説明

光測定装置

【課題】標準の蛍光色素分子を用いずに偏光度を測定する光測定装置を提供する。
【解決手段】波長の異なる偏光を出射する第1及び第2の光源(1)と、この偏光を対象に導く導光光学系と、この偏光によって生ずる対象からの偏光を、偏光面が直交する2つの偏光成分に分離して、それぞれ第1及び第2の光検出器(2)に導く測定光学系と、両光検出器からの検出信号に基づいて試料の偏光度を測定する演算装置とを有し、演算装置は、対象を光を反射する部材とし、第1の光源からの偏光を照射して得られた両光検出器からの検出信号(I,I)及び第1の光源からの偏光の偏光面を90度回転した偏光を照射して得られた両光検出器からの検出信号(I,I)と、対象を試料を収容した容器とし、第2の光源からの偏光を照射して得られた両光検出器からの検出信号(Q,Q)とに基づいて試料の偏光度(P)を算出する光測定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の分子に蛍光物質を標識した生物学的な試料溶液中に偏光を照射し、蛍光物質から発せられた蛍光の偏光の強度を解析して、試料分子の反応や反応による状態変化を測定する光測定装置及び光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光を用いた測定技術の進歩に伴い、生体の細胞内外に極めて小さな光スポットを形成し、細胞内外の分子の挙動を動的に調べる方法が注目されている。例えば、蛍光物質を細胞内のターゲットとする生体分子に標識し、蛍光物質から発せられる蛍光の強度の時間的な変化を解析することにより、分子の溶液中での振舞いを高感度に捉えることができる。
【0003】
このような解析方法として、蛍光相関分光解析法(Fluorescence Correlation Spectroscopy : FCS)や蛍光強度分布解析法(Fluorescence Intensity Distribution Analysis : FIDA)等が良く用いられている。
【0004】
FCSでは、測定したい分子に蛍光物質を標識し、マイクロプレートなど試料容器内に収納する。そして試料容器の試料槽の中にレーザ光を微小な光スポットとして照射して、蛍光物質を励起する。このとき蛍光物質から発せられる蛍光の強度は時間と共にゆらぐ。これは、媒質中の蛍光分子がブラウン運動をしているためである。蛍光分子のブラウン運動の拡散速度は、分子の化学反応や結合反応などにより変化する。従って、蛍光分子の拡散速度は、標識した蛍光分子の見かけの大きさの変化や媒質の温度の変化に伴って変化する。
【0005】
そこでこの分子の溶液内での化学反応や結合反応などによるブラウン運動の速度の変化を、蛍光の光強度の時系列信号の統計的な変化として捉えて相関解析を行なうことで、分子や微粒子の並進拡散係数や、平均の分子数などを測定することができる。そして、測定結果として分子の化学反応や結合反応などを動的に捉えることができる。
【0006】
FIDAでは、FCSと同様に測定したい分子に蛍光物質を標識し、マイクロプレートなど試料容器の試料槽の中にレーザ光を微小な光スポットとして照射して、蛍光物質を励起する。そして、単位時間当たりに蛍光物質から発せられる蛍光の光強度を測定し、これの統計分布を解析する。単位時間に検出される蛍光の光子の数の統計分布を解析することによって、蛍光分子の明るさと濃度、即ち、対象とする分子の数と明るさについての情報を得ることができる。この明るさに関する情報を用いることにより、化学反応や結合反応などによる蛍光標識された分子の見かけの大きさの変化を高感度で検出することができる。
【0007】
さらに偏光を用いたFIDA-Polarization(Fluorescence Intensity Distribution Analysis-Polarization)では、例えば、所定の波長の偏光を用いて分子を励起し、発生する蛍光の偏光成分から偏光度を測定することで、回転ブラウン運動を行なう分子の数や分子の見かけの大きさの変化を調べることができる。
さらにFIDAでは、溶液中で光の照射領域を積極的に移動させて、試料中のできるだけ広い領域で測定を行ない、1回当たりの測定時間を短縮させることもできる。なお、FIDAは光強度の統計分布を求めるためにFCSに比べて光照射領域を大きめにとる必要がある。
FIDAについては、特許文献1、非特許文献1,2等に記述されている。
【特許文献1】米国特許第6,376,843号
【非特許文献1】Peet Kask, Kaupo Palo, Dirk Ullmann and Karsten Gall PNAS Nov23, 1999, vol.96, No24, p.13756-13761
