説明

光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法

【課題】簡単な方法により藻類の藻体の赤色を確実に増大させることができ、その赤色化に寄与する赤色化素材を効率よく大量に生産することができ、これらの方法により有用な藻類や赤色化素材を得ることができる光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法を提供すること。
【解決手段】藻類に青色の単色光を照射することにより当該藻類の藻体内における藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材の含有量を増加させて当該藻類の藻体色を赤色化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法に係り、特に藻類を赤色化したり藻類内に赤色化素材を生産させたり、赤色化された藻類や赤色化素材を得るのに好適な光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、身近な藻類として存在する乾海苔においては、その細胞の中にはクロロフィル(緑色)、フィコエリスリン(赤色)、カロチノイド(黄色)、フィコシアニン(青色)等の色素蛋白が含有されており、これらの色素の含有比率に応じて海苔の色が決定されることが知られている。
【0003】
従来においては、このような性質を有する藻類に対する藻体の改質や色の調整等が種々行われていた。
【0004】
例えば、藍藻類に関する改質方法として、藻体に照射する光質(特に、光の色)を変えることによってクロロフィルa、総カロチノイド、フィコシアニンの含有量を変える方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、海苔が所属するアマノリ類の葉状体においては、葉状体が着生した網の上部に600nm以上の波長の赤色光を選択的に透過するフィルタを設け、この光の波長を多く葉状体に吸収させることによってフィコビリン系色素であるフィコエリスリンの含有量を減少させ、逆にフィコシアニンの含有量を増加させて、海苔製品の色調を赤色から黒色に改良する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、フィコビリン系色素(フィコエリスリン、フィコシアニン)を含有する紅藻綱等の藻類は吸収する光の波長によって葉状体の色調が変化することも報告されている(前記特許文献2中の従来技術説明箇所参照)。
【0007】
また、少なくとも380nmおよびそれ以下の波長の光の透過を50%以上阻止し、かつ、450nm以上の波長の光を40%以上透過する光質条件下において海苔を養殖する方法ならびに当該フィルム等の資材について提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、ピーク波長が約540nm以下の光(例えば、青色LED光)を光合成生物(例えば、藻類(紅藻、褐藻、緑藻、ケイ藻など))に照射することにより、カロチノイド系色素(例えば、アスタキサンチン)を増加させることが提案されている(特許文献4)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−315569号公報
【特許文献2】特開2003−092935号公報
【特許文献3】特公平01−054977号公報
【特許文献4】特開2004−147641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年においては、海苔(アマノリ類のスサビノリ、カイガラアマノリ等)、トサカノリ類、テングサ類等を海藻サラダ、刺身のつま、寒天等として提供するために赤色を増加させることが要望されている。
【0011】
また、藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材としてのフィコエリスリンには、藻類の赤色化に寄与するのみならず、次のような有用な用途や機能を備えているものであり、効率よく大量に生産することが要望されている。
【0012】
たとえば、フィコエリスリンは赤色を呈するので、食品添加物として「ノリ色素」の名称で厚生労働省のリストに掲載されており、着色料の用途として天然由来で安全性・安心性を満足し、飲食物の着色に好適に使用されたり、また、化粧品、特に口紅などへの着色料として利用されたり、その他の一般的な着色料として用いられている。更に、フィコエリスリンには医学的作用として、抗炎症作用等が報告されているので、医学的素材とて利用されることがある。更に、フィコエリスリンは、バイオ研究の分野において蛍光標識物質(細胞の蛍光発光等)として利用されている。また、フィコエリスリンをアワビの餌に添加すると、真珠層が赤色化し、ピンク色の真珠の作成が可能になることも報告されている。
【0013】
しかしながら、前記特許文献においては、本願における前記要望を満たすことができないものである。
【0014】
具体的には、特許文献1においては、藻類のクロロフィルa、フィコシアニン、カロチノイドの各光合成色素が吸収する波長の光を発光ダイオードから照射し、その藻類の光合成を促進させ増殖を促進させるもので、紅藻類が含まれている。しかしながら、同文献の実施例においては、藍藻類のスピルリナが記載されているのみであり、紅藻類の海苔(アマノリ類)や前記赤色化素材としての色素であるフィコエリスリンについては全く開示されていない。
