説明

光断層計測装置

【課題】計測対象とされる生体内の蛍光の濃度分布を示す断層画像の再構成を行うときに、簡単な構成で精度の良い光断層画像を再構成し得る光断層計測装置。
【解決手段】予めマウス12に蛍光標識剤を投与しておき、このマウス12の体長方向と交差する計測面92に対して光源ユニット40が照射した励起光に励起されたマウス12から発せられる蛍光を受光ユニット42で受光する。このときの計測面92のマウス12の体長方向における位置を特定し、その位置における臓器に応じた光学特性分布を取得する。受光ユニット42における蛍光の受光量と取得した光学特性分布とに基づいて、計測面92上の蛍光の濃度分布を再構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光に応じて計測対象となる生体から発せられる蛍光を計測して、光断層画像の再構成を行う光断層計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は、近赤外線などの所定波長の光に対して透過性を有することが知られている。ここから、特許文献1、特許文献2等では、光を用いた生体内の観察を提案している(光トモグラフィー:光CT)。
【0003】
光CTでは、生体内の光の吸収係数の分布を得るものであり、ファントムモデルを用いて得られる検出光量と測定対象物から得られる検出光量とから、測定対象である散乱吸収体内部の吸収係数分布を求めている。
【0004】
特許文献3、特許文献4等では、測定対象の一点に対して相対的に同じ位置関係にある光入射位置と光検出位置との複数の組み合わせによって、それぞれの光入射位置から入射されて測定対象を透過することにより光検出位置で検出される複数の測定値の平均値を、吸収係数分布や等価散乱係数の分布などの内部特性分布を求めるための基準値とすることにより、ファントムモデル等の基準とする計測対象を用いることなく、吸収係数分布の再構成を行うように提案している。
【0005】
また、生体組織の光透過性を用いた断層像測定装置としては、試料に対して励起レーザ光を照射し、この励起光が計測対象内の蛍光源で散乱されることにより発せられる蛍光のうち、散乱光を除去して得られる平面波のフランフォーファ回折像の0次光を取り込むことにより、光断層像を得る蛍光断層像測定装置が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0006】
一方、腫瘍部分などの病変部位に特異的に付着する抗体に蛍光物質を付与した蛍光標識剤を用い、この蛍光標識剤を生体に投与することにより、生体から発せられる蛍光の濃度分布から、生体中での蛍光標識剤の移動、特定部位への集積/離散過程を観察することができる(蛍光CT)。
【0007】
生体中での蛍光標識剤の濃度分布(以下、蛍光の濃度分布とする)を得る場合、生体の表面の一点へ励起光を照射し、これにより生体から放出される蛍光の強度を生体の周囲の多点で検出する。これを、励起光の照射位置を変えながら繰返し行うことにより得られる計測データの間には、蛍光標識剤の分布、生体内での光の散乱特性、及び生体内での光の吸収特性に応じた関係が成り立つ。この関係を用いて、計測データから蛍光の濃度分布を示す断層画像の再構成を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−173976号公報
【特許文献2】特開平11−337476号公報
【特許文献3】特開平10−026585号公報
【特許文献4】特開平11−311569号公報
【特許文献5】特開平05−223738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
蛍光CTにおいて、断層画像の再構成を行う場合、励起光の強度分布及び蛍光の強度分布を、光の拡散方程式に基づいた逆問題演算で得ることができる。この逆問題演算では、生体内の光の吸収係数μa及び散乱係数(等価散乱係数μs’)を未知数として、この吸収係数μa及び等価散乱係数μs’の演算を行い、この演算結果に基づいて蛍光の濃度分布を得るようにしている。
【0010】
蛍光の濃度分布を得るときに励起光の強度及び蛍光の強度のそれぞれを多数箇所で計測し、それぞれの計測結果を用いて2系統での逆問題演算を行うことは、計測作業に時間が掛かると共に、演算時間も長くなる。
【0011】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、計測対象とされる生体内の蛍光の濃度分布を示す断層画像の再構成を行うときに、簡単な構成で精度の良い光断層画像を再構成し得る光断層計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、蛍光標識剤が投与された計測対象である生体の体長方向と交差する計測面上となるように光軸が配置され、前記計測対象へ励起光を照射する照射手段と、それぞれの光軸が前記計測面上となるように配置され、前記照射手段から照射された前記励起光により前記蛍光標識剤から発せられて前記計測対象から周囲に放出される蛍光を受光する複数の受光手段と、前記計測対象の光学特性分布を記憶する記憶手段と、前記体長方向における前記計測面の位置を特定する特定手段と、前記特定手段で特定した位置に応じた光学特性分布を前記記憶手段から取得する取得手段と、前記受光手段のそれぞれで受光した前記蛍光の強度及び前記取得手段で取得した光学特性分布に基づいて、前記計測面上の蛍光の濃度分布を構成する構成手段と、を含む。
【0013】
この発明によれば、特定手段が前記体長方向における前記計測面の位置を特定し、特定した位置に応じて、計測対象の光学特性分布を取得し、受光した蛍光の強度及び取得した光学特性分布に基づいて、前記計測面上の蛍光の濃度分布を構成する。
