説明

光検出装置および被検体撮像方法

【課題】信号読出し時間の短縮により撮像素子の温度上昇を抑制する。
【解決手段】光検出装置は、複数の画素からなる受光面を備えた撮像素子6と、撮像素子6からの信号読出しを制御するCPU19とを有する。撮像素子6が、被検体と基準指標が基板面上に形成されたDNAチップの被検体を受光面により撮像する。CPU19は、受光面の基準指標からの光が入射する部分を含む第1の領域の画素から信号を読出し、該信号に基づいて、受光面上における基準指標の位置を決定する。そして、CPU19は、その基準指標の位置に基づいて、受光面の被検体からの光が入射する、第1の領域より大きな第2の領域を決定し、該第2の領域の画素から信号を読出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査に用いる光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査では、検体中の細胞、微生物、染色体、核酸等のサンプルを抗原抗体反応や拡散ハイブリダイゼーション反応等の生化学反応を利用して検出する生化学反応分析が行われる。この種の分析においては、互いに異なる塩基配列を有する複数のDNAプローブをアレイ状に基板上に形成したDNAチップを使用する。各DNAプローブは蛍光物質により標識付けされており、DNAチップ上に形成されたプローブアレイからの蛍光の強度を、2次元エリアセンサーを用いて検出する(特許文献1参照)。
【0003】
2次元エリアセンサーの信号読出しの関連技術として、特許文献2には、非破壊読出しの技術が開示されている。
【特許文献1】特表2002−538427号公報
【特許文献2】特開2004−344249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DNAチップ上の蛍光標識の出す蛍光は微弱である。微弱な蛍光を検知する第1の方法として、強い光で蛍光物質を励起することが考えられる。第2の方法として、二次元エリアセンサーとしてCMOSイメージセンサーに代表される撮像素子を用いた場合に、撮像素子の電荷蓄積時間(撮像時間)を長くすることが考えられる。
【0005】
しかし、第1の方法においては、励起光を強くすると、蛍光色素が褪色し、また、蛍光標識の温度が上昇し、その結果、蛍光強度が減衰して検出精度が低下する、といった問題が生じる。
【0006】
第2の方法においては、電荷蓄積時間を長くすると、撮像素子内に発生する暗電流が増加する。暗電流はメージセンサーの出力信号にノイズとなって現れるため、暗電流の増大は、検出精度を低下させることになる。
【0007】
暗電流は、撮像素子の温度上昇に伴って増加する。撮像素子の温度上昇を抑制することで、暗電流を低減することができる。しかし、蛍光分析作業を効率的に行うために、通常は、複数のプローブアレイを用意し、それぞれのプローブアレイに対して、撮像素子による蛍光検出を順次行う。このように複数のプローブアレイに対して撮像素子による蛍光検出を連続して行う場合は、撮像素子から信号を読み出す毎に、撮像素子の温度が上昇し、それに伴って暗電流によるノイズも増大する。このため、蛍光検出の順番の遅いプローブアレイについては、ノイズ増大により、蛍光検出精度が低下する、という問題がある。
【0008】
撮像素子の温度上昇を抑制するには、撮像素子からの信号読出し時間を短縮することが有効であるが、これまで、プローブアレイの蛍光像の撮像において、そのような信号読出し時間の短縮を図った技術は提供されていない。
【0009】
特許文献1に記載のものは、全画素から信号を読出して画像データを得るため、読出し時間の短縮は困難である。
【0010】
特許文献2に記載のものは、非破壊読出し可能な撮像素子を用いることで、撮像中に画像情報を得られるため、蛍光の褪色を防止するという意味では有効である。しかし、特許文献2に記載のものも、結局、全画素から信号を読出して画像データを得ることになるため、読出し時間の短縮は困難である。
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決し、信号読出し時間の短縮により撮像素子の温度上昇を抑制することができ、プローブアレイの蛍光像を高精度に検出することのできる、蛍光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の光検出装置は、複数の画素からなる受光面を備え、被検体と該被検体の領域を特定するための基準指標が基板面上に形成されたチップの前記被検体を前記受光面により撮像する撮像素子と、前記受光面の前記基準指標からの光が入射する部分を含む第1の領域の画素から信号を読出し、該信号に基づいて、前記受光面上における前記基準指標の位置を決定し、該基準指標の位置に基づいて、前記受光面の前記被検体からの光が入射する、前記第1の領域より大きな第2の領域を決定し、該第2の領域の画素から信号を読出す演算部と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、受光面の全画素から信号を読出す必要がなく、必要最小限の画素からの信号読出しにより被検体の画像データを得ることができるので、信号読出し時間を短縮することができる。信号読出し時間の短縮により、撮像素子の温度上昇を抑制することができるので、暗電流の増大を抑制し、プローブアレイの蛍光像を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の蛍光検出装置の一実施形態であるDNAアレイ撮像装置の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
図1を参照すると、DNAアレイ撮像装置は、搬送テーブル8上に配置されたDNAチップを照射するための光照射手段と、DNAチップからの蛍光を検出するための非破壊読出し可能な蛍光撮像手段を備える。
【0017】