【非特許文献2】Biophysical Journal Vol.79, (2000) p.2858-2866
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、蛍光強度の偏光特性である偏光度から、分子の大きさに関する情報を得ることができる1分子蛍光分析の手法であるFIDA−PO測定を行う場合、装置の偏光特性に関する補正因子(G−factor)をあらかじめ求めておく必要がある。これは、装置を構成する光路中の光学素子によって偏光成分が影響を受けるため、偏光度の算出に際しては装置毎にその影響を補正する必要があるためである。
【0009】
そこで、先ず、偏光度が既知である標準の蛍光色素分子を測定して、その装置の補正因子を算出する。次に、蛍光色素分子で標識された測定対象の分子の偏光測定を行い、先に求めた補正因子を用いて所望の偏光度を算出する。
【0010】
しかし、装置毎に標準の蛍光色素分子を用いて補正因子を測定するのは煩雑であり、かつ熟練を要する作業を必要とする。例えば、標準の蛍光色素分子は所定の濃度、所定のPHとなるように溶媒に溶解して調整しなければならない。また、標準の蛍光色素分子を保存するためには冷凍保存が必要であり、有効期限など品質を保証するための条件が確保されているか否かを常に管理しなければならない。
従って、標準の蛍光色素分子を用いることなく偏光度を測定することのできる技術が望まれるが、このような技術は未だ知られていない。
【0011】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、標準の蛍光色素分子を用いずに偏光度を測定することのできる光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための、本発明に係る光測定装置は、波長の異なる偏光を出射する第1及び第2の光源と、前記第1及び第2の光源からの偏光を対象に導いて集光させる導光光学系と、前記第1の光源からの偏光の偏光面を90度回転させる角度切替え装置と、前記対象として、試料を収容した容器と、光を反射する部材とを選択的に配設する配設装置と、前記第1及び第2の光源からの偏光によって生ずる前記対象からの偏光を、偏光面が直交する2つの偏光成分に分離して、それぞれ第1及び第2の光検出器に導く測定光学系と、前記第1及び第2の光検出器からの検出信号に基づいて前記試料の偏光度を測定する演算装置とを有する光測定装置であって、前記演算装置は、前記対象を前記光を反射する部材とし、前記第1の光源からの偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(I,I)、及び前記第1の光源からの偏光の偏光面を90度回転した偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(I,I)と、前記対象を前記試料を収容した容器とし、前記第2の光源からの偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(Q,Q)とに基づいて前記試料の偏光度(P)を算出する。
【0013】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記試料は、蛍光色素によって標識され、前記第2の光源は、前記蛍光色素を励起する波長を有し、前記第1の光源からの偏光の波長は、励起された前記蛍光色素から発生する蛍光の最大強度を与える波長の近傍の値である。
【0014】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記蛍光色素がRhodamine 110のときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、535±25nmの範囲にあり、前記蛍光色素がFITCのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、535±20nmの範囲にあり、前記蛍光色素がGFPのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、505±20nmの範囲にあり、前記蛍光色素がTAMRAのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、590±30nmの範囲にあり、前記蛍光色素がAtto 633のときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、685±25nmの範囲にある。
