説明

光硬化性樹脂及び光硬化性樹脂組成物

【課題】環境に優しいと共に、UV硬化性に優れ、また耐熱性、密着性及び柔軟性に優れる硬化物を形成できる光硬化性樹脂及びそれを含有する光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表される光硬化性樹脂(A)、及び該光硬化性樹脂に酸無水物(d)を反応させてなるカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)、並びに該光硬化性樹脂(A)及び/又はカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)、及び光重合開始剤(B)を必須成分として含有する光硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性、耐熱性、密着性及び柔軟性に優れた硬化物を形成できる光硬化性樹脂及びそれを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂、中でもUV硬化性樹脂は、速硬化、省エネルギーの観点から、接着剤、印刷インキ、各種コーティング剤などに大量に使用されている。また、カルボキシル基含有樹脂と混合してアルカリ現像性を付与したフォトレジストとして、プリント基板用途では回路形成用レジストや、めっきレジスト、ソルダーレジストなどとして利用されている。その他、フラットパネルディスプレイ用途ではカラーフィルターやブラックマトリックス、オーバーコート剤として利用されている。
【0003】
これらUV硬化性樹脂としてはポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等が一般的であり(例えば、特許文献1〜3参照)、そのほとんどが速硬化性の観点から液状の化合物である。しかしながら、このような形態の樹脂は、確かに速硬化性が付与される反面、多くの電子材料に求められる特性であるリフロー耐性や、はんだ耐熱性といった耐熱特性に問題を残すケースが多い。また、速硬化性樹脂は、一般的に硬化収縮が著しく、得られる硬化物が脆く、密着性が劣る。速硬化性、耐熱性に加えて、密着性は、接着剤、印刷インキ、各種コーティング剤などに強く求められる特性であり、これらの耐熱性と密着性を兼ね備えた(メタ)アクリレート樹脂の開発が求められている。
【0004】
一方、近年、環境をテーマとした問題が多く取り上げられている。最近では石油資源由来の化合物ではなく、新しい天然物由来の材料が注目されている。その中でも本発明者らは乳酸に注目した。乳酸は石油資源由来の化合物ではなく、天然物の発酵により得られる発酵乳酸を使用することができる。また、分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基といった容易に化学修飾可能な官能基を有していることから、様々な分子設計が可能である。さらには、分子設計次第では天然物由来炭素の割合を多くすることが可能となる為、非常に環境に優しい材料を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3446840号公報
【特許文献2】特許第3543409号公報
【特許文献3】特開2004−123780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような背景から、乳酸を出発原料の一つとして用いることにより環境に優しいと共に、UV硬化性に優れ、また耐熱性、密着性及び柔軟性に優れる硬化物を形成できる光硬化性樹脂及びそれを含有する光硬化性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明によれば、エポキシ化合物(a)と、乳酸又はポリ乳酸(b)と、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)とを必須の単量体成分として反応させて得られる、下記一般式(I)で表される、分子構造を有することを特徴とする光硬化性樹脂が提供される。
【化1】

(式中、Acは(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはエポキシ化合物(a)のエポキシ基が開環して形成されるエチレン基を含む該化合物(a)の残基、Rはカルボニルオキシ基又はウレタン結合を含有する結節部位を表し、nは1〜99の整数、mは0又は1を示す。)
なお、本明細書において、(メタ)アクリル系とは、アクリル系、メタクリル系及びそれらの混合物を総称する用語であり、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートや他の類似の表現についても同様である。
【0008】
好適な態様においては、前記光硬化性樹脂は、下記一般式(II)で表される構造部位を必須の繰り返し単位とする。
【化2】

(式中、Acは(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはカルボニルオキシ基又はウレタン結合を含有する結節部位を表し、fcは水酸基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、Rは炭素原子数1〜10の炭化水素基、nは1〜99の整数、mは0又は1であり、破線部は他の構造単位との結合を示す。)
【0009】
より好適な態様においては、前記一般式(I)又は(II)中、Rで表されるカルボニルオキシ基又はウレタン結合を有する結節部位は、下記一般式a1、a2、又はa3で表されるものである。
【化3】

