説明

光触媒性部材及び空質浄化装置

【課題】脱臭性能が向上した光触媒性部材を提供する。
【解決手段】フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材106であって、フィルター基材は、繊維布帛であり、光触媒性材料は、酸化チタン光触媒と吸着剤とを含み、前記フィルター基材の単位面積当たりの前記酸化チタン光触媒と前記吸着剤との合計担持量が10〜50mg/cm2である。酸化チタン光触媒としては、例えば、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含み、酸化チタン光触媒におけるフッ素の含有量が2.5〜3.5重量%であり、フッ素の90重量%以上が酸化チタンと化学結合している酸化チタン光触媒を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒性部材及び空質浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒による有機物の分解作用は約30年前に見いだされた。酸化チタンなどのある種の半導体に光を照射すると、電子及び正孔が生成され、生成した電子及び正孔が半導体表面でスーパーオキサイドアニオンラジカルやヒドロキシラジカルを生成する。そして、スーパーオキサイドアニオンラジカルやヒドロキシラジカルは有機分子を攻撃することによって有機物が分解される。このような作用を有する半導体材料のことを光触媒材料といわれている。光触媒として使用される材料は二酸化チタンが最も多く、光触媒といえば酸化チタンを意味するといっても過言ではない。
【0003】
今までに、光触媒による有機分解作用を利用した製品やデバイスが数多く提案されている。中でも、空気中の臭気(有機ガス)成分を光触媒作用で分解するデバイスやフィルターの開発が盛んに行われている。例えば、光触媒を吸着材と組み合わせることによって脱臭速度を向上させること(例えば、特許文献1)や、光触媒とハイシリカゼオライトとを組み合わせることによってエチレン等の特定のガスに対する分解速度を向上させること(例えば、特許文献2)等が提案されている。その他には、光触媒膜を担持する基材として光透過性を有する長繊維により形成された基材等を使用し、光触媒モジュールの処理効率を向上させること等が提案されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平1−189322号公報
【特許文献2】特開平7−16473号公報
【特許文献3】特開2002−239394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の浄化デバイスの脱臭速度では不十分であり、より高い脱臭性能を有する光触媒性部材が求められている。そこで、本発明は、脱臭性能が向上した光触媒性部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光触媒性部材は、フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、前記フィルター基材は、繊維布帛であり、前記光触媒性材料は、酸化チタン光触媒と吸着剤とを含み、前記フィルター基材における単位面積当たりの前記酸化チタン光触媒及び前記吸着剤の合計担持量が10〜50mg/cm2である。
【0006】
また、その他の態様として、本発明の光触媒性部材は、フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、前記光触媒性材料が、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含む酸化チタン光触媒とゼオライトとを含み、前記フィルター基材が、ガラス繊維布帛であり、光触媒性部材に含まれるTi、Si及びFの質量の合計に対するFの割合が、0.38質量%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、脱臭性能が向上した光触媒性部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において「脱臭」とは、気相中の臭気成分や有機物等を吸着及び/又は分解することをいう。好適には気相中の臭気成分や有機物の濃度を低減させることをいい、より好適には、吸着剤の吸着作用によって気相中の臭気成分や有機物等を吸着し、酸化チタン光触媒に紫外光を照射して臭気成分等を分解して、臭気成分や有機物の濃度を低減させることをいう。臭気成分としては、例えば、アセトアルデヒド、酢酸、アンモニア、硫黄化合物ガス(硫化水素、メチルメルカプタン等)等が挙げられ、中でも本発明の光触媒性部材はアセトアルデヒドの脱臭に適している。