【0014】
これにより、本発明では、計測対象の体長方向の位置に応じた、計測面内での光学特性分布を取得し再構成に用いているので、簡単な構成で精度の良い光断層画像を再構成できる。
【0015】
また、本発明は、前記照射手段及び前記受光手段を組にして前記体長方向に沿って前記計測対象に対して相対移動することにより、前記計測面を移動する移動手段をさらに含み、前記特定手段は、前記移動手段の移動量に基づいて計測面の位置を特定する。
【0016】
この発明によれば、移動手段が前記照射手段及び前記受光手段を組にして前記体長方向に沿って相対移動することにより、前記計測面を移動させ、前記特定手段は、前記移動手段の移動量に基づいて計測面の位置を特定する。
【0017】
これにより、本発明は、移動手段の移動量に基づいて計測面の位置を特定できるので、移動量から計測面の位置を精度よく把握することができ、計測位置に応じた光学特性分布を取得することができる。
【0018】
さらに、本発明は、前記光学特性分布は、前記生体を構成する前記光学特性分布は、前記生体を構成する肺、心臓、胃、肝臓、腸、腎臓、骨、筋肉、脂肪の少なくとも1つに応じて予め設定されている。
【0019】
また、本発明は、前記光学特性分布は、光の吸収係数及び等価散乱係数で構成される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、計測対象とされる生体内の蛍光の濃度分布を示す断層画像の再構成を行うときに、簡単な構成で精度の良い光断層画像を再構成し得るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る光断層計測システムの要部の概略構成図である。
【図2】マウスの保定に用いる検体ホルダの一例を示す概略斜視図である。
【図3】光計測装置の要部を示す斜視図である。
【図4】蛍光の計測位置を示す概略構成図である。
【図5】光断層計測システムの制御部の概略構成図である。
【図6】(A)は検体ホルダに保定されたマウス内の臓器の配置を示す概略図、(B)はマウスの胸部断面を示す模式図、(C)はマウスの腹部断面を示す模式図、(D)はマウスの腰部断面を示す模式図である。
【図7】光計測装置における計測処理の概略を示すフローチャートである。
【図8】計測データを用いた濃度分布の演算の概略を示すフローチャートである。
【図9】原理確認に用いたマウスの胸部の断面分布の一例を示す概略図である。
【図10】本実施の形態に係る光断層計測システムを用いた場合の蛍光の再構成画像の模式図である。
【図11】従来の手法によるマウス全体を同じ光学特性値に設定した場合の蛍光の再構成画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図1には、本実施の形態に係る光断層計測システム10の概略構成が示されている。光断層計測システム10は、光計測装置14及び、光計測装置14で得られる計測データに対して所定のデータ処理を行うデータ処理装置16を備えている。なお、光断層計測システム10は、光計測装置14の機能とデータ処理装置16の機能を一体化した構成であっても良い。
【0023】
この光断層計測システム10では、例えば、ヌードマウスなどの生体を計測対象とする。以下では、計測対象をマウス12(図2参照)として説明する。なお、計測対象は、マウス12に限らず任意の生体を計測対象とすることができる。
【0024】
計測対象とするマウス12には、例えば、腫瘍細胞などの病変細胞を注入するなどして予め所定の病変部位を生じさせる(発現させる)。また、マウス12には、例えば、病変部位などの特定部位に特異的に付着する抗体に蛍光物質を含ませた蛍光標識剤が投与される。
【0025】
光断層計測システム10では、発現させたマウス12に投与した蛍光標識剤が血液循環によりマウス12の体内に分散されたのち、抗原抗体反応により病変部位に集積して付着するタイミングで、該マウス12を光計測装置14へ装填する。光計測装置14は、蛍光標識剤に対する励起光をマウス12へ照射し、マウス12の体内の蛍光標識剤から発せられる蛍光強度を計測する。データ処理装置16では、光計測装置14から出力される蛍光強度に応じた計測データに基づいてマウス12内の蛍光(蛍光標識剤)の濃度分布を演算し、蛍光標識剤(蛍光物質)の体内における濃度分布を示す断層画像を生成する(光断層画像の再構成)。再構成された光断層画像は、例えば、モニタ18等に表示される。
【0026】
図2に示されるように、光断層計測システム10では、マウス12を光計測装置14に装填するときに、マウス12を検体ホルダ30に収容して保定する。検体ホルダ30は、上型ブロック32と下型ブロック34とによって構成され、上型ブロック32と下型ブロック34とが重ね合わせられることにより、所定の外径の略円柱形状となる。
【0027】
上型ブロック32には、マウス12の背側の体型(外形形状や大きさ)に合わせた凹部32Aが形成され、下型ブロック34には、マウス12の腹側の体型に合わせた凹部34Aが形成されている。マウス12は、腹側が下型ブロック34の凹部34A内に収容された状態で上型ブロック32が被せされることにより、体長方向が検体ホルダ30の軸方向に沿うように配置され、表皮が内面に密接されて検体ホルダ30に保定される。
【0028】
本実施の形態では、主としてマウス12の胴部(胸部から腰部)を計測部位としており、検体ホルダ30は、内面に少なくともマウス12の胴部の表皮が緊密に接した状態で保定する。また、検体ホルダ30は、例えば、上型ブロック32における凹部32A及び、下型ブロック34における凹部34Aを形成する位置により、検体ホルダ30内でのマウス12の位置を定めることができる。
【0029】