【0015】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記角度切替え装置は、前記第1の光源をその光軸を中心軸として回転する機構を備える。
【0016】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記角度切替え装置は、前記第1の光源からの偏光ビームを平行光とするコリメータ部材を回転する機構を備える。
【0017】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記第1の光源が出射する偏光はランダム偏光であり、前記角度切替え装置は、偏光面を0度と90度とにする少なくとも2つの偏光素子を前記測定光学系の光路中に挿脱する機構を備える。
【0018】
また本発明に係る光測定装置は、上記記載の発明である光測定装置において、前記検出信号(I,I,I,I,Q,Q)から前記光測定装置の健全性を判断する判断装置を更に備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光測定装置によれば、標準の蛍光色素分子を用いずに偏光度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は光測定装置の基本的な構成図である。
本発明による光測定装置は、主な構成部として、光源部15、光量モニタ機構7、ビーム走査機構9、対物レンズ10、液浸水供給機構11、試料保持機構18、光検出部16及び信号処理部17を備えている。
以下、光測定装置の詳細の構成と動作について説明する。
光源部15には、レーザ光源1、シャッター23、ビーム径可変機構5、回転式NDフィルタ36、ビームシフタ102、ミラー100及びダイクロイックミラー3が設けられている。
【0021】
光源部15には少なくとも2種類のレーザ光源1(1a、1b)を載置することができる。本実施の形態では、励起用レーザ1a、および補助レーザ1bが設けられている。
励起用レーザ1aは、試料を励起して蛍光を発生させるための光源であり、補助レーザ1bは、偏光度の補正を行うために用いられる光源である。このレーザ1a、1bはいずれも偏光レーザである。即ち、このレーザ光源1a、1bから照射されるレーザ光の振動方向は一つの方向に固定されている。
そして、補助レーザ1bには、回転制御機構300が接続されている。この回転制御機構300によって、補助レーザ1bを、光軸を中心軸として回転することができる。
【0022】
なお、光源として用いるレーザはパルスレーザであっても良い。また、音響光学チューナブルフィルタ(AOTF)を搭載したマルチラインのレーザも載置可能である。マルチラインのレーザには、複数の波長のレーザ光が含まれているため、AOTFによって発振波長の切り替えを行なうように構成することで、載置するレーザの台数を減少することができる。
【0023】
各レーザ光源1の出射端近傍にはシャッター23がそれぞれ設置されており、シャッター23はそれぞれ電子制御により開閉される機構(図示せず)になっている。出射されたレーザ光はレンズを組み合わせたビーム径可変機構5でビーム直径を拡大され、平行光にされる。ビーム径可変機構5を構成するレンズの組み合わせを変えることで、焦点距離を変えて射出ビーム直径を調整することができる。
【0024】
それぞれ平行光とされたレーザ光は各々の光路に用意された回転式ND(Neutral Density)フィルタ36、ビームシフタ102を通過した後、ミラー100、ダイクロイックミラー3で選択的に反射、または透過される。2つのレーザ光源1からの光は同一の光路を進行する。2つの光路を同一の光路にまとめる操作は、ビームシフタ102を調整することで行われる。
【0025】
レーザビームは、ミラー4で方向を曲げられ、円板状のハーフミラー6に入射する。そして、レーザビームの一部はハーフミラー6で反射されて光量モニタ機構7に入る。光量モニタ機構7はレンズ51、ピンホール52を備え、レーザビームはこれらの光学素子を通って光検出器53の受光面に集光する。光検出器53は半導体光検出器を用いる。
【0026】
光検出器53の検知出力は、コンピュータ14に入力され、コンピュータ14は、この値に基づいて、あらかじめ設定した光源出力光強度になるように、レーザ駆動電源(図示しない)の駆動電流を制御する。あるいは回転式NDフィルタ36をコンピュータ14が制御(図示しない)することで、レーザ光源1からの光出力強度を調整することもできる。
【0027】
