説明

光触媒体水系塗料

【課題】 基板に対して濡れ性が良好であり、かつ基板への密着強度が高い被膜を形成できる光触媒体水系塗料、及び該光触媒体水系塗料を用いた光触媒被膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 光触媒体、無機バインダー、及びアセチレングリコール系界面活性剤を含有する光触媒体水系塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、プラスチック、金属、及びセラミックスなどの基板の表面に光触媒活性を有する被膜を形成するための光触媒体水系塗料、及び該光触媒体水系塗料を用いた光触媒被膜付き樹脂基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築材料、家電製品、事務用品、及び車両等の構成材料について、防臭性、防汚性、防カビ性、及び抗菌性等が求められている。これらの特性を付与する方法として、構成材料の表面に光触媒活性を有する被膜を形成する方法が提案されている。具体的には、以下の方法が提案されている。
【0003】
TiOに代表される半導体光触媒物質からなる被膜を、基材表面に形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、光触媒体、シリコンアルコキシド類、ジルコニウム化合物、及びコロイダルシリカを含有する光触媒体コーティング液を用いて基材表面に光触媒体膜を形成する方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、従来の光触媒体コーティング液は、基板に対して濡れ性が悪く、塗膜を均一に形成することが困難であった。特に、樹脂基板に対して濡れ性が非常に悪く、塗膜を均一に形成することが非常に困難であった。また、従来の光触媒体コーティング液により形成された被膜は、基板への密着強度が低いという問題もあった。特に、樹脂基板を用いた場合には、樹脂基板の変質及び変形を防ぐために塗膜を低温で乾燥処理して被膜を形成する必要があるが、低温で乾燥処理すると前記問題が顕在化していた。
【0006】
【特許文献1】特許第3852131号明細書
【特許文献2】特開2005−350643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、基板に対して濡れ性が良好であり、かつ基板への密着強度が高い被膜を形成できる光触媒体水系塗料、及び該光触媒体水系塗料を用いた光触媒被膜付き基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述のような現状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、光触媒体、無機バインダー、及びアセチレングリコール系界面活性剤を含有する光触媒体水系塗料、に関する。
【0010】
光触媒体水系塗料にアセチレングリコール系界面活性剤を添加することにより、基板に対する濡れ性を向上させることができ、また基板への密着強度が高い被膜を形成することができる。
【0011】
本発明の光触媒体水系塗料は、樹脂基板に対しても濡れ性が良好であり、均一な塗膜を形成することができる。また、本発明の光触媒体水系塗料を用いることにより、低温で乾燥処理しても樹脂基板への密着強度が高い被膜を形成することができる。
【0012】
前記光触媒体は、酸化チタン、酸化タングステン、及び酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。これら金属酸化物は、光触媒活性に優れるため光触媒体水系塗料の光触媒体として有用である。
【0013】
前記無機バインダーは、ジルコニウム化合物であることが好ましい。無機バインダーとしてジルコニウム化合物を用いることにより、得られる被膜の基板への密着強度がより高くなる。
【0014】
前記アセチレングリコール系界面活性剤は、アセチレングリコール、非イオン性界面活性剤及び水溶性有機溶媒を含有することが好ましい。また、前記アセチレングリコールは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】


(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、m及びnは0≦m+n≦50を満たす整数である。)
前記アセチレングリコール系界面活性剤を使用することで、アセチレングリコールが光触媒体水系塗料に溶解しやすくなり、基板に塗工する際に優れた濡れ性を示し、それにより得られる被膜の基板への密着強度がより高くなる。
【0015】
