説明

光触媒シートの製造方法

【課題】本発明の課題は、高い光触媒活性を有する光触媒シートを低温で簡便、安価に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】中心線表面粗さが0.1μm以上になるように粗面化されたアルミニウム表面を有する基材に周期律表のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物を作用させることにより金属酸化物粒子を前記基材上に形成させることを特徴とする光触媒シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を有する金属酸化物光触媒シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンをはじめとする金属酸化物半導体は、光を吸収することにより電子、正孔を生成し、表面に吸着した化学種が電子、正孔と反応することによって様々な有機物や無機物の酸化反応や還元反応などの、いわゆる光触媒反応が起こる。これらの光触媒反応を利用して、空気や水質の浄化、防汚、防曇、抗菌、抗黴など種々の用途に利用されている。
【0003】
触媒活性の高い金属酸化物を製造する方法として、酸化チタンを例に取れば、酸化チタン微粒子を得る方法としては塩化チタン溶液を500℃の気相中に噴霧する気相法が知られている。また酸化チタン薄膜を形成する方法としては、ゾルゲル法、CVD法、スパッタ法、パイロゾル法などが知られている。しかし、これら何れの方法も光触媒活性を得る為には400℃以上での焼成が必要であった。
【0004】
低温で光触媒活性のある酸化チタン膜を形成する方法として、特許第2845195号公報(特許文献1)や再公表特許WO98/11020号公報(特許文献2)にはチタンフッ化物溶液が、
TiF2−+2HO → TiO+6F+4H
の反応を進行させるフッ素捕捉剤を添加することにより、酸化チタン粒子や、酸化チタン薄膜が低温でも形成できることが記載されている。フッ素捕捉剤としては再公表特許WO98/11020号公報には、均一捕捉剤としてホウ酸、メタホウ酸、酸化ホウ素などのホウ素化合物、塩化アルミニウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水等が、不均一捕捉剤としては、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、ゲルマニウムなどの金属、ガラスなどのセラミックス、ケイ素、オルソホウ酸、メタホウ酸、酸化ホウ素などのホウ素化合物、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウムなどの化合物を例示している。
【0005】
しかしながら、上記の文献には、粗面化されたアルミニウム表面を有する基材に酸化チタン膜を形成することは開示されていない。また、上記の文献の方法で作成された光触媒シートでは、本発明が目的とする高い光触媒活性は得られない。更に、上記の文献の実施に用いられているガラス基板やステンレス基板では、たとえ表面を粗面化しても、本発明が目指す充分に高い光触媒活性は得られない。また更に、上記の文献の方法では酸化チタン膜を形成する反応速度はまだ遅く、更なる改良が望まれていた。
【0006】
また一方、WO2004/057064号公報(特許文献3)には、陽極酸化アルミニウムのマイクロポアをテンプレート(鋳型)として、Ia,IIa,IIb,IVb,Vb族金属元素のフッ化物溶液を作用させることによってIa,IIa,IIb,IVb,Vb族金属元素の酸化物のナノホールアレイ又はナノロッドを形成し、係るナノホールアレイまたはナノロッド、あるいは基板上に該ナノホールアレイまたはナノロッド設けた基板付きナノホールアレイまたはナノロッドを光触媒用途に用いることが提案されている。
【0007】
上記の特許文献3は、陽極酸化アルミナの規則的な孔(マイクロポア)を利用して、アルミナと金属酸化物を置換反応させることにより、金属酸化物のナノホールやナノロッドを形成するものである。これに対して、本発明は、後述する図3に示すように、粗面化されたアルミニウム表面に、金属酸化物の微粒子を析出させて膜を形成させるものであり、両者の形態は、基本的に異なるものであり、またその製造方法も異なる。また更に、特許文献3で作製した光触媒シートも本発明が目指す高い光触媒活性を得るまでには至っていなかった。
【特許文献1】特許第2845195号公報、第頁1〜第5頁
【特許文献2】WO98/11020号公報、第頁1〜第18頁
