説明

光触媒を用いた水処理装置および水処理システム

【課題】 光触媒を利用して水中の微生物の殺滅や殺菌を行う水処理装置において、光触媒を新たなものに容易に替えることが可能な水処理装置および水処理システムを提供する。
【解決手段】 光触媒55Bが付着した磁性体粒子55Aを磁性により保持する粒子保持部材53と、粒子保持部材53の中空に挿入されることで粒子保持部材53を磁化させる磁石54と、光触媒55Bに活性酸素種を発生させるために紫外線を照射する紫外線ランプ56とを備え、磁石54を粒子保持部材53から引き抜くことにより劣化した光触媒55Bが付着した磁性体粒子55Aを離脱させ、新たな光触媒55Bを付着させた磁性体粒子55Aに容易に交換することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を用いて、船舶バラスト水等に含まれる微生物の殺滅や殺菌を行う、光触媒を用いた水処理装置および水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に積み込まれるバラスト水が出港地と異なる場所で排出されることにより、このバラスト水に含まれている水生生物が外来種として生態系に影響を与える問題が指摘されている。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1に記載された光触媒装置では、光触媒に紫外線を照射して該光触媒の表面にOHラジカルを生成させ、このOHラジカルによりバラスト水中の微生物や細菌類を除去するようにしている。
【0004】
この装置を利用することにより、バラスト水に含まれる微生物の殺滅や殺菌を有効に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−349259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献1に記載の光触媒装置では、装置内の反応器に光触媒を被覆または敷設させて固定し、放射線または紫外線を照射する構造になっているため、装置の使用により光触媒が不純物で汚染されて劣化したときにも取り替えが困難であり、処理能力が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光触媒を利用して水中の微生物の殺滅や殺菌を行う水処理装置において、光触媒の交換を容易にした水処理装置および水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の光触媒を用いた水処理装置は、光触媒が付着した磁性体粒子を、磁性により保持する粒子保持部材と、この粒子保持部材を磁化させる磁化手段と、前記磁性体粒子に付着した光触媒に、活性酸素種を発生させるために紫外線を照射する紫外線照射手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また本発明の他の形態の水処理装置は、処理対象の水を導入する導入口と、処理済みの水を流出させる流出口とを有する容器本体と、この容器本体内に収納された中空筒状の内挿管と、この内挿管の外周面を覆うように設けられ、光触媒が付着した磁性体粒子を磁性により保持する粒子保持部材と、棒状に形成されて前記内挿管の中空に挿入され、前記粒子保持部材を磁化させる磁化手段と、前記容器本体内に収納され、前記磁性体粒子に付着した光触媒に活性酸素種を発生させるために紫外線を照射する紫外線照射手段とを備えることを特徴とする
これらの水処理装置の粒子保持部材は、網状構造体で形成してもよい。
【0010】
また、これらの水処理装置の磁化手段は、永久磁石または電磁石で構成してもよい。
【0011】
また、本発明の光触媒を用いた水処理システムは、前記いずれかの水処理装置と、前記水処理装置に供給する処理対象の水溶液を貯留する貯留槽とを備えることを特徴とする。
【0012】
この水処理システムの貯留槽は、バラスト水を貯留するバラストタンクで構成してもよい。
【0013】
なお、本発明において「光触媒の交換」とは、処理対象の水に接触する光触媒を新たなものにすることを意味し、使用済みの劣化した光触媒は離脱させて除去してもよいし、除去せずにこの劣化した光触媒の上層に新たな光触媒を保持させることで処理対象の水に接触させる光触媒を替えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光触媒を用いた水処理装置および水処理システムによれば、光触媒を利用して水中の微生物の殺滅や殺菌を行う水処理装置において、光触媒を容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による水処理システムの構成を示す全体図である。
