説明

光触媒

【課題】光を照射することによって有害物質を酸化、還元、分解する、有害物質の無害化処理、あるいは汚れの清浄化さらには抗菌特性を供する光触媒とこの触媒を用いた有害物質の無害化処理方法、あるいは汚れ物質分解清浄化方法さらには抗菌方法を提供する。
【解決手段】可視光領域に光吸収端を有する複合酸化物からなる光触媒であって、前記複合酸化物が下記式1で示されるものであることを特徴とする光触媒。(式1)AgPO(2.8≦x≦3.2、3.8≦y≦4.2、x/y= 0.66〜0.84)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射下において酸化・還元能を発揮する光触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
20世紀の急激な経済成長がもたらした負の遺産である地球環境問題は、深刻になりつつある。ダイオキシンなどの環境ホルモン物質は勿論のこと、水中や大気中の農薬や悪臭物質、さらには、居住空間でのシックハウス症候群など健康被害の原因になっている化学物質なども人類の安全で、快適な生活を脅かしている。
これらの有害物質の発生を抑え、また既に発生してしまったものについて素早く取り除く技術開発が求められている。
【0003】
この課題を解決する手段として光触媒が注目されている。光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が照射されると価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導帯、価電子帯にそれぞれ電子、ホールを生成する。これらは強い酸化、還元力を持つため、周りの化学物質を酸化、あるいは還元することができる。近年、光触媒の応用研究として、光触媒を有害化学物質の分解に使用することが広く検討され、有効な環境浄化材として期待されている。水中や大気中の農薬や悪臭物質などの有機物の分解や触媒を塗布した固体表面のセルフクリーニング、抗菌・除菌などの応用例が研究、提言されているが、その大部分はアナターゼ型の二酸化チタンを用いたものである。
【0004】
二酸化チタンはバンドギャップが3.2eVあるため、390nmより短い紫外光線の照射下でのみ活性を示す。しかし、太陽光や蛍光灯に含まれている紫外線の量は、僅か2〜4%しかなく、そのため、従来の二酸化チタン光触媒技術では光の利用効率が極端に低く、特に光の絶対量が少ない、室内においては光触媒技術・材料がほとんど利用されるまでに至っていない。
【0005】
一方、太陽光や室内照明の蛍光灯の大部分は可視光で占められており、これら自然環境にふんだんにある可視光を利用できる光触媒の開発は、使用しうる波長領域が広がった分、効率が格段に向上するだけでなく、従来の二酸化チタンでは機能できなかった屋内環境における実用を可能にし、光触媒技術の応用市場を大幅に拡大することができる。
【0006】
それゆえ、近年、可視光領域の波長に対しても活性を示す各種光触媒が提案され、盛んに研究開発がおこなわれている。
【0007】
たとえば、その一つに、酸化チタンにCrやVなどの金属イオンをドープすることによって、可視光に対しても触媒活性を発現しうる触媒が提案されている(非特許文献1)。この提案によるとCrやVなどの金属イオンがドープされることによって、酸化チタンの伝導帯と価電子帯の間にエネルギー準位が新たに作り出され、その結果、バンドギャップが狭くなり、確かに可視光を吸収することができるようになる。しかしながら、金属イオンのドープによって導入されたエネルギー準位は電子とホールの再結合準位にもなりえ、活性の上昇を期待できない場合が多い。
【0008】
さらに、酸化チタンに窒素などのアニオンをドープすることによって可視光応答型光触媒を作製することが提案されている(特許文献1)。この提案による酸化チタン光触媒は、金属イオンドープ型光触媒よりも確かに可視光照射下における活性は上昇するが、窒素をドープすることによって酸化チタン内部に酸素欠陥が作製され、光触媒活性が低下してしまうという欠点があった。また、何れにしてもドープという手法を用いることによって作製された可視光応答型光触媒は、現段階ではその活性はまだ不十分であり、更に一段と高いレベルの光触媒活性を発現しうる材料が求められている。