【0015】
また、特許文献2においては、海苔養殖漁場の海域において、特定波長のフィルタを通した光をアマノリ類の葉状体に照射させてフィコエリスリン、フィコシアニン、クロロフィル、カロチノイドの色素の含有量比を制御して、全体の色調が見かけ上黒味の強い葉状体を生育させることが開示されているにとどまり、本願における前記要望を満足させることは全く開示されていない。
【0016】
また、特許文献3においては、アマノリ類の糸状体の培養において、「波長450nm以上の光を40%以上透過する方法と資材」について開示されているが、本願における前記要望を満足させることは全く開示されていない。
【0017】
また、特許文献4においては、LED光源を用いた光合成色素および有用産物の生産について記載されているが、本願における前記要望を満足させることは全く開示されていない。
【0018】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、簡単な方法により藻類の藻体の赤色を確実に増大させることができ、その赤色化に寄与する赤色化素材を効率よく大量に生産することができ、これらの方法により有用な藻類や赤色化素材を得ることができる光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述した目的を達成するため、請求項1に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、藻類に青色の単色光を照射することにより当該藻類の藻体内における藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材の含有量を増加させて当該藻類の藻体色を赤色化させることを特徴とする。
【0020】
このように本発明によれば、青色の単色光を藻類に照射することにより、当該藻類の藻体内における藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材の含有量を増加させることによって当該藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0021】
また、請求項2に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、前記藻類が、紅藻類、藍藻類、クリプト藻類からなることを特徴とする。
【0022】
このように紅藻類、藍藻類、クリプト藻類からなる藻類は、藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を含有しているので、藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0023】
また、請求項3に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、前記紅藻類が、アマノリ類、ムカデノリ類、フノリ類、オゴノリ類、テングサ類、ウミゾウメン類、スギノリ類、ミリン類、トサカノリ類、イギス類、フジマツモ類、トサカモドキ類、キリンサイ類、ツノマタ類、チノリモ類からなることを特徴とする。
【0024】
このようにアマノリ類、ムカデノリ類、フノリ類、オゴノリ類、テングサ類、ウミゾウメン類、スギノリ類、ミリン類、トサカノリ類、イギス類、フジマツモ類、トサカモドキ類、キリンサイ類、ツノマタ類、チノリモ類からなる紅藻類は、藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を含有しているので、藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0025】
請求項4に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、紅藻類においては胞子体または四分胞子体または配偶体、若しくは単細胞またはその群体、藍藻およびクリプト藻類においては単細胞またはその群体または糸状体、またはこれらを起源とする後継世代または細胞分裂した藻体に青色の単色光を照射することを特徴とする。
【0026】
このように紅藻類においては胞子体または四分胞子体または配偶体、若しくは単細胞またはその群体、藍藻およびクリプト藻類においては単細胞またはその群体または糸状体、またはこれらを起源とする後継世代または細胞分裂した藻体に青色の単色光を照射するので、藻類のすべての世代に亘って藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0027】
ここで、紅藻類の胞子体世代または配偶体世代またはこれらを起源とする後継世代とは、胞子体の生体(アマノリ類では糸状体)を初代とする場合、当該生体を株分けなどにより増殖させて得られる胞子体ならびに、当該生体を水温および光量および日長条件を変えて培養することで放出される胞子、それが発芽し成長した配偶体(アマノリ類では葉状体)、さらに、配偶体から得られる胞子とこの胞子が発芽し成長した胞子体のことを意味する。また、細胞分裂した藻体とは、「生体が生命活動の過程で分裂した藻体」および「ヒトがナイフ等で切りとって別けた(分割した)藻体」等が含まれる。さらに、組織培養やプロトプラスト化した細胞からの培養により生長した藻体も含まれる。
