説明

光干渉繊維の溶融紡糸口金

【課題】光学干渉機能を有する偏平状マルチフィラメントヤーンにおいて、長波長の光を反射させるために積層厚みを増やしても積層の均一性を維持することが可能な溶融紡糸用口金を提供する。
【解決手段】積層部を形成するための2種のポリマー合流流路8において、保護層部用ポリマーAを積層部の流量比10%以上30%以下の割合にて積層部の最外部に流入することにより積層部の厚み均一化を行うことを特徴とした溶融紡糸口金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異なる少なくとも2種のポリマーを偏平断面の長軸方向と並行に交互に積層してなる光学干渉機能を有する偏平状マルチフィラメントヤーンにおいて、安定した糸特性や、発色強度を維持する光干渉繊維の溶融紡糸口金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然光の反射作用や干渉作用によって可視光線領域の波長の色を発色する多層の薄膜積層構造を有するフィラメントとして、例えば、フィラメント基材の上に透明な金属化合物を薄膜蒸着させた構造のもの、光学的に屈折率の異なる2種の透明なポリマーからなる薄膜を交互に多層積層した構造のものが知られている。これらの中でも、特に、後者については、フィラメントそのものが光干渉性を有するので、使用上の耐剥離性は蒸着構造のものに比べて格段に優れている。
【0003】
2種以上の透明なポリマーからなる各薄膜を多層に積層した構造を有する光干渉繊維(以下、「発色繊維」とも言う)を溶融紡糸する際には、積層部のみの構造とする場合と、非積層領域を周りに保護層として覆わせた構造とする場合が考えられる。その際に、積層部のみからなる構造を有する光干渉繊維の場合には、積層部が剥離するなどの品質上の問題が生じる可能性がある。
【0004】
そこで、積層部へ直接作用する外部からの影響を防止して積層部を保護する目的で積層部の周りを非積層部で保護するための保護層を形成した光干渉繊維が必要とされる。なお、このような保護用の非積層部を含む構造を有する光干渉繊維とする場合には、積層部の多層薄膜を安定に形成するために2種類のポリマーを一定量で吐出を行った方が望ましい。
【0005】
以上に説明したようなことを考慮しすると、積層部を安定に形成するための口金構造として、積層部を構成する少なくとも2種類のポリマーとしてA成分ポリマー及びB成分ポリマーと、保護層部のポリマーとしてC成分ポリマーからなる3種類のポリマーを溶融紡糸するための複合紡糸設備が必要となる。ただし、保護層部のポリマーとして、積層部を構成するA成分ポリマーあるいはB成分ポリマーを使用することができる。しかしながら、このようなA成分ポリマーとB成分ポリマーの他のC成分ポリマーを用いても構わない。
【0006】
しかしながら、汎用設備として使われている複合紡糸設備はも、異なる2種類のポリマーを用いる複合紡糸設備が主流となっている。したがって、2種類のA成分ポリマーとB成分ポリマーからなる薄膜を交互に積層させた積層部と、保護層からなる非積層部とから形成される複合繊維に関しては、非積層部をA成分ポリマーかB成分ポリマーで形成することが好ましい。
【0007】
ところで、上記のような汎用設備を使用して安定した積層厚さを保持した積層部が形成された光干渉フィラメントを、溶融紡糸しようとすると、積層部を形成する各薄膜の厚みを狙い通りの寸法で形成する必要がある。このために、複雑な構造を有する紡糸口金を加工精度良く製作することが要求される。しかしながら、従来の紡糸口金はこのような要求に十分に応えられるものではない。
【0008】
そこで、薄膜ポリマーからなる交互積層体を狙った通りにフィラメント中に形成させることができ、これによって、波長の揃った反射光と干渉光による優れた光干渉効果を発現する光学干渉性複合高分子繊維を得ることができる溶融紡糸用口金が特許文献1〜3に提案されている。しかしながら、これらの特許文献1〜3に提案されている光学干渉性複合高分子繊維の溶融紡糸用口金に関しては、薄膜ポリマーからなる交互積層体を均一に形成する機能に特化されている。このため、その寸法仕様は、ある特定の波長をピークに持つマルチフィラメントヤーンを高発色にするため、また、布地としての織編するための糸特性を保つように高精密な設計となっている。
【0009】
