説明

光照射チップ及び光導波繊維体

【課題】 延在方向に略均一な光強度で光を側方に出力可能であると共に、生体への負荷の低減された光照射チップ及び光導波繊維体を提供する。
【解決手段】光照射チップ5は、光ファイバ3の出射端3bに取り付けられ出射端3bから出射される光を散乱させるものであり、出射端3bに接続される一端5aから他端5bに向けて一方向に延在しており、一端5aから他端5bに向けて光散乱係数が変化している。この場合、出射端3bから出射された光は光照射チップ5内において、一端5aから順に散乱されるので、他端5bに向けて光の強度は変化する傾向にあるが、上記のように、一端5aから他端5bに向けて光散乱係数が変化しているので、延在方向において均一に光を出力することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用として使用される光照射チップ及び光導波繊維体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガン治療等の医療の分野において、光線力学的療法(PDT : Photodynamic Therapy)が注目されている。このPDTをガン治療を例にして説明する。PDTでは、先ず、ガン親和感受性薬品(PS:フォトセンシタイザ)を人体(生体)に投与する。PSはガン細胞に親和性を有するので、ガン組織に選択的に取り込まれる。次に、PSを励起可能な波長の光をガン組織に照射する。これにより、ガン組織に取り込まれたPSが光励起され、励起されたPSが緩和する際に活性酸素又は活性ラジカル種といった活性種を発生させる。この活性種がガン組織を攻撃し、ガン組織を壊死させる。PSは、ガン組織に取り込まれたもの以外は、ほぼ体外に放出されるので、薬剤投与による副作用が起こらない。
【0003】
PDTでは、ガン組織などの病巣全体に光を照射させるために、例えば、特許文献1に記載の光ファイバや、特許文献2に記載の光線治療装置が利用されている。
【0004】
特許文献1に記載の光ファイバでは、先端部においてコア部がテーパ状になっており先細りしている。そして、そのテーパ状のコア部の周囲のクラッド部に散乱体が分散されている。この光ファイバでは、テーパ状に加工されたコア部からクラッド部に漏れた光が散乱体で散乱されることによって、クラッド部の外周面から光が出力される。よって、光ファイバの先端部を病巣近傍に配置した後、光ファイバ内に光を入射させることで、病巣へ光を照射できることになる。
【0005】
また、特許文献2に記載の光線治療装置では、光ファイバの先端部に、散乱体(アルミナ、シリカ、チタン化合物)を内部に有するチップ(光照射チップ)が取り付けられている。光線治療装置では、光ファイバの長手方向に沿ってチップの外周面から確実に光が出力されるように、チップの光ファイバ側と反対側の端部に反射板が設けられている。
【0006】
この構成では、光ファイバからチップに入射した光は、長手方向に伝播しながら散乱体で散乱されてチップの外周面から出力される。散乱体で散乱されなかった光は、反射板で反射された後、光ファイバ側に向かいながら散乱体で散乱され、チップの外周面から出力される。
【特許文献1】特開平8−164215号公報
【特許文献2】特表平10−504989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、PDTでは病巣全体に均等に且つ確実に光を照射することが望まれている。特許文献1に記載の光ファイバでは、コア部をテーパ状にすることでクラッド部に漏れる光の量を多くしているが、依然としてコア部内を伝播する光の量が多く、かつテーパは形状制御が難しく散乱光強度の均一化が困難であるので、先端部から多くの光が照射され、病巣全体に均等且つ確実に光を照射することが難しい。
【0008】
これに対して、特許文献2に記載の光線治療装置では、チップの先端部に反射板を設けているため、反射板に向かう往復路で散乱体によって光が散乱される結果、長手方向に沿ってチップから均一強度の光がより確実に出力される傾向にある。
【0009】
しかしながら、通常、反射板に入射した光の多くは反射されるが、入射した光の一部は反射板に吸収される。そのため、光ファイバからチップ内に入射する光の強度が高くなると、特許文献2に記載の装置では、チップ部分が熱を帯びる場合がある。その結果、チップ部分が焼き切れたり、チップと光ファイバとの接続部で折れたりして、チップが光ファイバからとれることがある。この場合、チップや光ファイバの一部が体内に残り、生体に負荷をかけることになる。
【0010】