(上記各式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜20の炭化水素基、Rは炭素原子数1〜30のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)
【0010】
別の好適な態様においては、前記光硬化性樹脂は、エポキシ化合物1分子あたり(メタ)アクリロイルオキシ基を平均0.1〜2.0個有するものである。
特に好適な態様においては、前記エポキシ化合物(a)は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であり、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)は(メタ)アクリル酸であって、かつ、上記エポキシ樹脂(a’)と乳酸との反応生成物である水酸基含有樹脂に、(メタ)アクリル酸を反応させて得られる分子構造を有する。
【0011】
他の好適な態様においては、前記エポキシ化合物(a)は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であり、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)は(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネートであって、かつ、上記エポキシ樹脂(a’)と乳酸又はポリ乳酸(b)との反応生成物である水酸基含有樹脂に、(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネートを反応させて得られる構造を有する。
【0012】
さらに他の好適な態様においては、前記エポキシ化合物(a)は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であって、かつ、該エポキシ樹脂(a’)に、酸無水物又はポリイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーの反応物を反応させて得られる分子構造を有する。
【0013】
また、本発明によれば、前記した光硬化性樹脂に、酸無水物(d)を反応させてなるカルボキシル基含有光硬化性樹脂も提供される。
さらに本発明によれば、前記した光硬化性樹脂(A)及び/又はカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)、及び光重合開始剤(B)を必須成分として含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物が提供される。
光硬化性樹脂組成物の好適な態様においては、前記カルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)以外の他のカルボキシル基含有樹脂(C)をさらに含有し、あるいはさらに熱硬化性成分(D)を含有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光硬化性樹脂は、エポキシ化合物(a)と、乳酸又はポリ乳酸(b)と、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)とを必須の単量体成分として反応させて得られるものであり、乳酸を出発原料の一つとして用いたことにより環境に優しいと共に、前記一般式(I)で表される構造部位を必須の繰り返し単位としているため、UV硬化性に優れ、また耐熱性、密着性及び柔軟性に優れる硬化物を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】樹脂合成例1で製造された光硬化性樹脂のIRスペクトルを示すグラフである。
【図2】樹脂合成例1で製造された光硬化性樹脂の核磁気共鳴スペクトルを示すグラフである。
【図3】樹脂合成例2で製造された光硬化性樹脂のIRスペクトルを示すグラフである。
【図4】樹脂合成例2で製造された光硬化性樹脂の核磁気共鳴スペクトルを示すグラフである。
【図5】樹脂合成例3で製造された光硬化性樹脂のIRスペクトルを示すグラフである。
【図6】樹脂合成例3で製造された光硬化性樹脂の核磁気共鳴スペクトルを示すグラフである。
【図7】樹脂合成例4で製造された光硬化性樹脂のIRスペクトルを示すグラフである。
【図8】樹脂合成例4で製造された光硬化性樹脂の核磁気共鳴スペクトルを示すグラフである。
【図9】樹脂合成例5で製造された光硬化性樹脂のIRスペクトルを示すグラフである。
【図10】樹脂合成例5で製造された光硬化性樹脂の核磁気共鳴スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光硬化性樹脂は、エポキシ化合物(a)と乳酸又はポリ乳酸(b)との反応により生じた末端水酸基に、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)のこれらの官能基を反応させることで容易に得ることができる。このようにして、乳酸骨格を介して(メタ)アクリル系単量体(c)の不飽和二重結合が樹脂の主鎖から離れた部位に導入されたことにより、優れた光反応性を示すと共に、乳酸骨格が導入されたことにより、親水性が向上し、密着性及び柔軟性を有する硬化物が得られる。また、分子設計次第では乳酸含有量を大幅に増大させることが可能であり、環境にやさしい光硬化性樹脂を得ることが可能となる。さらには、乳酸に反応可能なエポキシ化合物を選択的に反応させることで耐熱性を付与することができる。また、この際、乳酸に選択的に反応させ、耐熱性を付与することが可能なものとしてはエポキシ樹脂が容易である。
以下、本発明の光硬化性樹脂についてより具体的に詳しく説明する。
【0017】
まず、(a)成分として多官能クレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂を用い、(b)成分として乳酸、(c)成分として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、下記式に示すような光硬化性樹脂が得られる。
【化4】

【0018】
また、(a)成分として多官能クレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂を用い、(b)成分として乳酸、(c)成分として無水(メタ)アクリル酸を用いた場合には、下記式に示すような光硬化性樹脂が得られる。
【化5】

【0019】
さらに、(a)成分として多官能クレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂を用い、(b)成分として乳酸、(c)成分として2−アクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いた場合には、下記式に示すような光硬化性樹脂が得られる。
【化6】

【0020】
さらに、(a)成分として多官能クレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂を用い、(b)成分として乳酸、(c)成分としてポリイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーの反応物(例:イソホロンジイソシアネートとヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応物)を用いた場合には、下記式に示すような光硬化性樹脂が得られると考えられる。
【化7】

