説明

光情報記録媒体

【課題】良好なパワーマージンを有する光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】光情報記録媒体10は、基板1と、基板上に設けられた2以上の情報信号層L0〜L3と、情報信号層上に設けられたカバー層とを備える。2以上の情報信号層のうちの少なくとも1層は、Pd酸化物を含む無機記録層11と、無機記録層の第1の主面に設けられた第1保護層12と、無機記録層の第2の主面に設けられた第2保護層13とを備える。第1保護層および第2保護層の少なくとも一方が、Si酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光情報記録媒体に関する。詳しくは、2層以上の情報信号層を有する光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などが光情報記録媒体の市場を牽引してきた。しかし、近年では、テレビのハイビジョン化やPC(Personal Computer)で取り扱うデータの急激な増大に伴い、光情報記録媒体の更なる大容量化が求められている。この要求に応えるべく、BD(Blu-ray Disc(登録商標))などの青色レーザに対応した大容量の光情報記録媒体が登場し、新たな大容量の光情報記録媒体の市場が立ち上がりつつある。
【0003】
記録可能な光情報記録媒体としては、CD−RW(Compact Disc-ReWritable)、DVD±RW(Digital Versatile Disc±ReWritable)に代表される書換型の光情報記録媒体と、CD−R(Compact Disc-Recordable)やDVD−R(Digital Versatile Disc-Recordable)に代表される追記型の光情報記録媒体とがあるが、特に、後者は低価格メディアとして市場の拡大に大きく貢献してきた。したがって、青色レーザに対応した大容量の光情報記録媒体においても、市場を拡大させるためには、追記型の光情報記録媒体の低価格化が必要になると考えられる。さらに光情報記録媒体は、ハードディスクドライブ(HDD)やフラッシュメモリなどと比べて、その記録再生原理から保存信頼性が高いと一般的に言われており、重要情報の保管に使われ始めるなどアーカイバルメディアとしての需要が近年高くなっている。
【0004】
追記型の光情報記録媒体に用いられる記録材料としては、無機材料と有機色素材料とがある。従来の追記型の光情報記録媒体では記録材料として有機色素材料が主に検討されてきたが、近年の大容量の光情報記録媒体では記録材料として無機材料も広く検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、PdおよびOを含む無機記録層を有する光情報記録媒体が提案されている。また、特許文献2では、このような光情報記録媒体において、保存信頼性と高い生産性を両立するために、PdおよびOを含む無機記録層の少なくとも一方の面に、酸化インジウムおよび酸化スズの混合物(ITO)を主成分とする保護層を設けた光情報記録媒体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−218636号公報
【特許文献2】特開2009−129526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機記録層の少なくとも一方の面に酸化インジウムおよび酸化スズの混合物を主成分とする保護層を設けた光情報記録媒体では、良好なパワーマージンを得ることが困難である。
【0008】
したがって、本技術の目的は、良好なパワーマージンを有する光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、第1の技術は、
基板と、
基板上に設けられた2以上の情報信号層と、
情報信号層上に設けられたカバー層と
を備え、
2以上の情報信号層のうちの少なくとも1層は、
Pd酸化物を含む無機記録層と、
無機記録層の第1の主面に設けられた第1保護層と、
無機記録層の第2の主面に設けられた第2保護層と
を備え、
第1保護層および第2保護層の少なくとも一方が、Si酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる光情報記録媒体である。
【0010】
第2の技術は、
基板と、
基板上に設けられた2以上の情報信号層と、
情報信号層上に設けられたカバー層と
を備え、
2以上の情報信号層のうちの少なくとも1層は、
Pd酸化物を含む無機記録層と、
無機記録層の第1の主面に設けられた第1保護層と、
無機記録層の第2の主面に設けられた第2保護層と
を備え、
第1保護層および第2保護層の少なくとも一方が、In酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる光情報記録媒体である。
【0011】
第1および第2の技術において、カバー層の厚さは特に限定されるものではなく、カバー層には、基板、シート、コーティング層などが含まれる。高密度の光情報記録媒体としては、高NAの対物レンズを用いることから、カバー層としてシート、コーティング層などの薄い光透過層を採用し、この光透過層の側から光を照射することにより情報信号の記録および再生が行われる構成を有するものが好ましい。この場合、基板としては、不透明性を有するものを採用することも可能である。情報信号を記録または再生するための光の入射面は、光情報記録媒体のフォーマットに応じてカバー層側および基板側の表面の少なくとも一方に適宜設定される。
【0012】
第1および第2の技術において、無機記録層が、W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物を主成分として含んでいることが好ましく、これらの酸化物に加えてZn酸化物をさらに含んでいることがより好ましい。
【0013】
第1および第2の技術において、基板およびカバー層の側のいずれか一方の表面が、2以上の情報信号層に情報信号を記録または再生するための光が照射される光照射面であることが好ましい。
【0014】
第1の技術において、第1保護層および第2保護層のうち、光照射面とは反対側となる層がSi酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を含んでいることが好ましく、第1保護層および第2保護層の両方がSi酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。
【0015】
第1の技術において、光照射面から最も奥側となる情報信号層以外の情報信号層のうちの少なくとも1層が、第1保護層および第2保護層の少なくとも一方がSi酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる情報信号層であることが好ましい。2以上の情報信号層のうち、最も光照射面に近い情報信号層の無機記録層が、第1保護層および第2保護層の少なくとも一方がSi酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる情報信号層であることが好ましい。
【0016】
第2の技術において、第1保護層および第2保護層のうち、光照射面とは反対側となる層がIn酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を含んでいることが好ましく、第1保護層および第2保護層の両方がIn酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。
【0017】
第1の技術において、光照射面から最も奥側となる情報信号層以外の情報信号層のうちの少なくとも1層が、第1保護層および第2保護層の少なくとも一方がIn酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる情報信号層であることが好ましい。2以上の情報信号層のうち、最も光照射面に近い情報信号層の無機記録層が、第1保護層および第2保護層の少なくとも一方がIn酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる情報信号層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本技術によれば、良好なパワーマージンを有する光情報記録媒体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1Aは、本技術の一実施形態に係る光情報記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。図1Bは、図1Aに示した各情報信号層の一構成例を示す模式図である。
【図2】図2Aは、試験例1−1の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。図2Bは、試験例1−2の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。
【図3】図3は、試験例1−3の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。
【図4】図4Aは、試験例1−4の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。図4Bは、試験例1−5の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。
【図5】図5は、試験例2の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。
【図6】図6は、試験例3−3〜3−4の光情報記録媒体のパワーマージンを示すグラフである。
