説明

光硬化型インク組成物、画像記録方法および画像記録装置

【課題】記録された画像において、耐光性および硬化性に優れ、かつ、含有する成分の溶解性に優れた光硬化型インク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係る光硬化型インク組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、紫外線吸収剤と、を含有する光硬化型インク組成物であって、前記重合性化合物は、式(1)で表される化合物を含み、前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系化合物を含み、前記紫外線吸収剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であり、前記光硬化型インク組成物により厚みが10μmの膜を形成した際の、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インク組成物、ならびにこれを用いた画像記録方法および画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線、電子線その他の光によって硬化する光硬化型インク組成物の開発が進められている。このような光硬化型インク組成物は、重合性化合物、重合開始剤、その他の添加剤等から構成されることが一般的である。また、光硬化型インク組成物を用いて画像を形成する場合には、例えば、インクジェット記録装置によって光硬化型インク組成物の液滴を被記録媒体上に付着させた後、適宜な光源を用いて、光を照射することにより、該液滴を硬化させて行われる。
【0003】
ところが、このような光硬化型インク組成物を用いて記録された画像は、耐光性に優れず、変色や退色等を生じる場合があった。このような問題に対して、特許文献1には、インクジェット記録材料(インク)にトリアジン系の紫外線吸収剤やヒンダードアミン系の光安定剤を含むポリマー等を添加することによって、耐光性を向上させることが記載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−123459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線吸収剤の添加された光硬化型インク組成物を用いて画像記録を行った際に、紫外線吸収剤が光の一部を吸収してしまい、光硬化型インク組成物の硬化性が低下したりする場合があった。
【0006】
また、重合開始剤の種類によっては、光硬化型インク組成物中での溶解性に優れない場合があった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、記録された画像の耐光性に優れ、かつ、硬化性および含有する成分の溶解性に優れた光硬化型インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明に係る光硬化型インク組成物の一態様は、
重合性化合物と、光重合開始剤と、紫外線吸収剤と、を含有する光硬化型インク組成物であって、
前記重合性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物を含み、
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系化合物を含み、
前記紫外線吸収剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であり、
前記光硬化型インク組成物により厚みが10μmの膜を形成した際の、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である、光硬化型インク組成物。
CH=CR−COOR−O−C …(1)
(一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rは、炭素数1〜5の2価の有機残基を表す。)
【0010】
適用例1の光硬化型インク組成物によれば、硬化性および含有する成分の溶解性に優れ、かつ、記録された画像の耐光性に優れる。
【0011】
[適用例2]
適用例1において、
前記一般式(1)で表される化合物は、フェノキシエチル(メタ)アクリレートであることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、10%質量以上60質量%以下であることができる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記アシルホスフィンオキサイド系化合物の含有量は、5質量%以上11質量%以下であることができる。
【0014】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか1項において、
前記紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物またはベンゾトリアゾール系化合物を含むことができる。
【0015】
[適用例6]
適用例5において、
前記トリアジン系化合物の含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下であることができる。
【0016】
[適用例7]
適用例6において、
前記光硬化型インク組成物により形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上であることができる。
【0017】
[適用例8]
適用例5において、
前記トリアジン系化合物は、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンであることができる。
【0018】
[適用例9]
適用例8において、
前記2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンの含有量は、1質量%以上1.5質量%以下である、光硬化型インク組成物。
【0019】
[適用例10]
適用例9において、
前記光硬化型インク組成物により形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が25%以下であることができる。
【0020】
[適用例11]
適用例1ないし適用例10のいずれか1例において、
360nm以上420nm以下の範囲に発光ピーク波調を有する光の照射によって硬化されることができる。
【0021】
[適用例12]
本発明に係る画像記録方法の一態様は、
適用例1ないし適用例11のいずれか1例に記載の光硬化型インク組成物の液滴を吐出して、該液滴を被記録媒体に付着させる工程と、前記液滴に対して光を照射する工程と、によって前記被記録媒体に膜を形成することにより画像を記録する画像記録方法であって、
前記形成する膜は、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である。
【0022】
適用例12の画像記録方法によれば、各成分の溶解性が良好な上述した光硬化型インク組成物を用いているので、吐出安定性が良好である。また、適用例12の画像記録方法によれば、被記録媒体上に吐出された光硬化型インク組成物を良好に硬化させつつ、良好な耐光性を備えた画像を記録できる。
【0023】
[適用例13]
本発明に係る画像記録装置の一態様は、
適用例12に記載の画像記録方法により画像を記録する。
【0024】
適用例13の画像記録装置によれば、吐出安定性に優れ、硬化性および耐光性が良好な画像を記録できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0026】
1.光硬化型インク組成物
本発明の一実施形態に係る光硬化型インク組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、紫外線吸収剤と、を含有し、重合性化合物として下記一般式(1)で表される化合物を含み、光重合開始剤としてアシルホスフィンオキサイド系化合物を含む。
【0027】
なお、本発明において「画像」とは、ドット群から形成される印字パターンを示し、テキスト印字、ベタ印字も含める。また、本発明において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびそれに対応するメタクリレートのうち少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびそれに対応するメタクリルのうち少なくとも一方を意味する。