また本発明は、前記光触媒体水系塗料を基板上に塗布し、得られた塗膜を乾燥する工程を含む光触媒被膜付き基板の製造方法、に関する。本発明の製造方法は、特に、樹脂基板を用いた場合に有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光触媒体水系塗料は、アセチレングリコール系界面活性剤を含有しているため、基板に対する濡れ性が優れており、また基板への密着強度が高い被膜を形成することができる。特に、本発明の光触媒体水系塗料は、基板が樹脂基板の場合にも前記特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光触媒体水系塗料に含まれる光触媒体とは、例えば紫外線や可視光線の照射により光触媒活性を発現する物質であり、具体的には、X線回折で求められる結晶構造を示し、金属元素と酸素、窒素、イオウ及び弗素との化合物の粉末が挙げられる。例えばTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の1種または2種以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。これらのうち、Ti、WまたはZnの酸化物が好ましく、特にアナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタン〔TiO〕が好ましい。また、当該技術分野において公知の光触媒体を特に制限することなく使用可能である。これらの光触媒体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0018】
光触媒体として使用しうる酸化チタンは、例えば「酸化チタン」(清野学著、技報堂出版)に記載されている硫酸法や塩素法により製造することができる。また、チタン化合物と塩基を反応させ、生成物にアンモニアを添加し、熟成した後、固液分離し、ついで固形分を焼成する方法などで製造することができる。この方法では、チタン化合物として、例えば三塩化チタン〔TiCl〕、四塩化チタン〔TiCl〕、硫酸チタン〔Ti(SO・mHO、0≦m≦20〕、オキシ硫酸チタン〔TiOSO・nHO、0≦n≦20〕、オキシ塩化チタン〔TiOCl〕を用いることができる。チタン化合物と反応させる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、モノエタノールアミン、非環式アミン化合物、環式脂肪族アミン化合物を用いることができる。チタン化合物と塩基の反応は、pH2以上、好ましくは3以上、また7以下、好ましくはpH5以下で行われ、そのときの温度は、通常90℃以下、好ましくは70℃以下、さらに好ましくは55℃以下である。
【0019】
更に製造された酸化チタンの粉砕性を向上させるために、チタン化合物と塩基の反応を過酸化水素存在下で行ってもよい。熟成は、例えばアンモニアが添加された生成物を、撹拌しながら、0℃以上、好ましくは10℃以上、また110℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは55℃以下の温度範囲に、1分以上、好ましくは10分以上、また10時間以内、好ましくは2時間以内の条件で保持する方法で行うことができる。反応と熟成に用いられるアンモニアの総量は、水の存在下でチタン化合物を水酸化チタンに変えるのに必要な塩基の化学量論量を超える量であることが好ましく、例えば1.1モル倍以上であることが好ましい。塩基の量が多いほど、可視光照射によって高い光触媒活性を示す被膜を形成できる光触媒体水系塗料が得られやすいので好ましく、例えば1.5モル倍以上がさらに好ましい。一方、塩基の量があまり多くなっても、量に見合った効果が得られないので、20モル倍以下、さらには10モル倍以下が適当である。
【0020】
熟成された生成物の固液分離は、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどで行うことができる。また固液分離では、得られる固形分を洗浄する操作をあわせて行うことが好ましい。固液分離された固形分または任意の洗浄を行った固形分の焼成は、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉などを用いて、通常250℃以上、好ましくは270℃以上、また600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下の温度条件で行うことができる。このときの時間は、焼成温度や焼成装置の種類により異なり一義的ではないが、通常10分以上、好ましくは30分以上、また30時間以内、好ましくは5時間以内である。
【0021】
焼成して得られる酸化チタンには、必要に応じて、タングステン、ニオブ、鉄、ニッケルの酸化物や水酸化物などのような固体酸性を示す化合物またはランタン、セリウムの酸化物や水酸化物などのような固体塩基性を示す化合物、またインジウム酸化物やビスマス酸化物のような可視光線を吸収する金属化合物を担持してもよい。
【0022】
光触媒体として使用しうる酸化タングステン〔WO〕は、例えばメタタングステン酸アンモニウムのようなタングステン化合物を焼成する方法で製造することができる。焼成は、タングステン化合物を酸化タングステンにすることができる条件で行えばよく、例えば250℃〜600℃の空気中で行うことができる。
【0023】