【図7】図7Aは、試験例4−1〜4−13の光情報記録媒体における変数xと透過率との関係を示すグラフである。図7Bは、試験例4−1〜4−13の光情報記録媒体における透過率と最適記録パワーPwoとの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、試験例4−1〜4−13の光情報記録媒体における無機記録層の組成比を示すグラフである。
【図9】図9Aは、試験例5−1〜5−12の光情報記録媒体におけるL0層のi−MLSEとL0層の反射率との関係を示すグラフである。図9Bは、試験例5−13〜5−24の光情報記録媒体におけるL1層の反射率とL0層の反射率との関係を示すグラフである。図9Cは、試験例6−1〜6−9の光情報記録媒体におけるL1層の透過率とL0層のi−MLSEとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本技術の実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。
[光情報記録媒体の構成]
図1Aは、本技術の一実施形態に係る光情報記録媒体の一構成例を示す概略断面図である。この光情報記録媒体10は、いわゆる追記型の光情報記録媒体であり、図1Aに示すように、情報信号層L0、中間層S1、情報信号層L1、中間層S2、情報信号層L2、中間層S3、情報信号層L3、カバー層である光透過層2がこの順序で基板1の一主面に積層された構成を有する。必要に応じて、光透過層2側の表面にハードコート層3をさらに備えるようにしてもよい。必要に応じて、基板1側の表面にバリア層4をさらに備えるようにしてもよい。なお、以下の説明において、情報信号層L0〜L3を特に区別しない場合には、情報信号層Lという。
【0021】
この一実施形態に係る光情報記録媒体10では、光透過層2側の表面Cからレーザ光を各情報信号層L0〜L3に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。例えば、400nm以上410nm以下の範囲の波長を有するレーザ光を、0.84以上0.86以下の範囲の開口数を有する対物レンズにより集光し、光透過層2の側から各情報信号層L0〜L3に照射することにより、情報信号の記録または再生が行われる。このような光情報記録媒体10としては、例えばBD−Rが挙げられる。以下では、情報信号層L0〜L3に情報信号を記録または再生するためのレーザ光が照射される表面Cを光照射面Cと称する。
【0022】
以下、光情報記録媒体10を構成する基板1、情報信号層L0〜L3、中間層S1〜S3、光透過層2、ハードコート層3、およびバリア層4について順次説明する。
【0023】
(基板)
基板1は、例えば、中央に開口(以下センターホールと称する)が形成された円環形状を有する。この基板1の一主面は、例えば、凹凸面となっており、この凹凸面上に情報信号層L0が成膜される。以下では、凹凸面のうち凹部をイングルーブGin、凸部をオングルーブGonと称する。
【0024】
このイングルーブGinおよびオングルーブGonの形状としては、例えば、スパイラル状、同心円状などの各種形状が挙げられる。また、イングルーブGinおよび/またはオングルーブGonが、例えば、線速度安定化やアドレス情報を付加するためにウォブル(蛇行)されている。
【0025】
基板1の径(直径)は、例えば120mmに選ばれる。基板1の厚さは、剛性を考慮して選ばれ、好ましくは0.3mm以上1.3mm以下、より好ましくは0.6mm以上1.3mm以下、例えば1.1mmに選ばれる。また、センタホールの径(直径)は、例えば15mmに選ばれる。
【0026】
基板1の材料としては、例えば、プラスチック材料またはガラスを用いることができ、コストの観点から、プラスチック材料を用いることが好ましい。プラスチック材料としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができる。
【0027】
(情報信号層)
図1Bは、図1Aに示した各情報信号層の一構成例を示す模式図である。図1Bに示すように、情報信号層L0〜L3は、例えば、上側面(第2の主面)および下側面(第1の主面)を有する無機記録層11と、無機記録層11の下側面に隣接して設けられた第1保護層12と、無機記録層11の上側面に隣接して設けられた第2保護層13とを備える。このような構成とすることで、無機記録層11の耐久性を向上することができる。ここで、上側面とは、無機記録層11の両主面のうち、情報信号を記録または再生するためのレーザ光が照射される側の主面をいい、下側面とは、上述のレーザ光が照射される側とは反対側の主面、すなわち基板側の主面をいう。
【0028】
無機記録層11は、Pd酸化物を含む無機記録材料(以下「PdO系材料」という。)を主成分としていることが好ましい。PdO系材料としては、例えば、In酸化物とPd酸化物の2元系混合酸化物を主成分とした材料を用いることができるが、W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物の3元系酸化物(以下「WCPO」という。)を用いることが好ましく、このWCPOにさらにZn酸化物を加えた4元系酸化物(以下「WZCPO」という。)を用いることがより好ましい。PdO系材料としてWCPOを用いることで、光情報記録媒体の記録層として求められる特性を満たしつつ、優れた透過特性を実現できる。PdO系材料としてWZCPOを用いることで、光情報記録媒体の記録層として求められる特性を満たしつつ、優れた透過特性を実現できるとともに、W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物の含有量を減らすことができる。W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物、特にPd酸化物の含有量を減らすことで、光情報記録媒体10を低廉化することができる。
【0029】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3のうちの少なくとも1層の無機記録層11が、WCPOを主成分として含んでいることが好ましい。WCPOに含まれるW、Pd、およびCuの割合が、好ましくは0.17≦x1、より好ましくは0.37≦x1、さらに好ましくは0.37≦x1≦1.26、最も好ましくは0.56≦x1≦1.26の関係を満たしている。これにより、光情報記録媒体の情報信号層として求められる特性を満たしつつ、優れた透過特性を実現できる。ここで、光情報記録媒体の情報信号層として求められる特性としては、低i−MLSE、高パワーマージン、高再生耐久性や低記録後透過率変化などが挙げられる。
但し、x1は、x1=a/(b+0.8c)により定義される変数である。
a:W、Pd、およびCuの合計に対するWの原子比率[原子%]
b:W、Pd、およびCuの合計に対するPdの原子比率[原子%]
c:W、Pd、およびCuの合計に対するCuの原子比率[原子%]
【0030】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0に到達する光量を増やす観点からすると、情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3が有する無機記録層11が全て、高透過率であることが好ましい。
【0031】
また、高透過率に加え、一方、高透過率でも高透過率層として求められる特性の確保の観点からすると、情報信号層L0〜L3が有する無機記録層11全てが、WCPOを主成分として含んでいることが好ましい。この場合、WCPOに含まれるW、Pd、およびCuの割合が、好ましくは0.17≦x1、より好ましくは0.37≦x1、さらに好ましくは0.37≦x1≦1.26、最も好ましくは0.56≦x1≦1.26の関係を満たしている。また、情報信号層L0〜L3の無機記録層11の変数x1の値は、光照射面Cに近い情報信号層Lのものほど大きな値となることが好ましい。光照射面Cに近い情報信号層Lほど透過率を高い設計をすることが好ましいからである。
【0032】
W、Pd、およびCuの合計に対するWの原子比率aは、好ましくは10原子%以上70原子%以下、より好ましくは14.2原子%以上31.8原子%以下の範囲内である。原子比率aが10原子%未満であると、低透過率となる傾向がある。一方、原子比率aが70原子%を超えると、透過率は高いが記録感度不足となる傾向がある。
【0033】
W、Pd、およびCuの合計に対するPdの原子比率bは、好ましくは2原子%以上50原子%以下、より好ましくは4.4原子%以上32.2原子%以下の範囲内である。原子比率bが2原子%未満であると、低記録パワーマージンとなる傾向がある。一方、原子比率bが50原子%を超えると、低透過率となる傾向がある。
【0034】
W、Pd、およびCuの合計に対するCuの原子比率cは、好ましくは10原子%以上70原子%以下、より好ましくは28.5原子%以上68.1原子%以下の範囲内である。原子比率cが10原子%未満であると、低再生耐久性となる傾向がある。一方、原子比率cが70原子%を超えると、低透過率となる傾向がある。
【0035】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3のうちの少なくとも1層の無機記録層11が、WCPOにさらにZn酸化物を加えたWZCPOを主成分として含んでいることが好ましい。WZCPOに含まれるW、Pd、CuおよびZnの割合が、好ましくは0.17≦x2、より好ましくは0.37≦x2、さらに好ましくは0.37≦x2≦1.26、最も好ましくは0.56≦x2≦1.26の関係を満たしている。これにより、光情報記録媒体の記録層として求められる特性を満たしつつ、優れた透過特性を実現できるとともに、W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物の含有量を減らすことができる。W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物、特に貴金属を含むPd酸化物の含有量を減らすことで、光情報記録媒体10を低廉化することができる。
但し、x2=(0.1d+a)/(b+0.8c)により定義される変数である。