搬送テーブル8は、複数のDNAチップ7aから7eを保持することができる。DNAチップ7aから7eのそれぞれには、ハイブリダイゼーション反応により蛍光標識を結合したDNAプローブアレイが形成されている。搬送テーブル8のDNAチップ搭載部には開口が設けられている。DNAチップ7aから7eは、DNAプローブアレイが形成された面が搬送テーブル8の開口部分に位置するように配置される。不図示の駆動手段により搬送テーブル8を移動することで、任意のDNAチップを蛍光撮像手段上に配置することができる。
【0018】
光照射手段は、レーザー光源1、レーザーシャッター2およびビームエクスパンダー3からなる。レーザー光源1から出射したレーザー光は、レーザーシャッター2を介してビームエクスパンダー3に入射する。ビームエクスパンダー3は、入射光束の径を拡大する。ビームエクスパンダー3から出射したレーザー光で、搬送テーブル8上のDNAチップを照射する。
【0019】
蛍光撮像手段は、蛍光フィルター4、レンズ群5および撮像素子6からなる。撮像素子6は、CMOSセンサーに代表されるイメージセンサーである。蛍光フィルター4は、蛍光を透過し、それ以外の光を遮断する。DNAプローブアレイからの蛍光は、蛍光フィルター4を通過し、レンズ群5を介して撮像素子6の受光面上に到達する。プローブアレイの各プローブの蛍光像は、レンズ群5により撮像素子6の受光面上に結像される。
【0020】
撮像素子6の受光面は、二次元に配列された複数の画素(受光素子)からなる。ドライバ回路9は、撮像素子6を駆動(水平駆動および垂直駆動)する。このドライバ回路9による駆動により、撮像素子6から、指定の画素に蓄積された電荷に対応する信号が読み出される。撮像素子6の出力信号(読み出し信号)は、AGC回路10に供給されている。
【0021】
AGC回路10は、撮像素子6の出力信号の増幅度を調整するための公知の回路である。AGC回路10の駆動タイミングは、タイミングジェネレータ11からの信号により制御されている。AGC回路10の出力は、AD変換回路12にて画素毎のデジタルデータに変換された後、フレームメモリ14に格納される。さらに、AD変換回路12にてAD変換されたデジタルデータは、DSP回路13を介してビデオメモリ15に格納される。モニター16は、ビデオメモリ15に格納されたデジタルデータに基づく画像を表示する。
【0022】
AGC回路10、AD変換回路12およびビデオメモリ15は、CPUバス18に接続されている。CPUバス18には、さらにCPU19、メモリ20およびインターフェース21が接続されている。インターフェース21には、キーボード22およびマウス23が接続されている。
【0023】
次に、撮像素子6の構成について簡単に説明する。
【0024】
図2に、撮像素子6の一例であるCMOSエリアセンサーの構成図を示す。CMOSエリアセンサーは、フォトダイオード31およびMOSトランジスタ32からなる画素がマトリクス状に配置された2次元イメージセンサーである。垂直走査回路33によって、垂直方向のアドレスが指定され、水平走査回路34によって水平方向のアドレスが指定される。垂直走査回路33には、複数の制御線が接続されており、これら制御線と交差するように、複数の読み出し線が配されている。制御線と読み出し線の交差部に、フォトダイオード31およびMOSトランジスタ32が配置されている。MOSトランジスタ32のゲートは、制御線に接続されている。各読み出し線の一端はそれぞれ、CDS回路35およびスイッチ素子(トランジスタ)を介して、出力回路36の入力ラインに接続されている。水平走査回路34は、各スイッチ素子のオン・オフを制御する。
【0025】
各画素において、MOSトランジスタ32がオン状態とされると、フォトダイオード31の出力信号がMOSトランジスタ32によって増幅される。増幅された信号は、CDS回路35を介して出力回路36から出力される。CDS回路35は、入力信号に含まれている雑音を除去する。垂直走査回路33及び水平走査回路34により垂直および水平の任意のアドレスを指定することにより、その指定されたアドレスの画素におけるフォトダイオードの電荷を取り出すことができる。
【0026】
次に、図1に示したDNAアレイ撮像装置を用いた蛍光測定について説明する。この蛍光測定では、撮像素子6(CMOSエリアセンサー)を用いてDNAチップ6に形成されたプローブアレイの蛍光像を撮像する。
【0027】
蛍光標識を有する被検体DNAとのハイブリダイゼーション反応の処理工程を終了したDNAチップ7aから7eを搬送テーブル8上に配置する。そして、検査者が、キーボード22にて、検出するDNAチップの数を入力するとともに、蛍光検出処理を開始する旨の入力操作を行う。この入力操作に応じて、CPU19が、不図示の駆動手段を制御して搬送ステージ7を移動する。この移動制御により、DNAチップ7aから7eの一つが、レンズ群5を通じて行われる撮像位置に移動することになる。
【0028】
DNAチップが撮像位置に配置されると、続いて、CPU19による制御により、レーザーシャッター2が開き、撮像素子5における電荷蓄積が開始される。レーザー光源1は、安定した出力を得るための時間を考慮して予め点灯されている。
【0029】
レーザーシャッター2が開放されると、レーザー光がビームエクスパンダー3に入射する。レーザー光源1を発したレーザー光のビーム径φは、1mm程度である。ビームエクスパンダー3により、レーザー光のビーム径φは10mm程度に拡大される。ビームエクスパンダー3によりビーム径が拡大されたレーザー光がDNAチップに照射される。
【0030】
レーザー光の照射により、プローブアレイに結合した蛍光物質が励起される。例えば、蛍光物質としてCy3(登録商標)を使用した場合には、波長が532nmのレーザー光を蛍光励起光として使用することができる。
【0031】
被検体である各プローブに結合した蛍光物質は、励起されると、蛍光を発する。プローブアレイからの蛍光は、蛍光フィルター4およびレンズ群5を介して撮像素子6に到達する。蛍光フィルター4は、励起光を遮断し、蛍光のみを透過するフィルター特性を有する。したがって、プローブアレイの蛍光像が、レンズ群5によって撮像素子6の受光面上に結像される。
【0032】
