説明

光応答性液晶材料

【課題】物性制御手段として、従来報告されていない光照射を用いることのできる液晶材料を提供する。
【解決手段】アゾベンゼン構造を有するジキラル液晶性化合物の混合物であり、キュービック相又は等方性液晶相を示し、光照射により異方性液晶相または液体相を発現する光応答性液晶材料。光によって、粘性、弾性、複屈折率などの物性を可逆的に変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって物性を制御できる光応答性液晶材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キュービック相及び等方性液晶相を発現する化合物に対し、温度変化や電場印加によって粘性率や弾性率を制御し、エネルギーの伝達を行うものが提案されている(例えば特許文献1)。
液晶性化合物の用途が広がるにしたがって、他の方法での制御が可能な材料が要望されるようになった。
【特許文献1】特開平8−226461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、物性制御手段として、従来報告されていない光照射を用いることのできる液晶材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、光応答性で物性が変化する液晶性材料が存在することを見出した。
すなわち、上記課題は以下の発明により解決された。
(1)アゾベンゼン構造を有するジキラル液晶性化合物の混合物であり、キュービック相もしくは等方性液晶相を示し、光照射により異方性液晶相または液体相を発現することを特徴とする光応答性液晶材料。
(2)下記一般式(1)で表される構造を有する化合物の混合物であることを特徴とする(1)記載の光応答性液晶材料。
【0005】
一般式(1)
【化1】

(RとRは同じでも異なっていてもよく、それぞれ以下の置換基から選ばれる。ただし1つの化合物中でRとRのキラリティー(S体およびR体)は同一である)
【0006】
【化2】

(*は不斉炭素を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の材料は、光に応じて粘性、弾性や複屈折率が変化するため、従来液晶性材料が用いられていなかった用途にも使用できる。光の照射による物性制御は簡便であり、低コストで種々の製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の材料は、光によって、粘性、弾性、複屈折率などの物性を可逆的に変化させることができることを特徴とする。この性質は、本発明の材料に用いる化合物のキラリティーに由来する。キラリティーの異なる特定の2種の化合物を混合して、従来、例のなかった光応答性の相転移をする液晶材料が得られる。
本発明ではジキラル液晶性化合物の混合物を用い、ジキラル液晶性化合物の分子内に組み込んだアゾベンゼン構造の光化学反応を利用して、光誘起相転移現象を行わせる。
ここで用いる化合物は、次の一般式(1)で表されるものが好ましい。
一般式(1)
【0009】
【化3】

【0010】
(RとRは同じでも異なっていてもよく、それぞれ以下の置換基から選ばれる。ただし1つの化合物中でRとRのキラリティー(S体およびR体)は同一である)
【化4】

(*は不斉炭素を示す。)
【0011】
上記の一般式(1)において、RとRが同じ化合物が特に好ましい。具体的にはRとRが以下に示すものである化合物が特に好ましい。
【0012】
【化5】

【0013】
本発明の液晶材料においては、上記一般式(1)で表される化合物のうち、キラリティー(S体とR体)が異なる2種を混合する。このときの混合比率は、好ましくは混合物における一方の化合物の割合が10モル%を越え90モル%未満である。
【0014】
2種の組み合わせは、一方のキラリティーがR1およびR2ともにS体、一方がR1およびR2ともにRであれば、いかなる構造ものでもよいが、化学式上では同じ構造で、キラリティーのみが異なる2種を用いるのが特に好ましい。
【0015】
本発明で照射する「光」は、紫外光、可視光のいずれでもよく、用いる化合物によって適宜選択されるが、例えば上記化合物(A)と化合物(B)からなる混合物の場合、好ましくは波長300〜500nm、さらに好ましくは365〜435nmである。
光の照射量は、用いる化合物により適宜選択できるが、例えば上記化合物(A)と化合物(B)からなる混合物の場合、光強度で好ましくは0.1〜20mW/cm、さらに好ましくは5〜15mW/cmである。
なお、本発明の材料において、相転移は双方向で可逆的に行われるが、双方向とも光が介在する必要はなく、一方が光、一方が熱などの場合も本発明に含まれる。
【0016】
本発明の液晶性材料は、高コントラスト情報表示素子や情報記録素子、応力伝達用材料(トライボマテリアル)などに好適に使用できる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(A)および化合物(B)をスキーム1に従い合成した。
[中間体1の合成)]
(1)ブロモアニリン(3.44g、20mmol)、酸化マンガン(10.5g、120mmol)をトルエン(50mL)を入れた還流装置を備えたなす型フラスコに加えた。
(2)100oCにて24時間、反応させた。
(3)酢酸エチル(100mL)を加え、熱時ろ過により酸化マンガンを除去した。
(4)上記(3)の操作を5回繰り返し、完全に酸化マンガンを取り除いた。
(5)酢酸エチルを一旦、減圧留去した。
(6)固形物を真空下において乾燥した。
(7)酢酸エチル(200mL)から再結晶した。
(8)結晶を回収した(収量:1.6 g)。
【0018】
[中間体2の合成]
(1)中間体1(1.02g、3.0mmol)、テトラ(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.06g)、4-エトキシカルボニルフェニルほう酸(1.74g、9mmol)を1,2-ジメトキシエタン(60mL)を入れた還流装置を備えたなす型フラスコに加えた。
(2)炭酸水素ナトリウム水溶液(1mol/L、10mL)をさらに加えた。
(3)90oCにて24時間、反応させた。
(4)ジクロロメタン(200mL)を加え、有機層と水層を分離し、有機層を回収した。
(5)硫酸マグネシウムにより脱水したのち、溶媒を減圧留去した。
(6)固形物を真空下において乾燥した。(収量:1.25g)
【0019】
[中間体3の合成]
(1)中間体2(1.0g、2.0mmol)、水酸化カリウム(5.6g、100mmol)をエタノール(100mL)を入れた還流装置を備えたなす型フラスコに加えた。
(2)100oCにて2時間、反応させた。
(3)反応溶液を減圧下において全量が10mLになるまで濃縮した。
(4)濃縮した反応溶液(10mL)を水(1L)中に注いだ。
(5)塩酸を用いて、水溶液のpHが2になるまで酸性化した。
(6)析出物をろ過により回収した。
(7)真空下において乾燥した。(収量:0.92 g)
【0020】
[化合物(A)の合成]
(1)中間体3(0.4g、0.95mmol)、(S)-(+)-2-オクタノール(0.4g、3.1mmol)、トリフェニルホスフィン(0.992g、3.8mmol)を脱水したTHF(40mL)を入れたなす型フラスコに加えた。
(2)なす型フラスコ内を窒素で置換した。
(3)窒素雰囲気を保ったまま、40%アゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液(1.648g)を溶解した脱水したTHF(20mL)を反応溶液に滴下した。
(4)溶媒を減圧留去し、固形物を回収し、真空下において乾燥した。
(5)カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン=2/1(体積比))によって精製する。
(6)溶媒を減圧留去し、ヘキサン/酢酸エチル=1/10(体積比))からなる混合溶媒によって再結晶した。
(7)結晶を回収した(収量:0.3g)。
【0021】
[化合物(B)の合成]
(1)中間体3(0.4g、0.95mmol)、(R)-(-)-2-オクタノール(0.4g、3.1mmol)、トリフェニルホスフィン(0.992g、3.8mmol)を脱水したTHF(40mL)を入れたなす型フラスコに加えた。
(2)なす型フラスコ内を窒素で置換した。
(3)窒素雰囲気を保ったまま、40%アゾジカルボン酸ジエチルトルエン溶液(1.648g)を溶解した脱水したTHF(20mL)を反応溶液に滴下した。
(4)溶媒を減圧留去し、固形物を回収し、真空下において乾燥した。
(5)カラムクロマトグラフィー([展開溶媒]ジクロロメタン:ヘキサン=2:1(体積比))によって精製した。
(6)溶媒を減圧留去し、ヘキサン:酢酸エチル=1:10(体積比))からなる混合溶媒によって再結晶した。
(7)結晶を回収した(収量:0.2g)。
【0022】
スキーム1
【化6】