【0021】
なお、前記各々の構造式に示した繰り返し単位のaとbの合計数、c、d、eの合計数、fとgの合計数、hとiの合計数は、用いた(a)成分としてのエポキシ樹脂のエポキシ基の数以下であるが、(a)成分に対する(b)成分と(c)成分の反応比率に応じて任意に調整することができる。
【0022】
前記(a)成分乃至(c)成分の反応は、エポキシ化合物(a)に、乳酸又はポリ乳酸(b)と酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)を同時に反応させる方法、あるいはまず乳酸又はポリ乳酸(b)を反応させ、次いで酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)を反応させる方法のいずれも採用することができる。このような反応は、後述するような有機溶剤の存在下又は非存在下で、ハイドロキノンや酸素等の重合禁止剤の存在下、通常、約50〜150℃で行う。このとき必要に応じて、トリエチルアミン等の三級アミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン等のリン化合物等を触媒として添加してもよい。
【0023】
また、前記反応における各成分の割合(原料の仕込み割合)は、エポキシ化合物(a)のエポキシ基1当量に対して、前記乳酸又はポリ乳酸(b)のカルボキシル基が0.2〜1.1当量となり、かつ、(a)成分のエポキシ基と(b)成分のカルボキシル基の反応により生じた水酸基と乳酸又はポリ乳酸(b)の残存水酸基の合計を1当量として、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)の酸基又はイソシアネート基が0.05〜1.0当量となる割合が好ましい。乳酸又はポリ乳酸(b)のカルボキシル基がエポキシ化合物(a)のエポキシ1当量に対して0.2当量未満の割合では、前記した本発明の目的とする耐熱性と密着性、柔軟性向上の効果が充分に得られず、逆に1.1当量を超えて多量に用いても、理論的には1当量しか反応しないため、未反応で残存するこれらの化合物が多くなり、硬化物の物性を低下させる要因となるため好ましくない。
このようにして得られた光硬化性樹脂(A)は、最終的にエポキシ基1当量に対して、0.1〜2.0当量の(メタ)アクリロイルオキシ基を有することが好ましい。
【0024】
また、上記反応で得られる光硬化性樹脂(A)の重量平均分子量は、樹脂骨格により異なるが、一般的に2,000〜150,000、さらには5,000〜100,000の範囲にあるものが好ましい。重量平均分子量が2,000未満の場合、塗膜のタックフリー性能が劣ることがあり、露光後の塗膜の耐湿性が悪く、現像時に膜減りが生じ、解像度が大きく劣ることがある。一方、重量平均分子量が150,000を超えると、ハンドリング性が悪くなったり、貯蔵安定性が劣ることがある。尚、重量平均分子量は、例えば下記条件のGPC等で測定することが可能である。
測定装置:東ソー(株)製「HLC−8220 GPC」、
カラム:東ソー(株)製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー(株)製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー(株)製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー(株)製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー(株)製「TSK−GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折径)
測定条件:
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/分
【0025】
また、前記光硬化性樹脂(A)の二重結合当量は、100g/当量以上1000g/当量以下であることが好ましい。光硬化性を良好にする点からは100g/当量以上600g/当量以下が好ましい。また可撓性を良好にする点からは、二重結合当量を500g/当量以上にすることが好ましい。
【0026】
前記光硬化性樹脂(A)の合成に用いられるエポキシ化合物(a)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、2ーヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、2ーヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、6ーヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルもしくはグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー類、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル化合物;テレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル化合物;トリグリシジルイソシアヌレート、N,N,N’,N’−テトラグリシジルメタキシレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミン化合物、3,4−エポキシシクロへキサンカルボキシレート等の脂環型エポキシ樹脂、グリシジルメタクリレートとスチレンとメチルメタクリレートの共重合体、グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルマレイミドとの共重合体等の共重合型エポキシ樹脂等の公知慣用のエポキシ化合物及びエポキシ樹脂が挙げられる。
【0027】
前記乳酸又はポリ乳酸(b)としては、例えば(株)武蔵野化学研究所製のムサシノ乳酸(登録商標)Fなどを好適に使用することができる。また、乳酸を分子間で脱水縮合させて適度な繰り返し構造を持った乳酸オリゴマーを使用してもよい。
【0028】
前記光硬化性樹脂(A)の合成に用いられる酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)としては、酸基(有機酸基)を有する(メタ)アクリル系単量体(c−1)及びイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c−2)を、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
酸基を有する(メタ)アクリル系単量体(c−1)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、クロトン酸、桂皮酸、ビニル酢酸、ソルビン酸、(メタ)アクリル酸にε−カプロラクトンを反応させ分子伸長したポリラクトン(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリル酸ダイマーが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
前記イソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c−2)としては、1分子中に1個のイソシアネート基と1個以上のエチレン性不飽和基を有するイソシアネート化合物であればよく、特に限定されない。具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート、ビス(アクリロキシメチル)エチルイソシアネートあるいはこれらの変性体等が挙げられる。市販品としては、「カレンズMOI」(メタクリロイルオキシエチルイソシアネート)、「カレンズAOI」(アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート)、「カレンズMOI−EG」(メタクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート)、「カレンズMOI一BM」(カレンズMOIのイソシアネートブロック体)、「カレンズMOI−BP」(カレンズMOIのイソシアネートブロック体)、「カレンズBEI」(1,1−ビス(アクリロキシメチル)エチルイソシアネート)が、昭和電工(株)から市販されている。なお、これらの商品名は、いずれも登録商標である。さらには、1分子中に1個の水酸基と1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物と、イソホロンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのジイソシアネートとのハーフウレタン化合物も使用することができる。これらのイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c−2)は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、前記したようにして得られた光硬化性樹脂(A)の水酸基に対し、さらに酸無水物(d)を反応させてカルボキシル基を導入することにより、アルカリ水溶液に可溶のカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)とすることもできる。この反応において、酸無水物(d)の使用量は、一般に、上記光硬化性樹脂(A)の水酸基1モルに対して0.1〜1.0モルの割合、好ましくは生成するカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)の酸価が約20〜200mgKOH/g、より好ましくは50〜120mgKOH/gとなるような付加量である。
【0032】
前記光硬化性樹脂(A)に対する酸無水物(d)の付加反応は、後述するような有機溶剤の存在下又は非存在下で、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール等の重合禁止剤の存在下、通常、約50〜150℃で行う。このとき必要に応じて、トリエチルアミン等の三級アミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、ナフテン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸やオクトエン酸のリチウム、クロム、ジルコニウム、カリウム、ナトリウム等の有機酸の金属塩などを触媒として添加してもよい。これらの触媒は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0033】
上記酸無水物(d)としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸等の脂環式二塩基酸無水物;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、ペンタドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の脂肪族又は芳香族二塩基酸無水物、あるいはビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は芳香族四塩基酸二無水物が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。
【0034】
前記したようにして得られた本発明の光硬化性樹脂(A)及び/又はカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)にさらに光重合開始剤(B)を加えることによって、本発明の光硬化性樹脂組成物を得ることができる。本発明の光硬化性樹脂組成物に好適に用いることができる光重合開始剤、光開始助剤及び増感剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物、ケタール化合物、ベンゾフェノン化合物、キサントン化合物等を挙げることができる。
【0035】
ベンゾイン化合物の具体例を挙げると、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルである。
アセトフェノン化合物の具体例を挙げると、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンである。
【0036】
アントラキノン化合物の具体例を挙げると、例えば、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンである。
チオキサントン化合物の具体例を挙げると、例えば、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンである。
【0037】
ケタール化合物の具体例を挙げると、例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールである。
ベンゾフェノン化合物の具体例を挙げると、例えば、ベンゾフェノン、4−ベンゾイルジフェニルスルフィド、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド、4−ベンゾイル−4’−エチルジフェニルスルフィド、4−ベンゾイル−4’−プロピルジフェニルスルフィドである。
【0038】
他にもα-アミノアセトフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系があり、具体的には2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、N,N−ジメチルアミノアセトフェノンなどが挙げられる。市販品ではチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のイルガキュアー907、イルガキュアー369、イルガキュアー379などが挙げられる。オキシムエステル系開始剤の市販品としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のCGI−325、イルガキュアー OXE01、イルガキュアー OXE02、アデカ社製N-1919等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系開始剤としては、例えば2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。市販品としては、BASF社製のルシリンTPO、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のイルガキュアー819などが挙げられる。
【0039】
上記に代表的な光重合開始剤類を示したが、光照射によりラジカル活性種を発生するもの、またその成長種の働きを助けるものであればこれらに限定されない。また、それ自身はラジカル発生を起こさないが上記光重合開始剤に対して増感効果のある増感剤も慣用公知のものを使用することができる。上記光重合開始剤及び増感剤類は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物には、アルカリ現像性付与のため、前記カルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)以外の他の公知慣用のカルボキシル基含有樹脂(C)を用いることができる。
カルボキシル基含有樹脂(C)の具体例としては、以下に列挙するような化合物(オリゴマー及びポリマーのいずれでもよい)を好適に用いることができる。
【0041】
(1)(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸と、スチレン、α−メチルスチレン、低級アルキル(メタ)アクリレート、イソブチレン等の不飽和基含有化合物との共重合により得られるカルボキシル基含有樹脂。
(2)脂肪族ジイソシアネート、分岐脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネートと、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基含有ジアルコール化合物及びポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、アクリル系ポリオール、ビスフェノールA系アルキレンオキシド付加体ジオール、フェノール性ヒドロキシル基及びアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物等のジオール化合物の重付加反応によるカルボキシル基含有ウレタン樹脂。
(3)ジイソシアネートと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂の(メタ)アクリレートもしくはその部分酸無水物変性物、カルボキシル基含有ジアルコール化合物及びジオール化合物の重付加反応によるカルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂。
(4)前記(2)又は(3)の樹脂の合成中に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の分子内に1つの水酸基と1つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を加え、末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂。