a:W、Pd、CuおよびZnの合計に対するWの原子比率[原子%]
b:W、Pd、CuおよびZnの合計に対するPdの原子比率[原子%]
c:W、Pd、CuおよびZnの合計に対するCuの原子比率[原子%]
d:W、Pd、CuおよびZnの合計に対するZnの原子比率[原子%]
【0036】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0に到達する光量を増やす観点からすると、情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3が有する無機記録層11が全て、高透過率であることが好ましい。
【0037】
また、高透過率に加え、一方、高透過率でも高透過率層として求められる特性の確保と光情報媒体の低廉化の観点からすると、情報信号層L0〜L3が有する無機記録層11全てが、WZCPOを主成分として含んでいることが好ましい。この場合、WZCPOに含まれるW、Pd、およびCuの割合が、好ましくは0.17≦x2、より好ましくは0.37≦x2、さらに好ましくは0.37≦x2≦1.26、最も好ましくは0.56≦x2≦1.26の関係を満たしている。また、情報信号層L0〜L4の無機記録層11の変数x2の値は、光照射面Cに近い情報信号層Lのものほど大きな値となることが好ましい。光照射面Cに近い情報信号層Lほど透過率を高くすることができるからである。
【0038】
W、Pd、Cu、およびZnの合計に対するWの原子比率aは、好ましくは10原子%以上70原子%以下、より好ましくは14.2原子%以上31.8原子%以下の範囲内である。原子比率aが10原子%未満であると、低透過率となる傾向がある。一方、原子比率aが70原子%を超えると、記録感度不足となる傾向がある。
【0039】
W、Pd、Cu、およびZnの合計に対するPdの原子比率bは、好ましくは2原子%以上50原子%以下、より好ましくは4.4原子%以上32.2原子%以下の範囲内である。原子比率bが2原子%未満であると、低記録パワーマージンとなる傾向がある。一方、原子比率bが50原子%を超えると、低透過率となる傾向がある。
【0040】
W、Pd、Cu、およびZnの合計に対するCuの原子比率cは、好ましくは10原子%以上70原子%以下、より好ましくは28.5原子%以上43.4原子%以下の範囲内である。原子比率cが10原子%未満であると、低再生耐久性となる傾向がある。一方、原子比率cが70原子%を超えると、低透過率となる傾向がある。
【0041】
W、Pd、Cu、およびZnの合計に対するZnの原子比率dは、好ましくは5原子%以上60原子%以下、より好ましくは17原子%以上41原子%以下の範囲内である。原子比率dが5原子%未満であると、低廉化効果が薄くなる傾向がある。一方、原子比率dが60原子%を超えると、保存信頼性悪化となる傾向がある。
【0042】
WCPOおよびWZCPO以外の情報信号層L1〜L3の材料としては、例えば、In酸化物とPd酸化物の混合酸化物を主成分とした材料を用いることも可能である。但し、光情報記録媒体の情報信号層として求められる特性を満たしつつ、優れた透過特性を実現できる観点からすると、WCPOまたはWZCPOを用いることが好ましい。
【0043】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0の材料としては、例えば、In酸化物とPd酸化物の混合酸化物を主成分とした材料を用いることも可能である。但し、高記録パワーマージンの観点からすると、上述のWCPOまたはWZCPOを用いることが好ましい。
【0044】
無機記録層11の厚さは、好ましくは25nm以上60nm以下、より好ましくは30nm以上50nm以下の範囲内である。25nm未満であると、i−MLSE悪化や低変調度と信号品質悪化となる傾向がある。一方、60nmを超えると、低記録パワーマージンとなる傾向がある。
【0045】
第1保護層12および第2保護層13としては、誘電体層または透明導電層を用いることが好ましく、第1保護層および第2誘電体層13のうちの一方として誘電体層を用い、他方として透明導電層を用いることも可能である。誘電体層または透明導電層が酸素バリア層として機能することで、無機記録層11の耐久性を向上することができる。また、無機記録層11の酸素の逃避を抑制することで、記録膜の膜質の変化(特に反射率の低下として観察可能)を抑制することができ、無機記録層11として必要な特性を確保することができる。さらに、誘電体層または透明導電層を設けることで、記録特性を向上させることができる。これは、誘電体層または透明導電層に入射したレーザ光の熱拡散が最適に制御されて、記録部分における泡が大きくなりすぎたり、Pd酸化物の分解が進みすぎて泡がつぶれるといったことが抑制され、泡の形状を最適化することができるためと考えられる。
【0046】
第1保護層12および第2保護層13の少なくとも一方が、複合酸化物として、Si酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の3元系酸化物(SiO2−In23−ZrO2:以下「SIZ」という。)またはIn酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の3元系酸化物(In23−Ga23−ZnO:以下「IGZO」という。)を主成分として含んでいることが好ましい。これにより、良好なパワーマージンを得ることができる。なお、第1保護層12および第2保護層13の材料としては同一の材料または組成比を採用することが可能であるが、この例に限定されず第1保護層12および第2保護層13として異なる材料または組成比を採用するようにしてもよい。例えば、第1保護層および第2保護層の両方がSIZまたはIGZOを主成分として含むことも可能であるが、この例に限定されず第1保護層および第2保護層の一方がSIZを主成分として含み、他方がIGZOを主成分として含むようにしてもよい。
【0047】
第1保護層12および第2保護層13の少なくとも一方の層がSIZまたはIGZOを主成分として含む場合、無機記録層11としてWCPOを主成分として含むものを採用することが好ましく、WCPOにさらにZn酸化物を加えたWZCPOを主成分として含むものを採用することがより好ましい。無機記録層11がWCPOまたはWZCPOを主成分とする場合には、無機記録層11がWCPOまたはWZCPO以外のPdO系材料を主成分とする場合に比してより良好なパワーマージンを得ることができる。無機記録層11がWZCPOを主成分とする場合には、光情報記録媒体10を低廉化することができるという利点をさらに得ることができる。これは、WCPOにZn酸化物をさらに含有させることで、Zn酸化物でWZCO全体を薄めることができ、結果、貴金属材料であるPdの含有量を減らすことができるからである。
【0048】
光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3のうちの少なくとも1層が、第1保護層12および第2保護層13の少なくとも一方の層がSIZまたはIGZOを主成分とする構成を採用していることが好ましく、第1保護層12および第2保護層13の両方の層がSIZまたはIGZOを主成分とする構成を採用していることがより好ましい。このような構成を採用することで透過率を高く維持し、情報信号層L0に到達するレーザ光の光量を高くすることができる。
【0049】
情報信号層L0に到達するレーザ光の光量を高く維持する観点からすると、光照射面Cから最も奥側となる情報信号層L0以外の情報信号層L1〜L3の全てが、第1保護層12および第2保護層13の少なくとも一方の層がSIZまたはIGZOを主成分とする構成を採用していることが好ましく、第1保護層12および第2保護層13の両方の層がSIZまたはIGZOを主成分とする構成を採用していることがより好ましい。
【0050】
光照射面Cから最も近い情報信号層L3の透過率を高く維持する観点からすると、情報信号層L3が有する第1保護層12および第2保護層13の少なくとも一方の層が、消衰係数が小さいSIZまたはIGZOを主成分とすることが好ましく、それらの両層がSIZまたはIGZOを主成分とすることがより好ましい。情報信号層L1〜L3のうちで光照射面Cから最も近い情報信号層L3の透過率を最も高くする理由は、一般的に透過率とトレードオフとなる記録感度とのバランス化で、情報信号層L3の層単体で高透過率かつ低記録感度とし、一方光照射面Cから遠い情報信号層Lほど透過率を低くして層単体で高感度とすることような組み合わせにより構成された多層層媒体は、透過率と感度の組み合わせにより多層媒体としてみた各層の記録感度がほぼ一定とすることができるからである。
【0051】
第1保護層12および第2保護層13のいずれか一方がSIZまたはIGZOを主成分として含むことで、良好なパワーマージンを得ることができるが、さらに良好なパワーマージンを得る観点からすると、第1保護層12および第2保護層13の両方がSIZまたはIGZOを主成分として含んでいることが好ましい。第1保護層12および第2保護層13のいずれか一方がSIZまたはIGZOを主成分とする構成を採用する場合、無機記録層11の下側面に設けられる第1の保護層12がSIZまたはIGZOを主成分とすることが好ましい。無機記録層11の下側面に設けられる第1の保護層12がSIZまたはIGZOを主成分として含むことで、無機記録層11の上側面に設けられる第1の保護層12がSIZまたはIGZOを主成分として含む場合に比して、パワーマージンをより向上することができるからである。
【0052】