【0009】
これに対し、非ドープ型の光触媒は有効な材料であることが報告されている。最近では、酸化チタン以外の酸化物を利用した可視光応答型光触媒を作製する試みもなされている。たとえば、BiVOは可視光照射下において硝酸銀水溶液から酸素を高活性に生成する光触媒であると報告されている(非特許文献2)。しかし、この材料は有機物に対する酸化力が不足しており、4−ノニルフェノールといった有機物を分解して二酸化炭素にまで完全に酸化分解することができない(非特許文献3)。すなわち、価電子帯のトップのポテンシャルが小さすぎて、有機物を完全に酸化分解することができないことを示唆している。
【0010】
このような状況の下で、本発明者らの研究グループにおいてもこれまで鋭意研究を重ね、一連の光触媒の開発を行ってきた。そして、その成果の一部についてこれを特許出願してきた(特許文献2〜14参照、ただし、特許文献10から14はまだ公開前につき公開文献番号未定)。これらの可視光応答性光触媒は太陽光などに含まれる紫外線のみにとどまらず、可視光成分の光に対しても感応し、これまでの紫外光領域に依存してきた光触媒に比し、光エネルギーの利用率は紫外光部分は勿論、可視光部分についても利用可能となったことから、触媒作用は大きく向上し、貢献大なるものがあったが、さらに触媒設計のしやすい、しかも効率のいいものが求められていることは当然である。とりわけ、有害物質に対して高度に作用し、分解性に優れたものが求められている。
しかし、いずれの先行技術においても、量子収率では数%を超えるものが無く、光エネルギーを効率よく利用できる触媒が切望されていた。
【0011】
【非特許文献1】E. Borgarello, J. Kiwi, M. Gratzel, E. Pelizzetti and M. Visca: J. Am. Chem. Soc. Vol 104 No.11 2996−3002. American Chemical Society Publications、(1982)
【非特許文献2】A.Kudo、K.Omori、H.Kato J Am Chem Soc Vol 121 11459−11467. American Chemical Society Publications、 (1999)
【非特許文献3】S.Kohtani,S.Makino,A.Kudo,K.Tokumura,Y.Ishigaki,T.Matsunaga,O.Nikaido,K.Hayakawa andR.Nakagaki Chem.Lett 660−661 The Chemical Society of Japan、(2002)
【特許文献1】特開2004−988号公報
【特許文献2】特許第3718710号
【特許文献3】特許第3735711号
【特許文献4】特許第3834625号
【特許文献5】特許第3890414号
【特許文献6】特許第3903179号
【特許文献7】特許第3837548号
【特許文献8】特許第3870267号
【特許文献9】特許第4000378号
【特許文献10】特開2005−199134公報
【特許文献11】特開2006−255525公報
【特許文献12】特開2007−222761公報
【特許文献13】特許願2006−177194
【特許文献14】特許願2006−176599
【特許文献15】特開2002−104909公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、この要請に応えようというものである。さらに、光を照射することによって有害物質を酸化、還元、分解する、有害物質の無害化処理、あるいは汚れの清浄化さらには抗菌特性を供する光触媒とこの触媒を用いた有害物質の無害化処理方法、あるいは汚れ物質分解清浄化方法さらには抗菌方法を提供しようと云うものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等においては、様々な材料について鋭意研究を重ねてきた。その結果、これまでに提案されてきた一連の光触媒とは組成的に全く異なる新規な触媒を開発することに成功したものである。本発明は、この成功に基づいてなされたものである。すなわち、上記課題は下記(1)に記載の手段により解決し、達成することに成功したものである。