【0009】
[第1の光触媒性部材]
第1の光触媒性部材は、フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、前記フィルター基材は、繊維布帛であり、前記光触媒性材料は、酸化チタン光触媒と吸着剤とを含み、前記フィルター基材における単位面積当たりの前記酸化チタン光触媒及び前記吸着剤の合計担持量が(以下、「触媒担持量」という)が、10〜50mg/cm2である。
【0010】
従来、フィルター基材に多量の光触媒や吸着剤を担持させると、圧損が大幅に大きくなるため十分な脱臭性能が得られないと考えられていた。これに対し、本発明の第1の光触媒性部材は、フィルター基材における単位面積当たりの触媒担持量が10〜50mg/cm2であれば、圧損を増加させることなく光触媒性材料をフィルター基材に担持させることができ、さらには脱臭性能を向上できるという知見に基づく。第1の光触媒性部材によれば、触媒担持量が10〜50mg/cm2であるため、脱臭速度を向上させることができ、また、フィルターの寿命を大きく延長させることができる。さらに、第1の光触媒性部材によれば、フィルター基材が繊維布帛であることから、例えば、フィルター基材が多孔質セラミックや発泡ポリウレタン等の多孔質フィルターの場合と比較して、フィルター基材内部の酸化チタン光触媒に光を十分照射することができ、光照射時の脱臭速度を向上できる。第1の光触媒性部材によれば、光触媒性材料が酸化チタン光触媒及び吸着剤を含むため、例えば、光照射時及び消灯時の双方において脱臭性能を発揮することができ、省エネルギー効果に優れる。
【0011】
第1の光触媒性部材において、触媒担持量は、10〜50mg/cm2である。触媒担持量が10mg/cm2以上であれば脱臭速度を十分向上させることができ、50mg/cm2以下であれば剥離することなく光触媒性材料をフィルター基材に担持させることができる。触媒担持量は、脱臭性能及びコストの点から、10〜40mg/cm2が好ましい。触媒担持量(mg/cm2)は、例えば、200cm2の光触媒性部材に担持された酸化チタン光触媒及び吸着剤の重量を測定し、酸化チタン光触媒と吸着剤との合計重量を面積(200cm2)で除することによって算出できる。
【0012】
第1の光触媒性部材における光触媒性材料の厚みは、フィルター基材の開孔率等に応じて適宜決定できるが、例えば、180μm以上であり、好ましくは180〜1000μm、より好ましくは200〜800μm、さらに好ましくは200〜620μmである。本発明において光触媒性材料の厚みとは、フィルター基材を構成する繊維に担持された光触媒性材料の厚みのことをいい、例えば、光触媒性部材の厚みとフィルター基材の厚みとを用いて下記式より算出できる。
光触媒性材料の厚み={(光触媒性材料の厚み)−(フィルター基材の厚み)}/2
【0013】
第1の光触媒性部材において光触媒性材料は、酸化チタン光触媒及び吸着剤を含む。
【0014】
[酸化チタン光触媒]
酸化チタンとしては、例えば、アナタース型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタンが挙げられ、高い光触媒活性を有することから、アナタース型酸化チタンが好ましい。本発明において「アナタース型酸化チタン」とは、粉末X線回折スペクトル測定において(使用電極:銅電極)、回折角度2θ=25.5度付近に回折ピークが現れる酸化チタンのことをいう。
【0015】
酸化チタン光触媒としては、脱臭速度の向上の点から、アナタース型酸化チタンとフッ素とを含み、酸化チタン光触媒中のフッ素の含有量が2.5〜3.5重量%であり、フッ素の90重量%以上が酸化チタンと化学結合している酸化チタン光触媒が好ましい。フッ素含有量が2.5重量%以上であれば、例えば、電気陰性度の大きなフッ素が酸化チタン表面に位置するようになる。このフッ素の電子吸引作用によって、近接する水酸基が活性化され水酸ラジカルが生じ易くなる。その結果、光触媒反応が促進され、脱臭速度を向上できると考えられるからである。また、フッ素含有量が3.5重量%以下であれば、例えば、酸化チタン表面における光触媒反応に必要な水酸基の数を確保でき、脱臭速度を維持できると考えられるからである。