第1保護層12および第2保護層13のいずれか一方の層がSIZまたはIGZOを主成分として含む構成とする場合、他方の層が主成分とする材料としては、例えば、誘電体材料または透明導電材料を用いることができ、具体的には、酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、フッ化物またはその混合物を用いることができる。酸化物としては、例えば、In、Zn、Sn、Al、Si、Ge、Ti、Ga、Ta、Nb、Hf、Zr、Cr、BiおよびMgからなる群から選ばれる1種以上の元素の酸化物が挙げられる。窒化物としては、例えば、In、Sn、Ge、Cr、Si、Al、Nb、Mo、Ti、Nb、Mo、Ti、W、TaおよびZnからなる群から選ばれる1種以上の元素の窒化物、好ましくはSi、GeおよびTiからなる群から選ばれる1種以上の元素の窒化物が挙げられる。硫化物としては、例えば、Zn硫化物が挙げられる。炭化物としては、例えば、In、Sn、Ge、Cr、Si、Al、Ti、Zr、TaおよびWからなる群より選ばれる1種以上の元素の炭化物、好ましくはSi、Ti、およびWからなる群より選ばれる1種以上の元素の炭化物が挙げられる。フッ化物としては、例えば、Si、Al、Mg、CaおよびLaからなる群より選ばれる1種以上の元素のフッ化物が挙げられる。これらの混合物としては、例えば、ZnS−SiO2、SiO2−Cr23−ZrO2(SCZ)、In23−SnO2(ITO)、In23−CeO2(ICO)、In23−Ga23(IGO)、Sn23−Ta25(TTO)、TiO2−SiO2などが挙げられる。
【0053】
具体的には、第1保護層12および第2保護層13のうちの一方がSIZまたはIGZOを主成分として含み、他方がITOを含んでいることが好ましく、第1の保護層12がITOを主成分として含み、第2保護層13がSIZまたはIGZOを主成分として含んでいることがより好ましい。これにより、多少の高パワーマージンの犠牲はあるものの、記録後透過率変化を小さくすることもできるからである。多層記録媒体の場合には、最奥層以外は透過する情報信号層であり、各層に求められる特性により高透過率や記録後透過率変化のバランスを図ることが良い。
【0054】
スパッタレートの観点から、SIZ中におけるIn酸化物の含有量は20mol%以上がよく、また保存信頼性の観点からは70mol%以下が好ましい。また、Si酸化物やZr酸化物は複合酸化物として機能するためにそれぞれ15mol%以上50mol%以下が好ましい。
【0055】
第1保護層12の厚さは、好ましくは2nm以上20nm以下の範囲内である。2nm未満であると、記録層へのバリア効果が小さくなる傾向がある。一方、20nmを超えると、記録パワーマージンが小さくなる傾向がある。
【0056】
第2保護層13の厚さは、好ましくは2nm以上50nm以下の範囲内である。2nm未満であると、記録層へのバリア効果が小さくなる傾向がある。一方、50nmを超えると、記録パワーマージンが小さくなる傾向がある。
【0057】
情報信号層L0〜L3としては、以下の構成を有するものを組み合わせて用いることが好ましい。高感度が求められるx1やx2が小さい組成比となる最奥層に近いL1層は、Pd、Cuが多くなりやすいために記録後透過率変動が大きくなりやすいく、そのため消衰係数が0.05以上の第1保護層12と第2保護層13を用い、透過率変動を抑制することが好ましい。また高透過率が求められるx1やx2が大きい組成比となるL3層は、記録後透過率変化は小さいがパワーマージンが狭くなりやすいので、第1保護層12や第2保護層13にSIZやIGZOを用い、パワーマージンの確保をすることが好ましい。またL2層は、L1層とL3の層の組み合わせを用い、これらにより、記録層の材料や求められる感度や透過率が異なっても、パワーマージンや透過率変動抑制の各層の特性の均等化ができる。
【0058】
(情報信号層L0)
第1保護層12:ITO
無機記録層11:WCPO(0.4≦x1≦0.6)、好ましくはWZCPO(0.4≦x2≦0.6)
第2保護層13:ITO
【0059】
(情報信号層L1)
第1保護層12:消衰係数kが0.05以上0.6以下の範囲内の材料、好ましくはITO
無機記録層11:WCPO(0.5≦x1≦0.9)、好ましくはWZCPO(0.5≦x2≦0.9)
第2保護層13:消衰係数kが0.05以上0.6以下の範囲内の材料、好ましくはITO
【0060】
(情報信号層L2)
第1保護層12:消衰係数kが0.05以上0.6以下の範囲内の材料、好ましくはITO
無機記録層11:WCPO(0.8≦x1≦1.2)、好ましくはWZCPO(0.8≦x2≦1.2)
第2保護層13:SIZまたはIGZO
【0061】
(情報信号層L3)
第1保護層12:SIZまたはIGZO
無機記録層11:WCPO(0.8≦x1≦1.2)、好ましくはWZCPO(0.8≦x2≦1.2)
第2保護層13:SIZまたはIGZO
【0062】
(中間層)
中間層S1〜S3はL0とL1、L2、L3とを物理的及び光学的に十分な距離をもって離間させる役割を果たし、その表面には凹凸面が設けられており、同心円若しくは螺旋状のグルーブ(イングルーブGinおよびオングルーブGon)を形成している。中間層S1〜S3の厚みとしては9μm〜50μmに設定することが好ましく、例えば、S1は15μm、S2は20μm、S3は10μmとされる。中間層S1〜S3の材料としては特に限定されるものではないが、紫外線硬化性アクリル樹脂を用いることが好ましく、また中間層S1〜S3は奥層へのデータの記録・再生のためのレーザ光の光路となることから、十分に高い光透過性を有していることが好ましい。
【0063】
(光透過層)
光透過層2は、例えば、紫外線硬化樹脂などの感光性樹脂を硬化してなる樹脂層である。この樹脂層の材料としては、例えば、紫外線硬化型のアクリル系樹脂が挙げられる。また、円環形状を有する光透過性シートと、この光透過性シートを基板1に対して貼り合わせるための接着層とから光透過層2を構成するようにしてもよい。光透過性シートは、記録および再生に用いられるレーザ光に対して、吸収能が低い材料からなることが好ましく、具体的には透過率90パーセント以上の材料からなることが好ましい。光透過性シートの材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂材料、ポリオレフィン系樹脂(例えばゼオネックス(登録商標))などを用いることができる。接着層の材料としては、例えば、紫外線硬化樹脂、感圧性粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)などを用いることができる。
【0064】
光透過層2の厚さは、好ましくは10μm以上177μm以下の範囲内から選ばれ、例えば53.5μmに選ばれる。このような薄い光透過層2と、例えば0.85程度の高NA(numerical aperture)化された対物レンズとを組み合わせることによって、高密度記録を実現することができる。
【0065】
(ハードコート層)
ハードコート層3は、光照射面Cに耐擦傷性などを付与するためのものである。ハードコート層3の材料としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、有機無機ハイブリッド系樹脂などを用いることができる。
【0066】
(バリア層)
バリア層4は、成膜工程において基板1の裏面からの脱ガス(水分放出)を抑制するものである。また、バリア層4は、基板1の裏面における水分の吸収を抑制する防湿層としても機能する。バリア層4を構成する材料としては、基板1の裏面からの脱ガス(水分放出)を抑制することができるものであればよく特に限定されるものではないが、例示するならば、ガス透過性が低い誘電体を用いることができる。このような誘電体としては、例えば、SiN、SiO2、TiN、AlN、ZnS−SiO2などを用いることができる。バリア層4の厚さは、5nm以上40nm以下に設定することが好ましい。5nm未満であると、基板裏面からの脱ガスを抑制するバリア機能が低下する傾向がる。一方、40nmを超えると、脱ガスを抑制するバリア機能がそれ以下の厚さの場合と殆ど変わらず、また、生産性の低下を招く傾向があるからである。バリア層4の水分透過率は、5×10-5g/cm2・day以下であることが好ましい。
【0067】
上述の構成を有する光情報記録媒体10では、無機記録層11にレーザ光が照射されると、Pd酸化物がレーザ光により加熱され、分解して酸素を放出し、レーザ光が照射された部分に気泡が生成される。これにより、情報信号の不可逆的な記録を行うことができる。
【0068】
[光情報記録媒体の製造方法]
次に、本技術の一実施形態に係る光情報記録媒体の製造方法の一例について説明する。
【0069】
(基板の成形工程)
まず、一主面に凹凸面が形成された基板1を成形する。基板1の成形の方法としては、例えば、射出成形(インジェクション)法、フォトポリマー法(2P法:Photo Polymerization)などを用いることができる。
【0070】
(情報信号層の形成工)
次に、例えばスパッタリング法により、基板1上に、第1保護層12、無機記録層11、第2保護層13を順次積層することにより、情報信号層L0を形成する。
以下に、第1保護層12、無機記録層11、および第2保護層13の形成工程について具体的に説明する。
【0071】
(第1保護層の成膜工程)
まず、基板1を、第1保護層形成用のターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスやO2ガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、基板1上に第1保護層12を成膜する。スパッタリング法としては、例えば高周波(RF)スパッタリング法、直流(DC)スパッタリング法を用いることができるが、特に直流スパッタリング法が好ましい。直流スパッタ法は高周波スパッタ法に比して成膜レートが高いため、生産性を向上することができるからである。
【0072】
(無機記録層の成膜工程)
次に、基板1を、無機記録層成膜用のターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスやO2ガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、第1保護層11上に無機記録層12を成膜する。
【0073】
(第2保護層の成膜工程)
