説明

光照射装置およびそれを用いた紫外線硬化型インクジェット記録装置

【課題】高出力を得るために放電電流を増加させた場合にも、ゲッターやこれを吸着・保持している保持部材が蒸発して、熱陰極管の内壁に付着して早期黒化が引き起こされることを防止可能とした光照射装置、並びにこの光照射装置を用いたインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】バルブ内の少なくとも1つの電極の近傍にゲッターを装着した熱陰極管を用いる光照射装置であって、前記熱陰極管に装着したゲッターを前記バルブの外部から冷却する冷却機構を有することを特徴とする光照射装置、並びにこの光照射装置を用いるインクジェット記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光照射装置に関するものであり、特に高輝度、均一性を必要とされる複写機、ファクシミリ、スキャナ等の情報機器や、紫外線硬化型インクを用いた印刷機、紫外線硬化ニス塗布機等の、種々の光硬化型成膜装置に用いられる露光用光源に用いて好適な光照射装置に関するものである。
また、本発明の光照射装置を、紫外線硬化型インクを用いるインクジェット技術に適用した場合には、この分野での重要な課題となっているインクジェット技術による高速印字および高画質化に特に顕著な効果をもたらすものである。
【背景技術】
【0002】
上記各機器および装置に用いられる露光用光源には、高画質,高速性等の観点から、均一性と高出力が同時に求められる。このような光源としては、特にコスト並びに小型化の観点から、熱陰極管が用いられている。
しかしながら、熱陰極管は高出力を得るために放電電流を増加させると、一般的に、ランプの温度が上昇する。ランプの温度が上昇すると、ランプ内部品から不純物,ガスが発生し、これらの放出されたガスを除去しないと、放電が激しくなり陰極部品や蛍光体などのスパッタエッチングが起こり、ランプが短寿命になるという問題が生じる。
【0003】
この短寿命化を防ぐ対策として、ガス吸着を行うゲッターを装着する放電灯が、例えば特許文献1に開示されているが、ランプ温度の上昇を抑制する効果はない。このため、ゲッターやそれを装着している部材が蒸発し、バルブ壁に付着して起こる早期黒化を防ぐには不十分である。黒化はランプ端部を中心に発生し、蛍光体の発光能力を低下させる。これは、ランプの軸方向における出力の均一性を低下させるという問題を引き起こす。
【0004】
すなわち、ゲッターがその化学反応性を示すためには、ゲッターの種類によるが数百℃の加熱が必要である。そこで、熱を得るためにゲッターを陰極の付近に装着したり、外部から加熱したりするのが一般的である。しかしながら、出力を増した放電管の陰極の温度は1000℃以上の高温であり、ゲッターやそれを装着している部材が蒸発し、バルブ壁に付着して早期黒化を起こすことになる。
【0005】
一方で、上述のような高出力と高い均一性を必要とする光照射装置を用いる機器の一つである印刷機については、小ロットに対応するためにデジタル化が進んでいる。その中でも、インクジェット記録方式は、小型・安価であり、被記録媒体に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンタに用いられている。
現在、インクジェットプリンタには種々の被記録媒体に対して高速印字および高画質化が重要な課題となっている。
【0006】
しかしながら、インクジェット記録方式は被記録媒体によって画像に滲みや混色,色ムラ等が生じ、画質が低下してしまうという問題、あるいは種々の被記録媒体間で画像が異なってしまうという問題がある。
このような画像の滲みや線幅の不均一等を抑制する方法として、液滴の定着を促進する方法がある。例えば、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録技術においては、特許文献2,特許文献3に開示されている方法がある。
【0007】
ここで、特許文献2に開示されている装置は、光硬化性のインクを吐出するカラーのインクジェット記録ヘッドの各色ヘッドの下流にそれぞれ光照射手段を配置して、記録媒体に着弾したインクに対して光を照射し、インクを半硬化させるようにすることで、異なるインクが混ざり合うことを防止しているものである。
ただし、このような画像形成方法には、一般に、被記録媒体の特性(物性)によって、インクの滲みや混色の発生程度に差が出ること(基材依存性と呼ばれる)は避けられないと考えられる。
【0008】
これに対しては、特許文献3に開示されている装置についての記載が参考になる。
特許文献3に開示されているインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドにより塗設した、実質上透明な活性光線硬化型インク層に活性光線を照射し、その後、色材を含んだ活性光線硬化型インク滴を吐出して画像を形成するものであり、このインクジェット記録装置では、完全に硬化させたインク層上にインクを打つということで、基材依存性を解消することが可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−245966号公報
【特許文献2】特開2004−276584号公報
【特許文献3】特開2005−96254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、上記従来技術における問題を解消し、ゲッター装着による前述のようなバルブの早期黒化を防止し、高出力と高い均一性を長期間維持する、長寿命な光照射装置を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、前述したような紫外線硬化型インクジェット技術に、上記光照射装置を適用することにより、高速印字および高画質化を達成できるという好適な結果を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る光照射装置は、バルブ内の少なくとも1つの電極の近傍にゲッターを装着した熱陰極管を用いる光照射装置であって、上記熱陰極管に装着したゲッターを上記バルブの外部から冷却する冷却機構を有することを特徴とする。
【0012】
ここで、上記冷却機構としては、ファンを用いる空冷方式によるもの、もしくはヒートパイプ方式によるものを用いることが好ましい。また、上記冷却機構としては、ファンを用いる空冷方式によるものと、ヒートパイプ方式によるものとの両者を併用することも可能である。
【0013】
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、活性エネルギー線が照射されることにより硬化可能なインクを前記被記録媒体上に吐出して画像形成を行う画像形成手段と、前記被記録媒体を搬送する搬送手段による被記録媒体の搬送路中の前記画像形成手段の下流側に、上述のような冷却機構を備えた光照射装置が設置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る他のインクジェット記録装置は、被記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送される前記被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与手段と、
前記下塗り液付与手段の下流に配置され、エネルギーを付与することで前記下塗り液の内部のみを硬化させる下塗り液硬化手段と、この下塗り液硬化手段の下流に配置され、活性エネルギー線の照射により硬化可能なインクを、下塗り液上に吐出して画像形成を行う画像形成手段と、この画像形成手段の下流に配置され、画像形成されたインクにエネルギーを付与することでインクの内部のみを硬化させるインク半硬化手段と、前記画像形成手段中の最下流の画像形成手段の下流に配置され、前記インクを完全硬化させる最終硬化手段とを有し、前記下塗り液硬化手段およびインク半硬化手段として、上述のような光照射装置を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高出力を得るために放電電流を増加させた場合にも、ゲッターやこれを保持している保持部材が蒸発して、熱陰極管の内壁に付着して早期黒化が引き起こされ、この結果により発生する熱陰極管の幅方向における強度分布が不均一化することを防止可能とした光照射装置、並びにこの光照射装置を用いることにより、高速印字および高画質化を達成可能としたインクジェット記録装置を実現できるという顕著な効果を奏する。
【0016】
より具体的には、本発明に係る光照射装置においては、高出力を得るために放電電流を増加させても、長期間安定した光強度分布を維持しつつ、熱陰極管の長寿命化を実現することが可能になる。また、本発明に係る光照射装置を用いたインクジェット記録装置においては、長期間にわたって、インクのにじみや混色の発生を防ぐことが可能となり、高画質の画像を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る光照射装置を用いたインクジェット記録装置の一例の概略構成を示す正面図であり、図2(A)は、図1に示すインクジェット記録装置の紫外線照射ユニットの熱陰極管の一例の概略構成を示す長手方向の断面図であり、図2(B)は、図2(A)に示す熱陰極管のB−B線断面図である。
なお、以下の各実施形態において、活性光線(活性エネルギー線ともいう)の照射によって硬化する活性光線硬化型インク(活性エネルギー線硬化型インクともいう)のうち紫外線硬化型インクを使用する活性光線硬化型インクジェット記録装置を例に説明するが、本発明は、これに限定されることはなく、各種活性光線硬化型インクを用いるインクジェット記録装置に適用することができる。ここで、本発明においては、活性光線として、紫外線、可視光等が例示される。
【0019】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、被記録媒体Pを搬送する搬送部12と、被記録媒体Pに下塗り液を塗布する下塗部13と、被記録媒体Pに塗布された下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化部14と、被記録媒体P上に画像を記録する画像記録部16と、被記録媒体P上に記録された画像を定着させる画像定着部18と、画像記録部16のインク液滴の吐出を制御する制御部20とを有する。
また、インクジェット記録装置10の制御部20には、入力装置22が接続されている。入力装置22としては、スキャナ等の画像読取装置や、パーソナルコンピュータ等の画像処理装置等の画像データを送信する種々の装置を用いることができる。また、入力装置22と制御部20との接続方法は、有線,無線を問わず種々の接続方法を用いることができる。
【0020】
搬送部12は、供給ロール30と、搬送ロール32,搬送ロール対34と、回収ロール36とを有し、被記録媒体Pを供給し、搬送し、回収する。
供給ロール30は、ロール状に巻きつけられている連続紙状の被記録媒体Pを有し、被記録媒体Pを供給する。
搬送ロール32は、被記録媒体Pの搬送方向において、供給ロール30の下流側に配置され、供給ロール30から送り出された被記録媒体Pを搬送方向下流側に搬送する。
【0021】
搬送ロール対34は一対のロール対であり、被記録媒体Pの搬送経路において、搬送ロール32の下流側に配置され、搬送ロール32を通過した被記録媒体Pを挟持して、搬送方向下流側に搬送する。
回収ロール36は、被記録媒体Pの搬送経路の最下流に配置されている。回収ロール36は、供給ロール30から供給され、さらに搬送ロール32,搬送ロール対34により搬送されて後述する下塗部13,下塗り液半硬化部14,画像記録部16,画像定着部18に対向する位置を通過した被記録媒体Pを巻き取る。
ここで、搬送ロール32,搬送ロール対34および回収ロール36は、図示しない駆動部と接続され、この駆動部により回転される。