【0016】
酸化チタン光触媒におけるフッ素含有量は、元素量にて2.7重量%〜3.3重量%が好ましく、より好ましくは2.9重量%〜3.1重量%である。フッ素の含有量は、例えば、吸光光度分析法(JIS K 0102)を用いて求めることができる。
【0017】
酸化チタンと化学結合しているフッ素は、光触媒活性及び脱臭速度の向上の観点から、酸化チタン光触媒における全てのフッ素のうち90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは100重量%、すなわち酸化チタン光触媒に含まれるフッ素の全量が酸化チタンと化学結合していることである。酸化チタン光触媒において、酸化チタンと化学結合しているフッ素の含有量は、例えば、2.35重量%〜3.5重量%であり、好ましくは2.5重量%〜3.5重量%、より好ましくは2.5重量%〜3.3重量%である。
【0018】
本発明において「酸化チタンとフッ素との化学結合」とは、酸化チタンとフッ素とが化学的に結合していることをいう。好適には担持や混合ではなく酸化チタンとフッ素とが原子レベルで結びついている状態のことをいい、より好適には酸化チタンとフッ素とがイオン結合していることをいう。本発明において「化学結合しているフッ素」とは、例えば、酸化チタン光触媒に含有されているフッ素のうち水に溶出しないフッ素のこという。酸化チタンと化学結合しているフッ素の量は、酸化チタン光触媒を水中に分散させ、pH調整剤(例えば、塩酸、アンモニア水)でpH=3以下又はpH=10以上に保持し、水中へのフッ素イオンの溶出量を比色滴定等により測定し、酸化チタン光触媒に含有するフッ素の総量から上記溶出量を差し引くことにより算出できる。フッ素イオンの溶出量は、後述する実施例のようにして測定することができる。本発明において「酸化チタンとフッ素とがイオン結合している」とは、酸化チタン光触媒を光電子分光分析装置で分析した際に、フッ素の1s軌道(F1s)のピークトップが683eV〜686eVの範囲となる場合をいう。これは、フッ素とチタンとがイオン結合したフッ化チタンのピークトップの値が上記範囲内であることに由来する。
【0019】
酸化チタン光触媒は、ナトリウムを含んでもよいが、光触媒活性及び脱臭速度の向上の点から、ナトリウムを含まないことが好ましい。ナトリウムを含む場合、酸化チタン光触媒全体に占めるナトリウムの含有量(A重量%)と、酸化チタン光触媒全体に占めるフッ素の含有量(B重量%)との比(A/B)は、光触媒活性及び脱臭速度の向上の点から、0.01以下であることが好ましく、より好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.001以下である。
【0020】
酸化チタン光触媒の比表面積は、光触媒と臭気成分との接触面の増加、また、光触媒反応効率の向上の点から、200〜350m2/gが好ましく、より好ましくは250〜350m2/gである。ここで、本発明において比表面積とは、BET法(窒素の吸着・脱離方式)により測定した、酸化チタン光触媒の粉末1g当たりの表面積値のことをいう。比表面積が200m2/g以上の場合、分解する対象物との接触面積を大きくすることができる。
【0021】
[吸着剤]
吸着剤としては、例えば、アルミノケイ酸塩及びシリカゲル等が挙げられる。中でも、アルミノケイ酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩としては、例えば、ゼオライトが挙げられる。ゼオライトの中でも、紫外光の透過性及び脱臭性能の点から、ハイシリカゼオライトが好ましく、臭気成分の吸着力の点から、ZSM−5型ゼオライトがより好ましい。ゼオライトにおけるシリカとアルミナのモル成分比(シリカ/アルミナ)は、例えば、10以上であり、好ましくは1500以上である。
【0022】
ゼオライトは、市販品を使用しても良い。市販品としては、例えば、HSZ−890HOA(東ソー株式会社製、ZSM−5型、シリカ/アルミナ比:1500〜2000(平均:1890)、平均粒径8〜14μm、カチオンタイプ:H、比表面積(BET):280〜330m2/g)、HiSiv(TM)−3000(ユニオン昭和株式会社製、平均粒径:12.7μm、カチオンタイプ:Na、細孔径:6Å以下、比表面積(BET):400m2/g以上)等が挙げられる。