【0023】
(上記スキーム中、Etはエチル基、Phはフェニル基を表す。)
混合物は、化合物(A)および化合物(B)の混合比が所定の割合になるように両者を混合し、調製した。混合物の液晶性は表1ならびに図1のようになり、混合物における化合物(A)の割合(モル%)が10を越え50未満もしくは50を越え90未満となる場合に、等方性液晶相が発現することを確認した。また,等量の化合物(A)と化合物(B)からなる混合物においてはキュービック相が発現することを確認した。
ここで、等量の化合物(A)と化合物(B)からなる混合物においては、キュービック相を発現する温度(80〜176oC)において紫外光(波長:365nm;光強度:10mW/cm2)を照射すると、トランス体からシス体への光異性化反応が誘起され、シス体の不純物効果により相構造が液体相へと相転移した。紫外光照射によって生じた等方性液体相は、シス体からトランス体への異性化反応を熱もしくは可視光照射(波長:435nm;光強度:10mW/cm2)によって誘起するとキュービック相へと相転移した。
また、化合物(A)の割合(モル%)が10を越え30未満もしくは化合物(B)の割合(モル%)が10を越え30未満である混合物においては、等方性液晶相を示す温度(106〜155oC)において紫外光(波長:365nm;光強度:10mW/cm2)を照射すると、トランス体からシス体への光異性化反応が誘起され、シス体の不純物効果により相構造がスメクチックQH相へと転移した。紫外光照射により生成したスメクチックQH相はシス体からトランス体への光異性化反応を熱もしくは可視光照射(波長:365nm;光強度:10mW/cm2)によって誘起すると等方性液晶相へと転移する。等方性液晶相は複屈折性がなく偏光顕微鏡観察においていかなる光学組織も確認できない。一方,スメクチックQH相は異方性液晶相である複屈折性を有しているため偏光顕微鏡観察において特徴的なモザイク組織を確認することができる。したがってこの相転移を利用すると、図2に示した顕微鏡写真に観察されるように光照射領域内にスメクチックQH相を誘起させることができる。それによって複屈折性の可逆的な制御が可能となり、高コントラスト情報表示素子や情報記録素子への応用が可能である。
また、上記材料が相転移とともに粘性および弾性率について可逆的な変化を示すことは、目視で確認した。
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】化合物(A)および(B)からなる混合物の液晶性を示すグラフである。
【図2】化合物(A)および(B)からなる混合物において、光誘起相転移が行われていることを示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾベンゼン構造を有するジキラル液晶性化合物の混合物であり、キュービック相および等方性液晶相を示し、光照射により異方性液晶相または液体相を発現することを特徴とする光応答性液晶材料。
【請求項2】
下記一般式(1)で表される構造を有する化合物の混合物であることを特徴とする請求項1記載の光応答性液晶材料。
一般式(1)
【化1】

(RとRは同じでも異なっていてもよく、それぞれ以下の置換基から選ばれる。ただし1つの化合物中でRとRのキラリティー(S体およびR体)は同一である)
【化2】

(*は不斉炭素を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298885(P2009−298885A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153303(P2008−153303)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】