【特許文献3】WO2004/057064号公報、第1頁〜第38頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い光触媒活性を有する光触媒シートを低温で簡便、安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の発明により達成された。
1)中心線表面粗さが0.1μm以上になるように粗面化されたアルミニウム表面を有する基材に周期律表のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物を作用させることにより金属酸化物粒子を前記基材上に形成させることを特徴とする光触媒シートの製造方法。
2)前記アルミニウム表面の中心線表面粗さが0.2μm以上である請求項1に記載の光触媒シートの製造方法。
3)前記金属元素が、チタン、ジルコニウム、または亜鉛である請求項1に記載の光触媒シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により高い光触媒活性を有する光触媒シートの簡便、安価で環境負荷の少ない製造方法が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の光触媒活性を有する光触媒シートは下記反応式(1−1)または(1−2)によりアルミニウムが金属元素のフッ化物のフッ素イオンを捕捉することにより反応式(2)に従ってアルミニウム表面に金属酸化物粒子が形成される反応を用いる。IIa及びIIb族金属のフッ化物を作用させる場合には下記反応式(1−1)により、またIVa族金属のフッ化物を作用させる場合には下記反応式(1−2)によりそれぞれ金属酸化物粒子が形成される。
MF+HO → MO+2H+2F (1−1)
MF2−+2HO → MO+4HF+2F (1−2)
Al+12F+12H → 2HAlF+3HO (2)
【0012】
ここで、Mは周期律表のIIa、IIb、IVa族の金属元素を表し、具体的にはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛である。これらの金属元素のフッ化物の例として、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化チタンカリウム(KTiF)、フッ化チタンナトリウム(NaTiF)、フッ化チタンアンモニウム((NHTiF)、フッ化ジルコニウムカリウム(KZrF)、フッ化ハフニウム(HfF)、フッ化亜鉛4水和物(ZnF・4HO)などである。特に好ましい金属元素はチタン、ジルコニウム、亜鉛のフッ化物である。本発明の金属元素のフッ化物は単独で用いることも組み合わせて用いる事も出来る。特に、IIa族のストロンチウム、カルシウム、バリウムのフッ化物を用いる場合には、IVa族のチタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはIIb族の亜鉛のフッ化物と組み合わせて用いることが好ましい。
【0013】
本発明はアルミニウム表面を有する基材自身がフッ素捕捉剤であるので、基材以外のフッ素捕捉剤を用いなくても金属フッ化物を基材に作用させるだけで金属酸化物粒子を形成することが出来るが、フッ素捕捉剤を補助的に用いることも出来る。フッ素捕捉剤としては前記したように再公表特許WO98/11020号公報に記載されている様なものが挙げられる。
【0014】
本発明のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物は水溶液として浸漬方式、塗布方式等の様々な方式によりアルミニウムの表面を有する基材に作用させることが出来る。
【0015】
本発明のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物の好ましい使用量はフッ化物の種類、フッ化物を作用させる時間、及び温度等により変化するが、1×10―5モル/L〜2×10−1モル/Lの範囲、より好ましくは5×10−4〜5×10−2モル/Lの範囲である。
【0016】
本発明のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物溶液は、該金属フッ化物や液中に生成した金属酸化物の凝集、沈殿等を防止する為に水溶性ポリマー、リン酸化合物、あるいは界面活性剤等を用いることができる。
【0017】