【0014】
(1)可視光領域に光吸収端を有する複合酸化物からなる光触媒であって、前記複合酸化物が下記式1で示されるものであることを特徴とする光触媒。
(式1)AgPO
(2.8≦x≦3.2、3.8≦y≦4.2、x/y= 0.66〜0.84)
【発明の効果】
【0015】
本発明は、銀とリン、酸素とからなる複合酸化物半導体からなる光触媒であって、バンドギャップは約2.3〜2.5evである。すなわち、紫外光から560nm程度までの可視光領域の波長のスペクトルを十分に吸収することができる。ゆえに、これまで実用化されてきた酸化チタンをベースとした紫外光応答型光触媒に比して、極めて優位性を持つ光触媒である。
【0016】
なお、燐酸銀系の触媒としては、特許文献15に示されたものが知られているが、これは多孔質無機担体に含浸された燐酸塩結晶に銀を化学反応させて得られた物であり、多孔質無機担体の表面に存在する銀固有の殺菌作用の発現による滅菌効果が確認されているに過ぎず、多孔質無機担体内に存在している以上、この銀燐酸化合物は光との接触による機能を発揮するものではないものであり、光触媒ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光触媒は、バンド構造計算の結果、価電子帯のトップがAg4d軌道とO2p軌道の混成軌道から構成されるため、価電子帯の位置が押し上げられ、可視光に応答できるような比較的に狭いバンドギャップになったことが分かった。また価電子帯、伝導帯のいずれも非常に拡散的な特徴を持つことが見られ、そのため、光励起により生成した電子・ホールの表面への移動が早く、高い光触媒活性に繋がったと考えられる。これらの特徴は、本発明の光触媒がCrやNをドープした酸化チタン材料や、前述した既存可視光応答性光触媒に比しても、格段に高い光触媒活性の裏付けとなる。
本発明によれば、紫外光のみならず、可視光を利用して、工業廃水の中で多く含まれる各種色素や、工場などで最もよく利用されているVOCの1種、2−プロピルアルコール(IPA)を効率よく分解できる効果を有している。この光触媒の特性はこれだけにとどまらず、光を照射することによってその他の有害ガス、たとえば、シックハウス症候群の原因ガスの1つであるアルデヒドガスや環境ホルモンなどの様々な有害物質を分解、除去することができる能力を有している。また、ウィルスや細菌に対しても抗ウィルス、抗菌効果を期待できる。
さらに、現在人工光合成を模倣したZスキームによる水分解が水素エネルギーの革新的な製造法として注目されているが、本発明の光触媒は非常に強い酸化力を持つため、Zスキームに必要不可欠な酸素発生光触媒に用いることができる。さらに、本発明の光触媒は可視光照射下での酸素発生において90%と非常に高い量子収率を持つため、半導体光電極として用い、太陽電池などから得られる電気でバイアスをかけることによって、高効率な太陽光エネルギー変換システムを提供することもできる。
本発明の複合酸化物半導体光触媒は、可視光、紫外光領域に対して活性を有することは上記の通りであり、その特性の故、前示した使用例以外にも多様な用途に利用できることが期待され、今後その果たす役割は、非常に大きいものと考えられる。
【0018】
本発明の光触媒は原料となるNaHPOとAgNOを化学当量比で配合し、常温常圧で機械的に混合したのち、洗浄し、乾燥することによって得られているが、合成手法はこれに限られたものではない。原料となる各金属成分は酸化物あるいは金属炭酸塩あるいは金属硝酸塩あるいは金属硫酸塩、あるいは金属塩化物を用いることもできる。また、目的組成の比率で混合し、常圧下空気中で焼成することによって合成することができる。昇華し易い原料ではその分を見込み少し多めに加える必要がある。また、上記合成手法以外に金属アルコキシドや金属塩を原料とした各種ゾルゲル法、共沈法、錯体重合法など様々な方法も用いられる。その中には酸化物前駆体を調製し、焼成することで合成することも含み、本発明はこれらの態様を排除する特段の理由はなく、当然のこととして含むものである。
【0019】