【0023】
光触媒性材料における酸化チタン光触媒の含有量は、光照射時の脱臭性能の点から、20〜90重量%が好ましく、より好ましくは60〜80重量%である。また、光触媒性材料における吸着剤の含有量は、脱臭性能の点から、10〜80重量%が好ましく、より好ましくは20〜30重量%である。
【0024】
光触媒性材料における酸化チタン光触媒と吸着剤との重量比(酸化チタン光触媒の重量:吸着剤の重量)は、例えば、9:1〜1:9であり、脱臭性能の点から8:2〜5:5が好ましく、より好ましくは7:3である。
【0025】
光触媒性材料は、酸化チタン及び/又は吸着剤とフィルター基材との接着性の向上の点から、その他の成分として、バインダーを含んでも良い。バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、モンモリロナイト及びカオリン等が挙げられる。光触媒性材料におけるバインダーの含有量は、光照射時の脱臭性能の点から、20〜30重量%が好ましい。光触媒性材料におけるバインダーの割合は、バインダーの種類及び結着力等に応じて適宜決定できるが、脱臭性能向上の点から、少ないことが好ましい。バインダーがコロイダルシリカである場合、光触媒性材料における酸化チタン光触媒及び吸着剤の合計とバインダーとの重量比(酸化チタン光触媒及び吸着剤の合計重量:バインダーの重量)は、例えば、10:0〜5:5であり、好ましくは9:1〜7:3である。
【0026】
[フィルター基材]
第1の光触媒性部材においてフィルター基材は、繊維布帛である。繊維布帛としては、編物、織物及び不織布が挙げられる。中でも、圧損の点から、編物及び織物が好ましく、より好ましくは織物である。布帛に使用される繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリオレフィン系繊維、フェノール系繊維などの合成繊維;ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維、活性炭素繊維などの無機繊維;木材パルプ、麻パルプ、コットンリンターパルプなどの天然繊維;再生繊維等が挙げられ、中でも、光透過性の点からガラス繊維が好ましい。フィルター基材として、ガラス繊維織布を使用することが好ましい。
【0027】
フィルター基材の開孔率は、圧損の点から10%以上が好ましく、基材の強度及び脱臭速度の維持の点から50%以下が好ましく、より好ましくは25%以下である。したがって、フィルター基材の開孔率は、10〜50%が好ましく、より好ましくは10〜25%である。フィルター基材の開孔率は、例えば、フィルター基材の面積と開口部の面積とを用いて下記式より算出できる。
開孔率(%)={(開口部の面積)/(フィルター基材の面積)}×100
【0028】
[第2の光触媒性部材]
第2の光触媒性部材は、上述の通り、フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、前記光触媒性材料が、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含む酸化チタン光触媒とゼオライトとを含み、前記フィルター基材が、ガラス繊維布帛であり、光触媒性部材に含まれるTi(チタン)、Si(シリコン)及びF(フッ素)の質量の合計に対するFの割合(F質量/(Ti、Si及びFの質量の合計)×100)が、0.38質量%以上である。
【0029】
第2の光触媒性部材は、Fの割合が0.38質量%以上であるので、例えば、脱臭速度を向上させることができる。また、第2の光触媒性部材によれば、光触媒性材料が酸化チタン光触媒及び吸着剤を含むため、例えば、光照射時及び消灯時の双方において脱臭性能を発揮することができる。このため、第2の光触媒性部材によれば、例えば、省エネルギー効果に優れる。Ti、Si及びFの質量は、例えば、イオンクロマトグラフを用いて求めることができる。
【0030】
第2の光触媒性部材における光触媒性材料は、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含む酸化チタン光触媒とゼオライトとを含む。アナタース型酸化チタン及びフッ素を含む酸化チタン光触媒は、脱臭速度向上の点から、上記第1の光触媒性材料で例示したアナタース型酸化チタン及びフッ素を含み、酸化チタン光触媒中のフッ素の含有量が、2.5〜3.5重量%であり、フッ素の90重量%以上が、酸化チタンと化学結合している酸化チタン光触媒が好ましい。