そこで、本発明は、延在方向に略均一な光強度で光を側方に出力可能であると共に、生体への負荷の低減された光照射チップ及び光導波繊維体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光照射チップは、光ファイバの出射端に取り付けられ出射端から出射される光を散乱させる光照射チップであって、出射端に接続される一端から他端に向けて一方向に延在しており、前記一端から前記他端に向けて光散乱係数が変化していることを特徴とする。
【0012】
この光照射チップでは、光ファイバの出射端から出射された光は一端から順に散乱される。そのため、他端に向けて光照射チップ内を通る光の強度は変化するが、上記のように、一端から他端に向けて光散乱係数が変化しているので、他端側でより多くの光が散乱される。その結果、側方に出力される光の強度の延在方向の均一化が図れることになる。
【0013】
そして、このように光散乱係数を変化させることによって、出力される光強度の均一化を図っているので、例えば、ミラーなどの反射手段を要しない。その結果、光照射チップが熱を帯びて焼き切れたりして光照射チップが光ファイバからとれたりすることが抑制されている。そのため、医療用に利用した場合であっても、光照射チップが生体内に残留することが生じにくく、生体に負荷の小さいものとなっている。従って、医療用に好適に使用できる。
【0014】
また、本発明に係る光照射チップは、光ファイバチップの一端から他端に向けて光散乱係数が増大していることが好ましい。
【0015】
上記のように、一端から他端に向けて光散乱係数が増加しているので、他端側でより多くの光が散乱される。その結果、他端に向けて光照射チップ内を通る光の強度が低下するように変化していても、側方に出力される光の強度の延在方向の均一化が図れることになる。
【0016】
また、本発明に係る光照射チップでは、主成分とは異なる成分からなる複数の散乱体が、光散乱係数が増大するように一端から他端に向けて分散されていることが好ましい。
【0017】
光照射チップ内では、光照射チップの主成分とは異なる成分を有する散乱体が分散されているので、光照射チップに入射された光が確実に散乱される。そして、散乱体が上記のように一端から他端に向けて分散されていることで、光散乱係数が一端から他端に向けて増大する。そのため、光照射チップの長手方向の光強度の均一化を図れる。
【0018】
更に、本発明に係る光照射チップの主成分が脂肪族ポリエステルであることが好適である。この構成では、光照射チップを医療用として使用した場合に、仮に光照射チップが生体内に残ったとしても、主成分が脂肪族ポリエステルであることから、光照射チップの多くは生体に分解され吸収される。よって、生体への負荷が低減されている。
【0019】
更にまた、主成分が脂肪族ポリエステルである場合、本発明に係る光照射チップでは、その主成分としての脂肪族ポリエステルはアモルファスであり、散乱体は、結晶化した脂肪族ポリエステルであることが好ましい。この場合、散乱体も脂肪族ポリエステルであるため、更に生体への負荷が低減されることになる。
【0020】
本発明に係る光導波繊維体は、入射端から入射される光を伝播させて出射端から出射する光ファイバと、本発明に係る上記光照射チップと、を備え、光照射チップが有する一端は、光ファイバの出射端に接続されることを特徴とする。
【0021】
この光導波繊維体では、光ファイバの出射端から出射された光は光照射チップに一端から入射され、光照射チップ内を他端に向かって伝播しながら順に散乱される。そのため、他端に向けて光照射チップ内を通る光の強度は変化する傾向にあるが、前述したように、本発明に係る光照射チップでは、一端から他端に向けて光散乱係数が変化しており、延在方向において均一に光を出力することが可能である。
【0022】
このように光散乱係数を変化させることで出力される光強度の均一化を図っているので、例えば、ミラーなどの反射手段を要していない。その結果、光照射チップが熱を帯びて焼き切れたりして光照射チップが光ファイバからとれたりすることが抑制されている。そのため、医療用に利用した場合であっても、光照射チップが生体内に残留することが生じにくく、生体に負荷の小さいものとなっている。従って、医療用に好適に使用できる
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光照射チップ及び光導波繊維体は、延在方向に略均一な光強度で光を側方に出力可能であると共に、生体への負荷が低減されているので、医療用として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明に係る光導波繊維体の実施形態について説明する。図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0025】