図3は、DNAチップ上に形成されたプローブアレイの一例を示す模式図である。図3に示すように、DNAチップ7の基板面上には、異なる塩基配列を有する複数のDNAプローブがマトリクス状に描画されている。図3中、DNAプローブは、スポット7s(i,j)として示されている。ハイブリダイゼーション反応により、蛍光標識を施された被検体DNAがDNAプローブに結合する。この被検体DNAの結合力は、プローブの塩基配列と相補性の高いものほど強いため、プローブの蛍光輝度より塩基配列を解析することができる。
【0033】
DNAチップの基板面上には、プローブアレイの領域を特定するための、あらかじめ蛍光標識が結合されたマーカープローブが形成されている。このようなマーカープローブは、基板上面のシランカップリング剤の上にコートしたEMCSに蛍光色素ローダミンをスポットしチオル基を用いて結合させることにより形成することができる。
【0034】
図3において、マーカープローブは、スポット7s(1,1)、7s(1,8)として示されている。マーカープローブは、プローブアレイに対し精度良く配置することが可能であるため、プローブアレイの位置を示す基準指標としての役割を果たす。また、マーカープローブは、検体DNAの配列によらず比較的強い蛍光を発するので、蛍光の輝度レベルの差に基づいて、マーカープローブと他のプローブとを区別することができる。
【0035】
図4に、撮像素子6の受光面上に結像したプローブアレイの蛍光像を示す。受光面上に結像されるプローブアレイの蛍光像の位置は、DNAチップ毎に異なる。DNAチップ間の蛍光像の位置の違いは、以下のような誤差があるために生じる。
【0036】
DNAチップは、プローブを描画した基板を切断して製作する。このため、基板への描画時の基準位置と描画位置との描画誤差や、基板を切断する際の切断誤差が生じる。また、搬送テーブル8上へDNAチップを配置する際の配置誤差や搬送テーブル8の駆動誤差もある。これら誤差により、プローブアレイの蛍光像は、位置及び回転の誤差を伴って撮像素子6の受光面上に結像する。
【0037】
受光面上に結像される蛍光像の位置および傾きは、DNAチップ毎に異なる。このため、DNAチップ毎に、撮像素子6でプローブアレイの蛍光像を撮像中(電荷蓄積中)に、その蛍光像の位置及び回転の誤差を検知して最適な被写体画像読出し範囲を演算する。
【0038】
以下に、被写体画像読出し範囲の演算処理を、図4を参照して具体的に説明する。
【0039】
図4において、符号6a、6bは、受光面上に結像される、プローブアレイの蛍光像の領域より小さな第1の領域(非破壊読出し領域)であり、符号6cは、演算により求められた第2の領域(被写体画像読出し領域)を示す。
【0040】
非破壊読出し領域6a、6bは、撮像素子6の受光面上における、マーカープローブの理想的な蛍光像結像位置を基準にして、上述の各誤差分を考慮した領域に設定されている。メモリ20には、撮像素子6の受光面における非破壊読出し領域6a、6bの座標情報が格納されている。マーカープローブの理想的な蛍光像結像位置からのずれ量は、描画誤差、切断誤差、配置誤差および駆動誤差を含む。それぞれの誤差は0.1mm程度であると考えられるので、マーカープローブの理想的な蛍光像結像位置からのずれ量は、0.4mm程度とされる。したがって、非破壊読出し領域6a、6bは、凡そ1辺が0.4mmの正方形の領域とすることが望ましい。
【0041】
CMOSセンサーである撮像素子6は、図2に示したように、複数の画素がマトリックス状に配置された受光面を有している。図4において、領域6dは、受光面の一部である。このような受光面を有する撮像素子6では、アドレスを指定することにより任意の画素の電荷を読出すことができる。
【0042】
CPU19(演算部)は、まず、メモリ20に予め格納されている非破壊読出し領域6a、6bの座標情報にしたがって、非破壊読出し領域6a、6bの各画素の電荷を読み出す。座標情報は、受光面の2次元座標におけるアドレス情報である。この電荷の読み出しは非破壊読出しであるので、非破壊読出し領域6a、6bの各画素からの電荷の読出しが、蓄積中の電荷に影響を及ぼすことはない。
【0043】
CPU19は、非破壊読出し領域6a、6bの各画素から読み出した電荷の情報から得られる画像に基づいて、受光面全体の座標系における各マーカープローブの位置を算出する。また、CPU19は、算出した各マーカープローブの位置に基づいて、受光面上におけるプローブアレイ蛍光像の傾きを算出する。そして、CPU19は、取得した各マーカープローブの位置及びプローブアレイ蛍光像の傾き傾きに基づいて、被写体画像読出し領域6cを決定する。
【0044】
図5に、比較的強い蛍光を示すマーカープローブの蛍光像が結像された画素における電荷蓄積状態を示す。縦軸は電荷量を示し、横軸は経過時間を示す。時刻t0が、電荷の蓄積が開始された時刻である。画素に蓄積される電荷の量は、時間の経過とともに増加する。時刻tkで電荷量Qkに達し、時刻tmで電荷量Qmに達する。マーカープローブの蛍光像が結像された画素を含む非破壊読出し領域6a、6bについては、時刻tmより早い時刻tkで電荷量Qkを読出す。電荷量Qkは、時刻tmにおける電荷量Qmより小さいが、マーカープローブの位置を検知するのに十分な電荷量である。
【0045】
撮像中に、マーカープローブの位置から被写体画像読出し領域6cを求めた後、その被写体画像読出し領域6cから蛍光画像撮影データを取得する。以下に、その処理を具体的に説明する。
【0046】
図6は、受光面上に結像されたマーカープローブおよびプローブの各蛍光像の、受光面上における座標の考え方を説明するための図である。図6に示すように、受光面をXYの2次元座標系で表す。点Paは、2次元座標系(全体座標系)の原点座標であり、ここではPa=(0,0)とする。全体座標系において、原点Paから右方向へむかってXの値が増加し、原点Paから下方向に向かってYの値が増加する。
【0047】