【0028】
まず、本実施形態に係る光硬化型インク組成物に含まれる各成分について、詳細に説明する。
【0029】
1.1.重合性化合物
1.1.1.一般式(1)で表される化合物
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、重合性化合物として、下記一般式(1)で表される化合物を含有する。
【0030】
CH=CR−COOR−O−C …(1)
(一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rは、炭素数1〜5の2価の有機残基を表す。)
【0031】
上記一般式(1)において、Rで示される2価の有機残基としては、炭素数1〜5の直鎖状、分枝状または環状の置換されていても良いアルキレン基、構造中にエーテル結合および/またはエステル結合による酸素原子を有する炭素数1〜5の置換されていても良いアルキレン基、が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基およびブチレン基等の炭素数2〜5のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基およびオキシブチレン基等の構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜5のアルキレン基が好適に用いられる。
【0032】
上記の有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基としてカルボキシル基、アルコキシ基等があげられ、炭素原子を含まない基として水酸基、ハロ基等があげられる。置換基が炭素原子を含む基である場合は、置換基の炭素数も、上記有機残基の炭素数にカウントされる。
【0033】
一般式(1)で表される化合物の機能の一つとしては、柔軟性、伸張耐久性に優れた画像を記録媒体上に記録することや、光硬化性に優れることが挙げられる。
【0034】
また、一般式(1)で表される化合物は、後述する光重合開始剤や紫外線吸収剤を溶解する能力に優れている。そのため、一般式(1)で表される化合物を含有する光硬化型インク組成物中では、光重合開始剤等に起因する凝集物の発生を低減できる。これにより、本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、インクジェット記録装置に適用した際において、吐出安定性に優れたものとなる。
【0035】
また、光硬化型インク組成物が一般式(1)で表される化合物を含有すると、他のモノマーを含有した場合に比べてより多くの光重合開始剤を光硬化型インク組成物中に溶かし込むことができるので、より低エネルギーの紫外線で硬化させることが可能となる。さらに、一般式(1)で表される化合物は、他のモノマーに対する希釈性も良好であるため、非常に使い易いという特徴を有している。一般式(1)で表される化合物のなかでも、アクリレートが硬化性の点で好ましい。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、フェノキシエチル(メタ)アクリレートは、光重合開始剤として用いられるアシルホスフィンオキサイド系化合物の溶解性に特に優れているので、好ましく用いることができる。
【0037】
上記一般式(1)で表される化合物の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。上記一般式(1)で表される化合物の含有量が10質量%以上であると、光重合開始剤を十分に溶解することができる。一方、上記一般式(1)で表される化合物の含有量が10質量%未満であると、光重合開始剤を十分に溶解することができない場合がある。また、上記一般式(1)で表される化合物の含有量が60質量%以下であると良好な硬化性が発揮される。
【0038】
1.1.2.一般式(2)で表される化合物
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、重合性化合物として、下記一般式(2)で示される化合物を含有してもよい。
【0039】
CH=CR−COO−R−O−CH=CH−R …(2)
(式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rは、炭素数2〜20の2価の有機残基を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜11の1価の有機残基を表す。)
【0040】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、上記式(2)の化合物を含有することにより、インクの硬化性をより一層良好なものとすることができる。
【0041】
上記一般式(2)において、Rで示される2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状または環状のアルキレン基、構造中にエーテル結合および/またはエステル結合による酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基およびブチレン基等の炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基およびオキシブチレン基等の構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0042】
上記の一般式(2)において、Rで示される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状または環状のアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基またはエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基およびベンジル基等の炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0043】
上記の一般式(2)で示される化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。
【0044】
前記例示した化合物の中でも、硬化性がより良好であるという有利な効果が得られる観点から、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0045】
これらの中でも、インクの粘度を低く設計できるという有利な効果が得られる観点から、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましく、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。
【0046】
一般式(2)で表される化合物を含有する場合には、一般式(2)で表される化合物の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下、より好ましくは10質量%以上60質量%以下である。一般式(2)で表される化合物の含有量が上記範囲内であると、低粘度かつ硬化性が良好であるという有利な効果が得られる。一方、一般式(2)で表される化合物の含有量が上記範囲を超えると、光重合開始剤の溶解性が低下する場合がある。
【0047】
一般式(2)で示される化合物の製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法A)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸エステル類と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル交換する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法F)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とアルキルビニルエーテル類とをエーテル交換する方法(製法H)が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Dが好ましい。
【0048】
1.1.3.その他の重合性化合物