図1は、本発明に係る光導波繊維体の一実施形態の断面図である。光導波繊維体1は、光線力学療法(PDT : Photodynamic Therapy)において、ガン組織などの病巣に光を照射するために使用される。医療用として使用される光導波繊維体1の全長は例えば2〜3mである。光導波繊維体1は、光ファイバ3を有する。光ファイバ3はプラスチック光ファイバ(POF : Plastic Optical Fiber)であり、入射端3aから入射される光を出射端3bに伝播する。光ファイバ3で伝播する光の波長は、PDTに好適に使用され波長であればよく、例えば、波長300〜800nmである。光ファイバ3はPOFとしたが、石英ガラスを主成分とするものであってもよい。
【0026】
光ファイバ3の出射端3bには光照射チップ5が設けられている。光照射チップ5は、その一端である第1端5aが出射端3bに光学的に接続するように取付手段7によって光ファイバ3に取り付けられている。光照射チップ5は、第1端5aから入射された光を他端である第2端5bに伝播させながら散乱させて、光導波繊維体1の側方(例えば、延在方向と直交する方向)に光を出力するものである。
【0027】
取付手段7は、太さの異なる2つの熱収縮チューブ9,11を有する。熱収縮チューブ9,11の材質は、光ファイバ3で伝播される光に対して透明なものであれば特に限定されず、テフロン(登録商標)系樹脂やポリオレフィン(PE、PPなど)等を使用可能であり、熱収縮チューブ9,11としては、FEP熱収縮チューブが例示される。チューブ長/チップ長は、例えば、2〜30である。
【0028】
熱収縮チューブ9は、光ファイバ3の出射端3b側の部分及び光照射チップ5を収容しており、光ファイバ3に光照射チップ5を取り付けた状態でそれらを保持する。熱収縮チューブ9は、光ファイバ3及び光照射チップ5を保護する機能も有する。熱収縮チューブ9の第1端9a(光ファイバ3側の端)側は熱収縮されて光ファイバ3に固定されており、第2端9b側は溶融されて閉じられている。これにより、光照射チップ5と光ファイバ3とが確実に固定され、光照射チップ5がとれることが防止されている。
【0029】
また、熱収縮チューブ9内には、光ファイバ3及び光照射チップ5と熱収縮チューブ9との間や、光ファイバ3と光照射チップ5との間の屈折率を整合させるための屈折率整合剤13が充填されている。屈折率整合剤13は、例えば、シリコンオイルである。
【0030】
熱収縮チューブ9の第1端9a側には、熱収縮チューブ9の外径より大きな外径を有する熱収縮チューブ11が被せられている。熱収縮チューブ11の第1端11a側は、例えば紫外線硬化接着剤15で熱収縮チューブ9に接着されており、第2端11b側は、熱収縮されて熱収縮チューブ9に固定されている。
【0031】
光導波繊維体1では、屈折率整合剤13の充填された熱収縮チューブ9内に光ファイバ3と光照射チップ5を連結して収容し、熱収縮チューブ9を光ファイバ3及び光照射チップ5に固定することで、光ファイバ3及び光照射チップ5とが接続されている。よって、光ファイバ3から出射される光が光照射チップ5内に確実に入射されることになる。また、熱収縮チューブ9を熱収縮チューブ11で固定しているので、光照射チップ5がとれたりすることが更に防止されている。
【0032】
ここでは、熱収縮チューブ9と熱収縮チューブ11とを利用して2層構造としているが、2層構造に限定されず、例えば、屈折率整合剤13が漏れなければ一層構造でもよい。また、熱収縮チューブ11と熱収縮チューブ9との間に紫外線硬化接着剤15が充填されそれらが接着されているとしたが、例えば、熱収縮チューブ11として、内側に接着剤がついているものを使用した場合には、紫外線硬化接着剤15等の接着剤を用いなくてもよい。
【0033】
図2を利用して、光照射チップ5についてより詳細に説明する。図2は、光照射チップ5の断面図である。
【0034】
光照射チップ5は、脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分として構成されている。主成分としてのポリ乳酸はアモルファスである。光照射チップ5は円柱形状を有しており光ファイバ3とほぼ同じ直径(例えば0.5mm)である。光照射チップ5は、一方向に延在しておりその全長は例えば30mmである。光照射チップ5の主成分は、光導波繊維体1で伝播する光を殆ど吸収しないものであればよいが、生体に分解・吸収される脂肪族ポリエステルが生体への負荷が低減できる観点から好ましい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸の他、ポリグリコール酸が例示され、ポリ乳酸及びポリグリコール酸を組み合わせたものも有効である。
【0035】
