説明

光触媒物質およびその製造方法

【課題】効率よく励起できる新規な光触媒物質およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本光触媒物質は、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが、互いに接合されてなり、第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な光触媒物質とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒物質として酸化チタンがよく知られている。結晶構造がアナターゼ型とブルッカイト型の酸化チタンは、その伝導帯下端と価電子帯上端電位差すなわちバンドギャップである3.2eV以上のエネルギーを有する光である紫外線が照射されると、伝導帯に自由電子を、同時に価電子帯にホールを生じ、これらの自由電子とホールとが物質外に放出されることがあり、放出された自由電子とホールとがそれぞれ酸化・還元し、その物質周辺の大気汚染物質、揮発性有機化合物(VOC)、NOX、臭気物質、および、ダイオキシン等を酸化・還元作用で分解除去し、殺菌する等、いわゆる光触媒として機能する(例えば非特許文献1参照。)。
【0003】
なお、本発明において、ある物質が「光触媒機能を発現し得る」とは、このように、その物質が光によってエネルギー的に励起され、その励起エネルギーにより、周辺の物質に物理的、化学的または生物学的影響を与え得ることを意味する。励起エネルギーは酸化・還元作用として現れる場合が多い。
【0004】
アナターゼ型とブルッカイト型の酸化チタンにおいては、水素発生レベルとほぼ等しい−0.2eVに伝導体の下端が存在し、また、3.0eVに価電子帯の上端が存在し、価電子帯の上端と伝導帯の下端とのバンドギャップは3.2eVである。このバンドギャップ3.2eVを上回るエネルギーを有する光、すなわち紫外線を照射すると、価電子帯の電子は励起され、自由電子となり伝導帯に移動するのである。
【0005】
これに対し、アナターゼ型やブルッカイト型とは異なる結晶構造であるルチル型酸化チタンは、水素発生レベルに等しい0eVに伝導体の下端が存在し、3.0eVに価電子帯エネルギーの上端レベルが存在し、バンドギャップは3.0eVである。このため、ルチル型酸化チタンに、そのバンドギャップ3.0eVを上回るエネルギーを有する紫外線を照射すると、価電子帯の電子が励起され、自由電子となり伝導帯に移動する。
【0006】
以下、本発明に関し、光触媒機能を発現し得る物質(この物質を本発明では第1物質という)として、広く使用されているアナターゼ型酸化チタンについて主に説明するが、ブルッカイト型やルチル型酸化チタンでも、更には、その他の光触媒機能を発現し得る物質、たとえば、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、酸化亜鉛、酸化ニオブ等でもそのメカニズムや本発明に係る効果は同様であると考えられる。なお、特に断らない限り、以下、アナターゼ型酸化チタンを、単に酸化チタンと略記する場合がある。
【0007】
図1は、酸化チタンが光触媒機能を発現している状態のエネルギーダイヤグラムを示している。縦軸はポテンシャル電位(eV)を示す。水の水素発生電位は略0eV、酸素発生電位は略1.2eVである。
【0008】
酸化チタン外に放出された自由電子は周辺物質を還元し、ホールは周辺物質を酸化する。酸化チタンに、その伝導帯と価電子帯のバンドギャップである3.2eV以上のエネルギーを有する紫外線等の光を照射すると、価電子帯の電子が励起され、伝導帯へ移動し自由電子となる。価電子帯から電子が飛び出した跡には、ホールが発生し、価電子帯上で自由に動き回る。これらの自由電子とホールとが光触媒機能を発現し得る源である。酸化チタンにおいては、自由電子とホールとが物質内部で再結合されずに物質外部へ放出される確率が高く、酸化チタン外部へ放出された自由電子の還元作用やホールの酸化作用で、酸化チタン周辺の有機揮発性物質VOC、NOX、臭気物質等の大気汚染物質や、または環境汚染物質のダイオキシン等が分解除去される。なお、本明細書において「紫外線等」とは可視光より波長の短い電磁波を意味し、可視光の紫に近い近紫外線からより波長の短い遠紫外線、軟X線等を例示することができる。
【0009】
酸化チタンに強い光触媒作用を発現させるには、できるだけ多くの酸化チタン微粒子に3.2eV超の紫外線等の高エネルギー光を照射する必要がある。しかしながら、3.2eV超の紫外線等は直進性が強く、かつ物質表面で吸収されやすく、物質内部に到達できない。また、影になっている部分まで回折して回りこむことは困難である。
【0010】
このような問題を解決するには、微粒子化して酸化チタンの比表面積を大きくしたり、できるだけ多くの微粉末が照射されるような構造で酸化チタンを保持したりして光触媒作用を効率よく発現させることが考えられるが、十分な解決には至っていない(たとえば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特願2005−281号(特許請求の範囲)
【非特許文献1】「高機能な酸化チタン光触媒〜環境浄化・材料開発から規格・標準化まで〜」、高機能光触媒創製と応用技術研究会編、安保正一監修、NTS出版、初版2004年9月1日、1章1節3〜4、p.10〜15
【非特許文献2】「高機能な酸化チタン光触媒〜環境浄化・材料開発から規格・標準化まで〜」高機能光触媒創製と応用技術研究会編、安保正一監修、NTS出版、初版2004年9月1日、2章5節5、p.110〜114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決して、効率よく励起できる光触媒物質およびその製造方法を提供することを目的としている。本発明の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが、互いに接合されてなり、第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められた光触媒物質が提供される。本発明態様により、効率よく励起できる新規な光触媒物質を実現できる。
【0013】