(5)前記(2)又は(3)の樹脂の合成中に、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの等モル反応物など、分子内に1つのイソシアネート基と1つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を加え末端(メタ)アクリル化したカルボキシル基含有感光性ウレタン樹脂。
(6)2官能又はそれ以上の多官能(固形)エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させ、側鎖に存在する水酸基に2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有感光性樹脂。
(7)2官能(固形)エポキシ樹脂の水酸基をさらにエピクロロヒドリンでエポキシ化した多官能エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を反応させ、生じた水酸基に2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有感光性樹脂。
(8)2官能オキセタン樹脂にジカルボン酸を反応させ、生じた1級の水酸基に2塩基酸無水物を付加させたカルボキシル基含有ポリエステル樹脂。
(9)上記(1)〜(8)の樹脂にさらに1分子内に1つのエポキシ基と1つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を付加してなるカルボキシル基含有感光性樹脂。
【0042】
本発明の光硬化性樹脂組成物には、耐熱性を付与するために、熱硬化性成分(D)を加えることができる。本発明に用いられる熱硬化成分としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのアミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、シクロカーボネート化合物、多官能エポキシ化合物、多官能オキセタン化合物、エピスルフィド樹脂、メラミン誘導体などの公知慣用の熱硬化性樹脂が使用できる。特に好ましいのは分子中に2個以上の環状エーテル基及び/又は環状チオエーテル基(以下、環状(チオ)エーテル基と略称する)を有する熱硬化性成分(D)である。
【0043】
このような分子中に2つ以上の環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化性成分(D)は、分子中に3、4又は5員環の環状エーテル基、又は環状チオエーテル基のいずれか一方又は2種類の基を2個以上有する化合物であり、例えば、分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有する化合物、すなわち多官能エポキシ化合物(D−1)、分子中に少なくとも2つ以上のオキセタニル基を有する化合物、すなわち多官能オキセタン化合物(D−2)、分子中に2個以上のチオエーテル基を有する化合物、すなわちエピスルフィド樹脂(D−3)などが挙げられる。
【0044】
前記多官能エポキシ化合物(D−1)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のjER828、jER834、jER1001、jER1004、大日本インキ化学工業社製のエピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、東都化成社製のエポトートYD−011、YD−013、YD−127、YD−128、ダウケミカル社製のD.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社のアラルダイド6071、アラルダイド6084、アラルダイドGY250、アラルダイドGY260、住友化学工業社製のスミ−エポキシESA−011、ESA−014、ELA−115、ELA−128、旭化成工業社製のA.E.R.330、A.E.R.331、A.E.R.661、A.E.R.664等(何れも商品名)のビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のjERYL903、大日本インキ化学工業社製のエピクロン152、エピクロン165、東都化成社製のエポトートYDB−400、YDB−500、ダウケミカル社製のD.E.R.542、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイド8011、住友化学工業社製のスミ−エポキシESB−400、ESB−700、旭化成工業社製のA.E.R.711、A.E.R.714等(何れも商品名)のブロム化エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のjER152、jER154、ダウケミカル社製のD.E.N.431、D.E.N.438、大日本インキ化学工業社製のエピクロンN−730、エピクロンN−770、エピクロンN−865、東都化成社製のエポトートYDCN−701、YDCN−704、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドECN1235、アラルダイドECN1273、アラルダイドECN1299、アラルダイドXPY307、日本化薬社製のEPPN−201、EOCN−1025、EOCN−1020、EOCN−104S、RE−306、住友化学工業社製のスミ−エポキシESCN−195X、ESCN−220、旭化成工業社製のA.E.R.ECN−235、ECN−299等(何れも商品名)のノボラック型エポキシ樹脂;大日本インキ化学工業社製のエピクロン830、ジャパンエポキシレジン社製jER807、東都化成社製のエポトートYDF−170、YDF−175、YDF−2004、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドXPY306等(何れも商品名)のビスフェノールF型エポキシ樹脂;東都化成社製のエポトートST−2004、ST−2007、ST−3000(商品名)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のjER604、東都化成社製のエポトートYH−434、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドMY720、住友化学工業社製のスミ−エポキシELM−120等(何れも商品名)のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドCY−350(商品名)等のヒダントイン型エポキシ樹脂;ダイセル化学工業社製のセロキサイド2021、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドCY175、CY179等(何れも商品名)の脂環式エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のYL−933、ダウケミカル社製のT.E.N.、EPPN−501、EPPN−502等(何れも商品名)のトリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のYL−6056、YX−4000、YL−6121(何れも商品名)等のビキシレノール型もしくはビフェノール型エポキシ樹脂又はそれらの混合物;日本化薬社製EBPS−200、旭電化工業社製EPX−30、大日本インキ化学工業社製のEXA−1514(商品名)等のビスフェノールS型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のjER157S(商品名)等のビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のjERYL−931、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイド163等(何れも商品名)のテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドPT810、日産化学工業社製のTEPIC等(何れも商品名)の複素環式エポキシ樹脂;日本油脂社製ブレンマーDGT等のジグリシジルフタレート樹脂;東都化成社製ZX−1063等のテトラグリシジルキシレノイルエタン樹脂;新日鉄化学社製ESN−190、ESN−360、大日本インキ化学工業社製HP−4032、EXA−4750、EXA−4700等のナフタレン基含有エポキシ樹脂;大日本インキ化学工業社製HP−7200、HP−7200H等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂;日本油脂社製CP−50S、CP−50M等のグリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂;さらにシクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートの共重合エポキシ樹脂;エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体(例えばダイセル化学工業製PB−3600等)、CTBN変性エポキシ樹脂(例えば東都化成社製のYR−102、YR−450等)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にノボラック型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はそれらの混合物が好ましい。
【0045】
前記多官能オキセタン化合物(D−2)としては、ビス[(3−メチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エーテル、ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エーテル、1,4−ビス[(3−メチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、(3−メチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、(3−メチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートやそれらのオリゴマー又は共重合体等の多官能オキセタン類の他、オキセタンアルコールとノボラック樹脂、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)、カルド型ビスフェノール類、カリックスアレーン類、カリックスレゾルシンアレーン類、又はシルセスキオキサンなどの水酸基を有する樹脂とのエーテル化物などが挙げられる。その他、オキセタン環を有する不飽和モノマーとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体なども挙げられる。
【0046】
前記分子中に2個以上の環状チオエーテル基を有する化合物(D−3)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールA型エピスルフィド樹脂 YL7000などが挙げられる。また、同様の合成方法を用いて、ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子を硫黄原子に置き換えたエピスルフィド樹脂なども用いることができる。
【0047】
前記分子中に2つ以上の環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化性成分(D)の配合量は、前記光硬化性樹脂(A)及び/又はカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)100質量部(2種以上を使用する場合にはそれらの合計量)に対して、5〜70質量部、より好ましくは10〜50質量部となる範囲が適当である。分子中に2つ以上の環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化性成分(D)の配合量が上記範囲未満である場合、硬化塗膜にカルボキシル基が残り、耐熱性、耐アルカリ性、電気絶縁性などが低下するので、好ましくない。一方、上記範囲を超える場合、低分子量の環状(チオ)エーテル基が乾燥塗膜に残存することにより、塗膜の強度などが低下するので、好ましくない。
【0048】
上記分子中に2つ以上の環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化性成分(D)を使用する場合、熱硬化触媒を含有することが好ましい。そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン化合物などが挙げられる。また、市販されているものとしては、例えば四国化成工業社製の2MZ−A、2MZ−OK、2PHZ、2P4BHZ、2P4MHZ(いずれもイミダゾール系化合物の商品名)、サンアプロ社製のU−CAT(登録商標)3503N、U−CAT3502T(いずれもジメチルアミンのブロックイソシアネート化合物の商品名)、DBU、DBN、U−CATSA102、U−CAT5002(いずれも二環式アミジン化合物及びその塩)などが挙げられる。特に、これらに限られるものではなく、エポキシ樹脂やオキセタン化合物の熱硬化触媒、もしくはエポキシ基及び/又はオキセタニル基とカルボキシル基の反応を促進するものであればよく、単独で又は2種以上を混合して使用してもかまわない。また、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン、2−ビニル−2,4−ジアミノ−S−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS−トリアジン誘導体を用いることもでき、好ましくはこれら密着性付与剤としても機能する化合物を前記熱硬化触媒と併用する。
【0049】
これら熱硬化触媒の配合量は、通常の量的割合で充分であり、例えば前記光硬化性樹脂(A)及び/又はカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)又は分子中に2つ以上の環状(チオ)エーテル基を有する熱硬化性成分(D)100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15.0質量部である。
【0050】
前記した熱硬化性化合物の他にも、熱硬化性成分として、イソシアネート化合物及びそのブロック化物、ビスマレイミド化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド樹脂など、特に水酸基やカルボキシル基と選択的に反応するものが好ましいが、特に制限無く使用できる。
【0051】
さらに本発明の硬化性樹脂組成物には、分子中に1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を配合することができる。このような化合物としては、得られる硬化物の硬度、柔軟性などを最適化するために種々のもの用いることができるが、中でも光硬化性の観点から、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有するものが好ましい。このような化合物としては、エチレングリコール、メトキシテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールのジアクリレート類;ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどの多価アルコール又はこれらのエチレオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物などの多価アクリレート類;フェノキシアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、及びこれらのフェノール類のエチレンオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物などの多価アクリレート類;グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルエーテルの多価アクリレート類;及びメラミンアクリレート、及び/又は上記アクリレートに対応する各メタクリレート類などが挙げられる。
【0052】
さらに、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂に、アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート樹脂や、さらにそのエポキシアクリレート樹脂の水酸基に、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのヒドロキシアクリレートとイソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネートのハーフウレタン化合物を反応させたエポキシウレタンアクリレート化合物なども用いることができる。