【0022】
ここで、搬送ロール32は、鉛直方向において、供給ロール30よりも上側で、かつ、水平方向において、供給ロール30よりも回収ロール36から離れた位置に配置されている。また、搬送ロール32,搬送ロール対34および回収ロール36は、水平方向に直線状に配置されている。
搬送部12は、このように構成されており、供給ロール30から引き出した被記録媒体Pを、鉛直方向に対して回収ロール36から離れる側に所定角度傾斜させつつ上方、つまり斜め上方向に搬送し、その後、搬送ロール32で搬送方向を変えて、搬送ロール32通過後は、略水平方向に回収ロール36に向けて搬送させる。
つまり、被記録媒体Pは、供給ロール30から引き出された後、画像が記録される側の面を下向きにして斜め上方向に移動され、搬送ロール32を通過した後は、画像が記録される面を上向きにして水平方向に移動される。
【0023】
下塗部13は、供給ロール30と搬送ロール32との間に、つまり、被記録媒体Pの搬送方向において、供給ロール30の下流側、かつ、搬送ロール32の上流側に配置されている。
下塗部13は、被記録媒体Pに下塗り液を塗布する塗布ロール60と、塗布ロール60を回転させる駆動部62と、塗布ロール60に下塗り液を供給する貯留皿64と、塗布ロール60に付着する下塗り液の量を調整する掻き取りロール66と、掻き取りロール66を回転させる掻き取りロール駆動部67(以下単に「駆動部67」という)と、塗布ロール60に対して被記録媒体Pが所定位置となるように被記録媒体Pを支持する位置決め部68とを有する。
【0024】
塗布ロール60は、被記録媒体Pの搬送経路において供給ロール30と搬送ロール32との間に配置され、供給ロール30と搬送ロール32との間を搬送される被記録媒体Pの下側に向いている面(被記録媒体Pの画像が形成される側の面)に当接している。
塗布ロール60は、被記録媒体Pの幅よりも長いロールであり、かつ、その表面(外周面)に一定間隔毎に、つまり、均等に凹部が形成されている、いわゆるグラビアロールである。ここで、塗布ロール60に形成する凹部の形状は特に限定されず、丸,矩形,多角形,星型等の種々の形状とすることができる。また、凹部は、塗布ロールの全周に溝状に形成してもよい。なお、塗布ロール表面に保持される下塗り液の量を一定とすることができるため、塗布ロールは、表面に一定間隔毎に凹部を形成した形状とすることが好ましいが、これに限定されず、凹部を形成していないロールも用いることができる。
【0025】
駆動部62は、モータ,モータの回転を塗布ロール60に伝えるギア等で構成される駆動機構であり、塗布ロール60を回転させる。なお、駆動部62は、本実施形態に限定されず、プーリー駆動,ベルト駆動,ダイレクト駆動等の塗布ロール60を回転させる種々の駆動機構を用いることができる。
駆動部62は、図1に矢印で示すように、塗布ロール60を接触位置における被記録媒体Pの搬送方向とは逆の方向に回転させる(図1中、時計周り)。
【0026】
貯留皿64は、上面が開放された皿形状を有し、その内部には、下塗り液が貯留されている。貯留皿64は、塗布ロール60の下側に、塗布ロール60に近接して配置されており、塗布ロール60の一部を貯留されている下塗り液に浸漬させている。また、貯留皿64には、必要に応じて図示しない供給タンクから下塗り液が供給される。
【0027】
掻き取りロール66は、軸方向の長さが塗布ロール60と略同じ長さのロールであり、塗布ロール60の表面に当接して、回転自在な状態で配置されている。より具体的には、掻き取りロール66は、塗布ロール60の回転方向において、貯留皿64の下流側で、かつ、被記録媒体Pの上流側に配置されている。
掻き取りロール66は、貯留皿64に浸漬して塗布ロール60に付着した下塗り液のうち必要以上に付着した下塗り液を掻き落とし、塗布ロール60に付着した下塗り液の付着量を一定量にする。本実施形態では、掻き取りロール66は、塗布ロール60の表面に形成されている凹部に保持された下塗り液を除いて、塗布ロール60の他の部分に付着した下塗り液を掻き落とし、塗布ロール60の被記録媒体Pと接触する部分に保持されている下塗り液を、実質的に凹部に保持されている下塗り液のみとする。
塗布ロール60の表面に付着した余分な下塗り液(余剰液)を掻き取り、塗布ロール60の表面に付着した下塗り液を一定量とすることで、被記録媒体上に下塗り層をより均一に形成することができる。
【0028】
駆動部67は、図1に矢印で示すように、塗布ロール60とつれまわる方向、つまり、塗布ロール60との接触位置における表面の移動方向が塗布ロール60の移動方向と同一となる方向(図1中、反時計周り)に掻き取りロール66を回転させる。ここで、駆動部67としては、駆動部62と同様にギア駆動,プーリー駆動,ベルト駆動,ダイレクト駆動等のロールを回転させる種々の駆動機構を用いることができる。駆動部67により、掻き取りロール66を、塗布ロール60とつれまわる方向に回転させることで、掻き取りロール66および塗布ロール60の磨耗を防止でき、掻き取りロール66および塗布ロール60の交換頻度を少なくすることができ、装置としての耐久性を高くすることができる。
なお、装置の耐久性を高くできるため、塗布ロール60に付着した余剰液は、本実施形態のように掻き取りロールでかきとることが好ましいが、これに限定されず、例えば、ブレードを用い、ブレードを塗布ロール60に当接させて、余剰液をかきとる方法も用いることができる。
【0029】
位置決め部68は、位置決めロール70および72を有し、塗布ロール60と接触する位置の被記録媒体Pが所定の位置となるように被記録媒体Pを支持する。
位置決めロール70および72は、それぞれ被記録媒体Pを介して塗布ロール60とは反対側に、被記録媒体Pの搬送方向において塗布ロール60を挟むように、塗布ロール60の上流側と下流側にそれぞれ配置され、被記録媒体Pの画像が形成される面(下塗り液が塗布される面)とは反対側の面から、被記録媒体Pを支持する。
【0030】
なお、下塗部13の塗布ロール60,位置決めロール70および72は、互いの位置を固定する位置決め機構を設けることが好ましい。位置決め機構を設けることで、塗布ロール60,位置決めロール70および72の互いの位置関係にずれが生じることを防止できる。
なお、位置決め機構としては、塗布ロール60,位置決めロール70および72のそれぞれ支持する部材同士を接触させる構成であればよく、例えば、各部材の軸受け同士を接触させる機構,軸受けを固定する固定部材同士を接触させる機構を用いることができる。
【0031】
下塗部13は、以上のように構成されており、駆動部62が、塗布ロール60を被記録媒体Pの搬送方向とは逆方向に回転させる。回転している塗布ロール60の表面は、貯留皿64に貯留された下塗り液に浸漬される。さらに、塗布ロール60が回転することで、塗布ロール60の下塗り液に浸漬された部分は、その後、掻き取りロール66と当接し、表面に保持する下塗り液の量を一定量とされた後、被記録媒体Pと接触し、被記録媒体P上に下塗り液を塗布する。このように、塗布ロール60を被記録媒体Pの搬送方向とは逆回転させて、被記録媒体Pに下塗り液を塗布することで、平滑化され、かつ、ムラのない良好な塗布面状の下塗り液の層(以下「下塗り層」ともいう)を被記録媒体P上に形成する。また、被記録媒体Pと接触した塗布ロール60は、さらに回転し、再び貯留皿64に浸漬される。
【0032】
次に、下塗り液半硬化部14について説明する。
下塗り液半硬化部14は、対向する位置を通過する、表面に下塗り液が塗布された被記録媒体Pの幅方向の全域に紫外線を照射し、被記録媒体Pの表面に塗布された下塗り液を半硬化状態にする。なお、下塗り液の半硬化については後ほど詳細に説明する。
下塗り液半硬化部14は、紫外線照射ユニットで構成され、被記録媒体Pの表面に塗布された下塗り液を半硬化状態にするため、被記録媒体Pに対向して配置されている。
この紫外線照射ユニットは、本発明の光照射装置が適用される部分であり、以下、図1,図2(A)及び(B)を用いて、その構成を詳細に説明する。なお、後に説明する画像定着部18内に配置される紫外線照射ユニット52および同54も、ここで説明する下塗り液半硬化部14の紫外線照射ユニットと、略同様の構成を有するものである。
【0033】
図1に示す下塗り液半硬化部14の紫外線照射ユニットは、紫外線を発光する熱陰極管80と、この熱陰極管80を囲うように配置され、被記録媒体P側に開口が形成されたハウジング82と、ハウジング82内に配置され、熱陰極管80に送風し、熱陰極管80を冷却する冷却機構84と、を有し、被記録媒体Pの搬送経路に対向して配置されている。
【0034】
熱陰極管80は、紫外線を射出する線状光源であり、被記録媒体Pの搬送方向に直交する方向が軸方向(つまり延在する方向)となるように配置されている。また、熱陰極管80は、被記録媒体Pの幅方向の長さよりも長く、被記録媒体Pの幅方向の全域に渡って配置されている。
図2(A)及び(B)に示すように、熱陰極管80は、バルブ86と、電極88と、保護膜90と、蛍光体膜92とを有する。
バルブ86は、ソーダガラスまたは石英ガラス(殺菌ガラス)等を材料として作製された管状部材(もしくは円筒部材)である。ここで、バルブ86としては、長さ500mm〜800mmの長さの管が例示される。また、バルブ86の管径としては、Φ15.5mm,20mm,25.5mm,28mm,32mm,38mm等が例示される。
【0035】
図2(B)に示すように、電極88は、フィラメント状の陰極88aとそれを囲む形状を有する陽極88bとからなり、バルブ86で形成される空間内に露出し、バルブ86の両端部に配置されている。また、ここでは、陽極88bの表面に、ゲッター89が蒸着により装着されている。
また、バルブ86とバルブ86の両端部に配置された電極88により、バルブ86内部は真空密閉され、内部には、水銀等が封入されている。
【0036】
ここでは、ゲッターとして、Zr-Co-Rare Earth (サエスゲッター社製)を用い、その電極(陽極)への取り付け方法としては、下記のような方法がある。
(1)陽極の少なくとも一部を切り取り、陽極にリボン型ゲッターを溶接する方法
(2)陽極の少なくとも一部の外面にリボン型ゲッターを重ねて溶接する方法
(3)陰極および陽極に接しない状態でリボン型ゲッターを耐熱性の高い金属部品に溶接し、電極から0.1〜30mm離した距離に装着する方法
装着方法はこれに限らないが、活性化に必要な熱を得るために電極から30mm以内の位置に装着することが好ましい。
ここでは、(1)の方法によりリボン型ゲッターを装着している。
【0037】
保護膜90は、バルブ86の内壁面に塗装されており、ガラスバルブに水銀原子が衝突し反応するのを防いでいる。その内側にはさらに蛍光体膜92が積層されている。
蛍光体膜92は、280〜400nmにピーク波長を有する紫外線を発光する蛍光体で形成されている。
このように、熱陰極管80は、外側から中心に向けて、バルブ86,保護膜90,蛍光体膜92が積層されて構成されている。
【0038】
熱陰極管80は、以上のように構成されており、電極88(のフィラメント:陰極88a)に電流を流し、予熱すると、高温になったエミッタ(フィラメントに塗布されている)から電子が放出され、バルブ86の内部に封入されている水銀原子と衝突し、水銀は紫外線を発生する。その後、発生した紫外線が蛍光体膜92に当たると、各波長に発光する。その後、発光した光は、保護膜90,バルブ86を透過して、被記録媒体Pに向けて射出される。
【0039】
本実施形態の熱陰極管80では、陽極88bの表面に、ゲッター89が蒸着により装着されている。前述のように、このゲッター89は、出力を向上させるために通電される電流を増した場合、陰極88aの温度が1000度以上となる場合があり、従来は、ゲッター89自体、並びにこれを装着している部材が蒸発して、バルブ86の内面などに付着するという問題があったが、本実施形態の熱陰極管80では、電極88の近傍(ここでは、電極88の上方の近傍)に空冷用の小型ファン(紫外線照射ユニット52の冷却機構84)を配置して対処している。