検体ホルダ30では、例えば、マウス12の頭部側の端面が基準面38とされており、これにより、マウス12は、検体ホルダ30に収容されたときに体型(大きさ)に応じて計測部位の位置が定まる。なお、検体ホルダ30では、例えば、下型ブロック34に形成された一対の係合突部36Aが、上型ブロック32に形成された係合凹部36Bに嵌め込まれることにより、上型ブロック32と下型ブロック34との間の位置決めがなされる。また、検体ホルダ30は、予め規定した外形であれば、角柱状などの任意の形状を適用することができる。
【0030】
図3に示されるように、光計測装置14には、図示しないケーシングにより遮光された内部に基台20が配置され、この基台20にベース板24が立設されている。ベース板24には、一方の面に計測ヘッド部22が設けられている。計測ヘッド部22は、例えば、リング状に形成された枠体26を備え、この枠体26がベース板24に形成されている図示しない円孔と同軸となるように配置されている。
【0031】
ベース板24には、一方の面にロータリーアクチュエータ28が取り付けられ、このロータリーアクチュエータ28に枠体26が取り付けられている。ロータリーアクチュエータ28には、ベース板24の円孔に対応した図示しない空洞部が形成され、この空洞部が円孔に同軸となるようにベース板24に取り付けられ、枠体26は、このロータリーアクチュエータ28の空洞部と同軸となるように取り付けられている。
【0032】
ロータリーアクチュエータ28は、例えば、ステッピングモータ、パルスモータなどを用いた図示しない駆動源が作動されることにより、枠体26を、その軸心部を軸にベース板24に対して回動する。
【0033】
光計測装置14には、ベース板24を挟んでアーム44、46が対で設けられている。アーム44は、支柱48の先端部にブラケット50が取り付けられ、このブラケット50の先端が枠体26の開口を通してアーム46側へ向けられている。また、アーム46は、支柱52の先端部にブラケット54が取り付けられ、このブラケット54の先端が枠体26の開口を通してアーム44側へ向けられている。
【0034】
基台20上には、長尺のスライダ56及びスライドベース58が配置されている。スライダ56は、長手方向が枠体26の軸線方向に沿って配置され、ベース板24の下端部に形成された開口部24Aに挿通されて基台20上に取り付けられている。スライドベース58は、長手方向がスライダ56の長手方向に沿うようにスライダ56上に配置され、スライダ56に設けられている図示しないブロックを介してスライダ56に取り付けられている。このスライドベース58には、長手方向の一端側にアーム44の支柱48が立設され、他端側にアーム46の支柱52が立設されている。
【0035】
スライダ56は、その内部に、送りねじ機構(図示省略)が設けられ、送りねじが回転駆動されることにより、送りねじに連結されている図示しないブロックが移動される。スライドベース58は、この送りねじに連結されているブロックに取り付けられ、送りねじ機構により長手方向(図3の紙面左右方向)に沿って移動される。これにより、光計測装置14では、一対のアーム44、46が一体で、枠体26の軸線方向に移動される。
【0036】
なお、送りねじ機構は、公知の一般的構成を適用でき、ここでは詳細な説明を省略する。また、一対のアーム44、46を一体で移動する構成は、送りねじ機構に限らず、公知の任意の構成を適用することができる。さらに、本実施の形態では、アーム44、46を移動するが、これに限らず、枠体26(計測ヘッド部22)が移動する構成であっても良い。
【0037】
光計測装置14では、アーム44のブラケット50とアーム46のブラケット54との間に、検体ホルダ30が掛け渡されて装着される。このとき、検体ホルダ30は、その軸線が枠体26の軸線に重なるように配置される。また、検体ホルダ30内のマウス12は、検体ホルダ30の基準面38が、ブラケット50に設定している基準面50Aに突き当てられることにより、光計測装置14に対して体長方向に沿った位置決めがなされる。
【0038】
光計測装置14では、アーム44のブラケット50が、ベース板24の図示しない貫通孔に挿通されてベース板24の反対側(図3の紙面奥側)へ突出された状態が、ブラケット44、46への検体ホルダ30の着脱位置とされている。光計測装置14では、着脱位置で検体ホルダ30が装填されると、スライダ56の駆動により、検体ホルダ30を枠体26の軸心部を通過するように移動する(矢印A方向)。また、光計測装置14では、検体ホルダ30が矢印A方向と反対方向へ移動されて着脱位置に戻されることにより、アーム44、46からの検体ホルダ30の取り出しが行われる。
【0039】
一方、図1に示すように、計測ヘッド部22には、光源ユニット40及び、複数の受光ユニット42が取り付けられている。光源ユニット40及び受光ユニット42は、それぞれの光軸が枠体26の軸心へ向けられ、枠体26の軸線方向と交差する同一平面(図4参照。以下、計測面92とする)上とされている。また、図1に示されるように、光源ユニット40及び受光ユニット42は、互いの光軸の間の角度が所定の角度θとなるように枠体26の軸心から放射状となるように配置されている。なお、本実施の形態では、一例として1基の光源ユニット40と、11基の受光ユニット42A、42B、42C、42D、42E、42F、42G、42H、42I、42J、42Kとが設けられ、角度θが30°となるように配置されている。
【0040】
一方、図5に示されるように、光計測装置14には、制御部60が設けられている。制御部60は、図示しないマイクロコンピュータを備えたコントローラ62を有する。また、制御部60には、ロータリーアクチュエータ28を駆動する駆動回路64及び、スライダ56を駆動する駆動回路66が設けられ、これらがコントローラ62に接続されている。これにより、光計測装置14では、コントローラ62により検体ホルダ30の移動及び、計測ヘッド部22の回動が制御される。