ハーフミラー6を通過したレーザビームは偏芯回転ミラー40に達する。このとき偏芯回転ミラー40は回転に伴って反射光の方向が中心軸の周りに回転運動するように傾いて調整されている。そのため、レーザビームは対物レンズ10の光軸に対して、ある傾き角を持って入射する。偏芯回転ミラー40をモータ41で回転させることで、対物レンズ10を通過した光ビームの集光スポットは試料内で略楕円状に走査される。
なお、集光スポットを走査させるのは、FIDA測定を行なう場合であり、FCS測定を行なう場合には集光スポットは固定される。
【0028】
即ち、FIDA測定を行なう場合は、モータ41を回転させ、それに伴って偏芯回転ミラー40が回転運動を行ない、光軸を通った光は対物レンズを通って溶液内のフォーカス位置で略楕円を描きながら試料を照射する。
【0029】
FCS測定を行なう場合は、コンピュータ制御によりモータ41を停止し、偏芯回転ミラー40を適切な位置で固定する。このとき、偏芯回転ミラー40のミラー面の向きは光軸を通った光が対物レンズを光軸に沿って通過する向きに設定されるようにあらかじめモータ41の停止位置がプログラムされている。
また、FCS測定の場合に、偏芯回転ミラー40とは別の、光軸に対して偏芯していないミラー90に切り替えるようにしても良い。
【0030】
レーザ光は続いて切り替え式ダイクロイックミラー101で反射され、対物レンズ10に入射する。対物レンズ10として、例えば×40水浸対物レンズ(NA1.15)を用いる。対物レンズ10は補正環が無いドライタイプを用いても良いし、あるいは液浸タイプで補正環を具備しているものを用いてもよい。
【0031】
この切り替え式ダイクロイックミラー101は円板状のガラス板の表面に多層膜コーティングを施して、透過、反射のスペクトル特性が最適になるように製作されている。切り替え式ダイクロイックミラー101としては円板状に限らず、プリズムタイプのものを用いても良い。また切り替え式ダイクロイックミラー101は裏面反射によるノイズ光が信号光に混入するのを防ぐため、基板となるガラスの厚さを最適に調整してあるものを用いる。
【0032】
この切り替え式ダイクロイックミラー101は光源としてのレーザ光と試料から発せられた蛍光信号を分離する役割がある。測定に用いる波長を変更するときは、透過、反射特性の異なる複数個のダイクロイックミラー101の内から最適なものを選択して切り替えて用いる。
【0033】
試料ステージ19にはX軸、Y軸方向に沿ってステッピングモータ(図示しない)が取り付けられており、マイクロプレート20を精密に水平方向(X−Y軸方向)に移動させることができる。そして試料ステージ19をXY平面内で作動させて、マイクロプレート20を移動調整しながら、順次測定を繰り返し行なう。
また、試料ステージ19に替えて、反射ミラー99を対物レンズ10上に移動させることもできる。この反射ミラー99は、偏光度を補正するために使用されるもので、その動作については後で詳しく説明する。
【0034】
対物レンズ10の周囲には対物レンズZ軸保持機構43が具備されており、コンピュータの指令により、対物レンズZ軸保持機構43を光軸方向(Z軸方向)に移動させる。すなわち、ウエル22内でのレーザ光のフォーカス位置を光軸方向に沿って上下動させることができる。
【0035】
レーザ光は対物レンズ10を通って集光されたあと、試料を収容したマイクロプレート20のウェル22内で極めて微小な光スポットを形成する。レーザ光の集光位置は水平方向(X−Y軸方向)についてはウエルの中央部分、垂直方向(Z軸)については、試料内のほぼ中央部分となっている。このとき、ウェル22内で得られるレーザ光の共焦点領域の大きさは直径0.6μm程度、長さ2μm程度の略円筒状の光スポットとなる。
【0036】
試料に直接ラベルして用いる蛍光物質は、例えばTAMRAであり、TAMRAは波長543nmのヘリウム・ネオンレーザで励起する。
【0037】
対物レンズ10で集光されたレーザ光はウエル22内で試料内の蛍光分子を励起し、蛍光分子から蛍光が発せられる。この蛍光は波長が580nm付近に強度の最大値を有している。この蛍光は再び信号光として対物レンズ10に取り込まれ、続いて切り替え式ダイクロイックミラー101に到達する。信号光の波長は入射レーザ光の波長より長く、そのため切り替え式ダイクロイックミラー101を透過して、反射プリズム200で反射され、レンズ210でレンズ210の後方に配置されたピンホール220のピンホール面に集光される。対物レンズ10の焦点位置と共役な光軸上の位置にピンホール220が位置決めされるようにピンホールホルダー50が配置されている。
【0038】