光触媒能力が第1物質単独の場合に比べ2倍以上であること、前記第1物質100モル部に対し、前記第2物質が1〜12.5モル部の範囲にあること、前記第1物質のバンドギャップが1〜5eVの範囲にあり、前記第2物質のバンドギャップが0.3〜5eVの範囲にあること、前記第1物質の伝導帯電位が−2〜0Vの範囲にあり、前記第2物質の伝導帯電位が−2〜1eVの範囲にあること、前記第1物質が、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群から選ばれた物質であり、前記第2物質が、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素および酸化カドニウムからなる群から選ばれた物質であること、とりわけ、前記第1物質が酸化チタンであり、前記第2物質が酸化ケイ素であること、および、前記第2物質が前記第1物質をコーティングしてなること、または、前記第1物質が前記第2物質をコーティングしてなること、が好ましい。
【0014】
本発明の他の態様によれば、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質の製造方法であって、
酸または塩基による処理により第2物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第1物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、
当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第1物質の微粉末表面に、第2物質を析出させた光触媒物質を得るに際して、当該光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合、当該酸および/または塩基の濃度、当該酸および/または塩基の添加速度、当該スラリーの濃度、当該スラリーの撹拌速度および当該スラリーの温度からなる群から選ばれた少なくとも一つの条件を選択することにより、当該光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くする、
光触媒物質の製造方法、
および、
光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質の製造方法であって、
酸または塩基による処理により第1物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第2物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、
当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第2物質の微粉末表面に、第1物質を析出させて光触媒物質を得るに際して、当該光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合、当該酸および/または塩基の濃度、当該酸および/または塩基の添加速度、当該スラリーの濃度、当該スラリーの撹拌速度および当該スラリーの温度からなる群から選ばれた少なくとも一つの条件を選択することにより、当該光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くする、
光触媒物質の製造方法
が提供される。
【0015】
本発明態様により、効率よく励起できる新規な光触媒物質の製造方法を実現できる。
【0016】
これらについては、前記光触媒物質が、第1物質単独の場合に比べ2倍以上の光触媒能力を有すること前記第1物質100モル部に対し、前記第2物質が1〜12.5モル部の範囲にすること、前記酸および/または塩基の濃度を2〜20重量%の範囲にすること、前記第1物質のバンドギャップが1〜5eVの範囲にあり、前記第2物質のバンドギャップが0.3〜5eVの範囲にあること、前記第1物質の伝導帯電位が−2〜0Vの範囲にあり、前記第2物質の伝導帯電位が−2〜1eVの範囲にあること、前記第1物質が、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群から選ばれた物質であり、前記第2物質が、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素および酸酸化カドニウムからなる群から選ばれた物質であること、および、特に前記第1物質が酸化チタンであり、前記第2物質が酸化ケイ素であること、が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、効率よく励起できる新規な光触媒物質およびその製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、式、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0019】
<光触媒物質>
本発明に係る光触媒物質は、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが、互いに接合されてなり、第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められている。図2には、このように接合された本発明に係る光触媒物質の模式図を示す。これはあくまで模式図である。対象となる粒子の1次粒子径がナノオーダーと小さいため、具体的にどのようになっているかは定かでない。
【0020】
本発明に係る光触媒物質は、恐らく、図2に示されているように、第1物質と第2物質とが接合して、ヘテロジャンクションを実現しているものと思われる。ただし、ヘテロジャンクションを実現しているかどうかを証明することは必ずしも本発明の要件ではない。第1物質と第2物質とが互いに接合されていると考えられる結果、第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められていれば十分である。この接合は、第1物質と第2物質とが互いに接触した状態にあることを意味し、第2物質が第1物質をコーティングした状態のものや第1物質が第2物質をコーティングした状態のものを例示することができる。これらは、第1物質上に第2物質を析出させ、または第2物質上に第1物質を析出させることで実現できる。
【0021】
「第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められている」ことは、ヘテロジャンクションが実現され、後述するような光触媒向上能力を有する第2物質の共存効果が発揮されるためであろうと推察される。光触媒能力が、第1物質単独の場合に比べ2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。
