説明

光触媒性材料

【課題】 分散性が高く、高度な光触媒活性を有する材料を提供する。
【解決手段】 酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる光触媒性材料であって、前記中空ファイバの外壁の表面には修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子はリンカー部と主鎖部からなり、前記リンカー部と前記中空ファイバの外壁の表面が結合していることを特徴とする光触媒性材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境浄化に用いる光触媒に係り、活性を低下させることなく分散性の高い光触媒性材料に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な工業発展、大都市化に伴った環境汚染問題が地球規模で顕在化し、人類の生存を脅かす深刻な問題となっている。例えば、芳香族アミン等のがん原生物質の摂取による発癌の問題や、環境ホルモン等の内分泌撹乱物質の摂取による生殖異常などが報告されている。こういった問題は飲料水に帰属されるのみならず、食物連鎖に関連しているため、上水処理以外にも、下水処理、工業用排水処理、農業用水など様々な処理設備において対策しなければいけない大きな問題となっている。また、石油タンカーの事故による原油の流出は生態系に大きな悪影響を及ぼす。
【0003】
近年、光触媒による水質浄化方法が提案されている。光触媒反応の特徴は反応が量子化されていることにある。つまり、光エネルギーは量子化されており、光が強くても弱くても波長が同じであれば個々の光子が持つエネルギーは同じである。代表的な光触媒である酸化チタンのバンドギャップのエネルギーに相当する400nmの光子のエネルギーは、約36,000Kの熱子に相当する。すなわち、どんなに弱い紫外線下でも酸化チタンの表面では36,000Kで進行する化学反応を起こすことができる。酸化チタンの正孔のエネルギーは対標準水素電極電位に換算して+3Vの位置にある。酸化チタンの酸化力は極めて高いため、ほとんど全ての有機物を酸化分解し、無害化させることが可能である。
【0004】
代表的な光触媒である酸化チタンの表面は親水性で等電点でのpHが中性のため、水中においては酸やアルカリ等の解膠剤を添加しなければ沈殿してしまう。分散性をあげる手段として、酸化チタンの粒子にシリカをコーティングする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、活性面である酸化チタンに不活性なシリカをコーティングしてしまうと必然的に光触媒活性が低下してしまう。
【0005】
また、光触媒を環境浄化用途として使用する場合、有害汚染物質に対する有効表面積の増加、つまり、比表面積の増大も効果的である。比表面積の大きい光触媒材料として、メソポーラス構造をもつ酸化チタンが知られている。メソポーラス酸化チタンは、その出発原料の不安定性から製造が困難であると言われているが、例えば、チタンアルコキシドと水を混合したスラリーを水熱処理することで製造する方法が報告されている(例えば、特許文献2参照)。これらのメソポーラス材料の均一な径の細孔は等方的な粒子が凝集することによって作られる。これらの細孔は、粒子間の空隙に作られるため、液相界面から離れている内部の細孔への汚染物質の拡散は制限される。
【0006】
また、比表面積の大きい光触媒として、中空ファイバ状の光触媒が注目を集めている。これまで、中空ファイバ状のチタン系酸化物の作製や、結晶構造の解析が既に報告されている(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10-130527
【特許文献2】特開2001−31422
【特許文献3】特開平10-152323号公報
【非特許文献1】L. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光触媒活性を低下させることが無く、分散性の高い光触媒材料を提供する。また、分解対象物質への能動的なターゲッティングが可能な光触媒材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる光触媒性材料であって、前記中空ファイバの外壁の表面には修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子はリンカー部と主鎖部からなり、前記リンカー部と前記中空ファイバの外壁の表面が結合していることを特徴とする光触媒性材料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、活性を低下させること無く、分散性の高い光触媒性材料を提供することができる。また、分解対象物質に対するターゲッティングができるため、分解活性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る中空ファイバ状の光触媒材料は酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種である。これらの材料はいずれも、光触媒活性(酸化−還元反応、光誘起親水化反応)を有している。また、これらは生体に対して無毒の材料として知られている。本発明に係る中空ファイバ状の光触媒が酸化チタンの場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO2(B)が好適に使用できる。本発明に係る中空ファイバ状の光触媒がチタン酸塩の場合、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩であっても構わない。
【0011】
本発明の光触媒材料は紫外線を照射することにより、酸化、還元反応が生じる。これらの反応によって、内包した汚染物質を分解することが可能である。本発明の光触媒材料はナノ構造であるため、内部まで紫外線が進入する。また、本発明の光触媒性材料は透明であるため、汚染物質が着色している場合に、その汚染物質が中空ファイバの内部に入っているかどうか、あるいは、分解除去されたかどうかを、外部から分光光度計等で簡易的に観察することが可能である。中空ファイバの内部に入っている汚染物質を可視化できれば、必要なときに必要なだけの光照射をおこなえば良いため、省エネ効果へとつながる。
【0012】
本発明の光触媒性材料の態様を模式的に図1に示す。修飾分子にはリンカー部と主鎖部が存在し、リンカー部を介して中空ファイバの外壁と結合している。外壁への修飾分子の固定化により、使用環境への親和性を高く設計できる。すなわち、水中で使用する場合には水との分散性が向上する。一方、中空ファイバの内部においては光触媒活性の高い中空ファイバの真性面が露出し、汚染物質にとっては活性の高い表面に取り囲まれる環境となるため、高度な光触媒活性が発現する。本発明の光触媒材料は外壁(環境との親和性)と内壁(高い光触媒活性)の2つの表面物性を同時に発現することができ、こうした機能は、従来の粒子状の光触媒材料では実現が困難である。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)は前記中空ファイバの内径(r)よりも大きく設計する。一般的に、修飾分子に極性が存在する場合、多くの界面活性剤と同様に水中でミセルを形成し得る。この際、ミセルの径は修飾分子の長さ(R)の2倍(2R)に相当する。中空ファイバの外壁のみに修飾分子を固定化させるためには、前記ミセル形成時の径を中空ファイバの内径よりも大きく設計する、つまり、修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を中空ファイバの内径(r)よりも大きく設定するのが好ましい。このように設定すると、中空ファイバの外壁部に選択的に修飾分子が固定化される。
一方、前記修飾分子を中空ファイバに結合する方法として、例えば、CVD、PVD、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティング、スパッタ等から選択される少なくとも一つの乾式コーティング法を用いた場合、修飾分子の分子長によらず、外壁部に効率的に固定化することができる。
【0014】
本発明のより好ましい態様においては、前記修飾分子のリンカー部と中空ファイバの表面は、共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合からなる郡より選択される少なくとも一つの結合で固定化されている。単純な物理吸着で固定化されるよりも熱的、化学的な安定性が高い。修飾分子の結合は中空ファイバの外壁表面の一部であっても全て覆ってもかまわない。
【0015】
本発明に係る修飾分子のリンカー部として、例えば、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類、シロキサン類からなる郡より選択される少なくとも一つの官能基を使用することができる。これらの官能基と中空ファイバとの間の結合力は高い。
【0016】
本発明に係る修飾分子の主鎖部は使用環境に応じて適宜設定することができる。例えば水中での分散性を上げるためには、ポリカチオンやポリアニオンといったポリマーが使用できる。前記ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミン、ポリアリルアルキルアンモニウム、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール等から選択される少なくとも一つのポリマー、ないし、これらのポリマーの共重合体を使用することができる。
【0017】