【0028】
請求項5に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、前記藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材はフィコエリスリンであることを特徴とする。
【0029】
このようにフィコエリスリンの含有量を増大させることにより、フィコエリスリンが藻類の藻体色の赤色化に寄与して、藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0030】
請求項6に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、青色発光ダイオードによって前記青色の単色光を照射することを特徴とする。
【0031】
このように青色発光ダイオードは青色の単色光を発光することができるので、藻類の藻体色をより確実に赤色化させることができる。更に、青色発光ダイオードはエネルギ効率良く発光することができるので、環境にやさしい方法となり、更に市場流通量が増えてきているので、安価となり実施が容易となる。
【0032】
請求項7に記載の本発明の光照射による藻類の赤色化方法は、前記青色発光ダイオードによって発光される青色光のピーク波長が450〜475nmであることを特徴とする。
【0033】
このようにピーク波長が450〜475nmである青色の単色光を青色発光ダイオードによって発光させると、藻類の藻体色を更に確実に赤色化させることができる。
【0034】
請求項8に記載の本発明の光照射による赤色化素材の産出法は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されている光照射による藻類の赤色化方法によって藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を藻体内に生成させることを特徴とする。
【0035】
このように請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されている光照射による藻類の赤色化方法によれば、藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を藻体内に生成させることができ、簡単な方法により確実に赤色化素材を藻体内に増加させることができ、更に当該赤色素材を利用目的に応じて公知の適宜な方法により取出すことにより利用することができる。
【0036】
請求項9に記載の本発明の光照射による藻類は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されている光照射による藻類の赤色化方法によって藻体が赤色化された藻類またはそれを起源とする後継世代の藻類であることを特徴とする藻類。
【0037】
このように本発明によれば、藻体が赤色化された藻類またはそれを起源とする後継世代の藻類を簡単な方法によって確実に得ることができる。
【0038】
請求項10に記載の本発明の光照射による赤色化素材は、請求項8に記載されている赤色化素材の産出法によって藻類の藻体内に生成されまたはその藻類を起源とする後継世代の藻類の藻体内に生成されたことを特徴とする。
【0039】
このように本発明によれば、藻体が赤色化された藻類またはそれを起源とする後継世代の藻類の藻体内に赤色化素材を確実にかつ大量に得ることができる。
【発明の効果】
【0040】
このように本発明の光照射による光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法は構成され、作用するものであるから、簡単な方法により藻類の藻体の赤色を確実に増大させることができ、その赤色化に寄与する赤色化素材を効率よく大量に生産することができ、これらの方法により有用な藻類や赤色化素材を得ることができる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図1より説明する。
【0042】
図1は本発明の光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法を実施するためのシステムである。
【0043】
本発明方法を実施するためには、暗室状となるとともに恒温状態に温度管理できる適宜な構成を備えている培養庫1内に適宜な蓋付き容器からなる藻類育成容器2を設置し、当該藻類育成容器2内に栄養塩類を添加した(人工)海水からなる培養液3を充填して水温を所定温度に維持するように制御し、当該培養液3内に紅藻類においては胞子体または四分胞子体または配偶体、若しくは単細胞またはその群体、藍藻およびクリプト藻類においては単細胞またはその群体または糸状体、またはこれらを起源とする後継世代または細胞分裂した藻体のいずれからなる藻類4を入れ、培養庫1内に設置した青色発光ダイオード5から青色の単色光を藻類4に照射して培養する。この青色発光ダイオード5としては、複数若しくは多数の青色発光ダイオード5を用いて光源若しくは照明装置として用いるようにしてもよい。