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、上記一般式(1)で表される化合物および上記一般式(2)で表される化合物以外のその他の重合性化合物を含有してもよい。その他の重合性化合物としては、従来公知の、単官能、2官能および3官能以上の多官能モノマーおよびオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸およびマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩またはエステル、ウレタン、アミドおよびその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、ならびに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0050】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、すなわち(メタ)アクリレートが好ましい。
【0051】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、およびジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、光硬化型インク組成物が単官能モノマーとして4−ヒドロキシブチルアクリレートを含有すると、硬化性をより高めることが可能となる。4−ヒドロキシブチルアクリレートの含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0052】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、およびポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、光硬化型インク組成物が2官能モノマーとしてジプロピレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートのうち少なくとも一方を含有すると、硬化性をより高めることが可能となる。ジプロピレングリコールジアクリレートおよびジエチレングリコールジアクリレートの含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは10質量%以上60質量%以下である。
【0053】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、およびカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
これらの中でも、その他の重合性化合物は単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。この場合、光硬化型インク組成物が低粘度となり、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性に優れ、且つ、インクジェット記録時の吐出安定性が得られやすい。さらに塗膜の強靭性、耐熱性、および耐薬品性が増すため、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。
【0055】
さらに、上記単官能(メタ)アクリレートは、芳香環骨格、飽和脂環骨格、および不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。上記その他の重合性化合物が上記骨格を有する単官能(メタ)アクリレートであることにより、インク組成物の粘度を低下させることができる。
【0056】
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
また、アミノ(メタ)アクリレートを含有することも好ましい。光硬化型インク組成物がアミノ(メタ)アクリレートを含有すると、共重合反応を促進させて、硬化性をより高めることが可能となる。
【0058】
上記のその他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
1.2.光重合開始剤
1.2.1.アシルホスフィンオキサイド系化合物
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、光重合開始剤として、アシルホスフィンオキサイド系化合物を含む。アシルホスフィンオキサイド系化合物は、光を吸収することによって励起して、分子内開裂によりラジカルを発生する。これにより、重合性化合物の重合反応が開始される。
【0060】
また、アシルホスフィンオキサイド系化合物は、その分子内開裂により発生した開始剤残渣が光を吸収しにくいので、被記録媒体に形成された画像内部への光の透過を妨げない、いわゆるフォトブリーチング効果を有する。そのため、被記録媒体に形成された画像内部まで光が透過するので、光硬化型インク組成物の硬化性を向上させることができる。
【0061】
なお、光の中でも、安全性に優れ、かつ、光源ランプのコストを抑えることができる点から、360nm以上420nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する波長の光を用いることが好ましい。したがって、アシルホスフィンオキサイド系化合物は、360nm以上420nm以下の範囲内に極大吸収波長を有することが好ましい。極大吸収波長が上記範囲内のアシルホスフィンオキサイド系化合物は、360nm以上420nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する波長の光を照射することによって、十分に分子内開裂を行うことができる。
【0062】
なお、360nm以上420nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射できる光源としては、LEDであることが好ましい。LEDは、後述するように、光の強度低下が少なく、装置等の省スペース化を図れる点で好ましい。
【0063】
なお、本明細書中における極大吸収波長とは、吸収が最大である波長を示すものではなく、ある波長範囲における極大値を示すものである。
【0064】
アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて用いても良い。また、アシルホスフィンオキサイド系化合物として、モノアシルホスフィンオキサイド系化合物とビスアシルホスフィンオキサイド系化合物とがあり、これらのうち、硬化性のより優れるビスアシルホスフィンオキサイド系化合物と、溶解性のより優れるモノアシルホスフィンオキサイド系化合物とを併用して用いる場合、硬化性及び溶解性をいっそう良くできる点で好ましい。
【0065】
これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、およびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドフォトブリーチング効果に優れているという点、重合性化合物との相溶性に優れている点、および紫外線LEDの発光ピーク波長である360nm以上420nm以下の光を特に吸収しやすい点等から好ましく用いることができる。
【0066】
アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、DAROCUR TPO、IRGACURE 819、IRGACURE 1870(商品名、チバ・ジャパン株式会社製)、Lucirin TPO(BASFジャパン社製)が挙げられる。
【0067】
アシルホスフィンオキサイド系化合物の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは5質量%以上11質量%以下、より好ましくは6質量%以上11質量%以下である。アシルホスフィンオキサイド系化合物の含有量が上記範囲内にあると、光硬化型インク組成物の硬化性がより一層向上する。
【0068】
1.2.2.その他の光重合開始剤
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、上記アシルホスフィンオキサイド系化合物以外の光重合開始剤を含有してもよい。
【0069】
その他の光重合開始剤としては、例えば、光カチオン重合開始剤や、光ラジカル重合開始剤等を用いることができるが、光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