【0041】
また、光源ユニット40は、LED、半導体レーザなどの発光素子により蛍光標識剤に対する励起光となる波長の光を発する発光ヘッド68を備え、受光ユニット42は、受光素子により蛍光標識剤の発する蛍光を受光する受光ヘッド72を備えている。制御部60には、光源ユニット40に設けられている発光ヘッド68を駆動する発光駆動回路70、受光ユニット42のそれぞれに設けられている受光ヘッド72から出力される電気信号を増幅する増幅器(amp)74、増幅器74から出力される電気信号(アナログ信号)に対してA/D変換を行うA/D変換器76を備えている。
【0042】
これにより、制御部60では、光源ユニット40の発光ヘッド68による発光を制御しながら、各受光ユニット42の受光ヘッド72によって検出された計測データがデジタル信号として出力される。なお、光計測装置14には、図示しない表示パネルが設けられ、コントローラ62によって装置の作動状態等が表示される。
【0043】
データ処理装置16は、CPU78、ROM80、RAM82、記憶手段とされるHDD84、キーボードやマウス(ポインティングデバイス)などの入力デバイス86、モニタ18等がバス88に接続された一般的構成のコンピュータにより形成されている。この、データ処理装置16には、入出力インターフェイス(I/O IF)90Aが設けられており、この入出力インターフェイス90Aが、光計測装置14の制御部60に設けている入出力インターフェイス90Bに接続されている。なお、光計測装置14とデータ処理装置16との接続は、USBインターフェイスなどの公知の任意の規格を適用することができる。
【0044】
データ処理装置16は、CPU78が、RAM82をワークメモリとして用い、ROM80又はHDD84に記憶されたプログラムを実行することにより、光計測装置14の作動を制御する。
【0045】
これにより、光計測装置14は、アーム44、46に装着された検体ホルダ30を軸方向に移動し、検体ホルダ30の所定位置(マウス12の所定部位)が枠体26の軸心部(計測面92)に配置された状態で、光源ユニット40から検体ホルダ30へ励起光を照射し、この励起光に応じてマウス12内の蛍光標識剤から発せられて検体ホルダ30の周囲から放出される蛍光を受光ユニット42のそれぞれで受光し、受光量に応じたデータを計測データとしてデータ処理装置16へ出力する。
【0046】
データ処理装置16では、光計測装置14から出力される計測データに基づいて、蛍光の濃度分布の再構成を行う。なお、光断層計測システム10では、データ処理装置16が光計測装置14の作動を制御するように説明するが、これに限らず、光計測装置14が単独で動作して、計測データを出力する構成であっても良い。
【0047】
ところで、図4に示されるように、光断層計測システム10では、検体ホルダ30の基準面38が、ブラケット50の基準面50Aに突き当てられて光計測装置14に装填される。これにより、光計測装置14では、ブラケット50の基準面50Aを原点xsとして、検体ホルダ30の所定位置が、計測ヘッド部22に対向されるように、検体ホルダ30を矢印X方向へ相対移動する。なお、以下では、検体ホルダ30内のマウス12の体長方向(枠体26の軸線方向)をx軸として、原点xsからの検体ホルダ30に対する計測面92の相対移動位置のx軸上の座標を計測位置xとして説明する。
【0048】
光計測装置14では、予め設定されている位置を計測する初期位置(計測位置x)として、計測位置xから所定間隔Δx(例えば、Δx=3mm)毎に検体ホルダ30を相対移動した計測位置xnのそれぞれで、蛍光の計測を行う。このとき、光計測装置14では、計測位置xnのそれぞれで、光源ユニット40を予め設定された原位置から所定の角度θずつ回転し(例えば、原位置θから回転位置θ、θ、・・・、θ12(図1参照))、それぞれの回転位置θp(ここでは、p=1〜12)で、光源ユニット40から検体ホルダ30へ励起光を照射して、受光ユニット42A〜42Kの出力信号である計測データM(m)を読み込む。なお、mは、m=1〜11として、受光ユニット42A〜42Kを特定する変数としている。
【0049】
これにより、光計測装置14では、計測データM(x、θ、m)として計測データM(xn、θp、m)が得られる。このときに、計測位置xが同じであれば、その計測データM(x、θ、m)は、検体ホルダ30の移動方向に対して交差する同一平面(計測面92)上のデータとなる。
【0050】
一方、マウス12等の生体では、光に対して異方性散乱媒質となっている。異方性散乱媒質は、入射された光が光浸達長(等価散乱長)に達するまでは、前方散乱が支配的な領域となっているが、光浸達長を超えた領域では、光の偏向がランダムな多重散乱(等方散乱)が生じ、光の散乱が等方的となる(等方散乱領域)。この前方散乱が支配的な領域は数mm程度であるため、異方性散乱媒質の表面から数mm程度以上の深さでは、等方散乱とみなすことができる。
【0051】
本実施の形態では、マウス12の体内での光の散乱を実質的に等方散乱領域と見なされるように、光浸達長以上の厚みを持った検体ホルダ30(上型ブロック32と下型ブロック34)にマウスを収容している。このような検体ホルダ30の材質としては、ポリエチレン(PE)や、光の等価散乱係数μs’が1.05mm−1のポリアセタール樹脂(POM)などを用いることができる。なお、検体ホルダ30を形成する材質は、これに限らず、マウス12の体内が等方散乱領域とみなせる任意の材質を適用することができる。
【0052】