【0053】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、着色剤を配合することができる。着色剤としては、黒、白、赤、青、緑、黄などの慣用公知の着色剤を使用することができ、顔料、染料、色素のいずれでもよい。但し、環境負荷低減並びに人体への影響の観点からハロゲンを含有しないことが好ましい。
【0054】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、その塗膜の物理的強度等を上げるために、必要に応じて、フィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、公知慣用の無機又は有機フィラーが使用できるが、特に硫酸バリウム、球状シリカ及びタルクが好ましく用いられる。さらに、白色の外観や難燃性を得るために酸化チタンや金属酸化物、水酸化アルミなどの金属水酸化物を体質顔料フィラーとしても使用することができる。
【0055】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知慣用の熱重合禁止剤、微粉シリカ、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系等のシランカップリング剤、酸化防止剤、防錆剤などのような公知慣用の添加剤類を配合することができる。
【0056】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、前記光硬化性樹脂(A)やカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)、及び感光性(メタ)アクリレート化合物を溶解させ、また組成物を塗布方法に適した粘度に調整するために、有機溶剤を配合することができる。
有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上の混合物として使用することができる。なお、有機溶剤の配合量は、塗布方法に応じた任意の量とすることができる。
【0057】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、例えば前記有機溶剤で塗布方法に適した粘度に調整し、基材上に、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等の方法により塗布することができる。その後、約60〜100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥(仮乾燥)させることにより、タックフリーの塗膜を形成できる。また、上記組成物をキャリアフィルム上に塗布し、乾燥させてフィルムとして巻き取ったドライフィルム形態とすることもできる。このようなドライフィルムは、基材上に張り合わせることにより、樹脂絶縁層を形成することができる。
【0058】
その後、得られた光硬化性樹脂組成物の塗膜に対して、高圧水銀灯やメタルハライドランプを搭載し、活性エネルギー線を照射可能なコンベア式露光機を用い、活性エネルギー線の照射を行うことで容易に硬化物を得ることができる。塗膜は、露光部(活性エネルギー線により照射された部分)が硬化する。また、得られた光硬化性樹脂組成物のパターン形成を行う場合には接触式又は非接触方式により、パターンを形成したフォトマスクを通して選択的に活性エネルギー線により露光し、あるいはレーザーダイレクト露光機により直接パターン露光し、未露光部を希アルカリ水溶液(例えば0.3〜3%炭酸ソーダ水溶液)により現像してレジストパターンが形成される。さらに、熱硬化性成分(D)を含有している組成物の場合、例えば約140〜200℃の温度に加熱して熱硬化させることにより、光硬化性樹脂(A)の水酸基、あるいはカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)のカルボキシル基と、分子中に2個以上の環状エーテル基及び/又は環状チオエーテル基を有する熱硬化性成分(D)が反応し、耐熱性、耐薬品性、耐吸湿性、密着性、電気特性などの諸特性に優れた硬化塗膜を形成することができる。尚、熱硬化性成分(D)を含有していない場合でも、熱処理することにより、露光時に未反応の状態で残ったエチレン性不飽和結合が熱ラジカル重合し、塗膜特性が向上するため、目的・用途により、熱処理(熱硬化)してもよい。
【0059】
上記基材としては、予め回路形成されたプリント配線板やフレキシブルプリント配線板の他、紙−フェノール樹脂、紙−エポキシ樹脂、ガラス布−エポキシ樹脂、ガラス−ポリイミド、ガラス布/不繊布−エポキシ樹脂、ガラス布/紙−エポキシ樹脂、合成繊維−エポキシ樹脂、フッ素樹脂・ポリエチレン・PPO・シアネートエステル等の複合材を用いた全てのグレード(FR−4等)の銅張積層板、ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、シリコンウエハ板等を用いることができる。
【0060】
本発明の光硬化性樹脂組成物を塗布した後に行う揮発乾燥は、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブンなどを用いて行うことができる。
【0061】
上記活性エネルギー線照射に用いられる露光機としては、活性エネルギー線の照射可能なコンベア式露光機、また、パターン形成を行う場合には高圧水銀灯若しくはメタルハライドランプを搭載した紫外線露光装置若しくは直接描画装置(例えばコンピューターからのCADデータにより直接レーザーで画像を描くレーザーダイレクトイメージング装置)を用いることができる。活性エネルギー線としては、最大波長が350〜410nmの範囲にある光を用いていれば高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザーのいずれでもよい。また、その露光量は膜厚等によって異なるが、一般には5〜800mJ/cm、好ましくは10〜500mJ/cm、さらに好ましくは10〜300mJ/cmの範囲内とすることができる。
【0062】
前記現像を行う場合、現像方法としてはディッピング法、シャワー法、スプレー法、ブラシ法等、適宜の方法を採用することができる。また、現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア、アミン類などのアルカリ水溶液が使用できる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではないことはもとよりである。尚、以下において「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0064】
樹脂合成例1
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート100gとクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON N−680、軟化点82℃、エポキシ当量211)211g(1.0モル)、90%乳酸((株)武蔵野化学研究所製、ムサシノ乳酸90F、純度90%)100g(乳酸として1.0モル)、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン1.51g及びハイドロキノン0.15gを仕込み、100℃に加熱して均一溶解した。次いで、トリフェニルホスフィン1.14gを仕込み、窒素を吹き込みつつ110℃に昇温し、含有水を随時系外に除去しながら10時間反応を行った。続いて系内を空気雰囲気に置換した後、得られた反応液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート152g、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、カレンズAOI、分子量141)148g(1.05モル)を仕込み、85℃で3時間反応を行い、赤外分光光度計により溶液中のイソシアネート基のピーク(2270cm−1)が消失したことを確認し、固形分酸価12.7mgKOH/g、固形分64.0%の樹脂溶液を得た。固形分の二重結合当量は429、乳酸含有量は20%であった。これを樹脂ワニス1とする。尚、得られた光硬化性樹脂の赤外線吸収スペクトル(フーリエ変換赤外分光光度計FT−IRを用いて測定)を図1に、核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl、基準物質TMS(テトラメチルシラン))を図2に示す。
【0065】
中間体合成例1(乳酸オリゴマーの合成)
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、90%乳酸((株)武蔵野化学研究所製、ムサシノ乳酸90F、純度90%)1000g(乳酸として10モル)を仕込み、窒素を吹き込みつつ120℃に昇温し、含有水及び乳酸の分子間脱水エステル化による脱離水を随時系外に除去しながら11時間反応を行い、酸価207mgKOH/gの樹脂溶液を得た。これを乳酸オリゴマー中間体X−1とする。
【0066】
樹脂合成例2
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート147gとクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON N−680、軟化点82℃、エポキシ当量211)211g(1.0モル)、乳酸オリゴマー中間体(X−1)216g(0.8モル)、アクリル酸14.4g(0.2モル)、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン2.21g及びハイドロキノン0.22gを仕込み、100℃に加熱して均一溶解した。次いで、トリフェニルホスフィン1.68gを仕込み、空気雰囲気下で110℃に昇温し、8時間反応を行った。続いて、得られた反応液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート188g、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、カレンズAOI、分子量141)106g(0.75モル)を仕込み、85℃で3時間反応を行い、赤外分光光度計により溶液中のイソシアネート基のピーク(2270cm−1)が消失したことを確認し、固形分酸価7.0mgKOH/g、固形分62.0%の樹脂溶液を得た。固形分の二重結合当量は576、乳酸含有量は40%であった。これを樹脂ワニス2とする。尚、得られた光硬化性樹脂の赤外線吸収スペクトル(フーリエ変換赤外分光光度計FT−IRを用いて測定)を図3に、核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl、基準物質TMS(テトラメチルシラン))を図4に示す。
【0067】
樹脂合成例3
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート100gとクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON N−680、軟化点82℃、エポキシ当量211)211g(1.0モル)、90%乳酸((株)武蔵野化学研究所製、ムサシノ乳酸90F、純度90%)100g(乳酸として1.0モル)、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン1.51g及びハイドロキノン0.15gを仕込み、100℃に加熱して均一溶解した。次いで、トリフェニルホスフィン1.14gを仕込み、窒素を吹き込みつつ110℃に昇温し、含有水を随時系外に除去しながら10時間反応を行った。続いて系内を空気雰囲気に置換した後、得られた反応液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート181g、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、カレンズAOI、分子量141)148g(1.05モル)を仕込み、85℃で3時間反応を行い、赤外分光光度計により溶液中のイソシアネート基のピーク(2270cm−1)が消失したことを確認した。さらに、テトラヒドロ無水フタル酸51.7g(0.34モル)を仕込み、110℃で3時間反応を行い、固形分酸価49.0mgKOH/g、固形分64%の樹脂溶液を得た。固形分の二重結合当量は477、乳酸含有量は18%であった。これを樹脂ワニス3とする。尚、得られた光硬化性樹脂の赤外線吸収スペクトル(フーリエ変換赤外分光光度計FT−IRを用いて測定)を図5に、核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl、基準物質TMS(テトラメチルシラン))を図6に示す。
【0068】
樹脂合成例4
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート30.8g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON 850、エポキシ当量187)187g(1.0モル)、90%乳酸((株)武蔵野化学研究所製、ムサシノ乳酸90F、純度90%)100g(乳酸として1.0モル)、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン1.39g及びハイドロキノン0.14gを仕込み、90℃に加熱して均一溶解した。次いで、トリフェニルホスフィン0.97gを仕込み、窒素を吹き込みつつ110℃に昇温し、含有水を随時系外に除去しながら11時間反応を行った。続いて系内を空気雰囲気に置換した後、得られた反応液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート91.2g、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、カレンズAOI、分子量141)141g(1.0モル)を仕込み、85℃で3時間反応を行い、赤外分光光度計により溶液中のイソシアネート基のピーク(2270cm−1)が消失したことを確認し、固形分酸価3.5mgKOH/g、固形分76.0%の樹脂溶液を得た。固形分の二重結合当量は418、乳酸含有量は22%であった。これを樹脂ワニス4とする。尚、得られた光硬化性樹脂の赤外線吸収スペクトル(フーリエ変換赤外分光光度計FT−IRを用いて測定)を図7に、核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl、基準物質TMS(テトラメチルシラン))を図8に示す。
【0069】
樹脂合成例5
温度計、撹拌器、及び還流冷却管を備えたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート30.8g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製、EPICLON 850、エポキシ当量187)187g(1.0モル)、90%乳酸((株)武蔵野化学研究所製、ムサシノ乳酸90F、純度90%)100g(乳酸として1.0モル)、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン1.39g及びハイドロキノン0.14gを仕込み、90℃に加熱して均一溶解した。次いで、トリフェニルホスフィン0.97gを仕込み、窒素を吹き込みつつ110℃に昇温し、含有水を随時系外に除去しながら11時間反応を行った。続いて系内を空気雰囲気に置換した後、得られた反応液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート91.2g、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、カレンズAOI、分子量141)141g(1.0モル)を仕込み、85℃で3時間反応を行い、赤外分光光度計により溶液中のイソシアネート基のピーク(2270cm−1)が消失したことを確認した。さらに、テトラヒドロ無水フタル酸69.9g(0.46モル)を仕込み、115℃で4時間反応を行い、固形分酸価57.2mgKOH/g、固形分80.0%の樹脂溶液を得た。固形分の二重結合当量は488、乳酸含有量は18%であった。これを樹脂ワニス5とする。尚、得られた光硬化性樹脂の赤外線吸収スペクトル(フーリエ変換赤外分光光度計FT−IRを用いて測定)を図9に、核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl、基準物質TMS(テトラメチルシラン))を図10に示す。
【0070】
樹脂ワニス6
DIC(株)製カルボキシル基含有変性クレゾールノボラック型エポキシアクリレート(DICLITE UE−9210、固形分酸価82.9mgKOH/g、固形分62%、固形分の二重結合当量361)を使用した。
【0071】
実施例1〜5及び比較例1〜3
表1に示す各成分を表1に示す割合で配合・攪拌して溶解させ、光硬化性樹脂組成物を得た。簡略試験として、PETフィルム上に光硬化性樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布した。実施例1〜5及び比較例1については、塗布後、80℃、20分にて乾燥を行った。塗布後、PETフィルムを光硬化性樹脂組成物に密着させ、メタルハライドランプで1000mJ/cmの積算光量でUV照射を行うことにより組成物を硬化させ、目的とする膜厚約15〜20μmの硬化塗膜を得た。
【0072】
【表1】

