説明

光触媒材料及びこれを用いた光水素生成デバイス並びに水素の製造方法

【課題】750nm〜1008nm(1.23〜1.65V)の間にバンドギャップを有し、かつ光照射下の水中で安定である光触媒材料を提供する。
【解決手段】第1の解決手段は、少なくとも1種の5族元素を含有する炭窒化物を含む光触媒材料である。第2の解決手段は、少なくとも1種の5族元素を含有する酸窒化物、及び炭素を含む光触媒材料である。第1の解決手段及び第2の解決手段において、5族元素としては、Ta及びNbが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射による水の分解反応に好適な光触媒材料、及びこれを用いた光水素生成デバイスに関する。本発明はまた、当該光触媒材料を利用した水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒として機能する半導体材料に光を照射することにより、水を分解して水素と酸素を採取することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電解液中にn型半導体電極と対向電極を配置し、n型半導体電極の表面に光を照射することにより両電極の表面から水素及び酸素を採取する方法が開示されている。n型半導体電極としては、TiO2電極、ZnO電極、CdS電極等を用いることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、互いに接続された金属極及び窒化物半導体極を有し、両電極が溶媒中に設置されて成るガス発生装置が開示されており、窒化物半導体極に、インジウム、ガリウム、アルミニウムなどの13族系元素の窒化物を用いることが記載されている。
【0005】
このような従来の半導体電極では、太陽光の照射による水の分解反応における水素生成効率が低いという問題があった。これは、TiO2、ZnOなどの光触媒材料が吸収可能な光の波長が短く、概ね400nm以下の波長の光しか吸収できないため、全太陽光に占める利用可能な光の割合が、TiO2の場合で約4%と非常に少ないためである。さらに、この太陽光の利用効率は、吸収された光のうち、原理的な熱損失によるロスまで考慮すると、約1.4%程度となる。
【0006】
より長波長の可視光を吸収可能な光触媒材料としては、TaON、Ta35、Ag3VO4などが報告されているが、それでも吸収可能な光の波長は高々500〜600nm程度である。500nm以下の波長の光を吸収可能なTaONの場合、全太陽光に占める利用可能な光の割合は、約20%程度である。しかし理論熱損失まで考慮すると、利用効率は約8%にすぎない。
【0007】
これに対し、近年、特許文献3では、LaTaON2が650nmまでの可視光を吸収可能であることが報告されている。これは、現在報告されている水を分解可能な光触媒材料の中で、もっとも長波長の光を吸収可能なものである。650nm以下の波長の光を吸収可能なLaTaON2の場合、全太陽光に占める利用可能な光の割合が約41%程度であるが、それでも理論熱損失まで考慮すると、利用効率は約20%にすぎない。
【0008】
また、Se、Teなどを含む化合物半導体材料、及び特定の硫化物(CdS、ZnS、Ga22、In23、ZnIn24、ZnTe、ZnSe、CuAlSe2、CuInS2等)は、比較的長波長の光まで吸収可能な材料ではあるものの、水に対する安定性が乏しく、水の分解反応においては実用的ではない。
【0009】
一方、特許文献4には、5族元素を含有する炭窒化物を、固体高分子形燃料電池の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質に用いることが開示されている。しかし、特許文献4には、5族元素を含有する炭窒化物を光触媒材料に用いるという技術思想は開示されておらず、また、特許文献4の炭窒化物は、一部のみ結晶化した、酸窒化物、酸化物などとの混合物であり、量子効率の観点から一般に材料が単相の高結晶で用いられる光触媒材料とは、使用形態が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭51−123779号公報
【特許文献2】特開2003−24764号公報
【特許文献3】特許第4107792号公報
【特許文献4】特開2008−108594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光触媒に光を照射することにより水を分解するためには、光触媒材料がもつバンドエッジ(価電子帯と伝導帯の準位)が水の酸化還元電位(水素発生準位と酸素発生準位)を挟んでいる必要がある。従って、実用的に利用可能な水分解用光触媒材料に求められる要件とは、吸収可能な光の波長領域が長く(バンドギャップが小さく)、かつバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでおり、かつ光照射下の水中で安定であることであり、現在までにこれら全ての要件を全て満たす光触媒材料は発見されていない。