【0022】
この場合における光触媒能力は、第1物質が光触媒機能を発現し得る光を照射した場合における、光触媒を使用したときの反応速度定数(非特許文献2参照。)の、基準となる物質を使用したときの反応速度定数に対する比としてとらえることができる。例えば、光触媒能機能が酸化である場合には、その酸化反応速度定数の、基準物質を使用したときの酸化反応速度定数に対する比(以下、正規化反応速度定数と称す)で評価し、光触媒能機能がある物質の分解である場合には、分解反応の正規化反応速度定数で評価することができる。
【0023】
第1物質の光触媒能力と本発明に係る光触媒物質の光触媒能力とを比較する場合、それらの単位重量あたりの光触媒能力を比較する。すなわち、それらの単位重量あたりの正規化反応速度定数を観る。この比較に使用する光については、第1物質が光触媒機能を発現し得る限り特に制限はないが、使用し得る光の全波長領域について、本発明に係る光触媒物質の光触媒能力が第1物質単独の場合より高くなっていることを確認する必要はなく、ある波長範囲を選択した結果、本発明に係る光触媒物質の光触媒能力が第1物質単独の場合より高くなっていることが確認されれば十分である。光触媒能力が第1物質単独の場合の何倍かと言う場合も同様である。
【0024】
第1物質と第2物質とについては、第2物質のバンドギャップが当該第1物質のバンドギャップより小さいという条件を除いて特に制限はない。第2物質は、光触媒機能を有している必要はないが、有していても差し支えない。
【0025】
これらの組合せには、種々のものが考えられるが、バンドギャップの具体的範囲という観点からは、第1物質のバンドギャップが1〜5eVの範囲にあり、第2物質のバンドギャップが0.3〜5eVの範囲にあることが好ましい。ただし、第2物質のバンドギャップが当該第1物質のバンドギャップより小さいという条件は維持されなければならない。
【0026】
また、伝導帯電位については、第1物質の伝導帯電位が−2〜0Vの範囲にあり、第2物質の伝導帯電位が−2〜1eVの範囲にあることが好ましい。
【0027】
このような第1物質としては、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、アナターゼには限定されない酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブからなる群から選ばれた物質を挙げることができる。また、このような第2物質としては、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化カドニウムからなる群から選ばれた物質を挙げることができる。この中でも。第1物質が酸化チタンであり、第2物質が酸化ケイ素である組合せが特に好ましい。
【0028】
得られた光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合については特に制限はないが、後程説明する図5に示されるように、得られた光触媒物質における第1物質と第2物質の和に対し、前記第2物質をだんだん多くしていくと、得られた光触媒物質の光触媒能力(言い換えれば正規化反応速度定数)が上昇後下降して、ピークを示すことが見出されており、ある範囲内にあることが好ましいといえよう。一般的に言えば、得られた光触媒物質における第1物質100モル部に対し、第2物質が12.5モル部を超えない範囲にすることが好ましく、1〜12.5モル部の範囲にすることがより好ましい。
【0029】
以下、光触媒能力が、第1物質単独の場合に比べ高くなるメカニズムについて説明する。ただし、以下の説明は本発明の理解を助けるためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0030】
図3には、第1物質を酸化チタン、第2物質を酸化ケイ素とした場合の光触媒物質を一例として示す。
【0031】
従来から知られている光触媒物質の代表的な酸化チタンは、3.2eV以上のエネルギーを有する紫外線等の照射を受け発生する自由電子とホールとが、物質内部で完全に再結合されることなく物質外部に放出され、放出された自由電子とホールとが、強い酸化、還元作用を呈し、光触媒機能を発現している。
【0032】
これに対して、この一例では、酸化ケイ素の価電子帯の上端電位が0.3eV、伝導帯の下端電位が−0.8eVであるので、酸化ケイ素のバンドギャップは1.1eVとなり、酸化チタンのバンドギャップ値3.2eVより小さい。
【0033】
紫外線のような高エネルギーが照射される場合に、酸化チタンと同様に、酸化ケイ素も励起される。酸化ケイ素のバンドギャップ値は1.1eVであるので、近赤外線のような低エネルギー光が照射されるときでも励起され、酸化ケイ素の伝導帯に自由電子が、価電子帯にホールが発生する。酸化ケイ素で励起発生した自由電子とホールとは、酸化ケイ素から外部へ放出されることはほとんどないが、酸化ケイ素と酸化チタンが接合しているヘテロジャンクションを介して酸化チタン中へ注入され得る。
【0034】
この様子を更に詳細に説明すると次のようになる。
【0035】
1.第1物質のバンドギャップを超えるエネルギーを有する光を照射する場合
照射光は、第1物質のバンドギャップ値を超えるエネルギーを有しているので、第2物質のバンドギャップ値を超えるエネルギーを当然有している。したがって、第1物質と第2物質とは、ともに励起される。
【0036】
第1物質内部で励起された自由電子とホールとは、第1物質の結晶構造に従い物質外部に放出され、第1物質近傍に存在する外部の物質を酸化・還元分解して光触媒作用を発揮する。
【0037】
第2物質も同時に励起され、伝導帯に自由電子が、価電子帯にはホールが発生する。このとき、第2物質の伝導帯電位が第1物質の伝導帯電位より低ければ、第2物質に生じる自由電子はヘテロジャンクションを介して第1物質の伝導帯に注入される。逆に、第2物質の伝導帯電位が第1物質の伝導帯電位より高い場合には、ヘテロジャンクションで接続されている第1物質の伝導帯へトンネル現象でジャンプし第1物質の伝導帯に注入される。このように、第2物質の伝導帯電位が第1物質の伝導帯電位より低い場合でも高い場合でも、第2物質の伝導帯電位から第1物質の伝導帯への電子の注入が生じる。
【0038】