点Pbは非破壊読出し領域6a(小画像)の原点座標であり、点Pcは非破壊読出し領域6b(小画像)の原点座標である。点Paを原点とする全体座標系において、点Pbの座標は(6ax0,6ay0)で与えられ、点Pcの座標は(6bx0,6by0)で与えられる。小画像6a、6bにおいて、マーカープローブ像を認識するための画像処理を行う場合は、原点Pb=(0,0)の座標系および原点Pc=(0,0)の座標系を用いる。なお、マーカープローブは、他のプローブよりも強い蛍光を発するため、非破壊読出し領域6a、6b中の最大輝度のプローブ像をマーカープローブ像として認識することができる。
【0048】
非破壊読出し領域6a、6bの各画素の電荷を蓄積時間tk(図5の時刻tkに対応する)で読み出す。こうして読み出した各画素の電荷に基づく画像について、非破壊読出し領域6a、6bのそれぞれにおける最大輝度スポットを求める。
【0049】
点Pbを原点とする座標系において、非破壊読出し領域6a中の最大輝度スポットの中心座標が(6ax,6ay)で与えられる場合、全体座標系におけるその中心座標は、(6ax,6ay)に原点Pbの座標値を加えた座標となる。すなわち、全体座標系における非破壊読出し領域6a中の最大輝度スポットの中心座標は(6ax0+6ax,6ay0+6ay)となる。
【0050】
これと同様に、Pcを原点とする座標系において、非破壊読出し領域6b中の最大輝度スポットの中心座標が(6bx,6by)で与えられる場合、全体座標系におけるその中心座標は、(6bx,6by)に原点Pbの座標値を加えた座標となる。すなわち、全体座標系における非破壊読出し領域6b中の最大輝度スポットの中心座標は(6bx0+6bx,6by0+6by)となる。
【0051】
マーカープローブは、プローブアレイの行方向に平行に配置されているので、全体座標系における非破壊読出し領域6a、6b中の各最大輝度スポットの中心座標に基づいて、プローブアレイの像の回転角度θを以下の式より求めることができる。
【0052】
θ=atan (((6by0+6by)-(6ay0+6ay))/((6bx0+6bx)-(6ax0+6ax)))
被写体画像読出し領域6cの中心座標Pdを(6c#center#x,6c#center#y)とし、非破壊読出し領域6a、6b中の各最大輝度スポットの中心位置の間の距離の2分の1をlpとする。マーカープローブとプローブアレイの位置関係は予め分かっているので、被写体画像読出し領域6cが正方形である場合、中心座標Pdは以下の式で与えられる。
【0053】
(6c#center#x,6c#center#y)=
((6ax0+6ax+6bx0+6bx)/2+lp×sinθ,(6ay0+6ay+6by0+6by)/2+lp×cosθ)
被写体画像読出し領域6cの4隅の座標をそれぞれ、6cA(6cax,6cay)、6cB(6cbx,6cby)、6cC(6ccx,6ccy)、6cD(6cdx,6cdy)とする。正方形の被写体画像読出し領域6cの対角線の半分の長さを6clとすると(図4参照)、被写体画像読出し領域6cの4隅の座標はそれぞれ以下の式で与えられる。
【0054】
(6cax,6cay)=(6c#center#x-6cl×cos(45°-θ),6c#center#y-6cl×sin(45°-θ))
(6cbx,6cby)=(6c#center#x+6cl×cos(45°-θ),6c#center#y-6cl×sin(45°-θ))
(6ccx,6ccy)=(6c#center#x-6cl×cos(45°-θ),6c#center#y+6cl×sin(45°-θ))
(6cdx,6cdy)=(6c#center#x+6cl×cos(45°-θ),6c#center#y+6cl×sin(45°-θ))
6cl=√2×lpであるとすると、最も外側に位置するプローブについては、スポットの中心から外側の部分が被写体画像読出し領域6cに含まれないことになる。このため、被写体画像読出し領域6cは、プローブの直径程度の余裕を持たせて設定する必要がある。具体的には、プローブスポットの直径をPSdとすると、6cl=√2×lp+PSdとなるように、被写体画像読出し領域6cを設定する。
【0055】
CPU19は、上述のようにしてマーカープローブの位置から被写体画像読出し領域6cを求め、その被写体画像読出し領域6cの各画素のアドレス情報をメモリ20に保存する。このCPU19による、被写体画像読出し領域6cを求める演算処理は、図5に示した時刻Tmまでに完了する。
【0056】
蓄積時間Tm経過後、CPU19は、メモリ20に保存した被写体画像読出し領域6cの各画素のアドレス情報を参照して、垂直走査回路33および水平走査回路34によるアドレス指定を制御する。垂直走査回路33および水平走査回路34により被写体画像読出し領域6cの各画素のアドレスが指定されることで、被写体画像読出し領域6cの各画素から電荷を読み出すことができる。CPU19は、被写体画像読出し領域6cの各画素から読み出した電荷に基づく画像データを、蛍光画像撮影データとしてフレームメモリ14に格納する。
【0057】
以上説明したCPU19による蛍光画像撮影データの取得手順の全体の流れを、図7に示す。
【0058】
図7に示すように、まず、撮像すべきDNAチップを撮像位置に移動させ(ステップS10)、シャッター2を開いて撮像素子6による撮像を開始する(ステップS11)。シャッター2を開くことで、撮像位置に配置したDNAチップにレーザーが照射される。このレーザー光の照射は、撮像終了まで継続して行われる。
【0059】
次に、CPU19は、撮像開始から蓄積時間Tkが経過したか否かを判定する(ステップS12)。経過時間は、不図示のタイマにより計時する。タイマによって計時された時間に基づいて蓄積時間Tkになったか否かを判定する。
【0060】
撮像開始から蓄積時間Tkが経過した時点で、CPU19は、非破壊読出し領域6a、6bの各画素の電荷を読み出す(ステップS13)。こうして読み出した各画素の電荷に基づく画像について、非破壊読出し領域6a、6bのそれぞれにおける最大輝度スポットの中心座標を求め、その求めた最大輝度スポットの中心座標からプローブアレイの蛍光像の回転角度を求める。そして、最大輝度スポットの中心座標とプローブアレイの蛍光像の回転角度に基づいて、被写体画像読出し領域6cを演算する(ステップS14)。この被写体画像読出し領域6cの演算は図5に示した時刻tmまでに終了する。