【0012】
ここで、仮に現在一般的なSi系太陽電池と比べて遜色ない水素生成効率を得るためには、どの程度のバンドギャップが必要かを考察してみる。750nm以下の波長の光を吸収可能な光触媒材料を想定した場合、全太陽光に占める利用可能な光の割合が約54%となる。そのうち熱損失による理論的損失を考慮すると、水素生成効率は約29%となる。これは量子効率100%が前提であるため、デバイス化した場合には、さらに量子効率分の損失や、ガラス表面での反射や散乱などの損失を考慮する必要があり、それらの効率も考慮すると(量子効率:90%、反射や散乱などデバイス設計上の要因による効率:85%)、750nmのバンドギャップを有する光触媒材料で、最大でおよそ20%程度の水素生成効率が得られると推定できる。水素生成効率が低いと、当然、必要水素量を生成させるための設置面積が大きくなり、コストアップを招来するばかりでなく、太陽電池のように戸建て住宅の有限な面積の屋根などへ設置することが困難となる。単純型(タンデム型ではない)Si系太陽電池の到達可能と想定される発電効率が約20%程度であるため、太陽電池と同等以上の効率を得るためには、750nm以上のバンドギャップを有する光触媒材料が必要である。さらに、水の分解電圧が常温で約1.23Vであるため、これより小さいバンドギャップ(1008nm超の吸収波長)を有する光触媒材料は、原理的に水を分解することが不可能である。そのため、750nm〜1008nm(1.23〜1.65V)の間にバンドギャップを有する光触媒材料の発見が望まれる。
【0013】
そこで本発明は、750nm〜1008nm(1.23〜1.65V)の間にバンドギャップを有し、かつ光照射下の水中で安定である光触媒材料を提供することを目的とする。また、本発明は、太陽光照射により高効率で水素を製造可能な方法、及び太陽光照射により高効率で水素を生成可能なデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成した本発明の光触媒材料の第一の態様は、少なくとも1種の5族元素を含有する炭窒化物を含む光触媒材料である。本発明の光触媒材料の第二の態様は、少なくとも1種の5族元素を含有する酸窒化物、及び炭素を含む光触媒材料である。
【0015】
本発明はまた、電解質を含有する水に浸した上記の光触媒材料に太陽光を照射して水を分解することを含む水素の製造方法である。
【0016】
本発明はさらに、容器、光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素発生デバイスであって、前記光触媒材料が、上記の光触媒材料を含む光水素発生デバイスである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光触媒材料は、そのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでおり、また、750nm以上の可視光を吸収可能であり、さらに光照射時の水中での安定性に優れている。よって、電解質を含有する水に浸した本発明の光触媒材料に太陽光を照射して水を分解すれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。また、容器、本発明の光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素発生デバイスによれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光触媒材料と従来の光触媒材料のエネルギー準位の概念図である。
【図2】Ta系材料の光吸収特性を示す図である。
【図3】炭窒化物の電子状態密度を示す図である。
【図4】外挿後の炭窒化物の電子状態密度を示す図である。
【図5】酸窒化物の電子状態密度を示す図である。
【図6】本発明の光水素発生デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の光水素発生デバイスの別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
太陽光を用いて効率よく水を分解し水素を生成させるためには、図1左に示すバンド状態図のように、用いる光触媒材料が比較的長波長の可視光まで吸収可能であり(バンドギャップが小さく)、前記光触媒材料のバンドエッジ(価電子帯と伝導帯の準位)が水素発生準位と酸素発生準位を挟んでいる必要があり、なおかつ前記光触媒材料が光照射下の水中で安定である必要がある。
【0020】