【0070】
光ラジカル重合開始剤としては、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物等の光が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、重合性化合物への溶解性および硬化性が良好という観点から、チオキサントン化合物等を用いることが好ましい。
【0072】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、および2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。
【0073】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASFジャパン社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬株式会社製)、ユベクリルP36(UCB社製)、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン)(以上、Lambson社製)等が挙げられる。
【0074】
1.3.紫外線吸収剤
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、紫外線吸収剤を含有する。紫外線吸収剤の機能の一つとしては、紫外線等の光を吸収して振動エネルギーや熱エネルギー等に変換することが挙げられる。これにより、光硬化型インク組成物を用いて形成された画像の劣化や、変色、退色等を低減することができる。
【0075】
なお、紫外線吸収剤は、光硬化型インク組成物の硬化に使用する光を吸収してしまい、光硬化型インク組成物の硬化を著しく阻害する場合がある。そのため、紫外線吸収剤は、光硬化型インク組成物の硬化性を阻害しにくく、かつ、記録された画像の変退色を防止できるものであることが好ましい。例えば、安全性や、コストの低減等の観点から360nm以上420nmの光を用いて光硬化型インク組成物を硬化させる場合において、紫外線吸収剤の極大吸収波長は、380nm以上400nm以下の範囲にないことが好ましく、360nm以上420nm以下の範囲にないことがより好ましい。紫外線吸収剤の極大吸収波長が上記範囲にないと、硬化に使用される光が紫外線吸収剤により吸収されることを低減でき、光硬化型インク組成物の硬化性を確保しつつ、記録された画像の耐光性も確保できる。
【0076】
紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤(例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等)、および無機系紫外線吸収剤(例えば、酸化セリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化鉄粒子、酸化チタン粒子および酸化亜鉛粒子等)等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
また、紫外線吸収剤の中でも、透明性に優れているという点から、有機系紫外線吸収剤を用いることが好ましい。特に、光硬化型インク組成物が画像の透明性が要求されるクリアインク(着色剤を含まない光硬化型インク組成物)として用いられる場合において、有機系紫外線吸収剤を特に好ましく用いることができる。
【0078】
有機系紫外線吸収剤の中でも、トリアジン系化合物およびベンゾトリアゾール系化合物を用いることが好ましい。トリアジン系化合物およびベンゾトリアゾール系化合物は、360nm以上420nm以下の波長の光を吸収しにくく、かつ、変退色の原因となる波長の光を吸収しやすいためである。また、トリアジン系化合物およびベンゾトリアゾール系化合物は、光硬化型インク組成物に含まれる成分との相溶性も良好である。特に、トリアジン系化合物は、光硬化型インク組成物の硬化性を阻害しにくく、記録された画像の耐光性に優れており、さらに両性能のバランスが良好であるという観点から、より一層好ましく用いることができる。
【0079】
トリアジン系化合物としては、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと(2-エチルヘキシル)−グリシド酸エステルの反応生成物、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。トリアジン化合物の中でもヒドロキシフェニルトリアジン化合物が特に好ましい。
【0080】
また、トリアジン系化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、TINUVIN 400、405、460、477−DW、479(商品名、チバ・ジャパン株式会社製)、KEMISORB 102L(商品名、ケミプロ化成株式会社製)等が挙げられる。
【0081】
上記のトリアジン系化合物の中でも、360nm以上420nm以下の波長の光を特に吸収しにくく、上述したアシルホスフィンオキサイド系化合物(光重合開始剤)の開始反応を妨げにくいので、TINUVIN 479( 2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン) )、およびKEMISORB 102Lが好ましい。特に、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンは、他のトリアジン系化合物と比べて少量の添加であっても、画像の耐光性およびインクの硬化性等の性能を高い水準で満たすものとなる。
【0082】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3、5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3、5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3、5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(5−ジ−t−オクチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、メタクリル酸2‐[3‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐ヒドロキシフェニル]エチル等が挙げられる。
【0083】
また、ベンゾトリアゾール系化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、TINUVIN PS、99−2、109、384−2、900、928、1130(商品名、チバ・ジャパン株式会社製)、KEMISORB 12、71、72、73、74、75、79(商品名、ケミプロ化成株式会社)、SEESORB 701、703、704、705、706、709(商品名、シプロ化成株式会社)、RUVA93(商品名、大塚化学株式会社)等が挙げられる。
【0084】
上記のベンゾトリアゾール系化合物の中でも、360nm以上420nm以下の波長の光を吸収しにくく、上述したアシルホスフィンオキサイド系化合物(光重合開始剤)の開始反応を妨げにくいので、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、メタクリル酸2‐[3‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐ヒドロキシフェニル]エチルが好ましい。
【0085】
紫外線吸収剤の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上1.5質量%以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内にあると、光硬化型インク組成物の硬化性に優れ、かつ、記録される画像の耐光性にも優れる。一方、紫外線吸収剤の含有量が上記範囲を超えると、紫外線吸収剤が光硬化型インク組成物を硬化するために照射される光を吸収しやすくなって、光硬化型インク組成物の硬化性が低下する場合がある。また、紫外線吸収剤の含有量が上記範囲未満であると、耐光性が不十分な画像が形成される場合がある。
【0086】
1.4.重合禁止剤