光触媒体として使用しうる酸化亜鉛〔ZnO〕は、例えば硫酸亜鉛水溶液を炭酸ナトリウム水溶液に加えて炭酸亜鉛を得た後、乾燥し、焼成する方法で製造することができる。焼成は、亜鉛化合物を酸化亜鉛にすることができる条件で行えばよく、例えば400〜700℃の空気中で行うことができる。
【0024】
酸化チタン、酸化タングステン、及び酸化亜鉛以外の酸化物を光触媒体として用いる場合、その酸化物は、例えばセラミックスを構成する金属の塩化物、硫酸塩、オキシ硫酸塩もしくはオキシ塩化物とアンモニアを反応させ、この生成物を空気中で焼成する方法、または光触媒体を構成する金属のアンモニウム塩を空気中で焼成する方法などで調製することができる。
【0025】
光触媒体水系塗料中における光触媒体の含有量は、通常0.1〜30重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。光触媒体水系塗料中において光触媒体は、通常平均粒子径200nm以下の2次粒子を形成している。2次粒子径が小さいほど、水系塗料(分散液)の安定性が向上して光触媒粒子の沈降を抑制することができる。2次粒子径は150nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。
【0026】
本発明で使用する無機バインダーとしては、当該技術分野において公知のものを特に制限することなく使用可能である。具体的には、シリコンアルコキシド類、ジルコニウム化合物、及びコロイダルシリカなどが挙げられる。これらの無機バインダーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。特に、ジルコニウム化合物を用いることが好ましい。
【0027】
シリコンアルコキシド類としては、例えばSi(OR)、RSi(OR)、RSi(OR)で示されるシリコンアルコキシドや、その2量体〜6量体などのオリゴマーなどが挙げられる。ここでRはアルキル基を示す。
【0028】
ジルコニウム化合物としては、例えばZrCl、ZrOCl、ZrO(OH)Cl、Zr(NO)、ZrO(NO)、Zr(CHCOO)、ZrO(CHCOO)、Zr(CHCHCOO)、Zr(SO)、ZrOSO、NaZr(PO、(NHZrO(CO、KZrO(CO、及び蟻酸ジルコニウムなどのジルコニウム塩、ジルコニウムのエトキシド、プロポキシド、ブトキシドなどのジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物などが挙げられる。これらのうち、ZrOCl、ZrO(OH)Cl、ZrO(NO)、(NHZrO(CO、及び蟻酸ジルコニウムなどの水溶性ジルコニウム化合物は、有機溶剤を使用せずに水系塗料を調製できるため作業環境の観点から好ましく用いられる。
【0029】
無機バインダーの添加量は酸化物換算で、光触媒体100重量部に対して通常5〜200重量部であり、好ましくは10〜70重量部である。5重量部未満の場合には被膜の基板に対する密着力が低下する傾向にあり、200重量部を超える場合には光触媒体が無機バインダー中に埋没してしまい、十分な光触媒活性を有する被膜を得にくくなる。
【0030】
本発明で使用するアセチレングリコール系界面活性剤は、少なくともアセチレングリコールを含有するものであれば特に制限されない。アセチレングリコールとしては、例えば、前記一般式(1)で表される化合物が挙げられ、特に2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及びそのエチレンオキサイド付加体を用いることが好ましい。前記化合物を含むアセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、日信化学製のオレフィンEXP.4036、オレフィンPD−002Wなどが挙げられる。
【0031】
アセチレングリコール系界面活性剤は、アセチレングリコールの他に非イオン性界面活性剤、及び水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0032】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコールなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0033】
水溶性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロプレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及びグリセリンなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0034】
アセチレングリコール系界面活性剤が混合物の場合、アセチレングリコールは、アセチレングリコール系界面活性剤中に20重量%以上含有していることが好ましく、より好ましくは40重量%以上である。アセチレングリコールの含有量が20重量%未満の場合には、光触媒体水系塗料の基板に対する濡れ性が不十分になり、また基板への密着強度が高い被膜を形成しにくくなる。特に、樹脂基板に対して前記効果が発現しにくくなる。また、アセチレングリコール以外の非イオン性界面活性剤の含有量は、アセチレングリコール系界面活性剤中に、通常0.5〜50重量%程度である。