【0040】
すなわち、本実施形態の熱陰極管80では、図2(A)に示すように、熱陰極管80の両端のそれぞれの電極88の上方の近傍に、小型ファン84を配置して、これを適宜の回転数で回転させることにより、電極88で発生する熱を発散させるように構成している。このような構成とすることにより、電極88で発生する熱を発散させて、電極88の温度上昇を抑制することができるので、電極88の温度を、ゲッター89並びにこれを装着している部材が蒸発しない範囲内に低く抑えることが可能になり、蒸発した材料がバルブ86の内面などに付着してバルブ86の内面を黒化させるという問題を解消する。
【0041】
本実施形態の熱陰極管80では、バルブ86の電極88の近傍を冷却するために空冷用の小型ファンを配置して対処しているが、冷却方式はこれに限定されるものではなく、これ以外にも、例えば、図3に示すように、バルブ86の電極88の近傍に、バルブ86の外壁に沿ってヒートパイプ94をサークル状に配置して、ゲッター並びにこれを装着している部材を冷却するような構成も、好適に用い得る。ここで、ヒートパイプ94としては、必要な容量(冷却容量)を有するものであれば、種々の媒体を用いるものが適宜用い得る。
【0042】
図1に戻って、紫外線照射ユニット52の全体構成の説明を続ける。
紫外線照射ユニット52のハウジング82は、直方体の箱型形状であり、熱陰極管80の周囲を囲うように配置されている。また、ハウジング82は、被記録媒体P側の面が開放されている。つまり、ハウジング82の記録媒体側の面は、開口状態となっており、熱陰極管80から射出された光は、ハウジング82の開口を通過して、被記録媒体Pを照射する。
【0043】
冷却機構84は、前述のような冷却ファン,ブロア等の送風機であり、ハウジング82内の熱陰極管80の被記録媒体側とは反対側(つまり、図1中の熱陰極管80の上側)に配置されている。冷却機構84は、熱陰極管80に向けて風を送ることで、熱陰極管80を冷却する。
冷却機構84は、さらに、熱陰極管80の温度を検出する温度センサを有し、風量、風を送る時間を調整し、冷却量(送風量,送風時間等)を調整することで、熱陰極管80の温度を一定温度に保持する。
なお、ハウジング82には、冷却機構84が熱陰極管80に送る空気を吸気するための開口を上部または側面に形成することが好ましい。
紫外線照射ユニット52は、基本的に以上のように構成されている。
【0044】
次に、被記録媒体上にインク液滴を吐出させ画像を記録する画像記録部16および画像記録部16で被記録媒体上に形成された画像を硬化させ、被記録媒体上に定着する画像定着部18について説明する。
【0045】
画像記録部16は、記録ヘッドユニット46と、インクタンク50とを有する。
記録ヘッドユニット46は、記録ヘッド48X,48Y,48C,48M,48K(以下、これらの5つの記録ヘッドをまとめて示す場合には、単に「各記録ヘッド48」ともいう)を有する。
なお、記録ヘッドユニット46としては、フルライン方式以外のもの、具体的にはシャトルスキャン方式のもの等も用いることができることは言うまでもない。
各記録ヘッド48は、被記録媒体Pの搬送方向の上流から下流に向かって、記録ヘッド48X,記録ヘッド48Y,記録ヘッド48C,記録ヘッド48M,記録ヘッド48Kの順に配置されている。また、各記録ヘッド48は、それぞれのインク吐出部の先端が被記録媒体Pの搬送経路に対向して、つまり、搬送部12により搬送経路上を搬送される被記録媒体Pに対向して(以下、単に「被記録媒体Pに対向して」ともいう)配置されている。
【0046】
各記録ヘッド48は、被記録媒体Pの搬送方向に対して直交する方向、つまり、被記録媒体Pの幅方向の全域に一定間隔で多数の吐出口(ノズル,インク吐出部)が配置されたフルライン型であり、かつ、ピエゾ型のインクジェットヘッドであり、後述する制御部20およびインクタンク50に接続されている。各記録ヘッド48は、制御部20によりインク液滴の吐出量、吐出タイミングが制御される。また、記録ヘッド48X,48Y,48C,48M,48Kは、それぞれ特色(X),イエロー(Y),シアン(C),マゼンダ(M),ブラック(K)のインクを吐出する。
搬送部12により被記録媒体Pを搬送しつつ、各記録ヘッド48から特色(X),イエロー(Y),シアン(C),マゼンダ(M),ブラック(K)のそれぞれの色インクを被記録媒体Pに向けて吐出することにより被記録媒体P上にカラー画像を形成することができる。
【0047】
本実施形態では、記録ヘッドをピエゾ素子(圧電素子)方式としたが、これに限定されず、ピエゾ方式に代えて、ヒーターなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式の記録ヘッドを適用することも可能である。
ここで、記録ヘッド48Xから吐出させる特色インクとしては、白,橙,紫,緑等の種々のインクを用いることができる。なお、記録ヘッド48Xから吐出させるインクは、1色に限定されず、複数色としてもよい。また、各記録ヘッド48の配置順序は、本実施形態に限定されず種々の配置順序とすることができる。
なお、本実施形態の記録ヘッドから吐出されるインクは、紫外線硬化型インクである。
【0048】
インクタンク50は、各記録ヘッド48に対応して設けられている。各インクタンク50は、記録ヘッドに対応して各色のインクが貯蔵しており、貯蔵しているインクを対応している各記録ヘッド48に供給する。
【0049】
また、被記録媒体の画像が形成されない面側の各記録ヘッド48に対向する位置には、板状のプラテン56が配置されている。
プラテン56は、各記録ヘッドに対向する位置を搬送される被記録媒体Pを、画像が形成されない面側、つまり、被記録媒体Pの記録ヘッドユニット46が配置されている面とは反対側の面から支持する。これにより被記録媒体Pと各記録ヘッドとの距離を一定にすることができ、被記録媒体P上に高画質な画像を形成することができる。
なお、プラテン56の形状は、平板に限定されず、記録ヘッド側に凸の曲面形状としてもよい。この場合、各記録ヘッド48は、プラテンとの距離が一定となるように配置される。
【0050】
次に、画像定着部18は、先に説明した下塗り液半硬化部14の紫外線照射ユニットと同様に、本発明の光照射装置が適用される部分であり、ここでは、複数の紫外線照射ユニット52と、最終硬化用紫外線照射ユニット54とで構成され、記録ヘッドユニット46により被記録媒体P上に形成された画像に紫外線を照射し、画像(つまり、インク)を複数の紫外線照射ユニット52で半硬化させ、最終硬化用紫外線照射ユニット54で硬化させ、画像を定着させる。
【0051】
複数の紫外線照射ユニット52は、被記録媒体Pの搬送経路において、それぞれ記録ヘッド48X,48Y,48C,48Mの下流側に配置されている。さらに、最終露光用紫外線照射ユニット54は、被記録媒体Pの搬送経路において、記録ヘッド48Kの下流側に配置されている。つまり最終露光用紫外線照射ユニット54は、被記録媒体Pの搬送経路において、最も下流側に配置されている記録ヘッドの下流側に配置されている。
【0052】
つまり、各記録ヘッドと各紫外線照射ユニット52,最終露光用紫外線照射ユニット54とは、図1に示すように、搬送経路の上流から下流に向けて、記録ヘッド48X,紫外線照射ユニット52,記録ヘッド48Y,紫外線照射ユニット52,記録ヘッド48C,紫外線照射ユニット52,記録ヘッド48M,紫外線照射ユニット52,記録ヘッド48K,最終硬化用紫外線照射ユニット54の順に配置されている。
【0053】
ここで、紫外線照射ユニット52と、最終硬化用紫外線照射ユニット54とは、装置の大きさ,紫外線を照射する対象および硬化させる程度が異なるものである。具体的には、紫外線照射ユニット52は、各記録ヘッドにより形成された画像を半硬化させ、最終露光用紫外線ユニット54は、他の紫外線照射ユニットよりも強度の強い光を照射し、被記録媒体P上に塗布された下塗り液および各種インクの画像を確実に硬化させる点が異なるのみで、装置構成は、基本的に紫外線照射ユニット52と同様である。
なお、装置をより小型化、省エネ化、安価にできるため、本実施形態では、最終露光用紫外線ユニット54も紫外線照射ユニット52と同様の構成としたが、最終露光用紫外線照射ユニット54には、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ等、種々の紫外線光源を用いることもできる。
【0054】
次に、制御部20は、記録ヘッドユニット46の各記録ヘッド48と接続しており、入力装置22から送られた画像データを描画信号とし、各記録ヘッド48のインク吐出/非吐出を制御し、被記録媒体P上に画像を形成させる。
インクジェット記録装置10は基本的に以上のように構成されている。
【0055】
ここで、下塗り液の半硬化およびインクの半硬化について説明する。
本発明において、「下塗り液の半硬化」とは、部分的な硬化(partially cured; partial curing)を意味し、下塗り液が部分的に硬化しているが完全に硬化していない状態をいう。なお、被記録媒体(基材)P上に塗布された下塗り液が半硬化している場合、下塗り液の深さ方向における硬化の程度は不均一であってもよく、下塗り液は深さ方向に硬化が進んでいることが好ましい。ここで、本実施形態において、半硬化させる下塗り液は、下塗り層を形成している下塗り液である。
【0056】
例えば、空気中または部分的に不活性ガスで置換した空気中で、ラジカル重合性の下塗り液を硬化させると、酸素のラジカル重合抑制作用のために、下塗り液の表面においてラジカル重合が阻害される傾向がある。この結果、深さ方向における硬化の程度は不均一となり、下塗り液の内部でより硬化が進行し、表面の硬化が遅れる傾向となる。
【0057】
本発明において、ラジカル光重合性の下塗り液を、ラジカル重合抑制的な酸素の共存下で使用して、部分的に光硬化することで、下塗り液の硬化度は外部よりも内部の方が高くすることができる。
【0058】
また、湿気を有する空気中で、カチオン重合性の下塗り液を硬化させる場合にも、水分のカチオン重合阻害作用があるために、下塗り液の内部でより硬化が進行し、表面の硬化が遅れる傾向となる。
このカチオン重合性の下塗り液を、カチオン重合阻害作用がある湿度条件下で使用して、部分的に光硬化することでも、下塗り液の硬化度は外部よりも内部の方が高くすることができる。
【0059】
このように、下塗り液を半硬化させ、半硬化の状態の下塗り液上にインク液を打滴させると、得られる印刷物の品質に好ましい技術的効果を得ることができる。また、その作用機構を印刷物の断面観察により確認できる。
【0060】
以下、下塗り液(つまり、下塗り液で被記録媒体上に形成された下塗り層)の半硬化について、詳細に説明する。なお、以下では、被記録媒体P上に設けられた、厚さが約5μmの厚さの半硬化状態の下塗り液上に約12pLのインク液(つまり、インク液滴)を打滴した場合の高濃度部分を一例として説明する。
図8は、半硬化された下塗り液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図であり、図9(A)及び(B)は、それぞれ未硬化状態の下塗り液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図であり、図9(C)は、所望の半硬化状態よりも硬化が進んだ状態から完全に硬化された状態の下塗り液上にインク液を打滴し、ベタを形成した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【0061】
本発明によれば、下塗り液は半硬化されることで、被記録媒体P側の硬化度が表面層の硬化度よりも高くなる。この場合には、3つの特徴が観察される。すなわち、図8に示すように半硬化された下塗り液Uにインク液dを打滴すると、(1)インク液dの一部は、下塗り液Uの表面に出ている、(2)インク液dの一部は下塗り液Uに潜り込んでいる、かつ、(3)インク液dの下側と被記録媒体Pの間には下塗り液が存在する。