【0061】
続いて、CPU19は、撮像開始から蓄積時間Tmが経過したか否かを判定する(ステップS15)。撮像開始から蓄積時間Tmが経過した場合は、CPU19は、シャッター2を閉じて撮像を終了するとともに、ステップS14で算出した被写体画像読出し領域6cの各画素の電荷を読み出す(ステップS16)。こうして読み出した各画素の電荷に基づく画像データが、蛍光画像撮影データとしてフレームメモリ14に格納される。
【0062】
蛍光画像撮影データの格納後、CPU19は、全てのDNAチップについて検査が終了した否かを判定する(ステップS17)。この判定において、CPU19は、蛍光画像撮影データ格納済みのDNAチップの数を管理しており、その数が、検査開始時に検査者がキーボード22にて入力したDNAチップの数に達したか否かを判断する。蛍光画像撮影データ格納済みのDNAチップの数が入力数に達した場合は、CPU19は、全てのDNAチップについて検査が終了したと判断する。全てのDNAチップについての検査が終了していない場合は、ステップS10に戻り、次のDNAチップの検査を開始する。
【0063】
以上説明したDNAアレイ撮像装置によれば、撮像中に、受光面上におけるマーカープローブの位置に基づいてプローブアレイ領域を検出し、そのプローブアレイ領域のみから電荷を読出す。プローブアレイ領域の画素数は、撮像素子の全画素に比較して格段に少ないので、電荷読出し時間(電荷の転送時間を含む)を短縮することができる。
【0064】
また、撮像素子にて発生する熱量は、電荷読出し時間が長いほど多くなる。電荷読出し時間が短縮されることで、電荷の読出し時における熱の発生も抑制される。
【0065】
さらに、プローブアレイ領域から得られる画像データの量も小さいので、その分、フレームメモリ容量を削減することができる。
【0066】
さらに、電荷読出し時間の短縮により、蛍光検出の時間も短縮することができる。
【0067】
また、複数のDNAチップを連続して撮像する場合で、撮像素子の全画素から電荷を読み出して画像データを取得する場合は、電荷の読出し時に発生した熱が蓄積されることにより、撮像回数が増すにつれて撮像素子の温度が徐々に上昇する。撮像素子の温度が上昇すると、暗電流によるノイズが増大して蛍光検出の精度が低下する。本実施形態によれば、電荷の読出し時における熱の発生が抑制されるので、複数のDNAチップを連続して撮像する場合の撮像素子の温度上昇を抑制することができる。撮像素子の温度上昇の抑制により、ノイズの発生が抑制され、その結果、蛍光検出の精度を向上することができる。
【0068】
以下に、電荷読出し時間の削減について具体例を挙げて詳細に説明する。
【0069】
本実施形態のDNAアレイ撮像装置によれば、1つDNAチップに対して行われる撮像素子からの信号読出しは、非破壊読出し領域6a、6bの各画素からの電荷の読出しと、被写体画像読出し領域6cの各画素からの電荷の読出しの計2回行われる。
【0070】
非破壊読出し領域6a、6bは、凡そ1辺が0.4mmの正方形の領域である。これに対して、撮像素子6の受光面全体の大きさは、例えば36mm×24mm程度の大きさである。このように、非破壊読出し領域6a、6bの大きさは、撮像素子6の受光面全体の大きさに比べて十分に小さい。非破壊読出し領域6a、6bの画素数は撮像素子6の全画素数に比べて格段に少ないことから、非破壊読出し領域6a、6bからの電荷読出しを短時間で行うことができる。この電荷読出しに要する時間(信号読出し時間)は、撮像素子6の全画素からの電荷読出しに比べて非常に短い。
【0071】
被写体画像読出し領域6cは、基本的には、DNAチップ上のプローブアレイの大きさに対応する。プローブ間隔0.1mmで、8×8個のプローブを形成した場合、DNAチップ上におけるプローブアレイの領域は1辺が1mmの正方形の領域となる。撮像素子の受光面上には、プローブアレイの蛍光像が等倍または拡大されて結像される。等倍撮像の場合は、被写体画像読出し領域6cの大きさは、1辺が1mmの正方形の領域となる。拡大撮像の場合は、被写体画像読出し領域6cの大きさは、1辺が1mmの正方形の領域をその倍率に応じて大きくしたものとなる。例えば、3倍で拡大撮像した場合は、被写体画像読出し領域6cの大きさは、1辺が3mmの正方形の領域となる。このように、被写体画像読出し領域6cの大きさは、3倍で拡大撮像した場合でも、1辺が3mmの正方形の領域程度の大きさであることから、撮像素子6の受光面全体の大きさに比べて十分に小さい。被写体画像読出し領域6cの画素数は撮像素子6の全画素数に比べて格段に少ないことから、被写体画像読出し領域6cの電荷読出しを短時間で行うことができる。この電荷読出しに要する時間は、撮像素子6の全画素からの電荷読出しに比べて非常に短い。
【0072】
このように、非破壊読出し領域6a、6bおよび被写体画像読出し領域6cの電荷読出し時間は非常に短く、これら読出し時間を合計しても、その時間は、撮像素子の全画素からの電荷を読出す場合の時間に比べて格段に短い。
【0073】
なお、作業の効率化のために、通常は、1枚のDNAチップに複数のプローブアレイを形成する。この場合、受光面上には、各プローブアレイの蛍光像が結像されることとなり、それぞれの蛍光像について、非破壊読出し領域6a、6bおよび被写体画像読出し領域6cが算出される。非破壊読出し領域6a、6bおよび被写体画像読出し領域6cは、受光面の大きさに対して非常に小さいので、複数のプローブアレイの蛍光像が同時に結像された場合でも、上述したような読出し時間の短縮の効果を得ることができる。
【0074】
また、マーカープローブの配置は図3に示した配置に限定されない。少なくとも2つのマーカープローブが、プローブアレイの行または列もしくは双方の方向に平行に配置されていればよい。このような配置において、各マーカープローブとプローブアレイとの位置関係が分かっていれば、各マーカープローブの位置からプローブアレイ領域の位置および回転を算出することができ、その位置および回転から被写体画像読出し領域を算出することができる。