たとえば、第1物質が酸化チタン、第2物質が酸化ケイ素の場合には、第2物質である酸化ケイ素の伝導帯の下端電位は、第1物質の酸化チタンの伝導帯下端電位より0.6eV低い{−0.2−(−0.8)=0.6}ので、第2物質の酸化ケイ素の伝導帯に生じた自由電子は、ヘテロジャンクションを介して接する第1物質の酸化チタンの伝導帯へ注入されることになる。
【0039】
また、価電子帯電位に関しては、第2物質の価電子帯電位が第1物質の価電子帯電位より低い場合には、第2物質に生じるホールがヘテロジャンクションを介して第1物質の価電子帯に注入される。逆に、第2物質の価電子帯電位が第1物質の価電子帯電位より高い場合には、トンネル現象で、第2物質の価電子帯電位から、ヘテロジャンクションで接続されている第1物質の価電子帯へホールがジャンプし、第1物質の価電子帯に注入される。
【0040】
たとえば、第1物質が酸化チタン、第2物質が酸化ケイ素の場合には、第2物質の酸化ケイ素の価電子帯上端電位は第1物質の酸化チタンの価電子帯上端電位より2.7eV低い{3.0−0.3)=2.7}。したがって、第2物質の酸化ケイ素の価電子帯で生じるホールは、ヘテロジャンクションを介して接する第1物質の酸化チタンの価電子帯に注入されることになる。
【0041】
このようにして、光触媒機能を発現し得る第1物質に対し第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質をヘテロジャンクションで接合しておくと、第1物質と第2物質とにおける伝導帯電位と価電子帯上端電位との相互関係の如何に拘わらず、第2物質から第1物質へ自由電子とホールとを注入することができる。このような自由電子とホールとの注入は第1物質の光触媒能力を増強する。
【0042】
2.第1物質のバンドギャップ以下で、かつ第2物質のバンドギャップを超えるエネルギーを有する光を照射する場合
照射光エネルギーは第1物質のバンドギャップ値を超えていないので、第1物質の酸化チタンはそのままでは励起されることはない。しかしながら、照射光エネルギーは第2物質の酸化ケイ素のバンドギャップ値を超えているので、第2物質は励起され、第2物質の伝導帯に自由電子が生じ、価電子帯にはホールが発生する。
【0043】
第2物質は、第1物質のような強力な光触媒作用を有さず、第2物質内部で生じる自由電子とホールとが、第2物質から直接外部に放出されることはない場合が多い。たとえば、第1物質が酸化チタン、第2物質が酸化ケイ素の場合、酸化ケイ素は酸化チタンのような強力な光触媒作用を有さず、酸化ケイ素内部で生じる自由電子とホールとは、酸化ケイ素から直接外部に放出されることはない。
【0044】
しかしながら、第2物質の伝導帯上に蓄積された自由電子は、上述と同様のメカニズムにより、ヘテロジャンクションで接合されている第1物質の伝導帯へ移動する。更に、第2物質の価電子帯で生じたホールは、ヘテロジャンクションを介して接する第1物質の価電子帯へ移動する。
【0045】
このようにして、第2物質の酸化ケイ素からヘテロジャンクションを介して自由電子とホールとが注入されることで、第1物質の酸化チタンは、照射光によって直接励起されることはなくても、第2物質から注入される自由電子とホールとが第1物質の表面から外部に放出され、第1物質が光触媒として作用するようになる。この結果、第1物質のバンドギャップ以下の光が照射される場合でも、光触媒物質はその機能を発揮する。
【0046】
このようにして、本発明に係る光触媒物質は、第2物質の持つ上記の光触媒向上能力により、第1物質が単独で光触媒として作用し得る波長の光による照射条件下では優れた光触媒機能を発揮し、更には、第1物質が単独では光触媒として作用し得ない波長の光による照射条件下でも光触媒機能を発揮するようになる。
【0047】
本発明に係る光触媒物質からどのような光触媒機能を発揮させるかについては特に制限はない。使用された第1物質の場合と同様の光触媒機能が適切である場合が多い。一般的には、有害物質や臭い発生物質の分解機能を好ましく挙げることができる。
【0048】
本発明に係る光触媒物質に照射する光についても特に制限はない。使用された第1物質が光触媒機能を発揮する場合と同様の光を使用することが適切である場合が多いが、それより長波長側でもよいことは上述の通りである。
【0049】
本発明に係る光触媒物質の形状についても特に制限はないが、表面積が大きい方が有利であることから、微粒子、特に1次粒子径がナノオーダー(例えば1〜100nm)の微粒子が好ましい。
【0050】
<光触媒物質の製造方法>
本発明に係る光触媒物質の製造方法では、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質を製造するに際し、酸または塩基による処理により第2物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第1物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第1物質の微粉末表面に、第2物質を析出させる。この操作により、第1物質と第2物質とが接合されてなる光触媒物質が得られる。
【0051】
この析出に際して、得られた光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合(たとえばモル割合)を変えることにより、得られた光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くすることができることが見出された。典型的には後程説明する図5に示されるように、得られた光触媒物質における第1物質のモル部に対し、前記第2物質のモル部をだんだん多くしていくと、得られた光触媒物質の光触媒能力を表す正規化反応速度定数が上昇後下降して、ピークを示すことが見出された。
【0052】
正規化反応速度定数が上昇して第1物質のみの場合の正規化反応速度定数より高くなるのは、上述のヘテロジャンクションによる効果と推定される。一旦上昇しその後下降するのは、恐らく、第1物質と第2物質との接合面積、厚さ、接合していない自由表面の面積等が変化し、これにより第2物質の光触媒向上能力が変化するためであろうと考えられる。
【0053】