【図2】本発明の一実施形態による水処理装置の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態による水処理装置に用いる金属酸化物粒子の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の一実施形態による水処理装置で処理された水溶液の大腸菌群数の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態として、石油タンカーやコンテナ船などから排出される船舶バラスト水を浄化する水処理装置について説明する。
【0017】
〈一実施形態による水処理システムの構成〉
本発明の一実施形態による水処理システムの構成について、図1を参照して説明する。
【0018】
本実施形態による水処理システム1は、処理対象のバラスト水Aを貯留する貯留槽であるバラストタンク10と、バラストタンク10からバラスト水を流出させて再度戻し入れるように循環させる流路を形成する第1循環ライン20と、バラスト水を浄化処理するために第1循環ライン20から分岐させる分岐流路を形成する第2循環ライン30と、バラスト水を第1循環ライン20または第2循環ライン30に循環させるための循環ポンプ40と、第2循環ライン30により循環するバラスト水を、光触媒を用いて浄化処理する水処理装置50と、浄化されたバラスト水を排出させる流路を形成する排出ライン60とを有する。
【0019】
また第1循環ライン上に弁21が設けられるとともに、第2循環ライン上に弁31が設けられ、弁21を開いて弁31を閉じることにより第1循環ライン上でバラスト水を循環させ、弁21を閉じて弁31を開くことにより浄化処理のために第2循環ライン30上の分岐流路にバラスト水を通水させることができる。
【0020】
水処理装置50の詳細な構成を、図2に示す。水処理装置50は容器本体51を備え、この容器本体51は、第2循環ライン30により循環する浄化処理対象のバラスト水を導入する導入口51Aと、導入口51Aから導入され浄化処理された処理済みのバラスト水を第2循環ライン30に流出させる流出口51Bとを有する。
【0021】
また容器本体51には中空筒状の内挿管52が収納されており、この内挿管52には、外周面を覆うように磁性を持つ粒子保持部材53が設けられている。そしてこの内挿管52の中空に磁化手段としての棒状の磁石54が挿入されることにより、粒子保持部材53が磁化される。
【0022】
本実施形態において容器本体51内にはバラスト水が流入されるため、粒子保持部材53はさびにくい材質、例えばSUS430、410、420、または440などのステンレス鋼で形成されることが望ましい。また形状は、後述するように金属酸化物粒子を保持させ且つ紫外線を透過させることができるもの、例えば網状構造体である金網やパンチングメタルなどが利用可能である。
【0023】
さらに、磁化された粒子保持部材53の表面には、金属酸化物粒子55が磁性により保持されている。この金属酸化物粒子55は、図3に示すように、磁性体粒子55Aの表面に光触媒55Bが付着されることにより形成されている。またこの金属酸化物粒子55は、磁石54の磁性により粒子保持部材53に保持されているため、磁石54が内挿管52から引き抜かれると粒子保持部材53から容易に離脱される。
【0024】
本実施形態において磁性体粒子55Aとしては、マグネタイト、マグヘマイト、またはニッケルフェライトなどを用いることができる。また光触媒55Bとしては、酸化チタン、酸化タングステン、酸化鉄、酸化亜鉛などを用いることができる。この磁性体粒子55Aは、紫外線が照射されることにより表面に活性酸素種を発生させ、導入口51Aから導入された浄化処理対象のバラスト水を浄化する。
【0025】
また容器本体51には、粒子保持部材53に保持された金属酸化物粒子55に対して紫外線を照射する紫外線ランプ56が収納されている。
【0026】
〈水処理システム1によるバラスト水の浄化処理〉
次に、本実施形態による水処理システム1により行われるバラスト水の浄化処理について説明する。
【0027】
まず、バラスト水の浄化処理が開始されると、弁21が閉じられるとともに弁31が開けられ、循環ポンプ40が稼動されバラストタンク10中のバラスト水が第1循環ライン20に流出され、さらに第2循環ライン30を経由して水処理装置50に導入される。
【0028】
水処理装置50では、予め容器本体51内に内挿管52が収納されており、この内挿管52の外周面には粒子保持部材53が取り付けられている。そして内挿管52の中空に磁石54が挿入されることにより粒子保持部材53が磁化され、表面に金属酸化物粒子55が保持されている。さらにこの金属酸化物粒子55に紫外線ランプ56から紫外線が照射されることにより、金属酸化物粒子55内の光触媒55Bの表面に活性酸素種が発生している。