また、本発明の光触媒性材料において、有機溶媒への親和性を高めたり、水面に浮かべて使用する場合は疎水性の高い主鎖部を用いればよい。疎水性の高い主鎖部としては、アルキル、フッ素樹脂、芳香族系分子を含む物質が選択できる。水面に浮かぶことが可能となると、水面に存在する原油などの汚染物質を効率的に捕獲、分解するには好適である。このように、中空ファイバの外壁に疎水性を付与する場合、好ましくは、前記修飾分子として長鎖状のシランカップリング剤を用いる。シランカップリング剤は中空ファイバの表面に容易に、かつ、強固に結合することができる。シランカップリング剤を用いた場合、シランに修飾された親水部の官能基と中空ファイバの間で脱水中縮合が起き、共有結合で強く結合される。また、シランカップリング剤は光触媒活性によって分解されにくく、安定である。シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン;エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン;n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン;n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリイソプロポキシシラン、n−ヘキシルトリt−ブトキシシラン;n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン;n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン;フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン;テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン;ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン;ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン;フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン;トリクロルヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリイソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン;トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン;β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランの群から選択される少なくとも一つが使用できる。
また、本発明の光触媒性材料に疎水性の性質を付与するための、別の修飾分子として、アルキルアミンを使用することができる。この際、アルキルアミンのアミノ基と中空ファイバは水素結合によって固定化される。
【0018】
一方、前記修飾分子の主鎖部を分解対象物質の能動的ターゲッティングとして機能させることができる。例えば、生体内のガン等の悪性組織を分解するため、細胞との親和性の高い主鎖部を選択すると、細胞内への中空ファイバの取り込みが容易となる。細胞との親和性の高い主鎖部としては、例えば、ポリエチレングリコール、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0019】
修飾分子を中空ファイバに結合する方法として、例えば、修飾分子を含む溶媒に中空ファイバを浸漬することで中空ファイバの外壁の表面に修飾分子を固定化することができる。結合を促進するため、加熱処理や酸、アルカリなどの化学処理をしてもかまわない。
【0020】
本発明に係る中空ファイバと修飾分子が結合しているかを検証するためには、FT-IRやNMR等の機器分析が好適に使用できる。例えば、前記修飾分子がアルキルアミンの場合、フリーのアミンイオンと中空ファイバに吸着させたアミンイオンのNH伸縮振動をFT-IRで測定すれば、化学結合したか否かが判定できる。フリーのアミンイオンにて3300cm-1付近に観察されるNH伸縮振動が、中空ファイバに化学結合すると低波数側にシフトする。また、化学結合の指標として中空ファイバのOH基の伸縮振動を観察しても構わない。中空ファイバのOH基に修飾分子が化学結合した場合、中空ファイバにもともと存在する化学吸着したOH基からの信号が消失する。
【0021】
特に好ましい態様においては、本発明の中空ファイバ状の光触媒材料は巻物状の層状のチタン酸で構成されている。前記巻物状の層状のチタン酸は、均一な細孔径を有しており、比表面積も大きい。また、前記巻物状の層状のチタン酸は低コストで大量合成することができる。結晶性を高めて光触媒活性を向上させるため、熱処理をしても構わない。熱処理温度としては、50℃〜600℃が好適である。
【0022】
前記中空ファイバの内径は3nm〜8nmの範囲である。内壁を汚染物質の吸着サイトとして使用する場合、内径よりも小さい汚染物質を効率的に捕獲することができる。中空ファイバの内径はBET吸着法による細孔径分布の測定や、TEMによる直接観察で測定することができる。
【0023】
