説明

光触媒式防汚装置

【課題】空気調和機のクーリングタワー、浄化水槽、フィルター等の水中受光環境下での藻の発生を防止する。
【解決手段】水1に浸漬し、表面に光を受ける防汚対象物2を、第1導電性部材とする。防汚対象面である前記表面に光触媒層3を設ける。導電性の防汚対象物2に対して、外部回路4を介して電気的に接続された第2導電性部材を、対極5として組み合わせ、水1の中に設置する。対極5の使用により光触媒層3による防藻効果を無電源で増強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機のクーリングタワー、浄化水槽、フィルター等の水中受光環境下での藻の発生等を防止するのに有効な光触媒式の防汚装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和機のクーリングタワー、浄化水槽、フィルターといった水と接し、且つ光を受ける装置設備では、表面に藻が大量に発生して付着し、設備機能を阻害する問題が発生している。この問題を解決するために、従来は頻繁に藻を除去する作業が行われているが、藻の発生速度は早く、頻繁な除去作業が必要になることが問題視されている。このような事情に鑑み、最近は藻の発生を化学的に防止する試みが各方面でなされており、その一つが酸化チタンに代表される光触媒の使用である(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−249148号公報
【0004】
防藻に光触媒を使用する場合は通常、水と接触し、且つ光を受ける防藻対象面に酸化チタン等の光触媒が被覆される。光触媒による防藻のメカニズムは次のように考えられている。すなわち、光触媒の酸化力により付着細胞の不活性化や粘着性物質の分解が生じ、その結果として藻類の付着力を弱め、優れた防藻機能を発現しているものと考えられている。
【0005】
しかしながら、防藻対象面に光触媒を被覆しても、実際の使用環境では、藻の発生を十分に抑制できていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、藻の発生を始めとして、水中受光環境下での各種汚れの発生を効果的に防止できる光触媒式防汚装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は光触媒の使用は不可欠であると考え、その機能を増強する方法について鋭意実験検討した。その結果、光触媒と電気的に接続された対極を組み合わせるのが有効であるとの結論に到達した。
【0008】
すなわち水中に浸漬され、光を受ける金属材表面での藻の発生を光触媒により防止する場合、その金属材表面に光触媒、通常TiO2 膜を被覆する。光触媒を被覆すると、無被覆の場合に比べて藻の発生を抑制できるのは事実であるが、藻の発生までの期間を延長できる程度であって、その発生を完全に防止することは困難である。しかるに、外部回路によって金属材と電気的に接続された対極を金属材と共に水中に浸漬し、その水を介して両者を導通させると、同じ使用環境でありがら、藻の発生を完全に防止でき、或いは完全に防止できないまでも、藻の発生までの期間を大幅に延長できるのである。
【0009】
本発明の光触媒式防汚装置は、かかる知見を基礎として完成されたものであり、水と接触し、且つ光を受ける防汚対象表面に光触媒層をもつ、防汚対象物としての第1導電性部材と、前記水と接触すると共に、外部回路を介して前記第1導電性部材と電気的に導通する、対極としての第2導電性部材とを備えており、対極を組み合わせたことにより光触媒層による防汚効果を顕著に高めるものである。
【0010】
本発明の光触媒式防汚装置においては、図1(a)に示すように、水1に浸漬し、表面に光を受ける防汚対象物2を第1導電性部材とする。防汚対象面である前記表面に光触媒層3を設ける。そして、その導電性の防汚対象物2に対極5としての第2導電性部材を組み合わせる。対極5は防汚対象物2と共に水1中に浸漬されており、防汚対象物2とは外部回路4を介して電気的に接続される一方、水1を介して導通している。このような対極5の使用により、光触媒層3による防汚効果、例えば防藻効果が、対極5を使用しない場合に比べて無電源で顕著に増強される。
【0011】
また、図1(b)に示すように、外部回路4に対極5から防汚対象物2に向けて電流を通じる電源9を設けるならば、光触媒層3による防汚効果は更に増強される。
【0012】
本発明の光触媒式防汚装置において光触媒層3による防汚効果が増強される理由は次のように考えられる。対極5が存在しない場合、すなわち光触媒層3だけの場合は、光触媒層3の材料各所で陽極と陰極が混在するが、対極5を組み合わせることにより陰極と陽極が分離され、陽陰極電流(陽極側の電流と陰極側の電流)が等しくなる電位で電流が流れる。その結果、電極表面積比の変更や攪拌による物質移動等により電極電位の制御が容易となり、その電位に見合う電流の発生により防汚効果の増強が可能となる。この状態から更に電源を付加するならば、電極電位を強制的に変化させることが可能となり、その電位差による陽陰極電流の増加により、防汚効果を更に向上させることが可能となる。