光照射チップ5内には、光を散乱させるために複数の散乱体17が分散されている。散乱体17の大きさはサブμm〜数10μmが例示される。各散乱体17は、光照射チップ5の主成分であるポリ乳酸が結晶化したものである。結晶化した部分と、その周りのアモルファスの部分との界面において光照射チップ5に入射され伝播する光が散乱されるので、結晶化した部分が散乱体17として機能する。
【0036】
上記光照射チップ5の構成では、光照射チップ5の第1端5aに入射した光は、光照射チップ5内を第2端5bに向けて伝播しながら散乱体17によって散乱される。この散乱された光の殆どは光照射チップ5の外周面5cから出力され、熱収縮チューブ9を通って、光導波繊維体1の側方(サイド)に出力される。散乱体17で散乱されなかった光は第2端5bから出力される。
【0037】
光照射チップ5では、第1端5aから第2端5bに向かうにつれて光散乱係数を大きくすることで、光照射チップ5において側方に出力される光の強度の長手方向(光照射チップ5の延在方向)における均一化が図られている。
【0038】
上記のように光の光散乱係数を変化させることで、光照射チップ5から側方に出力される光の強度の前述したような均一化が図れることを、シミュレーション結果を利用して説明する。
【0039】
図3は、シミュレーションのためにモデル化した光導波繊維体の模式図である。シミュレーションでは、光導波繊維体1の長手方向をX軸とする。また、光照射チップ5の第1端5a(図3中、ハッチングで示す領域)の位置を原点とし、光照射チップ5の長さをLとする。更に、位置xにおける光強度をP(x)とし、原点(x=0)での光強度をP(0)=Pとする。
【0040】
また、シミュレーションでは次の3点を前提とする。すなわち、(i)光照射チップ5の径方向に光強度分布はないとする。(ii)散乱した光は長手方向に直交する方向(径方向)のみに同心円状に放射されるとする。(iii)位置xでの散乱光強度dP(x)は次式に示すように光強度P(x)に比例するものとする。
【数1】


式(1)における比例係数q(x)が光散乱係数である。
【0041】
散乱光強度dP(x)が一定であるとき、P(x)・q(x)は一定であるので、式(1)より、
【数2】


が成り立つ。Lは光照射チップ5の長さで、P(L)はx=Lでの光強度、すなわち、光照射チップ5に入射された光のうち散乱されずに光照射チップ5を抜けてしまう光強度を示している。
【0042】
図4は、式(2)から得られる光散乱係数q(x)の位置依存性を示すグラフである。図4には、式(2)でP(L)/Pを変化させた場合をそれぞれ示している。光照射チップ5の全長Lは30mmとした。横軸は原点からの距離を示し、縦軸は光散乱係数q(x)[mm-1]を示している。図4は、光導波繊維体1の側方から出力される光の強度が長手方向で一定である、という条件の下では、光散乱係数q(x)は、光照射チップ5の他端である第2端5bに向けて大きくなることを示している。すなわち、図3に示すような光散乱係数q(x)の勾配を形成することで、側方から出力される光の強度を長手方向において均一にすることが可能である。
【0043】
ここで、光照射チップ5を製造する方法の一例について説明する。
【0044】
脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は、ガラス転移温度未満ではアモルファスである(言い換えれば、非晶性を有する)が、ガラス転移温度以上に加熱すると結晶化が生じ多結晶微粒子が生成されて白濁する。この性質を利用して光照射チップ5を製造する。
【0045】
先ず、押出成形法等を利用してポリ乳酸からなるチップ用ロッド19を製造する。このときにはロッド19はアモルファスである。次いで、図5に示すように、ロッド加熱装置21が有する金枠23にロッド19を固定して、例えば約100℃の油浴25に浸けてロッド19を加熱する。
【0046】
このとき、金枠23を、例えば巻き取り機27を利用して所定の速度で引き上げることでロッド19の加熱時間を長手方向に変化させながらロッド19の一部を結晶化させる。この結晶化した部分が散乱体17となり、光照射チップ5が得られる。この場合、加熱時間を長手方向に変化させながら引き上げていることで、ロッド19の長手方向において結晶化状態が変化している。そして、上記所定の速度は、光照射チップ5の外周面5cから出力される光の強度が、長手方向で略均一になる速度である。
【0047】
ここで、ロッド19を引き上げるときの所定の速度の決定方法について説明する。
【0048】
ロッド19を加熱して結晶化させる結晶化時間(以下、加熱時間とも称す)が一定のとき、光散乱係数q(x)は定数qとなるので、式(1)より、
【数3】


が成り立つ。
【0049】