高密度媒質内で光が散乱を受けながら伝播するときに、光強度の分布は、光子のエネルギーの流れを記述する基本的な方程式である光(光子)の輸送方程式で表されるが、光の散乱が等方散乱に近似されることにより、光の拡散方程式を用いて光強度の分布を表すことができる。
【0053】
この光の拡散方程式は、(1)式で表される。なお、Φ(r、t)はマウス12内の光密度、D(r)は拡散係数、μa(r)は吸収係数、q(r、t)は光源の光密度を表し、rは計測対象であるマウス12(検体ホルダ30)内の座標位置、tは時間を表す。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、等価散乱係数をμs’(r)としたときに、一般的な三次元モデルにおいて、等価散乱係数μs’(r)と拡散係数D(r)とは、D(r)=(3・μs’(r))−1と表される関係を有している。μs’(r)は等価散乱係数であり、本実施の形態では、計測面92に沿った二次元の断層画像を再構成するものであり、二次元モデルである場合、拡散計数D(r)と等価散乱係数μs’の間では、D(r)=(2・μs’(r))−1と表される関係を有する。
【0056】
等価散乱係数μs’は、異方性散乱領域と等方性散乱領域を含む物質(異方性散乱媒質)における等方散乱領域における散乱係数を指す。光の拡散方程式では、等方性散乱領域のみを対象としており、ここでは、等価散乱係数μs’を用いる。
【0057】
光断層の計測に連続光を用いる場合、光強度の分布が時間によらず一定となるので、(1)式の光の拡散方程式は、(2)式で示すことができる。
【0058】
【数2】

【0059】
光学特性値である拡散係数D(r)、吸収係数μa(r)が既知であるときに、(2)式で示される光の拡散方程式を用いてマウス12(検体ホルダ30)から放出される光の強度分布を求める場合、順問題として計算することができる。しかし、光強度分布が既知であり、ここから、光の拡散方程式を用いてマウス12の光学特性値を求める場合、逆問題計算となる。
【0060】
ここで、マウス18の拡散係数D(r)、吸収係数μa(r)は、光の波長によって異なり、励起光の波長λsに対する拡散係数をDs(r)、吸収係数をμas(r)とし、光源の光密度をqs(r)とすると、励起光に対する拡散方程式は(3)式で表される。また、蛍光の波長λfに対する拡散係数をDm(r)、吸収係数をμam(r)とし、蛍光を光源とする光密度をqm(r)とすると、蛍光に対する光の拡散方程式は、(4)式で表される。
【0061】
【数3】

【0062】
また、蛍光の光密度qm(r)は、マウス12内の光密度Φs(r)及び、蛍光標識剤の量子効率γ、モル吸光係数εを用いて、qm(r)=γ・ε・N(r)・Φs(r)と表すことができる。したがって、(4)式は(5)式に置き換えられる。
【0063】
【数4】

【0064】
ここで、マウス12の光学特性である吸収係数μa(r)、等価散乱係数μs’(r)(拡散計数D(r))が既知であれば、(3)式及び(5)式では、Ds(r)=Dm(r)=D(r)、μas(r)=μa(r)+ε・N(r)、μam(r)=μa(r)と置き換えられる。ここから、(3)式及び(5)式は、(6)式及び(7)式に置き換えられる。なお、ε・N(r)は蛍光標識剤による吸収を表す。
【0065】
【数5】

【0066】
また、蛍光標識剤が光源となる蛍光の強度は、励起光の強度Φs(r)に基づくものである。これは、励起光の光源の強度qs(r)が既知となり、等価散乱係数μs’(r)(拡散係数D(r))及び吸収係数μa(r)を既知とすることにより、有限要素法などの数値解析手法によりマウス12内の光強度Φs(r)を順問題として求めることができる。
【0067】
これに基づき、データ処理装置16では、計測データM(x、θ、m)を用いて、順問題計算と1系統の逆問題計算を行い、検体ホルダ30の内部のマウス12の蛍光標識剤から発せられる蛍光の濃度分布N(r)を得るようにしている。
【0068】
一方、図5に示されるように、光計測装置14では、スライダ56の駆動原として、例えばステッピングモータ56Aが設けられている。スライダ56では、ステッピングモータ56Aにより図示しない送りねじが回転されて、スライドベース58が移動される(図3参照)。コントローラ62は、駆動回路66を介してステッピングモータ56Aの駆動を制御する。
【0069】
これにより、光計測装置14では、ステッピングモータ56Aの駆動に基づいて、計測ヘッド部22の計測面92に対する検体ホルダ30の相対位置が把握されている。
【0070】
図2に示されるように、本実施の形態に適用した検体ホルダ30では、上型ブロック32に形成された凹部32A及び、下型ブロック34に形成された凹部34Aによりマウス12を保定する。このときに、検体ホルダ30では、基準面38に対する凹部32A、34Aの位置により、検体ホルダ30内でのマウス12の位置が定まるようになっている。
【0071】
さらに、図6(A)に示されるように、マウス12の解剖学的な臓器構造は揃っているため、マウス12が検体ホルダ30に保定されているとき、マウス12の体格によって所定の計測面92に位置する臓器はほぼ同じであると考えることができる。このとき、本実施の形態に係る光計測装置14の計測位置x〜x15は、マウス12の胸部100、腹部102、腰部104に位置している。なお、以下では、肺・心臓・胃・肝臓・腸・腎臓などの内臓器官に加えて、骨組織、及び、筋肉・脂肪などの軟部組織を総称して臓器という。
【0072】
図6(B)は、図6(A)に示すマウス12の胸部100に含まれる位置での断面図である。図6(B)に示されるように、マウス12の胸部100には、骨106Aの周りに肺108や心臓110が位置しており、これらを覆うように骨106B、筋肉112・脂肪122が位置している。
【0073】