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、必要に応じて、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロキノン類、カテコール類、フェノール類等が挙げられる。
【0087】
ハイドロキノン類としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、1−o−2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−tert−ブチルハイドロキノン等が挙げられる。カテコール類としては、カテコール、4−メチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール等が挙げられる。フェノール類としては、フェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ピロガロール等が挙げられる。
【0088】
1.5.増感剤(蛍光増白剤)
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、必要に応じて、増感剤を添加してもよい。増感剤は、光硬化型インク組成物の硬化を促進させる機能を備えている。増感剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンジジン誘導体、スチルベン誘導体、クマリン誘導体、オキサゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、ピラリゾン誘導体、ピレン誘導体等が挙げられる。
【0089】
また、増感剤としては、市販の材料を用いることができ、例えば、Hostalux KCB、KS、KS−N、KS−C、KSB、KSB−2、KCU、KM−N、KVC、NSM、NR、N2R−200、SNR、Leukopur EGM(商品名、Clariant社製)、UVITEX OB、OB−C、OB−P(商品名、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、Kayalight B、OS、OSN(日本化薬株式会社製)、Hakkol OB、P(商品名、昭和化学工業株式会社製)、Whitefluor B、PCS、PSN、HCS、PHR(商品名、住化カラー株式会社製)、NIKKAFLUOR 2R、EFS、KB、MC、RP、SB、SC 200、OB(商品名、株式会社日本化学工業所製)等が挙げられる。
【0090】
増感剤を含有する場合には、増感剤の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。
【0091】
1.6.界面活性剤
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、界面活性剤を添加してもよい。本実施形態で使用可能な界面活性剤としては、好ましくはシリコーン系界面活性剤であり、より好ましくはポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンである。具体的には、ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK−347、同348、BYK−UV3500、同3510、同3530(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK−378、BYK−3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0092】
1.7.色材
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、いわゆるクリアインクとして用いることができる。クリアインクは、被記録媒体に色を付与するために用いるインクではなく、被記録媒体の光沢感の調整や保護膜としてなどの為に用いるインクであり、一般には色材を含有しないか、色材を含有しても、その含有量がインク全質量に対して0.1質量%以下のインクである。
【0093】
また、本実施形態に係わる光硬化型インク組成物は、クリアインクよりも色材をより多く含有するカラーインクとして用いても良い。
【0094】
本実施の形態において使用可能な色材としては、染料、顔料等が挙げられる。これらの中でも、耐光性に優れるという観点から、顔料を用いることが好ましい。顔料としては、例えば、無機顔料や有機顔料等の顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0095】
本実施の形態で使用可能な顔料の具体例のうち、カーボンブラックとしては、C.I.ピグメントブラック7が挙げられ、例えば、三菱化学株式会社から入手可能なNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビアケミカルカンパニー社から入手可能なRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、また、キャボット社から入手可能なRegal400R、同330R、同660R、MogulL、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、さらに、デグッサ社から入手可能なColorBlackFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、ColorBlackS150、同S160、同S170、Printex35、同U、同V、同140U、SpecialBlack6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0096】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をイエローインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
【0097】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をマゼンタインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0098】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をシアンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等が挙げられる。
【0099】
本実施の形態で使用可能な顔料の平均粒子径は、好ましくは10nm〜200nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜150nmの範囲である。
【0100】
1.8.分散剤
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、前述した顔料の分散性を高める目的で分散剤を添加してもよい。本実施形態で使用可能な分散剤としては、Solsperse3000、5000、9000、12000、13240、17000、24000、26000、28000、36000(以上、ルーブリゾール社製)、ディスコールN−503、N−506、N−509、N−512、N−515、N−518、N―520(以上、第一工業製薬株式会社製)等の高分子分散剤が挙げられる。
【0101】
1.9.その他の添加剤
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、従来公知の添加剤、例えば、重合促進剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤等を含有してもよい。
【0102】
1.10.物性
1.10.1.透過率
本実施形態に係る光硬化型インク組成物は、任意の波長の光を照射されることによって、硬化して、硬化物を形成することができる。例えば、後述する液滴吐出装置を用いた場合には、被記録媒体に吐出された液滴の集合からなる膜(画像)が形成される。本実施形態に係る光硬化型インク組成物により形成された膜は、以下のような特性を有する。
【0103】
具体的には、本実施形態に係る光硬化型インク組成物を用いて形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、波長300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である。