【0013】
対極5を構成する第2の導電性部材の材質としては炭素、銅、各種鋼等を使用することができるが、炭素の場合が通電量が多く防汚効果が高い点から特に好ましい。第2の導電性部材の形態は特に問わない。また、防汚対象物を構成する第1の導電性部材としては材質、形態ともに特に問わない。導電性の板材はもとより塗膜、繊維、多孔質体等であってもよい。繊維、多孔質体の場合はそれらの露出面だけでなく内部に光触媒層を設けることも可能である。
【0014】
光触媒層に照射する光としては、照明光でもよいし太陽光でもよく特にその種類を問わない。光触媒は可視光のみならず紫外線にも反応し、紫外線を含む太陽光の方が有効帯域が広く有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒式防汚装置は、防汚対象面である表面が水と接触し、その表面に光触媒層を有する防汚対象物を導電性部材とし、その導電性の防汚対象物に対して前記水と接触し、外部回路を介して防汚対象物と電気的に接続される対極を組み合わせることにより、光触媒による防藻を始めとする各種の汚れ防止効果を顕著に増強することができ、空気調和機のクーリングタワー、浄化水槽、フィルター等における長期間の機能維持、これによるメンテナンスコストの低減等、工業的に多大の効果を発揮する。また、対策が簡単であり、この点からも経済性に優れる。更に、無電源で効果を挙げることができので、経済性に優れ、別途電源を使用するならば防汚効果を更に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図2は本発明の第1実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。本実施形態の防汚装置は、プールなどの屋外の水1を溜める貯水槽8の内面における防藻装置として使用されている。
【0018】
防汚対象面である貯水槽8の内面には、導電性塗料の塗布等により薄い導電層が第1導電性部材2として形成されており、更に第1導電性部材2の表面にはTiO2 からなる光触媒層3が被覆形成されている。貯水槽8内の水1には、対極としての第2導電性部材5が浸漬されている。第2導電性部材5はグラファイト、木炭等の炭素からなり、水外の外部回路4を介して第1導電性部材2と電気的に接続されている。
【0019】
貯水槽8内の水1は電解質を含み導電性を示す。貯水槽内の水1と接し防汚対象面である貯水槽8の内面に太陽光があたると、表面に光触媒層3をもつ第1導電性部材2と第2導電性部材5とで光電気化学電池が形成され、外部回路4を通して第2導電性部材5から第1導電性部材2へ電流が流れる。この外部回路4を通した電子移動により、光触媒層3による貯水槽底面の防藻効果が増強されることは前述したとおりである。
【0020】
図3は本発明の第2実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。本実施形態の防汚装置は魚類飼育用水槽等の透明水槽6の内面における防藻装置として使用されている。
【0021】
透明水槽6の内面には、ITOなどからなる透明電極膜が第1導電性部材2として被覆されており、更にその表面にはTiO2 からなる光触媒層3が被覆形成されている。透明水槽6内の水1には、対極としての第2導電性部材5が浸漬されている。第2導電性部材5はグラファイト、木炭等の炭素からなり、水外の外部回路4を介して第1導電性部材2と電気的に接続されている。
【0022】
透明水槽6内の水1は電解質を含み導電性を示す。その水1は透明水槽6の内面に被覆された光触媒層3に接触する。透明水槽6は透明であるため、その槽壁を通して、透明水槽6の内面に被覆された光触媒層3に外側から太陽光又は照明光があたる。また、透明水槽6の開口部を通して光触媒層3に内側から太陽光又は照明光があたる。その結果、表面に光触媒層3をもつ第1導電性部材2と第2導電性部材5とで光触媒電池が形成され、外部回路4を通して第2導電性部材5から第1導電性部材2へ電流が流れる。この外部回路4を通した電子移動により、光触媒層3による水槽6内面の防藻効果が増強されることは前述したとおりである。
【0023】
図4は本発明の第3実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。本実施形態の防汚装置は、空気調和機のクーリングタワーにおける防藻装置を想定したものである。
【0024】