このように、下塗り液にインク液を打滴した時、下塗り液とインク液とが上記の(1)、(2)および(3)の状態を満たす場合には、下塗り液が半硬化状態であると言える。
下塗り液を半硬化させること、つまり、上記の(1)、(2)および(3)を満たすように下塗り液を硬化させることで、高密度に打液されたインク液(つまり、インク液滴)が相互に繋がってインク液の膜層(つまり、インク液膜、インク層)を形成し、均一で高い色濃度を与える。
【0062】
これに対して、未硬化状態の下塗り液にインク液を打滴した場合は、図9(A)に示すようにインク液dの全部が下塗り液Uに潜り込むか、および/または、図9(B)に示すようにインク液dの下層には下塗り液Uが存在しない状態となる。
この場合は、高密度にインク液を付与しても、液滴同士が独立するため、色濃度が低下する原因となる。
【0063】
また、完全に硬化した下塗り液にインク液を打滴した場合は、図9(C)に示すように、インク液dは下塗り液Uに潜り込まない状態となる。
この場合は、打滴干渉が発生し、均一なインク液の膜層が形成できず、色再現性を高くすることができない(つまり、色再現性の低下を招く)。
【0064】
ここで、高密度にインク液の液滴を付与した場合に液滴同士が独立することなく、均一なインク液の膜層を形成する観点、および、打滴干渉の発生を抑制する観点から、単位面積当たりの下塗り液(つまり、下塗り層)の未硬化部の量は、単位面積当たりに付与するインク液の最大液滴量よりも少ないことが好ましく、十分に少ないことがより好ましい。すなわち、下塗り液層の未硬化部の単位面積当たりの重量M(M(下塗り液)ともいう。)と単位面積当たりに吐出するインク液の最大重量m(m(インク液)ともいう)との関係は、(m/30)<M<mを満たすことが好ましく、(m/20)<M<(m/3)を満たすことがさらに好ましく、(m/10)<M<(m/5)を満たすことが特に好ましい。ここで、単位面積当たりに吐出するインク液の最大重量とは、1色当たりの最大重量である。
(m/30)<Mとすることで打滴干渉の発生を防止でき、さらに、ドットサイズ再現性を高くすることができる。また、M<mとすることで、インク液の液層を均一に形成でき、濃度の低下を防止できる。
【0065】
ここで、単位面積当たりの下塗り液の未硬化部の重量は、転写試験により求めるものである。具体的には、半硬化過程の終了後(例えば、活性エネルギー線の照射後)であってインク液滴を打滴する前に、普通紙などの浸透媒体を半硬化状態の下塗り液に押し当てて、浸透媒体に転写した下塗り液の量を重量測定によって測定し、測定した値を下塗り液の未硬化部の重量と定義するものである。
例えば、インク液の最大吐出量を、600×600dpiの打滴密度で、1画素当たり12ピコリットルとすると、単位面積当たりに吐出するインク液の最大重量mは、0.04g/cmとなる(なお、インク液の密度は、約1.1g/cmとする)。従って、この場合は、下塗り液の単位面積当たりの未硬化部の重量Mを、0.0013g/cmより大きく0.04g/cm未満とすることが好ましく、0.002g/cmより大きく0.013g/cm未満とすることがさらに好ましく、0.004g/cmより大きく0.008g/cmとすることが特に好ましい。
【0066】
次に、本発明において、「インクの半硬化」とは、下塗り液の場合と同様に、部分的な硬化(partially cured; partial curing)を意味し、インク液(つまり、インク、着色液)が部分的に硬化しているが完全に硬化していない状態をいう。なお、下塗り液上に吐出されたインク液が半硬化している場合、硬化の程度は不均一であってもよく、インク液は深さ方向に硬化が進んでいることが好ましい。ここで、本実施形態において、半硬化させるインク液は、下塗り層または被記録媒体に着弾しインク層を形成するインク液滴である。
【0067】
インク液を半硬化させ、半硬化の状態のインク液上にこれとは色相の異なるインク液を打滴させると、得られる印刷物の品質に好ましい技術的効果を得ることができる。また、その作用機構を印刷物の断面観察により確認できる。
【0068】
以下、インク液(つまり、被記録媒体または下塗り層上に着弾させたインク液滴、または着弾させたインク液滴により形成したインク層)の半硬化について説明する。
図10は、半硬化されたインク液d上にインク液dを打滴した被記録媒体を示す模式的断面図であり、図11(A)及び(B)は、それぞれ未硬化状態のインク液d上にインク液dを打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図であり、図11(C)は、完全に硬化させた状態のインク液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【0069】
インク液dを打滴した後に、インク液dの上にインク液dを打滴して2次色を形成する時は、半硬化状態のインク液d上にインク液dを付与することが好ましい。
ここで、インク液dの半硬化状態とは、上述した下塗り液の半硬化状態と同様であり、図10に示すように、インク液d上にインク液dを打滴した場合に、(1)インク液dの一部がインク液dの表面に出ており、(2)インク液dの一部がインク液dに潜り込み、かつ、(3)インク液dの下層にはインク液dが存在する状態である。
このようにインク液を半硬化させることで、インク液dの硬化膜(着色膜A)およびインク液dの硬化膜(着色膜B)を好適に積層させることができ、良好な色再現が可能となる。
【0070】
これに対して、未硬化状態のインク液d上にインク液dを打滴した場合は、図11(A)に示すようにインク液dの全部がインク液dに潜り込むか、および/または、図11(B)に示すようにインク液dの下層にはインク液dが存在しない状態となる。この場合は、高密度にインク液d液滴を付与しても、液滴同士が独立するため、2次色の彩度低下の原因となる。
【0071】
また、完全に硬化したインク液d上にインク液dを打滴した場合は、図11(C)で示すようにインク液dはインク液dに潜り込まない状態となる。この場合は、打滴干渉の発生の原因となり、均一なインク液の膜層が形成できず、色再現性の低下を招く。
【0072】
ここで、高密度にインク液dの液滴を付与した場合に液滴同士が独立することなく、均一なインク液dの膜層を形成する観点、および、打滴干渉の発生を抑制する観点から、単位面積当たりのインク液dの未硬化部の量は、単位面積当たりに付与するインク液dの最大液滴量よりも少ないことが好ましく、十分に少ないことがより好ましい。すなわち、インク液d層の未硬化部の単位面積当たりの重量Mda(M(インク液A)ともいう)と単位面積当たりに吐出するインク液の最大重量mdb(m(インク液B)ともいう)との関係は、(mdb/30)<Mda<mdbを満たすことが好ましく、(m(db/20)<Mda<(mdb/3)を満たすことがさらに好ましく、(mdb/10)<Mda<(mdb/5)を満たすことが特に好ましい。
(mdb/30)<Mdaとすることで打滴干渉の発生を防止でき、さらに、ドットサイズ再現性を高くすることができる。また、Mda<mdbとすることで、インク液dの膜層を均一に形成ができ、濃度の低下を防止できる。
【0073】
ここで、単位面積当たりのインク液dの未硬化部の重量は、上述した下塗り液の場合と同様に、転写試験により求めるものである。具体的には、半硬化過程の終了後(例えば、活性エネルギー線の照射後)であってインク液dの液滴を打滴する前に、普通紙などの浸透媒体を半硬化状態のインク液d層に押し当てて、浸透媒体に転写したインク液dの量を重量測定によって測定し、測定した値をインク液の未硬化部の重量と定義するものである。
例えば、インク液dの最大吐出量を、600×600dpiの打滴密度で、1画素当たり12ピコリットルとすると、単位面積当たりに吐出するインク液dの最大重量mdbは、0.04g/cmとなる(なお、インク液dの密度は、約1.1g/cm3とする)。従って、この場合は、インク液d層の単位面積当たりの未硬化部の重量Mdaを、0.0013g/cmより大きく0.04g/cm未満とすることが好ましく、0.002g/cmより大きく0.013g/cm未満とすることがさらに好ましく、0.004g/cmより大きく0.008g/cm未満とすることが特に好ましい。
【0074】
前記下塗り液および/またはインク液の半硬化状態を活性エネルギー線の照射や加熱によって開始する重合性化合物の重合反応によって実現する場合は、印刷物の擦過性を向上させる観点から、非重合率(つまり、A(重合後)/A(重合前))は、0.2以上0.9以下であることが好ましく、0.3以上0.9以下であることがより好ましく、0.5以上0.9以下であることが特に好ましい。
【0075】
ここで、A(重合前)は、重合反応前の重合性基による赤外吸収ピークの吸光度であり、A(重合後)は、重合反応後の重合性基による赤外吸収ピークの吸光度である。
例えば、下塗り液および/またはインク液の含有する重合性化合物がアクリレートモノマーもしくはメタクリレートモノマーである場合は、810cm−1付近に重合性基(アクリレート基、メタクリレート基)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸光度で、前記非重合率を定義することが好ましい。また、重合性化合物がオキセタン化合物である場合は、986cm−1付近に重合性基(オキセタン環)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸収光度で、前記非重合率を定義することが好ましい。重合性化合物がエポキシ化合物である場合は、750cm−1付近に重合性基(エポキシ基)に基づく吸収ピークが観測でき、該ピークの吸収光度で、前記非重合率を定義することが好ましい。
【0076】
また、赤外吸収スペクトルを測定する手段としては、市販の赤外分光光度計を用いることができ、透過型および反射型のいずれでも良く、サンプルの形態で適宜選択することが好ましい。例えば、BIO−RAD社製赤外分光光度計FTS−6000を用いて測定することができる。
【0077】
また、エチレン性不飽和化合物または環状エーテルに基づく硬化反応の場合には、非重合率をエチレン性不飽和基または環状エーテル基の反応率により定量的に測定することができる。
【0078】
また、下塗り液および/またはインク液を半硬化させる方法としては、(1)酸性ポリマーに対して、塩基性化合物を付与する、または塩基性ポリマーに対して、酸性化合物、金属化合物を付与するなど、いわゆる凝集現象を用いる方法、(2)下塗り液および/またはインク液を予め高粘度に調製し、これに低沸点有機溶媒を添加することによって低粘化しておき、低沸点有機溶媒を蒸発させて元の高粘度に戻す方法、(3)高粘度に調製した下塗り液および/またはインク液を加熱しておき、冷却することによって元の高粘度に戻す方法、(4)下塗り液および/またはインク液に活性エネルギー線または熱を与えて硬化反応を起こさせる方法など、既知の増粘方法が挙げられる。中でも(4)下塗り液および/またはインク液に活性エネルギー線または熱を与えて硬化反応を起こさせる方法が好ましい。
【0079】
なお、活性エネルギー線または熱を与えて半硬化反応を起こさせる方法とは、被記録媒体に付与された下塗り液および/またはインク液の表面における重合性化合物の重合反応を不充分に行なう方法である。前記下塗り液および/またはインク液の表面においてはその内部と比べて空気中の酸素の影響で重合反応が阻害され易い。したがって活性エネルギー線または熱の付与条件を制御することにより、下塗り液および/またはインク液の半硬化反応を起こさせることができる。
【0080】