【0031】
吸着剤は、第1の光触媒性部材で例示した吸着剤と同様のものが使用できる。第2の光触媒性部材の光触媒性材料は、酸化チタン及び/又は吸着剤とフィルター基材との接着性の向上の点から、その他の成分として、バインダーを含んでも良い。バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、モンモリロナイト及びカオリン等が挙げられる。光触媒性材料におけるバインダーの含有量は、光照射時の脱臭性能の点から、20〜30重量%が好ましい。
【0032】
第2の光触媒性部材は、シート状(平板)で使用しても良いし、例えばプリーツ加工や、コルゲート加工によりハニカムに成形して使用しても良い。
【0033】
[光触媒性部材の製造方法]
第1及び第2の光触媒性部材は、例えば、上述した酸化チタン光触媒とゼオライトとを含む光触媒性材料をフィルター基材に塗布等することにより製造できる。光触媒性材料を溶媒等に分散させた後、フィルター基材に塗布しても良く、溶媒としては、例えば、水およびエチルアルコール等が使用できる。また、光触媒性材料とバインダーとを混合し、その混合物をフィルター基材に塗布しても良いし、予めバインダーをフィルター基材に塗布し、その後光触媒性材料を塗布しても良い。塗布法としては、例えば、スラリー塗布、スピンコート、吹き付け塗布、キャスティング塗工等が挙げられる。
【0034】
上記フッ素を含有する酸化チタン光触媒は、例えば、n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下であるアナタース型酸化チタンの水分散液とフッ素化合物とを混合し、混合液のpHが3を超える場合は酸を用いてpHを3以下に調整することによって、混合液中で酸化チタンとフッ素化合物とを反応させることにより製造できる。n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下であるアナタース型酸化チタンとしては、例えば、堺化学工業株式会社製SSP−25等が使用できる。その水分散液としては、例えば、堺化学工業株式会社製CSB−M等が使用できる。フッ素化合物としては、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸等が挙げられる。
【0035】
[空質浄化装置]
本発明は、その他の態様として、本発明の光触媒性部材を備える空質浄化装置を含む。空質浄化装置は、さらに、紫外線光源を備えることが好ましく、より好ましくは400nm以下の波長の光を照射する光源を備えることである。本発明の空質浄化装置によれば、例えば臭気成分の分解性能及び分解速度を向上させることができる。また、本発明の空質浄化装置は、臭気成分の脱臭速度向上の点から、光触媒性部材へ有機物を含む気体を導入する送気手段をさらに備えていても良い。送気手段としては、例えばシロッコファン等の送風機が使用できる。
【0036】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(フィルター基材の開孔率と圧力損失との関係)
開孔率の異なる4種類のフィルター基材(ガラス繊維織布、商品名:V375H、V385H、ユニチカ株式会社製)について、面風速1m/sでの圧力損失(単位:Pa)を圧力計(マノメーター)で測定した。得られた圧力損失を開孔率とあわせて下記表1に示す。下記表1に示すように、開孔率が5%未満になると、最大風量時の圧力損失が35Paを超えることが分かった。
【0038】
[フィルター基材の開孔率]
フィルター基材の開孔率は、フィルター基材の面積及び開口部の面積をそれぞれものさしを用いて計測し、それらを用いて下記式より算出した。
開孔率(%)={(開口部の面積)/(フィルター基材の面積)}×100
【0039】
【表1】

【0040】
(実施例1〜17)
1.酸化チタン光触媒の調製
酸化チタン(商品名:SSP−25、堺化学工業株式会社製、アナタース型、粒径:5〜10nm、比表面積:270m2/g以上)の濃度が150g/Lとなるように酸化チタンに純水を加え、これを撹拌して、酸化チタン分散液を調製した。この酸化チタン分散液に、酸化チタンに対してフッ素(元素)に換算して5.0重量%に相当するフッ化水素酸(和光純薬社製、特級)を添加し、pH3に保持しながら25℃で60分間反応させた。得られた反応物を水洗した。水洗は、反応物を濾過して回収される濾液の電気伝導度が1mS/cm以下となるまで行った。そして、これを空気中において130℃で5時間乾燥させて酸化チタン光触媒を調製した。