【0075】
(他の実施形態)
上述した実施形態のDNAアレイ撮像装置では、被写体画像読出し領域の各画素からの電荷の読出しは、電荷蓄積時間Tm経過時に1回だけ行うようになっているが、電荷蓄積中に、複数回行ってもよい。ここでは、電荷蓄積中に、被写体画像読出し領域の各画素からの電荷の読出しが複数回行われるように構成したDNAアレイ撮像装置について説明する。
【0076】
本他の実施形態のDNAアレイ撮像装置は、図1に示した構成と同じものであるが、CPU19による被写体画像読出し領域の各画素からの電荷の読出し制御の動作が上述した実施形態と異なる。
【0077】
図8に、CPU19による電荷の読出し動作を説明するためのタイミングチャートを示す。図8(A)はレーザーシャッター2の開閉タイミングをし、図8(B)は撮像素子6の電荷蓄積タイミングを示し、図8(C)は被写体画像読出し領域の各画素からの電荷の読出しのタイミングを示す。
【0078】
タイミングT0で、レーザーシャッター2を開き、撮像素子6にて電荷蓄積を開始する。タイミングT1で、非破壊読出し領域6a、6bの各画素の電荷を読み出して被写体画像読出し領域6cを算出し、その被写体画像読出し領域6cの各画素のアドレスをメモリ20に記憶する。タイミングT2で、メモリ20に記憶したアドレス情報を参照して、被写体画像読出し領域6cの各画素から電荷を読出す。さらに、タイミングT3とタイミングTm(図5に示した時刻tmに相当する)のそれぞれで、被写体画像読出し領域6cの各画素から電荷を読出す。レーザーシャッター2をタイミングTmで閉じることで、撮像素子6によるプローブの蛍光像の撮像を終了する。
【0079】
図9(A)に、タイミングT2で読出した電荷に基づく画像における最上列のプローブの輝度プロファイルを示す。横軸はプローブの番号、縦軸は蛍光の輝度レベルを示す。番号「1」のプローブと番号「8」のプローブはマーカープローブである。番号「2」〜「7」のプローブは、ハイブリダイゼーション反応により、蛍光標識を施された被検体DNAが結合されたDNAプローブである。タイミングT2で、マーカープローブの輝度レベルはかなり高い。番号「2」〜「7」のプローブの輝度レベルは、マーカープローブの輝度レベルに比べてかなり低い。
【0080】
図9(B)は、タイミングT3で読出した電荷に基づく画像における最上列のプローブの輝度プロファイルを示す。番号「1」〜「8」とプローブの対応関係は、図9(A)に示したものと同じである。タイミングT3では、番号「1」と番号「8」のマーカープローブの輝度レベルは飽和する。番号「2」〜「7」のプローブの輝度レベルは、図9(A)の状態より若干大きくなっている。
【0081】
図9(C)は、タイミングTmで読出した電荷に基づく画像における最上列のプローブの輝度プロファイルを示す。タイミングT3では、番号「1」と番号「8」のマーカープローブに加えて、番号「2」のプローブの輝度レベルが飽和する。番号「3」〜「7」のプローブの輝度レベルは、図9(B)の状態より若干大きくなっている。
【0082】
図9(C)の輝度プロファイルか分かるように、タイミングTmでは、番号「2」のプローブの輝度レベルが飽和する。このため、タイミングTmで撮像した画像データだけでは、番号「2」のプローブの蛍光解析を正確に行うことは困難である。
【0083】
非破壊読出しによれば、プローブアレイの蛍光像に関する画像データとして、図9(A)から図9(c)に示した輝度プロファイルを有する複数の画像データを取得することができる。本実施形態では、この非破壊読出しの利点を利用する。CPU19は、タイミングT2、T3、Tmで撮像した複数の画像データを用いて各プローブの輝度レベルを解析する。この解析では、番号「2」のプローブについて、タイミングT2、T3で取得した、輝度レベルが飽和する前の画像データを用いて、輝度レベルの変化の傾向を取得し、その傾向からタイミングTmでの輝度レベルを正確に算出する。このように、輝度レベルが飽和した場合でも、輝度レベルの変化の傾向から飽和後の輝度レベルを正確に算出することができる。これにより、蛍光検出における撮像素子のダイナミックレンジを実質的に拡大することが可能である。
【0084】
フレームメモリに格納する画像データとして、タイミングT2、T3、Tmで撮像した複数の画像データから、輝度レベルの変化の傾向から算出した輝度レベルを反映した、一枚の高階調画像データを作成してもよい。また、タイミングT2、T3、Tmで撮像した複数の画像データを蓄積時間の情報と共にフレームメモリに格納に格納してもよい。
【0085】
本他の実施形態の実施形態のDNAアレイ撮像装置においても、撮像中に、受光面上におけるマーカープローブの位置に基づいてプローブアレイ領域を検出し、そのプローブアレイ領域のみから電荷を読出す。プローブアレイ領域の画素数は、撮像素子の全画素に比較して格段に少ないので、電荷読出し時間(電荷の転送時間を含む)を短縮することができる。
【0086】
また、本他の実施形態では、撮像中に、プローブアレイ領域からの電荷の読出しが複数回行われるため、前述の実施形態に比べて電荷読出しに伴う熱の蓄積量は増大するが、電荷の読出し時間が短いので、その熱の蓄積量も少ない。したがって、撮像素子の温度上昇を抑え、ノイズの少ない画像を得ることができ、その結果、蛍光検出の精度を向上することができる。
【0087】
以上説明した各実施形態のDNAアレイ撮像装置は本発明の一例であり、その構成および動作は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【0088】
例えば、図1に示したDNAアレイ撮像装置では、プローブアレイの蛍光像は、蛍光フィルター4およびレンズ群5からなる光学系を介して撮像素子6の受光面上に結像されるが、そのような光学系を用いずに蛍光像を直接、受光面上に結像することもできる。
【0089】
図10に、光学系を用いずに蛍光像を受光面上に結像することが可能なDNAアレイ撮像装置を示す。図10を参照すると、DNAアレイ撮像装置は、光導波路構造の基板の一方の面にプローブアレイが形成されたDNAチップ84を用いる。
