説明

光硬化性でセルフエッチング性の、ナノ粒子を含有している一成分−歯科用接着剤及びその使用

【課題】特に充填剤に関して、溶剤及び/又はモノマーと組み合わせてさらになお改善された歯科用接着剤。
【解決手段】少なくとも1つのアクリレート−又はメタクリレート−モノマー、少なくとも1つの酸性成分、少なくとも1つの光開始剤、水と混和性の少なくとも1つの溶剤、水、粒度5〜100nmの凝集されていないSiOを含有している
光硬化性でセルフエッチング性の一成分系歯科用接着剤。
【効果】例えば直接の充填原料の接着固定のため、又は付加的な中和する層及び固定セメントと組み合わせて、作業室で製造された間接的な充填原料を固定するために適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性でセルフコンディショニング性の、ナノ粒子を含有している一成分−歯科用接着剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
硬歯質(Zahnhartsubstanz)上への接着は、まず第一に微孔質及び粗い表面上への機械的保持により実現される。故に窩洞形成後に、硬歯質は接着剤を施与する前に、できるだけ大きく、保持性で及び良好に湿潤可能な接着面を獲得するために前処理されなければならない。引き続いて、表面の粗面をふさぐために、良好な湿潤特性を有する十分に流動性の(duennfliessendes)接着剤が必要とされる。接着剤の加工に引き続いて窩洞表面は緊密に封鎖されており、かつ充填材料を収容するために準備する。
【0003】
充填物を入れる前の硬歯質の処理のためには、2つの技術が広く普及している:
1.いわゆるトータルエッチング技術の場合に、硬歯質の表面処理はリン酸の使用により行われる。その際にエナメル質並びに象牙質はリン酸でエッチングされ、引き続いてこのリン酸は水洗され、かつ過剰の水はエアブロー(Luftpuester)により除去される。それによりエナメル質上に特徴的なエッチングパターンが生じる。象牙質上で、窩洞形成の際に生じた、結合を妨害するスメア層(Schmierschicht)は除去され、かつ細管(Tubuli)は露出される。引き続いて、接着剤成分は塗布され、浸透に必要な溶剤はエアブローを用いて除去され、かつ接着剤は放射線硬化される。
【0004】
2.セルフエッチング性接着剤の使用の場合に、酸エッチング及び引き続く接着剤の施与のステップは1ステップにまとめられる。この酸含有接着剤系は象牙質の場合に、スメア層を接着剤の成分について透過性にするために、スメア層を溶解させ、かつその下方にある象牙質を露出させるか又はスメア層を単に付着溶解させる(anloesen)。それと同時に硬歯質中へのモノマーの浸透が行われる。エナメル質の場合に、酸含有接着剤系によりリン酸エッチングに類似のエッチングパターンが生じる。ここでも、浸透に必要な溶剤はエアブローを用いて除去され、かつ接着剤は放射線硬化される。
【0005】
技術水準
数年来、セルフエッチング性接着剤が公知である。これらは通例、二成分系材料であり、使用の前に混合されなければならないか、又は連続して塗布されなければならない。これらの材料の場合に歯面の別個のエッチングは不必要である。アイボンド(iBond)(ヘレウスクルツァー;Heraeus-Kulzer)を用いて、最初のセルフエッチング性で一成分系一液型接着剤(“オールインワンアドヒーシブ(All-in-One-Adhesive)”)が採用され、この場合に混合(Anmischen)又は2つの成分の連続した塗布が不必要である。しかしながらセルフエッチング性の一液型接着剤の欠点は、これらが、貯蔵の間の場合によっては起こりうる分解を回避するために冷所で(4〜10℃で)貯蔵されなければならないことであることがわかる。そのうえ、セルフエッチング性の一液型接着剤は、使用者による施与の過誤に対して感受性であるように思われる。これはちょうど溶剤蒸発の作業工程の際に現れる。接着剤は、エアブローを用いる強すぎる吹き飛ばしにより極端に疎らになって(ausgeduennt)はいけない、それというのもさもないと十分に厚い接着剤層が後に残されないからである。しかしながら同時に、溶剤は、荒れ(Fehlstellen)を有しない接着剤の完全な硬化、ひいては硬歯質及び充填材料の間の確実な結合を保証するために、最も広範囲に及んで蒸発されなければならない。このことは特に、同時のエッチング−及び浸透プロセスに必要であるが、しかしながら接着剤の信頼できる最終硬化を妨害する水に当てはまる。
【0006】