【0029】
この水処理装置50の容器本体51内に、導入口51Aからバラスト水が導入され、光触媒55Bの表面に発生した活性酸素種によりバラスト水中の微生物の殺滅や殺菌が行われ浄化される。
【0030】
浄化されたバラスト水は流出口51Bから流出され、第2循環ライン30および第1循環ライン20を通ってバラストタンク10に再度戻し入れられる。浄化されたバラストタンク10のバラスト水は、排出ライン60から排出される。
【0031】
〈水処理装置50の金属酸化物粒子55の交換処理〉
次に、水処理装置50内で浄化処理に利用される金属酸化物粒子55の交換処理について説明する。
【0032】
水処理装置50において、上述したように浄化処理が行われると、金属酸化物粒子55中の光触媒55Bは時間の経過とともに不純物で汚染されて触媒活性が劣化し、浄化処理能力が低下してくる。
【0033】
このような場合に、金属酸化物粒子55が磁石54の磁性により粒子保持部材53に保持されていることを利用して、以下の(1)〜(3)いずれかの方法を用いて劣化した金属酸化物粒子55を新たなものに替えることが可能である。
【0034】
(1)容器本体51外で新たな金属酸化物粒子55に交換する方法
磁石54が挿入され金属酸化物粒子55が粒子保持部材53の表面に保持された内挿管52を容器本体51から離脱させ、さらに内挿管52から磁石54を引き抜いて離脱させる。内挿管52から磁石54を離脱させることにより粒子保持部材53が磁性を示さなくなり、保持されていた金属酸化物粒子55が粒子保持部材53から脱離される。
【0035】
そして、再度内挿管52の中空に磁石54を挿入して粒子保持部材53が磁化された状態で、新たな金属酸化物粒子55を粒子保持部材53に保持させ、さらに内挿管52を容器本体51に戻し入れることで、浄化処理に利用する金属酸化物粒子55を交換することができる。
【0036】
(2)容器本体51内で新たな金属酸化物粒子55に交換する方法
金属酸化物粒子55が粒子保持部材53の表面に保持された内挿管52が容器本体51内に収納され、バラスト水が流入されている状態で、内挿管52から磁石54を引き抜いて離脱させる。内挿管52から磁石54を離脱させることにより粒子保持部材53が磁性を示さなくなり、保持されていた劣化した金属酸化物粒子55がバラスト水中に放出される。
【0037】
バラスト水中に放出された金属酸化物粒子55は比重が高く沈殿するため、容器本体51の下部から回収される。
【0038】
劣化した金属酸化物粒子55が粒子保持部材53から離脱され回収された後、新たな金属酸化物粒子55を容器本体51内に投入しバラスト水中に拡散させる。そしてバラスト水中に拡散された新たな金属酸化物粒子55が、磁石54により磁化された粒子保持部材53に引き寄せられ保持されることで、浄化処理に利用する金属酸化物粒子55を交換することができる。
【0039】
(3)容器本体51内で新たな金属酸化物粒子55を重ねて保持させる方法
金属酸化物粒子55が粒子保持部材53の表面に保持された内挿管52が容器本体51内に収納され、バラスト水が流入されている状態で、新たな金属酸化物粒子55を容器本体51内に投入しバラスト水中に拡散させる。
【0040】
そしてバラスト水中に拡散された新たな金属酸化物粒子55が磁石54により磁化された粒子保持部材53に引き寄せられ、劣化した金属酸化物粒子55を覆うように重ねて保持される。これにより、浄化処理の際にバラスト水に接触する金属酸化物粒子55を新たなものにすることができる。
【0041】
この(1)〜(3)の処理を行う間は、弁21を開くとともに弁31を閉じて、第2循環ライン30にバラスト水が通水しないようにしておいてもよい。
【0042】
〈実施例〉
本実施形態による水処理システム1において、磁性により保持された光触媒の有効性を確認するため、以下の実験を行った。
【0043】
本実験においては、バラスト水を模擬した水溶液として、103〜106cfu/ml(cfu:Colony Forming Unit)の大腸菌群を含有させた大腸菌含有水溶液1Lを用い、この大腸菌含有水溶液を循環ポンプ40により循環させることにより、水処理装置50の容器本体51内に流入させた。
【0044】
また容器本体51内に収納する内挿管52には、SUS430製のステンレスで形成された粒子保持部材53である金網を取り付け、この内挿管52の中空に棒状の永久磁石54を挿入することにより金網を磁化させた。
【0045】
また金網の表面に保持させる金属酸化物粒子55としては、磁性体粒子55Aであるマグネタイト粒子に光触媒55Bである酸化チタンを121.44μg/cm2の密度で付着させた複合粒子を用いた。
【0046】