クーリングタワーを想定して屋外の貯水槽8内に金属材からなる第1導電性部材2が立設けされており、貯水槽8内の水1がポンプ7により汲み上げられて、防藻対象面である第1導電性部材2の表面に供給され、その表面に沿って流下する。第1導電性部材2の表面には、TiO2 からなる光触媒層3が被覆形成されている。一方、貯水槽8内の水1には、対極としての第2導電性部材5が浸漬されている。第2導電性部材5はグラファイト、木炭等の炭素からなり、外部回路4を介して第1導電性部材2と電気的に接続されている。また、第1導電性部材2の表面に沿って流下する水を介して、その表面は水1の中の第2導電性部材5と導通している。
【0025】
防藻対象面である第1導電性部材2の表面、特にその表面に形成された光触媒層3に太陽光があたることにより、第1導電性部材2と第2導電性部材5とで光触媒電池が形成され、外部回路4を通して第2導電性部材5から第1導電性部材2へ電流が流れる。この外部回路4を通した電子移動により、光触媒層3による第1導電性部材2の表面の防藻効果が増強されることは前述したとおりである。
【0026】
いずれの実施形態でも、第2導電性部材5から第1導電性部材2へ電流を通じる電源を外部回路4に設けることが可能であり、これにより光触媒層3の表面での反応が促進され、防藻効果が更に増強される。
【実施例】
【0027】
本発明の効果を立証するために次の比較試験を行った。寸法がA4サイズのステンレス鋼板を屋外の水槽上に立設け、下端部を水槽内の工業用水に浸漬した。ステンレス鋼板の表面に太陽光が良くあたるように、このステンレス鋼板を南に向け、且つ水平線に対して50〜60度傾斜させた。昼夜を問わず水槽内の工業用水をポンプで汲み上げ、ステンレス鋼板の光触媒層の表面全体に供給し流下させ続けた。
【0028】
ステンレス鋼板の表面に光触媒層を被覆しない場合、すなわち発藻に対して対策を講じない比較例1の場合は、実験開始から27日経過した時点で、鋼板の表面(太陽光が当たる側の表面)が全面藻で覆われた。
【0029】
比較例2として、ステンレス鋼板の表面に光触媒層としてTiO2 をCVD法により500nmの厚みにコーティングした。この場合は、実験開始から35日経過した時点で、鋼板の表面(太陽光が当たる側の表面)が全面藻で覆われた。
【0030】
実施例1として、ステンレス鋼板の表面に光触媒層を被覆すると共に、ステンレス鋼板と外部回路で電気的に接続された対極を水槽内の工業用水に浸漬した。対極としては、板厚が8mmで、浸漬部の寸法が40mm×110mmのカーボン板を用いた。この場合、全面が藻に覆われたのは、実験開始後から50日経過後であった。
【0031】
実施例2として、実施例1において前記外部回路にシリコン太陽電池を介在させた。この場合は、実験開始後から100日が経過するまで、全面が藻に覆われることはなかった。
【0032】
実施例3として、実施例1においてステンレス鋼板をA4サイズのチタン板に変更した。この場合は、実験開始後から71日が経過するまで、全面が藻に覆われることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の防汚装置の原理図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態を示す防汚装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 水
2 防汚対象物(第1導電性部材)
3 光触媒層
4 外部回路
5 対極(第2導電性部材)
6 透明水槽
7 ポンプ
8 貯水槽
9 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触し、且つ光を受ける防汚対象表面に光触媒層をもつ、防汚対象物としての第1導電性部材と、前記水と接触すると共に、外部回路を介して前記第1導電性部材と電気的に導通する、対極としての第2導電性部材とを備えており、前記光触媒層が光を受けることにより防汚効果を発揮する光触媒式防汚装置。
【請求項2】
前記外部回路は、前記第2導電性部材から前記第1導電性部材へ向けて電流を通じる電源を含む請求項1に記載の光触媒式防汚装置。
【請求項3】
前記第2導電性部材は、炭素である請求項1に記載の光触媒式防汚装置。
【請求項4】
前記防汚効果は、防藻効果を含む請求項1に記載の光触媒式防汚装置。
【請求項5】
前記第1導電性部材は、導電性の板材、塗膜又は繊維である請求項1に記載の光触媒式防汚装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−209954(P2007−209954A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35410(P2006−35410)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(397064944)住友チタニウム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】