ピンホール220の手前にバリア・フィルタ45が配置されている。バリア・フィルタ45は蛍光の発光スペクトルに合わせて、透過光のスペクトルが調整されるようになっている。すなわち、バンドパスフィルタとなっており、信号光となる蛍光の発光スペクトルの波長域の光のみが通過する。これにより、試料容器内で発生する散乱光やウェル22の壁などから反射して入射光路に戻ってくる入射光の一部などのノイズ光をカットすることができる。蛍光の波長とバックグラウンド光の波長が異なるためノイズ光を遮断できる。なお、バリアフィルタ45として、音響光学素子によるビームスプリッター(AOBS)を用いても良い。
【0039】
レンズ210の焦点面とピンホール220の開口面とが一致するように配置されている。このピンホール220には光位置検出器とピンホール駆動装置が取り付けられており(図示しない)、ピンホール220はピンホール駆動装置により、X−Y−Z軸方向に位置調整できるようになっている。従って、レンズ210の焦点面にピンホール220の開口面を一致させることができる。
【0040】
また、ピンホール220の位置はバリア・フィルタ45の切り替え、あるいは音響光学素子によるビームスプリッター(AOBS)の切り替えに対して、デフォルト位置に自動的に戻る機構を有している。このピンホール220により、ウェル内に形成された光の共焦点領域外からのバックグラウンド光が除去される。
【0041】
ピンホール220を通過した信号光はコリメートレンズ59により平行光とされてダイクロイックミラー/偏光ビームスプリッター38により、互いに垂直な2方向に分離される。ダイクロイックミラー/偏光ビームスプリッター38は、ダイクロイックミラーと偏光ビームスプリッターとを切り替える機構を備えている。この切り替え機構には、例えば、回転機構を用いても良い。2種類の蛍光物質を用いて相互相関測定を行なう場合は、ダイクロイックミラーが自動的に選択されるようになっており、異なる蛍光物質の発光のスペクトに合わせて、反射光、および透過光のスペクトルを規定する。偏光測定を行う場合は、偏光ビームスプリッターが自動的に選択されるようになっており、反射光、および透過光で異なる偏光成分を分離する。分離されたそれぞれの信号光はバンドパスフィルタ64でそれぞれの励起レーザ光の波長の光を選択的に遮断して、信号光のS/N比を向上させる。
【0042】
バンドパスフィルタ64を通過した信号光はレンズ12により集光されて、光検出器2の受光面に到達する。それぞれの光検出器2には光位置検出器と光検出器駆動装置が取り付けられており、光検出器2の受光面は光検出器駆動装置により、X−Y−Z軸方向に沿って位置調整できるようになっている。光検出器2は例えばアバランシェ・フォトダイオード(略称:APD)、あるいは光電子増倍管などの微弱光検出器を用いる。光位置検出器は半導体光位置検出器を用いる。
【0043】
光検出器2で受光される信号光は微弱光であり、フォトン・パルス信号となっている。光検出器2によって、このフォトン・パルス信号は電気信号(光電流パルス信号)に変換され、増幅されて信号処理装置8に送られる。信号処理装置8によって、この電気パルス信号は波形整形され、on−off電圧パルスとされて、コンピュータ14に導かれる。この電圧パルスはコンピュータ14のメモリ(図示しない)に記憶され、続いて所要の演算が行なわれる。
【0044】
次にコンピュータ14による制御動作について説明すると、コンピュータ14は測定に用いるレーザ光源1を選択し、電源を投入する。また、シャッター駆動電源(図示しない)に働きかけ、必要に応じて、シャッター23を開閉する。さらに光量モニタ機構7の光検出器53の出力をモニタして、レーザ光源1の出力光強度が所望のレベルになるように、モータ(不図示)の駆動電流を調整する。これによってモータに取り付けられている円盤状の回転式NDフィルタ36を必要な角度だけ回転させる。
【0045】
回転式NDフィルタ36は円周方向に沿って変化する透過率分布を備えているため、回転によってレーザ光の強度を変化させることができる。なお、回転式NDフィルタ36は円盤状ではなく、板の長手方向に沿って段階的に透過率が変化する板状のものを用いても良い。板状のNDフィルタを用いる場合はスライドして透過光強度を変化させる。位置を制御する方法として、一般的にはPID制御(Proportional:比例,Integral:積分,Differential:微分)を用いるが、その他の制御手法、例えば単純on/off制御により行なってもよい。
【0046】
次に、本光測定装置の偏光度測定動作について説明する。この動作は、コンピュータ14が自動的に装置を制御する。
【0047】
1.ユーザが光測定装置の起動をコンピュータ14に入力すると、コンピュータ14は、測定装置のメイン電源を投入する。
【0048】