青色の単色光の照射は、明期(例えば、12時間)、暗期(例えば、12時間)の明暗を繰り返したり、明期を連続させて照射するようにしてもよい。必要に応じて藻類育成容器2にエアレーションを施して培養することもある。また、大型の屋内水槽または屋外水槽または海中の生簀などに藻類4を入れ大量に培養する場合には、水中ハウジングで防水加工した青色単色光を水槽や生簀内に入れ、藻体に照射させても良い。このようにして青色の単色光の照射を受けた藻類4は、藻類4の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材であるフィコエリスリンが藻体内に生成されて含有量が増大する。これにより藻類4の藻体の赤色が増大して赤色化が進行されて極めて赤色の強い藻類4が得られる。これに伴って藻類4の藻体内に藻類4の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材であるフィコエリスリンが大量に生成されて含有量が増大させられることとなる。
【0044】
なお、図1は実験室レベルの実施形態を示しているが、本発明は、屋外・屋内水槽や海域においても同様に実施することができる。
【0045】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0046】
<実施例1>
本実施例1においては、図1における藻類4として紅藻類の胞子体を選択し、具体的にはアマノリ類に属するスサビノリの糸状体を用いて培養した。アマノリ類の糸状体は、太さ約2〜7μmの顕微鏡的な大きさであり、伸長して絡みあって集合すると球状(マリモ状)になり、フリー糸状体と呼ばれている。本実施例1においては、直径1〜2cmの球状(マリモ状)のフリー糸状体からなる赤褐色をした藻類4を、栄養塩を添加した培養液3(PES培地)が入った藻類育成容器2(例えば、ガラス製の三角フラスコ、腰高シャーレ、透明樹脂製の蓋付き容器、通気可能なガラス製または透明樹脂製の培養容器等)に入れ、温度を20℃の恒温で管理している培養庫1内に設置した。この藻類育成容器2内の藻類4に青色発光ダイオード5からピーク波長465nm付近にある青色の単色光を光量50μmol・m−2・秒−1で、明期12時間・暗期12時間で繰り返し照射して培養した。
【0047】
フリー糸状体からなる藻類4は、3〜5日目から藻体の色調が変化し、5〜7日目までには赤色を帯びていることが確認できた。その後、継続して培養すると藻類4の藻体の色調は赤みを増し、強い赤色を維持し続けた。
【0048】
<実施例2>
実施例1によって生成された赤みを呈するフリー糸状体からなる藻類4を、1/2から1/8程度に株分けしたもの、およびフリー糸状体からなる藻類4の一部を数十μmに細く切断したもの(実施例1で用いた胞子体を起源とする後継世代となる)を、実施例1と同じ条件で培養した。
【0049】
胞子体を起源とする後継世代である株分けされたもの並びに切断されたものは、藻体の色調が赤みを呈するフリー糸状体からなる藻類4へと成長した。
【0050】
(評価)
実施例1および実施例2によって生成されたフリー糸状体からなる藻類4を細断し、分光光度計を用いて吸収スペクトルを求め、そこからクロロフィルaに対するフィコエリスリンの含有量比(フィコエリスリン/クロロフィルa)を推定すると1.13±0.18と高い値を示した。このようにフィコエリスリンの含有量の増加がフリー糸状体からなる藻類4の赤みを呈することが示唆された。更に、赤色化素材となるフィコエリスリンが多量に生成されていることが判明した。
【0051】
(比較評価)
実施例1における培養期間を2ヶ月とし、実施例1における青色発光ダイオード5を従来の光源である白色蛍光灯に変更する他は同一条件として比較例を培養した。培養期間終了後における両者のクロロフィルaに対するフィコエリスリンの含有量比(フィコエリスリン/クロロフィルa)を前記と同様にして測定したところ、前述のように光源に青色発光ダイオード5を用いた本発明方法の場合は、1.13±0.18であったのに対し、光源に白色蛍光灯を用いた比較例の場合は、0.59±0.16であった。これより本発明方法によれば、光源に白色蛍光灯を用いた比較例の場合の約2倍のクロロフィルaに対するフィコエリスリンの含有量比(フィコエリスリン/クロロフィルa)を示し、きわめて強い赤色を呈していることがわかり、多量のフィコエリスリンが生成されていることがわかった。
【0052】
<実施例3>
本実施例3においては、図1における藻類4として紅藻類の配偶体を選択し、具体的にはアマノリ類に属するスサビノリの葉状体を用いて培養した。本実施例3においては、アマノリ類の葉状体(葉長2−4cm)からなる赤褐色をした藻類4を、栄養塩を添加した培養液3(PES培地)が入った藻類育成容器2に入れ、エアレーションを施しながら、温度を20℃の恒温で管理している培養庫1内に設置した。この藻類育成容器2内の藻類4に青色発光ダイオード5からピーク波長が465nm付近にある青色の単色光を光量50μmol・m−2・秒−1で、明期12時間・暗期12時間で繰り返し照射して培養した。
【0053】
葉状体からなる藻類4は、3〜5日目から藻体の色調が変化し、5〜7日目までには赤色を帯びていることが確認できた。その後、継続して培養すると藻類4の藻体の色調は赤みを増し、強い赤色を維持し続けた。
【0054】
<実施例4>