【0041】
[フッ素含有量]
吸光光度分析法(JIS K 0102)により酸化チタン光触媒中のフッ素含有量を求めたところ、3.3重量%であった。
【0042】
[フッ素と酸化チタンとの結合の確認]
酸化チタン光触媒を光電子分光分析装置で分析したところ、F1sのピークトップが683eV〜686eVの範囲となるスペクトルを示した。つまり、得られた酸化チタン光触媒において、酸化チタンとフッ素とがイオン結合していることが確認できた。
【0043】
[アナタース型の確認]
酸化チタン光触媒を粉末X線回折装置(使用電極:銅電極)で分析したところ、回折角度2θ=25.5度において回折ピークが現れた。つまり、得られた酸化チタン光触媒はアナタース型酸化チタンであった。
【0044】
2.光触媒性部材の作製
得られた酸化チタン光触媒490gと、ゼオライト(商品名:HSZ−890HOA、東ソー製、シリカ/アルミナ比(モル比):1950)210gとを乳鉢により1分間乾式混合した。酸化チタン光触媒とゼオライトとの混合物700gをコロイダルシリカ、スノーテックスO、日産化学製に分散させてペースト状にし、開孔率の異なる3種類のフィルター基材(ガラスクロス、商品名:V375H、V385H、ユニチカ製、200cm2(100mm×200mm))に添着して下記表2から4に示す実施例1〜17及び比較例1〜6の光触媒性部材を作製した。なお、開孔率が50%のフィルター基材は、商品名V375Hのガラス繊維不織布(ユニチカ株式会社製)から開孔率が50%となるように一部の繊維を抜くことにより作製した。
【0045】
[触媒担持量]
フィルター基材に添着した酸化チタン光触媒及びゼオライトの合計重量をフィルター基材の面積(200cm2)で除することにより触媒担持量を算出した。
【0046】
[光触媒性材料の厚み]
光触媒性部材をガラス板2枚で挟み、その厚みをマイクロメータで測定した。測定値、ガラス板の厚み及びフィルター基材の厚みを用いて、下記式より光触媒性材料の厚みを算出した。
光触媒性材料の厚み=[測定値−(ガラス板の厚み)×2−(フィルター基材の厚み)]/2
【0047】
[光触媒性部材に含まれるTi、Si及びFの質量の合計に対するFの割合]
光触媒性部材におけるTi、Si及びFの質量をイオンクロマトグラフを用いて測定した。得られた質量を用いて下記式よりTi、Si及びFの質量の合計に対するFの割合を算出した。
Fの割合={F質量/(Ti質量+Si質量+F質量)}×100
【0048】
3.測定装置
測定装置は、図1に示す構成の測定装置を使用した。図1の測定装置101は、アクリル製ボックス(内容積:100L)105と、その中に配置された脱臭ユニット103及び攪拌用ファン102を含む。アクリル製ボックス105は、臭気成分を導入する導入口108と、アクリル製ボックス105内の空気をサンプリング可能な排出口109を備える。排出口109には、3分毎の自動サンプリング装置を備えるガスクロマトグラフ(商品名:GC−14B、島津製作所製)を接続し(図示せず)、ガスクロマトグラフのカラムは、GASCHROPACK56(商品名、GLサイエンス製)を使用した。
【0049】
脱臭ユニット103は、ブラックライト104、光触媒性部材(100mm×200mm)103及び送風機107がこの順で配置されており、送風機107により光触媒性部材106の面に直交する方向にガスを導入可能である。ブラックライト104は、ブラックライトブルー蛍光灯(品番:FL6BL−B、松下電器製、最大波長:352nm、定格ランプ電力:6W、紫外放射出力:0.6W)を使用した。ブラックライト104は、光触媒性部材106に照射される紫外線(365nm)の照度が1.0mW/cm2となるように配置した。照度は、紫外線積算光量計(商品名:UVD−S365、ウシオ電機製)を用いて測定した。
【0050】
4.評価方法