同様に、添加する酸および/または塩基の濃度、酸および/または塩基の添加速度、スラリーの濃度、スラリーの撹拌速度およびスラリーの温度も、得られた光触媒物質の光触媒能力に影響を及ぼし、第1物質単独における光触媒能力より高くすることができることが見出された。なお、上記において「酸および/または塩基」を添加するとしたのは、酸や塩基で第1物質や第2物質を析出させる場合に、その析出速度を調節する等の目的で、酸や塩基単独ではなく、酸と塩基と混合物を使用する場合もあり得るからである。
【0054】
得られた光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質のモル割合としては、得られた光触媒物質における前記第1物質100モル部に対して、第2物質が12.5モル部以下にすることが好ましく、第2物質が1〜12.5モル部の範囲にあることがより好ましい。酸および/または塩基を使用する場合、添加用溶液中の酸および/または塩基の濃度については、2〜20重量%の範囲にすることが好ましい。更に、スラリーの濃度については、固体物質の濃度が20〜60重量%の範囲であることが好ましい。スラリーの撹拌速度およびスラリーの温度についても光触媒能力に影響を及ぼし得るので、実情に応じて適宜選択することが好ましい。
【0055】
なお、上記とは逆に、光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質の製造方法であって、酸または塩基による処理により第1物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第2物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第2物質の微粉末表面に、第1物質を析出させ、当該析出に際して、得られた光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合(たとえばモル割合)、当該酸および/または塩基の濃度、当該酸および/または塩基の添加速度、当該スラリーの濃度、当該スラリーの撹拌速度および当該スラリーの温度からなる群から選ばれた少なくとも一つの条件を選択することにより、得られた光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くする、光触媒物質の製造方法でも、同様の効果を得ることができる。
【0056】
本方法に係る発明に使用する第1物質および第2物質については、上記の光触媒物質に係る発明で説明したと同様に考えることができる。
【0057】
本発明に使用する「第2物質を析出し得る化合物」や「第1物質を析出し得る化合物」については、本発明の趣旨に反しない限りどのような化合物を使用してもよい。水酸化物、酸との塩等を好ましく挙げることができる。たとえば第2物質が酸化ケイ素の場合は酸化ケイ素のアルカリ金属塩、珪酸ソーダ、珪酸カリウム等を例示することができ、第1物質が酸化チタンの場合はチタン酸ナトリウムを例示することができる。
【0058】
これらの化合物を溶解するための媒体は通常水であるが、それ以外のもの、たとえばエタノール等であってもよい。第2物質や第1物質の析出を調整するために複数の媒体からなる混合溶媒を使用することが有用な場合もあり得る。
【0059】
本発明に係る「第1物質の微粉末」や「第2物質の微粉末」についてもそのサイズや形状に特に制限があるわけではないが、一般的には、1次粒子径がナノオーダー(たとえば1〜100nm)の粒子であることが好ましい。
【0060】
本発明における酸や塩基についても、第1物質や第2物質を析出し得るものであればどのようなものでもよい。酸としては塩酸や硫酸、硝酸を、塩基としては苛性ソーダ等のアルカリ化合物を好ましく例示できる。アルカリ土類金属化合物も使用できる。
【0061】
以下、本発明に係る光触媒物質の製造方法の一例の概要を、第1物質として酸化チタンを使用し、第2物質として酸化ケイ素を使用して、図4に示す。
【0062】
まず図4の工程1で、1次粒子径7nm程度の酸化チタン微粒子を、酸化ケイ素のアルカリ金属塩水溶液に加え、撹拌して酸化チタンスラリーを作製し、次いで、図4の工程2で、作製した酸化チタンスラリーを撹拌しながら、塩酸を滴下し、イオン交換して酸化ケイ素を酸化チタン微粒子の表面に析出させ、酸化チタンと酸化ケイ素とがヘテロジャンクションで接合された光触媒物質のスラリーを生成する。次いで図4の工程3で、生成した光触媒物質スラリーに水を加えて撹拌し、沈殿物として光触媒物質を得る。その後、図4の工程4に示すように、必要に応じて沈殿物を乾燥し光触媒物質の微粉末を得ることができる。
【0063】
同様に、逆の構造、すなわち酸化ケイ素の微粒子の表面に酸化チタンを析出させた光触媒物質も容易に製造できる。光触媒物質にとって重要なことは、第1物質と第2物質がヘテロジャンクションを構成することであるので、第1物質微粒子の表面に第2物質を析出することも、逆に、第2物質微粒子の表面に第1物質を析出することも、ヘテロジャンクションが生じる限り等価である。
【0064】
上記において、酸化ケイ素の析出は酸化ケイ素のアルカリ金属塩等の酸によるイオン交換で容易に達成できる。また、酸化チタンの析出も、酸化チタンのアルカリ金属塩の酸によるイオン交換等、酸化チタンの湿式製造法で知られているのと同様な手段で容易に実現できる。
【0065】
第2物質として酸化ケイ素以外に、上記のごとく酸化ゲルマニウム等を用いることも可能である。ケイ酸ソーダに代えて酸化ゲルマニウムのアルカリ金属塩等の化合物を用いれば、同様にして、酸化チタンの微粒子表面に酸化ゲルマニウムを析出させることが可能である。酸化ゲルマニウムのバンドギャップは0.8eVと、酸化ケイ素のバンドギャップ1.2eVより小さいので、より波長の長い低エネルギー光である遠赤外線等で励起する光触媒物質を製造できる。動作原理と製造方法は、酸化ケイ素の場合と同様である。
【実施例】
【0066】
次に、第1物質に酸化チタン、第2物質に酸化ケイ素を用いた光触媒物質の製造方法の実施例を説明する。
【0067】
[実施例1」(光触媒物質の作製)
第2物質の酸化ケイ素のアルカリ金属塩として、酸化ケイ素と酸化ナトリウムとからなるケイ酸ソーダを用いる。酸化ケイ素と酸化カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩等の場合も同様である。
【0068】
ケイ酸ソーダ、水、界面活性剤、および、酸化チタンを撹拌して酸化チタンスラリーを作る。
【0069】