本発明に適した水溶性ポリマーとしてカルボン酸、アミド、スルホン酸などの親水基を有するポリマーが好ましい。具体的として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニールマイレイン酸コポリマー類、スチレン−マイレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N―メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0018】
水溶性ポリマーは該水溶性ポリマーの分子量などにより様々に変化するが、0.01g/L〜100g/Lの範囲、好ましくは0.1g〜50g/Lの範囲で用いる事が好ましい。
【0019】
本発明のリン酸化合物とはリン酸HPO、リン酸二水素ナトリウムNaHPO・2HO、リン酸二水素アンモニウムNHPO、リン酸水素二ナトリウムNaHPO・12HO、リン酸一水素カルシウムCaHPO・2HO、リン酸三ナトリウムNaPO・12HO、ピロリン酸ナトリウムNa・10HO、ピロリン酸二水素二ナトリウムNa、ホスフィン酸ナトリウムNaHPO・HO、ヘキサメタリン酸ナトリウム(NaPO、メタリン酸水素ナトリウム(酸性メタリン酸ソーダ)NaxHy(PO)x+y NaO/P(モル比)<1、等が挙げられる。特に好ましいリン酸の使用形態はヘキサメタリン酸水素ナトリウムやメタリン酸水素ナトリウムの様な高分子縮合リン酸塩とリン酸二水素ナトリウムNaHPO・2HO、リン酸水素二ナトリウムNaHPO・12HO、等の未縮合のリン酸塩と共に用いる場合である。
【0020】
リン酸化合物の使用量は、0.1g/L〜50g/Lの範囲、好ましくは0.5g/L〜20g/Lの範囲である。また本発明のフッ化物溶液のpHは2〜10の範囲、好ましくは3〜8の範囲である。
【0021】
本発明のフッ化物溶液に用いるのに適した界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、あるいはアニオン系界面活性剤が挙げられ、これら各種の活性剤を単独または併用で使用できる。アニオン系界面活性剤としてはアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩などが挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、C〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C〜C25アルキルナフトール、C〜C25アルコキシリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/またはプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加重合させたものなどが挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる基材は、粗面化されたアルミニウム表面を有する。アルミニウム表面の粗面化の程度は、中心線平均粗さRaで0.1μm以上である。ここで、中心線平均粗さRaは、以下の方法で測定されたものである。
即ち、触針式粗さ計(例えば、サーフコム1400D、株式会社東京精密製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均粗さを6回測定し、その平均値を中心線平均粗さとした。
2次元粗さ測定の条件は、カットオフ値0.8mm、側定長さ4mm、触針先端径2μmである。
【0023】
本発明において、粗面化されたアルミニウム表面の中心線表面粗さRa(以降、単にRaと称す)は0.1μm以上である。Raが0.1μm未満の場合は、金属元素のフッ化物を作用させた際にアルミニウム表面に粗大な金属酸化物粒子が形成されるために良好な触媒活性が得られない。
【0024】
本発明において、より高い光触媒活性を得るためには、粗面化されたアルミニウム表面のRaは、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。また、Raを大きくすることによって、比較的高濃度の金属フッ化物溶液を作用させても、金属酸化物粒子の粗大化が抑制されるので、金属酸化物微粒子を速い生成速度で形成することができる。アルミニウム表面のRaの上限は5μm程度であり、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。
【0025】