【0073】
硬化塗膜の状態:
得られた硬化物の状態を確認する目的で、UV照射後の硬化塗膜をPETフィルムより引き剥がし、柔らかさ及び割れ易さについて評価した。UV照射後、割れずに柔軟なフィルムが得られたものについては○、著しく割れてしまっているものについては×とした。
【0074】
ラビングテスト:
硬化物の硬化性を試験する目的で、アセトンを含ませたウエスにて50回、硬化物をこするラビングテストを行った。表面の溶解が無いものを十分に硬化していると判断して○、表に僅かな溶解が見られたものを×と評価した。
【0075】
耐熱性試験:
各硬化塗膜を、200℃の熱風循環式乾燥炉に投入して、3分間加熱した。加熱後取り出して、目視にて溶融の形跡を観察して耐熱性試験を行った。全く溶融、変化が見られないものを○、部分的に溶融、変化が確認されるものを×と評価した。
上記各試験の結果を表2にまとめて示す。
【0076】
【表2】

【0077】
上記表2に示される結果から明らかなように、本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、硬化塗膜の状態、ラビングテスト、耐熱性試験の結果より、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート類と同等の硬化性、耐熱性を有していることが分かる。さらには、原料に乳酸を使用していることから、その天然由来炭素の割合を多くすることにより、環境にやさしい光硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0078】
実施例6〜12及び比較例4、5
前記樹脂ワニス1〜6を用い、表3に示す割合にて配合し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで混練し、アルカリ現像型感光性樹脂組成物を調製した。
【0079】
【表3】

