説明

光触媒溶液の製造方法

【課題】光が弱いあるいは光のない暗所においても抗菌性を有し、強い光にさらされても高い抗菌性が維持できる光触媒溶液の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタンアルコキシドを加水分解してアモルファスチタニア微粒子を得、この微粒子に過酸化水素水を加えてペルオキソ型のチタニアのゲルを生成する。次いで、このゲルに過酸化水素水を加えてチタニアのゾル10を形成し、このゾル10に、チタニアに銀を担持してなる銀含有物質11を添加し、例えば120℃の温度で所定時間加熱してアナタース型のチタニアを含む光触媒溶液12を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナタース型のチタニア微粒子及び抗菌性を有する金属を含む光触媒溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒として代表的なチタニア[酸化チタン(TiO)]は、光照射により活性酸素が生成するため抗菌性があるが、室内で使用する場合には光が弱く、活性酸素の生成量が少ないことから抗菌性が小さい。このため、チタニアに銀(Ag)等の抗菌性を有する金属を混在させる方法が試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、チタンテトライソプロポキシドを加水分解してチタニアの微粒子を得た後、過酸化水素水を加えてペルオキソ型のチタニアとし、さらに加熱することによってペルオキソ型のチタニアの一部をアナタース化させることができることが開示されており、また、こうして得られたアナタース型のチタニアに、酢酸銀,炭酸銀,蟻酸銀,プロピオン酸銀,酪酸銀,クエン酸銀,又は乳酸銀の溶解物である銀成分、あるいは炭酸銅の溶解物である銅成分を加えることにより、光なしでも抗菌作用を示す光触媒溶液を製造できることが記載されている。しかし、この方法により製造された光触媒には、後述の実施例にて述べるように、暗所に比べて明所において抗菌性が低下するという現象が見受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−154061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、光が弱いあるいは光のない暗所においても抗菌性を有し、強い光にさらされても高い抗菌性が維持できる光触媒溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における光触媒溶液の製造方法は、
ペルオキソ型のチタニアを含む微粒子が分散媒に分散したゾルを生成する工程と、
前記ゾルに抗菌性を有する金属を含む金属含有物質を添加する工程と、
次いで、アナタース型のチタニアを得るために前記ゾルを加熱して、光触媒であるアナタース型のチタニア微粒子を含む溶液を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
なお、本発明における光触媒溶液の製造方法は、以下に示す通りであってもよい。
1) 前記抗菌性を有する金属は、銀または銅である。
2) 前記ゾルを生成する工程は、チタンアルコキシドを加水分解してアモルファスのチタニア微粒子を得る工程と、このアモルファスのチタニア微粒子に過酸化水素水を加えてペルオキソ型のチタニアのゲルを生成する工程と、ゲルに分散媒を加える工程と、を含む。
3) 前記ゾルは、ペルオキソ型のチタニアとシリカとの複合体の微粒子が分散媒に分散して形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ペルオキソ型のチタニアを含む微粒子が分散媒に分散したゾルに対して、アナタース化のための加熱処理を行う工程の前に抗菌性のある金属を添加し、その後アナタース化のための加熱処理を行っているため、後述の実験例からも分かるように強い光が照射され続けても、光が弱いあるいは光のない暗所においても高い抗菌性を有する光触媒溶液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態におけるアモルファスチタニア微粒子及びチタニア−シリカのゾルの製造方法を示すフロー図である。
【図2】本実施形態における銀成分及びアナタース型チタン結晶を含有するチタニア−シリカ溶液の製造方法を示すフロー図である。
【図3】本実施例における光触媒溶液の抗菌性試験の結果を示す図である。
【図4】本実施例における光触媒溶液の抗菌性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、光触媒溶液として銀を担持したチタニア−シリカ溶液12の製造方法を例に挙げて説明する。本実施形態における光触媒溶液であるチタニア−シリカ溶液12は、例えばアモルファスチタニア微粒子4を原料として製造される。このアモルファスチタニア微粒子4は、例えば図1のフローに示す方法により製造される。先ず、チタンアルコキシド例えばチタンテトライソプロポキシド(Ti(OC:TIP)1と、このアルコキシドに対応するアルコール例えばイソプロパノール(iso−COH:IPA)2とを所定のモル比例えばTIP/IPA/HO=1/10/4で混合し、さらに対応するアルコール例えばイソプロパノール、水及びアンモニアの混合液3を加えて反応させる。図1に示す反応R1は、次の通りである。
(反応R1)
Ti(OC+4HO→Ti(OH)+4COH
Ti(OH)→TiO(OH)+H