本発明の光触媒を可視光化させたり、表面の固体酸性度をあげて修飾分子との結合を高めるため、前記中空ファイバの酸素位置に酸素以外のアニオンが置換、または格子間に酸素以外のアニオンが割り込み、または粒界部に酸素以外のアニオンが配してあっても構わない。アニオンを導入することによる可視化の発現機構は定かではないが、次のように予想される。ただし、以下の理論はあくまで予想であって、本発明はこの理論に限定されるものではない。中空ファイバに酸素よりも共有結合性の高い酸素以外のアニオンを導入した場合、価電子帯を形成する酸素の2p軌道よりも卑なポテンシャルに酸素以外のアニオンで形成される準位が出現する。この準位は中空ファイバの禁制帯(バンドギャップ)の中にあっても良いし、中空ファイバの酸素の2p軌道と混成しても構わない。このように酸素以外のアニオンを導入することによって新たに出現する準位によって、可視光の吸収が可能となる。酸素以外のアニオンを導入するサイトは、中空ファイバの酸素位置に置換、格子間に割り込み、粒界部のうちいずれか一項で構わない。
【0024】
前記中空ファイバに導入するアニオンとして、特に好ましくは窒素を用いる。窒素を用いた場合、窒素の2p軌道が他のアニオンと比べて貴なポテンシャルを有し、正孔の酸化力が高いため、可視光での光触媒活性が高い。また、非特許文献3に開示されているように、窒素を導入することによって、材料表面の固体酸性を高めることができ、修飾分子とより強い結合をつくることができる。
【0025】
酸素以外のアニオンが導入された本発明の光触媒は波長400nm以上の可視光の照射によって高度な光触媒活性を示す。したがって、太陽光や室内照明の照射下において、高度な光触媒活性を有する。可視光の波長よりも短い光の照射によっても光触媒機能を発揮することは言うまでもない。
【0026】
本発明の光触媒性部材の電荷分離を促進させるため、前記中空ファイバにPt, Pd, Ag, Cu, Au, Ni等の金属を担持させてもよい。前記金属を担持することによって光励起した電子正孔対が効率的に分離し、親水化活性、酸化分解活性が増大する。また、特にAgやCuを担持した場合、抗菌性や防藻性も発揮する。
【0027】
本発明の光触媒性材料を光励起するための光源として、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光等が好適に使用できる。
【0028】
本発明の光触媒性材料は、使用環境に応じて高度な分散性を有し、かつ、高い光触媒活性を発現する。また、外壁に分解対象物質のターゲッティングとなる修飾分子を固定化することで、能動的な光触媒分解が可能となる。水質浄化、大気浄化等の環境浄化以外にも、生体内での悪性物質や組織を分解するといった医療分野等、様々な分野に応用することが可能となる。
【0029】
本発明の光触媒性材料を水質浄化用用途として使用する場合、水に分散させたり水に浮かべて使用しても良いし、基材に担持して使用しても構わない。本発明の光触媒を懸濁させたり、分散させて使用する場合、水質を浄化した後に、遠心分離やろ過によって光触媒を回収しても構わない。また、磁石で回収するために本発明の光触媒に磁性材料を固定化しても構わない。また、汚染物質との接触効率を上げるため、多孔質やハニカム等のフィルター状物質に本発明の光触媒性材料を固定化し、汚染水や空気をこのフィルターに流通させて処理しても構わない。光触媒に対し光照射をおこないながら流通させても構わないし、流通させた後に光触媒に対し光照射をしても構わない。
【0030】
本発明の光触媒性材料を空気浄化用の用途として使用する場合、空気清浄機のフィルターに担持させても良いし、タイル、ガラス、壁紙等の建材にコーティングして使用しても構わない。
【0031】
本発明の光触媒性材料を生体内の悪性腫瘍の治療として用いる場合、ポリエチレングリコール等の細胞との親和性の高い主鎖部を持つ修飾分子を前記中空ファイバの外壁部に固定化し、経口や注射によって生体内に注入して使用することができる。注入後、外皮や経口ファイバー等の光照射、ファイバー光を直接生体内に挿入して光照射をおこない、前記中空ファイバを励起することができ、ガン細胞等の悪性腫瘍を分解、治療することが可能である。
【0032】
以下は、本発明の光触媒性材料の具体的な製造方法について述べる。以下に述べる製造方法は一例であって、本発明の構成になんら制約をもたらさない。
【0033】
(中空ファイバの製造)
前記巻物状の層状のチタン酸の作製方法としては、例えば、酸化チタン粒子を水酸化ナトリウム水溶液中において、水熱処理する方法が好ましく用いられる。
また、中空ファイバを水中に分散させて使用する場合、好ましくは、前記水熱処理にて作製した中空ファイバを酸水溶液に接触させる工程の後、アミン水溶液に分散させることができる。酸水溶液に接触させることによって中空ファイバの内部ないし表面にプロトンが付加されて安定化し、その後四級アンモニウム水酸化物の水溶液を溶媒にすることによって高度に分散する。
一方、本発明の光触媒を基材へ担持する場合、例えば、前記中空ファイバが分散した溶液と、カチオン性ポリマーを含む溶液に対し、基材を交互に浸漬することによって製造できる。前記中空ファイバの表面はアニオン性なので、カチオン性のポリマーと交互に積層することによって、単粒子膜が容易に製造でき、浸漬回数によって精密な膜厚の制御が可能となる。
【0034】
(修飾分子の固定化)