本発明において、アルミニウム表面は0.1μm以上というRaに加え、更に、開口径が0.01μm〜0.30μmの微細ピットが形成されるように粗面化するのが好ましい。上記微細ピットは、100μm当たり50個以上有することが好ましく、更に好ましくは100個以上であり、上限は15,000個までが好ましい。また該微細ピットの平均開口径が0.03μm〜0.2μmであることが好ましく、更には微細ピットの深さは開口径の1/3以上であることがより好ましい。微細ピットの中心深さは、ピットの開口径に対して1/2〜3倍程度が好ましい。これらの微細ピットの形状、開口径、深さについては走査型電子顕微鏡やトンネル顕微鏡を用いて50,000倍位の倍率の拡大写真により容易に確認することが出来る。
【0026】
図1に、本発明に好適に用いられる粗面化されたアルミニウム表面の形状を模式的に示す。図1aは断面図であり、図1bは平面図である。このアルミニウム表面の形状は、大波構造1と微細ピット2とが重畳した構造となっている。大波構造は、その平均波長が3〜100μmが好ましく、5〜80μmがより好ましい。この平均波長は、前述のRaと同様の方法で測定することができ、ISO4287で規定されている平均山間隔Smを6回測定し、その平均値を平均波長とする。
微細ピットの開口径等については前述した通りである。
【0027】
本発明の粗面化されたアルミニウム表面を有する基材は、基材自体がアルミニウムそのもの(アルミニウム板)であってもよく、あるいは他の材質の基材の上にアルミニウム層を設けた複合素材であってもよい。他の基材としては、金属、金属酸化物、セラミックス、プラスチック、ポリマーフィルム、繊維など種々の素材のものを用いることが出来る。
【0028】
また、粗面化されたアルミニウム表面は陽極酸化されていてもよい。この場合は、陽極酸化された表面が、Ra0.1μm以上と成っていることが必要である。通常、陽極酸化されても、Raは元のアルミニウム表面と大きく変わることはないので、アルミニウム表面の粗面化段階で調整すればよい。
【0029】
本発明のアルミニウムとはアルミニウム含有率が99.0%以上のJIS規格1000番台の純アルミニウム及び銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛等の添加物や不純物を含むアルミニウム含有率が99.0%以下であるJIS規格2000〜7000番台等の種々のアルミニウム合金等を意味する。
【0030】
本発明においてアルミニウム表面の粗面化は後述する様な種々の方法を用いて行うことが出来るが、前記の他の材質からなる基材の上にアルミニウの層を設けた複合素材の場合には、予め他の材質からなる基材自身を粗面化した後にアルミニウム層を塗布、接着、蒸着などの方法により設けることにより元の材質の基材の粗面の形状をアルミニウム表面に反映させることによりアルミニウム表面自身を直接粗面化するのではなく間接的に粗面化する方法を用いる事が出来る。また、前記間接粗面化方法とアルミニウム表面の直接の粗面化とを併用することも出来る。
【0031】
本発明のアルミニウム表面の粗面化(いわゆるグレイニング)方法としてボールグレイニング、ワイヤグレイニング、ブラシグレイニング、などの機械的粗面化処理、酸処理やアルカリ処理、塩化物やフッ化物などによる化学的にアルミニウム表面を溶解する化学的粗面化処理、酸を電解液として交流電場を通じることによるアルミを電気化学的に溶解する電解粗面化処理などの方法、及びこれらの方法を併用した粗面化方法を用いることが出来る。例えば特開昭48−28123号、同53−123204号、同54−146234号、同55−25381、同55−132294号、同56−55291号、同56−150593号、同56−28893号、同58−167196号、米国特許第2,344,510号、同第3,861,917号、同第4,301,229号、米国特許第2,344,510号、米国特許第4,301,229号、米国特許第3,861,917号、カナダ特許第955449号は、西ドイツ特許第1,813,443号、特開平7−56344号公報などに記載されている様な粗面化の方法等を参考にすることが出来る。
【0032】
上記したような粗面化方法を用いることによって、Raが0.1μm以上の粗面化が実現できる。本発明においては、更に、前述したような微細ピットをアルミニウム表面に形成するのが好ましく、このような微細ピットは、化学的粗面化処理あるいは電解粗面化処理によって形成することができる。特に電解粗面化処理によって微細ピットを安定的に形成することができる。
【0033】