そして、この反応により得られた白色懸濁液を例えば濾過することにより固液分離し、固形分に対して乾燥、粉砕、乾燥の工程を経ることによりアモルファスチタニア微粒子4が得られる。
【0011】
次いで、アモルファスチタニア微粒子4と酸化剤例えば過酸化水素水5とを、アモルファスチタニア微粒子1gに対して例えば31%過酸化水素水20mlの割合で混合し、さらにシリカの前駆体である例えばテトラエチルオルトシリケート((CO)Si:TEOS)6をTi/Siのモル比が1/9以上となるように混合する。そして、この混合溶液を例えば温度293Kの下で2時間攪拌すると、ペルオキソ体のチタニアとシリカとの複合体であるチタニア−シリカ溶液(赤橙色透明溶液7)が得られる。更に、この溶液7を例えばTi/Siのモル比が1/1の場合には、室温例えば温度300Kの下で例えば3日間〜10日間放置してゲル化させると、ペルオキソ体のチタニア−シリカを含む黄色のゲル8が生成する。図1に示す反応R2は、次の通りである。
(反応R2)
TiO(OH)+2H→TiO(OOH)+2H
Si(OC+2HO→SiO+4COH
2H→2HO+O
このゲル8に分散媒として例えば31%過酸化水素水9を所定量添加して混合し、例えば温度293Kの下で3日間静置すると、過酸化水素が分解しペルオキソ体の黄色透明のチタニア−シリカのゾル10が得られる。
【0012】
ここで酸化剤としては、上述の過酸化水素水以外にオゾン、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸、塩素酸ナトリウム及び二酸化塩素等を用いた溶液であってよいが、処理後に酸成分が残留したり不純物が混入したりすると純度に問題を生じるため、過酸化水素水等を用いることが好ましい。また、シリカの前駆体はシリコン成分供給源であり、金属を含まないシリカの前駆体であればTEOS以外のもの、例えばSi24やSi16も用いることができる。
【0013】
そして、既述のようにして得られた黄色透明のチタニア−シリカのゾル10に対してAgを担持する方法について、図2を用いて説明する。ペルオキソ型のチタニアを含む微粒子が分散媒に分散したゾルである、前記黄色透明のチタニア−シリカのゾル10に、抗菌性を有する金属を含む金属含有物質例えば銀担持チタニアのコロイド溶液11を例えば銀濃度で25重量ppmとなるように添加し混合して、例えば20℃で1日間静置する。そして、この混合溶液を加熱処理する。加熱条件などは特に限定されないが、100℃以上の条件で加熱することが好ましく、例えば150Pa、120℃で2時間、あるいは常圧、100℃で7時間〜8時間加熱する。これにより、ペルオキソ体が分解され、Agを担持しかつアナタース型の結晶を含むチタニア−シリカ溶液12が生成される。図2に示す反応R3は、次の通りである。
(反応R3)
TiO(OOH)→2TiO+4HO+O
【0014】
上述の実施形態によれば、後述の実施例にて示すように、ペルオキソ体のチタニア−シリカのゾル10に対して、アナタース化の加熱処理を行う前に銀成分を有する銀担持チタニアのコロイド溶液11を添加し、その後加熱処理(アナタース化)をすることにより、暗所や例えば室内などのあまり明るくない場所において抗菌性を有し、かつ明所においても抗菌力が維持できる光触媒溶液を得ることができる。
【0015】
なお、上述の実施形態では、銀が添加されるゾルとしてチタニアとシリカとの複合体の微粒子が分散媒に分散されているものを用いているが、チタニアと複合体をなす物質はシリカに限らず、例えばアルミナであってもよい。また、ゾルは、チタニア単体の微粒子を分散媒に分散させたものであってもよい。
【0016】
また、上述の実施形態では、添加するAg成分として銀担持チタニアのコロイド溶液11を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、Ag塩例えば酢酸銀、炭酸銀、蟻酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀、クエン酸銀または乳酸銀でもよい。また、抗菌性を有する金属としては、Agに限らず、銅(Cu)であってもよく、この場合、例えばCu担持チタニアやCu塩例えば炭酸銅などが前記ゾルに添加される。
【実施例】
【0017】
続いて、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
〔サンプルの製法〕
(実施例1)
実施例1は、上述の実施形態におけるペルオキソ体の黄色透明のチタニア−シリカ溶液に対して、銀担持チタニアを銀濃度で50重量ppmの割合で添加し、その後上述の実施形態と同様に加熱処理を行ったアナタース型結晶を含むチタニア−シリカ溶液を得た。この溶液を実施例1とする。
【0018】
(比較例1)
上述の実施例1と同じペルオキソ体の黄色透明のチタニア−シリカ溶液を実施例1と同じ条件で加熱処理した後、このアナタース型結晶を含むチタニア−シリカ溶液に対して銀担持チタニアを実施例1と同じ割合で添加しAg成分を担持させたチタニア−シリカ溶液を得た。この溶液を比較例1とする。即ち、実施例1と比較例1は、Agを添加するタイミングが異なる。
(比較例2)
Ag成分の添加を行わないこと以外は実施例1と同様にしてチタニア−シリカ溶液を得た。この溶液を比較例2とする。
【0019】
〔抗菌性試験〕