ここで、一般的な酸化物の価電子帯は酸素のp軌道から構成されるため、その価電子帯位置が深い準位(高い電位)にあることが通常である(図1右)。これに対して窒化物や酸窒化物の価電子帯は窒素のp軌道から構成されるため、その価電子帯位置は酸化物の価電子帯位置より浅い準位(低い電位)にあることが通常である(図1中央)。そのため、特許文献3に開示されている通り、酸窒化物を用いれば、酸化物を用いた場合よりも小さいバンドギャップの光触媒材料を得ることができる。ここで、単純窒化物は、一般的に酸化されやすいため、光照射下で長時間水中に放置すると酸化されてしまうケースがある。そのため、安定性まで考慮すると、単純窒化物より酸窒化物の方が望ましい。しかしながら、酸窒化物でも前述の所望のバンドギャップ(750nm)より大きなバンドギャップの材料しか知られておらず、そのバンドギャップは最小でも650nm(1.91V)程度である。
【0021】
それに対し本発明者らは、第一原理計算の結果より、炭素のp軌道から構成される価電子帯が、窒化物の価電子帯位置よりさらに浅い準位(低い電位)にあることを見出し、さらに検討を進めた結果、5族元素を含有する炭窒化物を含む光触媒材料、並びに5族元素を含有する酸窒化物及び炭素を含む光触媒材料が、炭素のp軌道から構成される価電子帯を有し、窒化物や酸窒化物よりもバンドギャップが小さいことを見出した。ここで、金属の単純炭化物は、金属性の導電性を持つものが多く、バンドギャップを持たないものが多い。従って、本発明は、炭窒化物又は酸窒化物に炭素を含む材料であることを要件とする。なお、本発明ではエネルギー準位を、半導体分野でしばしば用いられる真空準位ではなく、電気化学的エネルギー準位を用いて述べている。
【0022】
本発明の光触媒材料の第一の態様は、少なくとも1種の5族元素を含有する炭窒化物を含む光触媒材料である。
【0023】
光触媒材料においては、光照射により生成したホールと電子が速やかに電荷分離される必要があり、電荷分離の効率は量子効率(励起により得られた電子の数/入射した光子の数)に影響する。そのため、可視光まで吸収可能な光触媒材料を用いた水素生成デバイスであっても、電荷分離の効率が悪い光触媒材料では、光励起により生成した電子とホールが再結合しやすく量子効率が悪化し、結果的に水素生成効率が低下する。電荷分離を阻害する要因として、光触媒材料の低結晶性・欠陥構造などが挙げられる。従って、光触媒材料には、電荷分離の効率の観点から、単相で高結晶性のものを用いることが望まれる。例えば、光触媒材料が多相の混合物である場合(大部分がTaCNであり、これに微量のTa25が混合されている場合)、TaCNが光励起することによって生じた電子とホールが移動する際に、同じ電子軌道を共有していないTa25が存在すると、TaCNとTa25との界面が電子とホールの再結合中心となり量子効率が低下してしまう。従って、本発明においても、前記炭窒化物が単相構造を有することが好ましい。なお、前記炭窒化物は、単相構造が保たれる限り、少量の不純物(例えばO)を含んでいてもよい。また、単相のバルク表面に少量の不純物相(例えば酸化被膜など)を含んでいてもよい。不純物の含有量は、好ましくは10モル%以下である。また、上記の観点から、前記炭窒化物は、結晶性ができるだけ高いことが好ましい。さらに、前記炭窒化物は、構造欠陥ができるだけ少ないことが好ましい。ここで、本発明の光触媒材料において、単相構造の前記炭窒化物がドープレベルの酸素を含有していることも、より明確なバンドギャップを有するため好ましい一実施態様である。例えば、TaCN又はNbCNの単相構造を保つ範囲で、酸素がドープされていることが望ましく、好ましい酸素含有量は10モル%以下である。また例えば、TaCN又はNbCNは、単相の結晶構造を保ったまま、CとNの含有モル比が、C≦Nであることが望ましい。
【0024】
炭窒化物は少なくとも1種の5族元素を含む。5族元素としては、Ta及びNbが好ましい。本発明者らの検討により、TaCNは750nm以下の波長の光を吸収可能な光触媒材料であることを実験的に見出した(図2)。また、第一原理計算の結果からNbCNは約910nm以下の波長の光を吸収可能な光触媒材料であることを見出した。具体的には、第一原理計算を用いて、TaCN、NbCNのバンドギャップを求めた。しかしながら、図3に示すように、第一原理計算においてはTaCN、NbCNともにバンドの谷は存在するもののバンドギャップを持たない結果となった。実験的にTaCNが750nm(約1.65eV)のバンドギャップを有することから、TaCNの第一原理計算結果が1.65eVのバンドギャップを有するよう電子状態密度図を外挿し、同じ外挿をNbCNについても実施した(図4)。これから、NbCNは、1.36eV(約910nm)のバンドギャップを有することが判明した。さらに、TaCN及びNbCNは、フェルミ準位が伝導帯に近い位置に存在することを第一原理計算により見出した。そのため、TaCNやNbCNは、半導体の中では比較的導電性が高く、光触媒電極の電気抵抗を小さくすることができ、水素生成効率を高めることができることも見出した。