修飾分子としてシランカップリング剤を用いる場合について述べる。溶媒中にシランカップリング剤を溶解し、中空ファイバの粉末や分散体、ないし、基材に担持した中空ファイバを前記シランカップリング剤が溶解した溶媒中に浸漬する。溶媒は水系、アルコール系、有機溶媒のいずれかで構わない。溶媒中で20℃〜100℃で加熱し、シランカップリング剤の親水部と中空ファイバの表面の間で脱水中縮合を誘起する。結合を早めるため、水、酸、アルカリ、ないし、重合開始剤を前記溶媒中に添加しても構わない。
一方、修飾分子としてアルキルアミンを用いた場合、アルキルアミン水溶液に中空ファイバの粉末や分散体、ないし、基材に担持した中空ファイバを浸漬しても構わない。結合を早めるため加熱処理をおこなっても良いが、アルキルアミンのアミノ基と中空ファイバは水素結合で結合されるので、加熱処理をしなくても構わない。
【0035】
請求項8に、本発明に係る中空ファイバを可視光化させるため、酸素以外のアニオンを中空ファイバに導入しても構わないと述べた。以下に、酸素以外のアニオンを中空ファイバに導入する方法について述べる。例えば、中空ファイバを酸水溶液に接触させてプロトン化処理する工程と、酸素以外のアニオンを含む化合物を含有する水溶液に接触させる工程と、大気中で熱処理する工程を備えたことを特徴とする方法によって製造可能である。
【0036】
酸素以外のアニオンを含む化合物を含有する水溶液に接触させる工程の前に、酸水溶液に接触させてプロトン化する工程をおこなうことで、中空ファイバを形成する結晶層の層間を拡大することができ、酸素以外のアニオンを導入しやすくなる。ここで用いる酸の種類としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、蓚酸などが挙げられる。また、導入したアニオンの安定化や、結晶性の向上のため、前記水溶液に接触後、大気中80℃以上で熱処理しても構わない。
【0037】
前記酸素以外のアニオンを含む化合物として、好ましくは含窒素化合物を使用することを請求項9に記述した。この場合、含窒素化合物中の窒素が中空ファイバへのドーパントとして働く。含窒素化合物としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン等のアルキルアミンやそのハロゲン酸塩、またはエチレンジアミン、プロパンジアミンなどのジアミン類、更に、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの四級アンモニウム水酸化物、また、尿素やグアニジン等の化合物からなる群から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
【0038】
窒素を導入した中空ファイバ状の光触媒の更に好ましい製造方法として、前記含窒素化合物がアンモニアであって、前記大気中で熱処理する際の温度が300℃〜500℃である。アンモニアは分子径が小さく、中空ファイバ内に容易に浸透することができる。また、300℃〜500℃の熱処理によって窒素を安定化することができる。熱処理温度を300℃以上にすることで、格子振動により中空ファイバ内での窒素の拡散が促進されて容易にドープできる。また、前記加熱温度を500℃以下にすることで、ドープされた窒素が再酸化されて消失してしまうのを防いだり、中空ファイバの結晶相転移を防ぐことができる。
【0039】
本発明に係る光触媒の酸素以外のアニオンを導入する方法として、前記中空ファイバを、アンモニア、炭化水素、りん酸、硫化水素、ホウ酸、フッ酸からなる群より選択される各種反応性ガスのうち少なくとも一つを含む気流中で熱処理する方法が挙げられる。各種反応性ガスで熱処理する際の温度は、300℃〜500℃であることが好ましい。300℃以上にすることで、中空ファイバ内におけるアニオンの拡散が促進され、容易にアニオンをドープすることが可能である。また、500℃以下にすることで、光触媒活性の低い金属の生成を防ぐことができる。また、結晶性を上げるため、前記各種反応性ガスで熱処理した後に、大気中で熱処理してもかまわない。大気中で熱処理する際の好ましい温度は200℃〜500℃である。200℃以上にすることで、中空ファイバの結晶性を上げることができ、また、500℃以下にすることで、中空ファイバの結晶相転移を防いだり、ドープされたアニオンが酸化されて消失しまうのを防ぐことができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は一例であって、本発明になんら制限を与えるものではない。
1.光触媒性材料の作製
1−1.中空ファイバの作製