本実施例では、JIS R 1702(ファインセラミックス−光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)に従い、実施例1、比較例1及び比較例2について抗菌性試験を行った。この抗菌性試験の概要は、検体である光触媒溶液を塗布した試験片に所定の菌体を所定量接種した後、決められた条件下にて培養し、その培養前後の生菌数を測定して抗菌性を評価するというものである。本実施例では、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)及び大腸菌(Escherichia coli)を用い、フィルム密着法により試験を行った。光照射条件は、昼間の室内を想定して、紫外線を0.01mW/cmで8時間照射することとした。また、本実施例における各検体(光触媒溶液)の抗菌性については、JIS R 1702に記載されている抗菌活性値及び光照射の効果を試験結果から算出し、これらを指標として比較し評価を行った。
【0020】
ここで、抗菌活性値及び光照射の効果についてもう少し詳細に説明する。まず、抗菌活性値は、式1に示すように、光照射条件下における、光触媒抗菌加工していない試験片(光触媒溶液を塗布していない試験片)に接種した菌体の生存率の対数値から、光触媒抗菌加工した試験片(光触媒溶液を塗布した試験片)に接種した菌体の生存率の対数値を引いた値である。従って、この抗菌活性値は、光触媒作用による抗菌効果だけでなく例えば光触媒溶液に含まれる銀などの抗菌作用についても反映される。また、光触媒溶液の抗菌性が高いほど、この抗菌活性値も高くなる。なお、JIS R 1702においては、抗菌活性値が2.0以上の場合に、その光触媒抗菌加工製品は抗菌性があると判定される。即ち、抗菌性の全くない検体、例えばAg未添加でかつ光触媒も含まない検体の抗菌活性値は、零になる。
【0021】
もう一方の評価指標である光照射の効果について説明する。まず暗所において試験片に接種した菌体を培養し、この試験片について、前述の抗菌活性値同様、光触媒溶液の塗布の有無による菌体生存率の対数値の差を求める。光照射の効果は、式2に示すように、抗菌活性値からこの暗所における差分値を引いた値である。この光照射の効果の値は、抗菌活性値から例えば銀による抗菌作用などの光触媒作用以外の抗菌効果分を引いた値であり、光触媒作用による抗菌効果のみを反映した指標と考えることができる。
【0022】
本実施例における試験結果を図3及び図4に示す。
(式1)

(式2)

【0023】
〔考察〕
図3及び図4は夫々、大腸菌及び黄色ぶどう球菌を接種した抗菌性試験結果である。まず、抗菌活性値について比較する。銀成分を担持したチタニア−シリカ溶液である実施例1及び比較例1は、銀成分を含まない比較例2に比べて、共に高い抗菌活性値を示している。このことから、室内を想定した照度条件では、抗菌性における銀成分の貢献度が大きいことが推測できる。また、実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1の方が若干高い抗菌活性値を示している。
【0024】
次に、光照射による効果についてみていくと、比較例1ではマイナスの値を示している。これは、明所よりも暗所での抗菌活性値の方が高いことを意味し、光照射により抗菌性が抑制されたと言い換えることもできる。この結果について、本発明者らは、以下のように推測している。比較例1では、Ag成分を含む光触媒に光が当たることにより発生した活性酸素が、光触媒に含まれるAg成分と反応することにより、Agに比べて抗菌力の弱い酸化銀(AgO)が生成され、このため明所においてAg成分を含む光触媒の抗菌力が低下すると考えられる。これに対して実施例1では、チタニア微粒子のゾルの段階でAgを添加して、その後加熱工程を経るため、加熱工程の段階でAgがチタニア結晶に引き寄せられて、Agが酸化されにくい結合体が形成されているのではないかと推測している。以上のように、実施例1は、強い光に当たっても高い抗菌性が維持されていることが裏付けられている。
【符号の説明】
【0025】
4 アモルファスチタニア微粒子
10 チタニア−シリカのゾル(ペルオキソ体)
11 銀担持チタニア溶液
12 銀担持チタニア−シリカ溶液(アナタース型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキソ型のチタニアを含む微粒子が分散媒に分散したゾルを生成する工程と、
前記ゾルに抗菌性を有する金属を含む金属含有物質を添加する工程と、
次いで、アナタース型のチタニアを得るために前記ゾルを加熱して、光触媒であるアナタース型のチタニア微粒子を含む溶液を得る工程と、を含むことを特徴とする光触媒溶液の製造方法。
【請求項2】
前記抗菌性を有する金属は、銀または銅であることを特徴とする請求項1記載の光触媒溶液の製造方法。
【請求項3】
前記ゾルを生成する工程は、
チタンアルコキシドを加水分解してアモルファスのチタニア微粒子を得る工程と、
このアモルファスのチタニア微粒子に過酸化水素水を加えてペルオキソ型のチタニアのゲルを生成する工程と、
前記ゲルに分散媒を加える工程と、を含むことを特徴とする請求項1または2記載の光触媒溶液の製造方法。
【請求項4】
前記ゾルは、ペルオキソ型のチタニアとシリカとの複合体の微粒子が分散媒に分散して形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の光触媒溶液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−724(P2013−724A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137501(P2011−137501)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】