【0025】
本発明の光触媒材料の第二の態様は、少なくとも1種の5族元素を含有する酸窒化物、及び炭素を含む光触媒材料である。
【0026】
ここで、5族元素と酸素と窒素と炭素からなる単相化合物は存在しない(ただし、前述の通り、5族元素と酸素と窒素にドープレベルの炭素がドープされた単相化合物と、5族元素と窒素と炭素にドープレベルの酸素がドープされた単相化合物は存在する)。光触媒の量子効率を低下させないためには、前述の通り少なくとも光触媒材料の母相が単相である必要がある。そのため、ここで言う「少なくとも1種の5族元素を含有する酸窒化物、及び炭素を含む光触媒材料」とは、5族元素の酸窒化物に、前記5族元素の酸窒化物の母相構造が崩れない範囲で炭素が含まれた材料のことをいう。従って、TaCN及びNbCNを部分酸化して得られるTaCNO(TaCNとTa25の混合物、又はさらにTaONとの混合物)及びNbCNO(NbCNとTa25の混合物、又はさらにNbONとの混合物)は、本発明の光触媒材料には含まれない。
【0027】
電荷分離効率の観点から、前記酸窒化物が単相構造を有することが好ましい。また前記酸窒化物は、結晶性ができるだけ高いことが好ましい。また前記酸窒化物は、構造欠陥ができるだけ少ないことが好ましい。
【0028】
炭素は、前記酸窒化物の結晶構造に悪影響を与えることなく前記酸窒化物中に存在すべきであることから、光触媒材料は、炭素が前記酸窒化物にドープされたものであることが好ましい。炭素ドープの方法としては、イオン注入等の公知方法を採用できる。
【0029】
前記光触媒材料において炭素の含有量は、前記酸窒化物の結晶構造が変化することによって光触媒能が損なわれる量でない限り特に制限はなく、10モル%以下が好ましい。
【0030】
酸窒化物は少なくとも1種の5族元素を含む。5族元素としては、Ta及びNbが好ましい。本発明の光触媒材料の第二の態様では、窒素のp軌道から構成される価電子帯と炭素のp軌道から構成される価電子帯の両方から光励起することが可能であり、このためTaONに炭素を含有させた光触媒材料は、TaON由来の約500nmのバンドギャップと、TaCN由来の750nmの両方のバンドギャップを有し、結果的に750nm以下の可視光を全般的に有効に吸収可能であることを見出した。さらに、NbONに炭素を含有させた光触媒材料の場合、NbON由来の約600nmのバンドギャップ(第一原理計算より算出)と、NbCN由来の約910nmのバンドギャップ(第一原理計算より算出)を有し、結果的に約910nm以下の可視光を有効に吸収可能であることを見出した。
【0031】
また、第一原理計算の結果から、5族元素は5価の場合にバンドギャップを持ち、価数が小さくなると伝導体の電子の密度が増えて明確なバンドギャップを持たなくなることを見出した。そのため、本発明の光触媒材料の第一の態様及び第二の態様において、5族元素は概ね5価(好ましくは4.8〜5価)であることが好ましい。この理由は、例えばTaの場合には、伝導帯がTaのd軌道から構成されるため、d軌道の電子が空の状態である5価が望ましい。Taのd軌道に電子が存在する3価の場合には、伝導帯に電子が存在するため、金属性の導電性を示し、バンドギャップを持たなくなることを第一原理計算により見出した。しかしながら、製造上不可避な欠陥などにより、5族元素は4.8価の価数を取る場合も存在する。この場合は欠陥に伴う欠陥準位が構成され、吸収波長端がブロードに観測される現象が起こり、バンドギャップ近辺の波長の吸収効率が若干低下するが、光触媒特性に甚大な影響は及ぼさない。従って、本発明においては製造上不可避な欠陥による価数の減少は、4.8価程度までは許容範囲である。
【0032】
本発明の光触媒材料の好ましい一実施態様は、単相構造の前記酸窒化物に結晶構造を保ったまま炭素がドープされた材料、又は単相構造の前記炭窒化物に結晶構造を保ったまま酸素がドープされた材料のみからなる。
【0033】
本発明の光触媒材料は、上述のように750nm以上の可視光を吸収可能であり、また、そのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでいる。さらに、光照射時の水中での安定性にも優れている。よって、本発明の光触媒材料を、電解質を含有する水に浸し、太陽光を照射して水を分解すれば、従来よりも高効率で水素を生成させることができる。
【0034】
そこで本発明は別の側面から、電解質を含有する水に浸した上記の光触媒材料に太陽光を照射して水を分解することを含む水素の製造方法である。
【0035】
本発明の製造方法は、公知の光触媒材料を上記の光触媒材料に置き換えて、公知方法(例えば、特許文献1、2参照)と同様にして実施することができる。具体例としては、以下の本発明の光水素発生デバイスを用いる方法が挙げられる。