次に、基板1を、第2保護層形成用のターゲットが備えられた真空チャンバー内に搬送し、真空チャンバー内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバー内にArガスやO2ガスなどのプロセスガスを導入しながら、ターゲットをスパッタリングして、無機記録層12上に第2保護層13を成膜する。スパッタリング法としては、例えば高周波(RF)スパッタリング法、直流(DC)スパッタリング法を用いることができるが、特に直流スパッタリング法が好ましい。直流スパッタ法は高周波スパッタ法に比して成膜レートが高いため、生産性を向上することができるからである。
以上により、基板1上に情報信号層L0が形成される。
【0074】
(中間層の形成工程)
次に、例えばスピンコート法により紫外線硬化樹脂を情報信号層L0上に均一に塗布する。その後、情報信号層L0上に均一に塗布された紫外線硬化樹脂に対してスタンパの凹凸パターンを押し当て、紫外線を紫外線硬化樹脂に対して照射して硬化させた後、スタンパを剥離する。これらにより、スタンパの凹凸パターンが紫外線硬化樹脂に転写され、例えばイングルーブGinおよびオングルーブGonが設けられた中間層S1が情報信号層L0上に形成される。
【0075】
ここで、無機記録層成膜用のターゲット、第1保護層形成用ターゲット、および第2保護層形成用ターゲットについて説明する。
【0076】
(無機記録層成膜用のターゲット)
無機記録層成膜用のターゲットは、W、Cu、Pdを主成分としたWCP金属ターゲットでもよいし、W酸化物、Cu酸化物、Pd酸化物を主成分としたWCPO酸化物ターゲットでも良く、生産性を考慮すると、成膜レートが比較的速くできるDCスパッタリングが可能なW、Cu、Pdを主成分とした金属ターゲットを用いることが好ましい。ターゲットに含まれるW、Pd、およびCuの割合が、好ましくは0.17≦x1、より好ましくは0.37≦x1、さらに好ましくは0.37≦x1≦1.26、最も好ましくは0.56≦x1≦1.26の関係を満たしている。なお、x1は、上述したように、x1=a/(b+0.8c)により定義される変数である。
【0077】
無機記録層成膜用のターゲットは、W、Cu、Pd、Znを主成分としたWZCP金属ターゲットでもよいし、W酸化物、Cu酸化物、Pd酸化物、Zn酸化物を主成分としたWZCPO酸化物ターゲットでも良く、また金属と酸化物のWZCPO混合ターゲットでもよい。生産性を考慮すると、成膜レートが比較的速くできるDCスパッタリングが可能なW、Cu、Pd、Znを主成分とした金属ターゲットを用いることが好ましい。ターゲットに含まれるW、Pd、CuおよびZnの割合が、好ましくは0.17≦x2、より好ましくは0.37≦x2、さらに好ましくは0.37≦x2≦1.26、最も好ましくは0.56≦x2≦1.26の関係を満たしている。なお、変数x2は、上述したように、x2=(0.1d+a)/(b+0.8c)により定義される変数である。
【0078】
無機記録層成膜用のターゲットのWCP、WCPOターゲットおよびWZCP、WZCPOターゲットとしては、無機記録層11と同様の組成を有するものが好ましい。
【0079】
(第1保護層形成用ターゲット、第2保護層形成用ターゲット)
第1保護層形成用のターゲット、および第2保護層形成用のターゲットの少なくとも一方が、SIZまたはIGZOを主成分として含んでいることが好ましく、両ターゲットがSIZまたはIGZOを含んでいることがより好ましい。第1保護層形成用のターゲット、および第2保護層形成用のターゲットのうちの一方がSIZまたはIGZOを主成分として含む場合、第1保護層形成用のターゲットがSIZまたはIGZOを主成分として含むことが好ましい。無機記録層11の下側面に設けられる第1の保護層12がSIZまたはIGZOを主成分として含むことで、無機記録層11の上側面に設けられる第1の保護層12がSIZまたはIGZOを主成分として含む場合に比して、パワーマージンをより向上することができるからである。また、SIZを用いる場合には、導電性の高いIn酸化物が多いとDCスパッタリングが可能となり生産性が高くなるが、一方In酸化物が多すぎると薄膜の消衰係数が多きなり、情報信号層の透過率が低くなる。よって、In酸化物の割合は特に限定は無いが、情報信号層の求められる特性や生産性に応じて調整することが好ましい。また、IGZOでは、In酸化物とZnO酸化物が共に導電性があるので、In酸化物とZnO酸化物の総量が多いとDCスパッタリング可能であり、生産性が高いので好ましい。しかし、In酸化物が多すぎると、SIZと同様に上記と同じ理由から、情報信号層の透過率が低下するので、情報信号層の要求される特性に応じて、割合を調整することが好ましい。
【0080】
(情報信号層および中間層の形成工程)
次に、上述の情報信号層L0および中間層S1の形成工程と同様にして、中間層S1上に、情報信号層L1、中間層S2、情報信号層L2、中間層S3、情報信号層L3をこの順序で中間層S1上に積層する。この際、成膜条件やターゲット組成などを適宜調整することにより、情報信号層L1〜L3を構成する第1保護層12、無機記録層11、および第2保護層13の厚さや組成などを適宜調整するようにしてもよい。また、スピンコート法の条件を適宜調整することにより、中間層S2〜S3の厚さを適宜調整するようにしてもよい。
【0081】
(光透過層の形成工程)
次に、例えばスピンコート法により、紫外線硬化樹脂(UVレジン)などの感光性樹脂を情報信号層L3上にスピンコートした後、紫外線などの光を感光性樹脂に照射し、硬化する。これにより、情報信号層L3上に光透過層2が形成される。
以上の工程により、目的とする光情報記録媒体が得られる。
【実施例】
【0082】
以下、試験例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこの試験例のみに限定されるものではない。
【0083】
以下では、多層の光情報記録媒体の情報信号層を、基板側からレーザ光照射面側に向かって順にL0層、L1層、L2層、・・・・と称する。
【0084】
試験例について以下の順序で説明する。
1.第1保護層および第2保護層の材料
2.WZCPO以外のPdO材料
3.SIZ層の形成位置
4.無機記録層の組成
5.2層の光情報記録媒体の透過率範囲
6.4層の光情報記録媒体の透過率範囲
【0085】
<1.第1保護層および第2保護層の材料>
(試験例1−1)
まず、射出成形により、厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を成形した。なお、このポリカーボネート基板上には、グルーブを有する凹凸面を形成した。次に、ポリカーボネート基板上に第1保護層(下側)、無機記録層、第2保護層(上側)を順次積層することにより、L0層を形成した。
【0086】
L0層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタ法
無機記録層
材料:WZCPO(Cu:Zn:Pd:W=30.0:30.0:30.0:10.0(原子比率(原子%)))
厚さ:30nm
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタリング)
第2保護層(上側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタ法
【0087】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK5500B)をL0層上に均一に塗布した。その後、L0層上に均一に塗布された紫外線硬化樹脂に対してスタンパの凹凸パターンを押し当て、紫外線を紫外線硬化樹脂に対して照射して硬化させた後、スタンパを剥離した。これらにより、グルーブを有する、厚さ15.5μmの中間層が形成された。
【0088】
次に、中間層上に第1保護層、無機記録層、第2保護層を順次積層することにより、L2層を形成した。なお、L1層の形成は省略した。
【0089】
L2層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=35:30:35(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:RFスパッタリング法
無機記録層
材料:WZCPO(Cu:Zn:Pd:W=35.0:25.0:10.0:30.0(原子比率(原子%)))
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタリング)
厚さ:40nm
第2保護層(上側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=35:30:35(mol%))
厚さ:25nm
成膜方法:RFスパッタリング法
【0090】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂をL2層上に均一に塗布し、紫外線を照射して硬化させたることにより、中間層と同様の硬度を有する、厚さ31.0μmの樹脂層を形成した。
【0091】
次に、スピンコート法により、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK8300)をL1層上に均一塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ53.5μmを有する光透過層を形成した。
以上により、L0層とL2層とを有する2層の光情報記録媒体を得た。この2層の光情報記録媒体では、L2層と光透過層との間に樹脂層を形成することにより、L2層の状態を擬似的に4層の光情報記録媒体のL2層の状態としている。
【0092】
(試験例1−2)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例1−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第1保護層(下側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=30:40:30(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