本発明の光触媒の形状は、光を有効に利用するために微粒子で表面積の大きいことが望ましい。固相反応法で調製した場合に粒子が大きく表面積が小さいが、ボールミルなどで粉砕を行うことでさらに粒子径を小さくすることができる。一般には粒子の大きさは1×10nm〜2×10μm、好ましくは1μm以下である。また微粒子を成型して板状を始め種々の形状に成形し、使用することもできる。他の適宜形状をした担体に担持させて使用することも一つの態様であり、さらには薄膜状にコーティングして使用することもできる。
【0020】
本発明の光触媒の結晶性はよいほうが望ましく、また、電荷分離を促進し、光触媒反応を加速させるためにPtやPd、Agなどの貴金属を数%以下程度、光触媒に担持させてもよい。
【0021】
本発明の光触媒の光触媒反応により分解あるいは酸化あるいは還元反応により除去できる有害物質としては環境ホルモン、農薬、殺虫剤、カビ、細菌、ウィルス、藻類、環境汚染物質、フロンガス、炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、一酸化炭素、アミン、油、芳香族化合物、有機ハロゲン化合物、窒素化合物、硫黄化合物、有機リン化合物、蛋白質などが挙げられる。さらに身の回りの汚れの原因となっている石鹸や油、手垢、茶渋、台所のシンクなどのぬめりなどもこの光触媒の光触媒反応により分解できる。
【0022】
以下、本発明を具体的な実施例と図面に基づいて詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。以下の実施例においては、一般式;AgPOで示される複合酸化物半導体光触媒を実施例として開示し、これをメカノケミカル合成法で合成した場合の実施例である。本発明は、この実施例によって限定されるものでない。
【実施例1】
【0023】
AgPO光触媒の作製方法は次のとおりである。白い色のNaHPOとAgNO3をAgPOに対応する組成比どおり秤量し、ボールミルや乳鉢などの粉砕混合器具を利用して色が黄色に変わるまで十分に混合した。その後、蒸留水等で混合物を十分に洗浄した。最後に大気圧空気雰囲気下で70℃にて一晩乾燥し、黄色の粉末試料を得た。
得られたこの粉末のX線回折パターンを測定したところ(図1)、AgPOの単相であることを確認した。また、吸収スペクトルの測定から上記の材料は可視光の540nmまでの光に対して吸収を持ち、可視光領域に光吸収端を持つことがわかった(図2)。また、この材料の比表面積は0.98m/gであった。
【実施例2】
【0024】
実施例1で作製した光触媒0.5gを用いて、濃度3.1gL−1の硝酸銀水溶液の分解試験を行った。光源には300W Xeランプを用い、カットオフフィルターを利用して、420nm以上の可視光を反応容器に照射した。生成した酸素の定量はガスクロマトグラフィー(検出器はTCD)で行った。その結果(図3)、酸素は1時間で約636μmol生成することが確認された。以上のことからこの材料は可視光照射下において極めて強い酸化力を持つ光触媒であることがわかった。
【実施例3】
【0025】
実施例1で作製した光触媒0.5gを用いて、この材料の酸素発生量子収率の可視光波長依存性を調べた。濃度3.1gL−1の硝酸銀水溶液の分解試験を行った。光源には300W Xeランプを用い、特定な波長のみを透過させる金属干渉フィルター(日本真空)を利用して、420nm、430nm、440nm、460nm、480nm、500nm、520nm、および540nmを中心とする光を反応容器に入射させた。照射した光の光子数は光度計で測った。また、生成した酸素の定量はガスクロマトグラフィー(検出器はTCD)で行った。その結果(図4)、540nmの可視光照射下においても酸素を発生することができた。特に420nmの光に対しては量子収率が90%という驚異的に高い値に達した。従来知られた可視光応答型材料の量子収率が数%〜10%しかないことから、本発明の材料は極めて酸化力が高く、光触媒活性が非常に高い材料であることが明白になった。
【実施例4】
【0026】