酸化チタンスラリーの濃度については、高い程光触媒物質の光触媒能力が高くなる傾向が見出された。これは、酸化ケイ素が析出するときに酸化チタンが近傍に存在する確率が高くなり、酸化ケイ素が酸化チタン微粒子表面に析出し易くなるためであろうと考えられる。たとえば媒体が水の場合、スラリー中の酸化チタン濃度は25〜50重量%程度が好ましい。
【0070】
スラリーに他の物質が含まれていてもよい。酸化チタン微粉末は水等の媒体中で強い凝集力を発揮するので、酸化チタンの100重量部に対して0.5〜30重量部程度の界面活性剤を添加しスラリー作製を容易にすることが有効である。界面活性剤の種類は特に限定しないが、たとえば、市販されているアルカリにも酸にも耐性のある花王社製のDemole EPを酸化チタンの100重量部に対し、15重量部ほど加えるのが好ましい。
【0071】
酸化チタンは光触媒性能に優れているものを用いることが好ましい。市販品で優れた特性を有する石原産業製ST−01を例示することができる。
【0072】
ケイ酸ソーダは、酸化ケイ素と酸化ナトリウムのケイ酸アルカリ金属塩の1種であり、酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比で0.5〜4のケイ酸ソーダが工業的に生産されている。モル比0.5のものはオルソケイ酸ソーダ、モル比1のものはメタケイ酸ナトリウムと呼ばれ、粘性の高い結晶状の概観を示す。モル比1.3〜4のケイ酸ソーダは一般的なケイ酸ソーダであり水ガラスとも呼ばれている。光触媒物質の製造において出発点の酸化チタンスラリーを作製するために粘性の低いほど都合がよいので、モル比1.3〜4のケイ酸ソーダを用いて説明を進める。ただしこれ以外のものが排除されるわけではない。一般的なケイ酸ソーダはJISで表1に示すように規定されている。
【0073】
【表1】

この酸化チタンスラリーは、アルカリ金属塩を含むので、たとえば水溶液中ではアルカリ性を呈する。この酸化チタンスラリーを室温程度で撹拌をしながら、スラリーが中性〜弱酸性になるまで酸をゆっくり滴下する。
【0074】
この処理中のスラリー温度は5〜20℃程度の室温に保てば十分であるが、酸化チタンの水スラリーの場合には前述の温度範囲において低温な程、好ましいことが判明した。これは、副生成物の塩化ナトリウムが低温ほど溶けやすいためであろうと考えられる。
【0075】
用いる酸は、酸化チタンスラリーに含まれるアルカリ金属塩が中和されて生成する副産物のアルカリ金属塩が媒体(たとえば水)に可溶性であることが好ましい。例えば、ケイ酸ソーダを用い、塩酸でイオン交換する場合は、次のように反応する。
【0076】
NaSiO+2HCl→SiO+2NaCl+HO・・・(1)
酸として硫酸を用いる場合も塩酸と同様であるが、副生成物が硫化ナトリウムとなる。
【0077】
酸化チタンの水スラリーの場合には、塩酸の濃度が2〜20重量%、滴下速度が1〜30分の範囲で適切に設定することが好ましい。例えば、酸化チタン100モル部に対して、JIS−3号に相当する愛知珪曹工業社製珪酸ソーダ3号4.6モル部を含有する濃度45重量%の酸化チタンスラリーを10℃に保ち、この酸化チタンスラリーに7重量%の塩酸水溶液6.3モル部を、15分程度掛けて滴下すると、光触媒物質が生成する。塩酸濃度が濃すぎると、酸化チタンスラリーが局所的に急速に中和し、酸化ケイ素の表面に更に重なるように析出し、酸化ケイ素粒子サイズが大きくなり好ましくない。更に、滴下速度が速すぎても、同様に、酸化ケイ素粒子サイズが大きくなり好ましくない場合が多い。
【0078】
酸化チタンスラリー中の酸化チタン100モル部に対するケイ酸ソーダが12.5モル部を超えると、光触媒能力が劣化し好ましくない場合が多い。これは、析出する酸化ケイ素が酸化チタン微粒子の表面全体を覆うようになり、酸化チタン分子からの自由電子とホールとの外部への放出能力が低下するためと思われる。
【0079】
しかし、逆の構造である酸化ケイ素微粒子の表面に酸化チタンを析出させる場合は、酸化ケイ素微粒子表面全体が酸化チタンで覆われても光触媒として機能し、酸化チタンの析出量にはさほど敏感ではない。ただし、酸化チタン皮膜が厚くなりすぎると酸化ケイ素への照射光が減少し酸化チタンへの自由電子とホールとの供給量が減少するので好ましくない。
【0080】
析出する酸化ケイ素は、酸化チタン微粒子の表面に接合する。これにより、析出する酸化ケイ素は酸化チタン微粒子とヘテロジャンクションを実現するものと考えられる。
【0081】
なお、酸化チタンスラリー中で酸化チタンが凝集し大きな粒径の2次粒子を形成していると、2次粒子表面に酸化ケイ素が析出することになり、生成する光触媒物質の比表面積が減少し、ひいては光触媒機能が劣化する。このため、既述のごとく界面活性剤を酸化チタンスラリーに添加し、酸化チタンスラリー中での酸化チタンの1次粒子の凝集を防止することが好ましい。界面活性剤は効果的に凝集を防止するが、酸化チタンの凝集を防止する手段は界面活性剤に限定する必要はなく、pHを調節する等適切な手段を講じることにより同様の凝集効果を得てもよい。
【0082】
また、上記では、酸化ケイ素の析出を、アルカリ金属化合物と酸化ケイ素とから得られるケイ酸ソーダを塩酸でイオン交換して実現したが、本願発明に係る酸化ケイ素の析出は、これに限定される訳ではなく、公知のどのような方法によってもよい。例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属化合物と酸化ケイ素とからなるケイ酸アルカリ金属化合物を、塩酸、硝酸、硫酸等でイオン交換すれば、酸化ケイ素が析出する。副生する、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等は、水溶性のアルカリ金属塩であり、精製に適する。これに対して、硫酸カルシウム等水に不溶性のアルカリ土類金属塩が副生する場合には、水で洗浄して精製することが難しいことが多いので、避けるほうがよい。ただし、副生する塩が光触媒物質と混合した状態でも光触媒物質の使用目的を害さない場合には、精製の必要がないので、このようなケースでは有用である。
【0083】
具体的には、酸化ケイ素と酸化ナトリウムとからなるケイ酸ソーダ(愛知珪曹工業社製・珪酸ソーダ3号)、水、界面活性剤(花王社製のDemole EP)、および、平均一次粒径が7nmの酸化チタン(石原産業社製・ST−01)を撹拌して酸化チタンスラリーを造った。
【0084】
ケイ酸ソーダにおける酸化ケイ素と酸化ナトリウムのモル比(換算値)は、3.15であり、ケイ酸ソーダの比重は1.5、酸化チタンスラリー中の酸化チタンの濃度は45重量%、界面活性剤は、酸化チタンの100重量部に対して16重量部であった。酸化チタンの100モル部に対し、ケイ酸ソーダは4.8モル部であった。