第2保護層(上側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=30:40:30(mol比))
厚さ:25nm
成膜方法:DCスパッタリング法
【0093】
(試験例1−3)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例1−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第1保護層(下側)
材料:IGZO(In23:Ga23:ZnO=25:25:50(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
第2保護層(上側)
材料:IGZO(In23:Ga23:ZnO=25:25:50(mol%))
厚さ:25nm
成膜方法:DCスパッタリング法
【0094】
(試験例1−4)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例1−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第1保護層(下側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
第2保護層(上側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:25nm
成膜方法:DCスパッタリング法
【0095】
(試験例1−5)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例1−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第1保護層(下側)
材料:Si
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法(N2リアクティブスパッタリング)
第2保護層(上側)
材料:Si
厚さ:25nm
成膜方法:DCスパッタリング法(N2リアクティブスパッタリング)
【0096】
(初期状態のパワーマージン)
上述のようにして得られた試験例1−1〜1−5の光情報記録媒体のL2層の初期状態のパワーマージンを以下のようにして求めた。ディスクテスタ(パルステック社製、商品名:ODU−1000)を用いて、記録波長405nm、記録線速7.69m/sで1層あたり32GB密度の1−7変調データを記録再生して、ランダムシンボルエラーレート(SER)を求めた。このSERを記録パワーに対し求め、4×10-3を超える記録パワーの低い側をPwl、高い側をPwhとし、PwlとPwhの中間を最適パワーPwoとしたときに、パワーマージンPMは下記(1)式から求めた。ここで、SER4×10-3はエラー補正が破綻しないSERの上限値であり、これを超えると再生データに欠陥が発生して信号品質が著しく悪いと言われている。
PM=(Pwh−Pwl)/Pwo (1)
その結果を図2A〜図4Bおよび表1に示す。
【0097】
表1は、試験例1−1〜1−5の光情報記録媒体の評価結果を示す。
【表1】

【0098】
表1から以下のことがわかる。
第1保護層および第2保護層の材料としてSIZまたはIGZOを用いることで、パワーマージンを30%以上とすることができる。なお、パワーマージンが30%以上であると、民生用ドライブの記録パワー最適化の精度や、光情報記録媒体の面内感度ばらつきや、光情報記録媒体の温度や湿度による反りに伴う実記録パワー減少の影響を十分に吸収でき、エラーレートの低い良好な記録ができる。第1保護層および第2保護層の材料としてSIZを用いた場合には、IGZOを用いた場合に比してパワーマージンをより広くすることができる。
第1保護層および第2保護層の材料としてSIZまたはIGZOを用いることで、情報信号層の透過率を向上することができる。したがって、光照射面から最も奥側に位置するL0層に到達するレーザ光の光量を増加させることができる。
SIZに対するIn酸化物の含有量を40mol%以上の範囲とすることで、ターゲットの電気抵抗が小さくなることでDCスパッタリング法により成膜することがでる。したがって、成膜レートを向上し、生産性を向上することができる。
以上により、パワーマージンを向上し、かつ、透過率を高く維持するためには、無機記録層に隣接させる第1保護層および第2保護層の材料としてSIZおよびIGZOを用いることが好ましく、IGZOを用いることが特に好ましい。
また、生産性を向上するためには、SIZに対するIn酸化物の含有量を40mol%以上とすることが好ましいが、多すぎるとSIZ薄膜の消衰係数が大きくなることで情報信号層の透過率が低下するので、情報記録層の求められる透過率や生産性に応じてIn酸化物などの割合を選択することが好ましい。
【0099】
<2.WZCPO以外のPdO材料>
(試験例2)
まず、射出成形により、厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を成形した。なお、このポリカーボネート基板上には、グルーブを有する凹凸面を形成した。次に、ポリカーボネート基板上に第1保護層(下側)、無機記録層、第2保護層(上側)を順次積層することにより、L0層を形成した。
【0100】
L0層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:8nm
成膜方法:DCスパッタリング法
無機記録層
材料:In23−PdO(In:Pd=50:50(原子比率(原子%)))
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタリング)
厚さ:40nm
第2保護層(上側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
【0101】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK5500B)をL0層上に均一に塗布した。その後、L0層上に均一に塗布された紫外線硬化樹脂に対してスタンパの凹凸パターンを押し当て、紫外線を紫外線硬化樹脂に対して照射して硬化させた後、スタンパを剥離した。これらにより、グルーブを有する、厚さ15.5μmの中間層が形成された。
【0102】
次に、中間層上に第1保護層(下側)、無機記録層、第2保護層(上側)を順次積層することにより、L1層を形成した。
L1層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
無機記録層
材料:In23−PdO(In:Pd=70:30(原子比率(原子%)))
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタ)
厚さ:40nm
第2保護層(上側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
【0103】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK5500B)をL1層上に均一に塗布した。その後、L1層上に均一に塗布された紫外線硬化樹脂に対してスタンパの凹凸パターンを押し当て、紫外線を紫外線硬化樹脂に対して照射して硬化させた後、スタンパを剥離した。これらにより、グルーブを有する、厚さ19.5μmの中間層が形成された。
【0104】
次に、中間層上に第1保護層(下側)、無機記録層、第2保護層(上側)を順次積層することにより、L2層を形成した。
L2層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:ITO(SnO2:In23=10:90(質量%))
厚さ:10nm
成膜方法:DCスパッタリング法
無機記録層
材料:In23−PdO(In:Pd=70:30(原子比率(原子%)))
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタ)
厚さ:40nm
第2保護層(上側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=40:30:40(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:RFスパッタリング法
【0105】
次に、スピンコート法により紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK5500B)をL2層上に均一に塗布した。その後、L2層上に均一に塗布された紫外線硬化樹脂に対してスタンパの凹凸パターンを押し当て、紫外線を紫外線硬化樹脂に対して照射して硬化させた後、スタンパを剥離した。これらにより、グルーブを有する、厚さ11.5μmの中間層が形成された。
【0106】
次に、中間層上に第1保護層(下側)、無機記録層、第2保護層(上側)を順次積層することにより、L3層を形成した。
L3層の各層の材料、厚さおよび成膜方法は以下のようにした。
第1保護層(下側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=40:30:40(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:RFスパッタリング法
無機記録層
材料:In23−PdO(In:Zn:Sn:Pd=70:30(原子比率(原子%)))
成膜方法:DCスパッタリング(O2リアクティブスパッタリング)
厚さ:40nm
第2保護層(上側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=40:30:40(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:RFスパッタリング法
