射距離40mm、ライン速度4m/分の条件でフィルターを使用せずに行った。この条件での積算光量は1.072J/cm2 であった。各波長での照度と光量は表1に示されるとおりであった。
【0064】
表1
┌──────────┬──────────┬──────────┐
│ UV波長帯域 │ 照度(W/cm2 ) │ 光量(J/cm2 ) │
├──────────┼──────────┼──────────┤
│ │ │ │
│UVA (320〜390nm)│ 1.672 │ 0.388 │
│ │ │ │
│UVB (280〜320nm)│ 1.412 │ 0.342 │
│ │ │ │
│UVC (250〜260nm)│ 0.250 │ 0.058 │
│ │ │ │
│UVV (395〜445nm)│ 1.236 │ 0.284 │
│ │ │ │
├──────────┼──────────┼──────────┤
│ │ │ │
│ 積算量 │ − │ 1.072 │
│ │ │ │
└──────────┴──────────┴──────────┘
【0065】
このように紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。結果は、表2に示されるとおりであった。
なお、上記屈折率は、m−line法(プリズムカップリング法)により、He−Neレーザー(波長633nm)、TE(トランスバース・エレクトリック)モード(材料のフィルム面と平行方向の光の偏波モード)およびTM(トランスバース・マグネチック)モード(材料のフィルム面と垂直方向の光の偏波モード)で測定した。
【0066】
表2
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48250 │ − │ 1.48097 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49673 │ 0.01423 │ 1.49777 │ 0.01680 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49833 │ 0.00160 │ 1.49856 │ 0.00079 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0067】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48250から1.49673(屈折率差0.01423)まで増加させることができた。また、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49833(熱硬化処理後との屈折率差0.00160)であり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇が低く抑えられていた。
【実施例2】
【0068】
<光屈折率変調サンプルの作製>
実施例1で得たPVMA0.35g、光開始剤として「イルガキュアー907」をPVMAに対して1%(0.0035g)、熱硬化性エポキシ樹脂として「EHPE−3150」0.15g、熱カチオン重合開始剤として「サンエイドSI−60L」を上記「EHPE−3150」に対して1%(0.0015g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。
このようにして、光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を調製した。なお、この組成物で使用したPVMAと熱硬化性エポキシ樹脂の割合は、PVMA100部あたり、熱硬化性エポキシ樹脂約43部であった。
【0069】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0070】
このシリコンウエハ上のフィルムに対し、実施例1と同様にして、紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。屈折率の測定は、実施例1と同様に行った。結果は、表3に示されるとおりであった。
【0071】
表3
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48842 │ − │ 1.48880 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49749 │ 0.00907 │ 1.49771 │ 0.00891 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49967 │ 0.00218 │ 1.49951 │ 0.00180 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0072】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48842から1.49749(屈折率差0.00907)まで増加させることができた。また、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49967(熱硬化処理後との屈折率差0.00218)であり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇が低く抑えられていた。
【0073】
比較例1
<光屈折率変調サンプルの作製>
実施例1で得たPVMA0.5g、光開始剤として「イルガキュアー907」をPVMAに対して1%(0.005g)を、酢酸エチル1.5gに入れ、撹拌して、完全に溶解させた。このようにして光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液を得た。この組成物は、熱硬化性重合体を用いず、PVMAと光開始剤だけで構成したものである。
【0074】
つぎに、クリーンルーム内において、上記光屈折率変調重合体組成物の酢酸エチル溶液をスピンコーター(MIKASA製の商品名「スピンコーター1H−DX」)によりシリコンウエハにスピンコートした。スピンコートの条件は、2,000rpm、2秒とし、その後、50℃に設定したホットプレート上で約4分間溶媒を乾燥させた。
さらに、スピンコートしたものを40℃で5時間真空乾燥して、シリコンウエハ上に厚さが約7μmのフィルムを作製し、これを光屈折率変調サンプルとした。なお、上記のシリコンウエハは、特に洗浄処理をせずに使用した。
【0075】
このシリコンウエハ上のフィルムに対し、実施例1と同様にして、紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射したのち、70℃のホットプレート上で1時間、さらに100℃で1時間加熱して、熱硬化処理した。このときのフィルムの屈折率(紫外線照射・熱硬化処理後の屈折率)と、紫外線照射前の屈折率とを、測定した。また、熱硬化処理後、さらに紫外線を積算光量で1.072J/cm2 照射して、フィルムの屈折率を測定した。屈折率の測定は、実施例1と同様に行った。結果は、表4に示されるとおりであった。
【0076】
表4
┌───────┬─────┬──────┬─────┬──────┐
│ │TEモード│ Δn │TEモード│ Δn │
│ │ │(屈折率差)│ │(屈折率差)│