実施例3の条件のうち青色発行ダイオード5の照射条件を光量50μmol・m−2・秒−1から光量100μmol・m−2・秒−1と2倍の光量にした。
【0055】
本実施例4においては、葉状体からなる藻類4の藻体が4日目に赤色化した。これにより青色の単色光の光量が強いと、藻類の赤色化が早まることがわかった。
【0056】
<実施例5>
本実施例5は、実施例1および実施例3における青色発光ダイオード5に代えて赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、白色発光ダイオードを用いるとともにその他の条件は実施例1と同様にして培養した。
【0057】
アマノリ類のフリー糸状体若しくは葉状体からなる藻類4は、3〜5日目から藻体の色調が変化し、5〜7日目までには、赤色発光ダイオードの場合がやや青から緑色に変色し、緑色発光ダイオードの場合がやや青色に変色し、白色発光ダイオードの場合が白蛍光灯照射よりも若干赤色に変色した。
【0058】
実施例1および本実施例5によれば、青色発光ダイオード、赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、白色発光ダイオードからなる4色それぞれ単色光を藻類4、特に、アマノリ類のフリー糸状体若しくは葉状体に照射することにより、異なった色の藻類4、特に、アマノリ類のフリー糸状体若しくは葉状体を産出することができた。
【0059】
これにより、少なくとも1色(1色あるいは複数色)の発光ダイオードによる光を、1色若しくは複数色を組合わせて紅藻類の海苔糸状体(海苔のフリー糸状体を含む)若しくは葉状体に照射することにより、当該海苔糸状体若しくは葉状体の色調を任意に可変する方法、当該方法で得られる色調コントロールされた海苔糸状体若しくは葉状体、ならびに、当該海苔糸状体若しくは葉状体より産出できる色素(各海苔糸状体の色調と同色の色素)を得ることができることがわかった。これらの各色を単独若しくは複数を組合わせることにより、後述する総合評価における各用途にそれぞれバリエーションを付加するようにして適用することができる。
【0060】
<総合評価>
本発明の前記の実施形態並びに実施例により次のことがわかった。
【0061】
本発明においては、藻類に青色の単色光を照射することにより当該藻類の藻体内における藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材の含有量を増加させることにより当該藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0062】
また、藻類としては、藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を含有している紅藻類、藍藻類、クリプト藻類を用いると、藻類の藻体色を赤色化させることができる可能性が示唆された。
【0063】
また、紅藻類としては、藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を含有しているアマノリ類、ムカデノリ類、フノリ類、オゴノリ類、テングサ類、ウミゾウメン類、スギノリ類、ミリン類、トサカノリ類、イギス類、フジマツモ類、トサカモドキ類、キリンサイ類、ツノマタ類、チノリモ類を用いると、藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0064】
また、藻類に対して、具体的には、紅藻類においては胞子体または四分胞子体または配偶体、若しくは単細胞またはその群体、藍藻およびクリプト藻類においては単細胞またはその群体または糸状体、またはこれらを起源とする後継世代または細胞分裂した藻体に青色の単色光を照射することにより、藻類のすべての世代に亘って藻体色を確実に赤色化させることができる。藻類においては、海苔(アマノリ類)に代表されるように、胞子体世代においては顕微鏡的大きさの糸状体状または球状をなすフリー糸状体またはカキ殻などの貝殻に穿孔侵入した糸状体(カキ殻糸状体あるいは貝殻糸状体など呼ばれる)であり、配偶体世代においては肉眼視できる大きさの葉状体状にあるものと、トサカノリに代表されるように、胞子体世代および配偶体世代がともに肉眼視できる大きさの葉状体状であるものがある。
【0065】
また、藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材としてのフィコエリスリンの含有量を増大させることにより、フィコエリスリンが藻類の藻体色の赤色化に寄与して、藻類の藻体色を確実に赤色化させることができる。
【0066】
また、青色発光ダイオード(好ましくは、発光される青色光のピーク波長が450〜475nmである)によって青色の単色光を照射することにより藻類の藻体色をより確実に赤色化させることができる。従来の天然光の一部を利用して藻類を赤くする場合より、短時間で効率よくフィコエリスリンの含有量を増大させて、藻類の赤色化を図ることができる。更に、青色発光ダイオードを用いることにより省電力化を図ることができ、発熱がほとんどないので、培養庫1内の温度管理が容易となり温度安定・安全性の面において有意なものとなる。なお、青色の単色光は、有機/無機ELによって照射させても良い。
【0067】
また、藻体が赤色化された藻類またはそれを起源とする後継世代の藻類の藻体内に赤色化素材、特にフィコエリスリンを確実にかつ大量に得ることができる。