下塗り液および/またはインク液の半硬化に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、活性エネルギー線によりエネルギーを付与する場合には、一般には1〜500mJ/cm程度が好ましい。また、加熱によりエネルギーを付与する場合は、被記録媒体の表面温度が40〜80℃の温度範囲となる条件で0.1〜1秒間加熱することが好ましい。
【0081】
活性光や加熱などの活性エネルギー線または熱の付与により、重合開始剤の分解による活性種の発生が促進されると共に、活性種の増加や温度上昇により、活性種に起因する重合性または架橋性材料の重合もしくは架橋による硬化反応が促進される。
また、増粘(粘度上昇)も、活性光の照射、または加熱によって好適に行なうことができる。
【0082】
次に、インクジェット記録装置10の作用、つまり、被記録媒体Pへの記録動作を説明することで、本発明の光照射装置およびそれを用いたインクジェット記録装置についてより詳細に説明する。
図12(A)〜(D)は、それぞれ被記録媒体上に画像を形成する工程を模式的に示す工程図である。
【0083】
まず、供給ロール30から送り出された被記録媒体Pは、搬送ロール32および搬送ロール対34の回転により所定方向(図1中、Y方向)に搬送される。ここで、本実施形態の被記録媒体Pは、上述したように、一定以上の長さの連続紙であり、被記録媒体Pが切れ目なく搬送される。
【0084】
供給ロール30から引き出された被記録媒体Pは、図12(A)に示すように、下塗部13の塗布ロール60と接触し、表面に下塗り液が塗布され、下塗り層Uが形成される。ここで、塗布ロール60は、駆動部62により被記録媒体Pの搬送方向と逆方向に回転させられている。
【0085】
下塗り液が塗布され、下塗り層Uが形成された被記録媒体Pは、搬送部12の搬送ロール32および搬送ロール対34によりさらに搬送され、下塗り液半硬化部14に対向する位置を通過する。
図12(B)に示すように、下塗り液半硬化部14は、対向する位置を通過する下塗り液が塗布された被記録媒体Pに紫外線を照射し、被記録媒体P上の下塗り層Uを半硬化させる。
【0086】
下塗り液を半硬化した被記録媒体Pは、搬送部12の搬送ロール32および搬送ロール対34によりさらに搬送され、記録ヘッド48Xに対向する位置を通過する。
記録ヘッド48Xは、吐出口からインク液滴を吐出させ、搬送部12により搬送され対向する位置を通過する被記録媒体P上に画像を形成する。
具体的には、記録ヘッド48Xは、被記録媒体P上に第1のインク液滴d1を吐出させる。記録ヘッド48Xから吐出された第1のインク液滴d1は、図12(C)に示すように、下塗り層Uの表面に着弾する。ここで、下塗り層Uは、半硬化状態であり、表面が硬化していないため、インク液滴d1となじみやすい。
また、図12(D)に示すように、先に打滴した第1のインク液滴d1の着弾位置近傍に、第2のインク液滴d2を打滴する。この時も、下塗り層Uは、半硬化状態であり、表面が硬化していないため、インク液滴d2となじみやすい。
【0087】
このように、インク液滴d1とインク液滴d2とを被記録媒体P上の近傍に着弾させた場合は、インク液滴d1とインク液滴d2とを合一しようとする力が働くが、下塗り層Uが半硬化されており、粘度が高くなっているため、インク液滴間の合一に対する抵抗力となることにより被記録媒体Pに着弾したインク液滴同士の干渉が抑制される。
このように記録ヘッド48Xから制御部20による制御に応じて、複数のインク液滴を吐出し、被記録媒体P上に着弾させることにより画像を形成する。
【0088】
記録ヘッド48Xにより画像が形成された被記録媒体Pは、搬送部12によりさらに搬送され、記録ヘッド48Xの下流に配置された紫外線照射ユニット52に対向する位置を通過する。
紫外線照射ユニット52は、対向する位置を通過する被記録媒体Pに紫外線を照射し、記録ヘッド48Xにより被記録媒体P上に形成された画像を半硬化、つまり、被記録媒体上に着弾したインク液滴を半硬化させる。
【0089】
ここで、紫外線照射ユニット52には、図2(A)及び(B)に示したように、熱陰極管80の両端のそれぞれの電極88の上方の近傍に小型ファン84を配置して、これを適宜の回転数で回転させることにより、電極88で発生する熱を発散させるように構成している。このような構成とすることにより、電極88で発生する熱を空冷・発散させて、電極88の温度を、ゲッター89並びにこれを装着している部材が蒸発しない範囲内に低く抑えて、蒸発した材料がバルブ86の内面などに付着してバルブ86の内面を黒化させるという問題を解消している。
【0090】
その後、被記録媒体Pは、さらに搬送され、記録ヘッド48Y、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48C、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48M、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48Kの順に対向する位置を通過する。被記録媒体Pは、各色の記録ヘッドおよび紫外線照射ユニットに対向する位置を通過する毎に、記録ヘッド48Xおよび紫外線照射ユニット52に対向する位置を通過した場合と同様にして、画像が形成され、形成された画像が半硬化される。
【0091】
被記録媒体Pは、記録ヘッド48Kにより画像が形成された後に、最終硬化用紫外線照射ユニット54に対向する位置を通過する。
最終硬化用紫外線照射ユニット54は、他の紫外線照射ユニットよりも強度の強い紫外線を被記録媒体P上に照射し、記録ヘッド48Kにより記録された画像を含む各種ヘッドで形成された被記録媒体P上の画像および下塗り液を硬化させる。
このようにして被記録媒体P上にカラー画像が形成される。
カラー画像が形成された被記録媒体Pは、搬送ロール32および搬送ロール対34によりさらに搬送され、回収ロール36により巻き取られる。
インクジェット記録装置10は、このようにして被記録媒体P上に画像を形成する。
【0092】
インクジェット記録装置10は、各色の画像形成工程中の紫外線照射ユニット52の熱陰極管80の両端のそれぞれの電極88の上方の近傍に小型ファン84を配置して、これを適宜の回転数で回転させることにより、電極88で発生する熱を発散させるように構成している。このような構成とすることにより、電極88で発生する熱を発散させて、電極88の温度を、ゲッター89並びにこれを装着している部材が蒸発しない範囲内に低く抑えて、蒸発した材料がバルブ86の内面などに付着してバルブ86の内面を黒化させるという問題を解消している。
【0093】
また、冷却機構84により、熱陰極管80の温度も一定に保持することで、熱陰極管80から射出される光の射出量が温度によって変化することを防止でき、射出される光の量を一定にすることができる。これにより、安定して一定の光量でインクおよび/または下塗液を半硬化または硬化させることができる。
ここで、冷却機構84は、熱陰極管80の表面、具体的には被記録媒体P側とは反対側の表面の温度を、30度以上60度以下とし、かつ変動を5度以内とすることが好ましい。温度を上記範囲内に保持することで、熱陰極管80から射出される光量を一定とし、かつ高出力とすることができる。
【0094】
また、被記録媒体P上に下塗り層を形成することで、被記録媒体上に着弾したインク液滴が被記録媒体にしみ込み、画像ににじみが生じることを防止でき、高画質な画像を形成することが可能となる。また、インク液滴との密着性が低い、つまり、着弾したインク液滴をはじいてしまう被記録媒体も用いることが可能となり、種々の被記録媒体への画像記録が可能となる。また、塗布ロール60を用い、さらに塗布ロール60を被記録媒体Pの搬送方向とは逆方向に回転させて、被記録媒体P上に下塗り液を塗布することで、塗布ロール60が被記録媒体Pに下塗り液を塗布した後、塗布ロール60が被記録媒体Pと離れるときに被記録媒体P上に塗布した下塗り液の表面を乱すことを防止でき、被記録媒体P上に面状が改善された下塗り層Uを形成することができる。
【0095】
さらに、本実施形態のように、下塗り液半硬化部により下塗り層を半硬化させることで、インク液滴が互いに重なり部分を有して被記録媒体上に着弾しても、下塗り液とインク液滴の相互作用により、これら隣接したインク液滴間の合一を抑えることができる。
つまり、被記録媒体上に半硬化した下塗り液の層を形成することにより、記録ヘッドから吐出されたインク液滴が被記録媒体上に近接して着弾した場合、例えば、単一色のインク液滴が重なり部分を有して被記録媒体上に着弾した場合や、色違いのインク液滴が重なり部分を有して被記録媒体上に着弾した場合もインク液滴が移動することを防止できる。
これにより、画像のにじみ、画像中の細線などの線幅の不均一および着色面の色ムラの発生を効果的に防止することができ、均一幅で先鋭なライン形成が可能であり、反転文字など打滴密度の高いインクジェット画像の記録を細線等の微細像を再現性よく記録することができる。つまり、被記録媒体により高画質な画像を形成することが可能となる。
【0096】
また、本実施形態のように、各記録ヘッド間に、紫外線照射ユニットを配置し、各記録ヘッドにより被記録媒体上に着弾させたインク液滴つまり画像を半硬化させることで、近接した位置に着弾した、異なる色のインク液滴が重なることや、着弾したインク液滴が移動することを防止できる。
【0097】
また、被記録媒体の搬送経路において、最下流側に配置された記録ヘッドに対応する紫外線照射ユニットを最終硬化用紫外線照射ユニットとし、他の紫外線照射ユニットよりも強い強度の紫外線を射出させることで、被記録媒体上に形成された画像を確実に硬化させることができる。
なお、装置をより小型化、省エネ化、安価にできるため、本実施形態では、最終露光用紫外線ユニット54も紫外線照射ユニット52と同様の構成としたが、最終露光用紫外線照射ユニット54には、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ等、種々の紫外線光源を用いることもできる。
【0098】
ここで、最終露光用紫外線照射ユニット54には、メタルハライドランプ,高圧水銀ランプを用いることも好ましい。つまり、インクジェット記録装置は、下塗り液および/またはインクを半硬化させる紫外線照射ユニットとしては、熱陰極管80を備える紫外線照射ユニットを用い、最終露光用紫外線照射ユニット54には、メタルハライドランプ,高圧水銀ランプ等を用いた構成とすることも好ましい。
最終露光用紫外線照射ユニット54にメタルハライドランプ,高圧水銀ランプ等を用いることで、装置は大型化するが、被記録媒体上の下塗り液およびインクにより強い光を照射することができ、より確実に下塗り液およびインクを完全に硬化させることができる。
【0099】
また、記録ヘッドのノズル詰まりを防止でき、印刷物を高速で作成することができ、好適に半硬化することができ、かつ、装置をより小型化、省エネ化、安価にできるため下塗り液および/またはインクを半硬化させる紫外線照射ユニットの全てに熱陰極管80を備える紫外線照射ユニットとすることが好ましいが、本発明はこれに限定されず、上記効果は低くなるが、少なくとも1つを熱陰極管80を備える紫外線照射ユニットとし、他の紫外線照射ユニットをメタルハライドランプ,高圧水銀ランプ等で構成してもよい。
【0100】
ここで、熱陰極管80は、熱陰極管80の照射面と被記録媒体Pとの最短距離hが、0.5mm以上1.5mm以下となる位置に配置することが好ましい。熱陰極管80を上記範囲を満たす位置に配置することで、効率よく被記録媒体Pに光を照射することができる。
さらに、ハウジング82は、上記hが0.5≦h<1.0の場合は、ハウジング82と被記録媒体Pとの最短距離Hが、H=hとなる位置に配置し、上記hが1.0≦hの場合は、H=1.0となる位置に配置することが好ましい。
ハウジング82を上記範囲を満たす位置に配置することで、熱陰極管80から射出され、被記録媒体P以外の部分を照射する光の量を低減することができる。
【0101】