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射前 │ 1.48133 │ − │ 1.48155 │ − │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│紫外線照射・ │ 1.49253 │ 0.01120 │ 1.49372 │ 0.01217 │
│熱硬化処理後 │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├───────┼─────┼──────┼─────┼──────┤
│ │ │ │ │ │
│さらに │ 1.49585 │ 0.00332 │ 1.49635 │ 0.00263 │
│ 紫外線照射後│ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
└───────┴─────┴──────┴─────┴──────┘
【0077】
上記の結果から明らかなように、フィルムへの紫外線照射および熱硬化処理により、屈折率をTEモードで1.48133から1.49253(屈折率差0.01120)まで増加させることができた。しかし、その後、再度、紫外線照射したのちの屈折率は、TEモードで1.49585(熱硬化処理後との屈折率差0.00332)となり、さらなる紫外線照射に対して、屈折率の上昇がやや高くなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で得たポリビニルメタクリレート(PVMA)の1H−NMRチャートを示す特性図である。
【図2】図1の1H−NMRチャートにおけるタクティシティーの算出に用いた主鎖メチル基の拡大図である
【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの式(1):
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体(A)を主成分とし、この重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)を5〜60重量部含むことを特徴とする光屈折率変調重合体組成物。
【請求項2】
紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上である請求項1に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項3】
光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下である請求項1または2に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項4】
重合体(A)の立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項5】
熱硬化性重合体(B)が、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項6】
重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)が5〜35重量部である請求項5に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項7】
熱硬化性重合体(B)の硬化温度が150℃以下である請求項1〜6のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項8】
光開始剤、増感剤、連鎖移動剤および熱酸発生剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜7のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物からなることを特徴とするホログラム記録材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴とする屈折率制御方法。
【請求項1】
つぎの式(1):
CH2 =C(R1 )−C(=O)O−R2 =CH2 …(1)
(式中、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は炭素数1〜20の飽和または不飽和 炭化水素基であって、分子内にヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい)
で表されるアクリル・ビニル単量体を必須成分とした単量体の重合体であって、分子内にラジカル重合性の側鎖ビニル基が残存している重合体(A)を主成分とし、この重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)を5〜60重量部含むことを特徴とする光屈折率変調重合体組成物。
【請求項2】
紫外線領域の光を積算光量で10J/cm2 以下照射したときの屈折率の増加(Δn)が照射前後で0.005以上である請求項1に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項3】
光を照射して屈折率を変調し、さらに熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させたのちの屈折率(X)と、その後に紫外線領域の光を積算光量で1J/cm2 以下照射したときの屈折率(Y)との差(Y−X)が、0.003以下である請求項1または2に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項4】
重合体(A)の立体規則性が、シンジオタクティシティー(rr)で70%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項5】
熱硬化性重合体(B)が、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する熱硬化性重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項6】
重合体(A)100重量部あたり、熱硬化性重合体(B)が5〜35重量部である請求項5に記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項7】
熱硬化性重合体(B)の硬化温度が150℃以下である請求項1〜6のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項8】
光開始剤、増感剤、連鎖移動剤および熱酸発生剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜7のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物からなることを特徴とするホログラム記録材料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の光屈折率変調重合体組成物に、光を照射して屈折率を変調したのち、熱硬化性重合体(B)の硬化温度以上に加熱して熱硬化させることを特徴とする屈折率制御方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−188631(P2006−188631A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2592(P2005−2592)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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