【0068】
このようにして葉体の色を赤色にされた藻類は、前述した海苔(アマノリ類のスサビノリ、カイガラアマノリ等)、トサカノリ類、テングサ類等を海藻サラダ、刺身のつま、寒天等として提供するために赤色を増加させるという要望を満たすこととなり、新しい食材、食品として利用できるものである。また、アマノリ類では赤色のフリー糸状体の食用化も図ることができる。また、藻類の赤色のフリー糸状体の食用化も図ることができる。しかも、生産も簡単でありコストも低廉に抑えることができる。また、フィコエリスリンの含有量が高い藻類を増産することができ、赤色化素材の生産効率向上に寄与することができる。
【0069】
そのフィコエリスリンは赤色を呈するので、前述した着色料(赤色色素)として用いることができ、また、抗炎症作用等の医学的作用を発揮する医学的素材とて利用することができ、蛍光標識物質(細胞の蛍光発光等)として利用することができ、ピンク色の真珠の作成にも利用することができる。
【0070】
また、これらの藻類、特に、アマノリ類においては糸状体や糸状体を球状に成長させたマリモ状の紅藻類の胞子体(フリー糸状体)や当該胞子体から株分けして得られる胞子体は、飼育・観察することができるので、いやし目的等のために鑑賞用生物品としたり、教材用生物品として利用することができる。例えば、藻類を観賞用の水槽に入れて飼育するようにするとよい。
【0071】
なお、本発明は、前述した実施の形態並びに実施例に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の光照射による藻類の赤色化方法および赤色化素材の産出法に用いる装置の1実施形態を示す構成図
【符号の説明】
【0073】
1 培養庫
2 藻類育成容器
3 培養液
4 藻類
5 青色発光ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類に青色の単色光を照射することにより当該藻類の藻体内における藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材の含有量を増加させて当該藻類の藻体色を赤色化させることを特徴とする光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項2】
前記藻類は、紅藻類、藍藻類、クリプト藻類からなることを特徴とする請求項1に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項3】
前記紅藻類は、アマノリ類、ムカデノリ類、フノリ類、オゴノリ類、テングサ類、ウミゾウメン類、スギノリ類、ミリン類、トサカノリ類、イギス類、フジマツモ類、トサカモドキ類、キリンサイ類、ツノマタ類、チノリモ類からなることを特徴とする請求項2に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項4】
紅藻類においては胞子体または四分胞子体または配偶体、若しくは単細胞またはその群体、藍藻およびクリプト藻類においては単細胞またはその群体または糸状体、またはこれらを起源とする後継世代または細胞分裂した藻体に青色の単色光を照射することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項5】
前記藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材はフィコエリスリンであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項6】
青色発光ダイオードによって前記青色の単色光を照射することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項7】
前記青色発光ダイオードによって発光される青色光のピーク波長が450〜475nmであることを特徴とする請求項6に記載の光照射による藻類の赤色化方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されている光照射による藻類の赤色化方法によって藻類の藻体色の赤色化に寄与する赤色化素材を藻体内に生成させることを特徴とする赤色化素材の産出法。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載されている光照射による藻類の赤色化方法によって藻体が赤色化された藻類またはそれを起源とする後継世代の藻類であることを特徴とする藻類。
【請求項10】
請求項8に記載されている赤色化素材の産出法によって藻類の藻体内に生成されまたはその藻類を起源とする後継世代の藻類の藻体内に生成されたことを特徴とする赤色化素材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−72140(P2009−72140A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245362(P2007−245362)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(503114002)独立行政法人水産大学校 (10)
【Fターム(参考)】