また、図6(C)は、図6(A)に示すマウス12の腹部102に含まれる位置での断面図である。図6(C)に示されるように、マウス12の腹部102には、骨106Aがあって、大部分を胃114や肝臓116が占めており、それらを覆うように筋肉112・脂肪122が位置している。
【0074】
さらに、図6(D)は、図6(A)に示すマウス12の腰部104に含まれる位置での断面図である。図6(D)に示されるように、マウス12の腰部104では、骨106Aと、腸118や腎臓120などの内臓器官と、これらを覆う筋肉112・脂肪122が位置している。
【0075】
すなわち、本実施の形態に係る光計測装置14では、基準面38に対する計測面92の移動距離(計測位置xn)に基づいて、マウス12の体長方向における計測面92の位置を把握し、その計測面92上でのマウス12の臓器の分布を特定することが可能である。
【0076】
ここで、表1に示されるように、マウス12などの生体は、臓器によって光の吸収係数μa、等価散乱係数μs’等の光学的特性が異なる。
【0077】
【表1】

【0078】
そこで、本実施の形態に係るデータ処理装置16は、計測位置xnに基づいて計測面92上の臓器を特定し、臓器の位置及び臓器毎に異なる光学特性値(吸収係数μa、等価散乱係数μs’)から光学特性分布を作成して、データ処理装置16のROM80又はHDD84等に記憶している。
【0079】
より具体的には、本実施の形態において、図6(A)に示すように、検体ホルダ30の基準面38における中心を原点O、原点Oを通る検体ホルダ30の移動方向をx軸とし、基準面38上で、原点Oを通りx軸に対してそれぞれが互いに直交するようなy軸及びz軸として説明をする。このとき、図6(B)〜(D)に示されるように、マウス12の各断面である計測面92は、z軸及びy軸上となる。これにより、各計測面92上をyz座標として、マウス12の断面を2次元座標で表すことができる。
【0080】
すなわち、各断面内での臓器の分布を、各計測面92上における原点Oに対するy軸、z軸の2次元座標とし、主要な臓器の光学特性値(吸収係数μa、等価散乱係数μs’)を座標位置で予め記憶している。なお、主要な臓器として肺・心臓・胃・肝臓・腸・腎臓・骨組織・筋肉・脂肪等があるが(表1参照)、これに限らず、他の臓器を用いることが可能である。
【0081】
このようにして、光断層計測システム10では、マウス12の計測位置xnに応じた臓器の分布に基づいて、光学特性値とされる吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)が設定され、臓器の分布に応じた光学特性分布がデータ処理装置16のROM80又はHDD84に記憶されている。データ処理装置16では、この吸収係数μa及び等価散乱係数μs’を吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)に設定し、計測データM(xn、θp、m)に基づいた光断層画像の再構成を行うようになっている。
【0082】
なお、実際には3次元であるが、これにより2次元で光学特性値を設定しておき、演算に用いることができる。
【0083】
以下に、本実施の形態に係る光断層計測システム10における光断層画像の再構成を説明する。
【0084】
図7には、光断層計測システム10に設けている光計測装置14での計測処理の概略が示されている。このフローチャートは、マウス12を収容した検体ホルダ30が光計測装置14に装填されて、計測処理の開始が指示されると実行される。なお、ここでは、計測位置xを計測位置xnとして、間隔Δx(例えば、Δx=3mm)でn=1〜15までの計測を行う。計測位置xnのそれぞれで、光源ユニット40の回転位置θを回転位置θpとして、30°間隔でp=1〜12まで順に回転し、m=1〜11の各受光ユニット42で蛍光の計測を行う。また、光計測装置14の作動はデータ処理装置16により制御される。
【0085】
最初のステップ200では、初期設定を行い、m=0、n=0、p=0に設定し、ステップ202では、nをインクリメント(n=n+1)する。次に、ステップ204では、ステッピングモータ56Aを駆動してスライダ56を作動させることにより、マウス12の計測位置xnの初期位置(計測位置x)が計測ヘッド部22に対応するように移動する。
【0086】
マウス12を、蛍光の計測を行う計測位置xnへ移動すると、ステップ214では、pをインクリメント(p=p+1)し、ステップ216でロータリーアクチュエータ28を作動することにより、計測ヘッド部22を回転し、光源ユニット40を原位置θへ移動する。
【0087】
この後、ステップ218では、光源ユニット40の発光ヘッド68を作動させて検体ホルダ30へ励起光を照射する。これと共に、ステップ220では、mをインクリメント(m=m+1)して、ステップ222では、mに対応する受光ユニット42で受光している蛍光の光量を計測位置xn、回転位置θpにおける計測データD(m)として読み込む。また、ステップ224では、全ての受光ユニット42から計測データを読み込んだか否か(m≧11)を確認し、m≧11となっていなければ、ステップ224で否定判定して、ステップ220へ移行し、次の計測データM(m)を読み込む。
【0088】
このようにして、計測位置xn、計測角度θpにおいて、受光ユニット42の全ての計測データを読み込むと、ステップ224で肯定判定してステップ226へ移行し、光源ユニット40の発光を停止すると共に、読み込んだ計測データM(xn、θp、m)をデータ処理装置16へ出力する(ステップ228)。
【0089】
次のステップ230では、計測位置xnで光源ユニット40を全周に移動した(p≧12)か否かを確認し、否定判定された場合は、mをリセット(m=0)して(ステップ232)、ステップ214へ移行する。