【0080】
性能評価:
<最適露光量>
前記実施例6〜12及び比較例4、5の感光性樹脂組成物を、ガラス基板上にスクリーン印刷法により塗布し、80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥させた。乾燥後、高圧水銀灯搭載の露光装置を用いてステップタブレット(Kodak No.2)を介して露光し、現像(30℃、0.2MPa、1wt%炭酸ナトリウム水溶液)を60秒で行った際残存するステップタブレットのパターンが7段の時を最適露光量とした。
【0081】
<現像性>
前記実施例6〜12及び比較例4、5の感光性樹脂組成物を、ガラス基板上にスクリーン印刷法により、膜厚が約25μmになるように塗布し、80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥させた。乾燥後、1wt%炭酸ナトリウム水溶液によって現像を行い、乾燥塗膜が除去されるまでの時間をストップウォッチにより計測した。
【0082】
特性試験:
前記実施例及び比較例の感光性樹脂組成物を、ガラス基板上にスクリーン印刷法により膜厚が約20μmになるように塗布し、80℃の熱風循環式乾燥炉で60分間乾燥させた。乾燥後、最適露光量にて露光を行い、30℃の1wt%炭酸ナトリウム水溶液をスプレー圧0.2MPaの条件で60秒間現像を行い、感光パターンを得た。その後、150℃で60分加熱して硬化した。得られた硬化塗膜に対して以下の特性評価を行った。
【0083】
<密着性>
上記手法によりガラス基板上に作製した硬化塗膜を、常法に従い碁盤目状にクロスカットを入れ、次いでセロハン粘着テープによるピーリングテスト後の碁盤目の残り数を以下の基準で評価した。
○:碁盤目の残り数が70以上100以下
△:碁盤目の残り数が30以上70未満
×:碁盤目の残り数が0以上30未満
【0084】
<折り曲げ性>
上記手法によりガラスに変えてPET上に形成した約40μmの硬化塗膜を引き剥がし、柔らかさ、脆さについて評価した。得られた硬化フィルムが柔軟性のあるものを○、硬く脆さがあり、柔軟性のないものを×とした。
前記各試験の結果を表4にまとめて示す。
【0085】
【表4】