光干渉繊維の発色特性を示すパラメータとして積層部を構成する交互積層体の特性が重要であるが、この特性については、各積層厚みが等しく、かつ積層厚みが均一であることにより発色特性が安定することが知られている。このため、紡糸口金流路の製作精度に関して、前述の交互積層体からなる積層部の形成部分については高い寸法精度を要求される。しかしながら、高い寸法精度を維持して積層部を形成することにより各積層薄膜へ分配供給するポリマー分配量を全体的に均一にすることができても、数十層の積層厚みをそれぞれ均一に形成することは容易ではない。しかも、積層厚みのバラツキは相対的に発生するために積層が厚い長波長を反射する光学反射繊維ほど維持することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−1817号公報
【特許文献2】特開平11−1818号公報
【特許文献3】特開平11−1819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に述べた従来技術が有する問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「光学的屈折率の異なる少なくとも2種のポリマーを偏平断面の長軸方向と並行に交互に積層してなる光学干渉機能を有する偏平状光干渉において、長波長の光を反射させるために積層厚みを増やしても積層の均一性を維持することが可能な溶融紡糸用口金」を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここに、前記の課題を解決するための本発明によれば、「光学的屈折率の異なる少なくとも2種のポリマーが扁平形状を有する繊維軸に沿って扁平断面の長軸方向と平行に積層された積層部と、前記積層部の周りを囲繞する保護層とが形成された光干渉性繊維を溶融紡糸するための溶融紡糸口金において、前記積層部を形成するための前記『少なくとも2種のポリマー』を合流させる流路部で、前記積層部の積層厚みを次第に減少させるテーパー状の流路壁の両端側へ保護層部を形成させるポリマーと同種のポリマーの流量を積層部を流入させると共に、前記『同種のポリマー』が前記積層部に流入する全流量との流量対比で10%以上30%以下の割合で前記テーパー状流路壁の両端側へ供給するポリマー流路が形成されたことを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸口金」が提供される。
【0013】
このとき、本発明においては、前記溶融紡糸口金を「一本の光干渉繊維中に占める前記積層部の割合が50%以上65%以下になるように前記保護層を形成するポリマーが流れる流路を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光干渉繊維の溶融紡糸口金」とするが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、光学干渉機能を有する偏平状光干渉繊維において、長波長の光を反射させるために積層厚みを増やしても積層の均一性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る光干渉繊維の溶融紡糸口金の一実施形態を例示した一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明に係る「光干渉繊維の溶融紡糸口金(以下、単に“口金”とも言う)」の構造は、図1に例示したように構成されている。なお、この口金構造の詳細については、前掲の特許文献1〜3に詳細に開示されているので、ここではその詳細説明を省略する。
【0017】
ここで、前記図1において、各参照符号について説明すると、1:第1口金板、2:第2口金板、3:第3口金板、4:第4口金板、5:A成分ポリマーの導入孔、6:B成分ポリマーの導入孔、7:開孔列、8:積層合流流路、9:漏斗状流路、10:保護層ポリマーの分岐流路、11:保護層ポリマーの合流流路、そして、12:吐出孔をそれぞれ表している。なお、図1の実施態様において、本発明の口金は、第1口金板1、第2口金板2、第3口金板3、及び第4口金板4の順で上下に積層されて構成されており、これらはそれぞれメタルタッチでポリマーシールされている。
【0018】
本発明において、積層部と、この積層部を保護するために囲繞する保護層部を形成させるために使用する、光学的屈折率が異なる「少なくとも2種のポリマー」の性状とその組合わせは、光干渉性を示すポリマーであれば特に限定することはなく、例えば前掲の特許文献1〜3などに開示されているものを好適に使用することができる。
【0019】