従って、加熱温度と加熱時間とを一定とする条件の下で作製された光照射チップ5から側方に出力される光の強度(光散乱強度)を測定することで、その加熱時間での光散乱係数qを算出できる。そして、加熱時間を変えながら光散乱係数qを算出することによって、光散乱係数qの加熱時間依存性が得られる。よって、光照射チップ5を作製するためのポリ乳酸に対して予め加熱時間依存性を算出しておき、算出された加熱時間依存性から、図4に示すような光散乱係数q(x)の勾配が形成されるように引き上げ速度を決定する。
【0050】
次に、上記のようにして製造される光照射チップ5を利用して光導波繊維体1を製造する方法の一例を図6〜図9を利用して説明する。
【0051】
ここでは、光照射チップ5及び光ファイバ3の外径は0.5mmとし、光照射チップ5の全長は約30mmとする。また、熱収縮チューブ9の外径は約0.9mm、内径は約0.6mm(熱収縮後は約0.45mm)とし、熱収縮チューブ11の外径は約1.4mm、内径は約1.1mm(収縮後は約0.9mm)とする。なお、光照射チップ5、光ファイバ3、熱収縮チューブ9,11の大きさはこれらに限定されるものではない。
【0052】
先ず、図6(a)に示すように、注射器29を利用して熱収縮チューブ9内に屈折率整合剤13を充填した後、図6(b)に示すように、第2端9b側に光照射チップ5の長さ分ほど余長を残して、熱収縮チューブ9の第1端9aから光ファイバ3を挿入する。ここで、熱収縮チューブ9の第2端9bから屈折率整合剤13を再度充填して内部の気泡を除いておく。次いで、図6(c)に示すように、第2端9bから熱収縮チューブ9内に光照射チップ5を挿入する。この際、光照射チップ5の一部は、第2端9bから外側に例えば1mm程度突出させておき、突出した部分にも屈折率整合剤13を塗布しておく。
【0053】
このように屈折率整合剤13が充填された熱収縮チューブ9内に両側から光ファイバ3及び光照射チップ5を挿入しているので、光ファイバ3の出射端3bと光照射チップ5の第1端5aとは、屈折率整合剤13により屈折率の整合性がとれることになる。また、光照射チップ5の外周面5cと熱収縮チューブ9との間の屈折率の整合性もとれる。
【0054】
続いて、図7(a)に示すように、熱収縮チューブ9の第2端9b側に、例えば約450℃に加熱したハンダゴテ31を押しつけて光照射チップ5の一部と熱収縮チューブ9とを一体化させる。また、図7(b)に示すように、熱収縮チューブ9の第1端9a側に、例えば約120℃に加熱したハンダゴテ31を当てて、光ファイバ3を溶融させずに熱収縮チューブ9を熱収縮させて熱収縮チューブ9を光ファイバ3に固定する。熱収縮させる部分の長さは例えば約30mmである。
【0055】
その後、図8に示すように、熱収縮チューブ9の第1端9a側に熱収縮チューブ11を被せた後、図9(a)に示すように、熱収縮チューブ11の第2端11b側の例えば10mm程度の領域にハンダゴテ31を押しつけて熱収縮させて熱収縮チューブ11を熱収縮チューブ9に固定する。次いで、図9(b)に示すように、熱収縮チューブ11の第1端11a側において、熱収縮チューブ9と熱収縮チューブ11との間に紫外線硬化接着剤15を充填し硬化させる。これにより、熱収縮チューブ11が熱収縮チューブ9に確実に固定されて、光導波繊維体1が得られる。
【0056】
次に、光導波繊維体1の作用・効果について図10を利用して説明する。図10は、光導波繊維体1を利用したガン治療におけるPDTの一実施形態の模式図である。
【0057】
先ず、ガン細胞に親和性を有するガン親和光感受性薬品(PS:フォトシンセタイザ)を人体(生体)33に投与する。ここでは、波長664nmの光に反応するレザフィリンをPSとする。PSの多くは、病巣であるガン組織35に選択的に取り込まれる一方、取り込まれたもの以外はほぼ体外に放出される。
【0058】
次いで、図10に示すように、テフロン(登録商標)等からなるガイド管37を人体33内に挿入した後、ガイド管37内に光導波繊維体1を通して、光導波繊維体1の光照射チップ5をガン組織35上又はガン組織35近傍に配置する。続いて、光導波繊維体1の入射端3aから、PSを励起可能な波長664nmの光を入射させる。
【0059】
光導波繊維体1に入射された光は光ファイバ3内を伝播した後、出射端3bから出射される。光照射チップ5の第1端5aと出射端3bとは光学的に結合しているので、出射端3bから出射された光は第1端5aから光照射チップ5に入射する。光照射チップ5に入射された光は長手方向に伝播されながら、その一部は散乱体17によって散乱されて外周面5cから出力され、熱収縮チューブ9を通過して光導波繊維体1から出力される。これにより、光照射チップ5に入射された光の殆どは、第2端5bからみた場合に光導波繊維体1を中心として全方位に向けて光導波繊維体1の外周面から出力される。
【0060】