また、紫外線照射ユニットは、記録ヘッドにより被記録媒体上にインク液滴が着弾された後、数百ミリ秒から5秒の間に紫外線を照射し、被記録媒体に着弾したインク液滴を半硬化させることが好ましい。
インク液滴の着弾後、数百ミリ秒から5秒の間にインク液滴を半硬化させることで、被記録媒体上のインク液滴の形状が崩れることを防止でき、高画質な画像を形成することができる。
【0102】
また、下塗り液は、粘度を10mPa・s以上500mPa・s以下とすることが好ましく、50mPa・s以上300mPa・s以下とすることがより好ましい。
下塗り液の粘度を、10mPa・s以上、より好ましくは、50mPa・s以上とすることで、上述したように、被記録媒体として、液体が付着しにくい被記録媒体にも下塗り液を塗布することが可能となる。
また、下塗り液の粘度を、500mPa・s以下、より好ましくは、300mPa・s以下とすることで、被記録媒体P上に形成する下塗り層の表面粗さをより確実に小さくすることができる。
【0103】
以下、具体的実施例とともにインクジェット記録装置10をより詳細に説明する。
本実施例では、熱陰極管80の電極の近傍に装着されたゲッターを有する光照射装置を用いるに当たって、熱陰極管80の両端のそれぞれの電極88の上方の近傍に、小型ファン84を配置して、これを適宜の回転数で回転させることにより、電極88で発生する熱を発散させるように構成している。このような構成とすることにより、電極88で発生する熱を発散させて、電極88の温度上昇を抑制することができるので、電極88の温度を、ゲッター89並びにこれを装着している部材が蒸発しない範囲内に低く抑えることが可能になり、蒸発した材料がバルブ86の内面などに付着してバルブ86の内面を黒化させるという問題を解消する。
【0104】
ここで、熱陰極管80として、バルブには、直径32mmの直線状の管を用い、蛍光体膜には、中心波長が365nmの光を発光する発光体を用いた。
また、熱陰極管80は、熱陰極管の照射面と被記録媒体Pとの最短距離hが1mmとなる位置に配置し、ハウジング82は、ハウジング82と被記録媒体Pとの最短距離Hが1mmとなる位置に配置した。また、記録ヘッドとしては、600dpiのインクジェットヘッドを用いた。
【0105】
上述の、熱陰極管80の構成をより詳細に説明すると、以下の通りである。
ガラスバルブ:ソーダ石灰ガラス(紫外域に吸収を持たない)
保護膜:アルミナ
蛍光体:SrB,Eu2+
封入ガス:アルゴン
ゲッター:Zr-Co-Rare Earths(サエスゲッター製St787)
なお、ここでは、ゲッターの装着は、陽極の一部を切り取り、陽極にリボン型ゲッターを溶接した。
【0106】
ゲッターの装着方式としては、これ以外にも、陽極の少なくとも一部の外面にリボン型ゲッターを重ねて溶接する方式、陰極および陽極に接しない状態でリボン型ゲッターを耐熱性の高い金属部品に溶接し、電極から0.1〜30mm離した位置に装着する方式等が適用できる。要は、活性化に必要な熱を得るために電極から30mm以内の位置に装着するようにすればよい。
【0107】
また、熱陰極管80の型としては、先に図2(A)及び(B)に示したような完全な円形状の蛍光体膜92を有さず、保護膜90と蛍光体膜92との間に透過率10%以下の反射膜を持ち、ランプ軸に平行な方向に長辺を持つ長方形型の反射膜と、蛍光体膜92の塗られていない開口面を持つ、アパーチャー型の熱陰極管を用いることも可能である。この場合には、上記開口面に対応する特定の方向に対する照射効率が向上する。
【0108】
図2(A)及び(B)に示した熱陰極管80では、図中に符号88+89で示すように、陽極88bにリボン型ゲッター89を溶接したものを用いている。
また、両端の電極88の近傍の上方に小型ファン84を配置して、これを適宜の回転数で回転させることにより、電極88で発生する熱を発散させるように構成している。このような構成とすることにより、電極88で発生する熱を発散させて、電極88の温度上昇を抑制することができるので、電極88の温度を、ゲッター89並びにこれを装着している部材が蒸発しない範囲内に低く抑えることが可能になり、蒸発した材料がバルブ86の内面などに付着してバルブ86の内面を黒化させるという問題は発生しない。
【0109】
これについて具体的な実験結果を、図4〜図7を用いて説明する。
図4は、上述の、陽極88bにリボン型ゲッター89を溶接した熱陰極管80の初期の幅方向における発光強度分布を示すグラフである。図から明らかなように、熱陰極管80の幅方向における発光強度分布は、きわめて均一性が高い。これは、図5に示した発光ダイオード(LED)の場合と比較すると、より明確になる。発光ダイオード(LED)の場合には、個体差があることにより、熱陰極管80のような、高度の均一性を得ることは困難である。
【0110】
また、図6は、図4に示した熱陰極管80を、ゲッター89を装着した電極88近傍へのゲッター冷却用ファン84なしで、所定のエージングを行った後における熱陰極管80の幅方向における発光強度分布を示すグラフである。図6と図4のグラフを比較すると、電極88へのゲッター冷却用ファン84の配置なしで、所定のエージングを行った場合(図6)には、端部(つまり、電極近傍)における発光強度の明確な低下(特に、図6中の右側)が認められる。
【0111】
これに対して、ゲッター89を装着した電極88近傍へゲッター冷却用ファン84を配置したものでは、所定のエージングを行った後における熱陰極管80の幅方向における発光強度分布は、図7に示すグラフのようになる。図7と図4のグラフを比較すると、ゲッター89を装着した電極88近傍にゲッター冷却用ファン84の配置したものでは、所定のエージングを行った場合でも、端部(つまり、電極近傍)における発光強度の低下はほとんど認められない。すなわち、ゲッター89を装着した電極88近傍にゲッター冷却用ファン84を配置したことにより、ゲッターやこれを吸着・保持している保持部材の蒸発に起因する、熱陰極管80の発光強度の低下が略完全に防止されている。
【0112】
なお、ゲッター89を装着した電極88近傍へゲッター冷却手段を配置することによる熱陰極管80の発光強度の低下防止効果は、上述のような電極88近傍へゲッター冷却用ファン84を配置したもの以外にも、先に図3に示したような、ゲッター89を装着した電極88近傍へのゲッター冷却用ヒートパイプ94を配置するという方式によっても、略同様に得ることが可能である。
【0113】
以下、総合的に見た、インクジェット記録装置におけるゲッター冷却手段の配置の有無による画像形成時の特性の比較につき、具体例を用いて説明する。
【0114】
表1は、先に説明した各種のインクジェット記録装置におけるゲッター冷却手段の配置の有無による画像形成時の特性の変化状況をまとめたものである。ここでは、インクジェット記録装置として特許文献2に記載の装置を用いた場合(1)、インクジェット記録装置として特許文献3に記載の装置を用いた場合(2)、さらにインクジェット記録装置として本実施形態の装置を用いた場合(3)を比較する。
【0115】
なお、特許文献2に記載の装置とは、光硬化性のインクを吐出するノズルを有する記録ヘッドと、記録媒体の搬送方向においてヘッドより下流に配置されて、記録媒体に着弾したインクに対してLEDアレイからの光を照射し、インクを半硬化させる光照射装置とを有する画像記録装置であり、特許文献3に記載の装置とは、インクジェットヘッドにより塗設した、実質上透明な活性光線硬化型インク層に活性光線を照射し、その後、色材を含んだ活性光線硬化型インク滴を吐出して画像を形成するようにしたインクジェット記録装置である。
【0116】
また、ここでいう本実施形態の装置とは、被記録媒体Pを搬送する搬送部12と、被記録媒体Pに下塗り液を塗布する下塗部13と、被記録媒体Pに塗布された下塗り液を半硬化させる下塗り液半硬化部14と、被記録媒体P上に画像を記録する画像記録部16と、被記録媒体P上に記録された画像を定着させる画像定着部18等を有するインクジェット記録装置である。なお、比較のために、場合(3)には、記録媒体に着弾したインクに対してLEDアレイからの光を照射する場合を加えている。
【0117】
【表1】

【0118】
ここでの評価項目と、その評価方法と判定基準は、下記の通りである。
(1)色ムラ:Gretag社製のSpectrolinoによる色濃度評価、単色ベタ(均一濃度)画像形成時のODが±5%以内を○、特定個所で、または、不特定個所で(全体的に)ODが±5%以上の差がある場合を×としている。
(2)しわ発生:目視評価、○はしわなし、△は特定個所でしわ発生、×は不特定個所で(全体的に)発生する場合を示している。
【0119】
(3)色ずれ:目視評価、○は色ずれなし、△は特定個所で色ずれ発生、×は不特定個所で(全体的に)発生する場合を示している。
(4)長期安定性:○は3ヶ月稼動後も、初期と同じ画質が得られることを、△は特定個所で画質が低下することを、×は不特定個所で(全体的に)画質が低下する場合を示している。
(5)膜強度:ギターピックで5回擦ったときの膜強度を評価した。○は膜剥がれ・破れなしを、△は特定個所で発生する場合を、×は不特定個所で(全体的に)発生する場合を示している。
【0120】
表1から明らかなように、熱陰極管の電極にガスや不純物を吸着するゲッターを用いる場合にこの近傍にゲッターの冷却手段を配置することにより、インクを半硬化させるための光照射光源の種類に関わらず、高出力を得るために放電電流を増加させた場合にも、光源の発光強度の経時的変化を抑制することが可能になる。より具体的には、本発明に係る光照射装置においては、高出力を得るために放電電流を増加させても、長期間安定した光強度分布を維持しつつ、蛍光灯の長寿命化を実現することが可能になる。
【0121】
なお、上記実施形態では、冷却機構をハウジングに設置したが、本発明はこれに限定されず、熱陰極管を冷却できればよく、紫外線照射ユニットがハウジングを設けない構成の場合は、冷却機構を単独で配置すればよい。
また、本実施形態では、記録ヘッドユニットを、特色(X)と、YCMKの5色としたが、単にYCMKの4色、さらに他の特色のヘッドを有する6色以上の構成等の種々の組み合わせのヘッドとすることができる。また、各色の記録ヘッドの配置順も特に限定されず、任意の順番とすることができる。
さらに、記録ヘッドを複数配置することに限定されず、1つの記録ヘッドを用いて被記録媒体上に画像を形成し、その後、紫外線を照射して、単色の画像を形成するインクジェット記録装置としてもよい。
【0122】
次に、本発明のインクジェット記録装置を用いたデジタルラベル印刷装置について説明する。
図13は、本発明のインクジェット記録装置を用いたデジタルラベル印刷装置の一例の概略構成を示す正面図であり、図14は、図13に示すデジタルラベル印刷装置に用いるラベル印刷用被記録媒体Pの縦断面図である。
【0123】
本実施形態のデジタルラベル印刷装置は、連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pに描画部により画像を記録した後、後処理部のダイカッタによってラベル形状の切込みを入れ、更に、不要部分の粘着シートを台紙(剥離紙)から剥離して除去するカス取り作業を後工程として行う実施形態である。
なお、以下の各実施形態においても、活性光線照射によって硬化する活性光線硬化型インクのうち紫外線硬化型インクを使用する活性光線硬化型デジタルラベル印刷装置を例に説明するが、これに限定されることはなく、各種活性光線硬化型インクを用いるデジタルラベル記録装置、さらに、他の任意の形式のデジタルラベル印刷装置に適用することができる。
また、本実施形態の被記録媒体Pは、図14に示すように、裏面に粘着剤180aが塗布された粘着シート180を、台紙である剥離紙182上に重ね合わせた2枚構造である。
【0124】
図13に示すようにデジタルラベル印刷装置100は、搬送部110と、下塗部13と、下塗り液半硬化部14と、画像記録部16および画像定着部18を備える描画部112と、後処理部114と、制御部116とを有する。