2.ユーザが測定項目を設定すると、コンピュータ14は、予め定められたテーブルに従い、光測定装置内の各光学素子の組み合わせを選定する。ここでは、偏光測定が設定されたものとする。
【0049】
3.コンピュータ14は、回転制御機構300を制御して、偏光面が0度となるように補助レーザ1bを光軸を中心軸として回転する。そして、対物レンズ10の焦点位置に反射ミラー99を挿入する。
【0050】
4.次に、コンピュータ14は、補助レーザ1bの電源をONする。そして、対物レンズ10を通して反射ミラー99に補助レーザ1bからの偏光を照射する。
【0051】
5.反射ミラー99で反射された光は、対物レンズ10、ピンホール220を通過し、偏光ビームスプリッター38により異なる偏光成分(P偏光、S偏光)に分離され、それぞれの光検出器2でその強度が検出される。なおP偏光成分は、補助レーザ1bから照射される光の振動方向の成分であり、S偏光成分は、P偏光と直交する方向に振動する光の成分である。
2つの光検出器2をそれぞれチャンネル1及びチャンネル2と呼び、測定した偏光強度をそれぞれI及びIとする。
【0052】
補助レーザ1bから出射するレーザ光の振幅をAとし、検出器に届くまでに偏光面が角度θだけ回転すると仮定する。そして、チャンネル1の検出感度をaとし、チャンネル2の検出感度をbとする。
振幅Aの光がθ回転するので、その振幅のチャンネル1側の成分はAcosθとなり、光の強度としては、その2乗となる。チャンネル1の検出感度がaなので、チャンネル1で測定した偏光強度Iは、式(1)で表される。
【数1】

【0053】
同様に、その振幅のチャンネル2側の成分はAsinθとなり、チャンネル2の検出感度がbなので、チャンネル2で測定した偏光強度Iは、式(2)で表される。
【数2】

【0054】
6.コンピュータ14は、回転制御機構300を制御して、偏光面が90度となるように補助レーザ1bを光軸を中心軸として回転する。そして、同様に反射された偏光成分をチャンネル1及びチャンネル2で検出し、測定した偏光強度をそれぞれI’及びI’とすると式(3)及び式(4)が成立する。
【数3】

【0055】
ここで、式(1)と式(4)より、各チャンネルの検出効率の比が式(5)で求められる。
【数4】

【0056】
つぎに装置の消光比を求める。ここで消光比とは、P偏光成分とS偏光成分の比のことである。偏光測定では、一方の成分のみの偏光を用いることが精度の良い測定を行う上で望ましい。式(2)と式(4)より、装置の消光比に相当する量が式(6)で求められる。
【数5】

【0057】
7.コンピュータ14は、対物レンズ10の焦点位置に蛍光色素で標識された分子を収納したマイクロプレート20を挿入する。次に、コンピュータ14は、補助レーザ1bに代えて励起用レーザ1aの電源をONする。そして、対物レンズ10を通して試料に励起用レーザ1aからの偏光を照射し、チャンネル1及びチャンネル2でそれぞれ蛍光強度Q及びQを測定する。
【0058】
今、装置の光学系が理想的で、偏光面の回転がなく(θ=0)、さらにチャンネル1とチャンネル2との検出感度が同じである場合の蛍光強度をq及びqとする。
図2は、各偏光成分のなす角αを示している。図2に示すように、角αは励起用レーザ1aから出射する偏光に2方向の偏光成分が存在することによるものである。
この角αを用いると、公知の偏光度Pは、式(7)で表される。
【数6】

【0059】
これに対して、実際の測定では偏光面の回転が存在する。そのため、各偏光成分のなす角はα+θとなる。
図3は、各偏光成分のなす角α+θを示している。従って、各偏光成分は図3に示す振幅となる。これに各チャンネルの検出感度を考慮すると、蛍光強度Q及びQは、式(8)及び式(9)で表される。
【数7】

【0060】
式(8)、式(9)、式(5)より、式(10)を得る。
【数8】

【0061】
従って、αは式(11)で表される。
【数9】

【0062】
以上より偏光度Pは次の式で定義される。
【数10】

【0063】
従って、コンピュータ14は、励起用レーザ1aと補助レーザ1bとを用いて演算により偏光度を得ることができる。
【0064】
なお、上述の測定においては補助レーザ1bの波長は、実際に発生する蛍光のうち、強度の最大値を与える波長付近の値であることが望ましい。
図4は、蛍光色素ごとの励起用レーザの波長と吸収フィルタの特性(中心波長/幅)を記載している。ここで、吸収フィルタの特性(中心波長/幅)は発生する蛍光のうち強度の最大値を与える波長に対応している。
【0065】
この図4より、補助レーザ1bの望ましい波長を特定することができる。