欧州特許(EP-B1)第803 240号明細書には、凝集されていない、ナノ粒子の(nanoteilige)SiO−充填剤を有機分散剤中に含有する歯科用材料が挙げられている。これらは、請求項11によれば、接着剤−配合物においても使用されることができる。Caulk社の製品XENO(登録商標) IIIは、マーケティング情報によれば従来のハイブリッドフィラー粒子よりも100倍も小さいナノフィラーを含有するセルフエッチング性ワンステップ−接着剤であるが、しかし使用の直前に混合されるべきである製品に属する。カナダ国特許出願公開(CA-A1)第2,457,347号明細書は、ホスホン酸基−含有のモノマーを含有し、かつより詳細に個々に述べられていないナノフィラーと混合されていてよい、一成分系の、セルフエッチング性及びセルフコンディショニング性の接着剤が対象となる(請求項13)。米国特許出願公開(US-A1)第2003/0207960号明細書には、スルホン酸−ベースの、充填剤としてとりわけ10〜100nmの大きさの、結合された又は結合されていないケイ酸−コロイドを含有していてよい、セルフエッチング性でセルフコンディショニング性のワンステップ−接着剤が記載されている(段落[0021])。米国特許出願公開(US)第2003/0187094号明細書には、セルフエッチング性でセルフコンディショニング性の歯科用接着剤用のナノ粒子が提案され、それらの接着剤の中でそれぞれ個々のものが酸性及び重合性のシロキサン基を有する。米国特許(US-B1)第6,387,982号明細書には、セルフエッチングで接着性のコンディショニング剤における使用のための、好ましくはコロイドケイ酸と組み合わされた重合性洗浄剤が提案される。
【特許文献1】欧州特許(EP-B1)第803 240号明細書
【特許文献2】カナダ国特許出願公開(CA-A1)第2,457,347号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開(US-A1)第2003/0207960号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開(US)第2003/0187094号明細書
【特許文献5】米国特許(US-B1)第6,387,982号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのような歯科用接着剤を、特に充填剤に関して、溶剤及び/又はモノマーと組み合わせてさらになお改善するという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、
少なくとも1つのアクリレート−又はメタクリレート−モノマー、
少なくとも1つの酸性成分、
少なくとも1つの光開始剤、
水と混和性の少なくとも1つの溶剤、
水並びに
粒度5〜100nmの凝集されていないSiO
を含有している、請求項1記載のセルフエッチング性の一成分系歯科用接着剤により解決される。
【0009】
付加的に多重架橋剤(Mehrfachvernetzer)及び/又は増粘剤を添加することが好ましい。
【0010】
増粘剤として、一方ではポリマー、例えばポリビニルピロリドン、ポリアルケン酸、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、デンプン誘導体、セルロース誘導体、又は約100000の平均分子量を有するポリメタクリル酸メチルが考慮の対象になる。理想的には、増粘剤はさらに、これらが末端に重合性基を有するように変性されている、例えばポリエチレングリコールジメタクリレート。
【0011】
別の増粘性成分として熱分解法ケイ酸が使用されることができる。
【0012】
架橋剤及び多重架橋剤はそれ自体として公知であり、かつ1分子当たり2又はそれ以上の重合性基を有する。有利には、特にアルコキシル化されたペンタエリトリトール−テトラアクリレート及び/又は1,1,1−トリメチロールプロパントリメタクリレート及び−アクリレートが使用されることができる。
【0013】
ナノ充填剤の添加により、接着剤中での酸作用が得られる。その際にナノ充填剤の分散は、欧州特許(EP-B1)第803 240号明細書の証言にもかかわらず意外なことに得られたままであり、かつこの溶液は沈降安定である。
【0014】
接着剤層の内部結合は、凝集されていないSiO−ナノフィラーの添加により高められる。
【0015】
多重架橋性モノマーが添加される場合には、結合はさらになお改善されることができる。充填プラスチックへの接着剤の改善された結合も見込まれる。
【0016】
接着剤層の激しすぎる疎らになる危険を減らすために、ポリマーネットワーク中へ包み込む高分子増粘剤の使用によりコンシステンシーが高められることができる。
【0017】
貯蔵の間の接着剤の温度感受性は、とりわけ適しているモノマーの使用により及び開始剤−及び安定剤系の適合により改善されることができる。室温での貯蔵が可能になる。
【0018】
特別な利点として、一成分における施与にもかかわらず良好な塗膜形成性、接着剤の高い固有強度(Eigenfestigkeit)、高い接着値、貯蔵の際の長時間安定性がもたらされる。
【0019】
接着剤は、特に直接の充填原料、例えばコンポジット、コンポマー(Compomeren)又はオルモセル(Ormoceren)を固定するため、しかしまた酸性接着剤成分を覆う付加的な層及び固定セメントと組み合わせて、作業室で製造された間接的な充填原料を固定するために適している。間接的な充填原料は例えばセラミック原料又はコンポジット原料である。
【0020】
裂溝封鎖材としての使用も考慮に値する。
【0021】
本発明は次の例によって詳細に説明される:
【実施例】
【0022】
1.次の成分の歯科用接着剤/混合物
【0023】
【表1】