この際、第1端5aから第2端5bに向けて例えば図4に示すように光散乱係数q(x)が増大する条件で複数の散乱体17が光照射チップ5内に分散しているので、光照射チップ5からは長手方向に沿ってほぼ均一な強度を光が出力されることになる。
【0061】
そして、光照射チップ5はガン組織35近傍に配置されていることから、光照射チップ5から全方位に出力された光は、ガン組織35全体に略均一な強度で照射される。この照射された光によってガン組織35に取り込まれたPSが光励起される。光励起されたPSの緩和時に発生する活性酸素又は活性ラジカル種といった活性種がガン組織を攻撃し、ガン組織を壊死させる。PDTでは、投与される薬剤をガン組織35にのみ選択的に作用させるので、薬剤投与による副作用が起こらない。以上の説明では、ガイド管37内に光導波繊維体1が挿入されるとしたが、光導波繊維体1は、例えば、内視鏡等と組み合わせて使用しても良い。
【0062】
上記光導波繊維体1では、光照射チップ5内に散乱体17を分散させているので、より確実に側方に光を出力できる。更に、光照射チップ5内には、光照射チップ5での光散乱係数が第2端5b側に向かうにつれて大きくなるように散乱体17が設けられており、第2端5b側で光が散乱される確率が高くなっている。この第2端5b側での散乱確率の増加によって光照射チップ5内を伝播する光の強度の低下が補われ、光照射チップ5の側方からは長手方向の位置によらずにほぼ同じ強度の光が出力される。その結果、病巣全体に略均一な光を照射可能である。
【0063】
また、光照射チップ5は、光ファイバ3から出射される光の波長に対して吸収を殆ど有しないので、吸収による熱発生もない。その結果、光照射チップ5が熱を帯びないため、熱発生による焼き切れ等が生じない。更に、人体33に挿入されている部分において熱発生が生じないので、医療用として好適に使用できる。
【0064】
また、仮に、光導波繊維体1の一部が破損したりして光照射チップ5が生体内に残ったとしても、光照射チップ5が生体吸収性高分子から形成されているので、生体に残った部分は、分解され生体に吸収される。よって、光導波繊維体1では生体に対する安全性の向上が図られており、前述したように、PDT等の医療用として好適に使用できる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、結晶化していない脂肪族ポリエステルからなるロッド19を油浴25を利用して加熱することで光照射チップ5を形成しているが、ロッド19の加熱方法は、油浴25につけることに限定されず、結晶化した部分が形成されるように加熱できればよい。
【0066】
また、散乱体17は、光照射チップ5の主成分(例えば、ポリ乳酸)が結晶化したものとしたが、光照射チップ5内に入射された光を散乱できれば特に限定されない。例えば気泡なども有効である。この場合、ロッド19中に気泡を発生させ、その発生量を長手方向に変化させておけばよい。気泡を発生させる場合には、結晶化していないロッドを高圧気泡ガス環境下においた後、一気に常圧に戻せばよく、更に、長手方向への気泡の分布はロッド19に熱を加えることで変えることが可能である。
【0067】
また、散乱体17としては、食料用染料や、ビタミンや、医療用染料も例示され、生体への負荷を低減する観点から好ましい。食用染料としては、クチナシ黄色色素、クチナシ黄色素、ベニバナ黄色素、ウコン色素、ベニコウジ黄色素、パーム油カロテン、ベニコウジ色素、クチナシ赤色素、ベニバナ赤色素、ビートレッド、コチニール色素、ラック色素、アカネ色素、シソ色素、アカキャベツ色素、アカダイコン色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ブドウ果皮色素、エルダーベリー色素、ブドウ果汁色素、ブルーベリー色素、トウガラシ色素、アナトー色素、クロロフィル、クチナシ青色素、スピルリナ色素、カカオ色素、タマリンド色素、カキ色素、コウリャン色素、植物炭末色素、ヘモグロビン等の天然染料や、Tartrazine、Sunset Yellow FCF、Amaranth、Erythrosine、Allura Red AC、NewCoccine、Phloxine、Rose Bengale、Acid Red、Brilliant Blue FCF、Indigo Carmine等の人工染料、や、更に、βカロチン、アナトー色素なども例示される。
【0068】
また、ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンK1、ビタミンK2、ビタミンK3、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンF(リノール酸、リノレン酸)、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンM、パントテン酸、リポ酸、ビタミンB9、ビタミンB12、ビタミンH、ビタミンC、ビタミンPなどが例示される。