【0085】
このスラリーを、5〜10℃で撹拌しつつ、7重量%の塩酸水溶液を15分掛けて徐々に添加した。液のpHが7を下回り、6程度の弱酸性になった時点を終点とした。
【0086】
[実施例2](光触媒物質の評価)
実施例1で得た光触媒物質を、水で洗浄し、ホットプレートで加熱乾燥し、自動乳鉢で10分程度粉砕し、元の酸化チタンの1次粒子と同程度の粒径の白色を呈する光触媒物質の微粒子を得た。
【0087】
得られた光触媒物質中、前記第1物質である酸化チタンと前記第2物質である酸化ケイ素の和に対する酸化ケイ素の割合はレーザー定量分析法によって確認した。
【0088】
光触媒物質の微粒子または酸化チタンST−01の各5mgを、5Lのテドラーバッグに入れ、100重量ppm濃度に調整した測定対象ガス(アセトアルデヒドガス)を3L注入し、照射強度1.0mW/cmの紫外線を照射し、1時間経過後の残留ガス濃度をガス検知管(ガステック社製 No.92M)で測定した(以降、このガス濃度を、残留ガス濃度と呼ぶ)。測定結果から、光触媒能力の評価量として反応速度定数を求め、第1物質の反応速度定数で正規化した正規化反応速度定数を図5に示す。
【0089】
光触媒物質全体としての量は一定(5mg)であった。紫外線光源として、東芝ライテック社製ブラックライトFL40SBLB−Aを2本点灯し、コニカ・ミノルタ社製UV RadioMeterUM−10、受光部同社製UM−360を用いて照射面にて紫外線強度を測定した。
【0090】
同一重量を用いて同一環境で残留ガス濃度を測定する場合、測定対象の光触媒物質に含まれる酸化チタン量は、第2物質の重量分少なくなる。また、第2物質の酸化ケイ素は光触媒機能をほとんど発揮しないことが知られている。このような条件で、光触媒物質の反応速度定数が第1物質の反応速度定数を上回ること、すなわち、光触媒物質の正規化反応速度定数が値1を上回ることは、これまで知られていなかった。これは、既述のごとく、第2物質から第1物質へ自由電子とホールとが効果的に注入され、これによって第1物質の表面から放出される自由電子とホールとの量が増大し、酸化チタンの有する光触媒作能力を上回る光触媒能力を獲得したものと考えられる。
【0091】
図5に示したように、酸化ケイ素含有率が変化すると、光触媒物質の光触媒能力が敏感に変化することが見出された。具体的には、酸化チタン100モル部に対し、含有酸化ケイ素2.3モル部で正規化反応速度定数1.5、含有酸化ケイ素4.6モル部で正規化反応速度定数3.4、含有酸化ケイ素9.3モル部で正規化反応速度定数1.4、含有酸化ケイ素モル部17.4で正規化反応速度定数0.59、含有酸化ケイ素モル部47.2で正規化反応速度定数0.23となった。
【0092】
本例では、光触媒物質中の酸化チタンの100モル部に対し、光触媒物質中の酸化ケイ素が4.6モル部前後で最大の正規化反応速度定数3.4が得られた。
【0093】
[実施例3](光触媒物質の評価)
ケイ酸ソーダとして表2に示す種類と量のものを使用した以外は、実施例1と同様にして得た光触媒物質を、実施例2と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

表中、第2物質原料名が空白の番号1は、比較基準のために用いた第1物質の酸化チタンに対する試験結果を示す。この残留ガス濃度で正規化した光触媒能力を、番号2〜8に示す。
【0095】
番号2〜8における第2物質原料名は、酸化チタンスラリー作製に加えた、酸化ケイ素・アルカリ金属化合物であるケイ酸ソーダの名称を示す。
【0096】
番号2、3、4は、それぞれ、JIS規格JIS−1号、JIS−2号、JIS−3号に対応する愛知珪曹工業社製のケイ酸ソーダ1号、2号B、3号を用いて製造した光触媒物質の試験結果を示す。愛知珪曹工業社製ケイ酸ソーダ3号を用いた光触媒能力が3.37であり、酸化チタンST−01のみの場合の3.37倍となっている。
【0097】
番号5は、JIS規格、JIS−3号に対応する東珪産業社製の3号ケイ酸ソーダT2を用いて製造した光触媒物質の試験結果を示す。番号4と5の結果を比較すると理解できるように、同じJIS規格のケイ酸ソーダJIS−3号でも、製造社によって若干の性能の優劣が見られる。
【0098】
しかしながら、酸化チタンの100モル部に対し酸化ケイ素が4.6モル部前後である光触媒物質は、いずれのケイ酸ソーダを用いても、第1物質の光触媒能力より優れた光触媒能力を有することが明らかになった。
【0099】
したがって、実施例で用いた光触媒物質の第2物質である酸化ケイ素を第1物質の酸化チタン表面に接合させヘテロジャンクションを構成するとき、酸化ケイ素で生じる自由電子とホールとがヘテロジャンクションを介して酸化チタンに注入され、酸化チタンの触媒能力を増強する現象を証明できたものと考えられる。
【0100】
本発明に係る光触媒物質は、これらの例に示したように、光触媒能力を飛躍的に高めることができる。このため、アンモニア、トリメチルアミン等のアミン系、硫化水素等の硫黄系、有機酸、ホルムアルデヒド等のアルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系等の臭気物質の分解除去能力をはじめ、環境汚染物質であるダイオキシン等に対する高い分解除去能力を有し得る。更に、抗菌・殺菌能力にも優れた能力を発揮し得る。また、代表的な第1物質である酸化チタンと、代表的な第2物質である酸化ケイ素や酸化ゲルマニウム等の組合せの場合には、人や動物、植物等のすべての生命体に悪影響を及ぼすことはなく安全な物質である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】酸化チタンの光触媒機能発現メカニズムを示すエネルギーダイヤグラムである。
【図2】本発明に係る光触媒物質の模式図である。
【図3】本発明に係る光触媒物質の光触媒機能発現メカニズムを示すエネルギーダイヤグラムである。
【図4】本発明に係る光触媒物質の製造方法例を示す図である。
【図5】本発明に係る光触媒物質の光触媒能力(基準物質に対する反応速度比)と酸化ケイ素の含有率との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが、互いに接合されてなり、第1物質単独の場合に比べ光触媒能力が高められた光触媒物質。
【請求項2】