例えば、蛍光色素としてRhodamine 110を使用する場合は、励起用レーザ1aはアルゴンレーザ(波長:488nm)を用いる。このとき補助レーザ1bは、波長が535±25nmの範囲にあることが望ましい。また、蛍光色素としてFITCを使用する場合は、励起用レーザ1aはアルゴンレーザ(波長:488nm)を用いる。このとき補助レーザ1bは、波長が535±20nmの範囲にあることが望ましい。更に、蛍光色素としてGFPを使用する場合は、励起用レーザ1aはアルゴンレーザ(波長:488nm)を用いる。このとき補助レーザ1bは、波長が505±20nmの範囲にあることが望ましい。
【0066】
蛍光色素としてTAMRAを使用する場合は、励起用レーザ1aはヘリウムネオンレーザ(波長:543nm)を用いる。このとき補助レーザ1bは、波長が590±30nmの範囲にあることが望ましい。蛍光色素としてAtto633を使用する場合は、励起用レーザ1aはヘリウムネオンレーザ(波長:633nm)を用いる。このとき補助レーザ1bは、波長が685±25nmの範囲にあることが望ましい。
【0067】
なお、上述の実施の形態では、回転制御機構300によって、偏光面が90度となるように補助レーザ1bを回転したが、ビーム径可変機構5を90度回転することで偏光面が90度となるようにしても良い。即ち、レーザビームを平行光にするコリメータの部材を90度回転できるようにする、あるいは偏光方向が90度異なる2つのコリメータを備え、切換えて使用できるようにしても良い。
【0068】
[第2の実施の形態]
図5は、第2の実施の形態の光測定装置を示す図である。第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付してその詳細の説明は省略する。
第2の実施の形態では、補助レーザ1bは、ランダム偏光のビームを発生する。また第1に実施の形態の回転制御機構300は設けられていないが、光路の途中に偏光素子ホルダー28と偏光素子ホルダー駆動部39とが新たに設けられている。
【0069】
レーザ光源1からのレーザビームは、ミラー4で方向を曲げられ、偏光素子ホルダー28に到達する。偏光素子ホルダー28はスライド式の板状構造となっており、通常2箇所の円形の偏光素子保持枠が設けられている。一方の保持枠に偏光面が0度となる円形の偏光素子が配置されており、もう一方には偏光面が90度となる円形の偏光素子が配置されている。そして、この偏光素子ホルダー28に取り付けられた偏光素子ホルダー駆動部39によって偏光素子ホルダー28をスライドさせることにより、必要に応じて偏光素子が光路上に設置されるようになっている。
【0070】
この偏光素子ホルダー駆動部39によるスライド調整は、ステッピングモータを用いた制御装置により行なわれる(図示せず)。光測定装置を用いて偏光測定を行なう場合は、偏光素子ホルダー28に偏光素子が設置され、光路上に偏光素子が載置される。偏光測定を行わない場合は光路上には偏光素子は存しない。なお、偏光素子ホルダー28は円板状であっても良い。あるいは円板の周囲に複数の偏光素子を載置し、偏光素子ホルダー28を回転させることで、偏光素子を切り替えて用いても良い。
【0071】
偏光素子ホルダー28に配置する偏光素子には、例えばシート状の偏光板を用いることができる。しかし偏光板に限ることなく、例えばグラントムソン・プリズム(Glan Thompson Prism)などの消光比の高い偏光素子を用いると、さらに精度の高い偏光測定を行なうことができる。
【0072】
なお、本実施の形態の光測定装置においては、偏光度の測定に留まらず、本光測定装置の健全性を検査することもできる。
例えば、式(5)に示す各チャンネルの検出効率の比と1との差が所定値以上のときは、光検出部16に不具合が生じていると判断することができる。また、式(6)に示す装置の消光比に相当する量が所定値よりも小さい場合、例えば、50/1よりも小さい場合は、装置の調整が不良と判断しても良い。
更に、不具合の発生、装置の調整不良を検出した場合、コンピュータ14が検出した内容に応じて、偏光特性に関する光学素子、偏光ビームスプリッタ、レーザなどを交換するなど、ハードの作製にフィードバックすることができる。
【0073】
以上説明した、各実施の形態によれば従来必要とされた装置の偏光特性に関する補正因子を導く必要がない。そのため、装置毎に標準の蛍光色素分子を用いて補正因子を測定する煩雑であり、かつ熟練を要する作業が不要となる。
【0074】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施の形態の光測定装置を示す図。
【図2】各偏光成分のなす角αを示す図。
【図3】各偏光成分のなす角α+θを示す図。