ただし、以下の実施形態においては、一例として、一方のポリマー(A成分ポリマー)として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が0.9モル%共重合された、固有粘度0.57のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを用い、他方のポリマー(B成分ポリマー)として、固有粘度1.20のナイロン6を用いた例に基づき説明する。
【0020】
図1に例示した本発明の「光干渉繊維の溶融紡糸口金」は、既に説明したように繊維軸方向に沿って形成された積層部と保護層部からなる扁平断面形状を有する光干渉繊維を紡出するためのものである。なお、繊維軸に沿って形成される前記積層部の積層面は、扁平な面に対して並行して形成されることは言うまでもない。つまり、前記積層部は扁平断面の長軸方向と平行に積層されている。
【0021】
このとき、前記積層部は、少なくとも2種のポリマーからなる薄膜層が積層された構造を有している。なお、以下の説明においては、説明が錯綜して複雑化することを避けて簡略化して「少なくとも2種類のポリマー」を「2種類だけのポリマー」に限定し、これら「2種類だけのポリマー」として、一方がA成分ポリマーで他方がB成分ポリマーからなる薄膜層が交互に積層して形成された積層部の場合についてのみ説明する。
【0022】
この場合、前記積層部は、一方の薄膜層がA成分ポリマーから形成され、他方の薄膜層はB成分ポリマーから形成され、これらの薄膜層が交互に積層されて形成されていることは言うまでもない。ただし、図1に例示した溶融紡糸口金では、保護層もA成分ポリマーから形成された実施形態であって、2種類のポリマーを使用する汎用の複合紡糸設備を使用する場合に好適な実施形態でもある。
【0023】
このとき、前述のA成分ポリマーは、口金の一部を構成する第1口金板1に穿設された導入孔5から導入され、その一部のポリマーは保護層を形成するために分岐流路10へ分岐する。そして、その余のA成分ポリマーは、B成分ポリマーとで交互積層体となるための交互積層体流を形成する開孔列7の上部入口側へと分岐して流れる。
【0024】
次に、前述のB成分ポリマーは、口金の一部を構成する第1口金板1に穿設された導入孔6から導入され、全てのB成分ポリマーが第2口金板2に設けられた開孔列7の直下部へと流入する。このようにして、開孔列7の下部に形成された第3口金板3の積層合流流路8において、各開孔列7から流出するA成分ポリマーの周りをB成分ポリマーが囲繞しながら各開孔列7の出口からそれぞれ流れ出たA成分ポリマーとB成分ポリマーとが合流する。
【0025】
次いで、このように合流したA成分ポリマーとB成分ポリマーとは、上下方向に狭隘な間隙を形成する積層合流流路8を図示の矢印方向へ水平に流れることによって交互積層流が形成される。以上の説明からも明らかなように、交互積層体を構成する薄膜層の数は、前記開孔列7の開口の数によって決定される。なお、本発明の実施形態例においては、得られるフィラメントの交互積層数は30層とした。
【0026】
ここで、前述の開孔列7は積層を均一に保つために従来は、孔長と孔径を一定に保つ必要があった。しかしながら、本発明においては、口金内で最内列にある開孔と最外列にある開孔(すなわち、開孔列7を構成する両端の開孔)の孔径に関しては、これらの最内列と最外列の2箇所の開孔の間にある開孔群の孔径と異ならせる。このように、開孔列7に設ける開孔群の孔長と孔径を異ならせることによって、開孔列7を構成する開孔群へそれぞれ流入するB成分ポリマーの流入量を異ならせるのである。
【0027】
具体的には、本発明は、交互積層流を形成するための流路の一部でもある開孔列7を構成する全開孔群へ流入するA成分ポリマーの流量の総和を1.0とした場合に、最内列と最外列とに設けられる2箇所の開孔(開孔列7の2つの両端開孔)へのA成分ポリマーの流入量の和が0.1〜0.3になるように開孔群の孔長と孔径を調整して設定することを大きな特徴とする。
【0028】
図1に例示した口金を用いて溶融紡糸するにあたって、それぞれ導入板1に付設されている導入孔(A成分ポリマーは導入孔5、B成分ポリマーは導入孔6)を通って、それぞれ上部分配板2、及び下部分配板3に付設されている開孔列7へ導かれて開孔列7から流出するB成分ポリマーが流出直後にA成分ポリマーと出会うことによって、積層合流流路8にて速やかに積層部が形成される。その後、積層合流流路8にて速やかに積層部が形成された積層ポリマー流は、下部分配板5に設けられたテーパー形状を有する流路である漏斗状流路9を流下することにより各層の厚みが次第に薄くされる。
【0029】