【0036】
本発明の製造方法によれば、高効率で水素を生成することができる。
【0037】
本発明の光水素発生デバイスは、容器、光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素発生デバイスであって、当該光触媒材料が、上記の光触媒材料を含む。上記の光触媒材料とは、本発明の第一の態様の光触媒材料及び第二の態様の光触媒材料のことをいう。本発明の水素発生デバイスの構成例を図6及び図7に示す。
【0038】
水中でバルク状又は粉末状の光触媒材料に光を照射すると、仮に水を分解して水素と酸素を生成したとしても、生成した水素と酸素のほとんどが瞬時に再結合し、水に戻ってしまう。そこで、水素と酸素を分離して生成させることが好ましい。そのため、光触媒材料を電極状に成型し、別途電気的に接続した対極を設けて水素と酸素の生成場所を分離することが好ましい。場合によっては、1枚の電極の片面から水素が発生し、反対の面から酸素が発生する構造であってもよい。
【0039】
図6の光水素生成デバイスは、容器9、光触媒電極2、導電基板1、及び対極3を備えている。容器9は、その上部に、水素及び酸素をそれぞれ捕集するための2つの開口部8を有している。また、その下部に、給水口となる2つの開口部8を有している。容器9内には、電解質を含む水6が収容されている。また、水素と酸素の生成場所を分離するために、容器9は、光触媒電極2と対極3との間にセパレータ4を有している。セパレータ4は、イオンを透過させ、光触媒電極2側で発生したガスと対極3側で発生したガスとを遮断する機能を有する。容器9のうち、容器9内に配置された光触媒電極2の表面と対向する部分(光入射部5)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。光触媒電極2と対極3は、導線7により電気的に接続されている。
【0040】
光触媒電極2は、バンドギャップを有する半導体であるため、一般に金属などに比べると導電性が小さい。また、電子とホールの再結合を可能な限り防止する必要がある。そのため、光触媒電極2の厚みは薄くすることが好ましい。よってここでは、光触媒電極2は、導電基板1上に薄膜状(約100〜500nm程度)に形成される。また、光の吸収効率を上げるためには。光触媒電極2の表面積を大きくすることが好ましい。
【0041】
光触媒電極2は、高結晶性であることが好ましく、平滑な電極の場合には電極の厚み方向に、平滑ではない電極の場合には光励起により生成した電子やホールの移動方向と平行な方向に、結晶が配向した状態であることが好ましい。
【0042】
図7の光水素生成デバイスも、容器9、光触媒電極2、導電基板1、及び対極3を備えている(図7において、同種の部材には図6と同じ符号を用いる)。容器9は、4つの開口部8を有し、容器9内には、電解質を含む水6が収容されている。導電基板1の一方の面に光触媒電極2が設けられ、もう一方の面に対極3が設けられている。光触媒電極2は、薄膜状(約100〜500nm程度)に形成される。光触媒電極2と対極3は、導電基板1によって電気的に接続されている。水素と酸素の生成場所を分離するために、容器9内は、セパレータ4及び導電基板1によって、光触媒電極2側と対極3側に分けられている。容器9のうち、容器9内に配置された光触媒電極2の表面と対向する部分(光入射部5)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。
【0043】
図6及び図7に示した光水素生成デバイスに、光入射部5より太陽光等を照射することにより、水素及び酸素を生成させることができる。特に、当該光水素生成デバイスでは、吸収可能な光の波長領域が長いため、高効率で水素を生成させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(1)Ta系材料の光吸収特性評価
まず、Ta系材料について、Ta25、TaON、Ta35、TaCN、及びTaCNOを用いて、光吸収特性測定からバンドギャップを求めた。ここで、TaCNが実施例であり、他の材料は比較例である。
【0046】
Ta25は、市販の粉末(株式会社高純度化学製)を使用した。TaONは、Ta25を原料とし、15%のアンモニア雰囲気中において、850℃で20時間焼成することで合成した。Ta35は、同様にTa25を原料とし、100%のアンモニア雰囲気中において、850℃で30時間焼成することで合成した。TaCNは、Ta25に炭素粉末を混合したものを原料とし、100%の窒素雰囲気中において、1600℃で20時間焼成することで合成した。TaCNOは、合成したTaCNを、窒素気流中にごく微量の空気を混合した雰囲気中で、1000℃で1時間部分酸化することで合成した。