【0035】
アセチレングリコール系界面活性剤の添加量は、光触媒体水系塗料中の水100重量部に対して0.005〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1重量部である。0.005重量部未満の場合には、光触媒体水系塗料の基板に対する濡れ性が不十分になり、また基板への密着強度が高い被膜を形成しにくくなる。特に、樹脂基板に対して前記効果が発現しにくくなる。一方、5重量部を超える場合には十分な光触媒活性を有する被膜を得にくくなる。
【0036】
本発明の光触媒体水系塗料は、分散溶媒として水単独、又は水と有機溶媒の混合溶媒を含む。水の添加量は、光触媒体、無機バインダー、及びアセチレングリコール系界面活性剤が均一分散するのに要する量以上であればよいが、作業環境面及びコスト等を考慮すると分散溶媒全体に対して水を50重量%以上用いることが好ましく、より好ましくは85重量%以上である。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、及びt−ブタノールなどのアルコール類が通常用いられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の光触媒体水系塗料は、揮発成分を揮発させて得られる固形分の量が通常0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜15重量%となるように分散溶媒で希釈される。固形分量が0.5重量%未満の場合には、十分な厚さの被膜を形成しにくくなり、固形分量が50重量%を超える場合には、得られる被膜の透明性が損なわれる傾向にある。
【0038】
本発明の光触媒体水系塗料の製造方法は特に制限されず、例えば、光触媒体を単独で溶媒に分散させた光触媒体分散液と、無機バインダー及びアセチレングリコール系界面活性剤を溶媒と混合したバインダー液とを混合する方法で製造することができる。また、光触媒体分散液に無機バインダー及びアセチレングリコール系界面活性剤を順次添加して混合してもよい。また、光触媒体分散液を調製する際に無機バインダー及びアセチレングリコール系界面活性剤を添加してもよい。
【0039】
光触媒体分散液は、例えば、硝酸等の酸中で解膠する方法、湿式ミルにより分散させる方法、超音波照射により分散させる方法、混合物を急激に減圧したり、高速回転する羽根で撹拌して液中に空洞(キャビティ)を発生させ、その空洞が消滅するときに生じる圧力変化を利用して分散させる方法、撹拌羽根やスクリューなどの回転により発生するせん断力で分散させる方法などにより、光触媒体を溶媒に分散させる分散処理を行うことで得ることができる。これらの方法は、単独で行うこともできるし、2以上組合せて行うこともできる。分散処理は、光触媒体の主成分の結晶構造を実質的に変えることなく、すなわち光触媒体の主成分について、X線回折スペクトルから求められる結晶構造の主成分を保持することができる条件で行うことが好ましく、例えば90℃未満の温度で行うことが推奨される。光触媒体の結晶構造の主成分を保持する観点からは、低温で分散処理を行うことが好ましく、80℃以下、さらには75℃以下で行うことがより好ましい。一方、分散処理の温度があまり低くなると、得られる光触媒体水系塗料の安定性が低下することがあるので、10℃以上、さらには20℃以上が適当である。分散処理の時間は、分散処理の温度、使用する装置の種類に応じて適宜選択すればよく、通常1分以上、好ましくは1時間以上、また50時間以下、好ましくは24時間以下である。また分散処理は、複数回に分けて行ってもよい。
【0040】
分散処理したのち、必要に応じて、遠心分離による粗大粒子を除去する操作、又は希釈による光触媒体の含有量を調整する操作を行ってもよい。また、所望する分散剤の含有量に対して過剰の分散剤を用いて分散処理された混合物には、分散剤の一部を除去する操作を行って所定の濃度に調整する。分散剤の除去は、例えば、光照射、加熱、酸化剤もしくは還元剤の添加、イオン交換膜処理、オゾン処理、水熱処理等により行うことができる。さらに分散処理された後の混合物には、必要に応じて、酸又は塩基を添加することによってpHを調整する操作を行ってもよい。このとき用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、及び硫酸等が挙げられ、塩基としては、例えば、アンモニア、尿素、ヒドラジン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、及び水酸化ルビジウムなどが挙げられる。
【0041】
本発明の光触媒体水系塗料は、キレート化剤を含有していることが好ましい。それにより、ジルコニウム化合物の加水分解を防止して、塗料の白濁やゲル化を抑制でき、被膜のヘーズを低くし、被膜の硬度を高くすることができる。