ところが、積層ポリマー流がこの漏斗状流路9を流下する際に、壁面に接する部分の積層ポリマー流の速度は、滑りが発生しないと仮定するとほぼ0となり、壁面から離れるに従ってその中央部では積層ポリマー流の速度が最大となるような速度分布が発生する。そうすると、その速度差に起因して積層ポリマー流にせん断力が発生し、このせん断力の影響により、最終的にフィラメント中に形成される積層部の均一性が乱れる要因となる。この現象は積層部の厚みを厚くするために、積層部へ流入するA成分ポリマーとB成分ポリマーの流量を増やせば増やすほどすほど、その速度差が大きくなるためにより顕著となる。
【0030】
そこで、本発明では、先ず壁面を流れる積層ポリマーが速度の影響を最も大きく受ける領域である漏斗状流路9のテーパー壁の両壁面側を流れるポリマーを同種のポリマーとする。このようにすることにより、漏斗状流路9のテーパー壁の両端側を流れる積層ポリマー流のずり速度の影響を互いに等しくなるようにし、これによって繊維中に形成される積層部の均一性を維持することを可能とする。
【0031】
また、この時に開孔列7の両端に位置する開孔を流れるA成分ポリマーの流量は、積層部を形成するために必要とされる全べてのA成分ポリマー流量との流量対比で0.1〜0.3(百分率で表現すると、10%〜30%)とすることが必要である。なお、0.3を超える流量比としても積層部への大きな影響はないが、光学干渉繊維は積層構造によって発色性能が得るためには、積層部を保護するという目的が達成されれば、保護層を形成するA成分ポリマーの割合は極力少ないほうが望ましい。そのため流量比としては、0.3以下が好ましい。
【0032】
以上に説明したように、漏斗状流路9を通過後の積層ポリマー流は、その後、下部分配板3に設けられた非積層ポリマーの分岐流路10を経由して非積層部の合流流路11に流れ込むA成分ポリマーによって囲繞されるように合流して、積層部の周りに非積層部(保護部)が形成された芯鞘流となり、紡糸口金4にある吐出孔12より吐出される。このとき、積層部のポリマー流量を全ポリマー流量対比で0.5〜0.65にすることが望ましい。
【0033】
何故ならば、最終的に光学干渉繊維が吐出孔12より紡出されるのであるが、光学干渉繊維の発色性能を維持するために、積層部のポリマー流量を全ポリマー流量対比で0.5以上にすることが望ましく、また、A成分ポリマー(保護層部ポリマー)により積層部を乱すことなく均一に囲繞するために、0.65以下にすることが望ましい。このようにすれば、一本の光干渉繊維中に占める前記積層部の割合が50%以上65%以下になるようにできる。
【符号の説明】
【0034】
1:導入板
2:上部分配板
3:下部分配板
4:紡糸口金
5:A成分ポリマー導入孔
6:B成分ポリマー導入孔
7:開孔列
8:合流流路
9:漏斗状流路
10:保護層部ポリマーの分岐流路
11:保護層部ポリマーの合流流路
12:吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的屈折率の異なる少なくとも2種のポリマーが扁平形状を有する繊維軸に沿って扁平断面の長軸方向と平行に積層された積層部と、前記積層部の周りを囲繞する保護層とが形成された光干渉性繊維を溶融紡糸するための溶融紡糸口金において、前記積層部を形成するための前記「少なくとも2種のポリマー」を合流させる流路部で、前記積層部の積層厚みを次第に減少させるテーパー状の流路壁の両端側へ保護層部を形成させるポリマーと同種のポリマーの流量を積層部を流入させると共に、前記「同種のポリマー」が前記積層部に流入する全流量との流量対比で10%以上30%以下の割合で前記テーパー状流路壁の両端側へ供給するポリマー流路が形成されたことを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸口金。
【請求項2】
一本の光干渉繊維中に占める前記積層部の割合が50%以上65%以下になるように前記保護層を形成するポリマーが流れる流路を形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光干渉繊維の溶融紡糸口金。

【図1】
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【公開番号】特開2010−203005(P2010−203005A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50599(P2009−50599)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】