ここで、搬送部110は、連続紙状のラベル印刷用被記録媒体P(以下「被記録媒体P」という。)を、一定方向(図13中、左から右方向)に搬送するものであり、描画部112、後処理部114は、被記録媒体Pの搬送方向順、つまり上流から下流方向に、下塗部13、下塗り液半硬化部14、描画部112、後処理部114の順に配置されている。また、図13では一部の図示を省略しているが、制御部116は、下塗部13、下塗り液半硬化部14、搬送部110、描画部112、後処理部114と接続しており、各部の動作を制御する。
【0125】
搬送部110は、供給ロール30と、搬送ロール32、搬送ロール対126、128、130、132と、製品巻取部134と、搬送モータ128a、134aとを有する。
供給ロール30には、連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pがロール状に巻き取られている。
搬送ロール32および搬送ロール対126、128、130、132は、被記録媒体Pの搬送経路の上流から下流にこの順に配置されている。搬送ロール32、搬送ロール対126、128、130、132は、被記録媒体Pを供給ロール30から繰り出して、被記録媒体Pを所定方向(本実施形態では、図13中、左から右)に搬送する。
【0126】
また、被記録媒体Pの搬送経路は、上述のインクジェット記録装置10と同様に搬送ロール32で、斜め上方向から水平方向に搬送方向が変わる。
製品巻取部134は、被記録媒体Pの搬送経路、つまり搬送方向の最下流に配置され、搬送ロール32、搬送ロール対126、128、130、132により搬送経路上を搬送され、下塗部13、下塗り液半硬化部14、描画部112、後処理部114を通過した被記録媒体Pを巻き取る。
搬送モータ128a、134aは、それぞれ搬送ロール対128、製品巻取部134に接続しており、搬送ロール対128、製品巻取部134を回転駆動させる。
【0127】
つまり、本実施形態では、搬送モータ128a、134aに接続された搬送ロール対128と製品巻取部134が回転駆動し、被記録媒体Pを搬送する駆動ロールとなり、それ以外の搬送ロール32、搬送ロール対126、130、132は、被記録媒体Pの移動に応じて回転し、被記録媒体Pを搬送経路上に規制する従動ロールとなる。
搬送部110は、搬送モータ128a、134aを駆動させ、搬送ロール対128および製品巻取部134を回転駆動させる。これにより、被記録媒体Pは、供給ロール30から繰り出され、下塗部13、下塗り液半硬化部14、描画部112、後処理部114を通過し、製品巻取部134に巻き取られる。
【0128】
また、本実施形態では、描画部112と後処理部114との間に、搬送バッファが設けられている。
搬送バッファを設けることで、描画部112と後処理部114との搬送速度の差によって生じる連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pの弛みを吸収することができ、効率よくラベルを製造することができる。
【0129】
また、搬送モータ128a、134aは、後述する搬送モータ制御部195に接続されて回転速度が制御されており、搬送部110による連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pの搬送速度が制御される。
なお、駆動ロール対とする搬送ロール対は、特に限定されず、例えば、全ての搬送ロール対に搬送モータを設け、全ての搬送ロール対を駆動ロール対としてもよい。
【0130】
下塗部13は、上述したように塗布ロール60と、駆動部62、貯留皿64と、掻き取りロール66と、位置決め部68とを有する。下塗部13の各部の構成、機能は、上述したインクジェット記録装置10の下塗部13と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
下塗部13の塗布ロール60は、被記録媒体Pに搬送方向とは逆方向に回転されつつ、被記録媒体Pと接触し、被記録媒体Pの表面に下塗り液を塗布する。
これにより被記録媒体Pの表面には、下塗り層が形成される。
【0131】
下塗り液半硬化部14は、被記録媒体Pの搬送方向において、下塗部13の下流側に配置されている。下塗り液半硬化部14の構成、機能は、上述したインクジェット記録装置10の下塗り液半硬化部14と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
下塗り液半硬化部14、搬送部110により搬送されて対向する位置を通過する下塗り液が塗布され、下塗り層が形成された被記録媒体Pに紫外線を照射し、下塗り層を半硬化させる。
【0132】
描画部112は、画像記録部16と、画像定着部18とを有する。
画像記録部16と、画像定着部18の各種構成は、図1に示したインクジェット記録装置の、画像記録部16と、画像定着部18と同様であるのでその詳細な説明は省略する。
画像記録部16は、記録ヘッドユニット46の記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kを有し、画像定着部18は、4つの紫外線照射ユニット52と最終露光用紫外線照射ユニット52aを有する。
【0133】
また、記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kと紫外線照射ユニット52は、搬送経路の上流から下流に向けて、記録ヘッド48X、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48Y、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48C、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48M、紫外線照射ユニット52、記録ヘッド48K、最終硬化用紫外線照射ユニット52aの順に配置されているのも同様である。
描画部112は、各記録ヘッドからインク液滴を吐出させ、その後、各紫外線照射ユニット52により、紫外線を照射し被記録媒体P上のインク液滴を硬化させ、画像を形成する。
【0134】
後処理部114は、被記録媒体Pの搬送方向において、記録ヘッド48Kに対応する紫外線照射ユニット52aの下流側に配置されており、活性光線硬化型透明液(本実施形態では、紫外線硬化型透明液)を画像面に塗布して光沢を改善するためのニスコータ162および紫外線照射部164と、連続紙状の被記録媒体Pにラベル形状の切れ目を入れるダイカッタ166と、不要部剥離部であるカス取り部172とを有する。
なお、記録ヘッド48Kに対応する紫外線照射ユニット52aとニスコータ162との間には、上述したように搬送バッファが設けられている。
【0135】
ニスコータ162は、被記録媒体P表面に透明な活性光線(本実施形態では、紫外線)硬化型液(以下「活性光線硬化型透明液」または、単に「透明液」ともいう。)を供給する透明液供給手段であり、被記録媒体Pの搬送方向において、記録ヘッド48Kに対応する紫外線照射ユニット52aの下流側に配置されている。
ニスコータ162は、その表面に紫外線硬化型透明液が付着した(含浸された)一対の塗布ロールを有し、被記録媒体Pを挟持しつつ、被記録媒体Pの移動に対応して(同期して)回転することで、箔押しされた被記録媒体Pの表面(画像が形成されている面)に紫外線硬化型透明液を塗布する。
【0136】
ここで、ニスコータ162によって塗布される透明液は、紫外線照射により硬化可能な活性光線硬化型透明液であり、主成分として、少なくとも重合性化合物と光開始剤を含む、例えば、カチオン重合系組成物、ラジカル重合系組成物、水性組成物などである。詳しくは後述する。
【0137】
紫外線照射部164は、被記録媒体Pの搬送方向において、ニスコータ162の下流側に配置されている。紫外線照射部164は、活性光線(本実施形態では、紫外線)を被記録媒体Pに照射して、被記録媒体Pの表面に塗布された紫外線硬化型透明液を硬化させる。なお、紫外線照射部164としては、上述の紫外線照射ユニット52で示した各種構成を用いることができる。
被記録媒体Pの表面に紫外線硬化型透明液を塗布し、硬化することで、被記録媒体Pの画像面に光沢を付与することができ、画像品質を向上することができる。
【0138】
ダイカッタ166は、図14に示すように、印刷された連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pの粘着シート180のみに、所望のラベル形状の切れ目180bを入れるものであり、被記録媒体Pの搬送方向において、紫外線照射部164の下流側に配置され、被記録媒体Pの画像面側に配置されたシリンダカッタ168と、被記録媒体Pを挟んでシリンダカッタ168の反対側に配置された受けロール170とを有する。
シリンダカッタ168は、円筒形状のシリンダ168aと、シリンダ168aの円筒面上に巻き付けられ、ラベル状に形成された複数の切抜き刃168bとで構成される。
【0139】
ここで、ダイカッタ166は、間欠的に揺動させて、つまり、回転速度、回転方向を調整して、粘着シート180に切れ目を入れることが好ましい。
ダイカッタ166は、シリンダカッタ168と受けロール170とで被記録媒体Pを挟持しつつ、被記録媒体Pの搬送速度に同期して間欠的に揺動回転することにより、切抜き刃168bが被記録媒体Pの粘着シート180のみにラベル形状の切れ目を入れることができ、被記録媒体に効率よくラベルを作製することができる。
【0140】
カス取り部172は、ラベル(製品)Lとならない粘着シート180の不要部分(ラベルLの周辺部)を、剥離紙182から剥離させて巻き取る。
不要部分が巻き取られた被記録媒体P、つまり、ラベルLのみが剥離紙182に貼付された状態の被記録媒体Pは、製品巻取部134に巻き取られて製品とされる。
【0141】
制御部116は、記録ヘッドユニット46の記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kによるインク吐出のための記録用画像データを保存するメモリ、記録用画像データに基づいて記録ヘッドユニット46の記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kを駆動制御するヘッド駆動制御部、メモリ191に記憶された画像データに基づいてラベルLの形状を解析する画像データ解析部と、画像データ解析部により解析されたラベルLの形状に基づいて連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pの搬送速度を変更する搬送速度変更部、搬送速度変更部が変更した搬送速度に基づいて搬送モータ128a、134aの回転速度を制御する搬送モータ制御部、搬送速度変更部が変更した搬送速度に基づいてダイカッタ166の回転速度を制御するダイカッタ制御部等を有し、各記録ヘッドでのインク液滴の吐出タイミング、吐出量、搬送部による被記録媒体の搬送速度、ダイカッタによる被記録媒体の切断のタイミング等を調整する。
【0142】
次に、デジタルラベル印刷装置100によりラベルを作成する方法を説明する。
図13に示すように、ロール状に巻かれた供給ロール30から送り出された被記録媒体Pは、搬送部110により搬送され、下塗部13の塗布ロール60により下塗り液が塗布され、下塗り液半硬化部14により下塗り層が半硬化された後、描画部112に搬送される。
【0143】
描画部112に搬送された被記録媒体Pは、記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kに対向する位置を通過する。
【0144】
記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kは、制御部116による制御に基づいて、対向する位置を通過する被記録媒体Pに紫外線硬化型インクのインク液滴を吐出する。インクが吐出された被記録媒体Pは、さらに搬送され、紫外線照射ユニット52に対向する位置を通過し、紫外線が照射され、インクが硬化される。