【0104】
また、トリアジン系化合物の含有量が、光硬化型インク組成物の全質量の0.1質量%以上1.5質量%以下である光硬化型インク組成物を用いて形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上であり、かつ、波長300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である。
【0105】
また、トリアジン系化合物として、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンを用い、当該化合物が光硬化型インク組成物の全質量の0.1質量%以上1.5質量%以下である光硬化型インク組成物を用いて形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上であり、波長300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が25%以下である。
【0106】
ここで、光硬化型インク組成物の膜は、インクジェット記録装置を用いて、解像度720×720dpi、ドット重量14ngの条件で、被記録媒体(透明なプラスチックフィルム)上にベタパターン画像を記録した後、記録された画像への積算光量が1000mJ/cmとなるように紫外線を照射して、10μmの膜厚を備えるように形成されたものである。
【0107】
また、光硬化型インク組成物の膜の透過率の測定は、分光光度計を用いて行われる。具体的には、分光光度計U−3300(商品名、株式会社日立製)を用いて、測定温度20℃の条件で測定する。
【0108】
また、本明細書において、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率(%)とは、370nm以上410nm以下の波長1nm毎に求められる透過率を算術平均した値のことをいう。なお、波長300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率(%)についても、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率と同様の方法で求められる。また、光硬化型インク組成物の膜の透過率(%)は、あらかじめ膜の形成に用いた被記録媒体の光の透過率をブランクとして測定し、この値を差し引いたものである。
【0109】
1.10.2.粘度
本実施形態に係る光硬化型インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは5mPa・s以上50mPa・s以下であり、より好ましくは20mPa・s以上40mPa・s以下である。光硬化型インク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、ノズルから光硬化型インク組成物が適量吐出され、光硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10〜1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることで行うことができる。
【0110】
1.10.3.表面張力
本実施形態に係る光硬化型インク組成物の20℃における表面張力は、好ましくは20mN/m以上40mN/m以下である。光硬化型インク組成物の20℃における表面張力が前記範囲内にあると、光硬化型インク組成物が撥液処理されたノズルに濡れにくくなる。これにより、ノズルから光硬化型インク組成物が適量吐出され、光硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で、白金プレートをインクで濡らした時の表面張力を確認することで行うことができる。
【0111】
2.画像記録方法
本発明の一実施形態における画像記録方法は、前述した光硬化型インク組成物の液滴を吐出して、被記録媒体に付着させる工程と、被記録媒体に付着した液滴に対して光を照射する工程と、を含む。光硬化型インク組成物については、前述した通りであるから、詳細な説明を省略する。
【0112】
被記録媒体としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等のプラスチック類およびこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、コート紙等が挙げられる。
【0113】
本実施形態における画像記録方法は、例えば、画像記録装置を用いて行うことができる。画像記録装置としては、例えばインクジェットプリンターを挙げることができる。インクジェットプリンターには、インクジェット式記録ヘッド、本体、トレイ、ヘッド駆動機構、キャリッジおよびキャリッジの側面に搭載された光照射装置などを備えたものが例示できる。また、上記インクジェット式記録ヘッドは、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等のインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷ができるように構成されている。なお、上記のインクカートリッジに色材の添加されていないクリアを追加してもよいし、上記のインクカートリッジのいずれかをクリアと入れ替えてもよい。
【0114】
インクジェットプリンターを用いた画像記録方法としては、次の通りである。まず、充填された光硬化型インク組成物をインクジェット式記録ヘッドから吐出し、被記録媒体に付着させて画像を形成する。上記インクジェットプリンターは、内部に専用のコントロールボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッドのインクの吐出タイミングおよびヘッド駆動機構の走査を制御することができる。インクジェット吐出方法としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)においては優れた画像記録を行うことが可能である。
【0115】
次いで、上記画像に光照射装置を用いて光を照射し、光硬化型インク組成物を硬化させる。照射光源の発光ピーク波長は、360nm以上420nm以下の範囲であることが好ましく、380nm以上400nm以下の範囲であることがより好ましい。
【0116】
また、照射光源としては、例えば、LED(発光ダイオード)、LD(半導体レーザー)、水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等が挙げられる。これらの中でも、フィルター等を使用しなくても360nm以上420nmの波長の光を得られることから、LEDまたはLDを照射光源として用いることが好ましい。また、LEDまたはLDを照射光源として用いると、水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、その他のランプ類を使用した場合と比較して、フィルター等の装備のために光源が大型化することを回避することができる。さらに、フィルターによる吸収で出射された光の強度が低下することがなく、光硬化型インク組成物を効率良く硬化させることができる。
【0117】
積算光量(積算照射エネルギー)は、50mJ/cm以上300mJ/cm未満の範囲であることが好ましく、50mJ/cm以上250mJ/cm未満の範囲であることがより好ましい。積算光量が上記範囲内であれば、十分硬化させることができる。
【0118】
本発明の一実施形態に係る画像記録方法によれば、各成分の溶解性に良好な光硬化型インク組成物を用いているので、吐出安定性が良好である。また、本発明の一実施形態に係る画像記録方法によれば、被記録媒体上に吐出された光硬化型インク組成物を良好に硬化させつつ、良好な耐光性を備えた画像を記録できる。
【0119】
本発明の一実施形態に係る画像記録方法においては、本発明の一実施形態に係る光硬化型インク組成物により形成した膜の厚さとして、膜厚が5〜15μm、より好ましくは7〜13μmである領域を、少なくとも有する画像を記録することが好ましい。こうすることで、膜の、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下とすることができる。
【0120】
また、本発明の一実施形態に係る記録物は、前述した画像記録方法によって記録されたものである。そのため、記録媒体上に記録された画像は、良好な耐光性を備え、かつ、良好な硬化性を備える。