【0090】
このようにして、計測位置xnにおいて、光源ユニット40を計測位置θ〜θ12まで回転して、計測データM(xn、θp、m)の計測を終了すると、ステップ230で肯定判定され、ステップ234へ移行する。このステップ234では、全ての計測位置xnでの計測が終了したか否か(n≧15)を確認し、否定判定された場合は、ステップ236で、m=0及びp=0に設定して、ステップ202へ移行し、次の計測位置xnにおける計測を開始する。また、全ての計測位置xn(x〜x15)での計測が終了すると、ステップ234で肯定判定され、計測処理を終了する。なお、計測処理が終了したときには、スライダ56が作動されて検体ホルダ30が着脱位置に戻される。
【0091】
一方、図8には、光計測装置14の計測データM(xn、θp、m)に基づいたデータ処理装置16での処理の概略を示している。このフローチャートは、光計測装置14での計測処理が開始されることにより実行される。
【0092】
このフローチャートでは、ステップ250及びステップ252で、先ず計測位置xnの設定を行う。なお、ここでは、nを初期化(n=0)した後にインクリメント(n=n+1)することにより、最初の計測位置xn(計測位置x)に設定する。
【0093】
次のステップ260では、光計測装置14から出力される計測データを順に読み込み、ステップ262では、計測位置xnにおいて、光源ユニット40の1周分の計測データM(xn、θp、m)(p=1〜12までのデータ)の読み込みを終了したか否かを確認する。
【0094】
ここで、1周分の計測データM(xn、θp、m)を読み込むと、ステップ262で肯定判定してステップ263へ移行する。ステップ263では、計測位置xnにおけるマウス12の光学特性値である吸収係数μa(r)及び透過散乱係数μs’(r)を読み出し設定する。
【0095】
本実施の形態では、ステッピングモータ56Aの駆動により計測面92に対する検体ホルダ30の相対位置から、マウス12の体長方向における計測面92の位置を特定し、この位置のマウス12の光学特性分布を2次元座標で把握している。そこで、計測面92に係るy軸、z軸の2次元座標の全部、すなわち原点Oに対する座標位置(r)毎に予め設定されている吸収係数μa(r)、等価散乱係数μs’(r)を読み込む。
【0096】
次のステップ264では、読み込んだ計測データM(xn、θp、m)から、蛍光強度分布(蛍光強度分布Φm(r)meas)を算出する。すなわち、計測データM(xn、θp、m)に基づいた蛍光強度分布Φm(r)measを取得する。
【0097】
この後、ステップ266では、マウス12を含めた検体ホルダ30内の蛍光(蛍光標識剤)の濃度分布N(r)の初期値を設定し、ステップ268では、設定された濃度分布N(r)と、先に設定した吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)(拡散係数D(r))に基づいて、マウス12から放出された蛍光強度分布Φm(r)calcを計算する。すなわち、仮想的な蛍光強度分布Φm(r)calcを取得する。この蛍光強度分布Φm(r)calcは、数学的モデルである光拡散方程式を有限要素法などの数値解析手法を用いた公知の順問題計算として容易に演算することができる。
【0098】
すなわち、励起光強度分布Φs(r)calcは、(6)式又は(8)式から得られ、励起光と蛍光をあわせた光強度分布Φt(r)calcは、(9)式から得られる。また、蛍光強度分布Φm(r)calcは、励起光強度分布Φs(r)calcと光強度分布Φt(r)calcとから得られる((10)式参照)。
【0099】
【数6】

【0100】
次のステップ270では、計測データに基づいた蛍光強度分布Φm(r)measと、演算結果に基づいた蛍光強度分布Φm(r)calcを比較し、ステップ272では、一致しているか否かを確認する。この判定は、例えば、蛍光強度分布Φm(r)measと、蛍光強度分布Φm(r)calcとの二乗誤差yを用い、二乗誤差yが、予め設定した規定値内か否かから判断するものであっても良い。
【0101】
ここで、二乗誤差yが規定値より大きく、蛍光強度分布Φm(r)measと蛍光強度分布Φm(r)calcが一致していないと判断されるときには、ステップ272で否定判定されてステップ274へ移行する。
【0102】
このステップ274では、関数行列(Jacobian matrix)を用いた公知の手法で光学特性値の変化に対する光強度分布の変化を演算する。また、次のステップ276では、Levenberg Marqurdt法などの最適化手法による逆問題計算を用いて蛍光強度分布Φm(r)measと蛍光強度分布Φm(r)calcの誤差(例えば、二乗誤差y)を評価する。すなわち、二乗誤差yは、(11)式から得られ、この二乗誤差yを評価する。なお、γは量子効率、εはモル吸光係数としている。
【0103】
【数7】

【0104】
また、このステップ276では、この二乗誤差yを最小とする蛍光標識剤での蛍光の吸収εN、すなわち、蛍光標識剤の濃度分布N(r)を推定する。これは、光拡散方程式である(7)式又は(12)式を用いた逆問題計算を行うことにより推定することができる。
【0105】
【数8】

【0106】
このようにして濃度分布N(r)を求めると、ステップ278では、この演算結果に基づいて濃度分布N(r)を更新する。
【0107】
データ処理装置16では、蛍光強度分布Φm(r)measと蛍光強度分布Φm(r)calcとが一致したとみなされるまで、ステップ268からステップ278を繰り返す。
【0108】