【0069】
更に、医療用染料としては、医療用染料として使用可能な核酸標識試薬、ナイルブルーやマラカイトグリーンなどが例示される。
【0070】
また、光照射チップ5を、コア・クラッド構造を有するいわゆる光ファイバとしてもよい。この場合、石英ガラスを主成分としており、コア部に散乱体としてのゲルマニウムを添加された光ファイバを製造する。そして、その光ファイバを加熱してコア部内に添加されているゲルマニウムを拡散させることによって、長手方向に光散乱係数を増加させて光照射チップとする。なお、コア部に添加される散乱体としては、前述したような食料用染料や、ビタミンや、医療用染料とすることも可能である。
【0071】
更に、光照射チップ5がコア・クラッド構造を有する光ファイバである場合でも、その主成分が脂肪族ポリエステルから構成されていることは、生体に負荷をかけない観点から好ましい。
【0072】
また、取付手段7は、熱収縮チューブに限らず、普通のチューブやパイプでもよい。この場合も、それらは、光ファイバ3で伝播される光に対して透明な材質からなる。
【0073】
更にまた、光導波繊維体1では、熱収縮チューブ9の第2端9b側は溶融されて光照射チップと一体化されて閉じられているとしたがこれに限定されない。例えば、第2端9b側に、超音波センサーとなる金属ロッド(金、銀、白金、アルミニウムなど)を詰めても良いし、テフロン(登録商標)などのプラスチックロッドを先端につめることも可能である。更に、熱収縮チューブの代わりに通常のチューブやパイプを用いる場合でも接着剤等で上記のものをつめることもできる。ただし、テフロン(登録商標)を接着剤で固定することは困難なので、パイプやチューブ内面を予め荒らして付けることが好ましい。
【0074】
また、光照射チップ5では、光散乱係数が第1端(一端)5aから第2端(他端)5bに向けて増加するとしているが、外周面5cから出力される光の強度が長手方向に略均一になるように第1端5aから第2端5bに向けて光散乱係数が変化していればよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を利用して本発明に係る光照射チップ及び光導波繊維体について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
本実施例では、光照射チップ5を製造するために、側方から出力される光の強度を、長手方向に沿って均一にするためのロッド19の加熱条件を決定した。次いで、その加熱条件に基づいて製造した光照射チップ5を利用して光導波繊維体1を製造した。以下の説明では、説明の便宜上、長手方向に散乱体が一様に分布している光照射チップ及びそれを利用した光導波繊維体にも実施形態と同じ符号を付すものとする。
【0077】
実施例では、ポリ乳酸として、レイシアH400透明グレード(三井化学株式会社製)を使用した。また、光ファイバ3として、外径0.5mmのプラスチック光ファイバ(東レ株式会社製)を使用した。更に、熱収縮チューブ9は、外径が0.9mm、内径が0.6mm(熱収縮後は0.45mm)のFRP熱収縮チューブを使用し、熱収縮チューブ11は、外径が約1.4mm、内径が1.1mm(収縮後の内径は約0.9mm)のFRP熱収縮チューブを利用した。また、屈折率整合剤13は、温度25℃で屈折率が1.4580であるシリコンオイルを利用した。
【0078】
先ず、押出成形機を利用してポリ乳酸からなる直径0.5mmのロッド19を6個作製した。なお、光導波繊維体1に組み込まれたときに光照射チップ5の全長が約30mmとなるように、各ロッド19の全長には、光導波繊維体1を製造時において熱収縮チューブ9の第2端9bから突出させるための余長を付加しておく。
【0079】
次いで、図5に示したロッド加熱装置21を利用してロッド19全体を一様な温度で加熱して、各ロッド19から光照射チップ5を作製した。油浴25はシリコンオイルからなるとし、温度は約100℃とした。6個の光照射チップ5の製造条件は、各ロッド19の加熱時間を1分、2分、4分、8分、16分、32分と変えた点以外は、同じ条件とした。
【0080】
そして、上記のようにして製造した各光照射チップ5を利用して図6〜図9に示した方法で光導波繊維体1をそれぞれ製造した。なお、図6(c)に示す工程において、熱収縮チューブ9から光照射チップ5を突出させる長さは約1mmとした。また、図7(a)に示す工程において、ハンダゴテ31の温度は約450℃とし、図7(b)に示す工程では、ハンダゴテ31の温度は約120℃とした。更に、図9(a)に示す工程では、熱収縮チューブ11を収縮させる長さは約10mm程度とした。