光触媒能力が第1物質単独の場合に比べ2倍以上である、請求項1に記載の光触媒物質。
【請求項3】
前記第1物質100モル部に対し、前記第2物質が1〜12.5モル部の範囲にある、請求項1または2に記載の光触媒物質。
【請求項4】
前記第1物質のバンドギャップが1〜5eVの範囲にあり、前記第2物質のバンドギャップが0.3〜5eVの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒物質。
【請求項5】
前記第1物質の伝導帯電位が−2〜0Vの範囲にあり、前記第2物質の伝導帯電位が−2〜1eVの範囲にある、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒物質。
【請求項6】
前記第1物質が、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群から選ばれた物質であり、前記第2物質が、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素および酸化カドニウムからなる群から選ばれた物質である、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒物質。
【請求項7】
前記第1物質が酸化チタンであり、前記第2物質が酸化ケイ素である、請求項6に記載の光触媒物質。
【請求項8】
前記第2物質が前記第1物質をコーティングしてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒物質。
【請求項9】
前記第1物質が前記第2物質をコーティングしてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒物質。
【請求項10】
光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質の製造方法であって、
酸または塩基による処理により第2物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第1物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、
当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第1物質の微粉末表面に、第2物質を析出させた光触媒物質を得るに際して、当該光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合、当該酸および/または塩基の濃度、当該酸および/または塩基の添加速度、当該スラリーの濃度、当該スラリーの撹拌速度および当該スラリーの温度からなる群から選ばれた少なくとも一つの条件を選択することにより、当該光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くする、
光触媒物質の製造方法。
【請求項11】
光触媒機能を発現し得る第1物質と、当該第1物質より小さいバンドギャップを有する第2物質とが接合されてなる光触媒物質の製造方法であって、
酸または塩基による処理により第1物質を析出し得る化合物を含んでなる溶液に、第2物質の微粉末を加えてスラリーを作製し、
当該スラリーに酸および/または塩基を添加して、当該第2物質の微粉末表面に、第1物質を析出させて光触媒物質を得るに際して、当該光触媒物質における当該第1物質と当該第2物質の割合、当該酸および/または塩基の濃度、当該酸および/または塩基の添加速度、当該スラリーの濃度、当該スラリーの撹拌速度および当該スラリーの温度からなる群から選ばれた少なくとも一つの条件を選択することにより、当該光触媒物質の光触媒能力を、当該第1物質単独における光触媒能力より高くする、
光触媒物質の製造方法。
【請求項12】
前記光触媒物質が、第1物質単独の場合に比べ2倍以上の光触媒能力を有する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1物質100モル部に対し、前記第2物質が1〜12.5モル部の範囲にする、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸および/または塩基の濃度を2〜20重量%の範囲にする、請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1物質のバンドギャップが1〜5eVの範囲にあり、前記第2物質のバンドギャップが0.3〜5eVの範囲にある、請求項10〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記第1物質の伝導帯電位が−2〜0Vの範囲にあり、前記第2物質の伝導帯電位が−2〜1eVの範囲にある、請求項10〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記第1物質が、炭化珪素、ガリウム燐、ガリウム砒素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、硫化カドニウム、カドミウムセレン、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群から選ばれた物質であり、前記第2物質が、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化ストロンチウム、硫化モリブデン、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化スズ、酸化バリウム、酸化ホウ素および酸酸化カドニウムからなる群から選ばれた物質である、請求項10〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
前記第1物質が酸化チタンであり、前記第2物質が酸化ケイ素である、請求項17に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−126100(P2008−126100A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310651(P2006−310651)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(593210189)
【出願人】(596184432)
【Fターム(参考)】