【0086】
上記表4に示される結果から明らかなように、本発明の光硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、従来のポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート類と比べ、優れた特徴を有することが明らかとなった。また、驚くべきことに、乳酸骨格を導入した樹脂は、比較例4及び比較例5と比較して大きく現像性を悪くしないことが明らかとなった。これは、乳酸骨格が導入されたことにより、親水性が向上したためであると考えられる。さらには優れた光反応性を有し、密着性及び柔軟性を有する硬化塗膜が得られることが明らかとなった。さらに分子設計次第では乳酸含有量を大幅に増大させることが可能であり、環境にやさしい光硬化性樹脂を得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(a)と、乳酸又はポリ乳酸(b)と、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)とを必須の単量体成分として反応させて得られる、下記一般式(I)で表される分子構造を有することを特徴とする光硬化性樹脂。
【化1】

(式中、Acは(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはエポキシ化合物(a)のエポキシ基が開環して形成されるエチレン基を含む該化合物(a)の残基、Rはカルボニルオキシ基又はウレタン結合を含有する結節部位を表し、nは1〜99の整数、mは0又は1を示す。)
【請求項2】
前記光硬化性樹脂が、下記一般式(II)で表される構造部位を必須の繰り返し単位とすることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂。
【化2】

(式中、Acは(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはカルボニルオキシ基又はウレタン結合を含有する結節部位を表し、fcは水酸基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、Rは炭素原子数1〜10の炭化水素基、nは1〜99の整数、mは0又は1であり、破線部は他の構造単位との結合を示す。)
【請求項3】
前記一般式(I)又は(II)中、Rで表されるカルボニルオキシ基又はウレタン結合を有する結節部位が、下記一般式a1、a2、又はa3で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光硬化性樹脂。
【化3】

(上記各式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜20の炭化水素基、Rは炭素原子数1〜30のアルキレン基、Rは炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)
【請求項4】
前記光硬化性樹脂が、エポキシ化合物1分子あたり(メタ)アクリロイルオキシ基を平均0.1〜2.0個有するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂。
【請求項5】
前記エポキシ化合物(a)が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であり、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)が(メタ)アクリル酸であって、かつ、上記エポキシ樹脂(a’)と乳酸との反応生成物である水酸基含有樹脂に、(メタ)アクリル酸を反応させて得られる分子構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂。
【請求項6】
前記エポキシ化合物(a)が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であり、酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル系単量体(c)が(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネートであって、かつ、上記エポキシ樹脂(a’)と乳酸又はポリ乳酸(b)との反応生成物である水酸基含有樹脂に、(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネートを反応させて得られる構造を有するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂。
【請求項7】
前記エポキシ化合物(a)が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a’)であって、かつ、該エポキシ樹脂(a’)に、酸無水物又はポリイソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートモノマーの反応物を反応させて得られる分子構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずか一項に記載の光硬化性樹脂に、酸無水物(d)を反応させてなるカルボキシル基含有光硬化性樹脂。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずか一項に記載の光硬化性樹脂(A)及び/又は請求項8に記載のカルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)、及び光重合開始剤(B)を必須成分として含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記カルボキシル基含有光硬化性樹脂(A’)以外の他のカルボキシル基含有樹脂(C)をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
さらに熱硬化性成分(D)を含有することを特徴とする請求項9又は10に記載の光硬化性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−248297(P2010−248297A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96519(P2009−96519)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】