電解粗面化処理の好ましい方法として、例えば、塩酸または硝酸の電解液中で電解粗面化する方法が挙げられ、電気量は、100〜400C/dm2の範囲が好ましい。具体的には、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜10質量%の塩酸または硝酸を含む電解液中、温度20〜100℃、好ましくは30〜70℃、時間1秒〜30分、好ましくは2秒〜1分、 電流密度100〜400C/dm2の条件で電解を行うことが好ましい。
【0034】
本発明において、アルミニウム表面を粗面化するための好ましい粗面化方法は、機械的粗面化と電解粗面化を併用することである。これによって、大波構造と微細ピットが重畳した複合構造を低コストで安定的に形成することができる。
【0035】
上述したような粗面化処理の後に、表面に残留する汚れを除去するために酸またはアルカリによりアルミニウム表面を洗浄した後、水洗、乾燥される。また、水洗後に陽極酸化処理を施すことも出来る。陽極酸化処理には、硫酸、リン酸、シュウ酸、等の水溶液が主に電解浴として用いられる。陽極酸化後、水洗、乾燥される。
【0036】
上述したような、粗面化されたアルミニウム表面を有する基材を金属フッ化物で処理することによって、アルミニウム表面に金属酸化物の微粒子(微結晶)が途切れなく重なりあった金属酸化物層が形成される。図2は、金属酸化物層の生成状態を模式的に示した図である。図2aは断面図であり、図2bは平面図である。アルミニウム表面に金属酸化物の微粒子(微結晶)3が密に生成し、金属酸化物層4を形成する。
【0037】
図3は、本発明の方法によってアルミニウム表面に形成された酸化チタン微粒子(微結晶)の走査電子顕微鏡写真である。倍率は30,000倍である。写真からも分かるように、0.01〜0.3μm程度の大きさのアナターゼ構造の酸化チタン微結晶が隙間無く緻密に重なりあって層を形成している。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例により説明する。尚、%は質量%を表す。
【0039】
(実施例1)
幅300mm、厚み0.24mmのJIS―A1050のアルミニウムコイル(A)をナイロンブラシと400メッシュのパミストンの水懸濁液を用いて機械粗面化し、60℃4%の水酸化ナトリウム水溶液に10秒間浸漬、水洗した後、表1に示す電解液中に40A・dm、60Hzの単層交流電流を30秒間流して電解粗面化し、水洗し、50℃10%リン酸を含む溶液に20秒浸漬してデスマットし、水洗、乾燥して本発明のアルミニウムコイル(1)、(2)を作製した。コイルの搬送速度は3m/分である。また、アルミコイル(A)を機械粗面化を行わずに表1に示す電解液中で電解粗面化のみを行い本発明のアルミニウムコイル(3)を作製した。また、アルミコイル(A)をそのまま用いたものを比較例とした。
【0040】
(比較例B)
また、実施例1のアルミニウムコイル(A)を粗面化せずに60℃4%の水酸化ナトリウム水溶液に10秒間浸漬、水洗した後、25℃、4%リン酸水溶液中で間接給電方式により5g/mの陽極酸化皮膜を形成し水洗、乾燥して比較のアルミニウムコイル(B)を作製した。
【0041】
また、前記の方法により粗面化されたアルミコイル(1)を上記比較例Bの方法に従って陽極酸化し本発明のアルミニウムコイル(4)を作製した。
【0042】
上記アルミニウムコイル(1)〜(4)及び(A)、(B)を、100mm×100mmに切断して試験シートとした。このシートを25℃で下記のフッ化物溶液(i)に5分から60分間浸漬して2g/mの酸化チタンをアルミニウムシート表面に形成した後、水洗、乾燥し、本発明の光触媒シート(1)〜(4)及び比較の光触媒シート(A)、(B)を作製した。
フッ化物溶液(i)
フッ化チタンカリウム 0.05モル
アラビアゴム 2g/L、
リン酸二水素ナトリウム 2g
メタリン酸水素ナトリウム 10g
全量1,000mlとし、水酸化ナトリウムを加えてpH5.0に調整した。
【0043】
(光触媒粒子の触媒能のテスト方法)