酸化チタン粉末(商品名F6、昭和電工(株))0.64gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌することにより、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、さらにステンレス製容器にこのフッ素樹脂製の容器を入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、110℃で20時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。洗浄工程として、この白色沈殿物を含む溶液から、上澄み液をまずスポイトにて除去した。残った白色沈殿物に0.1M塩酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。塩酸水溶液を全量添加後、室温(20℃)で3時間静置した。静置後、上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより、白色粉末を得た。この白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、15万倍の倍率において、この方法で得られる白色粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は直径3.5nmの中空構造になっていることを確認した。また、XRD(マック・サイエンス製、MXP-18)で結晶構造を解析したところ、チタン酸構造であることがわかった。更に、比表面積/細孔分布測定装置(アサップ2000,マイクロメリティックス社製)を用いて解析したところ、細孔径分布については中空ファイバの内径3.5nmに相当する急峻なピークが観察され、比表面積は78m2/gであった。ここで得られた粉末を#1試料とする。
【0041】
1−2.窒素ドープした中空ファイバの作製
#1試料を2M硝酸水溶液64ml中に添加し、室温で15時間マグネティックスターラーによって攪拌した。攪拌後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株) M200−IVD)により5000rpmで30分遠心分離することで、プロトンを付加した白色ゲルを得た。さらに、この白色ゲルを1Mのアンモニア水溶液に加え、室温で24時間経過後、前記と同様の遠心分離によって中空ファイバを回収して乾燥させた。乾燥した中空ファイバを大気中で400℃、30分間の熱処理をおこなった。この粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察した結果、前記工程を経た粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は内径3.5nmの中空構造になっていることを確認した。また、この粉末を前述した3.細孔径分布の測定と同様に評価したところ、内径に相当する3.5nmにおいて、細孔径のピークが存在していた。得られた中空ファイバは、淡黄色を有しており、可視光を吸収することが明らかとなった。この淡黄色の粉末状サンプルを#2試料とした。
【0042】
1−3.中空ファイバが担持された薄膜の作製
1−1記載の方法で作製した#1試料の粉末を2M硝酸水溶液64ml中に添加し、室温で15時間マグネティックスターラーによって攪拌した。攪拌後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株) M200−IVD)により5000rpmで30分遠心分離することで、プロトンを付加した白色ゲルを得た。さらに、この白色ゲルを0.1Mの水酸化テトラブチルアンモニウムの水溶液に加え、室温で24時間マグネティックスターラーによって攪拌し、半透明な溶液を得た。更にこの溶液に100mmolの塩酸を加えpHが9.5になるように調整し、中空ファイバが分散した水溶液を作製した。基材として石英ガラス(東芝ガラス、T-4040)を用い、熱濃硫酸中で表面に付着した有機物を除去した後、純水で洗浄した。この基材をポリエチレンイミン(和光純薬工業、平均分子量:10000)の0.25wt%の水溶液に10分間浸漬した後、純水で洗浄した。更に、前記中空ファイバを含む溶液中に10分間浸漬し、純水で洗浄した。また、更に、この基材を、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:Aldrich社製、平均分子量:100000- 200000)の2wt%水溶液に10分間浸漬し、純水で洗浄した。以後、中空ファイバを含む溶液とPDDA水溶液への浸漬と洗浄を繰り返し、中空ファイバの層が5層となるような薄膜を作製した。いずれも、最表面は中空ファイバが露出している。得られた薄膜に対し、紫外線照射によって層間のカチオン性ポリマーを除去した。紫外線照射は200Wの水銀-キセノンランプ(林時計工業製、LA-210UV)を用い、24時間照射した。得られた薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(日立、S-4100)で観察したところ、膜厚は50nmであった。
【0043】
1−4.修飾分子の固定化
(アルキルアミンの固定)
各種分子長のアルキルアミンイオン水溶液に前記粉末状の#1試料を添加した。アルキルアミンは、エチルアミン(炭素鎖C=2)、ヘキシルアミン(C=6)、オクチルアミン(C=8)、デシルアミン(C=10)、ドデシルアミン(C=12)の5種類とした。前記各種アルキルアミンの濃度はいずれも0.2mM、50mLの水溶液中に#1試料0.1gを添加し、室温、暗所にてスターラーで攪拌した。表面へ固定化量を測定するため、水溶液中に残存している各種アルキルアミンイオンの濃度をキャピラリー電気泳動システム(HP 3DCE、HEWLETT PACKARD)を用いて測定した。暗所にて結合させる時間は2時間とした。得られた粉末状のサンプルはそれぞれ、#3:エチルアミン、#4:ヘキシルアミン、#5:オクチルアミン、#6:デシルアミン、#7:ドデシルアミンとした。