【0047】
図2に、各材料の光吸収特性を示す。TaCNO以外のTa化合物は、全て5価のTaであるため、伝導帯のバンドエッジ準位はほぼ同程度である。Ta25は、約330nm(約3.8eV)のバンドギャップを有し、価電子帯は酸素のp軌道から構成され、伝導帯がほぼ同レベルの準位であるため、酸素のp軌道はかなり深い位置にあることが分かる。TaONは、約500nm(約2.5eV)のバンドギャップを有し、価電子帯は窒素のp軌道から構成され、伝導帯がほぼ同レベルの準位であるため、窒素のp軌道は酸素のp軌道よりは浅い位置にあることが分かる。Ta35は、約600nm(約2.1eV)のバンドギャップを有し、価電子帯は窒素のp軌道から構成され、伝導帯がほぼ同レベルの準位であるため、当該窒素のp軌道はTaONの窒素のp軌道よりはやや浅い位置にあることが分かる。TaCNは、750nm(1.65eV)のバンドギャップを有し、価電子帯は炭素のp軌道から構成され、伝導帯がほぼ同レベルの準位であるため、炭素のp軌道は窒素のp軌道より浅い位置にあることが分かる。最後にTaCNOであるが、これは明確なバンドギャップを示さない。また、X線回折分析の結果、TaCNOはTaCNとTa25の混合物であり、単相ではないことが判明した。
【0048】
(2)炭窒化物の水の分解反応評価
TaCNのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでおり、光触媒として水を分解可能な材料であることを立証するため、上記作製したTaCNを用いて光照射による水素及び酸素生成能を確認した。ここで、水中にTaCN粉末材料を投入し、これに光照射した場合、仮にTaCNの光触媒作用により水を分解して水素と酸素を生成可能であったとしても、生成した水素と酸素はたちどころに再結合して水に戻ってしまい、水素と酸素の生成を確認することができない。そこで、水素生成反応と酸素生成反応を分離して実証した。
【0049】
水素生成を確認する場合には、TaCN粉末に助触媒としてPtを1.0wt%担持させ、これを10vol%のメタノール(MeOH)を加えた水中に投入し、300Wのキセノンランプ光源から420〜800nmの波長の光だけ透過可能なフィルターを通して光を照射した。このとき、光触媒効果によって生成したホールは、MeOHと反応し、アルデヒドやギ酸、炭酸ガスなどを生成することで消費される。一方、光触媒効果により生成した電子は、水と反応して水素を生成する。ここで、水とホールが反応して酸素を生成するより、水中のMeOHとホールが反応する方が起こりやすいため、選択的にMeOHの酸化反応が進行する。
【0050】
一方、酸素生成を確認する場合には、0.01MのAgNO3水溶液中に助触媒無しのTaCN粉末をそのまま投入し、同様に300Wのキセノンランプ光源から420〜800nmの波長の光だけ透過可能なフィルターを通して光を照射した。このとき、光触媒効果によって生成した電子は、水と反応して水素を生成するより、AgNO3と反応して金属Agが析出する反応の方が起こりやすいため、選択的にAgNO3と反応する。一方、光触媒効果により生成したホールは、水と反応して酸素を生成する。
【0051】
その結果、光触媒効果による水素生成速度は、0.1μmol/hであり、酸素生成速度は、2.3μmol/hであった。ここで、用いた光触媒材料であるTaCNが多結晶の粉末材料であるため、結晶粒界などが光触媒効果により生成したホールと電子の再結合中心となり、量子効率が大きく低下しているため、TaCNの光触媒能と水素及び酸素の生成速度の間に相関関係はない。ここで重要なのは、水素と酸素が生成するかどうかであり、すなわちTaCN材料のバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでいるかどうかが重要である。
【0052】
以上の結果から、TaCNのバンドエッジは、明らかに水の酸化還元電位を挟んでいることを見出した。
【0053】
(3)酸窒化物に炭素をドープした材料の光吸収特性及び水の分解反応評価
上記(1)において合成したTaONを原料とし、イオン注入法によって、TaONに炭素をドープした材料(炭素ドープTaON)を合成した。
【0054】
上記(1)と同様の方法で、光吸収特性を測定した。その結果、TaON由来の約500nmの吸収に加えて、TaONの吸収よりは弱い炭素ドープの効果による階段状の光吸収が750nmに観測された。
【0055】
次に、上記(2)と同様の方法で、光照射による水分解により水素及び酸素生成能を確認した。その結果、光触媒効果による水素生成速度は、4.7μmol/hであり、酸素生成速度は、1.7μmol/hであった。ここで、用いた光触媒材料である炭素ドープTaONが多結晶の粉末材料であるため、結晶粒界などが光触媒効果により生成したホールと電子の再結合中心となり、量子効率が大きく低下している。そのため、炭素ドープTaONの光触媒能と水素及び酸素の生成速度の間に相関関係はない。ここで重要なのは、水素と酸素が生成するかどうか、すなわち炭素ドープTaONのバンドエッジが水の酸化還元電位を挟んでいるかどうかが重要である。