【0081】
次いで、製造した6本の光導波繊維体1各々の光照射チップ5から出力される光の長手方向における強度分布を図11に示す方法で測定した。
【0082】
すなわち、光ファイバ3に波長659nmの光を10mWで入射した。そして、光導波繊維体1の側方に配置したパワーメータ39を、第2端5b側から第1端5a側に移動させながら光導波繊維体1から出力される光の強度を測定した。パワーメータ39の受光面積は約4mmであった。また、パワーメータ39は、光導波繊維体1の外周面から約3mm離して配置した。そして、得られた光強度分布と式(3)とに基づいて各加熱時間に対する光散乱係数qを算出した。
【0083】
次いで、P(L)/Pを目標とする値とした場合における加熱時間と散乱係数との関係を実験的に求めた。そして、ロッド19の加熱条件を決定した後、その加熱条件に基づいて、光照射チップ5を作製し、更にその光照射チップ5を有する光導波繊維体1を作製した。そして、作製された光導波繊維体1を用いて、図11に示す測定方法によって長手方向における光強度分布を測定した。
【0084】
その結果、第1端5aから第2端5bに向けて光散乱係数が増大するように形成された光照射チップ5を有する光導波繊維体1では、相対強度が0.8以上の領域が約21mmほど得られており、長手方向における光強度の均一化が実現できていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る光導波繊維体の一実施形態の断面図である。
【図2】本発明に係る光照射チップの一実施形態の断面図である。
【図3】シミュレーションのためにモデル化した光導波繊維体の模式図である。
【図4】光散乱係数の位置依存性を示すグラフである。
【図5】光照射チップの製造における一工程を示す図である。
【図6】光導波繊維体の製造における一工程を示す図である。
【図7】光導波繊維体の製造における図6に続く工程を示す図である。
【図8】光導波繊維体の製造における図7に続く工程を示す図である。
【図9】光導波繊維体の製造における図8に続く工程を示す図である。
【図10】光導波繊維体を適用した光線力学療法の一実施形態を示す模式図である。
【図11】光照射チップから出力される光の長手方向の光強度分布の測定工程を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1…光導波繊維体、3…光ファイバ、3a…入射端、3b…出射端、5…光照射チップ、5a…第1端(一端)、5b…第2端(他端)、5c…外周面、7…取付手段、9,11…熱収縮チューブ、9a…第1端、9b…第2端、11a…第1端、11b…第2端、13…屈折率整合剤、15…紫外線硬化接着剤、17…散乱体、19…ポリ乳酸ロッド、21…ロッド加熱装置、23…金枠、25…油浴、27…巻き取り機、29…注射器、31…ハンダゴテ、33…人体(生体)、35…ガン組織、37…ガイド管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの出射端に取り付けられ前記出射端から出射される光を散乱させる光照射チップであって、
前記出射端に接続される一端から他端に向けて一方向に延在しており、前記一端から前記他端に向けて光散乱係数が変化していることを特徴とする光照射チップ。
【請求項2】
前記光ファイバチップの前記一端から前記他端に向けて前記光散乱係数が増大していることを特徴とする請求項1に記載の光照射チップ。
【請求項3】
主成分とは異なる成分からなる複数の散乱体が、前記光散乱係数が増大するように前記一端から前記他端に向けて分散されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光照射チップ。
【請求項4】
前記主成分が脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項3に記載の光照射チップ。
【請求項5】
前記主成分としての前記脂肪族ポリエステルはアモルファスであり、
前記散乱体は、前記主成分を構成する前記脂肪族ポリエステルが結晶化して形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光照射チップ。
【請求項6】
入射端から入射される光を伝播させて出射端から出射する光ファイバと、
請求項1〜5の何れか一項に記載の光照射チップと、
を備え、
前記光照射チップが有する前記一端は、前記光ファイバの前記出射端に接続されることを特徴とする光導波繊維体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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