【0042】
キレート化剤としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトンなどのβ−ジケトン類、アセト酢酸、プロピオニル酪酸、ベンゾイル酢酸、ピルビン酸、ベンゾイル蟻酸などのα−またはβ−ケトン酸類、該ケトン酸類のメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルなどのエステル類、グリコール酸、乳酸、α−オキシ酪酸、ヒドロアクリル酸、サリチル酸などのα−またはβ−オキシ酸類のメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチルなどのエステル類、ジアセトンアルコール、アセトインなどのα−またはβ−オキシケトン類、グリコールアルデヒド、アルドールなどのα−またはβ−オキシアルデヒド類、グリシン、アラニンなどのα−アミノ酸類、アミノエチルアルコールなどのα−またはβ−アミノアルコール類、シュウ酸、グルタル酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、アジピン酸のようなジカルボン酸類、クエン酸のようなトリカルボン酸類など、Zr原子とキレート化合物を形成しうる化合物が挙げられる。これらのキレート化剤は、単独で、又は2種以上の混合物として使用できる。これらのなかで、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0043】
キレート化剤を用いる場合、その添加量は、Zr原子換算のジルコニウム化合物の添加量に対して通常は1〜40モル倍、好ましくは1.5〜20モル倍、より好ましくは2〜10モル倍である。1モル倍より少ないと安定化の効果がなく、40モルを超えてもそれに見合った効果に乏しく、経済的に不利である。
【0044】
本発明の光触媒体水系塗料には、光触媒体以外の無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、例えば、非晶質アルミナ、アルミナゾルのようなアルミニウム(水)酸化物、ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムのようなアルカリ土類金属(水)酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブまたは活性炭、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、及びCeのような金属元素の水酸化物、又はこれらの金属元素の非晶質酸化物が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の光触媒被膜付き基板は、前記光触媒体水系塗料を基板上に塗布し、得られた塗膜を乾燥等することにより作製される。基板としては、例えば、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、及びコンクリートなどが挙げられる。塗布方法としては、例えばスピンコート、ディップコート、ドクターブレード、スプレー、及びハケ塗りなどが挙げられる。乾燥工程は、使用する基材によって異なるが、樹脂基板の場合には通常室温〜120℃で行われる。乾燥時間は、光触媒体水系塗料の組成、塗布量等により適宜調整されるが、通常0.5〜60分程度である。その後、使用する基材によっては150〜800℃で焼成してもよい。
【0046】
本発明の光触媒体水系塗料から得られる被膜は、意匠性の観点からヘーズ(曇り価)が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定した。
【0048】
〔被膜の密着性〕
被膜の密着性は、セロファンテープを被膜表面の片端から他端にわたって貼着した後、素早く剥したときに、被膜が同時に剥れるか否かにより評価した。
【0049】
実施例1
酸化チタンゾル(商品名:TS−S4420、住友化学製、酸化チタン濃度:10重量%)8.500g、水5.789g、及びエタノール1.700gを混合して光触媒体分散液を調製した。該光触媒体分散液に炭酸ジルコニウムアンモニウム(商品名:AC−20、第一稀元素製)0.994g、及びアセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オレフィンEXP.4036、日信化学製)0.017gを添加し、混合して光触媒体水系塗料を調製した。該光触媒体水系塗料をMMA基板(商品名:スミペックE、住友化学製)上にスピンコート(500rpm×30s)した後、80℃で15分間乾燥処理して光触媒被膜付きMMA基板を作製した。光触媒体水系塗料はMMA基板に対して濡れ性がよく、斑なく塗布することができた。得られた光触媒被膜は均一に形成されており、被膜の密着性を評価したところ、剥離は認められなかった。
【0050】
実施例2