これにより、蛍光強度分布Φm(r)measと蛍光強度分布Φm(r)calcとが一致したとみなされると、ステップ272で肯定判定してステップ280へ移行し、このときの濃度分布N(r)を計測データM(xn、θp、m)から得られた濃度分布N(r)として格納する。この濃度分布N(r)を用いることにより、計測位置xnにおける蛍光分布の断層画像が得られる。
【0109】
このようにして、計測位置xnに対する演算が終了すると、ステップ282では、全ての計測位置xnに対する処理が終了したか否かを確認(n≧15)し、否定判定された場合には、ステップ252へ移行し、次の計測位置xnに対する処理を行う。
【0110】
このように、データ処理装置16では、マウス16の光学的特性である吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)を予め設定することにより、蛍光強度の計測データがあれば、蛍光の濃度分布(r)を得ることができるので、計測の簡略化及び計測時間の短縮を図ることができる。また、データ処理装置16では、光拡散方程式の逆問題計算が、蛍光に対して行えば良いので、処理負荷の軽減が図られる。
【0111】
また、光断層計測システム10では、名側面92内における座標(r)毎に適切に吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)を設定できるので、マウス12の全体を同じ吸収係数μa(r)及び等価散乱係数μs’(r)に設定する場合に比べて、高精度の蛍光の濃度分布N(r)を得ることができる。
【0112】
例えば、図9では、マウス12の胸部100の断面を示している。マウス12の計測面92上には、骨106A、心臓110及びこれらを覆う筋肉112と共に、それぞれに蛍光標識剤が付着した肺108が存在している。この計測面92の蛍光の濃度分布の再構成を行う際に、本実施の形態に係る光断層計測システム10を用いた結果を図10に示し、用いない結果を図11に示す。
【0113】
このとき、図11では、光学特性値をマウス12の全身の平均値を設定している。このため、再構成画像では図9の蛍光標識剤150と比較して、蛍光標識剤150の形状が崩れている。また、本来存在しないノイズ(アーチファクト)152Bの数も多く、蛍光濃度も高いため、ノイズであるか否かの判断も付けにくい。
【0114】
一方、図10では、光学特性値を三次元的に設定しているため、計測面92上の2つの蛍光標識剤150が精度よく表されている(蛍光濃度が高い)。また、ノイズ152Aが表示されていても、その濃度が低いため、ノイズであることが明確に分かる。
【0115】
なお、以上説明した本実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明は、光断層計測システム10に限らず、励起光を計測対象とする生体に照射し、この励起光により計測対象から放出される蛍光を、計測対象の周囲の複数位置で計測する任意の構成の光断層計測装置に適用することができる。
【0116】
また、本実施の形態では、平均的な体格のマウス12の臓器分布を想定して断面毎の光学特性値分布を設定しているが、これに限られず、マウス12の体格毎の臓器分布を想定して、断面毎の光学特性値分布を複数パターン設定しておいてもよい。この場合、データ処理装置16において、ユーザが計測対象のマウス12の体格に応じた光学特性値分布パターンを選択するようにすればよい。
【符号の説明】
【0117】
10 光断層計測システム10
12 マウス12(計測対象)
14 光計測装置
16 データ処理装置(構成手段、特定手段、取得手段)
40 光源ユニット(照射手段)
42 受光ユニット(受光手段)
56 スライダ(移動手段)
56A ステッピングモータ(移動手段)
92 計測面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識剤が投与された計測対象である生体の体長方向と交差する計測面上となるように光軸が配置され、前記計測対象へ励起光を照射する照射手段と、
それぞれの光軸が前記計測面上となるように配置され、前記照射手段から照射された前記励起光により前記蛍光標識剤から発せられて前記計測対象から周囲に放出される蛍光を受光する複数の受光手段と、
前記計測対象の光学特性分布を記憶する記憶手段と、
前記体長方向における前記計測面の位置を特定する特定手段と、
前記特定手段で特定した位置に応じた光学特性分布を前記記憶手段から取得する取得手段と、
前記受光手段のそれぞれで受光した前記蛍光の強度及び前記取得手段で取得した光学特性分布に基づいて、前記計測面上の蛍光の濃度分布を構成する構成手段と、
を含む光断層計測装置。
【請求項2】
前記照射手段及び前記受光手段を組にして前記体長方向に沿って前記計測対象に対して相対移動することにより、前記計測面を移動する移動手段をさらに含み、
前記特定手段は、前記移動手段の移動量に基づいて計測面の位置を特定する請求項1に記載の光断層計測装置。
【請求項3】
前記光学特性分布は、前記生体を構成する肺、心臓、胃、肝臓、腸、腎臓、骨、筋肉、脂肪の少なくとも1つに応じて予め設定されている請求項1又は請求項2記載の光断層計測装置。
【請求項4】
前記光学特性分布は、光の吸収係数及び等価散乱係数で構成される請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光断層計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−214942(P2011−214942A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82238(P2010−82238)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】