【0121】
3.実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
3.1.光硬化型インク組成物の調製
表1〜表3の組成となるように、重合性化合物、光重合開始剤、界面活性剤、重合禁止剤、増感剤および紫外線吸収剤を混合して、24時間攪拌した。このようにして、実施例および比較例の光硬化型インク組成物を調製した。得られた光硬化型インク組成物は、顔料等の色材が添加されていないクリアインクである。
【0123】
なお、表中で使用した成分は、以下の通りである。
(1)重合性化合物
・VEEA(商品名、株式会社日本触媒製、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)
・APG100(商品名、新中村化学株式会社製、ジプロピレングリコールジアクリレート)
・SR230(商品名、サートマー株式会社製、ジエチレングリコールジアクリレート)
・V#192(商品名、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート)
・4HBA(商品名、大阪有機化学工業株式会社製、4−ヒドロキシブチルアクリレート)
(2)光重合開始剤
・DAROCUR TPO(チバ・ジャパン株式会社製、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド)
・IRGACURE 819(チバ・ジャパン株式会社製、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド)
・DAROCUR 1173(チバ・ジャパン株式会社製、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)
(3)界面活性剤
・BYK−UV3500(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコーン系界面活性剤)
(4)重合禁止剤
・MEHQ(関東化学株式会社製、ハイドロキノンモノメチルエーテル)
(5)増感剤
・Hostalux KCB(商品名、Clariant株式会社製、1,4-ビス(2-ベンゾオキサゾリル)ナフタレン)
(6)紫外線吸収剤
・TINUVIN 479(商品名、チバ・ジャパン株式会社製、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン)
・KEMISORB 102L(商品名、ケミプロ化成株式会社製、トリアジン系化合物)
・KEMISORB 71(商品名、ケミプロ化成株式会社製、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール)
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
3.2.評価試験
3.2.1.透過率の測定
インクジェットプリンターPX−5000(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、「3.1.光硬化型インク組成物の調製」で得られた光硬化型インク組成物を、PETフィルム(商品名「ルミラー #125−E20」、東レ株式会社製)上に解像度720×720dpi・液滴重量14ngの条件で吐出させて、べタパターン画像を記録した。次いで、得られたベタパターン画像に対して、紫外線照射装置LED Firefly(商品名、Phoseon社製、発光ピーク波長395nm、照度1000mW/cm、積算照射エネルギー1000mJ/cm)によって紫外線を照射してべタパターン画像を硬化させた。このようにして、硬化した画像の膜厚が10μmの記録物を得た。
【0128】
次に、分光光度計U−3300(商品名、株式会社日立製)を用いて、測定温度20℃の条件で、記録物に記録された画像の透過率(波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率(%)、および波長300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率(%))を測定した。なお、光硬化型インク組成物の画像の透過率(%)は、膜の形成に用いたPETフィルムの光の透過率をブランクとして測定し、この値を差し引いて求められた値である。
【0129】
3.2.2.溶解性の評価試験
「3.1.光硬化型インク組成物の調製」で得られた各光硬化型インク組成物を目視にて観察して、光硬化型インク組成物中の不溶物の有無を確認した。評価基準は下記の通りである。評価結果を上記表1〜表3に併せて示す。
【0130】
「A」:光硬化型インク組成物中に不溶物が認められなかった
「B」:光硬化型インク組成物中に不要物が認められた
【0131】
3.2.3.硬化性の評価試験
ハンドコーターを用いて、「3.1.光硬化型インク組成物の調製」で得られた光硬化型インク組成物をPETフィルム(商品名「ルミラー #125−E20」、東レ株式会社製)上に、ウェット状態の膜厚が24μmとなるように塗布して塗膜を形成した。次いで、得られた塗膜に対して、紫外線照射装置LED Firefly(商品名、Phoseon社製、発光ピーク波長395nm、照度1000mW/cm)によって紫外線を照射し、塗膜を硬化させた。紫外線の照射は、塗膜を綿棒で擦った際に、擦過痕がつかなくなるまで行った。そして、擦過痕がつかなくなった際の積算照射エネルギーを求めて、塗膜の硬化性の評価を行った。
【0132】
評価基準は下記の通りである。評価結果を上記表1〜表3に併せて示す。
【0133】
「AA」:積算照射エネルギーが200mJ/cm未満
「A」:積算照射エネルギーが200mJ/cm以上250mJ/cm未満
「B」:積算照射エネルギーが250mJ/cm以上300mJ/cm未満
「C」:積算照射エネルギーが300mJ/cm以上
【0134】
3.2.4.耐光性の評価試験
まず、表4に示す組成の光硬化型インク組成物Yを調製した。そして、インクジェットプリンターPX−5000(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、解像度720×720dpi・液滴重量14ngの条件で、上記光硬化型インク組成物Yを被記録媒体(商品名「BA2076」、エイブリーデニソン社製、PPフィルム)上に吐出して、イエロー色のベタパターン画像(以下、「イエロー画像」ともいう。)を記録した。次いで、得られたイエロー画像に対して、紫外線照射装置LED Firefly(商品名、Phoseon社製、発光ピーク波長395nm、照度1000mW/cm、積算照射エネルギー1000mJ/cm)によって紫外線を照射し、イエロー画像を硬化させた。
【0135】
【表4】

【0136】
なお、表4に示す各成分のうち、「3.1.光硬化型インク組成物の調製」で得られた光硬化型インク組成物(以下、「クリアインク組成物」ともいう。)で用いた成分以外のものは以下の通りである。
【0137】
・C.I.ピグメントイエロー155(イエロー顔料)
・SOLSPERSE36000(商品名、ルーブリゾール社製、顔料分散剤)
・Kayacure DETX−S(商品名、日本化薬株式会社製、光重合開始剤)
・V#150(商品名、大阪有機化学工業株式会社製、テトラヒドロフルフリルアクリレート)
【0138】
次に、イエロー画像上に、「3.1.光硬化型インク組成物の調製」で得られた光硬化型インク組成物(以下、「クリアインク組成物」ともいう。)を、インクジェットプリンターPX−5000(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、解像度720×720dpi・液滴重量14ngの条件で吐出して、イエロー画像上にクリアインク組成物からなる画像(以下、「クリア画像」ともいう。)を形成した。次いで、得られたクリア画像に対して、紫外線照射装置LED Firefly(商品名、Phoseon社製、発光ピーク波長395nm、照度1000mW/cm、積算照射エネルギー1000mJ/cm)によって紫外線を照射し、クリア画像を硬化させた。
【0139】
このようにして、イエロー画像上にクリア画像が形成された記録物を得た。なお、記録物の作成にあたって、記録物の初期OD値(Optical Density)が0.5となるようにDutyを調整して行った。
【0140】