【図4】蛍光色素ごとの励起用レーザの波長と吸収フィルタの特性を示す図。
【図5】第2の実施の形態の光測定装置を示す図。
【符号の説明】
【0076】
1…レーザ光源、1a…励起用光源、1b…補助光源、2…光検出器、3…ダイクロイックミラー、7…光量モニタ機構、9…ビーム走査機構、11…液浸水供給機構、14…コンピュータ、15…光源部、16…光検出部、20…マイクロプレート、28…偏光素子ホルダー、36…回転式NDフィルタ、40…偏芯回転ミラー、41…モータ、45…バリアフィルタ、99…反射ミラー、102…ビームシフタ、300…回転制御機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる偏光を出射する第1及び第2の光源と、
前記第1及び第2の光源からの偏光を対象に導いて集光させる導光光学系と、
前記第1の光源からの偏光の偏光面を90度回転させる角度切替え装置と、
前記対象として、試料を収容した容器と、光を反射する部材とを選択的に配設する配設装置と、
前記第1及び第2の光源からの偏光によって生ずる前記対象からの偏光を、偏光面が直交する2つの偏光成分に分離して、それぞれ第1及び第2の光検出器に導く測定光学系と、
前記第1及び第2の光検出器からの検出信号に基づいて前記試料の偏光度を測定する演算装置とを有する光測定装置であって、
前記演算装置は、
前記対象を前記光を反射する部材とし、前記第1の光源からの偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(I,I)、及び前記第1の光源からの偏光の偏光面を90度回転した偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(I,I)と、
前記対象を前記試料を収容した容器とし、前記第2の光源からの偏光を照射して得られた前記第1及び第2の光検出器からの検出信号(Q,Q)とに基づいて前記試料の偏光度(P)を算出することを特徴とする光測定装置。
【請求項2】
前記試料は、蛍光色素によって標識され、
前記第2の光源は、前記蛍光色素を励起する波長を有し、
前記第1の光源からの偏光の波長は、励起された前記蛍光色素から発生する蛍光の最大強度を与える波長の近傍の値であること
を特徴とする請求項1に記載の光測定装置。
【請求項3】
前記蛍光色素がRhodamine 110のときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、535±25nmの範囲にあり、
前記蛍光色素がFITCのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、535±20nmの範囲にあり、
前記蛍光色素がGFPのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、505±20nmの範囲にあり、
前記蛍光色素がTAMRAのときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、590±30nmの範囲にあり、
前記蛍光色素がAtto 633のときは、前記第1の光源からの偏光の波長は、685±25nmの範囲にあること
を特徴とする請求項2に記載の光測定装置。
【請求項4】
前記角度切替え装置は、前記第1の光源をその光軸を中心軸として回転する機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の光測定装置。
【請求項5】
前記角度切替え装置は、前記第1の光源からの偏光ビームを平行光とするコリメータ部材を回転する機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の光測定装置。
【請求項6】
前記第1の光源が出射する偏光はランダム偏光であり、
前記角度切替え装置は、偏光面を0度と90度とにする少なくとも2つの偏光素子を前記測定光学系の光路中に挿脱する機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の光測定装置。
【請求項7】
前記検出信号(I,I,I,I,Q,Q)から前記光測定装置の健全性を判断する判断装置を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−145242(P2009−145242A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323894(P2007−323894)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】