実施例1で作製した光触媒0.3gを用いて、15.3mg/lのメチレンブルー色素を含む水溶液100mlに懸濁しメチレンブルーの光分解反応をさせた。マグネチックスターラーで攪拌しながら外部から光を照射した。光源には300WXeランプを用い、反応セルとしてはパイレックスガラス(コーニング社の登録商標)製のものを用いた。可視光における光触媒反応を調べるため、ランプと反応セルの間に420nmより波長の短い光をカットするカットオフフィルターを挿入し、420nmより長い波長のみを照射させた。また、熱効果を取り除くため、冷却水フィルターをカットオフフィルターの前に挿入し、赤外線を除去するようにした。メチレンブルーの光分解による濃度変化は紫外−可視吸収スペクトル測定により調べた。
その結果、420nmのフィルターを通した可視光照射下において、僅か3分間で青色のメチレンブルー溶液が完全に脱色し、無色透明になることがわかった。また、全有機炭素量分析計を用いて可視光照射5分後の溶液中に残される全有機炭素量を測ったところ、初期量の42%にまで減少したことが明かとなった。僅か5分の可視光照射によって、半分以上のメチレンブルー色素が二酸化炭素にまで完全に酸化され、無機化したため、溶液中の全有機炭素量が大きく減少したことを意味する。
【実施例5】
【0027】
実施例1で作製した光触媒0.3gを用いて、15.3mg/lのローダミンB色素を含む水溶液100mlに懸濁しローダミンB色素の光分解反応をさせた。実験条件は実施例4に述べたメチレンブルー色素の分解実験と同じであった。
その結果、420nmのフィルターを通した可視光照射下で僅か10分間でピンク色のローダミンB溶液が完全に脱色し、無色透明になることがわかった。また、全炭素分析計を用いて可視光照射10分後の溶液中に残される全有機炭素量を測ったところ、初期量の34.4%にまで減少したことが明かとなった。僅か10分の可視光照射によって、2/3ほどのローダミンB色素が二酸化炭素にまで完全に酸化され、無機化したため、溶液中の全有機炭素量が大幅に減少したことを意味する。
【実施例6】
【0028】
実施例1で作製した光触媒0.3gを用いて、15.3mg/lのオレンジII色素を含む水溶液100mlに懸濁しローダミンB色素の光分解反応をさせた。実験条件は実施例4に述べたメチレンブルー色素の分解実験と同じであった。
その結果、420nmのフィルターを通した可視光照射下で僅か16分間でピンク色のローダミンB溶液が完全に脱色し、無色透明になることがわかった。また、全炭素分析計を用いて可視光照射16分後の溶液中に残される全有機炭素量を測ったところ、初期量の91.7%にまで減少したことが明かとなった。
なお、表1は、実施例4,5,6の本発明の光触媒および比較例2の窒素ドープ二酸化チタン光触媒によるによる各色素の分解活性を示した表である。
【表1】

【実施例7】
【0029】
実施例1で得られた光触媒0.3gを用いて、2−プロピルアルコール(約420ppm)の分解試験を行った。光源には300W Xeランプを用い、カットオフフィルターを利用して、400nmから520nmの可視光(光量:1.6mWcm−2)を反応容器に照射した。2−プロピルアルコール、中間生成物のアセトン、と終生成物の二酸化炭素の検出及び定量はメタナイザー付ガスクロマトグラフィー(検出器はFID)を用い調査した(図5)。その結果、可視光照射に伴い、2−プロピルアルコールが酸化され、中間生成物のアセトンを経て、二酸化炭素にまで酸化分解されていることが分かった。
【比較例】
【0030】
比較例1;
これまで報告された可視光応答型光触媒の中、酸素発生活性が最も高いとされるBiVO4材料を用いて、硝酸銀水溶液の分解の比較試験を行った(図3)。用いた試料は0.5g、硝酸銀水溶液の濃度は3.1gL−1であった。光源には300W Xeランプを用い、カットオフフィルターを利用して、420nm以上の可視光を反応容器に照射した。生成した酸素の定量はガスクロマトグラフィー(検出器はTCD)で行った。その結果、酸素は1時間で約220μmol生成することが確認された。本発明の材料のより大きく劣った。
【0031】
比較例2;
代表的な可視光応答型光触媒である窒素ドープTiOを利用して種々色素の可視光照射下における光分解反応を行った。実験の詳細は実施例4と同じである。