【0107】
次に、スピンコート法により、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK8300)をL3層上に均一塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ53.5μmを有する光透過層を形成した。
以上により、目的とする光情報記録媒体を得た。
【0108】
(パワーマージン)
上述のようにして得られた試験例2の光情報記録媒体のL1層〜L3層について初期状態のパワーマージンを試験例1−1〜1−5と同様にして求めた。その結果を図5に示す。
【0109】
図5から以下のことがわかる。
無機記録層にWZCPO以外のPdO系材料用いた場合にも、無機記録層の表面にSIZ層を用いることで、ITO層を用いた場合に比してパワーマージンを広げることができる。ここで、L1層は上下保護層共にITOを用いているのに対し、L2層では第1保護層(下側)のみITOを第2保護層(上側)にSIZを、L3層では上下保護層ともSIZを用い、L1、L2、L3の順にパワーマージンが広くなっていることが分かる。よって、SIZが高記録パワーマージンに効果があることが分かる。但し、WZCPO層とSIZ層とを組合せた場合の方が、パワーマージンの改善の度合いが大きい。
ここでは、第1保護層および第2保護層としてSIZ層を用いた場合についてのみ示したが、第1保護層および第2保護層としてIGZO層を用いた場合にも同様の効果が得られるものと考えられる。
【0110】
<3.SIZ層の形成位置>
(試験例3−1)
試験例1−4と同様にして光情報記録媒体を得た。
【0111】
(試験例3−2)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例3−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第1保護層(下側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=40:30:40(mol%))
厚さ:10nm
成膜方法:RFスパッタリング法
【0112】
(試験例3−3)
L2層の第1保護層および第2保護層の材料、厚さおよび成膜方法を以下のようにした以外は試験例3−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
第2保護層(上側)
材料:SIZ(SiO2:In23:ZrO2=40:30:40(mol%))
厚さ:25nm
成膜方法:RFスパッタリング法
【0113】
(試験例3−4)
試験例1−1と同様にして光情報記録媒体を得た。
【0114】
(パワーマージン)
上述のようにして得られた試験例3−1〜3−4の光情報記録媒体のL2層について初期状態のパワーマージンを試験例1−1〜1−5と同様にして求めた。その結果を図6に示す。
【0115】
図6から以下のことがわかる。
第1保護層および第2保護層の一方の材料としてSIZを用いた場合には、第1保護層および第2保護層の両方の材料としてITOを用いた場合に比してパワーマージンを向上することができる。
第1保護層(下側)の材料としてSIZを用いた場合には、第2保護層(上側)の材料としてSIZを用いた場合に比して、パワーマージンを向上することができる。
第1保護層および第2保護層の両方の材料としてSIZを用いた場合には、第1保護層および第2保護層の一方の材料としてSIZを用いた場合に比してパワーマージンを向上することができる。
以上により、良好なパワーマージンを得る観点からすると、第1保護層および第2保護層の一方の材料、特に第1保護層(下側)の材料としてSIZを用いることが好ましく、第1保護層および第2保護層の両方の材料にSIZを用いることがより好ましい。
ここでは、第1保護層および/または第2保護層としてSIZ層を用いた場合についてのみ示したが、第1保護層および第2保護層としてIGZO層を用いた場合にも同様の効果が得られるものと考えられる。
【0116】
<4.無機記録層の組成>
(試験例4−1〜4−15)
まず、射出成形により、厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を成形した。なお、このポリカーボネート基板上には、グルーブを有する凹凸面を形成した。次に、スパッタリング法により、ポリカーボネート基板上に第1保護層、無機記録層、第2保護層を順次積層した。具体的な各層の構成は以下のようにした。
【0117】
第1保護層
材料:SIZ、厚さ:10nm
無機記録層
材料:WZCPO、厚さ:40nm
第2保護層
材料:SIZ、厚さ:10nm
但し、無機記録層のWZCPO中のCu、Zn、Pd、Wそれぞれの原子比率c、d、b、aが表2に示す値となるように、試験例4−1〜4−15ごとにターゲット組成を調製した。
【0118】
次に、スピンコート法により、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK8300)を第2保護層上に均一塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ100μmを有する光透過層を形成した。
以上により、目的とする光情報記録媒体を得た。
【0119】
(透過率評価)
上述のようにして得られた試験例4−1〜4−15の光情報記媒体の透過率を、分光高度計(日本分光(株)製、商品名:V−530)を用いて、記録波長405nmに対する透過率を測定した。その結果を表2に示す。
【0120】
次に、測定した透過率と原子比率c、d、b、aとを用いて、比較的消衰係数の小さいW酸化物とZn酸化物の各割合の和を分子に、比較的消衰係数の大きいPd酸化物とCu酸化物の各割合の和を分母と置き、決定係数R2乗が最も大きくなるように各割合に係数を掛けて各係数を決定し、近似直線を求めた。その結果を図7Aに示す。図7Aにおいて、横軸は変数x(=(0.1d+a)/(b+0.8c))を示し、縦軸は透過率を示す。図7Aに示すように、近似直線は、y=25.642x+45.441により表される。ここで、yは透過率[%]を示し、xは、(0.1d+a)/(b+0.8c)を示す。
【0121】
(最適記録パワー評価)
ディスクテスタ(パルステック社製、商品名:ODU−1000)を用いて、記録波長405nm、記録線速7.69m/sで1層あたり32GB密度の1−7変調データを記録再生して、i−MLSE値が最小となる記録パワーを求め、この記録パワーを最適記録パワーPwoとした。その結果を図7Bに示す。
【0122】
表2は、試験例4−1〜4−15の無機記録層の組成比と透過率とを示す。図8は、試験例4−1〜4−13の無機記録層の組成比を示すグラフである。
【表2】

【0123】
図7Aに示した近似直線yから以下のことがわかる。
透過率を50%以上とするためには、変数xを0.17以上とすることが好ましい。
透過率を55%以上とするためには、変数xを0.37以上とすることが好ましい。
透過率を60%以上とするためには、変数xを0.56以上とすることが好ましい。
透過率を78%以下とするためには、変数xを1.26以下とすることが好ましい。
なお、多層の光情報記録媒体では、L1層以上の情報信号層(L1層、L2層、L3層、・・・・)の透過率を55%以上とすることが好ましい。透過率55%以上が好ましい理由については、後述する。なお、WZCPO以外の記録膜組成(ZnS−SiO2−Sb−SnやTePdOなど)を用いた2層ディスクではL0層の反射率を高くできることを考慮すると、L1層の透過率を50%以上とすることが好ましい。
【0124】
図7Bに示した近似直線から以下のことがわかる。
最適記録パワーPwoを20mW以下とするためには、透過率を78%以下とすることが好ましいことがわかる。ここで、最適記録パワーPwo:20mWは、民生用のドライブ装置の最適記録パワーPwoの上限値である。この上限値を超えると、記録パワー不足となり、しいては信号品質の悪化となる。
【0125】
<5.2層の光情報記録媒体の透過率範囲>
(試験例5−1〜5−12)
まず、射出成形により、厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を成形した。なお、このポリカーボネート基板上には、グルーブを有する凹凸面を形成した。
【0126】
次に、スパッタリング法により、ポリカーボネート基板上に第1保護層、無機記録層、第2保護層を順次積層することにより、L0層を作製した。ここで、L0層は、2層の光情報記録媒体用のL0層とした。
具体的な各層の構成は以下のようにした。
【0127】
第1保護層
材料:ITO、厚さ:10nm
無機記録層
材料:WZCPO、厚さ:26nm〜30nm
組成比:a=10、b=30、c=30、d=30とした。
第2保護層
材料:TaN、厚さ:6nm〜16nm
但し、無機記録層および第2保護層の厚さが表3に示す値となるように、試験例5−1〜5−12ごとに成膜条件を調製した。
【0128】
次に、スピンコート法により、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製、商品名:SK8300)を第2保護層上に均一塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ100μmを有する光透過層を形成した。
以上により、L0層のみを有する光情報記録媒体を得た。
【0129】
(i−MLSE評価)
上述のようにして得られた試験例5−1〜5−12の光情報記録媒体のi−MLSEを以下のようにして求めた。ディスクテスタ(パルステック社製、商品名:ODU−1000)を用いて、NA=0.85、記録波長405nm、記録線速7.69m/sで1層あたり32GB密度の1−7変調データを記録再生して、i−MLSE値を求めた。
【0130】
(反射率評価)