上記のようにして作製した作製した本発明の光触媒シート(1)〜(4)及び比較の光触媒シート(A)、(B)を、内寸が200mm×200mm×200mmの密閉可能であって内部が艶消し黒に仕上げられた容器の床から100mmの位置に水平に保持した。この密閉容器に悪臭の代表的化合物であるホルムアルデヒドを各々約300ppm注入し、6Wのブラックランプを用いて30分間照射し、各々の容器の残存ホルムアルデヒド濃度を測定した。結果を表1に記す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、Raが0.1μm以上になるように粗面化されたアルミニウム表面を有する基材を用いて作製された酸化チタン光触媒シート(1)〜(4)はホルムアルデヒドの分解に対して高い光触媒活性を示していることが分かる。一方、粗面化されておらずRaが0.1μmに満たないアルミニウムコイル(A)を用いて作製された比較の光触媒シート(A)では低い光触媒活性しか得られなかった。また、また、粗面化せずに陽極酸化処理を施して陽極酸化被膜を形成した比較のアルミコイル(B)は、平滑表面(Raが0.1μm未満)に規則的なマイクロポアを有しており、このアルミコイル(B)をフッ化物溶液で処理して得られた光触媒シート(B)は、前述の特許文献3と同様な構造を有しており、光触媒活性も充分に高いものではなかった。また、本発明の(1)〜(4)のアルミコイルはいずれもその表面には100μm当たり500〜6,000個の微細ピット(直径0.01μm〜0.3μm)があったが、比較のアルミコイル(A)には微細ピットは見られなかった。
【0046】
(実施例2)
実施例1のアルミニウムコイル(1)を100mm×100mmに切断した試験シートを25℃で上記フッ化物溶液(i)及び下記のフッ化物水溶液(ii)〜(iv)に浸漬し2g/mの金属酸化物をアルミニウムシート表面に形成した後、水洗、乾燥し、本発明の光触媒シート(i)〜(iv)とした。
【0047】
フッ化物溶液(ii)
フッ化亜鉛・4水和物 0.05モル
アラビアゴム 2g/L、
リン酸二水素ナトリウム 2g
メタリン酸水素ナトリウム 10g
全量1,000mlとし、水酸化ナトリウムを加えてpH5.0に調整した。
【0048】
フッ化物溶液(iii)
フッ化ジルコニウムカリウム 0.05モル
アラビアゴム 2g/L、
リン酸二水素ナトリウム 2g
メタリン酸水素ナトリウム 10g
全量1,000mlとし、水酸化ナトリウムを加えてpH5.0に調整した。
【0049】
フッ化物溶液(iv)
フッ化チタンカリウム 0.04モル
フッ化ストロンチウム 0.01モル
カルボキシメチルセルロース 0.5g
リン酸二水素ナトリウム 2g
メタリン酸水素ナトリウム 10g
全量1,000mlとし、水酸化ナトリウムを加えてpH5.0に調整した。
【0050】
本発明の光触媒シート(i)〜(v)を、実施例1と同じ密閉容器に保持し、ホルムアルデヒドの代わりにアセトアルデヒドを各々約300ppm注入し、6Wのブラックランプを用いて30分間照射し、残存アセトアルデヒド濃度を測定した。結果を表2に記す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2から分かるように、本発明の各種フッ化物溶液で処理された光触媒シート(i)〜(iv)はいずれもアセトアルデヒドの分解に対しても高い光触媒活性を有していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】粗面化されたアルミニウム表面の形状の模式図。
【図2】アルミニウム表面に形成された金属酸化物層の生成状態の模式図。
【図3】本発明の方法によりアルミニウム表面に形成された酸化チタン微粒子(微結晶)の走査電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0054】
1 大波構造
2 微細ピット
3 金属酸化物の微粒子
4 金属酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線表面粗さが0.1μm以上になるように粗面化されたアルミニウム表面を有する基材に周期律表のIIa、IIb、IVa族の金属元素のフッ化物を作用させることにより金属酸化物粒子を前記基材上に形成させることを特徴とする光触媒シートの製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム表面の中心線表面粗さが0.2μm以上である請求項1に記載の光触媒シートの製造方法。
【請求項3】
前記金属元素が、チタン、ジルコニウム、または亜鉛である請求項1に記載の光触媒シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−150210(P2006−150210A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343507(P2004−343507)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】