つまり、被記録媒体Pは、記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kに対向する位置の通過時に、記録ヘッド48X、48Y、48C、48M、48Kから被記録媒体Pに向け、インク液滴が吐出され、その後、紫外線照射ユニット52から紫外線が照射され、インクが硬化される。また、記録ヘッド48Kにより画像が形成された後、最終硬化用紫外線照射ユニット54から紫外線が照射され、各種インクおよび下塗り液が確実に硬化される。これにより、被記録媒体Pの表面に画像が形成される。
【0145】
画像が形成された被記録媒体Pは、搬送バッファを経由して、後処理部114に搬送され、ニスコータ162により、被記録媒体Pの表面に紫外線硬化型透明液が塗布され、その後紫外線照射部164により硬化される。
紫外線硬化型透明液がコーティングされた被記録媒体Pは、ダイカッタ166に搬送され、シリンダカッタ168と、受けロール170によって粘着シート180にのみラベルLの形状に切れ目1bが入れられる。
このとき、ダイカッタ166は、上述したように、間欠的に揺動しながらラベルLの形状の切れ目180bを入れるので、切れ目180bを連続して形成することができ、被記録媒体Pに無駄になる部分が発生することはない。
【0146】
その後、被記録媒体Pの粘着シート180のラベルL以外の不要部分は、剥離紙182から剥離されてカス取り部172によって巻き取られる。ラベルLのみが剥離紙2上に貼付された状態の被記録媒体Pは、製品巻取部134に巻き取られて製品となる。
以上のようにして、ラベルが作成される。
【0147】
このように、デジタルラベル印刷装置100も、紫外線照射ユニットとして、上述した光照射装置を用いることで、メタルハライドランプや高圧水銀灯等の高出力の高価な光源を用いることなく、短時間でインクおよび下塗液を半硬化/硬化させることができ、製造速度を速くすることができる。また、画像形成部のインクジェットヘッドのノズル詰まりが発生することも防止できる。これにより、長時間安定して、高画質で高品質なラベルを高速で製造することができる。
【0148】
また、本実施形態のデジタルラベル印刷装置100によれば、図示されていない搬送速度変更部がラベル形状データに基づいて、不要部剥離に弱いラベル部分位置で被記録媒体Pの搬送速度を遅くして剥離処理することで、後処理時(カス取り時)におけるラベルLの千切れや破損を防止してラベル部分以外の不要部を確実に除去することができる。これにより、ラベルLの千切れや破損に起因する装置停止をなくして生産性を向上させ、ラベルLを安価に提供することができる。
【0149】
また、上記実施形態では、後処理部でダイカッタによりラベル形状の切れ目を入れたが、ダイカッタに替えてレーザーカッタにより印刷された連続紙状のラベル印刷用被記録媒体Pの粘着シート180のみに、所望のラベル形状の切れ目180bを入れてもよい。
【0150】
また、デジタルラベル印刷装置の下塗部13および描画部112とし、後処理部214とを、夫々独立した個別の装置としてもよい。つまり、デジタルラベル装置を下塗部および描画部を備える前処理装置と、後処理部を備える後処理装置とで構成し、前処理装置で、被記録媒体に画像を形成した後、被記録媒体を巻取り、次に、後処理装置に画像を形成した被記録媒体をセットし、被記録媒体に切れ目を入れ、不要部分を巻き取るようにして製品を製造してもよい。
【0151】
次に、本発明のインクジェット記録装置には、種々の被記録媒体、下塗り液およびインクを用いることができる。
例えば、被記録媒体としては、浸透性の被記録媒体、非浸透性の被記録媒体、および緩浸透性の被記録媒体のいずれも使用することができる。
浸透性の被記録媒体としては、例えば、普通紙、多孔質紙およびその他液を吸収できる被記録媒体が挙げられる。また、非浸透性ないし緩浸透性の被記録媒体としては、例えば、アート紙、合成樹脂、ゴム、樹脂コート紙、ガラス、金属、陶器および木材等が挙げられる。また本発明においては、機能付加の目的で、これら材質を複数組み合わせて複合化した被記録媒体も使用できる。
【0152】
また、インクとしては、少なくとも画像を形成するための組成となる構成であり、重合性または架橋性材料を少なくとも1種含み、必要に応じて重合開始剤、親油性溶剤、着色剤および他の成分を用いて構成され、活性エネルギー線が照射されることで硬化されるものを用いることができる。
また、下塗り液は、重合性または架橋性材料を少なくとも1種含み、必要に応じて重合開始剤、親油性溶剤、着色剤および他の成分を用いて構成される液体を用いることができる。また、下塗り液は、インクと組成が異なるように構成することが好ましい。
ここで、重合開始剤は、活性エネルギー線によって重合反応または架橋反応を開始させ得るものである。これにより、被記録媒体に付与された下塗り液を活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。
【0153】
また、下塗り液は、ラジカル重合性組成物を含むことが好ましい。ここで、本発明において、ラジカル重合性組成物とは、少なくとも1種のラジカル重合性材料と少なくとも1種のラジカル重合開始剤とを含む組成物である。下塗り液がラジカル重合性組成物を含むことで、下塗り液の硬化反応を高感度に短時間で行うことができる。
また、インクは、着色剤を含有するものであることが好ましい。また、このインクと組み合わせて用いられる下塗り液は、着色剤を含有しないもしくは着色剤の含有量が1質量%未満の構成、または、下塗り液が着色剤として白色顔料を含む構成のいずれかであることが好ましい。
【0154】
なお、上記実施形態は、本発明の一例を示したものであり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更や改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の一例の概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明に係る光照射装置の一例の概略構成を示す図であり、(A)は、熱陰極管の一例の概略構成を示す長手方向の断面図であり、(B)は、(A)に示す熱陰極管のB−B線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る光照射装置を用いたインクジェット記録装置に用いた光照射装置の他の一例の概略構成を示す図であり、熱陰極管の長手方向の断面図である。
【図4】熱陰極管の幅方向発光強度分布(初期)を示すグラフである。
【図5】LEDの幅方向発光強度分布を示すグラフである。
【図6】熱陰極管の幅方向発光強度分布(ゲッター冷却なし)を示すグラフである。
【図7】熱陰極管の幅方向発光強度分布(ゲッター冷却あり)を示すグラフである。
【図8】半硬化された下塗り液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【図9】(A)及び(B)は、それぞれ未硬化状態の下塗り液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図であり、(C)は、完全に硬化させた状態の下塗り液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【図10】半硬化されたインク液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【図11】(A)及び(B)は、それぞれ未硬化状態のインク液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図であり、(C)は、完全に硬化させた状態のインク液上にインク液を打滴した被記録媒体の一例を示す模式的断面図である。
【図12】(A)〜(D)は、被記録媒体上に画像を形成する工程を模式的に示す工程図である。
【図13】本発明のインクジェット記録装置を用いたデジタルラベル印刷装置の一例の概略構成を示す正面図である。
【図14】図13に示すデジタルラベル印刷装置に用いるラベル印刷用被記録媒体の縦断面図である。
【符号の説明】
【0156】
10 インクジェット記録装置
12 搬送部
13 下塗部
14 下塗り液半硬化部
16 画像記録部
18 画像定着部
20 制御部
22 入力装置
30 供給ロール
32 搬送ロール
34 搬送ロール対
36 回収ロール
46 記録ヘッドユニット
48X,48Y,48C,48M,48K 記録ヘッド
50 インクタンク
52,54 紫外線照射ユニット
56 プラテン
60 塗布ロール
62 駆動部
64 貯留皿
66 掻き取りロール
67 (掻き取りロール)駆動部
68 位置決め部
70,72 位置決めロール
80 熱陰極管
82 ハウジング
84 冷却機構(ファン)
86 バルブ
88 電極
88a 陰極
88b 陽極
89 ゲッター
90 保護膜
92 蛍光体膜
94 ヒートパイプ
100 ラベル印刷機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ内の少なくとも1つの電極の近傍にゲッターを装着した熱陰極管を用いる光照射装置であって、
前記熱陰極管に装着したゲッターを前記バルブの外部から冷却する冷却機構を有することを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
前記冷却機構が、ファンを用いる空冷方式によるものである請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記冷却機構が、ヒートパイプ方式によるものである請求項1に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記冷却機構が、ファンを用いる空冷方式によるものと、ヒートパイプ方式によるものとの両者を併用するものである請求項1に記載の光照射装置。
【請求項5】
被記録媒体を搬送する搬送手段と、
活性エネルギー線が照射されることにより硬化可能なインクを前記被記録媒体上に吐出して画像形成を行う画像形成手段と、
前記被記録媒体を搬送する搬送手段による被記録媒体の搬送路中の前記画像形成手段の下流側に、請求項1〜4のいずれかに記載の光照射装置が設置されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
被記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により搬送される前記被記録媒体上に下塗り液を付与する下塗り液付与手段と、
前記下塗り液付与手段の下流に配置され、エネルギーを付与することで前記下塗り液の内部のみを硬化させる下塗り液硬化手段と、
この下塗り液硬化手段の下流に配置され、活性エネルギー線の照射により硬化可能なインクを、下塗り液上に吐出して画像形成を行う画像形成手段と、
この画像形成手段の下流に配置され、画像形成されたインクにエネルギーを付与することでインクの内部のみを硬化させるインク半硬化手段と、
前記画像形成手段中の最下流の画像形成手段の下流に配置され、前記インクを完全硬化させる最終硬化手段とを有し、
前記下塗り液硬化手段およびインク半硬化手段として、請求項1〜4のいずれかに記載の光照射装置を用いることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−245881(P2009−245881A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93690(P2008−93690)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】