【0090】
レーザー光源81を発したレーザー光は、シャッター2を介してビームエクスパンダー83に入射する。ビームエクスパンダー83は、シリンドリカルレンズにより構成されるものであり、入射したレーザー光を1次元方向に拡大する。
【0091】
ビームエクスパンダー83により拡大された、ビーム形状がライン状のレーザー光は、DNAチップ84の端面に入射する。DNAチップ84の端面は、チップ基板面に対して斜めに切断した面ある。端面から入射したレーザー光は、屈折してチップ基板の下面に到達する。チップ基板の下面には、蛍光標識と結合したDNAプローブアレイが形成されている。レーザー光の下面への入射角は、臨界角よりも大きくなるように設定されている。このため、レーザー光はチップ基板の下面で全反射される。
【0092】
下面で全反射されたレーザー光は、チップ基板の上面(DNAプローブアレイが形成された面とは反対の面)に到達する。レーザー光の上面への入射角は、臨界角よりも大きくなるように設定されている。このため、レーザー光はチップ基板の上面でも全反射される。
【0093】
レーザー光は、チップ基板の上下面で全反射を繰り返してチップ基板内を伝播し、入射面とは反対の端面に達する。この端面へのレーザー光の入射角も、臨界角よりも大きくなるように設定されているため、この端面でも、レーザー光は全反射される。端面で全反射されたレーザー光は、上下面で全反射を繰り返しながら入射面側に向かって伝播する。
【0094】
このようにしてレーザー光がチップ基板内を伝播すると、チップ基板の下面において、エバネッセント場が発生し、染み出したエバネッセント光によりプローブアレイの蛍光物質が励起される。プローブアレイからの蛍光の一部は、撮像素子86の受光面に到達する。撮像素子86の受光面上にはカバーガラス85が設けられている。
【0095】
DNAチップ84より染み出た励起光(エバネッセント光)は大きく減衰することから、励起光が直接、撮像素子に到達することはない。このため、原理的には、蛍光フィルターを用いずに、プローブアレイの蛍光像を撮像素子で撮像することが可能である。
【0096】
なお、DNAチップ84の下面での散乱等によりノイズとなって現れる励起光の影響を防ぐためには、カバーガラス85の面に多層薄膜のコーティングを施し、励起光の波長のみカットすればよい。カバーガラス85は、薄ければ薄いほど撮像画質は向上する。カバーガラス85をファイバープレートで構成することで、さらに画質が向上する。
【0097】
図10に示した構成によれば、蛍光フィルターやレンズ群を用いずに、プローブアレイの蛍光像を直接、撮像素子で撮像することができるので、装置の小型化や簡略化を図ることができる。
【0098】
また、上述した各実施形態のDNAアレイ撮像装置において、マーカープローブの数、大きさおよび配置は、図3に示したものに限定されない。受光面上におけるプローブアレイ領域を検出することができるのであれば、マーカープローブはどこに配置されてもよく、その数や大きさも特に限定されない。
【0099】
図11は、1つのマーカープローブでプローブアレイ領域を検出する場合のプローブアレイの模式図である。図11に示すように、DNAチップ70上に、同じ塩基配列を有する複数のDNAプローブからなるプローブアレイ71が描画されている。プローブアレイ71の中心部に、マーカープローブ72が形成されている。プローブアレイ71およびマーカープローブ72は、図3に示したものと同様のものである。
【0100】
以下、図1に示したDNAアレイ撮像装置において、図11に示したプローブアレイ71の蛍光検出を行う場合の処理について説明する。
【0101】
図12に、撮像素子の受光面上に結像した、図11に示したマーカープローブおよびプローブアレイの蛍光像と、非破壊読出し領域および被写体画像読出し領域とを模式的に示す。
【0102】
非破壊読出し領域80は、撮像素子6の受光面上における、マーカープローブ72の理想的な蛍光像結像位置を基準にして、描画誤差、切断誤差、配置誤差および駆動誤差の各誤差分を考慮した領域に設定されている。被写体画像読出し領域81は、非破壊読出し領域80の画像データに基づいて算出されるマーカープローブ72の位置を基準として設定される読出し領域である。被写体画像読出し領域81の範囲は、描画誤差、切断誤差、配置誤差および駆動誤差の各誤差分を考慮して、マーカープローブ領域を含む範囲となるように予め設定されている。撮像素子6の受光面における非破壊読出し領域80の座標情報および被写体画像読出し領域81の範囲を示す座標情報は、メモリ20に格納されている。
【0103】
CPU19は、図7に示した手順で蛍光検出を行う。まず、撮像すべきDNAチップを撮像位置に移動させ、シャッター2を開いて撮像素子6による撮像を開始する。撮像開始から蓄積時間Tkが経過した時点で、非破壊読出し領域80の各画素の電荷を読み出す。こうして読み出した各画素の電荷に基づく画像について、非破壊読出し領域80における最大輝度スポットの中心座標を求める。
【0104】
次に、求めた最大輝度スポットの中心座標を基準にして被写体画像読出し領域81を設定する。撮像開始から蓄積時間Tmが経過した点で、シャッター2を閉じて撮像を終了するとともに、被写体画像読出し領域81の各画素の電荷を読み出す。こうして読み出した各画素の電荷に基づく画像データが、蛍光画像撮影データとしてフレームメモリ14に格納される。全てのDNAチップについて、同様の処理が行われる。
【0105】
以上の処理によれば、受光面上に結像される蛍光像の傾きを求める必要がないので、その分、処理工数が削減され、被写体画像読出し領域の設定処理に要する時間も短くなる。なお、プローブアレイ領域が同じ大きさである場合、被写体画像読出し領域81は、被写体画像読出し領域6cに比べて大きくなるが、その差は非常に小さいので、それが読出し時間の短縮に影響することはない。
【0106】