実施例1において、オレフィンEXP.4036の代わりにアセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オレフィンPD−002W、日信化学製)を用いた以外は実施例1と同様の方法で光触媒体水系塗料を調製した。該光触媒体水系塗料をMMA基板(商品名:スミペックE、住友化学製)上にスピンコート(500rpm×30s)した後、80℃で15分間乾燥処理して光触媒被膜付きMMA基板を作製した。光触媒体水系塗料はMMA基板に対して濡れ性がよく、斑なく塗布することができた。得られた光触媒被膜は均一に形成されており、被膜の密着性を評価したところ、剥離は認められなかった。
【0051】
実施例3
酸化チタンゾル(商品名:TS−S4110、住友化学製、酸化チタン濃度:10重量%)30.0gに純水41.0g及び蟻酸ジルコニウム水溶液(ZrO2換算濃度18.7重量%)4.0gを添加して光触媒体分散液を調製した。該光触媒体分散液8.76gを純水11.24gで希釈した後、アセチレングリコール系界面活性剤(商品名:オレフィンEXP.4036、日信化学製)を純水で希釈して0.3%に調整した希釈液10gと混合して光触媒体水系塗料を調製した。該光触媒体水系塗料をMMA基板(商品名:スミペックE、住友化学製)上にバーコート(番手NO.3)した後、80℃で15分間乾燥処理して光触媒被膜付きMMA基板を作製する。光触媒体水系塗料はMMA基板に対して濡れ性がよく、斑なく塗布することができる。得られた光触媒被膜は均一に形成されており、被膜の密着性を評価すると、剥離は認められない。
【0052】
比較例1
酸化チタンゾル(商品名:TS−S4420、住友化学製、酸化チタン濃度:10重量%)8.000g、水6.249g、及びエタノール1.700gを混合して光触媒体分散液を調製した。該光触媒体分散液に炭酸ジルコニウムアンモニウム(商品名:AC−20、第一稀元素製)0.994gを添加し、混合して光触媒体水系塗料を調製した。該光触媒体水系塗料をMMA基板上にスピンコート(500rpm×30s)した後、80℃で15分間乾燥処理して光触媒被膜付きMMA基板を作製した。光触媒体水系塗料はMMA基板に対して濡れ性が悪く、塗膜に斑が生じた。得られた光触媒被膜は不均一であり、被膜の密着性を評価したところ、剥離が認められた。
【0053】
比較例2
酸化チタンゾル(商品名:TS−S4420、住友化学製、酸化チタン濃度:10重量%)8.000g、水6.249g、及びエタノール1.700gを混合して光触媒体分散液を調製した。該光触媒体分散液に炭酸ジルコニウムアンモニウム(商品名:AC−20、第一稀元素製)0.994g、及びポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名:KF−6011、信越化学製)0.057gを添加し、混合して光触媒体水系塗料を調製した。該光触媒体水系塗料をMMA基板上にスピンコート(500rpm×30s)した後、80℃で15分間乾燥処理して光触媒被膜付きMMA基板を作製した。光触媒体水系塗料はMMA基板に対して濡れ性が悪く、塗膜に斑が生じた。得られた光触媒被膜は不均一であり、被膜の密着性を評価したところ、剥離が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体、無機バインダー、及びアセチレングリコール系界面活性剤を含有する光触媒体水系塗料。
【請求項2】
前記光触媒体は、酸化チタン、酸化タングステン、及び酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の金属酸化物である請求項1記載の光触媒体水系塗料。
【請求項3】
前記無機バインダーは、ジルコニウム化合物である請求項1又は2記載の光触媒体水系塗料。
【請求項4】
前記アセチレングリコール系界面活性剤は、アセチレングリコール、非イオン性界面活性剤及び水溶性有機溶媒を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒体水系塗料。
【請求項5】
前記アセチレングリコールは、下記一般式(1)で表される化合物である請求項4記載の光触媒体水系塗料。
【化1】


(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基であり、m及びnは0≦m+n≦50を満たす整数である。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒体水系塗料を基板上に塗布し、得られた塗膜を乾燥する工程を含む光触媒被膜付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板が樹脂基板である請求項6記載の光触媒被膜付き基板の製造方法。

【公開番号】特開2009−120767(P2009−120767A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298268(P2007−298268)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】