【0044】
(シランカップリング剤の固定)
粉末状の#1試料を、トルエンに溶解したオクタデシルトリエトキシシラン(アヅマックス、SIO6642.0)溶液中に投入した。オクタデシルトリエトキシシランの濃度は1w%、反応温度、反応時間は、60℃×一晩とした。得られた粉末状の試料を#8試料とした。また、1−3で作製した薄膜状の中空ファイバに2種類の分子長のシランカップリング剤(炭素鎖:C=6とC=18)を固定化した。用いたシランカップリング剤はヘキシルトリエトキシシラン(アヅマックス、SIH6167.5)とオクタデシルトリエトキシシラン(アヅマックス、SIO6642.0)とした。前記シランカップリング剤はエタノール中に濃度2wt%で溶解した。60℃に加熱したシランカップリング剤が溶解した溶媒中に、前記中空ファイバの薄膜を浸漬し、4日間維持した。4日後、薄膜をエタノールで洗浄した。得られた薄膜状の試料のうち、未処理の薄膜を#9試料、炭素鎖C=6を修飾したものを#10試料、C=18を修飾したものを#11試料とした。
【0045】
2.結果
2−1.窒素ドープした中空ファイバの可視光活性
イソプロパノールが酸化分解によってアセトンに変化する反応を利用して、窒素ドープした中空ファイバ(#2試料)の光触媒活性を評価した。0.3gの#2試料をガラス製のシャーレ(内径80mm)に均一に敷き、このシャーレを800mLのガラス製の反応用セル内に設置した。セル内を相対湿度50%の合成空気で置換した後、セル内にイソプロパノールを注入して暗所で2時間放置した。次いで、試料に光照射を行いながら、イソプロパノールと分解生成物であるアセトンおよび二酸化炭素の濃度変化を測定した。光源として250Wのキセノンランプ(林時計工業、LA-250Xe)を用い、紫外線カットフィルター(旭テクノグラス、Y-43)および長波長カットフィルター(旭テクノグラス、V-50)を介して、400〜500nmの波長域の可視光を試料に照射した。イソプロパノール、アセトン、二酸化炭素の濃度はマルチガスモニタ(Innova社、1312)で測定した。イソプロパノールの初期濃度は、中空ファイバを設置しない条件で500ppmとなるように設定した。結果を図2に示した。可視光の照射によって、イソプロパノールが分解し、アセトンと二酸化炭素が発生していることが明らかとなった。
【0046】
2−2.アルキルアミンの固定化量
#3〜#7試料について、アミンイオンの分子長の2倍値(2R)と固定化量の関係を図3に示した。アルキルアミンの分子の長さはdensity functional theory (DFT)を用いて計算した(Accelyl社、Dmol3)。この結果、2Rが3nmよりも小さい領域ではアルキルアミンの長さに応じて固定化量が増加した。アルキルアミンの分子長が長くなると分子の双極子が大きくなり、吸着力が増大する。一方、アルキルアミンの長さが3.0nmよりも長くなると、固定化量が減少することがわかった。2Rの値が中空ファイバの内径と同等になると、アルキルアミンの中空ファイバの内部への拡散が抑制される。2Rの値が中空ファイバの内径よりも大きいと、アルキルアミンは外壁のみに固定化すると予想される。つまり、#7試料が本発明の光触媒性材料と言える。
【0047】
2−3.修飾分子と中空ファイバの間の化学結合の検証
#1試料(未処理の中空ファイバ)と#6試料(修飾分子:デシルアミン)のFT-IRを装置(Nicholet、710)を用い測定した。比較のため、中空ファイバに吸着していない分子状のフリーのデシルアミンについても測定した。物理吸着水を除去するための前処理として、真空中で150℃の熱処理をおこなった。この結果、フリーのデシルアミンで観察されたNH伸縮振動(3219 cm-1, 1649 cm-1)が中空ファイバに吸着すると低波数側(3219 cm-1, 1607 cm-1)にシフトし、ピークがブロード化した。このシフトは修飾分子末端のアミノ基と中空ファイバの間で水素結合がおこった結果、誘起される。更に、未処理の中空ファイバ(#1試料)に存在した化学吸着水のピーク(3660 cm-1)が修飾分子を結合させることによって消失した。これらの結果から、修飾分子の末端にあるアミノ基が中空ファイバの内壁および外壁部にある水酸基に水素結合で結合していることを示唆している。
【0048】
2−4.シランカップリング剤を固定化したサンプルの水中での形態
#8試料を水中に投入した場合の写真を図5に示す。未処理の中空ファイバ(#1)についても示した。#8試料において、修飾分子であるシランカップリング剤の分子長(R)の2倍(2R)は中空ファイバの内径(r)よりもは長いため、#8試料のシランカップリング剤は中空ファイバの外壁に固定化される。外壁が疎水的になるため、水との親和性が損なわれ、粒子が水面に浮くようになる。
【0049】
2−5.シランカップリング剤を固定化したサンプルのメチレンブルーの吸着