なお、「duty値」とは、「duty(%)=実吐出ドット数/(縦解像度×横解像度)×100(式中、「実吐出ドット数」は単位面積当たりの実吐出ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)」により算出される値である。
【0141】
このようにして得られた記録物をXenon耐光性試験機X−25F(商品名:(株)スガ試験機製)に設置して、照度50W/m、BPT63℃・相対湿度40%RHの条件の下、記録物のOD値が30%減少する際に記録物に与えられる積算照射エネルギーを求めた。
【0142】
評価基準は下記の通りである。評価結果を上記表1〜表3に併せて示す。
「AA」:積算照射エネルギーが400MJ/m以上
「A」:積算照射エネルギーが300MJ/m以上400MJ/m未満
「B」:積算照射エネルギーが250MJ/m以上300MJ/m未満
「C」:積算照射エネルギーが250MJ/m未満
【0143】
3.3.評価結果
以上の透過率の測定結果、ならびに溶解性、硬化性および耐光性の評価結果を、上記表1〜表3に示す。
【0144】
表1および表2の実施例1〜実施例23の光硬化型インク組成物は、いずれも、各インクに含まれる成分の溶解性が良好であった。また、実施例1〜実施例23の光硬化型インク組成物は、いずれも、低エネルギーで硬化させることができ、良好な硬化性を備えていた。また、実施例1〜実施例23の光硬化型インク組成物を用いて形成された画像は、変退色しにくく、良好な耐光性を備えていた。また、実施例1〜実施例23の光硬化型インク組成物は、いずれも、370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下であった。
【0145】
一方、表3の比較例1の光硬化型インク組成物は、上記一般式(1)で表される化合物を含有していない。そのため、比較例1の光硬化型インク組成物は、インク中の光重合開始剤を十分に溶解できず、不溶物が含まれるものであった。また、このように不溶物が発生したため、その他の評価試験を行えなかった。
【0146】
表3の比較例2および比較例5の光硬化型インク組成物は、紫外線吸収剤を含有していない。そのため、比較例2および比較例5の光硬化型インク組成物を用いて形成された画像は、耐光性に優れていなかった。また、比較例2および比較例5の光硬化型インク組成物を用いて形成された画像(膜)の透過率は、300nm以上380nm以下の範囲において、50%を超えた。
【0147】
表3の比較例3および比較例4の光硬化型インク組成物は、紫外線吸収剤の含有量が5質量%を超えている。そのため、比較例3および比較例4の光硬化型インク組成物は、紫外線吸収剤によって硬化に必要な光を多く吸収され、硬化性に優れなかった。また、比較例3および比較例4の光硬化型インク組成物を用いて形成された画像(膜)の透過率は、370nm以上410nm以下の範囲において、50%未満であった。
【0148】
表3の比較例6の光硬化型インク組成物は、アシルホスフィンオキサイド化合物を含有していない。そのため、比較例6の光硬化型インク組成物は、硬化性に優れず、充分硬化しなかったため、透過率の測定および耐光性の評価試験を行なえなかった。
【0149】
また、表1〜表3における光硬化型インク組成物の透過率の測定値および硬化性の評価結果から、記録された画像の370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が高くなると、光硬化型インク組成物の硬化性が優れたものとなる傾向にあることが示された。また、表1〜表3における光硬化型インク組成物の透過率の測定値および耐光性の評価結果から、記録された画像の300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が低くなると、画像の耐光性が優れたものとなる傾向にあることが示された。
【0150】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、光重合開始剤と、紫外線吸収剤と、を含有する光硬化型インク組成物であって、
前記重合性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物を含み、
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド系化合物を含み、
前記紫外線吸収剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であり、
前記光硬化型インク組成物により厚みが10μmの膜を形成した際の、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である、光硬化型インク組成物。
CH=CR−COOR−O−C …(1)
(一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表す。Rは、炭素数1〜5の2価の有機残基を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記一般式(1)で表される化合物は、フェノキシエチル(メタ)アクリレートである、光硬化型インク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記一般式(1)で表される化合物の含有量は、10%質量以上60質量%以下である、光硬化型インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記アシルホスフィンオキサイド系化合物の含有量は、5質量%以上11質量%以下である、光硬化型インク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物またはベンゾトリアゾール系化合物を含む、光硬化型インク組成物。
【請求項6】
請求項5において、
前記トリアジン系化合物の含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下である、光硬化型インク組成物。
【請求項7】
請求項6において、
前記光硬化型インク組成物により形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上である、光硬化型インク組成物。
【請求項8】
請求項5において、
前記トリアジン系化合物は、2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンである、光硬化型インク組成物。
【請求項9】
請求項8において、
前記2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンの含有量は、1質量%以上1.5質量%以下である、光硬化型インク組成物。
【請求項10】
請求項9において、
前記光硬化型インク組成物により形成された膜は、該膜の厚みが10μmの際に、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が60%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が25%以下である、光硬化型インク組成物。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、
360nm以上420nm以下の範囲に発光ピーク波調を有する光の照射によって硬化される、光硬化型インク組成物。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の光硬化型インク組成物の液滴を吐出して、該液滴を被記録媒体に付着させる工程と、前記液滴に対して光を照射する工程と、によって前記被記録媒体に膜を形成することにより画像を記録する画像記録方法であって、
前記形成する膜は、波長370nm以上410nm以下の範囲の光の透過率が50%以上であり、かつ、300nm以上380nm以下の範囲の光の透過率が50%以下である、画像記録方法。
【請求項13】
請求項12に記載の画像記録方法により画像を記録する、画像記録装置。

【公開番号】特開2012−255069(P2012−255069A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128285(P2011−128285)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】