なお、マーカープローブ72の形成箇所はプローブアレイ領域の中央に限定されない。ただし、マーカープローブ72を中央部からずれた位置に形成した場合は、そのずれ量を考慮して被写体画像読出し領域84の範囲を大きくする必要がある。被写体画像読出し領域84の範囲が大きくなると、画素数が増加するため、読出し時間が長くなる。
【0107】
なお、プローブアレイ領域に形成されるマーカープローブの数が1つまたは2つの場合は、画素の欠陥や受光面上へのゴミの付着などにより、いずれかのマーカープローブの位置検出に失敗すると、被写体画像読出し領域の算出が困難になる。この問題を解決するには、プローブアレイ領域にマーカープローブを3つ以上設ければよい。マーカープローブを3つ以上設けた場合は、いずれかのマーカープローブの位置検出が困難になった場合でも、残りのマーカープローブの位置から被写体画像読出し領域を算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、臨床検査におけるDNA診断に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の蛍光検出装置の一実施形態であるDNAアレイ撮像装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す撮像素子の一例であるCMOSエリアセンサーの構成を示すブロック図である。
【図3】DNAチップ上に形成されたプローブアレイの一例を示す模式図である。
【図4】撮像素子の受光面上に結像したプローブアレイの蛍光像を示す模式図である。
【図5】マーカープローブの蛍光像が結像された画素における電荷蓄積状態を示す特性図である。
【図6】撮像素子の受光面上におけるマーカープローブおよびプローブの各蛍光像の座標の考え方を説明するための図である。
【図7】蛍光画像撮影データの取得手順を示すフローチャートである。
【図8】電荷の読出し動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】プローブの輝度プロファイルを説明するための図である。
【図10】光学系を用いずに蛍光像を受光面上に結像することが可能なDNAアレイ撮像装置を示すブロック図である。
【図11】1つのマーカープローブでプローブアレイ領域を検出する場合のプローブアレイの模式図である。
【図12】図11に示すマーカープローブおよびプローブアレイの蛍光像と非破壊読出し領域および被写体画像読出し領域とを示す模式図である。
【符号の説明】
【0110】
1 レーザー光源
2 レーザーシャッター
3 ビームエクステンダー
4 蛍光フィルター
5 レンズ
6 撮像素子
7 DNAチップ
8 搬送ステージ
9 ドライバ回路
10 AGC回路
11 タイミングジェネレータ
12 AD変換回路
13 DSP回路
14 フレームメモリ
15 ビデオメモリ
16 モニター
18 CPUバス
19 CPU
20 メモリ
21 インターフェース
22 キーボード
23 マウス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素からなる受光面を備え、被検体と該被検体の領域を特定するための基準指標が基板面上に形成されたチップの前記被検体を前記受光面により撮像する撮像素子と、
前記受光面の前記基準指標からの光が入射する部分を含む第1の領域の画素から信号を読出し、該信号に基づいて、前記受光面上における前記基準指標の位置を決定し、該基準指標の位置に基づいて、前記受光面の前記被検体からの光が入射する、前記第1の領域より大きな第2の領域を決定し、該第2の領域の画素から信号を読出す演算部と、を有する光検出装置。
【請求項2】
前記被検体は蛍光標識が施され、前記基準指標は前記蛍光標識に比べて輝度の高い蛍光標識が施されており、
前記演算部は、前記第1の領域の画素から読出した信号に基づいて最大輝度スポットを求め、該最大輝度スポットの中心座標を前記基準指標の位置とする、請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記被検体は、一定の方向に配置された複数のプローブからなり、
前記基準指標は、前記一定の方向に配置された少なくとも2つのマーカープローブからなり、
前記演算部は、前記複数のプローブおよびマーカープローブの位置関係が予め与えられており、前記受光面上における前記マーカープローブの位置に基づいて、前記受光面上における前記複数のプローブの領域の位置及び傾きを算出し、該位置及び傾きに基づいて前記第2の領域を算出する、請求項1または2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記基準指標は、前記被検体の領域の中央部に形成されており、
前記演算部は、前記受光面上における前記基準指標の位置を中心とする、予め設定された範囲の領域を前記第2の領域とする、請求項1または2に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記演算部は、撮像中に、前記第2の領域の画素からの信号の読出しを複数回実行する、請求項1から4のいずれか1項に記載の光検出装置。
【請求項6】
複数の画素からなる受光面を備えた撮像素子を用いて、被検体と該被検体の領域を特定するための基準指標が基板面上に形成されたチップの前記被検体を撮像する被検体撮像方法であって、
前記受光面の前記基準指標からの光が入射する部分を含む第1の領域の画素から信号を読出し、
該信号に基づいて、前記受光面上における前記基準指標の位置を決定し、
該基準指標の位置に基づいて、前記受光面の前記被検体からの光が入射する、前記第1の領域より大きな第2の領域を決定し、
該第2の領域の画素から信号を読出す、被検体撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−304327(P2008−304327A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151806(P2007−151806)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】