【0024】
2.剪断接着結合の測定
接着剤配合物中の酸性モノマーとしての有効性を、象牙質及びエナメル質上への剪断結合強さの決定により試験する。抽出後に0.5%クロラミンT−溶液中に最大3ヶ月間保存されていたヒトの歯を利用する。結合テストにおける使用前に、これらの歯を入念に流水下に洗浄する。結合テストにおける使用前の昼間に、これらの歯を個々に、隣接面上にあるTechnovit 4001を用いて円筒形のゴム型中へ包埋する。これらの歯を、粒度80、240及び最終的に600のSiC−紙での湿式研摩により、直径2.38mmを有するプラスチック円筒の結合に十分な大きさの象牙質面もしくはエナメル質面が露出するまで研摩する。脱塩水での水洗後に、これらの歯を空気流中で乾燥させる。歯面上へ、例2 A−Fからの製剤をブラシを用いて三層で塗布し、加圧空気流中で乾燥させ、光器具Translux(登録商標) Energy(Heraeus Kulzer)を用いて20秒間照射する。こうして前処理した試料を、ついで固定装置を用いて円筒形のプラスチック型(直径2.38mm、高さ1mm)の下方へクリップ止めする。その後、プラスチック−充填材料Venus(登録商標)(Heraeus Kulzer)をプラスチック型中へ詰め、光器具Translux(登録商標) Energy(Heraeus Kulzer)を用いて20秒間照射する。引き続いて直ちにプラスチック型を取り除き、円筒形の試料を剪断負荷の開始まで37℃の温水中で24h貯蔵する。そのためには、円筒形の試料を、万能材料試験機中でピストンを用いて、研摩された歯面に平行に及びこの歯面上に密接して、1mm/minの速度で歯からプラスチック−円筒が分離するまで負荷する。剪断結合強さは破壊力及び結合面積からの商であり、かつその都度8つの試料について決定し、その際にそれらの平均値が表中に記載されている。
結果:
【0025】
【表2】

【0026】
凝集されていないSiO−粒子を含有している溶液の接着強さは明らかに高められる。
【0027】
3.粘度測定
粘度を、レオメーターPhysica UDS 200 (Paar Physica)を用いて決定した。
結果:
【0028】
【表3】

【0029】
コンシステンシーは、充填されていない混合物と比較して1.5〜5倍だけ高められる。
【0030】
4.貯蔵安定性調査
混合物の安定性を視覚的に決定した。そのために試料を50℃で数日に亘り貯蔵し、変化について毎日調べた。貯蔵安定性の損失は、溶液の始まった濃厚化により及び/又は充填剤の沈降により示された。
結果:
【0031】
【表4】

【0032】
50℃での貯蔵後に、例2は、22日後にはじめて溶液の視覚的な変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1つのアクリレート−又はメタクリレート−モノマー、
(B)少なくとも1つの酸性成分、
(C)少なくとも1つの光開始剤、
(D)水と混和性の少なくとも1つの溶剤、
(E)水
を含有している、光硬化性でセルフエッチング性の一成分系歯科用接着剤において、
(F)粒度5〜100nmの凝集されていないSiOを含有している
ことを特徴とする、歯科用接着剤。
【請求項2】
付加的に
(G)少なくとも1つの多重架橋剤
を含有している、請求項1記載の歯科用接着剤。
【請求項3】
付加的に
(H)少なくとも1つの増粘剤
を含有している、請求項1記載の歯科用接着剤。
【請求項4】
作業室で製造された間接的な充填原料を、酸性の接着剤成分を覆う付加的な層及び固定セメントと組み合わせて固定するための、請求項1から3までのいずれか1項記載の歯科用接着剤の使用。
【請求項5】
充填原料がセラミック原料又はコンポジット原料である、請求項4記載の使用。

【公開番号】特開2007−63276(P2007−63276A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230985(P2006−230985)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】