#9試料(未処理)、#10試料(炭素鎖C=6を固定化)、#11試料(炭素鎖C=18を固定化)のそれぞれの薄膜のメチレンブルー吸着能を測定した。それぞれの薄膜を1mMの濃度のメチレンブルーに浸漬し、5分後に取り出し、ブロアーで水滴状のメチレンブルーを吹き飛ばした後に、薄膜に吸着したメチレンブルーの吸光度(波長615nm)を分光光度計(島津製作所、UV-3150)で測定した。メチレンブルーの吸着量を図6に示す。この結果、未処理の#9試料が最も吸着量が多く、次いで#11試料、最も吸着しなかったのは#10試料であった。#10試料で用いた炭素鎖C=6のシランカップリング剤の2Rは中空ファイバの内径よりも小さいため、内壁と外壁に固定化される。メチレンブルーはカチオン性のイオンなので、元々チタン酸からなる中空ファイバとの親和性が高い。シランカップリング剤が固定化された部分はメチレンブルーの吸着サイトのブロック層として働くため、メチレンブルーの吸着量が低下する。#11試料で用いた炭素鎖C=18のシランカップリング剤は中空ファイバの外壁にしか固定化されず、未処理の中空ファイバよりもメチレンブルーの吸着量が劣るが、内壁部分がメチレンブルーの吸着サイトとして作用しうるため、#10試料よりも吸着量が多い。すなわち、本発明の#11試料においては、外壁のみに修飾分子が固定化され、内壁には光触媒活性の高い中空ファイバの真性面が露出している構造となっている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、大気浄化、水質浄化等の環境浄化や、生体内の悪性物質の除去、悪性組織の治療等の医療用途へと適用することが可能な光触媒材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の光触媒材料の形態を模式的に表す図である。
【図2】本発明に係る窒素ドープした中空ファイバの可視光活性を示す図である。
【図3】本発明の光触媒材料における、アミンイオンの固定化量を示す図である。
【図4】本発明の光触媒材料のFT-IRスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の光触媒材料の水中での写真である。
【図6】本発明の光触媒材料のメチレンブルー吸着能を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバからなる光触媒性材料であって、前記中空ファイバの外壁の表面には修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子はリンカー部と主鎖部からなり、前記リンカー部と前記中空ファイバの外壁の表面が結合していることを特徴とする光触媒性材料。
【請求項2】
前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)が前記中空ファイバの内径(r)よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の光触媒性材料。
【請求項3】
前記修飾分子のリンカー部と中空ファイバの表面との間の結合が、共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合からなる郡より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1ないし2に記載の光触媒性材料
【請求項4】
前記修飾分子のリンカー部がカルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、ジケトン類、エチレンオキサイド類、シロキサン類からなる郡より選択される少なくとも一つの官能基であることを特徴とする請求項1〜3に記載の光触媒性材料。
【請求項5】
前記修飾分子が長鎖状のシランカップリング剤、ないし、アルキルアミンからなることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒性材料
【請求項6】
前記中空ファイバが、巻物状の層状のチタン酸であることを特徴とする請求項1〜5に記載の光触媒性材料。
【請求項7】
前記中空ファイバの内径(r)が3nm〜8nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜6に記載の光触媒材料。
【請求項8】
前記中空ファイバの酸素位置に酸素以外のアニオンが置換、または格子間に酸素以外のアニオンが割り込み、または粒界部に酸素以外のアニオンが配してあることを特徴とする請求項1〜7に記載の光触媒材料。
【請求項9】
前記酸素以外のアニオンが窒素であることを特徴とする請求項8に記載の光触媒材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−102587(P2006−102587A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290023(P2004−290023)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】