攪拌用ファン102を回転させながら、光触媒性部材106を配置した図1の測定装置101内の空気を乾燥空気で置換した。ついで、窒素で希釈した標準ガス(アセトアルデヒド:524ppm)を1.80L導入し、アクリル製ボックス105内のアセトアルデヒド濃度を10ppmとした。アセトアルデヒドを導入した直後に、ブラックライトを点灯し、送風機107を回転させて光触媒性部材106による脱臭を開始した。脱臭開始後から3分毎にガスクロマトグラフを用いてアセトアルデヒド濃度を測定した。
【0051】
脱臭開始後3分後から15分後のアセトアルデヒド濃度の時間変化を対数近似し、その傾きの絶対値を脱臭速度係数とした。得られた脱臭速度係数(絶対値及び相対値)を下記表2から4に示す。表2はフィルター基材の開孔率が10%の光触媒性部材、表3はフィルター基材の開孔率が25%の光触媒性部材、表4はフィルター基材の開孔率が50%の光触媒性部材の結果をそれぞれ示す。また、得られた脱臭速度係数から、フィルターの開孔率の応じて下記基準に基づき判定し、その判定結果をあわせて表2から4に示す。なお、比較例3については、フィルター基材からの光触媒性材料の剥離が著しく測定を行うことができなかった。
○:脱臭速度係数が定常状態(最大値に達した後に、ほぼ一定となった状態)に達している
×:定常状態に満たない又は測定不可
また、実施例1、4及び5の光触媒性部材については上述の測定方法により圧力損失を測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
上記表2に示すように、触媒担持量が10〜50mg/cm2である実施例1〜8の光触媒性部材は、いずれも触媒担持量が10mg/cm2未満の比較例1〜3の光触媒性部材よりも脱臭速度係数が高かった。また、触媒担持量がそれぞれ10.7、22.8及び25.9mg/cm2である実施例1、4及び5の光触媒性部材はいずれも圧力損失は25Pa以下であり、光触媒性材料の担持前の圧力損失(20Pa)と同程度であった。つまり、光触媒性材料の担持による大幅な圧力損失の増加はなく、また、担持後の光触媒性部材の圧力損失はフィルター効率に優れる圧力損失であるといえる。
【0056】
また、上記表3及び4に示すように、触媒担持量が10〜50mg/cm2である実施例9〜14の光触媒性部材(開孔率:25%)は、いずれも触媒担持量が10mg/cm2未満の比較例4及び5の光触媒性部材よりも脱臭速度係数が高く、実施例15〜17の光触媒性部材(開孔率:50%)は比較例6の光触媒性部材よりも脱臭速度係数が高かった。
【0057】
(実施例18)
コロイダルシリカ溶液(30重量%、溶媒:水)を塗布したフィルター基材に光触媒性材料を添着したこと、触媒担持量を約20mg/cm2とした以外は実施例1と同様に実施例18の光触媒性部材を作製した。得られた光触媒性部材におけるTi、Si及びFの質量の合計に対するFの割合は、0.62質量%であった。
【0058】
(実施例19)
酸化チタン光触媒として、SSP−25(商品名、堺化学工業株式会社製、アナタース型、粒径:5〜10nm、比表面積:270m2/g以上)を使用した以外は、実施例18と同様に実施例19の光触媒性部材を作製した。
【0059】
実施例18及び19の光触媒性部材を用いて実施例1と同様にアセトアルデヒドの脱臭評価を行い、脱臭速度係数(絶対値)を求めた。その結果、実施例18の光触媒性部材の脱臭速度係数は0.248、実施例19の光触媒性部材の脱臭速度係数は0.098であった。酸化チタン光触媒として、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含み、酸化チタン光触媒中のフッ素の含有量が、2.5〜3.5重量%であり、フッ素の90重量%以上が、酸化チタンと化学結合している酸化チタンを使用することにより、脱臭速度を向上できることが確認できた。
【0060】
(実施例20)
触媒担持量を約20mg/cm2とした以外は実施例9と同様に実施例20の光触媒性部材(フィルター基材の開孔率:25%)を作製した。得られた光触媒性部材を図2に示す筐体203に挿入した。図2の筐体203は、光触媒性部材201と光触媒性部材201との間にブラックライト冷却極管202が配置されており、光触媒性部材201に照射される紫外線(365nm)の照度が平均1.0mW/cm2となるように調節した。この筐体203を空気清浄機(商品名:エアーリッチ、松下電器製)の脱臭フィルター部に組み込み、ステンレス製の環境試験室(内容積:23.2m3)に配置した。ついで、アセトアルデヒドの水希釈液を蒸気拡散させ、室内のアセトアルデヒド濃度を10ppmとした。その後、脱臭開始から30分後、60分後及び90分後に環境試験質内の臭気を採取した。採取した臭気(3L)をDNPH(ジニトロフェニル)で濃縮し、液体クロマトグラフィーを用いてアセトアルデヒド濃度を測定した。得られた結果を図3に示す。