上述のようにして得られた試験例5−1〜5−12の光情報記録媒体の反射率をディスクテスタ(パルステック社製、商品名:ODU−1000)を用いて、NA=0.85、記録波長405nmで測定した。なお、2層の光情報記録媒体のL0層のみを用いて作製された単層の光情報記録媒体の反射率を、L0層単独の反射率と称する。
【0131】
表3は、試験例5−1〜5−12の光情報記録媒体のi−MLSEおよび反射率の測定結果を示す。
【表3】

【0132】
図9Aは、上述のようにして求めたi−MLSEと反射率との関係を示すグラフである。図9Aから、L0層のi−MLSE値を11%以下にするためには、L0層の反射率を14%以下にする必要があることがわかる。ここで、i−MLSE値11%は、民生用のドライブ装置によりエラー訂正可能な上限値である。反射率を向上させるには、上記膜厚よりも第1保護層、無機記録層、第2保護層いずれか若しくは組み合わせで各々を薄くする方向であったが、いずれも薄くさせるとi−MLSE値が悪化した。これは、無機記録層の蓄熱や放熱が変わり結果、記録時の泡の形成が不適切になるために悪化したと推測される。
【0133】
(試験例5−13〜5−24)
上述のようにして求めたL0層単独の反射率14%を前提として、2層の光情報記録媒体のL1層の透過率に対するL0層の反射率を計算により求めた。その結果を表4および図9Bに示す。ここで、L1層の透過率をTとすると、L0層の反射率Rは下記(2)式を用い計算した。
R=14%(L0層単独の反射率)×T2 (2)
【0134】
表4は、試験例5−13〜5−24の光情報記録媒体のL0層単独の反射率、L1層の透過率およびL0層の反射率を示す。
【表4】

【0135】
図9Bから、2層の光情報記録媒体のL1層の反射率を4%以上にするためには、L1層の透過率は55%以上とする必要があることがわかる。ここで、L1層の反射率4%は、民生用の2層対応ドライブ装置を用いて情報信号を再生するために必要な反射率の下限値である。
【0136】
<6.4層の光情報記録媒体の透過率範囲>
(試験例6−1〜6−9)
4層の光情報記録媒体のL1層のみの透過率を変化させたときのL0層のi−MLSEを測定した。その結果を表5および図9Cに示す。ここで、L1の記録特性は今回の目的ではないので、L1層の透過率の調整は下記の条件の通り無機記録層の厚さの調整とした。
【0137】
L1層の具体的な膜構成は下記のとおりである。
第1保護層
材料:ITO、厚さ:7nm
無機記録層
材料:WZCPO、厚さ:2nm〜130nm
組成比:a=25、b=10、c=40、d=25
第2保護層
材料:ITO、厚さ:10nm
【0138】
L0層の具体的な膜構成は下記のとおりである。
第1保護層
材料:ITO、厚さ:8nm
無機記録層
材料:WZCPO、厚さ:30nm
組成比:a=10、b=30、c=30、d=30
第2保護層
材料:TaN、厚さ:10nm
【0139】
表5は、試験例6−1〜6−9の光情報記録媒体のL1層の透過率およびL0層のi−MLSE値を示す。
【表5】

【0140】
図9Cから、L0層のi−MLSE値を11%以下とするためには、L1層の透過率を55%以上とする必要があることがわかる。ここで、i−MLSE値11%は、民生用のドライブ装置によりエラー訂正可能な上限値である。L1層の透過率が低い場合には、L0層の信号量が低下するため、再生するに十分なS/Nが得られないからであると考えられる。よって、L1の透過率は高い方がL0層の信号特性は良くなる。
【0141】
以上により、2層や4層などの多層の光情報記録媒体では、L1層以上の情報信号層(L1層、L2層、L3層、・・・・)の透過率は、55%以上とすることが好ましいことがわかる。
【0142】
以上、本技術の実施形態について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0143】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0144】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、この発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0145】
また、上述の実施形態では、情報記録媒体が4層の情報信号層を備える場合を例として説明したが、情報信号層の層数はこれに限定されるものではなく、情報信号層は2層以上の任意の層数とすることが可能である。
【0146】
また、上述の実施形態では、基板上に2以上の情報信号層、光透過層がこの順序で積層された構成を有し、この光透過層側からレーザ光を情報信号層に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる光情報記録媒体に対して本技術を適用した場合を例として説明したが、本技術はこの例に限定されるものではない。例えば、基板上に2以上の情報信号層、保護層がこの順序で積層された構成を有し、基板側からレーザ光を2以上の情報信号層に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる光情報記録媒体、または2枚の基板の間に2以上の情報信号層が設けられた構成を有し、一方の基板の側からレーザ光を情報信号層に照射することにより情報信号の記録または再生が行われる光情報記録媒体に対しても本技術は適用可能である。
【0147】
また、上述の実施形態では、スパッタリング法により光情報記録媒体の各層を形成する場合を例として説明したが、成膜方法はこれに限定されるものではなく、他の成膜方法を用いてもよい。他の成膜方法としては、例えば、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどのCVD法(Chemical Vapor Deposition(化学蒸着法):化学反応を利用して気相から薄膜を析出させる技術)のほか、真空蒸着、プラズマ援用蒸着、イオンプレーティングなどのPVD法(Physical Vapor Deposition(物理蒸着法):真空中で物理的に気化させた材料を基板上に凝集させ、薄膜を形成する技術)などを用いることができる。
【符号の説明】
【0148】
1 基板
2 光透過層
3 ハードコート層
4 バリア層
10 光情報記録媒体
11 無機記録層
12 第1保護層
13 第2保護層
L0〜L3 情報信号層
S1〜S3 中間層
Gin イングルーブ
Gon オングルーブ
C 光照射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に設けられた2以上の情報信号層と、
上記情報信号層上に設けられたカバー層と
を備え、
上記2以上の情報信号層のうちの少なくとも1層は、
Pd酸化物を含む無機記録層と、
上記無機記録層の第1の主面に設けられた第1保護層と、
上記無機記録層の第2の主面に設けられた第2保護層と
を備え、
上記第1保護層および上記第2保護層の少なくとも一方が、Si酸化物、In酸化物、およびZr酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる光情報記録媒体。
【請求項2】
上記基板および上記カバー層の側のいずれか一方の表面が、上記2以上の情報信号層に情報信号を記録または再生するための光が照射される光照射面であり、
上記第1保護層および上記第2保護層のうち、上記光照射面とは反対側となる層が、上記複合酸化物を含んでいる請求項1記載の光情報記記録媒体。
【請求項3】
上記第1保護層および上記第2保護層の両方が、上記複合酸化物を主成分として含んでいる請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
上記無機記録層が、W酸化物、Pd酸化物、およびCu酸化物を主成分として含んでいる請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
上記無機記録層が、Zn酸化物をさらに含んでいる請求項4記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
上記基板および上記カバー層の側のいずれか一方の表面が、上記2以上の情報信号層に情報信号を記録または再生するための光が照射される光照射面であり、
上記光照射面から最も奥側となる情報信号層以外の情報信号層のうちの少なくとも1層が、上記無機記録層と、上記第1保護層と、上記第2保護層とを備え、
上記第1保護層および上記第2保護層の少なくとも一方が、上記複合酸化物を主成分として含んでいる請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
上記基板および上記カバー層の側のいずれか一方の表面が、上記2以上の情報信号層に情報信号を記録または再生するための光が照射される光照射面であり、
上記2以上の情報信号層のうち、最も光照射面に近い情報信号層の無機記録層が、上記無機記録層と、上記第1保護層と、上記第2保護層とを備え、
上記第1保護層および上記第2保護層の少なくとも一方が、上記複合酸化物を主成分として含んでいる請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項8】
基板と、
上記基板上に設けられた2以上の情報信号層と、
上記情報信号層上に設けられたカバー層と
を備え、
上記2以上の情報信号層のうちの少なくとも1層は、
Pd酸化物を含む無機記録層と、
上記無機記録層の第1の主面に設けられた第1保護層と、
上記無機記録層の第2の主面に設けられた第2保護層と
を備え、
上記第1保護層および上記第2保護層の少なくとも一方が、In酸化物、Ga酸化物、およびZn酸化物の複合酸化物を主成分として含んでいる光情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−164373(P2012−164373A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22182(P2011−22182)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】