その結果、420nmのフィルターを通した可視光照射下でメチレンブルー色素の光分解においては30分の照射で青色のメチレンブルー溶液が35.7%まで減衰し、溶液中の全有機炭素量が69%までに減少した。しかし、ピンク色のローダミンB色素の光分解においては30分の照射で72%ものローダミンBの分子が未だ溶液に残っていたし、溶液中の全有機炭素量も照射前の97%にとどまっていた。さらにオレンジII色素の光分解においては180分の長時間照射でオレンジII溶液が漸く57.6%にまでに減衰し、溶液中の全有機炭素量は95%にと僅か微減した。本発明材料と比較して、窒素ドープTiOの活性が遙かに及ばないことが明かである。
【0032】
以上の結果について、図1―5、表1に示していることは、前述したとおりである。
すなわち、銀とリン酸からなる複合酸化物半導体は高活性な可視光応答型光触媒であり、前述の目的に沿う光触媒の開発に成功したことを示している。これによって、照射される光の波長に対して、利用効率が高まり、光触媒反応に一層有効に利用され、寄与するものと期待される。また、この材料の比表面積は1m−1であるにもかかわらず、既に活性が既存材料を大幅に上回り、担体の利用や微粒子化によって、比表面積を広げることにより、光触媒活性がさらに向上することは想像されるに容易である。以上のことから、この材料が可視光において光触媒特性を示すことは明らかであり、新規の有望な可視光応答型の光触媒であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明してきたように、本発明は、一般式AgPO(2.8≦x≦3.2、3.8≦y≦4.2、x/y= 0.66〜0.84)をもつ半導体光触媒は、紫外光のみならず、十分に可視光まで吸収できる。本発明によって、これまでの実用光触媒、TiOが、紫外光領域でのみ機能していたことを考えると、有効利用できる波長領域を大きく広げることができたという意義は極めて大きい。また、可視光領域においても既存材料の中、最も活性が高いとされるBiVO、さらに窒素ドープTiOよりも活性が格段に高い。本発明によれば、可視光を利用して各種有害な化合物、例えば、環境ホルモンや細菌等いわゆる有害物質に作用し、これらを殺菌、分解、除去等無害化するのに使用される環境対策技術を始めとして各種化学反応に大いに利用され、産業の発展に寄与するものと期待される。また、本発明の材料は極めて高い量子収率を有するため、人工光合成を模倣した2段階水分解光触媒或いは半導体光電極の形態として用い、高効率な太陽光エネルギー変換システムの構築にも利用できる。以上本発明の複合酸化物半導体光触媒は、光の広い領域に対して活性を有すること如上の通りであり、その特性の故、前示使用例以外にも多様な用途に使われることが期待され、今後その果たす役割は、非常に大きいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の光触媒のX線回折パターン
【図2】本発明の光触媒の吸収スペクトルを示す図
【図3】本発明の光触媒および比較例1の既存材料BiVOを用いた硝酸銀溶液から酸素を発生する光触媒活性
【図4】本発明の光触媒の硝酸銀溶液から酸素を発生する量子収率の波長依存性
【図5】本発明の光触媒による可視光照射下における2−プロピルアルコールの分解活性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光領域に光吸収端を有する複合酸化物からなる光触媒であって、前記複合酸化物が下記式1で示されるものであることを特徴とする光触媒。
(式1)AgPO
(2.8≦x≦3.2、3.8≦y≦4.2、x/y= 0.66〜0.84)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−78211(P2009−78211A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248294(P2007−248294)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、環境省、地球環境保全等試験研究費委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】