【0061】
図3より、実施例20の光触媒性部材によれば、脱臭開始後60分で90%以上のアセトアルデヒドを脱臭できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、例えば脱臭、消臭、空気浄化等の目的で使用される浄化デバイスに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、脱臭特性の評価に用いた空質浄化装置の斜視図である。
【図2】図2は、脱臭特性の評価に用いた筐体の斜視図である。
【図3】図3は、実施例20におけるアセトアルデヒドの脱臭特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
101・・・測定装置
102・・・攪拌用ファン
103・・・脱臭ユニット
104・・・ブラックライト
105・・・アクリル製ボックス
106・・・光触媒性部材
107・・・送風機
108・・・導入口
109・・・排出口
201・・・光触媒性部材
202・・・ブラックライト冷却極管
203・・・筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、
前記フィルター基材は、繊維布帛であり、
前記光触媒性材料は、酸化チタン光触媒と吸着剤とを含み、
前記フィルター基材における単位面積当たりの前記酸化チタン光触媒及び前記吸着剤の合計担持量が、10〜50mg/cm2である光触媒性部材。
【請求項2】
前記酸化チタン光触媒が、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含み、
前記酸化チタン光触媒におけるフッ素の含有量が、2.5〜3.5重量%であり、
前記フッ素の90重量%以上が、前記酸化チタンと化学結合している酸化チタン光触媒である、請求項1記載の光触媒性部材。
【請求項3】
前記繊維布帛は、ガラス繊維織布である、請求項1又は2に記載の光触媒性部材。
【請求項4】
前記フィルター基材の開孔率が、10〜50%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項5】
前記担持量が、10〜40mg/cm2である、請求項1から4のいずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項6】
前記吸着剤が、ハイシリカゼオライトである、請求項1から5のいずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項7】
前記光触媒性材料の厚みが、180μm以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項8】
前記光触媒性材料が、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、モンモリロナイト及びカオリンからなる群から選択される少なくとも一つのバインダーを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項9】
フィルター基材に光触媒性材料が担持された光触媒性部材であって、
前記光触媒性材料が、アナタース型酸化チタン及びフッ素を含む酸化チタン光触媒とゼオライトとを含み、
前記フィルター基材が、ガラス繊維布帛であり、
光触媒性部材に含まれるTi、Si及びFの質量の合計に対するFの割合が、0.38質量%以上である、光触媒性部材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の光触媒性部材を備える、空質浄化装置。
【請求項11】
さらに、紫外線光源を備える、請求項10記載の空質浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−297664(P2009−297664A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155798(P2008−155798)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】