【0056】
以上の結果から、炭素ドープTaONのバンドエッジは、明らかに水の酸化還元電位を挟んでいることを見出した。
【0057】
(4)Nbを含む光触媒材料についての考察
TaON、NbONについて第一原理計算を実施し、バンドギャップを推算した。第一原理計算は、材料のバンドギャップ等を推算することができるが、計算結果のバンドギャップの絶対値、及びバンドエッジの準位の絶対値には、それほど信頼性がない。ただし、同一の結晶系を有する材料のバンドギャップの相対比較は可能であり、相対比較結果の信頼性は高い。
【0058】
TaON、NbONは、全て単斜晶系の結晶構造を有する。そこで、これら3つの材料のバンドギャップを第一原理計算により求めた。トータルの電子状態密度を図5に示す。ここでは、価電子帯のトップの位置を0Vとして示した。ここで示したTaONのバンドギャップは約1.9eV(約650nm)であり、上記(1)で実測したバンドギャップ(約500nm)より小さい結果が得られた。前述の通り、第一原理計算によるバンドギャップの絶対値の計算結果にはそれほど信頼性がない。しかしながら、相対比較結果には信頼性がある。ここで得られた結果から、バンドギャップの大きさは、Ta>Nbであることが判明した。また、バンドギャップの相対比較から、NbONのバンドギャップは約600nmであることを見出した。
【0059】
同様にTaCN、NbCNについて第一原理計算を行い(図3)、TaCNのバンドギャップの実測値からNbCNのバンドギャップを推算した結果(図4)、NbCNは約910nmのバンドギャップを有することを見出した。
【0060】
ここで、NbONに炭素をドープした材料の第一原理計算を実施することは困難である。その理由は、炭素がNbON結晶の何処にドープしたかを特定することが困難であるからである。しかしながら、TaCNとTaONに炭素をドープした光触媒材料のバンドギャップがほぼ等しいことから、NbONに炭素をドープした場合に価電子帯を構成する炭素のp軌道と、NbCNの価電子帯を構成する炭素のp軌道は、同じ準位であると推定できる。この結果から、NbONに炭素をドープした光触媒材料は、約910nmのバンドギャップを有することが言える。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、太陽光を用いて水素を高効率で発生させることができ、得られた水素は、例えば、燃料電池の燃料として用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 導電基板
2 光触媒電極
3 対極
4 セパレータ
5 光入射部
6 水
7 導線
8 開口部
9 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の5族元素を含有する炭窒化物を含む光触媒材料。
【請求項2】
前記炭窒化物が単相構造を有する請求項1に記載の光触媒材料。
【請求項3】
少なくとも1種の5族元素を含有する酸窒化物、及び炭素を含む光触媒材料。
【請求項4】
前記酸窒化物が単相構造を有する請求項3に記載の光触媒材料。
【請求項5】
前記炭素が前記酸窒化物にドープされたものである請求項3又は4に記載の光触媒材料。
【請求項6】
前記5族元素が、概ね5価である請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒材料。
【請求項7】
前記5族元素が、Ta又はNbである請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒材料。
【請求項8】
電解質を含有する水に浸した請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒材料に太陽光を照射して水を分解することを含む水素の製造方法。
【請求項9】
容器、光触媒材料を含む電極、及び対極を備えた光水素発生デバイスであって、前記光触媒材料が、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒材料を含む光水素発生デバイス。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−183358(P2011−183358A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54363(P2010−54363)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】