磁化した金網に複合粒子を保持させた状態で、容器本体51内に流入した大腸菌水溶液に紫外線ランプ56により紫外線(0.19W/cm2)を3時間照射し、照射開始から照射終了後24時間までの大腸菌群数の変化を測定した。ここで紫外線照射終了後は、大腸菌水溶液をペトリフィルム培地に接種し、35℃で24時間培養して大腸菌群数を測定した。
【0047】
また比較例として、バラスト水中の不純物により光触媒55Bが汚染されて殺菌能力が低下した場合を模擬するため、酸化チタンを付着させないマグネタイト粒子を金属酸化物粒子55として用いた場合の大腸菌数の変化を測定した。
【0048】
これらの実験結果を、図4のグラフに示す。このグラフに示すように、金属酸化物粒子55内に酸化チタンを含む場合(グラフ中の「酸化チタンあり」の場合)および酸化チタンを含まない場合(グラフ中の「酸化チタン無し」の場合)いずれも、紫外線照射開始から1時間で大腸菌群数はIMO(国際海事機構)の定める排出基準値2.5cfu/ml以下に低下し、紫外線照射中(3時間)はこの排出基準値以下が保たれていたことが確認された。
【0049】
そして紫外線照射終了後は、酸化チタンを含まない場合は大腸菌群が再増殖し、培養24時間後には104cfu/ml以上まで増加した。一方、酸化チタンを含む場合は培養24時間後にも大腸菌群は検出されず、再増殖が抑制されていることが確認された。
【0050】
以上の実験結果により、光触媒55Bである酸化チタンが劣化し殺菌能力が低下した場合、大腸菌の再増殖が懸念される。
【0051】
そこで、本実施形態による水処理装置50のように光触媒55Bを含む金属酸化物粒子55を磁石54の磁性により容器本体51内に保持させておくことで、光触媒55Bが劣化したときに磁石54を引き抜いてこの金属酸化物粒子55を離脱させ容易に新たな光触媒55Bに交換することができ、殺菌効果を維持することができる。
【0052】
以上の本実施形態の水処理装置においては、磁石が永久磁石の場合について説明したが、電磁石で構成することも可能であり、この場合は電磁石のスイッチのオン/オフを切り替えることにより、粒子保持部材53に保持させた金属酸化物粒子55の保持/離脱を操作することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…水処理システム
10…バラストタンク
20…第1循環ライン
30…第2循環ライン
40…循環ポンプ
50…水処理装置
51…容器本体
51A…導入口
51B…流出口
52…内挿管
53…粒子保持部材
54…磁石
55…金属酸化物粒子
55A…磁性体粒子
55B…光触媒
56…紫外線ランプ
60…排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒が付着した磁性体粒子を、磁性により保持する粒子保持部材と、
この粒子保持部材を磁化させる磁化手段と、
前記磁性体粒子に付着した光触媒に、活性酸素種を発生させるために紫外線を照射する紫外線照射手段と、
を備えることを特徴とする光触媒を用いた水処理装置。
【請求項2】
処理対象の水を導入する導入口と、処理済みの水を流出させる流出口とを有する容器本体と、
この容器本体内に収納された中空筒状の内挿管と、
この内挿管の外周面を覆うように設けられ、光触媒が付着した磁性体粒子を磁性により保持する粒子保持部材と、
棒状に形成されて前記内挿管の中空に挿入され、前記粒子保持部材を磁化させる磁化手段と、
前記容器本体内に収納され、前記磁性体粒子に付着した光触媒に活性酸素種を発生させるために紫外線を照射する紫外線照射手段と、
を備えることを特徴とする光触媒を用いた水処理装置。
【請求項3】
前記粒子保持部材は、網状構造体で形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒を用いた水処理装置。
【請求項4】
前記磁化手段は、永久磁石または電磁石である
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の光触媒を用いた水処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の水処理装置と、
前記水処理装置に供給する、処理対象の水を貯留する貯留槽と、
を備えることを特徴とする光触媒を用いた水処理システム。
【請求項6】
前記貯留槽は、バラスト水を貯留するバラストタンクである
ことを特徴とする請求項5に記載の光触媒を用いた水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110471(P2011−110471A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267673(P2009−267673)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】